転載元:ξ゚゚)ξはサイレントヒルで看護婦をやっていたようです

6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:18:27.62 ID:cTmOhn7h0

前置き

タイトルでお分かりの通り、サイレントヒルをテーマにしたブーン系です。
某日に立ったスレでタイトルだけ上がっていたものをいただきぱっくんちょ。
シリーズをプレイしていない方も楽しんでいただけたら幸いです。

由来となる作品は複数で、オリジナルの部分とまぜこぜです。
大まかにですが、地理関係は2、または3の後半部分を参照してください。
※かなり構造とかは曖昧にしてあります。

暴力や性的描写などの点から、閲覧注意、とさせていただきます。

うまく短編というものに収まらないので、投下を分けます。
お時間の許す限り、今回分、お付き合いください。




9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:20:58.11 ID:cTmOhn7h0



【Start】






10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:22:44.87 ID:cTmOhn7h0

 対向車のライト。
 すれ違う乗用車。

ξ゚゚)ξ「この辺も変わらないわね。もっとも、変わりようなんてないのかしら」

 看板がぼんやりと眼に映った。

[ようこそ、サイレントヒルへ]

 観光用の派手なカラーと遊園地のペイント。
 マスコットのウサギがけばけばしいピンクをアピールしている。

ξ゚゚)ξ「ロビーちゃん……好きだったな」

 夜道に霧が立ち込めている。
 サイレントヒルの四月はいつもこうだ。
 暖かい時期に差し掛かると町の名所のひとつ、トルーカ湖から霧が出る。







【朗報】ファッションショーのモデルまんさん、ステージで転倒しとんでも部分を御開帳wwwwwwwwwwwwwwwww(画像あり)
橋本環奈〜ネプリーグで真正面から純白のパ●チラ!映画ハルチカの宣伝?
優しくシコシコしてほしい…手コキ画像100枚
【巨乳】パイパイに挟まれ昇天ザー●ンwwww パイズリ挟射精エ□画像30枚
【画像】篠崎愛(25)を豚とか言ってる奴マジでこれ見てみろwwwwwwwwwww
【GIFあり】一番興奮するお●ぱいの揺れ方がこちらwwwwwwwwwwwwwwwwwwww...
【錯覚注意】女をアンアン言わせた事がないおまえらに捧げる主観ハメ撮りGIFスレwwwwww...
【GIFあり】全国大会に出場した黒帯女子がAVに出演した結果wwwwwwある意味強いわwww...
【エ□注意】エっっっロってなるgifwwwwwwwww
【画像】 このJC(14)の色気wwww もう大人顔負けwwwwww
俺「ヒナタ!中に出すってばよ!」ヒナタ「来てぇ!あなたぁ!」
社畜「このまま会社のある駅で降りずに、終点まで行ったらどうなるんだろう」
ブラック・ジャック「わたしに包茎の手術をさせるだと?」俺「へェ そうなんです……」
王「勇者のためにセーブポイントを設置してまいれ」村人「頑張りますだ!」
日本人女性が海外から変態だと思われてるエ□画像。これはヤバイわ(20枚)
【画像あり】実写版「咲saki」の舞台挨拶wwwwwwwwww
【画像】 お●ぱいのGスポットが発見される!これはガチだぞ(※画像あり)
【画像】欅坂46菅井友香ちゃんがパ●チラしちゃってる件wwwwwwwwwwwww
妹「ナマコかわいい...」兄「俺のナマコもかわいくない?」ポロン
【衝撃画像】今、女子小学生の「カラダ」がヤバ過ぎる事にwwwwww
千歌「どうすれば梨子ちゃんのオシッコを顔にかけてもらえると思う?」
悟空「はああああああああ……! ダメだ、もっと力を振り絞らねえと!」
悟空「クリリンの頭ってドラゴンボールの代わりになるんじゃねえか!?」


12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:24:09.96 ID:cTmOhn7h0

ξ゚゚)ξ「やっぱり寂しい土地だわ。観光の名所があるなんて言うけれど」

 ハンドルを安定させながら、ホルダーのマグを取る。
 すっかりぬるくなったカフェ・オレ。

ξ゚゚)ξ「ブーン……」

――お? 故郷に帰りたいのかお?

――うん、ごめんね。急に昔の同僚が会いたいって。

――なら行って来るといいお! 事くらいへのかっぱだお。任せろお!

 家を出る前にかけられた優しい言葉。
 不義を知らない夫の優しさ。
 妻としていたらない部分の多い、わたしに向けられた、その笑顔。

ξ )ξ「終わらせてくるわ」

 エンジンの振動を感じながら、なおも車を走らせる。
 寂れた飲料会社の看板――『スパーク&フレッシュ!』――が霞んで見えた。




13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:25:38.66 ID:cTmOhn7h0

 ハイウェイを下りて一時間、わたしはネイサンアベニューに到達していた。
 晴れていればサウスヴェイル地区が一望できる丘を通る。
 土産の売店は戸締りを済ませている。

 小さい頃、ここで、お父さんにアイスをねだったんだっけ。
 ストロベリーとチョコミントでダブル。
 途中で落として泣いた覚えがある。

ξ゚゚)ξ「郷愁ってヤツかな。……子供か」

 わたしはそんな思い出を作れるのだろうか。
 娘、あるいは息子。
 そんな夢を見てもいいのだろうか。

 物思いにふけり、知らずのうちにアクセルを踏みすぎていた。
 そんな時、不意に霧の中に人影を見つける。
 目前に迫ったそれを避けようと、急激にハンドルを切る。

ξ゚゚)ξ「――――!!」

 滑る路面が車を横転させ、ぐしゃ、と車体が歪む。
 衝撃に意識を手放したのは直後だった。




16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:27:13.75 ID:cTmOhn7h0



ξ゚゚)ξはサイレントヒルで看護婦をやっていたようです






18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:29:28.59 ID:cTmOhn7h0

ξ )ξ「……い、た、たたた」

 目が覚めた時、身体中に痛みが走った。
 少し身体を休めて、割れたフロントガラスから様子を伺う。

ξメ゚゚)ξ「ここは……ガードレールの下まで落ちちゃったのね」

 なんとかドアを蹴飛ばすようにして開ける。
 ひしゃげた金属板は根元から外れた。
 ガードレールを突き破ったのか、丘の展望台がぼんやりと上に見える。

 車を降り、つきっ放しのライトの前に出て気付く。
 砕けたガラスで少し手を切っていた。
 持ち歩いている応急キットで一応消毒、そして絆創膏を貼る。

ξメ゚゚)ξ「保険会社に連絡しなきゃ」

 大きな怪我をしなかったのは不幸中の幸いか。
 しかしローンの残る自動車を潰してしまったのは残念だ。
 いや、これから成そうとしていることの前では、些事かもしれないな。

ξメ゚゚)ξ「あれ?」

 携帯電話越しに聞こえてきたのは、ツー、という音のみ。




19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:31:59.12 ID:cTmOhn7h0

 電波状況は――アンテナ三本。
 良好のはずだった。

ξメ゚゚)ξ「どうしたのかしら」

 ためしに自宅に電話をかける。
 今日は夫がそこにいるはずだ。
 しかし、

ξ;゚゚)ξ「繋がらない……」

 崖下の草地に壊れた車と自分。
 夜闇の中で、見えるのは車のライトに照らされた木々だけ。
 風が霧を舞い上げ、冷たく身体を撫でた。

 孤独が押し寄せ、胸を押し潰しそうになる。

ξ;゚゚)ξ「そうだ、非常用のライトがトランクにあったじゃない」

 夫の提案で「非常用」のものはある程度車載している。




22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:33:42.66 ID:cTmOhn7h0

 車内灯に照らされた乾パン、シートベルトカッター、スペアのタイヤ、等々。
 エマージェンシーブランケットのパックの下に、それを発見する。
 手に取ってスイッチを入れた。

ξメ゚゚)ξ「電話を探さなくちゃ……」

 丘から町に続く道があったはずだ。
 そちらは、本来進もうと思っていた車道より直線距離としては近い。
 肩掛けバッグを引っ張り出し、いくつか道具を詰め、歩き出す。

 目指したのはいわゆる散歩道、観光用のルートだった。
 暗い森の中を、わたしは下る。
 五分ほどして不安を覚えた頃、ついに靴が砂利を踏む。

ξメ゚゚)ξ「あとはこれを辿っていけば良いわね」

 じゃり、じゃり、じゃり。

 丸文字の立て札がある。

[あと100mで休憩所だよ!]

ξメ゚゚)ξ「電話くらいあるといいんだけど」




23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:35:29.25 ID:cTmOhn7h0

 簡素な休憩所に電話は、果たして、あった。
 25セント硬貨を取り出して受話器を耳に。
 しかし、放り込んだコインはそのまま排出される。

ξメ゚゚)ξ「……駄目だわ。使われてなかったみたいね」

 いよいよもって町まで降りる必要がある。
 そして、とにかく病院へ。

――最近ご無沙汰じゃないですか、戻ってきてくださいよ。

ξメ )ξ「どうあってもアイツだけは許せない」

 ぎり、と奥歯を噛み締めた。
 電話口で聞いたあの気取った声がよみがえり、頭に怒りが満ちる。
 神経が昂ぶってきたのは好都合だった。

 冷えてきた身体がかっかとして、寒さと孤独を誤魔化せたからだ。
 しくじらないように、絶対に……。
 わたしの足は林間を進む。




25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:37:46.18 ID:cTmOhn7h0

「――――!!」

ξメ゚゚)ξ「えっ!?」

 新たな立て札を二つ通り過ぎた辺りで、遠吠え。
 野犬?
 それにしては随分と聞き覚えのあるような叫び。

 鞄の中に入れた「それ」を取り出しかける。

ξメ゚゚)ξ「人間の悲鳴、なわけ、ないわよね」

 ふと浮かんだ考えを振り払い、また立て札を発見する。
 井戸の横にそれはあった。
 しかし、異質。

ξメ゚゚)ξ「なによ、これ」

 看板に刻まれたのは矢印と町までの距離。
 色は茶色と黒と、そして赤。
 血のような、赤。




28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:40:06.00 ID:cTmOhn7h0

 ところどころがべったりと汚れて読めない。
 辛うじて拾えたのは、

[サイレ――ま――200848291834929km――――いで、まま]

 まま?
 まま。
 ママ、か?

ξメ゚゚)ξ「何兆kmよ。悪い冗談だわ……」

 ひやりと背中に嫌なものを感じながら、鼻で笑う。
 懐中電灯を逸らして横を通った時、再び遠吠え。
 驚いて振り向いた先には、何も見付からなかった。

ξメ )ξ「なによ。なんなのよ。なんだっていうのよ」

 歩を、進めた。




29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:41:49.02 ID:cTmOhn7h0

 足元の砂利道が終わり、柔らかい地面に変わった。
 ここは共同墓地か。
 びくびくしたものの、何事も起こらずに舗装された道路が現れる。

 この道は知らない。
 コンクリートに生えた標識に従い、溝川沿いを歩く。
 フェンスの並ぶ静かな道路に響く足音。

 しばらくして本来、車で通過する予定だった高架下をくぐる。
 資材が多く立てかけられた壁が、コツコツという反響音を返す。
 そこを抜けて、続く道路を行くとようやく町の端に到達できた。

ξメ゚゚)ξ「?」

 しかし、異常に静かだ。
 観光客向けの地区ではないが、人気がなさすぎる。
 三年前、この町にいた時のことを思い出す。

ξメ゚゚)ξ「バーさえ開いてないのはおかしいわ……」

 あらゆる店がシャッターを下ろし、窓明かりさえ漏れていない。
 電話ボックスを交差点の一角に認める。
 コインを取り出し、投入。

『――。――。――』




30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:45:11.03 ID:cTmOhn7h0

 ダイヤルより前に聞こえて来たのは、ノイズだった。
 ひどい砂嵐のような雑音。
 だが、時折人の声も聞こえるような気がする。

ξメ゚゚)ξ「え? ハロー?」

『――。――。――』

ξメ゚゚)ξ「ハロー?」

『――。――。――』

ξメ゚゚)ξ「……え」

 かすれた小さな小さな頼りない声。
 わずかに聞き取れた単語。

――やめて。

 ぶつん。




32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:46:29.92 ID:cTmOhn7h0

ξメ゚゚)ξ「切、れた」

 それっきり、受話器からは何も聞こえてこなかった。
 わたしはしばらくそのまま立ち尽くしていた。

ξメ゚゚)ξ「なんなのかしら」

 サイレントヒルの町は、霧は、答えてくれない。
 懐中電灯しか明かりの無い中、縁石に腰掛ける。
 車がちらほら停まっているのに、人は見当たらなかった。

ξメ゚゚)ξ「……」

 黙っていると様々な想いが巡る。
 わたしの過ち、後悔、負の感情。
 荒んだ心のまま、交差点を眺める。

ξメ゚゚)ξ「あら?」

 向かいの雑貨屋のシャッターが開いている。
 わたしは人を求めて入っていった。




33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:48:30.00 ID:cTmOhn7h0

 店内は明かりさえないものの、暖かい。
 空調だけはついているのだろうか。
 冷えた指先にじんわりと熱が広がる。

ξメ゚゚)ξ「ハロー? 誰かいませ――」

 むわ、と嫌な匂いが鼻をついた。
 生臭い、腐ったような臭気。
 思わず顔をしかめて明かりを床に走らせる。

 どす黒い、何かが這ったような痕跡。

ξメ )ξ「!」

 その先に人は、いた。

ξメ )ξ「なんてこと」

 死体であれば、人はそこにたくさんいた。




34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:49:52.89 ID:cTmOhn7h0

 黒山の死人だかり。
 染み出した血液は乾ききっている。
 みなが皮を剥がれ、筋肉が露出していた。

 懐中電灯に照らされたむき出しの顔面。
 どろりと垂れた眼球と、眼が合ってしまう。

ξメ )ξ「……うっ」

 ハエがその瞳を横切るまでを見て、顔を逸らす。
 途端、息が詰まった。
 胸がむかむかする。

 しかし、ひどい傷なら見慣れている。
 吐き気を我慢すると、わたしは壁に手をついて店を出た。

ξ;メ゚゚)ξ「ど、どうして。誰が? あれだけの人を――」

 どくん。

 油断。
 一言で済ますならそれだった。




36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:51:10.53 ID:cTmOhn7h0

 誰が、あれだけの人を#したのか。
 あれほどの奇行をしたのか。
 考えるなら店内で即座にするべきだった。

 あははは ひひひひゃひゃひゃ

          あはははあははああっはははあは
うひゃああはああははっははは

 山の頂上に置かれた死体がまだ生乾きであったこと。
 血溜りに新鮮な赤が足されていたこと。
 それらを見るべきだった。

     えへはえへへははあああひゃひゃひゃはっはあ

  うぇっはっはっはっはああああ あああっははうえははははは

   ははっはあああははっはああ

――周囲は、人型の異形に満ちていた。




38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:52:24.79 ID:cTmOhn7h0

 よろよろと身を揺らしながら「それら」は一歩一歩を踏みしめる。

 異常に太い両手を地に擦らせながら。

 くぐもった下劣な声で

 狂ったように怒ったように

 そしてなにより

 ひどく愉快そうに笑いながら

 ゆっくりと迫ってくる




40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:53:56.87 ID:cTmOhn7h0

ξメ゚゚)ξ「う、あ」

あはっはっはははああははあはああ

 一番近い「それ」に明かりが当たる。
 霧に映されたシルエットはひどく汚れた、太い両腕を引きずっている。
 そして、頼りない歩みをする細い脚。

はっはっはははっはあはああああっはあっはははははははっ
はははっはっははああああああああははははあ

 肩からボロをかけただけのアンバランスな痩身。
 露出した下半身にはグロテスクなものが見える。
 位置から察するに、それは怒張したペニス。

はははふあひゃえはああははははああははは
うえふああああはへへへああはあっはああはあははは
ははわあははあははあはへへへうへへはあはははああはへ

ξメ゚゚)ξ「そ、な、なに……え……」

 怪物――それも、二十を超える群れ――が、徐々に歩み寄る。
 しかし、身体が動かない。
 逃げたいのに、足がすくんで歩けもしない。




41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:55:24.58 ID:cTmOhn7h0

 交差点の角から見通して、怪物の数が少ないのは右手奥の道。
 それでも三体はいる。
 他に比べたらマシという程度でしかない。

ああははははっはっはあわははへへへはうふひひいあはいああ

 ひと目で、「それ」は人を殺したものだと分かる。

 走れ、ツン。
 走りなさいよ、わたし。

 表情が確認できる距離にまで接近を許してしまう。
 血錆びに汚れた人型の顔に、眼球はなかった。
 虚ろな眼窩、マネキンのような固まった笑顔。

ξメ゚゚)ξ「あ、あ、あ、あ」

 歩くごとにペニスが揺れる。
 嬉しそうな嬌声。
 逃げないと――

「おい、逃げろ!」

 乾いた音が三度、夜の町に響いた。




43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:56:56.05 ID:cTmOhn7h0

 怪物の一体が叫びながら、どう、と倒れる。
 それはわたしの最も近い位置にいた一体。
 右手に並んだ人型がひとつ減った。

「こっちだ!」

 その方向に広がる霧から、明かりが差す。
 自らも懐中電灯をそちらに向けると、「まともな」人影が片手を煽っている。
 もう一方の手には武器、そう、異形に向けられた拳銃が握られていた。

ξメ゚゚)ξ「!」

(#・∀・)「ついてこい! 振り向くな!」

 力強い声に呪縛が解かれ、わたしは駆けた。
 男に近寄る途中、彼の持つ銃がさらに弾丸を吐き出す。
 矛先は、次に近くにいた左方向の怪物。

 発砲音、体液の飛散、絶叫。

 視界の端で振り上げられていた太い腕が、弾けるように地へと降ろされた。




44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:58:09.37 ID:cTmOhn7h0

 男はわたしを先導して行く。
 思考がまとまらない。
 とにかく走らなければ。

 グロテスクな外見の怪物。
 鋭い爪、アンバランスな腕。
 捕まりでもしたら#されてしまう。

 角を右に、そして次を左に折れる。
 確か、この建物は警察署?
 男が周囲を確認しながら、入れ、と指示する。

 従ってくぐったドアの内側は薄暗く、ひどく閑散としていた。

(;・∀・)「おい……あんた、無事か……」

ξ;メ゚゚)ξ「はあ……はあ……ええ、なんとか。ありがとう」

 少ししてから、男がドアをくぐる。




45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 19:59:40.50 ID:cTmOhn7h0

 息を整えながら、男を観察する。
 やや身長の高い、健康そうな体つきをしている。
 ブロンドの短い髪がすっきりとした目鼻立ちに似合っていた。

 黒のスラックス、また、おそらく清潔な白であったであろうシャツ。
 それらは茶色、あるいは赤黒いシミで薄汚れている。
 年の頃は三十半ばといったところか。

 さっきのはなんだったのか、と訊く声が、男のそれに被せられる。

( ・∀・)「タバコ、吸ってもいいか?」

ξ;メ゚゚)ξ「……構わないわ」

 男は胸ポケットから潰れた箱を取り出した。
 手にした一本をくわえて、火をつける。

( ・∀・)「なあ。あんた、どっからこの町に来たんだ?」

 わたしが口を挟むタイミングはこうして失われた。

ξメ゚゚)ξ「……ちょっと事故って、東の森から霊園を抜けて、高架下を通って来たのよ」




46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:01:02.80 ID:cTmOhn7h0

( ・∀・)「ネイサンアベニューに通じる道の下のトンネル? 通れたのか?」

ξメ゚゚)ξ「だからこうしているんじゃない。何言ってるの」

 眉根にしわが寄るのを自覚する。

( ・∀・)「有刺鉄線、フェンス、そして、底の見えない穴」

ξメ゚゚)ξ「それが?」

( ・∀・)「俺はそれのせいでトンネルを通れなかった。昨日のことだ」

 え?

ξメ゚゚)ξ「そんなもの無かったわよ」

( ・∀・)「ああ、そうか。うまいこと一方通行になってやがるのか」

 男が紫煙を吐き出す。

( ・∀・)「まあいい。俺はモララー。しがない会社員をやってる。アンタは」




47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:02:38.86 ID:cTmOhn7h0

 アゴで自己紹介を促される。
 わたしは男のペースに巻き込まれていた。

ξメ゚゚)ξ「……ツン。隣の州で看護婦をしているわ」

( ・∀・)「そうか。ツン、歓迎しよう」

 タバコを指に挟み、モララーは両腕を広げる。
 演技するように、整った顔を卑しく歪める。
 そして、言い放った。


( ・∀・)「サイレントヒルへようこそ。霧と怪物と絶望の町へ」


 絶句した。




48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:04:00.69 ID:cTmOhn7h0

 矢継ぎ早に言葉が続けられる。

( ・∀・)「さっきの奴らは脚こそ遅いが、腕力は強力だ。それにあの爪。刺さったら身体の裏まで貫くぜ。
      他にも楽しいオトモダチがわんさといる。大声を出して外を歩いてみると面白いぞ。
      毛皮の剥がれたゾンビ犬。上半身と下半身が分離した動く死体。エトセトラ、エトセトラがお出迎えだ」

――まともな人間を除いて、バケモンが大集結、さ。

( ・∀・)「野暮用で久々に来てみれば、住民が総入れ替え。楽しすぎてハ、ハ、ハ、だろ」

 気丈に皮肉っているようだが、しかし、表情は疲れきっている。
 口を閉じると、モララーは胸元のクリップ付きライトをオフにした。
 そして、近付いてくる。

( ・∀・)「バッテリーを無駄にするな。それに見付かりやすくなる」

 言われて、自身の懐中電灯がつきっ放しであることに気付いた。
 スライド式のスイッチをずらす。

ξメ゚゚)ξ「ミスターはいつからここに?」

( ・∀・)「モララーでいい。二日ほど前からいる、はずだ。
      気付いたらこんなんで時間も分からないんだが」




49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:06:03.35 ID:cTmOhn7h0

 暗いはずの屋外から何故か差していた光に、彼は手首をさらす。
 そこには銀色のよくあるタイプのアナログ腕時計。
 しかし、文字盤上の様子は異常だった。

ξ;メ゚゚)ξ「長針と短針が同時に逆回転してるじゃない……」

( ・∀・)「日付が、93日って表示されるのも笑えるだろ」

 月を表すらしい部分のアルファベットが、変形して、ギリシャ文字。
 η月93日、時間不明。
 わたしの腕時計や携帯電話も同様に、ひどく狂っていた。

ξメ゚゚)ξ「なによこれ、……気持ち悪い」

 ぞっとして肌が粟立つ。

( ・∀・)「気持ち悪いものばっかりさ。この二日見てきたのは、異常が常な世界だ」

 モララーがそれから喋った内容は次の通りだった。




51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:07:17.82 ID:cTmOhn7h0

 湖に近いモーテルに一泊してから目覚めると、何故か路上にいた。
 人を探して歩いていると、先ほどの怪物に遭遇。
 なんとか逃げたが、夜は終わらず、霧も晴れない。

 東部の道路は底なしの穴。
 終わりの見えないフェンスに囲まれた外周。
 途中、開いていた警察署に入り、拠点とした。

 誰もいないので、拳銃と弾丸を拝借。
 私物らしい食料をいくらか食べ、休息。
 体力を取り戻すべく一度、睡眠。

 目覚めてからさらに探索。
 怪物を避けながら、物資を得る。
 そして、他のルートを模索。

 しかし、どこも通り抜け不可能。
 戻ろうと歩いている時にわたしを見つけた。
 以上。




52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:08:34.20 ID:cTmOhn7h0

 口調は軽かった。
 だが、目の下のクマや、やつれた頬は疲れを隠せていない。
 人に会えたことで興奮しているのだろう。

 果たして、この男がまともであると言い切れるだろうか?
 少し、わたしは警戒するように後ずさった。
 モララーはそれに気付かない。

ξメ゚゚)ξ「どうして、この町はこんな風に?」

( ・∀・)「さあ、な。理由も探ろうとしたんだが、どこから手を付けて良いか見当もつかない。
      少なくとも、周辺2,3ブロックくらいは、まともに喋れる人間も残ってないしな」

ξメ゚゚)ξ「まともに」

 補足はいらない。
 つまり、死人に口なし。
 口を聞く人は、いないということだ。

 ふと思いついて尋ねる。

ξメ゚゚)ξ「ブルックヘイブン病院には行ったかしら?」




53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:09:47.38 ID:cTmOhn7h0

( ・∀・)「いや、まだだ。そうだな……ちょっとこれを見てくれ」

 モララーは折りたたんだ地図を尻ポケットから取り出した。
 広げられたそれには多くの書き込み。
 赤いペンで×や矢印が加えられている。

 近寄ってくるモララーに一瞬身体を強張らせたが、結局は接近を許す。
 タバコを吸い始めてから彼の拳銃はテーブルの上だ。
 危害を加えてくるようでもない。

( ・∀・)「今まで探索したのはローズウォーターパークから、ぐるりと東の道路沿い」

 町の北側には、トルーカ湖がある。
 それを見渡せる公園が南側にあり、地図ではそこに×がつけられていた。
 そして、地図の右方、つまり東側の道路では赤の二重線が南方面へと伸びている。

 指を差しながら、モララーは言う。

( ・∀・)「やたらめったら背の高いフェンス、そしてその向こうには崖。
      抜けられもしない、通れもしない。フェンスを超えても奈落にまっさかさまだ」

ξメ゚゚)ξ「わたしの通ってきた場所までは探索したのね」

( ・∀・)「どこも塞がってたけどな。あんたが通った時以外は」




55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:11:16.38 ID:cTmOhn7h0

ξメ゚゚)ξ「西側はまだ手付かず、か」

 「×」「○」「check」「danger」「food」
 それらは、下方や左方にはほとんど見られない。

( ・∀・)「ま、どこも大して変わらないと思うがね」

ξメ゚゚)ξ「それでも南から行けなくはない、って感じね……」

 わたしは壁際のソファまで行って、腰を下ろした。
 嘆息して、考える。
 目的を達成するべきか、それとも逃げ出すべきか。

 「ヤツ」がこんな状態の町にいるか分からない。
 自身の危険は承知の上だった。
 だが、この異常事態。

 そもそもどうやったら逃げ出せるのだろう?
 いや、考えるまい。

 ひしゃげた車をどうするか、よりも重要な決断をするべきだ。
 生き残るための覚悟を固めること。
 そして、ヤツを――




58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:13:18.45 ID:cTmOhn7h0

( ・∀・)「病院を目指してってことは、転勤か?」

 のんびりとした言葉で、思考が中断される。

ξメ゚゚)ξ「え? ええ。そうね。そんなとこよ」

( ・∀・)「まあ、こんな町じゃ看護婦は引く手あまただろうな」

 ぼんやりと受け答えするわたし達。

( ・∀・)「野暮用って言ったけど、俺は呼ばれて来たんだよ」

ξメ゚゚)ξ「そうなの」

( ・∀・)「息子から手紙が届いたんだよな。マタンキって名だ」

ξメ゚゚)ξ「……離れて住んでたのね?」

( ・∀・)「離れて、か。はは、おかしいよな。息子は」

――2年前に死んでるんだぜ。




60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:15:15.65 ID:cTmOhn7h0

 心臓が嫌な拍動をする。
 壁にもたれかかったモララーは天井を仰いでいる。
 暗いために表情が分からない。

( ・∀・)「9歳の時に心臓患ってよ。ちょうど、あんたの目指してた病院に入院してた」

 目指していた病院に。
 わたしの、勤めていた病院に。

( ・∀・)「手術もしたんだ。回復するって言われてた」

 記憶を辿る。
 マタンキ?

ξメ )ξ「それで、どうして亡くなったの?」

( ・∀・)「……術後、急にな。詳しくは分からない」

ξメ )ξ「そ、そう」

( ・∀・)「懐かしいな。小生意気だけど、自慢のクソガキだった」




61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:16:28.18 ID:cTmOhn7h0

 モララーの手にしたタバコがフィルターぎりぎりまで燃え尽きていた。
 彼はそれを靴の裏でにじり消す。

( ・∀・)「なあ、良かったら病院までついて行っていいか」

ξメ゚゚)ξ「逃げようとしてたんじゃないの?」

( ・∀・)「……実は最初っからそんな気はないんだ。公園から辿ったのはどこも思い出の場所だったんだよ。
      マタンキが元気だった頃にこの辺をよく散歩しててな」

 モララーの顔が外に向く。
 窓からの控えめな光に照らされた表情は寂しげだった。

( ・∀・)「アタリを付けていたところを調べていたら時間が随分かかっちまった。
      こんな状況だが、もし、あいつがどこかで俺を待ってるんじゃないかと……いや、馬鹿げてるかな」

 吸殻を灰皿に放ると、それきり彼は沈黙する。
 地図に書き込まれた「○」はそういうことか。
 息子がいるかもしれない、という場所の目星。




62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:17:40.76 ID:cTmOhn7h0

 霧による湿度の高さが突然感じられる。
 室温は低く、手足が冷え始めていた。
 わたしは口を開いた。

ξメ゚゚)ξ「……良いわよ。怪物から守ってくれるなら、むしろ歓迎するわ」

( ・∀・)「そうか。それならもう少し休憩しよう。見たとこ、あんた怪我してるみたいだしな」

 指を向けられて、顔に手をやる。
 頬が切れていた。
 浅くて気付かなかったようだ。

ξメ゚゚)ξ「あなたも血が出てるわ」

( ・∀・)「おっと、本当だ。ナースコール、看護婦さんこっち来てくれよ」

 軽口を叩くモララーに若干の生気が戻っていた。
 興奮は収まってきたらしい。
 わたしも一人でいたらこんなに冷静ではいられなかっただろう。

 こんな町では何をおいても当面の安全を優先すべきだ。
 そう思って、わたしは応急キットを取り出す。
 横にあった「それ」を確認するのは、忘れなかった。




63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:19:01.31 ID:cTmOhn7h0

 もし、彼が真実を知ってしまったら、二度引き金を引くことになる。


 一度はわたしの復讐のため。


 もう一度は彼、モララーの復讐から逃れるため。


【Save】




64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:20:23.65 ID:cTmOhn7h0



 拾得、あるいは目に付いたメモ群。






66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:23:53.87 ID:cTmOhn7h0

【警察署に置かれたローカル新聞の切り抜き】

〜連続殺人事件容疑者 自殺か〜

 サイレントヒル各地の連続殺人事件の容疑者として逮捕されていた##が、
昨晩未明、収容されていた拘置所内で死体となって発見された。

 首に刃物様の金属が刺さっており、自殺を図ったものとして警察は捜査している。
動機は裁判を目前にしてのノイローゼなどが考えられている。

 看守が発見した時、既に##は失血により死亡していた。
使用されたのは金属製スプーンで、留置場では通常の食事に用いられるものだった。
取り出されたスプーンは先が潰れて尖っており、##自身が加工したのではないかとみられている。

 本紙では##の幼少時代を――

(犯人の名前は塗りつぶされている)




68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:25:06.05 ID:cTmOhn7h0

【婦警の私物のローカル誌より】

〜今週の運勢〜

 ――は、今週の運勢が最悪!
 何かを決断するにも慎重にならないと危ないかも!
 特に恋愛に関しては気をつけないと意中の人と離れちゃう。
 友達と遊んで元気を分けてもらおう!
 幸運を呼ぶ色は黄色。ラッキーアイテムはマグカップ。

 蠍座は、ちょっと運が下降線?
 体調が優れなかったり、お肌が荒れやすい時期。
 健康に気遣って、早朝の散歩をすればリフレッシュ!
 人とは会わずにゆっくり休むのも吉。
 幸運を呼ぶ色はピンク。ラッキーアイテムは動物のシール。

(書き込み)「↑イザベラにロビーちゃんのシールをあげよう」

 射手座は――




69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:26:33.23 ID:cTmOhn7h0

【署内掲示板のメモ 1】

〜車上荒らし多発〜

 最近車上荒らしが多発している。
 署員の通勤途中にもだ。
 みんな気を付けてくれ。
 オレみたいに家の鍵取られると本当に危ないぞ。

  ジョナサン


【署内掲示板のメモ 2】

〜銃の点検呼びかけ〜

 義務として週一回は点検を呼びかけてきたが、
 その頻度を最低、週三回に増やそうと思う。
 備えあれば憂い無し、各自ロッカー内の銃も手入れすること。
 パトカー内に常備しているショットガンも同様。

  ジム




70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:27:58.02 ID:cTmOhn7h0

【捜査メモ】

〜「教団」と呼ばれている組織について〜

 教団の信者は人数が把握しきれない。
 土着の思想をミックスして転生、聖母の存在、女神の再来、なんかを謳っている。
 サイレントヒルでは死後の再生が広く浸透しているらしい。
 終末思想もある。

 人身御供、つまり生贄を用いるミサも行っているとの情報を入手した。
 孤児院の経営者が教団関係者というのは?
 要、調査。

 権力者の一部も関係か?→資金源を突き止める。
 地主、資産家、病院長。
 特に病院の院長はこの土地にいた明主の子孫だ。
 現院長の人柄はあまりよくないらしいが。

 こちらも平行して調査する。




71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:30:14.51 ID:cTmOhn7h0

【Load】


 女は怒りと悲しみを胸に霧の中へ。


 男は何を抱いて霧の中へ?




72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:31:39.47 ID:cTmOhn7h0

 警察署のテーブルに広げられている、モララーが集めた物資の数々。
 人のいない住宅から拝借した工具数点。
 小さめの救急箱、携帯保存食、飲料水。

 武器になりそうなナイフなんかもあったが、彼は主に銃を頼っているようだ。
 わたしは丸腰を装い、余った中から扱いやすそうな鈍器を受け取った。

( ・∀・)「これくらいの鉄パイプなら持ち歩いても邪魔にならないだろ」

ξ゚゚)ξ「できたら使いたくはないけどね……」

( ・∀・)「分かってると思うが、正面切ってやりあうなよ。手を出さないに越したことは無い。
      で、やらなきゃならないときは」

ξ゚゚)ξ「徹底的にやれ、でしょ。これで三度目よ」

( ・∀・)「あんたは肝が据わってるみたいだけど、念のためさ。襲われたらとにかく距離をとれ。
      今まで俺が出くわした怪物は大体鈍足だったからな」

 頷きながらパイプを握る。
 ひんやりとしたそれの表面には、赤い錆びが点在している。
 長さは70cmほどで、手の小さいわたしにとっては径が少し太めだ。

 あまり怪物に近づきたくない気持ちから、リーチのあるこれを選んだ。




75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:33:05.14 ID:cTmOhn7h0

 モララーはナップサックにペンチ、ドライバー、スパナなどを詰める。
 その傍らには弾丸の入った箱がふたつ。
 もっと持っていかないのか、と尋ねると、指が二本立てられた。

( ・∀・)「ひとつ、重くて音が出るし、走りづらくなる。
      もうひとつが、これ以上は型の違う弾薬しか見付からなかった」

ξ゚゚)ξ「警察署なのにおかしいじゃない」

( ・∀・)「誰かが持ち出したみたいだ。拳銃もこれだけ。
      ライフルかショットガンなんかがあればよかったんだが」

ξ゚゚)ξ「残ってるのは弾だけ、なのね」

 言いつつ、わたしはじっと彼の手元を見詰めていた。
 妙に手馴れているように感じる。
 予備の弾倉に弾を込め、両ポケットにそれらを一本ずつ、するりと入れるモララー。

 そして、銃の中の弾数を確認すると、目線を他に向けながら安全装置を入れた。
 彼は空いた手でビーフジャーキーを口に運ぶ。
 咀嚼しながら、その袋をわたしに差し出した。




76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:34:17.43 ID:cTmOhn7h0

( ・∀・)「塩分と水分は重要だぞ」

ξ゚゚)ξ「釈迦に説法。看護婦は看護栄養学を学ぶの。でも、ありがとう。いただくわ」

( ・∀・)「シャカにセッポー? 仏教徒かい?」

ξ゚゚)ξ「夫が日本人だったの。こっちの永住権を取得してるけどね。
       ファミリーネームはナイトウっていうのよ」

 漢字を空にさらさらと書く。

( ・∀・)「ジャパニーズか。子供は? アジアの女の子は可愛いって聞くな」

 言葉に一瞬詰まる。

ξ゚゚)ξ「子供は、いないわ」

 モララーはそれ以上突っ込んでこなかった。
 わたしはペットボトルから水をひとくち、自分の気持ちを誤魔化すように飲んだ。

 やがてモララーが立ち上がる。
 ナップサックを背負うと、先ほど広げていた地図を取り出した。




78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:35:38.50 ID:cTmOhn7h0

( ・∀・)「まずは直線的に目指してみよう。迂回路が必要かもしれないが、
      とにかく焦らず歩く。見付かるよりかはマシだ」

 目的地は南西に位置する、ブルックヘイブン病院。
 そして、そこへの道で、地図上の「×」が入ってない通りは四つ。
 全てが警察署から少し西に行くとぶつかる、大通りと繋がっている。

 単純に大通りを南下するルートが一番近い。
 また、そこからさらに西側へと入れるわき道が次に早く到着できそうだ。
 他の二本の道へは、一旦北上する必要がある。

ξ゚゚)ξ「これは何の印?」

 住宅や店舗の上を矢印が走っていた。

( ・∀・)「色々『拝借』した建物は通り抜けられたものがあったんだ。実質、いくつかルートはある」

ξ゚゚)ξ「でもそれが明らかなのは東側だけ、か」

( ・∀・)「見るからに崖をまたいだ向こう側へ、室内から繋がってることもある」

ξ゚゚)ξ「……異常ね」

( ・∀・)「好都合さ」




82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:37:29.29 ID:cTmOhn7h0

 モララーは事も無げに怪奇を語った。
 彼の口調が重々しく深刻でなくて良かった。
 内容はかなり気が滅入るものだったからだ。

 階段の途中に、「屋上から」張られたフェンス。
 空いたマンホールの口から数センチ下に水面、そして突き出た人の腕。
 冷蔵庫に押し込められていた死体。

 中に入ると電気がついているのに、外からは明かりが見えない家。
 街路樹からすすり泣く声。
 前を通るたびに悲鳴が聞こえるドア。

ξ;゚゚)ξ「気分が悪くなってきたわ……」

( ・∀・)「安心しろよ、慣れたら『またか』くらいにしか思わないんだから」

 車の下から這い出る怪物の存在も注意された。
 彼がズボンをめくると、包帯の巻かれたスネが見えた。
 血は止まっているらしい。

( ・∀・)「ライトはひとつでいこう。存在をアピールすることはない」

ξ゚゚)ξ「いいわ」




83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:39:06.17 ID:cTmOhn7h0

 モララーはゆっくりと地図を確認しながら暗い中を歩いていく。
 その背に揺れるナップサックを見失わないように、わたしはついていく。
 手にした鉄パイプを無意識に強く握り締めていた。

 時々モララーが立ち止まり、ライトを消した。
 そして、そのたびに服を掴むよう指示される。
 ある程度歩くと、彼は明かりをつけた。

( ・∀・)「徘徊してる群れは拠点を作ってるんだ。その近くではさっきみたいに少しライトを消すぞ」

ξ゚゚)ξ「崖があるなら足元が危ないと思うんだけど」

( ・∀・)「俺が落ちそうになったら服、離して良いぜ」

 嫌な感じにどきっとしたのは、その言い方が冗談めいていなかったためだ。
 なんだか。
 なんだか本当に、死んでも構わない、と思っているような。

ξ゚゚)ξ「今度は腕を掴んでおくわ」

 そんな言葉が出た。
 おかしな話だ。
 もしかしたらわたしはこの男に#されるかもしれないのに。




85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:40:18.76 ID:cTmOhn7h0

 しばらく道を行くと、モララーの足が止まった。
 そして、ため息。

( ・∀・)「最短の道は塞がってる。いや、空いてるというべきかな」

 彼の背後から先を覗き込む。

ξ;゚゚)ξ「……ひっ」

 期せずしてわたしの靴が小石を蹴飛ばす。

 こつっ。一度跳ね。

 こつっ。二度跳ね。

 ―――。ふ、と消えた。

 照らされたアスファルトは、忽然と途切れていた。
 道路に突然現れた、底なしの暗闇。
 わたしは思わず、そこから遠ざかっていた。

( ・∀・)「戻って西側の通りに出る道を探そう」

 そう言って、モララーが振り向いた時、何かの気配を感じる。




86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:41:47.22 ID:cTmOhn7h0

 地の底から? 急速に近付いてくる羽ばたき。
 さらに、甲高いキィキィという鳴き声。

 問題はその数だった。
 もはや騒音。
 耳を塞がないと鼓膜がどうにかなりそうなほどの音量。

ξ;゚゚)ξ「!」

 モララーの胸についたライトを、いくつもの小さな影が遮った。
 それが飛来し――

ξ; )ξ「いっ!」

 肩口に鋭い痛み。
 切られた!?
 いや、食いちぎられたような……。

(;・∀・)「なっ!? なんだこいつらは!?」

 とっさにわたしも懐中電灯をつける。

 照らされたのは、崖から湧き出る、黒い雲の蠢き。
 否、小型の怪物の群れ。




90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:43:26.15 ID:cTmOhn7h0

――キィキィキィキィキィ!!

 まとまった蠢きが一際大きくさえずった。
 そして、一挙にこちらへと滑空してくる。
 第二波がくる!

(;・∀・)「走るぞ! 数が多すぎる!」

 モララーがわたしの腕をとり、走る。
 引っ張られるようにしてわたしも駆けた。

 黒い雲が霧を裂く。
 耳元を不快な羽音が通り過ぎた。
 頭や肩を骨ばった翼が打つ。

ξ;゚゚)ξ「どっちに!?」

(;・∀・)「西、左だ!」

 十字路を左折。
 斜向かいに太い腕の怪物がちらりと見えたような気がする。
 鳥達の一部がそちらに向かう。

――あああああああ!! あああああ!! うああああ!!




91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:45:38.38 ID:cTmOhn7h0

 背で、「立ち止まったらどうなるか」を聞く。
 板張りの壁やレンガの塀に挟まれた道に、絶叫が届いた。
 靴が湿った地面を叩く。

 鞄が揺れるのがうっとおしい。
 早速息が苦しくなってきた。
 進行方向を照らしながら、なおも駆ける。

 そして、見つけた。

ξ;゚゚)ξ「見て! ドアが開いてる!」

 二階建ての住宅。
 そのレンガの壁に半開きの木戸がある。
 裏口のようだ。

(;・∀・)「しめた、飛び込むぞ!」

 鳥の群れが一瞬引いた。
 はっ、と見上げて、下降してくる影を認める。

(#・∀・)「おおおおお!!」




93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:47:03.43 ID:cTmOhn7h0

 それは雨か

 まるで矢か

 あるいは槍

 垂直に地面へと

 突き刺すように急降下する小さな怪物

 腕を掠める鋭利な爪

 衣服を裂く鋭敏な嘴


 モララーの手がドアノブにかかった。




96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:48:16.57 ID:cTmOhn7h0

 わずかにあけられた隙間に身体をねじ込む。

ξ;゚゚)ξ「閉めて!」

 ドアを閉めた途端に、外から連続した鈍い音。
 地面に突き刺さったのだろうか。
 それとも、激突して死んだのか。

 ぐちゃ、とも聞こえてくる気がした。
 あの速度だ。
 コンクリートにぶつかればタダでは済まないだろう。

 ぐちゃ、くちゃくちゅ。

 ぶちゅ。

 感覚が鋭敏になっているのだろう。
 一枚の壁を隔てた音がこんなにも近くに聞こえる。

 あれ……?
 それにしても何故、こんなにも近くで音が――。




97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:49:29.27 ID:cTmOhn7h0

ξ゚゚)ξ「えっ」

 懐中電灯を向ける。

 モララー。

 太い腕に抱かれた、揺れる死体。

 木製テーブルと工具。

 二台の乗用車――ああ、ここはガレージだったんだ。

 ぬちっ。

 床の赤いシミ。

 モララー。

 揺れる死体?

 ぐちゃ。

 笑う怪物に、犯されている、女性の死体。

「うー……? ああああー……うへへへへへ」




101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:50:53.50 ID:cTmOhn7h0

(#・∀・)「どけツン!」

 三度、銃口が跳ねた。

 刹那、胴に空いた穴から黒い飛沫が立ち、怪物が倒れた。
 赤黒いペニスがずるりと抜けて、天に向かい卑猥に反り立つ。
 その主は、ああ、ああ、と間抜けに呻く。

(#・∀・)「こいつ!!」

 モララーは駆け寄ると無防備な頭を蹴り飛ばした。
 鈍く、骨の折れた音。
 マネキンのような顔が歪み、頚部が限界を超えて曲がる。

 直後、絶命したはずの怪物が、ペニスから白濁した液を迸らせる。

ξ;゚゚)ξ「きゃっ」

 ドアに背中からぶつかるようにして避ける。
 なおも続く断続的な射精。
 脈動する、赤黒い男性器。




102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:52:06.84 ID:cTmOhn7h0

 光景が、フラッシュバックする。


――なんだ、目が覚めたのか。

 え? なんなのこれ?

――麻酔の担当は誰だったっけ。まあ良いです。

 先生? なんで、え!?

――なかなか良いでしょう?

 どういうことですか!?

――ああ、一度、してみたかっ、たっ、ああああー……


 きもち、わるい。


ξ )ξ「う……っぇ……」

 わたしは気付けば、ガレージの床に嘔吐していた。




104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:53:19.75 ID:cTmOhn7h0

 びたびた、びたびた。

ξ )ξ「おっぅえ……」

 ほとんど固形物は無い。
 噛み砕いたジャーキーがちらほら。
 他はただの黄色だ。

 懐中電灯を取り落とした。
 既に地に落ちていたパイプと胃液を浴びている。
 息が詰まる。

( ・∀・)「おい、大丈夫か」

ξ )ξ「だい、じょお……大丈夫よっおぶっ……へい、き……」

 背中に暖かい掌を感じた。
 しばらくそうしていた後、ガレージから通じた部屋に連れて行かれる。
 座らされたソファはひどく埃っぽかったが、怪物の隣よりはマシだった。

( ・∀・)「ほら。口をゆすいでおけ」




105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:54:41.05 ID:cTmOhn7h0

 水は貴重だ、と言いかけるが、言葉にならない。
 鼻の奥がツンとする。
 その直接の原因は、嘔吐によるものではなかった。

ξ ;)ξ

 最悪の記憶が如実によみがえっていた。
 あの感触が――下腹部に注がれた劣情が――よみがえっていた。
 膝を抱えて嗚咽を漏らす。

ξ ;)ξ「……うっ……ううう……」

( ・∀・)「……中を調べてくる。水はここに置くぞ」

 ソファの横には背の高い、明るいランプ。
 電気が通っていた建物らしい。
 縮込めた腕と脚の隙間から見えたのは、モララーがその電灯の下にボトルを置く姿だった。

 彼が床を軋ませながら遠ざかっていく。
 孤独を恐れるよりも、追憶に慄いた。
 奥歯を食いしばって、頭を抱えて、自身の身体を抱く。

――なんで。なんでわたしがこんな目に。




107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 20:59:51.61 ID:cTmOhn7h0

 わたしはサイレントヒルで看護婦として働いていた。
 ブルックヘイブン病院。
 ある晩の当直で、呼び出された薬品庫。

 突然、何かを口元に押し当てられた。
 麻酔。
 その効果が現れるまでに、実際には数分を要する。

 ドラマのようにすぐ気絶、とはいかなかった。
 床に倒され、殴られ、頭を打ち付けられた。
 永遠とも思われた暴行の後、目覚めたのは分娩台の上。

ξ;;)ξ「ああああ……あああああああ……」

 縛り付けられ、身体は、身体は、から、からだはあのおとこに


 頭をかきむしった。
 小さく呻きながら夫を想う。
 彼は知らない。

 そんな過去を、ブーンは知らない。




109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 21:01:45.26 ID:cTmOhn7h0

 モララーが戻って来るまでに、たっぷり時間があった。
 彼なりに気を利かせてくれたのだろう。
 腫れた目元以外に、泣いた痕跡は残さなかった。

 モララーはわたしの落としたものを持ってきてくれた。
 どちらも汚物がきっちりと拭き取られている。
 口はあまり良くないが、それでも、真人間ではあったらしい。

( ・∀・)「役に立ちそうなものはなかった。でも怪物もナシだ」

ξ )ξ「取り乱して悪かったわ」

( ・∀・)「いいさ」

 彼の説明では、ここは集合住宅の居間らしい。
 ルームシェアを目的として作られた二階建ての住居。
 その憩いの場としてのリビングに、わたしは残されていたのだという。

 促されて玄関まで歩く。
 壊された置時計やテーブル、脚の欠けた椅子などが散乱している。
 それでも電灯のおかげで、移動に支障はなかった。




111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 21:03:34.37 ID:cTmOhn7h0

 表に面した玄関は、多重に太い鎖で封鎖されていた。
 さらに、ほとんどの窓が板張りに鉄格子をはめられた状態だった。
 だが、二階にあるひとつは完全に開放されていた。

 その向こうには、大きく崩壊したレンガの壁と露出した子供部屋。
 窓からは隣接した家へと渡れるようになっている。

( ・∀・)「無断でぶち破ったみたいだよな。向こうも見てきた。あっちはドアが開いてる」

 「あっち」の家まで距離にして50cm弱。
 何故作られたのかわからない窓を、モララーはまたぐ。
 子供向けのファンシーなカーペットの上に着地、振り向く。

( ・∀・)「ほら」

 指先が汚れた、骨の太い男の手。
 差し伸べられたそれが、少し怖かった。

 でも、現在はこの男を恐れる理由がないと自分に言い聞かせる。

ξ )ξ「ええ」

 懐中電灯を仕舞い、手を取った。




112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 21:05:49.89 ID:cTmOhn7h0

ξ゚゚)ξ「明るい……」

( ・∀・)「は! 唐突に昼かよ」

 鳥の大群から逃げて、たった二、三十分ほどしか経っていないはずだった。
 しかし、外の世界は明るさを取り戻していた。
 感覚としては、昼の曇天に加えて、濃霧。

( ・∀・)「ライトはいらないな。ま、視界良好と言い切るには程遠いが」

 モララーは地図に赤ペンで情報を書き足していた。
 逃げ込んだ建物の木製のドアから、先ほど出てきたドアまでにラインが引かれている。
 北側から入って、南の玄関へと伸びた矢印。

 横に「safe?」と併記された理由は、怪物が侵入していたためだろう。

( ・∀・)「これ以上めんどい怪物か道に出くわさなきゃ良いな」

ξ゚゚)ξ「ええ。本当に。まっすぐこっちに進んで、左折。合ってるわね?」

 鉄パイプで進行方向を確認する。
 霧の中にぼんやりと道路の輪郭が見えた。
 何者かの不意の接近を許すことはないだろう。

( ・∀・)「西、そんで南。その通りだ」




113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 21:07:11.11 ID:cTmOhn7h0

 わたし達はまさに五里霧中を進んだ。
 途中、何かを引きずる音と笑い声を遠くに聞く。
 ぐ、と胸に湧いた不快感を飲み込む。

( ・∀・)「……」

ξ゚゚)ξ「何よ」

 いや別に、とモララーは視線を前に戻した。

ξ゚゚)ξ「……あんまり、初対面の人に話して面白いものじゃないわ」

( ・∀・)「誰だってそういう話がひとつやふたつあるもんさ」

 彼は白い大気に包まれて、先を行く。

( ・∀・)「レディは謎があったほうが良いぜ。ミス・ナイトウ」

ξ゚゚)ξ「そう」

( ・∀・)「そうさ」

 それっきり、口を開きはしなかった。




115: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 21:08:30.39 ID:cTmOhn7h0

 左折、車二台がかなり余裕をもってすれ違えるほどの道に入り、直進。
 怪物の巣の近くをひとつ、迂回する。
 乗り手を失ったトラックの横を通る。

ヾ( ・∀・)「……」

 すっ、と手が上げられた。
 身を屈めたモララーに倣って、わたしも姿勢を低くする。
 地面に近いところの、霧が薄い場所を睨んだ。

 ぼんやりと見えたのは、四足の獣の影だった。

 うろうろするものが一体。
 車にもたれかかった何か――いや、ぼかす必要もなくヒト、だ――を貪るのが一体。
 食事に夢中な方が、水っぽい咀嚼音を響かせていた。

( ・∀・)(距離を開けよう)

 モララーはわたしの肩を小さく叩くと、来た道を戻った。
 二十メートルほど後退してから、彼は静かに口を開く。




116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 21:10:05.06 ID:cTmOhn7h0

( ・∀・)「病院まであとちょっとなんだが、正直あいつらとはやりあいたくない」

 潜めた声に耳を澄ます。

( ・∀・)「下手に手を出すと仲間を呼ぶんだ。脚も早い」

ξ゚゚)ξ「どちらかに構っている間に取り囲まれちゃうのね」

( ・∀・)「弾を無駄にはしたくない。そこで、二択だ」

 モララーの指が二本立てられる。

( ・∀・)「走るか、餌で釣るか」

 提示されたプランの一長一短。

 走る。
 駆け抜ければ病院まで十分にたどり着けるはず。
 しかし、音を立ててしまうし、また、病院にすぐ入れるとは限らない。

 餌。
 食べている間は注意力が下がっているらしい。
 だが、うろついている方が既に空腹でない可能性がある。




118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 21:11:17.77 ID:cTmOhn7h0

( ・∀・)「どうする?」

 訊かれて、躊躇する。

 実は、病院の鍵はわたしの手元にある。
 そこで看護婦をしていた頃に合鍵を「持たされていた」のだから。
 無論、夜勤の無い日も呼び出されていたためだ。

 とはいえ、先の玄関のように強固な封印を施されていないとは言い切れない。
 走り、気付かれた挙句、正面口で立ち往生。
 病院の玄関の両脇は背の高い塀に挟まれており、逃げ場はない。

 餌、と言った。
 ただ、目の前でもっと食いでのある餌が歩いてきて見向きをするか?

( ・∀・)「……」

 彼はじっと待っていた。
 あくまでも、病院を目的地としていたわたしに選択権をゆだねようというのだ。

ξ゚゚)ξ「そうね――」

 だが、言葉を遮るように、遠くで破裂音。




119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 21:12:40.08 ID:cTmOhn7h0

(;・∀・)「銃声か!?」

ξ;゚゚)ξ「病院の方からだわ」

 聞こえてきたのは、犬たちがいた方角。

 二度目の、どぱっ、という腹に響く音に次いで悲痛な鳴き声。
 それに怒りを露にした犬の唸り声が重なる。

 だが、さらに上塗りの銃声。
 それきり、二種類の音声が同時に消えた。

(;・∀・)「ショットガンを持ち出したヤツだ」

ξ;゚゚)ξ「ねえ、まずいんじゃないの? 今ので犬が呼び寄せられていたら……」

 モララーは刹那、思考するそぶりを見せる。
 一方わたしは、周囲の気配をうかがった。
 静かなこの町では銃声がひどくよく通るのだ。




120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 21:13:52.43 ID:cTmOhn7h0

(;・∀・)「今のヤツと合流しよう。装備が分けてもらえたらありがたい」

ξ;゚゚)ξ「なら早くしましょう」

 モララーが両手を掲げながら歩き出す。
 歩調が少し早いのは、急く気持ちがあるからだろう。

(;・∀・)「おーい。撃たないでくれ。生存者を探していたんだ」

 徐々に人影が見えてくる。
 女性のものか?
 ぼけたその線は少し細い。

 頭の弾けた犬の死骸から目を逸らして、わたしも呼びかける。

ξ;゚゚)ξ「ハロー? ちょっと待って、お願い。良かったら話を」

 しかし、それはゆっくりと遠ざかっていく。
 頼りない足取りで、コツコツと足音を立てながら。
 走り寄るべきか考え、モララーに目配せした。

(;・∀・)「あんまり刺激しない方が良いかもしれない」

ξ;゚゚)ξ「そうね……。見て。病院に入っていくわ」




121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 21:15:04.92 ID:cTmOhn7h0

 病院の鉄扉が軋む音。
 聞こえてきたそれから察するに、鍵はかけられていないようだ。
 先ほどの女性も施錠はしなかったらしい。

( ・∀・)「……?」

ξ゚゚)ξ「良かった、開いてるみたい」

 他の怪物の接近を許す前に、わたし達は玄関前のステップを昇った。
 五段しかない階段――バリアフリーには無関心な設計――の向こうに出入り口。
 両開きの鉄扉があり、片方がやや開いていた。

ξ゚゚)ξ「暗いけど、ここは電気が通ってないのかしら」

 そちらに近づき、覗き込もうとすると、肩に手が置かれた。

( ・∀・)「ちょっと、待てよ」

 扉に伸びていた腕が、はたと止まる。

( ・∀・)「おかしいな」




130: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 21:22:29.34 ID:cTmOhn7h0

 モララーの顔が曇っていた。

ξ゚゚)ξ「呼びかけを思いついたのはあなたじゃない」

( ・∀・)「それで考えてたんだ。普通、安全地帯から、わざわざここまで出てくるか?」

ξ゚゚)ξ「それは……」

 モララーが続ける。

 病院は避難所としては適した場所だ。
 入院患者用のキッチン、医療機器。
 玄関扉を閉じ、非常口を閉めれば立てこもるに易い。

 なのに、外へ?
 それも女性が銃を持って。
 無用心すぎやしないか。

 あるいは、正常ではないか、と言葉は締められた。

ξ゚゚)ξ「なんらかの罠じゃないかって?」

( ・∀・)「……そうだ」




132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 21:23:46.05 ID:cTmOhn7h0

 それを受けて、しかし、わたしは懐中電灯をバッグから取り出した。

 怪物が徘徊する路上。
 白く、視界の悪い状況。

 疑わしい人物の入った病院。
 暗く、明かりがない状態。

ξ゚゚)ξ「……それにしても、ここにいるよりかはマシだわ」

 含めた小さな嘘。

 目的がここにある以上、わたしは絶対にそれを達成する必要がある。
 ただそれだけ。

 標的が中にいる可能性があり、それと絶対に相対するのが要。
 ただそのため。

ξ゚゚)ξ「早く入りましょう。また犬が来ないとも限らない」

 だから、ブルックヘイブン病院へと進む。
 病院の院長、その男と会うために。

( ・∀・)「……いいだろう」




134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 21:25:12.17 ID:cTmOhn7h0

 モララーは真剣な面持ちで頷いた。
 彼の心は分からない。
 そこまで彼を理解する時間はなかった。

 彼にとって、病院を探索する絶対的な理由はない。

ξ゚゚)ξ「帰ってもいいのよ? 一人でも行けるわ」

( ・∀・)「随分だな。俺がいなきゃここまでたどり着けなかっただろ」

ξ゚゚)ξ「違うわよ。危険だと思うなら一緒に来いとはいえないじゃない」

 本音と建前とを同時に吐き出す。
 ここから先に行って、余計なことを知られたくはない。
 それは未来、過去、両方の事象においてだ。

( ・∀・)「ますます放っておけるかよ」

 表情から、その言葉以外の意図は読み取れない。

 ただお人よしか?

ξ゚゚)ξ「後悔しても知らないわよ」




137: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 21:28:08.65 ID:cTmOhn7h0

( ・∀・)「後悔ならしたさ」

ξ゚゚)ξ「わたしを助けたこと?」

( ・∀・)「いや、昔の話」

 彼はそう言って鉄扉を引く。
 ぎくりとするほど蝶番が大きく軋み、暗闇は開かれた。

( ・∀・)「どうでもいいくらい、昔のことだ」

 そのまま、闇に吸い込まれるように進むモララー。
 わたしもすぐに続く。
 消毒液の、懐かしい香りが出迎えてくれる。


 そして、踏み入れた途端、視界が暗転した。






139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 21:29:31.38 ID:cTmOhn7h0

ξ )ξ「ううっ」

「おい、大丈夫か、ツン」

 周囲が、めりめり、と音を立てているのが聞こえた。

 脚の力が抜けて倒れこんでしまう。

 がしゃん。
 がしゃん?

「――! ――!!」

 モララーが叫んでいる。
 発砲音。

 床が妙に固く冷たい。
 この手触りは……金網?

 金網の床を、何かが引きずられるような振動。
 いや、わたしが、運ばれているのか?




140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 21:31:01.78 ID:cTmOhn7h0

ξ )ξ

 頭が、がたがたと段差を打つ。
 階段、そう、階段だ。

ξ )ξ「う、ん」

 気を失い切れないのが、逆に恐怖を煽る。
 どこまでわたしは運ばれるのだろう。

ξ )ξ

 引きずられていく。

 何度かドアの開閉を聞き、そして停止。

 柔らかい何かの上に寝かされる。

「――――」

 小さく耳打ちされる。
 何?




141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 21:32:16.34 ID:cTmOhn7h0

「――逃げて、ママ」


 幼い子供の声を遠くに聞いて、ようやくわたしは意識を手放した。


【Save】




142: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 21:32:41.83 ID:V04Yj5+e0

乙!




145: ◆s7L3t1zRvU 2009/04/25(土) 21:33:59.84 ID:cTmOhn7h0

今回はここまでです。
早ければ明日。
できなければ明後日。

次は後編、な感じで続けていきます。

何かあったらお答えしますので、どうぞ。




147: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/25(土) 21:36:30.49 ID:V04Yj5+e0

クリーチャーの名前があれば教えてくれないか?




151: ◆s7L3t1zRvU 2009/04/25(土) 21:41:16.53 ID:cTmOhn7h0

>>147
いやあ? 特に何も名前付けてないです。

太い腕
→3の始めに出てくるやつが元ネタ


→1のゾンビ犬


→4のコウモリ?

的なイメージで見てもらえれば。




12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:19:33.80 ID:Z6pWhfO30

【Load】


 白い病院錆び付いた。


 赤い何かで汚された。




14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:21:15.41 ID:Z6pWhfO30

 ブルックヘイブン病院は地上三階、地下一階の建物だ。
 一階に外来受付と診察室、キッチンや手術室が固まっている。
 二階以上には入院用病室があり、二階に相部屋が六つ、三階に個室が十四。

 さらに言うなら、個室には二種類ある。
 一般患者用のベッドとサイドテーブル、ラック付きの部屋。
 そして、自殺志願者、精神障害者、麻薬中毒患者などを「収容」する部屋。

 わたしが寝かされていたのは、後者だった。

ξ )ξ「う……んん……。ここ、は」

 真っ暗な特別病室。
 わたしがそれを認識したのは、壁も床も全てがクッションになっていたからだった。
 それが自殺防止用だと、わたしは知っている。

ξ゚゚)ξ「モララー?」

 手探りで何か見付かりはしないか、と模索する。
 やがて、ドアらしき境目を見つける。




15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:23:06.60 ID:Z6pWhfO30

 冷蔵庫が起こすような、粘着質な音を立ててドアが開いた。

ξ゚゚)ξ「暗い……けど、明かりはついてるのね」

 じじじ、と電灯が明滅している。
 完璧には判然としない視界。

ξ;゚゚)ξ「こ、れは」

 薄暗がりの下、壁や床にはどす黒い痕が残されている。
 だが、それよりも、ある異変に気付いてしまった。

 何故、わたしは血に汚れているんだろう?

ξ;゚゚)ξ「や、やだ。なんでこんなに血がついてるのよ……。だって、わたし……」

 視認した途端に血生臭さを覚える。
 両手、胸より下の衣服、そして頭髪の毛先が、赤に染まっていた。
 動くたびに乾き始めたそれらが、べたりと不快感を呈する。




18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:24:52.16 ID:Z6pWhfO30

ξ; )ξ「なんなの、これ」

 落ち着くまでに少々の時間を要した。
 そこは、剥がれた壁やめくれた床材、ベッドの残骸などが散乱したスペース。
 無秩序さが余計にそれを妨げた。

ξ゚゚)ξ「そういえば荷物は?」

 同行者もそうだが、持ち込んだ懐中電灯や鞄も見当たらない。
 それらがあるとすれば、さっきの部屋か。
 赤黒い軌跡が続く床を辿って、わたしのいた場所へと目を移す。

 しかし、すぐに中断した。

 差した光が、動かないヒトの姿を照らしていたからだ。
 そして、赤黒さはそこから染み出していた。

ξ )ξ「……」

 入りたくは、ない。
 一度だけ、さっと見て、「それ」以外のものが無いのを確認する。
 すぐにそのドアを閉じた。




19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:26:53.50 ID:Z6pWhfO30

 とにかくここを出てモララーを探さなければ。
 明らかに彼は何かと交戦していた。
 助けなければ。

 いや、待てよ。

ξ゚゚)ξ「すぐに合流する必要はあるのかしら」

 辛うじて、視界は確保されている。
 わたしは病院の構造も熟知している。
 それこそ物理的な意味を超えて裏まで。

 そして、彼の目前で、わたしが会うべき人間と遭遇する可能性。

ξ゚゚)ξ「邪魔をされるかもしれない」

 四つ並んだ特別病室の対面にドア。
 これを抜け、T字路を左に行けばエレベーターホール、右には階段へと通じる扉がある。
 一階まで降れば、院長室はすぐだ。

ξ゚゚)ξ「それを、済ませてからでも」

 遮られるように、壁を殴打する音。




20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:28:40.35 ID:Z6pWhfO30

ξ;゚゚)ξ「えっ」

「――! ――!!」

 叫びは、特別病室のひとつから響いてきた。
 くぐもった音声。
 わたしはドアに耳をつける。

「助けて! 出して! お願い!」

 知らない女性の、涙ぐんだ声。
 自分も声を張り上げる。

ξ;゚゚)ξ「生きてる人がいたのね!?」

「ああ、良かった……。お願い! 見捨てないで!」

 しかし、ノブには頑丈なロックが施されている。
 開錠できそうなものは、周囲を見回しても見付からない。

「お願い、見捨てないで! 助けてぇ……」

 逡巡。




23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:29:56.06 ID:Z6pWhfO30

 下手に時間を無駄にしたくはない。
 ここが安全でないということは、死体から分かった。
 だが、彼女を放置することは心苦しい。

 密室にいれば、安全ではある。
 だが、わたし以外の救助が来るかは分からない。

ξ;゚゚)ξ「……」

「いるわよね? ねえ、返事して。ねえ。ねえったら!!」

 扉の向こうが、がりがりと削られる音。
 クッションをかきむしっているのだろう。

「ここから出して! ねえ出してよ! 一人にしないで! ああああああああ!!」

ξ;゚゚)ξ「分かったわ! 待ってて! 鍵を探すわ!」

「ホント!?」

 それから三度、本当だ、と確認をしてわたしはドアを離れる。
 ……わたしの用件もモララーとの合流も後回しだ。




24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:31:12.66 ID:Z6pWhfO30

ξ゚゚)ξ「こうなったら手早く助けないと」

 慎重に扉を抜け、薄暗い廊下を歩きだす。
 目に優しい薄緑――何やら煤けたように黒ずんでいるが――の壁。
 足元はところどころが欠けたタイル。

 本来なら、その上に緩衝材が塗られていたはずだ。
 リハビリで歩く人が負担にならないように。

 ふと、気付く。

ξ゚゚)ξ「金網じゃ、ない?」

 ここに引きずられてきたのは確かだ。
 だが、全身で感じた金属の網は影も形もない。
 ところどころに放置されたストレッチャーや椅子以外、比較的正常。

 ……考えていても仕方が無い。
 わたしは音に注意しながら手前にあるドアを開ける。

ξ゚゚)ξ「まずは女子ロッカーから……」




26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:32:46.30 ID:Z6pWhfO30

 職員用のロッカー室はかなり整然としていた。
 加えて電灯も生きていて、安心する。

 並んだ男女ロッカー室を探して見付かったものは次の通り。

・野球選手のサイン入り木製バット、医療用メス
・未開封のビスケット
・オキシドール、コットン、絆創膏
・ナップサック

 武器になりそうなもの。
 なんとか食べられそうなもの。
 応急手当て用品、それらを入れる袋。

 さらに、一風変わった情報を載せた紙もいくつか入手した。

ξ゚゚)ξ「本当に妙な世界だわ」

 赤く染まった紙切れに、黒インクの安定しない筆跡。

[ひとりぼっちでどん詰まり。ひとりぼっちを救うなら、ひとりぼっちでどん詰まり。
 行って見つけたおたからだ! こわいおんなに気をつけろ! まっくらどん底気をつけろ!]




27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:33:58.65 ID:Z6pWhfO30

 ひとりぼっちでどん詰まり。
 一人ということは三階の個室を示すのだろうか。
 ならば、どん詰まりは一般病室の最奥?

 ひとりぼっちを救う。
 特別病室に閉じ込められた女性――愛称はベラ、と名乗った――を助ける。
 行って見つけるのはそのための「おたから」。

ξ゚゚)ξ「馬鹿みたい……。だけど」

 それを信じる気になった理由がある。
 他に拾得した資料が、それだ。
 その中のひとつが、さらに異常性を放っていた。

 「わたしが拾うこと」を前提とした内容。

 口外したことのない事実が、そこに含まれていた。

ξ )ξ「掌の上で踊らされているみたいじゃない」




29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:35:26.47 ID:Z6pWhfO30

[さみしいあなたはここにきて、もっとさみしいことをする。

 おこったあなたはここにいて、もっとおこってしまうんだ。

 ひとり##して、ふたり##して、さんにんめにはだれがしぬ?

 あなたをおこらすいやなやつ? あなたがおこらすつみびとか?

 どんどんどんどんおちていく。にげだすならばいまのうち。

 おくにいくならしたがって。まっかな、まっかな、かみきれに。

 できればぶじでそとにでて、はしってはしってほしいけど、

 それでもほんとはにげれない。まっくらやみにきをつけて]

 赤いメモよりもさらに拙く、大きな文字でそれは書かれていた。
 画用紙にカラフルなクレヨン。
 そして挿絵もついている。

 子供? が二人、手をつないで涙を流している絵だ。




30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:36:52.60 ID:Z6pWhfO30

ξ )ξ「何よこれ」

 不思議な感情が湧く。
 何故か。

ξ ;)ξ「何なんだろう」

 何故か、涙腺が緩む。

ξぅ )ξ「いけない。急がなくっちゃ。ベラが待ってる」

 ロッカーを出て、T字路を右折。
 少し行くと左手にドア。

 この病院は、俯瞰すると左右反転させたL字型をしている。
 縦に太く短く、横には細く長い。
 目指すのは、横線の先端。

 いくつもの病室が並ぶ廊下の先。

ξ )ξ「ふう」

 都合、今目の前にある扉は一般病室群への交差点。
 ドアノブに手をかけて、逆の手でバットを握り締める。
 大きく深呼吸してから、ゆっくりと扉を開けた。




32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:38:06.57 ID:Z6pWhfO30

 暗い。
 いや、ところどころは明るい。
 弱々しく明滅する電灯がちらほら遠くに見える。

ξ;゚゚)ξ「まっくらやみにきをつけて、ね」

 明かりの無い中間地点に広がる闇。
 握った木製バットが手汗、そして乾きかけの血でぬるつく。
 だが、

ξ゚゚)ξ「……行くわ」

 進むしか、ない。

 じゃり、じゃり、じゃり。

 ぺきっ、かしゃん、ぱり。

 電灯が割れて落ちているらしい。

 見えないガラスやタイルを踏みしめ、進む。




33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:39:18.72 ID:Z6pWhfO30

 じゃり、じゃり、じゃり。

 何かが腰元にぶつかって驚く。
 とっさに手を突き出して触ると、柔らかい布。
 ベッド?

 それを避けてさらに前へ。

 じゃり、ぺきっ、ぱりっ。

 じゃり、じゃり、じゃり。

 ガラス、タイル、何かの金属を踏む。
 心拍数はかなり上がっている。
 耳元で自らの血液が巡るのを聞く。

 じゃり、じゃり、ぺた、じゃり。

 じゃり、ぺた、じゃり、じゃり。

 ……?




34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:40:27.05 ID:Z6pWhfO30

 喉が急激に渇く。
 心臓がますます早鐘を打つ。

 背後から。

 ぺた、ぺた、ぺた。

 湿っぽい足音。

 ぺた、ぺた、ぺた。

 思わず身体が硬直する。

 ぺたぺたぺたぺたぺた。

 近づいてくる、荒い息遣い。

 ぺた――それは真後ろで、停まっ




35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:41:42.62 ID:Z6pWhfO30

 わたしは即座に走り出した。

ξ; )ξ「――――!!」

 絶叫しかける口を、血生臭い手で塞ぐ。
 怖い。
 怖い。

 怖い、怖い、怖い。

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い!

ξ; )ξ「!!」

 暗闇で何か柔らかいものを踏みつけた。
 ずるり、足が滑る。
 しかし、手すりにしがみつき態勢を立て直す。

 明かりの下まで!
 早く明るいところに!

 後ろの「ぺたぺた」が加速する。




36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:42:40.94 ID:Z6pWhfO30

 暗くて距離が分からない。
 まだ半分か、それ以下か。
 せめて病室の札さえ読めれば。

ξ; )ξ「あ、う」

 言葉にならない。
 声が単語にすらならない。

 ぺたっぺたっぺたっぺたっ。

 背で聴く歩調が、大きい。

ξ; )ξ「〜〜〜〜〜!!」

 ようやく電灯の下へ。

 最後の一歩で急激に身体を反転させた。

 そして、手にしたバットを遠心力で振り回す。

 木製の棒が「何か」を強く叩く。




39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:43:44.85 ID:Z6pWhfO30

 壁にぶつかる「何か」の肌は、てらてらと光を反射していた。
 しかし、考えるよりも早く引き戻したバットを頭上に掲げる。
 そして、振り下ろした。

ξ; )ξ「うあっ!」

 手応えは一瞬だけ柔らかく、すぐに硬くなる。
 粘膜に覆われたような肌にめり込むバットの先端。

「ぐげえええ! うぐええええ!」

 やるなら徹底的に。

 戻し、振り下ろす。
 上げて、叩きつける。
 両手で、全身で、繰り返しそれを行う。

ξ; )ξ「あっ! ああっ! ああああっ!!」

 十回。
 二十回。
 それ以上か。

 迫っていた怪物が完全に停止した。
 わたしはその場にへたり込む。




41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:44:57.03 ID:Z6pWhfO30

ξ;;)ξ「あああああっ……何よ! 何よ! 何よぉぉおおお……」

 強くバットを握り締めた指が固まってしまっている。
 それに気付いたのは顔を覆おうとした時だ。
 不機嫌に点滅する電灯が、スポットライトみたいだ、と頭の隅で思う。

 嗚咽を漏らし、しばしわたしは動けずにいた。
 五分ほどしてだろうか。
 ようやく周囲を見る余裕ができる。

 倒れた怪物の身体はいびつな造りをしていた。
 わたしの胸元くらいの高さまで、逞しい脚で構成されている。
 そして、それが支えていたのは、大人がまるまる入りそうな球体。

 胴体と思われるその部分は、頭部でもあったらしい。
 口が地球の赤道のように、ぽつぽつと一列に並んでいる。
 眼球や鼻、耳は見当たらない。

 しかし、小さな穴がびっしりと表面に点在していた。
 知覚器だろうか。
 いや、気にすることはない。

ξ )ξ「はあ、はあ、はあ、はあ。いか、なくちゃ」




44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:46:20.98 ID:Z6pWhfO30

 次の電灯はちょうど、どん詰まりを照らしている。
 遠くに見える、目的の病室前が明るい。
 そこまでの視界が遮られないことから、ひとまずの安堵を得る。

 かなりの距離を歩いた。

ξ )ξ「ここね」

 昂ぶった神経ではライトがやたら眩しく感じる。
 交感神経優位の状態では、光の感受性が上がるのだ。
 見開いた目で、ドアのナンバーを見る。

ξ )ξ「はは、なによ、49032号室? どこでも良いわ。どん詰まりなんでしょ」

 内開きのそれを、ぞんざいに開けた。
 広がる暗闇。
 踏み出しかけた足が宙で止まる。

 床がそこにはなかった。

ξ )ξ「あはははははは。どん底ね! どん底だわ! どん底! 確かにね!」




45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:47:19.93 ID:Z6pWhfO30

 室内かと思われた方向から、声の反響はない。
 力無く視線を虚空に向けた。

ξ )ξ「なによ、ここじゃないわけ? ……ん?」

 宙に浮いた白く、光を反射する小さなもの。
 手を伸ばし、指先で触れる。
 固い手触り。

 それはどこか遥か上空から、細い糸に吊られた鍵だった。
 タグはないが、恐らくベラを助けるのに役立つ「おたから」。
 引っ張ると簡単に糸が切れた。

ξ )ξ「早く戻ろう」

 帰り道、脚付き大玉の死体を努めて見ないようにした。
 背後からは何も聞こえてこなかった。
 それでも足早に廊下を移動したのは、無理からぬことだろう。

 何事もなく特別病室前までたどり着けた。




47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:48:57.46 ID:Z6pWhfO30

ξ゚゚)ξ「ベラ、戻ったわ!」

 べたつく手を汚れたデニムにこすり付けてから、ドアノブに向き合う。
 手先が震えている。
 それでも鍵はなんとか穴に収まり、開錠できた。

ξ゚゚)ξ「開けるわよ!」

 粘り気のある音と共に、分厚い扉が開く。

 果たして、開いたドアの向こうに、

ξ;゚゚)ξ「ベ、ラ?」

 生存者はいなかった。

 明るい房内に横たわった肉の塊と、壁に書かれた文字。
 中は赤いというより、もはや黒色に変色していた。

 肉の塊が一瞬、身体を跳ねさせた。
 そして、激しい痙攣をした後、再び沈黙する。




49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:50:00.77 ID:Z6pWhfO30

 酸化しきった血文字。

「Thank you very much. Take it.」

 矢印が引っ張られて、肉塊の手まで続いている。
 ナース服をまとった、しかし、無数に刺し傷を作られた女性の、死体の手まで。
 一瞬、目に入ったのはピンク色のウサギのシールを貼った名札。

[看護婦 イザベラ・クリアウォーター]

ξ゚゚)ξ「ベラ……」

 今度は目を逸らさなかった。
 彼女の傍らに赤い紙切れが落ちていたのを見つけたからだ。
 踏み入って、抵抗なく紙を拾う。

 さらに、ベラからタグ付きの鍵を受け取る。
 もちろん彼女は動かない。
 ただ、そんな気持ちになっただけ。

ξ゚゚)ξ「……」




50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:51:16.25 ID:Z6pWhfO30

 慣れている自分が少し嫌になる。
 平常時なら取り乱す事態だ。

 生きていたから助けを呼んだはず。
 だけど、戻ってみれば既に何時間も前に#されていた痕跡。

 誰が、どうして、どうやって。

 それを考えるだけ無駄かもしれない、と感じてしまっている。

ξ゚゚)ξ「モララー」

 彼の言葉がよみがえる。

――慣れたら「またか」くらいにしか思わない。

 彼は、無事だろうか。
 病院にきた目的は院長と会って#すことだった。
 だが、それよりも彼の安否が気にかかる。




52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:52:53.85 ID:Z6pWhfO30

ξ゚゚)ξ「まずは、探さなくちゃ」

 探す?
 どっちを?
 それを考えるのも無駄か。

 先に会えた人物に対して、臨機応変に向き合おう。
 何をするかは後で良い。
 馬鹿げた世界で予測をしても仕方が無い。

ξ゚゚)ξ「『階段』の鍵か」

 わたしが持っているのは正面玄関と裏口の鍵のみ。
 手に入れた鍵が何の意味を持つかは知らない。
 しかし、閉ざされていた以上、何かがあるのだろう。

 赤い紙切れも読む。

[こわいおんなは下の階。ざっくりすっぱり切りたがる。
 ベラはやさしいお姉さん。きげんをそこねて##された。
 だけどベラはカギかくす。だいじなトコへは行かれない。
 こわいおんなはだいげきど! 手下を使ってだいそうさ!]




53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:55:19.23 ID:Z6pWhfO30

ξ゚゚)ξ「下の階に、『こわいおんな』。大事なトコ……」

 もう一度、頭に病院の俯瞰図――左右反転したL字――を描く。
 現在地の縦線部分には、手術室、倉庫、エレベーターと階段が集まっている。
 横線にも乗降設備はあるが、二箇所には違いがある。

 こちらに近い階段だけが、屋上から地下まで繋ぐのだ。
 エレベーターは地下から、ここ、三階まで。
 この鍵限定の大事なトコとは、それで行ける屋上か地下だと推察できる。

ξ゚゚)ξ「でも屋上は何も無いし、地下なんか、あら?」

 ……いや、あった。
 職員が立ち入りを禁止されていたデッドスペース。
 火葬場、死体安置所、忌まわしき薬品庫に並ぶ、謎の部屋。

ξ゚゚)ξ「そこに何かがある?」

 わたしは立ち上がり、ベラの房を閉じる。
 そして、踵を返した。




54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:56:30.05 ID:Z6pWhfO30

 特別病室から出て、ロッカー室の前を通過、右折。
 すぐそばにある階段へと続くドアを――やはり閉ざされていた――開錠し、そこを通る。
 踊り場の電灯は生きていた。

 階段を静かに下りながら、頭の中を整理する。
 わたしがそこを目指す理由についてだ。

 探している人物はどちらも場所が分からない、から。
 留まっていても事態は好転しない、から。
 そして、もっとも大きな位置を占めるのが、

ξ゚゚)ξ「あの子が呼んでる気がする」

 胸に湧いてきたそれは、半ば、義務感。
 むしろ、自発的な使命感か。

 去来するのは少女の声。
 逃げて、という呟き。
 ママ、という呟き。

 それが引っ掛かって離れない。




57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:57:51.10 ID:Z6pWhfO30

 一度折り返し、下ると二階の踊り場に出た。
 さらに下る。

ξ )ξ「なんであんなに悲しそうな声をするの?」

 ママ。

ξ ;)ξ「なんで寂しそうにわたしをそう呼ぶの?」

 ママ。

ξ;;)ξ「ブーンとの子だっていう自信が無くて、父親に確信がなくって」

 お腹の子を堕胎しているのに。
 ずっとできなくて、やっと身篭った子を#しているのに。
 どうしてわたしをそんな風に呼ぶの?

 何故「逃げて」じゃなくて「助けて欲しい」って言えないの?

 突如、壁がめりめりと音を立てて様相を変え始める。

 あらゆる物の輪郭がぼけて、赤っぽい金属様のものに変質していく。
 表面には、赤や黒、緑などの汚らしい錆び。
 壁、床、天井、全てがそれに覆われていく。




59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 21:59:16.49 ID:Z6pWhfO30

 ただれるようにそれらは上から下へと侵食を続けていく。
 流れるように、涙のように、上から、下へ。

 めりめり、めりめり、と。

 床、そして天井も、いつの間にか金網になっていた。
 足は止めず、怪奇の中を下っていく。

 めりめり、めりめり、と。

 コツコツという足音が、軽いものに変わる。
 かしゃん、かしゃん、といった具合だ。

ξ )ξ「……」

 電灯らしきものは消えうせたが、視界はそれなりに明るい。
 なので、周囲の様子がよく分かった。
 一階踊り場を目前にして起きた変調は、ついにわたしの足を止める。

 階段を塞いでいる人型の死肉群。
 十を超えるそれらは黒のボンテージに束縛され、床から数cm上に浮いている。
 金網から生えた数百もの細い針に、空中で直立させられていた。

 その隙間から一階に通じるドアが見える。




63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 22:00:37.63 ID:Z6pWhfO30

 向こう側からなら地下へと降りられるだろう。
 いつの間にか、めりめり、という音が止まっている。

 ……この障害が差す意味は十分に伝わった。

ξ゚゚)ξ「二階を中継してから、『こわいおんな』達に挨拶してから、通れってことね」

 身近な死体の足元に自分のバッグを認める。
 立てかけられた鉄パイプと、懐中電灯。
 そして、赤い紙。

[あのやなヤツがジャマをした。むかつくあいつ、びょういんちょう。
 ワルもおおワル、ちょうおおワル。いそげやいそげ、あぶないぞ。
 終わってしぬにはちょっぴり早い。走れや走れ、走るんだ]

ξ゚゚)ξ「なにが終わるのかは書いてくれないのね」

 紙をバッグに入れて、素早く荷物を整理する。
 袋を開けてビスケットを噛み砕き、水で飲み込む。
 随分と空腹であったことにようやく気付いた。

 そういえば、吐き戻していたんだっけ。




66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 22:02:12.32 ID:Z6pWhfO30

 バットはそこに捨ておいて、鉄パイプに持ち替える。
 医療用メスは懐にしまったままだ。
 肩掛け鞄の中に、持ち込みの凶器、回転式拳銃を確認。

ξ゚゚)ξ「これで三人目に#すのは……」

 答えは出ない。

 頭を振って鞄を取り上げてから、階段を上り始める。
 目指すドアはすぐそこだ。
 錆び付いた蝶番を軋ませて、二階に出る。

 床の金網を覗きこんでも階下は暗闇で、天井も同じく「天井知らず」に暗い。
 上下の空間が各階で切り離されているようだ。
 それでも、二次元的な内部構造が変わっていないことを期待する。

 側にある扉をくぐれば、三階と同じように病室側へ行ける。

 はずだった。




69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 22:04:26.81 ID:Z6pWhfO30

ξ゚゚)ξ「……まっすぐ行かせてくれないか」

 直接そちらに通じる扉は完全に封鎖されていた。
 有刺鉄線と鎖が強固に絡まりあっており、断ち切れるレベルを超えていた。
 それらは一括して頑丈そうな小箱に留められている。

 その変則錠前の上部には、何かを差し込むような細長い口。

ξ゚゚)ξ「また赤い紙」

 箱に張られた紙の黒文字は、今回は簡潔だった。

ξ゚゚)ξ「『さんかくがカギを持ってる』。さんかく。三角?」

 裏返しても、それ以上は何も書いていない。
 三角とはなんだろう?
 この病院にまつわる三角?

ξ゚゚)ξ「何のことかしら……」

 立ち止まって考える。


 その時、背後で金網が小さく軋んだ。




70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 22:05:35.09 ID:Z6pWhfO30

ξ;゚゚)ξ「!」

 パイプを構えて音から離れるように壁際へと退避。
 振り向いた先には、

(メメ・∀・)「……生きてたか」

 疲弊しきった様子のモララーがそこにいた。

 傷だらけで、汚れていたシャツがさらに返り血を浴びている。
 黒いスラックスとともに多くの切り傷を付けられていた。
 手には拳銃、しかし、背にナップサックはない。

ξ;゚゚)ξ「モララー! 良かった!」

 自分が素直に彼の無事を喜んでいるのに驚く。
 駆け寄り、あまつさえ鞄から応急キットさえ取り出した。

ξ;゚゚)ξ「わたし、気付いたらどこかに運ばれていて、それで――」

 硬直。




71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 22:06:34.30 ID:Z6pWhfO30



 目の前の男は、わたしに銃口を向けていた。






74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 22:07:41.96 ID:Z6pWhfO30

(メメ・∀・)「質問に答えろ」

 疲れた表情の中、眼だけが強い意志を宿している。

(メメ・∀・)「二年前、お前は何をしていた」

 嘘は、つけないようだった。

ξ゚゚)ξ「……この病院で看護婦を」

(メメ・∀・)「担当」

ξ )ξ「小児の入院患者」

 わたしは、ぐ、と下唇を噛む。

 この男は、知ってしまった。

(メメ・∀・)「じゃあ覚えがあるよな。俺の息子の名前によ。マタンキだよ、マタンキ」

 やや間を空けて、首肯。




75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 22:08:54.40 ID:Z6pWhfO30

(メメ・∀・)「じゃあよ、教えてくれ。何でうちのガキは死んだ?」

 鞄の拳銃を取り出す隙はない。
 それに、あちらは自動小銃。
 引き金を引けばすぐに弾が出る。

 確か、回転式拳銃はグリップの上にあるコックを起こす必要がある。
 普段扱わないそれを、素早く抜き、狙いを定め、撃つ。
 不可能だ。

(メメ・∀・)「答えろ」

 彼の瞳に怒りがにじむ。

(メメ・∀・)「言えって」

 歯がカタカタと鳴る。
 拳銃に対する恐怖は当然ある。
 でも、それだけじゃない。

 わたしの罪を、吐露させられるのが、たまらなく怖かった。




78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 22:10:00.11 ID:Z6pWhfO30

 聴きたくない。
 その言葉は聴きたくない。

 #した、#す、#せ。

 嫌だ、嫌なんだ、その言葉は……。

 モララーは、しかし、口にする。

(メ#・∀・)「てめえが殺したんだろうがッ!!」

 モララーが声を張り上げた。
 金網を荒々しく踏みつける。

(メ#・∀・)「俺のガキを、この病院で殺したんだろうが! 答えろよツン!!
      殺したんだろう! 人殺しが! クズだ、お前はクズだ!!」

ξ )ξ「……」

 モララーが大きく息を吸った。




79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 22:11:08.14 ID:Z6pWhfO30

(メ#・∀・)「認めろ! お前の罪を認めろ!」

 わたしは何も言えない。

(メ#・∀・)「カルテを見つけた! 馬鹿な付箋が一枚貼ってあった!」

 思い出す、その付箋の内容。
 だが、それはカルテごと、とうの昔に処分したはずだった。

(メ#・∀・)「『ツンさんへ。マタンキ君の保護者の支払い能力に不安。よって、手術前の処置を”うっかり間違えないように”』
      手術前の処置をうっかり? 金が無いから殺せって意味だろ!? 金なら用意できたのに!!」

 さらにまくし立てるモララーは、果たして、矛盾に気付いているのだろうか。
 ひとつだけ、彼は忘れている。

ξ )ξ「待って、モララー」

(メ#・∀・)「あ!? ようやく認める気になったか!?」

 わたしは、ぶるぶると震えていた身体をなんとか抑える。




81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 22:12:37.79 ID:Z6pWhfO30

ξ )ξ「……ひとつだけ聞かせて。あなたは言ったわね。
       心臓の手術をして、術後、急に亡くなったって」

(メ#・∀・)「それがなんだ! 質問してるのは俺だぞ!」

 見れば、彼は怒りのあまり銃を下ろしていた。
 握り締められた拳が白くなっているのが見える。
 力を込めすぎているようだ。

ξ )ξ「さっき、あなたはなんて言った?」

(メ#・∀・)「は! 何度でも言ってやる! 手術前の処置を――」

ξ )ξ「なのに、何故、あなたは術後に亡くなったって記憶しているの?」

 モララーが意表を突かれた表情になる。

ξ )ξ「あなた、マタンキ君の側にいなかったのよ」

(メメ・∀・)「……なんだと?」

ξ )ξ「お見舞いに行った?」

(メ#・∀・)「当たり前だ!」




82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 22:14:10.69 ID:Z6pWhfO30

ξ )ξ「マタンキ君が亡くなる前、あなたはどこにいたか覚えている?」

(メメ・∀・)「俺はもちろん会社で――」

 畳み掛けるように問う。

ξ )ξ「会社名は? 場所は? 給与は?」

 沈黙。

(メ;・∀・)「お、俺は……。俺は会社で……、会社? 会社の場所、場所、あれ?」

ξ )ξ「マタンキ君のお見舞いに来たのは、彼のおじいさんだけ。
       あなたはわたしと面識がなかった。でしょう?」

 嘘ではない。

 初めに彼から息子の名前を聞いた時からあった違和感。
 わたしはマタンキの担当を受け持っていた。
 普通、看護婦の方が担当患者の親族を忘れていても、その逆はない。

 少なくとも、自己紹介の時に名前を聞いて、思い出してもいいはずだ。




86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 22:15:23.02 ID:Z6pWhfO30

 なのに彼は、さも自分が「手術後まで見ていたかのように」語る。

 そして、今、手術前にわたしが#した、と言う。

ξ )ξ「あなたも罪人よ」

(メ;・∀・)「そんな、いや、俺は、しがない会社員で」

ξ )ξ「無職の男性、押し入り強盗で一名射#」

 銃を慣れた手つきで扱うモララー。
 正確に怪物を撃ち、退けた男。

ξ )ξ「動機は」

(メ; ∀ )「ど、動機は……?」

ξ )ξ「覚えてる?」

 わたしは卑怯だ。
 自分が罪を認める前に、彼を責めている。
 彼が息子のためにしたことを、責めている。




88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 22:16:42.05 ID:Z6pWhfO30

 モララーが膝から金網の床に崩れる。
 取り落とされた拳銃が少しだけ跳ねた。
 さらに、眼元から雫も落とされる。

 思い出して、しまったらしい。

(メメ;∀;)「マタンキの、あいつの手術費用を手に入れたかった」

ξ )ξ「そして、手術前にあなたは捕まった。その後のことは、わたしは知らないわ」

(メメ;∀;)「そうだ、俺が、俺が原因でマタンキの手術は遅れた。焦って、でも、職もなくて。
      家に強盗に入ったんだ。女がいて、抵抗した。俺はその人を……」

 逮捕後、どういう経緯で彼がここにいるのかは語られない。
 懲役を終えるのに、少なくとも二年では足りないだろう。
 まともな服を着て、健康そうな体つきで、どうやってサイレントヒルに来られたか、彼も覚えていないようだった。

(メメ;∀;)「分からない。なんだ? なんで俺はここに」

ξ )ξ「わたしもよ。わたしも、そう。人を#……#……ころ、した、わ」




89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 22:17:55.31 ID:Z6pWhfO30

 昔の話だ。

 風の強い日、屋上でシーツを取り込んでいた。
 設置されたフェンスの近くに男の子を見つけた。
 病室で寝ているはずのマタンキだった。

――僕のお父さん、人を殺したの?

 わたしはその時、眼を逸らしてしまった。
 彼は自らの家庭が決して裕福でないことを知っていた。
 何故、モララーが犯罪に手を染めたのかも理解していたようだった。

――僕のせいかな……。入院なんかするから。

 この国では保険に加入していない場合、莫大な医療費がかかる。
 社会的弱者は、保険料すら払えない。
 彼の父親、モララーもその一人だった。

――ねえ、ここって、落ちたら死ねるかな。

 そして、フェンスをよじ登る音。
 わたしはシーツを放って駆け出した。
 でも、手を伸ばした時、彼はもうフェンスの頂上をまたいでいた。




91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 22:19:20.35 ID:Z6pWhfO30

――あっ。

 一陣の突風。
 わたしの掌に確かな「押した」感触。

 それらは同時。

 叫んだ。
 フェンスを掴んだ。
 その向こうを落ちていく、少年。

 あっけに取られたような表情が落下していった。

 わたしが押した?
 押して、落とした?
 殺して、しまった、のか?

 人が地面に衝突する音は、案外、鈍いものだった。


ξ;;)ξ「そうやって、マタンキ君を突き落としてしまった。
       わたしはお腹にいた赤ちゃんも殺した。子供の命を二つも奪った」




93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 22:20:36.98 ID:Z6pWhfO30

 事故として片付けられ、ゆすられるネタにされた罪を、認める。
 胸が張り裂けそうだ。
 認めて、赦されるわけがない。

 懺悔、告白、言い訳。

 どれも等しく、赦される理由にはならない。

ξ;;)ξ「そうよ。あなたの言うとおり、わたしはクズだわ。マタンキ君を殺したもの」

 モララーと向かい合うように、わたしも座り込む。
 金網が軋んだ。

 赦されたい。
 怖い。
 誰かに後ろ指を差されているのではないか。

 後ろめたい気持ちを消して欲しい。
 罰を与えて欲しい。
 誰か、誰かに助けて欲しい。

(メメ;∀;)「いや、俺は、俺がマタンキを殺したのか? 追い詰めたのは、俺か?」

 向き合って、泣く。
 わたし達は互いに、確実に一人を殺し、もう一人を間接的に殺した。
 この最悪を、誰か、誰か――。




95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 22:21:44.25 ID:Z6pWhfO30

 割り込む、何かの気配。


 ぎゃりりりり。


 金属同士の擦れあう音。


 ずん。


 そして、重々しい足音。


ξ;;)ξ「え?」

(メメ;∀;)「なっ、なんだ?」




102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 22:23:49.02 ID:Z6pWhfO30

 それらはエレベーター方面から聞こえてきた。
 ゆっくりとした、連続した、はっきりとした音。
 ワンセットの間隔は、長い。


 ぎゃりりりり。

 ずん。


ξ ;)ξ「何の音……」


 ぎゃりりりり。

 ずん。


(メメ ∀ )「……おい、なんだ、あれ」


 やがて、エレベーターホールの角からそれが姿を現す。




107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 22:26:06.24 ID:Z6pWhfO30

 ぎゃりりりり。

 身の丈ほども長い、肉厚の刃物が床を擦る。

 ずん。

 ぼろきれを纏った身体がそれを引きずり、歩く。

 一歩踏み出して、異常に大きな包丁、ナイフ、あるいは鉈を引く。
 一見まともな人間の容貌であるのに、遅々とした歩み

 それが、わたしの背筋を凍らせた。
 モララーも全身を強張らせている。

 赤く錆びた金網の上を歩く「人の形をした何か」は、特徴的な兜を被っていた。
 赤黒く、ひどく重そうで、そして大きな金属の被り物。
 天辺に頂点を持ち、底辺の部分が肩、胸までをすっぽりと覆っている。

 ああ、そうか、これが。
 確かにそう見える。
 それにしても、非現実的な存在だ。




109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/04/26(日) 22:28:11.34 ID:Z6pWhfO30

 [三角が鍵を持ってる]


 ぎゃりりりりりりりり、と大鉈が、三角の被り物の上に、振りかぶられた。


【Save】




5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:07:53.07 ID:XBq7Oq7D0

前回のあらすじ

 ξ゚゚)ξが舞い戻ったサイレントヒルは霧と怪物と絶望の町に変貌していた。

 彼女は同行者( ・∀・)とその中を進み、目的地、ブルックヘイブン病院へと到着する。
 玄関をくぐった途端、ξ゚゚)ξは気を失う。
 目覚めた時、彼女は一人、小さな病室に寝かされていた。

 発見した謎の赤い紙に従い、地下を目指すξ゚゚)ξ。
 途中、病院内部の構造が変化し、悪夢のような鉄と錆びと血の世界へと没入した。

 そこで再会した( ・∀・)はξ゚゚)ξに拳銃を向け、言う。
 お前は息子を殺した、と。

 ξ゚゚)ξはそれを肯定しながらも、真実を伝える。
 ( ・∀・)も、とある事情から人を殺していたということを。
 二人が過去の罪を自覚、吐露しあい、後悔している時だった。

 三角形の不可思議な兜、大鉈を身に着けた人型の「何か」が彼らを襲った。


始まります。




6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:08:45.46 ID:XBq7Oq7D0



 モララーが拾得した資料。また、目に付いた情報。






7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:10:26.12 ID:XBq7Oq7D0

【入院患者の情報 小児 1】 小児担当 ツン・デレ
 ファミリーネーム順
 A

キミー・アルバート(13歳・女)
 小児筋ジストロフィー。素直な子です。精神状態は安定していますが、若干の妄想癖があります。
時々「天使」や「楽園」という単語を発しますが、看護に支障はありません。
症状がまだ軽度なので、運動の継続を推奨します。進行に伴う精神面のケアを検討する必要があります。


 B

マタンキ・ブラック(9歳・男) [付箋]

 (※)病。元気な男の子で少々騒ぎす(※)。
いろいろなところに入り込むので、ナース各位注意してください。(※)へも何度か出ています。
食べ物の好き嫌いはあり(※)院食はあまり食べません。よく見舞い客におじいさんが参られます。

(※の部分は涙でインクが滲んでしまっている)




8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:11:31.10 ID:XBq7Oq7D0

【入院患者の情報 小児 2】

 G

アレ##・ギ#スピー

 (以下、資料が激しく歪んで読めない)


〜〜〜〜・〜〜〜〜〜

 〜〜〜〜〜〜〜。〜〜〜〜〜〜〜〜。〜〜〜〜、〜〜〜〜〜。
〜〜〜〜〜、〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜、〜〜〜。

 以上、現四名。




9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:12:20.33 ID:XBq7Oq7D0

【入院患者の情報 要注意者】

トーマス・ゴードン(68歳・男)

 軽度の痴呆症。入院の切欠は肺気胸。基本的に穏やかで協力的。徘徊行為の頻度も低く、扱いやすい患者。
しかし、重度の痴呆症患者であった妻を自らが殺害したと錯覚している。
妄執による虚言が端々に確認でき、中には本当に妻を殺めたのではないかと思わせる発言がある。
精神退行が始まっており、度々行動が不可解になる。錯乱時、暴力行為に注意すること。

(書き込み)少女の人形を取り上げてはいけない。彼はそれに亡くなった奥さんの名前をつけている。


ジョシュア・サウスフィールド(28歳・男)

 自殺志願者。被害妄想を強く持ち、他者を寄せ付けない。また、死によって至高の存在へと昇華されることを期待している。
病院食をようやく摂るようになった。しかし、金属の食器を使用させるのは努めて避けること。
夜間、自傷行為に走ることが多く、特別病室に移動させるべき。要、拘束衣。

(書き込み)信者らしいので、丁重に扱うこと。ボールギャグを発注すること。




10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:13:07.82 ID:XBq7Oq7D0

【一階トイレの壁にあった落書き】

 らーすーめんかるらーすーめんかる たすけるためにくるたぼく

 は ぜたいにせいぎだから くるってないのはくるってないから

 ふつうだふつうだふつうだ ぼくがきゅうせいしゅのともだちだ

 いんちょさんはともだちだてきばかりのせかいでなかまだからだ

 それはほんとのことで しんようしてくれないてきをころしてく

 れるっていうから ぼくたちはともだちのなかまなんだぜったい




11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:13:49.73 ID:XBq7Oq7D0

【一階手術室にあった日記】

 十一月九日

 昨日からの雨が降り続いている。寒くて嫌な感じだ。手術も近いって言うのに。
 大体重要なことがあるときはいっつも雨な気がする。
 看護婦さんが差し入れをくれた。ペイルヴィル地区にある有名なお菓子屋のブラウニー。
 でも、食べられないので手術後にとっておく。


 十一月十日

 今日はようやく晴れた。窓の外が明るい。天使が降りてくる日はこんな感じなのかも。
 手術も終わったみたい。明日からちょっとずつ動き出せるかな。
 早めに寝よう。




12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:14:53.40 ID:XBq7Oq7D0

【日記 続き】

 十一月十一日

 今日も晴れだ。散歩に屋上まで行ったら雨が降っていた。いい天気でよかった。
 風が気持ちよかった。戻ったら看護婦さんに怒られた。服が濡れた。


 十一月十五日

 昨日に引き続いて晴れ。てんしが呼んでた。めがみさまは? ってたずねたら、
 雨がたいようをジャマしてわたしの服がびしょびしょでブラウニーを食べた。




14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:15:34.93 ID:XBq7Oq7D0

【日記 続き】

 十二月四十日

 看護婦さんのくれたぶらうにーがおいしかったのできょうも天使だ。
 昨日からしあわせだ 明日もしわわせかぬしないら 


 はれ。

 ぬいあいっしいあがみえあでふあだ。とっても幸せ

 むあねい、だよ おわり


 にがか こえなるじあ(ここから日記は黒く塗りつぶされている)




16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:16:21.32 ID:XBq7Oq7D0

【Load】


 三角のかどっこ何を突く。


 悪人、罪人、咎人の、痛んだ心の隅の隅。




17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:17:02.24 ID:XBq7Oq7D0

 振り上げられた大鉈は、切っ先がぐらあり、と彷徨っていた。
 モララーが両手を後ろにつき、脚を怪人の方に投げ出している。
 空を仰ぐ時にするように、ひどく無防備に動きを止めている。

(メ;・∀・)「お、あ……え?」

 常人が扱うには重過ぎるであろう凶器は、怪人の腕力では右腕一本でこと足りるらしい。
 視界確保用の穴もついていない被り物がゆるやかに右、左と揺れる。
 わたし達のどちらを先に両断しようか、思案するように。

ξ;゚゚)ξ「ひ!」

 息ができない。
 全身から汗が噴出す。
 妙に冴え渡った脳髄が予感する。

 何を?
 無論、死を。

「む……。む……」

 呻きにも似ているこもった小さな声をわずかに聴く。
 次の瞬間、三角頭が動き出す。
 ゆっくりとしていて、小さく、確実に踏みしめる左足の一歩。

(メ; ∀ )「あっぅ、う、あ、ああ」




18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:17:48.53 ID:XBq7Oq7D0

 三角頭は左半身を前へ進めた。
 遅れて右腕が一旦後ろへと引かれる。
 振り下ろすための溜めが完了、そして、静止。

 「斬り殺すため」の予備動作が、十二分に完遂された。

 何故わたしはそれを傍観している。
 座り込んでいるのはどうして?

「む……」

 ここで、見上げている三角頭が、正確には四角錐の形をしていることに気付く。
 自分の膝や掌に、金網の形通りの跡がついていることに気付く。
 モララーの拳銃が三角頭の裸足の足元に近いことに気付く。

 そして、それらが全て現実逃避からの思考であると、気付く。

 全身に震えが走っている。
 歯がぶつかりあう。
 喉、喉が、喉が、からから、だ。




19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:19:04.52 ID:XBq7Oq7D0

 三角の被り物の動きをも停止させた。
 ぞっとする。

 その完全なる停止は一つの事柄を示唆していた。
 すなわち、斬り付ける対象の決定。

(メ;・∀・)「!」

ξ;゚゚)ξ「――――っ」

 ひどく緩慢だが滑らかな太刀筋が斜めに走りだす。
 標的は。
 より近くにいたモララーの、投げ出されていた両脚。

 閃光のようにイメージが湧く。

 両の膝から下が分断され、悲鳴を上げるモララー。
 金網から零れ落ちる多量の赤。
 生命の象徴、鮮血を流す彼の姿。

 まだ、まだ、それは想像でしかない。

 ぶうん。

 軌道上にあるのはモララーの右足、脛。

 わたしは全力で彼の衣服を掴んでいた。




20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:19:52.74 ID:XBq7Oq7D0

 間に合うか……?

 大振りの動作に似つかわしい、鈍い風切り音。

 モララーの服が金網に引っ掛かる。
 彼の服は血まみれで、錆びに覆われた床面との摩擦抵抗がひどく大きい。
 わたしは半ば立ち上がりかけて、腕だけでなく全身で彼を引く。

 引け、引け、引け。

 もっと大きく早くあいつから離して逃がしてモララーが切られないように斬られないように
 きられないようにきられないようにきられないようにきられないようにきられないように

 強く引け!!

 ざぎん。

 終点となる金網が切断を受け、斬撃を食い止めた。

ξ;゚゚)ξ「モララー!」

 ほとんど悲鳴だった。
 裏返る声に、しかし、何も思わない。




21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:20:51.99 ID:XBq7Oq7D0



 間に合っ――


 モララーの靴、いや、その中まで


 二つに割られている?






22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:21:40.99 ID:XBq7Oq7D0

 真実、刃物が金網を斬る前にワンクッションがあった。
 人体の緩衝材があった。

 骨を切断した、ごりり、という音が刹那挟まれていた。

 足の指の間に刃が入り、左右に裂くように踵までを斬り進む。
 その映像が脳裏に浮かんだ。

(メメ;∀;)「っがああああああああうあっ!! うあああっうあああああ!!」

 モララーの身体が大きく跳ねる。
 激痛、そう、激痛としかわたしには判断できない。
 痛覚が彼の脳を支配しているのだろう。

 暴れる彼の拳がわたしの脚を殴打する。
 がくがくと揺れる頭が、わたしの顔面に激突する。

ξ;;)ξ「うっ……あああっ、う、あああっああああああ!!」

 それでもわたしは壁際までモララーを逃がさねばならない。
 振り下ろされた大鉈が、めりこんだ金網から既に外されていた。
 柄を両手に持たれて三角頭の肩に乗っている。

 その場に留まれば機動力の削がれたモララーは確実に……。




23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:22:37.94 ID:XBq7Oq7D0

ξ;;)ξ「うっ」

 中腰になって服を掴んでいたわたしの尻が壁に当たる。

(メメ;∀;)「あしっ、あしがっ、あしがどうなってる俺の脚は? あし! あしいいいいいい!!」

 肩を放すとモララーは右足をかばうように丸まった。
 二股に分かれた足を、指先で触っては痛みに手を引っ込めている。

 視界の下方には、絶叫し身をよじる男。
 その向こうには、ぼんやりと立ち尽くす赤黒い三角頭。
 何からも眼を逸らしたくなっていた。

 距離は6mほど。
 大鉈の届く範囲ではない。
 しかし、ドアからも同様に遠く離れてしまった。

 万事休すどころではない。
 夫が教えてくれた日本の熟語、絶体絶命。
 完全に絶対に絶命を約束された状態。

「む……。む……?」




25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:23:26.38 ID:XBq7Oq7D0

 右肩に大鉈の担いだ三角頭は、左手で被り物の位置を調節する。

 外れてしまったか。まあ、いいか。

 そんな声が聞こえてきそうだ。

 一撃の下に死を与えるに易い刃。
 二撃目をわたしは、どう交わせばいい。

(メメ;∀;)「いてえ! いてええ! あしっ! あしがああっ、あし! くっそおおお!!」

 戦いに慣れた彼は、足が立たない。
 動き回れるわたしは、戦う道具――取り落とした鉄パイプは今、三角頭の足元だ――を持たない。
 考えろ考えろ考えろ。

 そうだ、一つだけ、持っていた。

 斜めにかけていた鞄を前に回し、中に手を突っ込んだ。
 すぐに求めていたそれが見付かる。
 ひんやりとした短い銃身、対照的な手触りの木製グリップ、ずっしりとした重み。

ξ;;)ξ「ハア――、ハア――、ハア――、ハア――、ハア――」

 わたしは両手で回転式拳銃を構える。
 すぐさま、たどたどしい手付きで撃鉄を起こした。




26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:24:25.86 ID:XBq7Oq7D0

 思考は三種類浮かんだ。

 ひとつ、三角頭を撃って絶命させる。
 ひとつ、撃って、怯ませた隙に横をすり抜け逃げる。
 ひとつ、苦しんでいる男を銃弾で救う。

 ……救うだって?
 いや、まさか、なんという考えだ。
 罪人のわたしがもう一人の罪人を、死をもって救済しようだなんて。

 ずん。

 三角頭が大鉈を肩に掛けたまま一歩踏み出した。

 プランはそれぞれに問題を抱えている。

 初めて人――アレが人であるとして――を撃つわたしが、ヤツを殺せるか?
 怯ませた隙に、とは、モララーを引きずっていけるほどの隙か?
 どちらもリスクは等号で結ばれる。

 ずん。




27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:25:16.74 ID:XBq7Oq7D0

 この歩幅なら、あと十歩強で鉈の射程距離に入ってしまう。
 ぶるぶると震える腕が銃口を安定させない。
 どこを狙う。

 ずん。
 残り九歩。

 腕。
 大鉈を振るわせなければなんとかなるかもしれない。

 ずん。
 あと、八歩。

 脚か?
 足元が安定しなければ追いかけられない。
 ふんばりが利かなければ攻撃もゆるむかもしれない。

 ずん。
 残り七歩。

 自分の頭。
 ……何を、何を考えている。
 逃げるの意味が違う。




29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:26:30.85 ID:XBq7Oq7D0

 ずん。
 あと、六歩。

ξ;;)ξ「どっどこを、どこを狙ったらいいのよ!? どうしたらいいの!?」

 ずん。
 残り五歩。

 無慈悲にも三角頭は近づいてくる。
 赤く錆び付いた、元は黒かったのであろう被り物が近い。
 四角錐状の先端が近い。

 ずん。
 あと、四歩。

 自らの足元から聞こえていた絶叫が収まった。
 見下ろすとモララーが青ざめた顔をわたしに向けている。
 彼は何事かを呟く。

 ずん。
 残り三歩。

ξ;;)ξ「何!? なんて言ったの!?」

 今度は、モララーは強く叫んだ。

 動きを止めろ、と。




31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:27:35.29 ID:XBq7Oq7D0

 ずん。
 あと、二歩。

 三角頭はモララーの言葉を聴いても、なおその歩みを止めない。
 淀みない行動理念があるためか。
 それとも、ヒトらしい言語能力を持たないためか。

 ずん。
 最後に残された、一歩。

(メメ ∀;)「いいっ、かっ。……ま、ま、ま、間違っても頭を狙うな。せっ、めて胴だ。
      腰、腰辺りから、膝かっもっ……ううああああ! くそっ!! 腿を撃てよ!
      撃つときは息を止めろ!! 狙っえっ、よおお!」

ξ;;)ξ「膝、膝、膝、それか、胴。膝……」

 荒い息を一瞬止めて、永遠とも思える時間を待つ。

 ずん。
 三角頭が肩に置いた大鉈の柄に両手を合わせた。

 次の一歩はすぐに訪れる。
 ゆっくりとした前進の勢いをそのままに、鉈の薙ぐ動きが始まる。
 今度の軌道は、先ほどよりも角度を寝かせた斬撃。

 わたしは引き金を強く引き絞った。




32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:28:37.18 ID:XBq7Oq7D0

 手首が折れたかと思うほどの衝撃。
 銃口が跳ね、前腕ごと天井を向く。
 遅れて痺れが肩まで到達する。

 だが、銃弾は確実に三角頭の左膝を貫いていた。
 黒っぽい血液がどぷっと溢れ出す。
 そして、ヤツはよろめき、訝しがるように喉を鳴らす。

「む……む、ん……」

 大鉈が宙で停まる。
 その逆側を抜けようとするモララー。

(メメ ∀;)「続けろツン! 無駄撃ちはするな! 少しだけ耐えろ!」

 壁に手を付きながら片足立ちで三角頭の横を通ろうとするモララー。
 裂けた右足を上げ、ふらつきながらも着実に移動する。
 赤黒い被り物がゆっくりとそちらに、その先端を向け始めた。

ξ;;)ξ「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」

 明らかに過呼吸になりかけている。
 酸素を吸入しすぎて頭が真っ白になりそうだ。
 それでも。




34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:29:55.64 ID:XBq7Oq7D0

ξ;;)ξ「すぅっ」

 胸に息をため、コックを再び起こす。
 じん、とする手を努めて安定させる。
 今なら、動きを止めるだけなら、わたしにもできる気がした。

「む、ん」

 廊下の幅は3mほど。
 モララーが壁にもたれながら、三角頭から身を離して真横を通る。
 当の三角頭は、砕けた膝で彼を追うべきか逡巡しているようだった。

(メメ ∀;)「ツ、ツン、ツン! ツン! 狙えよ!」

 モララーに、血色の悪い腕が伸びる。

 わたしが瞬間的に引き金を引くと、今度は少しだけ銃口が跳ね、弾丸は放たれる。
 それは三角頭のもう片膝を穿ち、黒い花を咲かせた。

「……う。……む? む……」

 太いくぐもった声がにわかに苦痛を表した。
 次いで新たに撃ち抜かれた右膝をつき、ついに大鉈を手放す。

 呼吸を再開すると、途端に視界が白く染まった。




36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:31:59.69 ID:XBq7Oq7D0

 目の前から景色が消えそうだ。
 酸素が急激に巡って苦しい。
 だが、気を失ってなるものか。

ξ;;)ξ「モララー!! 急いで!!」

 少し耐えろ、とモララーは言った。
 それを信じるしかない。
 どれだけの少しかは言及しなかった。

 訊いてしまえば逆に耐えられない気がした。

 目前で三角頭がゆっくりと大鉈に手を伸ばす。
 不機嫌そうな声を漏らして、被り物の先端をこちらに向ける。
 わたしは即座に倒れたままの撃鉄へ親指をかけた。

ξ;;)ξ「くっ、あっ、わああああああああ!」

 何を言えばいいかわからず、焦ったまま射撃する。

 三歩も踏み込めば手の触れる位置で、弾丸を被り物に当ててしまった。
 がごん、と弾かれ、それっきり。
 与えられたダメージは皆無。

 大鉈の柄が握られた。




37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:32:53.18 ID:XBq7Oq7D0

 ひゅう、と喉が鳴る。
 もう全身の水分が抜けてしまったかのようだ。
 緊張を超えた緊張。

 ぎゃりりりり、と鉈の刃が金網の床を擦る。
 砕けた膝をかばうように、三角頭は武器を床に突いた。
 10cmほど刃先が刺さり、それを支えに立ち上がろうとする。

ξ;;)ξ「ハアッ! ハアッ! ハアッ! ハアッ! ハアッ!」

 何だこいつは。
 撃たれても痛みを感じないのか。
 どうして立ち上がる。

 何で攻撃しているわたしの方が痛いんだ。
 胸が内から斬り付けられるように痛い。
 真の恐怖はあらゆるものを傷つける――

「む、お」

 三角頭が完全に直立してしまった。

 ぐい、と柄を引いて、大鉈が抜かれる。
 そして、伸ばされる左の掌。




41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:38:19.47 ID:XBq7Oq7D0

「え?」

 マタンキ君がフェンスの向こうに落ちていく。
 わたしが押した柔らかい少年の身体が屋上の縁から下へ。

「え?」

 少年が静かに落下して、落下して

「え?」

 落下して、落下して

「もうすみますよ」

 産婦人科の医師がクスコをわたしの身体から引き抜かれる。
 わたしの、子供の、なりそこないがちらりと見える。

「もうすみましたよ」

 赤い小さな小さな肉とも、ただの血溜りともわからないもの。

「もう終わりましたよ」

 落下する少年と生すら受けなかった細胞。


ξ;;)ξ「やめえてええええ!! 見せないで! もういや! いやなのよおおお!!」




42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:39:22.69 ID:XBq7Oq7D0



 幻影を裂いて、銃声が二度、廊下に響いた。






43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:40:24.33 ID:XBq7Oq7D0

ξ;;)ξ「え?」

 状況把握までに時間を要した。

 大鉈が床に落ちていた。

 がっしゃん、と大きな音を立てて。

 わたしは何もしていない。

 遠くからひどく頼りない足音。

 大鉈の柄は握られたままだ。

 三角頭が呻く。

 緩慢な仕草のまま、落ちた大鉈へと被り物の先端を向ける。

 落ちてしまった「大鉈を握ったままの、自らの肘から先」を見つめている。

(メ# ∀ )「ツン! ちかっ、ちかっよって、腹を撃て! 殺せ! 殺せ!」

 三角頭の欠けた腕の向こうにモララーを見る。

 彼が壁についていない方の手には、拳銃。




44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:41:04.83 ID:XBq7Oq7D0

 戸惑うわたしは信じられない光景を目にする。

 三角頭が、落ちた自分の腕を拾い上げ、被り物の下へ差し入れた。
 咀嚼音。

 ぐち、みち、ぼりぼり。

 狂っているから食うのか。
 これがヤツの常なのか。
 薄汚れた肉を、黒い血液を、食らいすするのが平生の行為か。

 分けが分からない、分かりたくもない、意味を知る意味がない。

(メ# ∀;)「何してる、撃て! 殺せ! 殺せ!」

 殺せ!

ξ ;)ξ「……!!」

 殺せ!

 モララーの言葉は単調になる。
 ただ、一つの単語を連呼する。

 殺せ!

 三角頭の胴に銃口を押し当てていた。




46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:43:48.68 ID:XBq7Oq7D0

 撃鉄を起こして、撃つ。
 手首に甚大な負担を受けるのは、しかし、三度で終わる。
 わたしの持つ銃は装弾可能数が六発きり。

 既に残弾数が半分だった。
 最後の一発を境に、わたしは三角頭から身を引く。

ξ )ξ「ウソ、でしょ」

 だが、ヤツは死なない。
 三角頭は無頓着に自らの腕を食い散らかしている。
 モララーも呆然として歩みを止めていた。

(メメ ∀;)「こい、つ。人間じゃ、ない」

 徹底された意味不明な行動。
 完璧に理解できない。
 人外もいいところだ……。

 三角頭が次の行動に移った時、わたし達はますます困惑した。

 噛み千切った前腕を被り物から引き出し、残った左手で器用に血管を引きちぎる。
 血肉を掻き分けて三角頭が何かを探り当てたようだった。
 そして、勢いよく黒い血を散らしながら、それを引き抜いた。




47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:44:32.53 ID:XBq7Oq7D0

 それは赤黒い金属板。
 クレジットカードよりも少し大きく、分厚い札。
 短辺の片側には、いくつかの切り込み。

「む……」

 それを完了すると、三角頭は大鉈の中ほどを左腕で掴む。
 柄を金網に差し込むと、刃先を被り物の下に導き、

ξ )ξ「……え」

(メメ ∀ )「な、に?」

 身体を前のめりに倒すように。
 赤黒い四角錐の中に刺し込むように。
 体重を、地面に立てた大鉈に預けた。

 黒い血液が肉厚の刃を伝う。
 流れるそれとは対照的に、三角頭は動かなくなる。

 ヤツは「自殺」していた。




49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:45:53.64 ID:XBq7Oq7D0

 わたし達は何も喋らないし、喋れない。
 モララーの足から血液が流れ出ている。
 彼の顔はひどく青白い。

 そして、わたしもきっと、顔面蒼白なのだろう。

(メメ ∀ )「どうしてだ」

ξ )ξ「分からないわ。でも、でも、コイツは、死んだ」

 疑うべくもなく、確実に絶命している。
 何故、こうなったかを考えるだけ無駄だ。
 理解できる範疇を超えている。

 そして、わたし達が眺めている中、自害した怪人の身体がぐずぐずと崩れ出す。
 黒い体液と腐ったような肉が金網から下方の闇へと落ちていく。
 ぼろきれの衣服も、どろり、溶けて流れ落ちる。

 金網に突き立った大鉈と金属の被り物だけが残された。
 それが放つ恐怖も依然として残存している。

ξ )ξ「そうだ、モララー。早く処置しないと」

 それを紛らわすように、わたしはバッグから応急セットを取り出す。
 モララーへと近寄る際、地に落ちた四角錐からはかなり距離を置いた。




50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:46:50.18 ID:XBq7Oq7D0

 無言で彼の足を治療する。
 とはいっても、これだけの重症を絆創膏で治すのは無理だ。
 消毒、止血、保護くらいしかできない。

 オキシドールをふりかけ、足首を携帯用ソーイングセットの糸で縛った。
 モララーに噛ませたハンドタオルが、ぎり、と鳴る。
 白目をむきかけた彼は、しかし、耐える。

ξ゚゚)ξ「これは」

 ひどい状態だった。
 黄色い脂肪、赤い筋肉、白い骨、そしてさらに赤の骨髄。
 止血後、これらの層が明確に区別できるほどに切り口は鮮やかだった。

 刃が到達していたのは、足首の骨まで。
 不衛生な錆びだらけの世界で、手術もできない。
 わたしは正直な意見を言う。

ξ゚゚)ξ「……歩けなくなると思う」

(メ;・∀-)「予感はしてた」

ξ )ξ「ごめんなさい。わたしがもっと早くに助けていれば」




52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:47:57.40 ID:XBq7Oq7D0

(メ;・∀・)「謝るな。動けなかったのは俺だ」

 白い顔でモララーは言った。
 血の気が引いている。
 彼はひどく血を流しすぎていた。

 それよりも、と言葉が続く。

(メメ・∀・)「銃を向けた俺を、人殺しの俺を、赦すのか」

 脂汗を拭って、そう問うモララー。

(メメ・∀・)「お前を殺そうとした。罪人と罵った。なのに、あの馬鹿でかい刃物から逃がした。
      そして、今、こうして俺を治療しようとしている」

ξ゚゚)ξ「……」

(メメ・∀・)「答えろよ」

 声のトーンがわたしに銃口を向けた時のそれより柔らかい。
 純粋に彼が不思議がっているのが分かった。

ξ゚゚)ξ「……わたしが人を赦す資格はないわ。決して、赦しは与えられない」




53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:50:01.02 ID:XBq7Oq7D0

(メメ ∀ )「ッ、うっ、ん」

 モララーの意識が目に見えて途絶えかけた。
 瞳がぎろぎろ、と鈍く上下左右に揺れている。

ξ゚゚)ξ「危ないわ……」

 それが収まるのを待つと、同じ問いがわたしにかけられる。

(メメ・∀・)「どうしてこ、こうして俺を助ける」

ξ゚゚)ξ「あなたが助けてくれたから、そのお礼よ」

 言葉を切って、息を呑む。

ξ゚゚)ξ「それこそ、あなたがわたしを助けた理由が訊きたい」

(メメ・∀・)「あのまま逃げたのかもしれないぞ」

 モララーは自らの疑問を晴らすことに執着していた。
 埒が明かない。
 こんなことをしている間にも彼は死に向かっている。

ξ゚゚)ξ「……じゃあ、なんとなくよ」




54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:50:56.72 ID:XBq7Oq7D0

(メメ・∀・)「『なんとなく』か。そうか。……いい言葉だな」

 わたしはやや間を空けて、所見を述べる。

ξ゚゚)ξ「出血がひどいわ。先に行って輸血用血液を持ってくる。待ってて」

 血液のパックは地下の保管庫にある。
 急がなければ。
 さっき三角頭が置いた札はおそらく、そこへ行くのに役立つ鍵。

 立ち上がりかけて、しかし、腕を掴まれた。

(メメ・∀・)「俺も行く。先を急ごう」

ξ;゚゚)ξ「だっ、だって」

 さらに言葉が遮られた。

(メメ・∀・)「さっきからマタンキの声が聞こえるんだ。逃げろって言ってる。でも……」

ξ゚゚)ξ「……」




55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:51:46.21 ID:XBq7Oq7D0

 わたしには何も聞こえない。

 彼は突然顔をしかめた。
 押し寄せたのであろう苦痛をこらえてから、続ける。

(メメ・∀・)「あいつは『助けて』って言えないガキだった。なんとなく、今回もそんな感じなんだと思う」

 その眼が死んではいなかった。

ξ゚゚)ξ「そう」

 なんとなく、か。

ξ゚゚)ξ「……子供に呼ばれているなら、行かなくちゃね」

(メメ・∀・)「ああ。それもすぐ。泣いてるかもしれない」

 モララーが壁に手を付き、片足立ちになった。
 わたしはその階に落ちていた資材を杖として渡す。
 まともな松葉杖があれば良かったが、贅沢は言っていられない。

(メメ・∀・)「悪いな」

ξ゚゚)ξ「武器は?」




58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:52:54.11 ID:XBq7Oq7D0

(メメ・∀・)「拳銃の中に弾があと五発。それに予備のマガジンが一本。合わせて十五発だ」

ξ゚゚)ξ「わたしのはもう空だわ……」

 置いた回転式拳銃を持ち上げる。
 初めより随分軽くなったそれが、黒い液に染まっていた。
 その体液の持ち主の名残に振り向く。

 赤い四角錘の被り物と巨大な鉈。

(メメ・∀・)「精神異常者」

ξ゚゚)ξ「あるいは人型の怪物なだけかもしれない」

(メメ・∀・)「自殺志願者」

ξ゚゚)ξ「いずれにしても、もう、いいわ」

 わたしは鉄パイプを手に取り、医療用メスを無菌パックから抜き出す。
 後者はさらに鞘に包まれているので、安全にベルトへと差すことができる。
 モララーも同様にナイフを装備していた。

ξ゚゚)ξ「ナップサックはどうしたの?」




59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:55:14.41 ID:XBq7Oq7D0

(メメ・∀・)「奪われた」

ξ゚゚)ξ「え?」

(メメ・∀・)「入り口でお前が倒れた時、奪われた。多分、人間の女」

 彼が交戦していた何か。
 それが人間?

(メメ・∀・)「ショットガンを持っていたヤツだったと思う。
      お前をどこかに連れて行ったのも、そいつの仲間だったんじゃないか」

 何だって?

ξ゚゚)ξ「何故わたしを逃がすようなことをしたのかしら」

(メメ・∀・)「だからお前を疑った。マタンキの件を持ち出した時、それで頭が一杯だった」

 立ち続けながら喋るのに疲れたのか、モララーはけだるそうに眼を瞑った。
 わたしは肩を貸して支える。

ξ゚゚)ξ「……どういうこと?」




61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:56:39.81 ID:XBq7Oq7D0

(メメ・∀・)「かなり血みどろで汚れていたが、あれはナース服だ」

 ぎくり、と身体が硬直する。

[こわいおんなに気をつけろ!]

(メメ・∀・)「ツン、お前の名前が看護婦の名簿に載っていたのを見つけてな。
      俺をはめようとしてるんじゃないかと……まあ、いい」

 わたしも同じく脅威にさらされたことで、それは晴らされたらしい。
 いや、しかし、目下気にするべきは異なる点。

[こわいおんなはだいげきど! 手下を使ってだいそうさ!]

ξ;゚゚)ξ「教えて。それは何人いたの」

(メメ・∀・)「ライトは初めに壊されたからな……。結構いたと思う」

 記憶を辿る。
 ブルックヘイブン病院における看護婦の勤務体制は、三交代制。
 早朝から夕方までと、昼過ぎから深夜まで、そして夜から翌朝まで。

 最も少ないのは夜勤時の三人。
 各シフトの交代時に最多で二十人。
 「こわいおんな」達が、ここのナース?




62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:57:40.05 ID:XBq7Oq7D0

 有刺鉄線と鎖に封印されていたドアへと戻る。
 変則式の錠前――赤い小箱――に札を挿入する前にわたしは、「こわいおんな」について考えていた。
 一つ、問いかける。

ξ゚゚)ξ「どうやって逃げたの?」

 モララーがすわった眼で小箱を睨みながら言う。

(メメ・∀・)「光が消えた途端に俺を見失ったみたいだ。手探りでエレベーターに乗り込んで三階に逃げた」

ξ゚゚)ξ「ライトがなくなったら……。ところで、三階に? わたしもいたのに」

(メメ・∀-)「あ? 確かに……いや、悪いが、悠長に考えられるほど、ん……。ふう。脳みそがはたらかないんだ」

 わたしが、それなりに普通な病院にいた時、彼は同じ場所の違う空間にいた?
 金網の床と天井が広がるここは違う世界なのか?
 そうして黙考していると、モララーがしびれを切らして口を開いた。

(メメ・∀・)「急ごうぜ。マタンキも呼んでる。その内、天使もお迎えにきちまうからな」

ξ゚゚)ξ「ええ、そうだったわね」

 パイプを握り締め、札を上部のスリットに差し込んだ。

 かちん、と軽い音がして変化が起きる。




63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 21:59:11.53 ID:XBq7Oq7D0

 小箱の外装が剥がれ、中から円盤が露出した。
 それが緩やかに回転を始める。

 がりがりがりがり。

 鉄線と鎖の張りがさらに強力なものになる。
 上下左右から伸びているそれらが、びぃんと張る。

 がりがりがりがり。

 わたしは起き得る現象を予想して、モララーを支えて後退する。
 彼も小箱の動作の意味を悟ったらしく、従った。

 がりがりがりがり、がちっ。

 張り詰めた封印が一瞬止まる。
 そして、小箱が最後に一際大きく円盤を回転させる。

 ばきん。

 留められていた箱が全ての有刺鉄線と鎖を、ねじ切った。
 動力源は不明。
 しかし、確実にそれは錠前としての役割を終えた。




64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 22:01:00.59 ID:XBq7Oq7D0

 鉄線らが張力に従って断ち切れた途端、小箱へと叩きつけられ、破壊を生じた。
 大小の金属片が飛び散り、宙に舞う。
 それらはわたし達には届かず、金網の隙間を抜けて闇へと落ちていく。

 それを見届けてから、わたしはバッグからペットボトルを取り出した。
 残りが半分を切った水。
 それをモララーに差し出す。

(メメ・∀・)「いいのか?」

ξ゚゚)ξ「手術中に血圧が低下したら水分で水増しするの。もっとも、生理食塩水とかだけど」

 加えて言うなら、経口摂取はしない。

(メメ・∀・)「塩分か。それならまだ確かケツポケットに、あった」

 彼はビーフジャーキーのパックを取り出す。

(メメ・∀・)「三枚くらい残ってたはずだ。半分食えよ」

ξ゚゚)ξ「塩分と水分は重要、だものね」

 その通り、とモララーが応じ、わたし達は生気のない顔を見合わせて笑った。
 ひどく表情筋が引きつってり、涙を流した目元が突っ張る。
 それでも、心に多少のゆとりは生まれた。




66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 22:02:24.97 ID:XBq7Oq7D0

 封鎖されていた扉の向こうは暗かった。
 すぐに懐中電灯を付ける。
 照らされる、滑り止めのミゾ付き鉄板。

 それは建築現場で組まれる足場のようなものだった。

(メメ・∀・)「明かりが無い方が敵には見つからないんだが……そうも言ってられないな」

 足元がところどころ広く開いていて、やはり下方に広がるのは、闇。
 発覚を恐れて暗中を進めば落下は必至。
 それに、突然襲われるよりもこちらから接近して叩く方がマシだ。

ξ゚゚)ξ「行くわよ」

 モララーも同じく、小さく「ああ」と呟き返した。

 穴あきの足場でも道としては成立している。
 鉄板の道筋を進むわたし達。
 モララーを補助しながらの移動は、遅々としていた。

 壁間の距離は3mほどだが、時に足場の幅はその半分以下となる。
 否が上にも慎重な足取りになった。

 気温が高く、蒸すことに気付く。
 穴から吹き上げる風は生ぬるく、頬を撫でるそれが不快だった。




67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 22:03:56.92 ID:XBq7Oq7D0

 壁面に本来あるべきドアがあったり、なかったりする。
 コンクリートに上塗りされてしまって存在が消されているもの。
 あるいは、シャッターが部屋の内側から下ろされているもの。

 いずれも中に入れそうにはない。
 気にする必要がないかもしれない。

 やがて、耳にカツ、カツ、という音が届く。

(メメ-∀・)「お出ましだ」

ξ゚゚)ξ「……!」

 ライトを向けた先には、ヒトのシルエット。
 しかし、歩き方がヒトのそれではない。

 病院に入る直前、犬を駆除していた女性が見せた移動の仕方。
 首をうなだれたまま、内股で一歩ごとに身体を左右に揺すっている。
 今にも倒れそうなアンバランスな姿勢を、無理矢理正そうと脚を動かす奇妙な歩行。




69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 22:05:47.25 ID:XBq7Oq7D0

 ぐらり、ぐらあり、と。

 白のナース服に染みているのは、血液、胃液か胆汁、そして錆び。
 いずれも酸化し黒味を帯びていた。
 膝上丈のスカートから露出した脚や半袖の先に生えた腕が、青どころか灰色を表している。

 血色が悪すぎる、岩のような暗い肌色。
 表皮の下から発色したそれは、アザ、もしくは、死斑。
 いずれにしても健康からはひどく程遠いことが分かる。

 爪の剥がれた手には、わたしが握っているものと同じような鉄パイプがあった。
 あちらの方が錆びがひどく、ほぼ全面が赤茶。

 モララーが拳銃を構える。
 わたしは脇にパイプを挟み、彼を支えて射撃を安定させようとする。
 鼻から息を強く吐き、懐中電灯で「彼女」を照らした。

「わわわわわわわわわわわ……」

 水中から叫んだような間抜けな声。
 それを発する口が見当たらなかった。

(メメ-∀・)「一、発で怯ま、せる。穴に、落とせ」

ξ゚゚)ξ「分かったわ」




70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 22:07:43.54 ID:XBq7Oq7D0

 頭部が詳細に視認できるようになる。
 分厚い灰色の肉膜に覆われた顔面には、醜い凹凸があるばかり。
 その上にべっとり張り付いた髪と、汚れたナースキャップ。

 わたしは落ち着いていた。

 元同僚かもしれない。
 ただの狂人かもしれない。
 そう思っていた。

 動きや容姿はもはや人間のそれではない。
 「これ」を殺しても、良心を痛めることはない。
 今ではそのような考えになっている。

 モララーの合図を待つ。

 操り人形のような頼りない歩みをするナース。
 わわわわ、と水中から息を吐いて泡を立てるような音声が近づく。
 そして、立ち止まった。

(メメ-∀・)「……?」

ξ;゚゚)ξ「モララー、まだ――」




71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 22:09:14.68 ID:XBq7Oq7D0

 わわわわわわ、と。
 絶え間なく。

 わわわわわわ、と。
 切れ目なく。

 わわわわわわ、と。
 呻くような。

 冷静さが吹き飛んでしまった。
 やはり、人数は……!

 狂った看護婦の後ろから、

 さらなる看護婦達の集団が押し寄せていた。




73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 22:12:13.96 ID:XBq7Oq7D0

 モララーの身体がびくりと跳ねた。

(メ;・∀・)「ツン、変更だ。手前のヤツを倒して、盾にする」

 奥にいたナースの内の一体が、両手で抱えた長い物を操作する。
 木製の肩当に握り部分、そして、黒く長い銃身。
 あれは、

ξ;゚゚)ξ「ショットガン……!」

 その銃の恐ろしさは、父親に聞いて知っていた。
 それは、一回の攻撃範囲が扇状に広いこと。
 一つの薬莢から多量の小さな弾が、亜音速で吐き出されるのだ。

 遠くに見る、緩慢なポンプアクション。
 空のショットシェルが弾き出される。
 それが意味するのは、次の弾薬の装填。

(メ;・∀・)「!」

 モララーが即座に手前のナースに銃弾を浴びせた。
 鉛球が額に穴を開ける。
 「それ」一体分の音声が、すっと止む。

 バランスを戻そうとする次の一歩は踏み出されない。
 手前の看護婦は、股間からわずかに粘液を垂らす。
 「それ」の履く短いスカートから失禁したような小さな水音。




75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 22:13:36.52 ID:XBq7Oq7D0

 しかし、静寂は訪れない。
 他のナースの音声は、引き続き廊下の奥から響いているのだから。

(メ;・∀・)「ツン! そいつを引き寄せてくれ!」

 ショットガンの銃口が定まる前に、わたしはモララーの殺したナースに掴みかかる。
 懐中電灯を手にしたままでは服の端しか握れない。
 力が抜けた肉体は重く扱いづらい。

 焦る。

(メ;・∀・)「!」

 モララーは息を呑んだ。
 わたしも、自身が激しく揺れ動かした明かりの向こうで、それを確認した。

 奥に立つナースの射撃体勢が整っている。

 モララーが大体の見当をつけた方向へ発砲。
 彼の腕前なら十二分に狙撃することが可能な距離。
 だが、本来の実力を発揮できないほどに廊下は暗かった。

 やけにクリアな女性の悲鳴を発するパペット――操り人形の――ナース。
 照明の円が揺れる中に見たのは一体が怯む姿。

 でも、それはショットガンを持ったヤツではない!




76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 22:14:42.53 ID:XBq7Oq7D0

ξ;゚゚)ξ「――ッッ!!」

 指に痛みが走る。
 拳銃を撃ったことで骨にヒビでも

 それよりも盾を

 掴んだらしゃがみ込んで

 モララーとこいつの陰に入りきるか?

 遮蔽物としては心もとない

 でも逃げ場はない

 断片的に浮かぶ思考。

(メ;・∀・)「クソッ!」

 発砲。

 今度は悲鳴すら上がらない。
 残弾数はいくつだ?
 無駄撃ちになってしまう。




78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 22:15:48.13 ID:XBq7Oq7D0

 モララーが盾を求めたのは正しいことが判明した。

 相手にする数が多く、その敵は仲間を仲間と認識していないようだった。
 その証拠に、穴から落下しかけたナースを支えようとするものはいない。

 ただひたすらに、「自らにとっての」異形を廃しようとするだけの狂人。
 一体を倒したところですぐさま、落とされた凶器は他の狂人のものとなるだろう。

 向こうにいる敵を殺さなければ殺される、という単純な理屈。
 ショットガンがあちらにある限り、ヤツらを殺しきらなければならないことを理解する。

 独立してわたし達を殺そうとする操り人形、パペット、狂人、異常人、看護婦が叫ぶ。

 水の中からあぶくを立てるように。
 トンネルの中を反響するように。
 ふわふわした声が耳に届く。

 カツカツという足音に、悲鳴とも嬌声ともとれる謎の言葉が重なる。
 わたしが掴んだ汚れた白衣の裂ける音。
 握り締めた指の関節が奇妙な軋みを立てる。

 わずかに、引き金がきりり、と引き絞られるのを暗闇の奥に聴いた。




79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 22:16:28.87 ID:XBq7Oq7D0

 どぱっ、と腹の底から響く銃声。


 衝撃がわたしを襲った。


【Save】




80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 22:17:14.95 ID:XBq7Oq7D0



 ツンが拾得したメモ、資料。また、目に付いた文章。






82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 22:18:36.78 ID:XBq7Oq7D0

【ロッカーで拾った小さな便箋】

 ベラ へ

 わたしの買ってた雑誌の星座占いで蠍座最下位!
 多分あんたの買ってるのだと違うんだろうけど、
 そこに書いてあったラッキーカラー&アイテム送ります。

 でーん、ロビーちゃん[ここにウサギのシールが貼ってある]

 確か、小児担当でしょ?
 子供も喜ぶと思うし名札にでも貼ったら?

 担当してる子なんて言ったっけ、アリサ、だったかな。
 その子にも一枚あげてちょうだい。

 また、ヘブンズナイトで金曜の夜に!

 リンダ




83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 22:19:36.21 ID:XBq7Oq7D0

【各所にあった赤い紙】数枚

 (内容は既に読んだ。小さなグリーティングカードと同じくらいの大きさ)


【ロッカー室の壁に貼られていた画用紙】

 (真ん中に泣いている子供が二人。手をつないでいる。……おや?)

 (絵の四隅に小さな人間が描かれている。こんな人間、初め見たときに描いてあったかな?)




91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 22:38:08.96 ID:XBq7Oq7D0

【ベラのいた房の壁に書かれていた文字】

(ひとつめのまとまり。黒いサインペンだ)

 days X X / 


(ふたつめのまとまり。黒いサインペンと、赤黒い液が付着している)

 これを読んだひとは婦長から逃げてほしい
 わたしはもう助からない
 鍵がかけられた
 もう彼女は人間じゃない
 苦しい 助けて
 ニコール 会いたい


(みっつめのまとまり。赤黒い)

 (いくつもの手形が暴れたように付けられている)




108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 23:08:05.06 ID:XBq7Oq7D0

【Load】


 奥で出会ったこわいもの。


 暴力の形はたくさんあるよ。




109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 23:09:38.32 ID:XBq7Oq7D0

 小さな鉛のつぶてがどこかに被弾する。
 雷の速さで脳髄まで痛覚信号が走る。
 お前は死ぬかもしれないぞ、と知覚野が叫んでいる。

 懐中電灯をすぐさま消した。
 掴んだナースの死体をさらに引き寄せた。
 モララーに軽くぶつかり、存在を確認した。

「無事か!」

「手が……痛い……」

 即座にしゃがみ込み、的を小さくする。
 闇に塗りつぶされた視界は恐ろしくわたしを不安にさせた。
 経験したことのない刺激が右手の先から中枢まで走り続ける。

 そして、原因を理解する。

「ああ、指ッ、指が! ああああああっ!!」




110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 23:10:28.73 ID:XBq7Oq7D0


 中指がまるまる根元から、また、薬指は第一関節から。

 それら二箇所より先はすっかり、失われてしまっていた。





111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 23:11:17.17 ID:XBq7Oq7D0

 認めた瞬間から、そのぬるつく部位の喪失感が存在を主張し始めた。

 ない。

 指がない。

「あああああああ!! いや、いやああああああ!!」

 がたがた、と、ぶるぶる、と震えている。
 認めたくない気持ちから傷を触れば、当然のように激痛。
 モララーの割れた足を思い出す。

 ここだけでこんなに痛いのに、どうして彼は銃器なんか扱える!?

「ツン!」

 後ろから二本の腕に包まれ、口を塞がれた。
 それでも声が殺せない。
 痛覚を誤魔化せない。

「ツン。ツン。落ち着け、平気だ。死なない、死なせない」

 男の焦った声が遠い。




112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 23:12:15.60 ID:XBq7Oq7D0

 放して欲しい。
 いや、殴りつけたい。
 むしろ、頭をぶつけてやりたい。

 誰に? どこにだ?

 どうやってこの痛みを発散させればいい!?

「ああ、うあ、いやぁああ、いや、あっ! うわああああ!!」

「ッ!」

 唇に触れた指を噛む。
 モララーは腕を少し強張らせたが、その後止まる。

 口の中に汗の塩味と鉄の苦味が広がる。

 噛んだ。

 噛み締めた。

 頭を振るたび、頭蓋骨に「ぎり」と音が響いた。
 モララーの指を噛み切らんとする音だと気付かず、続けてしまう。




113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 23:13:37.89 ID:XBq7Oq7D0

 じゃこん。

 どぱっ。

 次いで、火花。

 涙で歪んだ視界に小さな明かりを見る。
 射出口からのものと、跳弾による発光か。
 遮蔽物にしていた細身の死体に衝撃。

 わたしは「生命維持に繋がる」行動を起こせない。
 自分が何をやっているか理解し始めても、なお。
 しかし、止められない。

「クッ! ツッ、ン。放してくれ。死なせたくない」

 諭すような声。
 それに似た言葉が二度、三度と続いた。

「――はぁっ! はぁっ! はぁっ! はぁっ!」

 わたしは五度目でようやく口を開ける。

 じゃこん、とポンプアクションの音。




114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 23:14:52.26 ID:XBq7Oq7D0

 プラスティックの薬莢が柔らかい着地をした音。

 わわわわわわ、とパペットナースの叫び。

 荒い吐息、わたしの荒い吐息。

 見えない世界。

 不可視の全て。

 耳が全てを拾おうとする。

 モララーが喉を鳴らしてツバを飲み込む。

 わわわわわわ、と怪物の、人間でない何かの、笑い声。

 三発目の散弾が吐き出される。

 すぐさま、暗闇で唯一使える有効な索敵手段「聴覚」が麻痺した。

 いや、今まで麻痺していなかったのがおかしいくらいだ。




115: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 23:16:09.85 ID:XBq7Oq7D0

 衝撃。
 さっきよりも強い。
 懐中電灯が床についた手に当たる。

 少し転がっていってしまったようだ。
 モララーの体温が離れる。

「モララー!」

 一人にしないで、一人にしないでよ、見捨てないで。

 頭上で明かり。
 発砲?

 モララーはまだわたしを見捨ててない!
 やった!
 死なない! 死なないんだ!

 ななああjふぃあwqfなkぁwkj

 あひうおwjwp

 あじぇいhhんmmあははははははははははははh




126: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 23:41:25.65 ID:XBq7Oq7D0

 あああ、わあじょわあ
          あふぁえwwぱwqqmくぉld;
痛い

 jふぁpijuena     jあじぇおkgもぺじppp
                    いたい
イタイイタイ
          怖い
 、。絵;愛意pq・・えおい@に@おいえ92988987
       イタイイタイイタイ
 8799999999899837927929
   そうだ、これが贖罪? はははははははっははあああああ
 9983107387580170
               あああああああああああ
 0う9899い9あいえ9p9))#)81 
いや
                      帰りたい


   わたしを見ているあなた達は、誰?


 j派j-9青w w青くぇ位r2 jppqpkq

                kjq

        痛 い




129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 23:43:49.43 ID:XBq7Oq7D0

「あははははははははははははは」

「#######! #####!」

 え、何?

 でも、片足でもなんとかしてくれるでしょ?

 モララー、助けて、ああははははははは。

 痛い。

 ああああああっははははっはっはははははは。

 指が、ない?

 助けて。

「きゃあああああああ!!」

「#っ##し#! #をしっか##て!」

 #ゃ#ン、と聴いたような気がする。




130: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 23:45:05.57 ID:XBq7Oq7D0

 再び体温が背を包む。

 次の瞬間、体表面が空気の振動を捉える。
 射撃による小爆発の伝達、その振動だ。
 耳が機能していない。

 また、ナースの死体が動く。

 顔に体液らしいものが飛んだ。
 ああ、そうか。
 ヒトの形をしているから、ヒトみたいなものが中に詰まってるんだ。

「あはははははははは!!」

「#ン、しっかり##くれ。お前#旦那が##てるんだろう」

「だんなぁ?」

「ナイトウって言う苗字だろ。おい、旦那に会いたいだろう。しっかりしろ」

「ナイトウ……。ブー、ン……」

――家事くらいへのかっぱだお!

「ブーン、ブーン……」




131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 23:47:13.65 ID:XBq7Oq7D0

「そうだ。頼む、俺を一人にするな。……目の前で女が死ぬのはもう嫌なんだ」

 頭の端に追いやられていた痛みがよみがえる。
 同時に、夫、ナイトウ・ホライゾンの笑顔が思い出される。

「もら、らー……いつッ」

 わずかながらも誤魔化されていた痛覚が一気に押し寄せる。
 だが、それは覚醒をもたらした。
 現実への回帰を助けてくれた。

「落ち着いたか?」

「ご、ごめんな、さい。わた、わたし」

 被さるように、廊下の先で薬莢が排せられる音。
 モララーはわたしの言葉を待たずに言う。

「俺、の勘が正しけれ、ば、もうっアレに弾はない。六発。六発撃ち尽くしている、はずだ」

 苦しそうな声を聞きながら、わたしは手首を押さえる。
 看護婦としての経験が、流血の抑制を身体に指示していた。




133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 23:49:18.46 ID:XBq7Oq7D0

「あいつらが、あいつらがまともに弾丸を装填できるとは、思え、ないんだ」

「六……発?」

 発砲回数まで気にする余裕はなかった。

「病院の、外で、二度、犬を殺すのに、使ってただろう」

 二匹の皮が剥がれた犬。
 それらを殺したのは、この狙撃手だった?

「警官のもっ、持つショットガンを奪ったなら、四発、あるいは六発の装弾数。
 その証拠に、もう、もう、もう撃ってきてない、よな。だろ」

「モララー」

 彼は、意識をなんとか繋ぎ止めようとしている。
 言葉に整合性はあるが、口調はおぼろげで、息も荒い。
 互いに満身創痍であることを暗中で悟る。

「だから、もう近づいて大丈夫なんだ。だい、大丈夫なんだ、うん」




137: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 23:50:49.76 ID:XBq7Oq7D0

 言わんとするところが理解できた。

「わかった。わかった、わ。……あとはわたしが」

 手探り――左手だけ――で、鉄パイプを見つけ、引き寄せた。
 手首への圧迫を止めたことで血液の流出が再開していた。
 右手を心臓より上の位置に掲げて、それをやり過ごす。

「いいか、いいな、落ちるなよ。怯ませて、落とせばいい。それだけだ」

 息も絶え絶えとはこのことだ。
 徐々に失われる生命を想わせる芯からの寒さ。
 やがて訪れる死を喚起させる全身の痛み。

「時々、懐中電灯をつけて」

「わかった、わか、わかった。どこだ?」

「待って……あった」

 渡した物が壊れていないことを願い、わたしは立ち上がる。

 ……ポンプアクションの音はするが、発砲はされない。
 足音と間抜けな声だけが奥から聞こえる。

 その方角に、歩み出す。




138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 23:52:12.11 ID:XBq7Oq7D0

 そこからはあまり覚えていない。

 ヒトのカタチをしてはいるが、人間ではない。
 やらなければ、やられる。
 そうやって自らを鼓舞し、両手でパイプを振るった。

 手応えの有無に関わらず続けた。
 ぐしゃ、と嫌な音があれば、その方向に脚を蹴り出した。
 なければ、一歩踏み出し、左右の闇を強く叩いた。

 指示通り、モララーは時々行く先を照らしてくれた。
 何度か足場が消えている方向へと歩いていた。
 その度に背筋が凍る思いをして、後退、穴の位置を見極めた。

 ナース達の武器を確認することはほとんどできなかった。

 でも、忘れられないものがいくつかある。

 わたしの専門外の医療器具を巨大化したようなもの。

 それは、クスコやスプーンに刃が付けられたものだった。

 忌まわしく変形を受けた「堕胎用の道具」を持つナースは、倒れた後も執拗に殴打した。




139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 23:54:15.20 ID:XBq7Oq7D0

 殴る、蹴る。

 悲鳴も叫びも足音も聴かない。
 聴きたくない。

 落とす、落とされそうになる。

 悲鳴も叫びも罵声も上げない。
 上げたくない。

 おそらく返り血、多分、自分の出血。
 汗か涙か、涎か鼻水か、敵のか、わたしのものか。
 とにかく、ぐちゃぐちゃに汚れながらわたしは進んだ。

「――ハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!」

「おわっ、たか?」

「これで、最後だと、思うっ!」

 鉄板のような足場にしがみついていた最後のナースを蹴り落とす。
 闇に吸い込まれる灰色の不明瞭な頭部。




141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 23:55:17.75 ID:XBq7Oq7D0

 それが一瞬だけ、


   た す   ξ )ξ


 自分の顔のように見えて、


         ξ゚゚)ξ   け   て


 わたしは後ずさった。




142: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/15(金) 23:57:08.10 ID:XBq7Oq7D0

 眩暈がする。

 肩でモララーを支えながら、目的のドアへと到達する。
 扉を開けた先の階段は足元が金網に戻って(?)いて、もう一箇所の階段と同じく、何故か明るい。

(メメ ∀・)「ツン、しけ、止血しよう」

ξ゚ -゚)ξ「ええ」

 自らの指がすっぱりなくなっていたわけではない、と知る。
 中指は辛うじて1cmほど残っていたし、薬指はまだ皮で繋がっていた。
 いずれも根元から、裂いたタオルで縛る。

 本当は、この止血法はよろしくない。
 縛った部分から先、末端が壊死してしまうからだ。
 傷害部の圧迫による止血が望ましい。

 だが、それでは血液凝固まで時間がかかり、長く休息を必要とする。
 ならば、不衛生な場所で立ち止まるよりも先に進める処置を選ぶべきだ。
 先にそうして止血したモララーの足先は、既に紫色というよりドス黒くなっていた。

(メメ ∀・)「……先を急ごう」




143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/16(土) 00:00:09.52 ID:vYSW07vx0

 階段を下りるのにも相当な体力を要した。
 ステップ一段ごとに、強くこみ上げてくる想いは二つ。

 早く逃げ出さなければ、というもの。

 そして、「あの子」を助けてあげたい、というもの。

 朦朧としたモララーの眼を覗き込む。
 ぼんやりと見つめ返す瞳は、しかし、類似した意思を内包しているようだった。

ξ゚ -゚)ξ「もう女が死ぬのを見たくないって?」

(メメ ∀・)「妻が、昔、マタンキを生んだ後、病気で死んだ。マタンキは、妻ゆずり、で、病気をしやすかったのかもな。
      あんなのは、もう……嫌だ。目の前、でなん、てな」

 途切れがちにそう言うと、彼は眼を伏せた。

ξ゚ -゚)ξ「……そう」

 一階に到着、金網の床、にわかに明るい空間。
 外へと通じる玄関扉が開くかを確かめもせずに、わたし達はもう一つの階段を目指す。

 外来受付のある空間へと、さらに扉をくぐる。
 そこには邪魔なナースが三体。
 モララーと目配せをして、わたしは彼を床に座らせた。




144: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/16(土) 00:01:18.11 ID:vYSW07vx0

ξ゚ ゚)ξ「――ッ!」

 ごつん、がちっ、ぶしっ。

 ぶちゅ、ぐち、ぶちゃっ。

 ごっ、ごっ、ごっ、ごっ、ごっ。

 がきっ。

 一息、休憩。

 次。

 ごつ、ぶしゅう、がつ。

 ……まだ、あなたの番じゃない。

 ぶちゅ。

 二人同時?

 邪魔。




145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/16(土) 00:03:07.03 ID:vYSW07vx0

 脳内麻薬が多量に合成される。

 性的な意味でもなく、嗜虐心からでもなく。

 純粋に、科学的に、わたしは興奮していた。

 他意なんかまったくなく、ただ神経が昂ぶっているだけ。


 と、信じたい。




149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/16(土) 00:04:33.88 ID:vYSW07vx0

 血でこべこべになっていた髪を耳にかける。
 使った右手の傷口に毛が触れてチクリと痛んだ。

 早速、そこは変色していた。

(メメ ∀・)「ありがとう」

ξ゚ -゚)ξ「いいわ」

 地下の構造が変動していなければ、輸血用血液も手に入る。
 モララーが死んでしまうのは困る。
 一刻も早く行こう。

ξ゚ -゚)ξ「下に多少なり治療できる道具がある。急ぎましょう」

 こんな場所に一人取り残されてしまうのは嫌だ。
 絶対に嫌だ。
 こんな、狂った血と錆びと怪物の世界。

ξ゚ -゚)ξ「……」

 当初の目的はどうでも良くなっていた。
 逃げたい、助けたい、逃がしたい、助かりたい。

 突然、扉が誰かによって開けられた。




150: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/16(土) 00:06:32.05 ID:vYSW07vx0

 目指していた階段へと通じるドアから、清潔な白衣を着た男。

爪;'―`)「ハァ、ハァ、ハァ……」

 開いた昇降口から息を荒く歩み出る。
 そして、びくりと身を固めてこちらを向いた。
 思いもよらない人物。

爪;'ー`)「ツ、ツンさん!?」

ξ゚ -゚)ξ「あなたは」

爪;'ー`)「どうしてここに!? いや、それでも良かった!」

 大げさな身振りと共に、男はこちらに寄ってくる。
 長い金髪で、顔の特徴といえば、やや垂れ目であること。
 中年手前の彼が、わたしの名を呼んでいた。

爪;'ー`)「無事ですか? 怪我をしているじゃないですか、あなた、は?」

(メメ・∀・)「生存者がまだいたか……。ツン、知り合いか」

ξ゚ -゚)ξ「ええ」




151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/16(土) 00:08:15.63 ID:vYSW07vx0

爪;'―`)「二人ともひどい怪我だ! こちらに!」

 男は名乗りもせずに階段の向こうへと誘おうとする。
 モララーがわたしの顔を覗き込んだ。

(メメ・∀・)「誰だ?」

ξ゚ -゚)ξ「フォックス先生」

 短く答えると、わたしはフォックスに従った。
 ほっとした表情で、フォックスはわたし達に背を向ける。

 そこで、モララーから拳銃を奪い、汚れのない白衣に押し当てた。

爪;'―`)「!?」

 わたしのせいでモララーがバランスを崩してしまい、そのまま無様に倒れた。
 だが、彼の悪態にも構わず、

ξ゚ -゚)ξ「あなたがこうしたの?」

爪;'―`)「ツンさん、何を」




152: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/16(土) 00:10:07.55 ID:vYSW07vx0

ξ゚ -゚)ξ「答えて」

爪;'―`)「なんのことですか!? やめてください!」

(メ#・∀・)「おい! ツン、何をしてる!」

ξ#゚ -゚)ξ「うるさい!」

 血流が早まっている。
 強く脈拍が耳元で響くたびに、頭と、欠けてしまったはずの指がじんじんする。
 先ほどまで浮かべていた思考が掻き消えていた。

ξ#゚ -゚)ξ「フォックス! わたしをここに呼びつけた張本人が何を言ってるのよ!
      答えなさい! 何をしてこうなったの!? 何をするつもりなの!?」

爪;'―`)「僕は何も!!」

ξ#゚ -゚)ξ「言いなさい!」

(メ#・∀・)「おい! やめろよ!」

 温い風がべたべたする肌を冷まそうとする。
 いいや、無理だ。
 急激に上がった体温は心からの発熱が原因なのだから、収まりなどしない。




154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/16(土) 00:12:08.35 ID:vYSW07vx0

爪;'ー`)「混乱してるだけですよ。僕が誰だかわかってないんです」

 そうか、わかったぞ、といった声でフォックスが言った。

爪;'ー`)「僕はこのブルックヘイブン病院の院長で」

ξ#゚゚)ξ「知ってるわよ! フォックス・カウフマン! 32歳で院長となった男!
      父親の地位を無理やり奪い取って、その席に座ったんでしょう!?」

 遮って、さらに急き立てる。

ξ#゚゚)ξ「目的は何? ねえ、ねえ!」

 フォックスは泡を食ったように黙りこんでしまう。
 ぐり、と銃口を強く押し付けると、白衣にしわが寄った。

 安全装置が解除されていないことに気付く。
 すぐにそれを外し、両手でグリップを握った。

(メメ・∀・)「院長……?」

ξ#゚゚)ξ「わたしを、わっ、わたしをレイプした男よ!」

(メメ・∀・)「なんだと?」




156: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/16(土) 00:15:36.99 ID:vYSW07vx0

爪;'―`)「ち、違う! そんなことは一切なかった! どうしたんだツンさん!」

 静けさに満ちていた病院内が一変、わたし達の叫び声で埋まる。
 モララーが背後で立ち上がったような音を聞く。

ξ#゚゚)ξ「何が、何が違うのよ!」

爪;'―`)「僕は」

(メメ・∀・)「お前がツンにマタンキを殺すよう指示を出したんだな?」

 フォックスは敏感に新たな責め苦の気配を察知したようだった。
 まん前を向いて直立していた体をわずかに、振り向かせようとする。
 わたしが拳銃をアピールすると、首だけを左に少し、回した。

爪;'―`)「いや、それは、しかし!」

 なんとかわたしを見ようとする、この左眼が憎い。
 金髪が憎い。
 声どころか呼吸すら憎い。

 わたしを辱めて、子供を殺させた男。
 この男を殺すためにここに来た。
 呼び出されても逃げなかったのはそのためだ。

 憎い!




158: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/16(土) 00:16:55.00 ID:vYSW07vx0

ξ#゚゚)ξ「答えろッ!」

(メ#・∀・)「お前が……ッ!」

ξ#゚゚)ξ「最低、最悪だわ!」

(メ#・∀・)「子供を殺そうとする最悪だ!」


 罪人達がそろえて声を荒げているのを、もう一人のわたしが遠くから眺めている。

 自身を冷静に見つめるわたしが、ぽつり、呟いた。

「他の罪を責め立てれば、あなたは赦されるの?」

「断罪人になる資格が、あなたにはあるの?」


 罵倒に堪えかねてフォックスが叫ぶ。
 予想外の言葉だった。




159: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/16(土) 00:17:36.06 ID:vYSW07vx0



爪;'―`)「僕達は婚約者だった! そんな事実があるわけがない!」


 わたしは、眼、を、強く、見、開い、た。






165: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/16(土) 00:25:49.31 ID:vYSW07vx0

爪;'―`)「指輪を渡そうと呼び出したんだ! なのにどうして君は!?」

 拳銃を握り締めた手を見る。
 右手の薬指。
 根元で縛ったその薬指に、

ξ゚゚)ξ「指輪が、ない」

 紫に変色した断面。
 辛うじて第二関節以降が残った指。
 そこに結婚の証がない。

爪;'―`)「仕事が忙しいと言ってお互いに会う時間が作れなかったから!
     だからようやくサイレントヒルに来てもらって……」

 空気が停滞した。
 静寂に耳が痛い。

 モララーが後ずさる気配を感じる。

(メメ・∀・)「ツン、お前、狂ってるのか? 何がしたいんだ? どういうことなんだ?」

ξ゚゚)ξ「そんな、え、いや、わたし、わたしが婚約、夫が」

爪;'―`)「誰が夫なんだ? 僕がそうなるはずだった、でしょう?」




167: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/16(土) 00:28:05.12 ID:vYSW07vx0

 気持ち悪い。
 どう受け止めたらいい。
 この意味不明な状況を。

ξ゚゚)ξ「そんな、ブーンが。ナイトウよ。わたし、ツン・ナイトウになったのに?」

 ぶつぶつと繰り返す。

ξ゚゚)ξ「だって、ヘブンズナイトで出会って『僕もナイトって言うんだお』って」

ξ゚゚)ξ「ナイトウって、カンジを教わって。そう、レイクサイド・アミューズメント・パークに」

ξ゚゚)ξ「出かけて、ツン・ナイトウよ。わたしは」

 眼が乾く。
 開きっぱなしだった。
 閉じられない。

 喉が渇く。
 口が閉じられない。
 開きっぱなしだった。




170: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/16(土) 00:30:03.69 ID:vYSW07vx0

爪;'―`)「僕は父の経営方針が嫌だった。マタンキ君。覚えています。前院長が指示を出しました」

 完全にフォックスはこちらに振り向いていた。

 あれ拳銃を突きつけていたのに?
 ああ、下に銃口を向けているじゃないか。
 わたし自身が力を抜いているから。

 前院長が指示。
 そう言われたら……分からない。

爪;'―`)「マタンキ君は不慮の事故で亡くなった。あなたは、彼のお父さんですか?」

(メメ・∀・)「あ、ああ」

爪;'―`)「そうですか……。あなたが、その、事件を起こしてから、事故は起こりました。
     支払い能力に不安がある、治療を取りやめるべきだ、と父が提案した後のことです」

 モララーが頷いている。
 ちらりとわたしを見た瞳に、猜疑心が浮かんでいた。
 しかし、血色はやや良くなっている。

(メメ・∀・)「それで、院長の座を奪った、と?」

爪;'―`)「なんとかして、そうしなければならなかった。あんなことは二度と起こしたくない。
     医術は人のために使われなければいけない。金儲けのための技術ではないんです」




172: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/16(土) 00:31:27.62 ID:vYSW07vx0

ξ;゚゚)ξ「ウソよ! あなたはそんなことを!」

爪;'―`)「落ち着いて。まずですよ? 僕がツンさんを、レ、レ」

 言い難そうに強姦を示唆しているのを認めると、わたしは先を促した。

爪;'―`)「僕じゃない。あなたがさっきからうわごとのように言っている男が犯人だ」

(メメ・∀・)「『ナイトウ』。ツンの、夫?」

 一旦フォックスが首を縦に、そして思い直したように横に振った。

爪;'―`)「夫だなんて、あり得ないんだ。そんなことは。何故なら彼は」

 一度、決心を新たにするように彼は視線を落とす。
 その刹那、実行には至らなかったものの、わたしは手にしていた拳銃をこめかみに当てようとしていた。
 これより先に何かを聞いたら、崩壊してしまう。

 対象は自尊心でもあり、矜持でもある。
 あるいは築き上げてきた人生そのもの。

 不安しかない。

 フォックスが面を上げた。




174: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/16(土) 00:32:41.61 ID:vYSW07vx0

爪;'ー`)「だって、内藤ホライゾンは連続殺人犯で、刑務所にいたんですよ?」

ξ゚゚)ξ「馬鹿を、言わない、でよ。昨日、家事を任せて、家を出て、ここに来たのよ」

爪;'ー`)「ははは。馬鹿とは辛らつな。もし、あなたの夫が内藤ホライゾンだとしても、それはあり得ません」

(メメ・∀・)「何故だ?」

爪;'ー`)「昨晩、彼は裁判を控えて電話もできなかった。そして、既に彼は」

ξ゚゚)ξ「え?」

爪;'ー`)「自殺、していますから」

 フラッシュバックする、新聞記事の切り抜き。

 わたしは狂っているのか?

 ここに来るまでの記憶は?

 おかしいのはモララーだけじゃなかった?

 奇妙な状態になっていたのは、この町だけじゃなかったのだろうか?




176: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/16(土) 00:35:01.62 ID:vYSW07vx0

 三者三様に口を閉じる。

 フォックス。
 ようやく人心地ついた、落ち着いてくれてよかった、と表情に出ている。
 袖で汗を拭うと、胸元からシャツの中に風を入れ始めた。

 モララー。
 これは、何を信じていいかわからない、誰が真実を語っているのかわからない、といった疑心の顔色か?
 失血のためか、頭をぐらりと揺らして、金網の上にしゃがみこんでしまった。

 わたし。
 世界が、この瞬間に終わってしまえば、何も考えなくて済む。
 それだけを考えて、唇を閉じていた。

 睨み付けるようなモララーの視線が左から。
 穏やかなフォックスの視線が真正面から。
 わたしへと突き刺さり、あるいは、かけられた。

ξ゚゚)ξ「ブーン?」

 思い返す「夫」の言葉が頼りなく、遠い。




179: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/16(土) 00:36:38.01 ID:vYSW07vx0

爪'ー`)「ツンさん。話は後でいいんです。とにかく治療を」

(メメ・∀・)「……」

 階段へと再び誘う白衣の男、フォックス。
 そう、そちらへと行けばわたし達は助かる可能性がある。
 輸血も地下で行えるかもしれない。

 さあ! と促すフォックスがいる。
 モララーがわたしの手から拳銃を取った。
 そして、一瞥すると片足で軽く飛びながらフォックスの後を追う。

(メメ・∀・)「おい、来ないのか」

ξ゚゚)ξ「わたしは……」

爪'ー`)「大丈夫ですよ。この先は安全です」

(メメ・∀・)「……」

 躊躇というよりも、思考が停止している。
 助かることや、彼を殺そうとしていたことさえも、意識の外へ放棄している。




180: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/16(土) 00:39:16.36 ID:vYSW07vx0

 拳銃の内部機構が小さく音を立てた。
 見ればモララーが残弾数を確認している。
 少しした後、マガジンが元に戻された。

爪'ー`)「こちらへ」

 もし、フォックスの仲間がいれば、弾薬も補給できるだろう。
 渡りに船、というのがこの状況なのだろう。
 日本人の言葉は的確だ。

ξ゚゚)ξ「モララー、わたしは」

(メメ・∀・)「……」

爪'ー`)「どうしたんですか?」

 ぐ、と喉元に吐息を溜めて単語を選ぶ。
 ぼんやりと見える金網の目。
 そこから視線を上げて、フォックスの顔を見据える。

 婚約者、フォックス。

 彼が婚約者だった?
 分からない……。




182: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/16(土) 00:41:05.04 ID:vYSW07vx0

ξ゚゚)ξ「わたしは」

 何を言ったら。

(メメ・∀・)「ツン、どうしたんだ」

 目線が定まらないモララー。
 わたしがきちんと見えているのだろうか。
 耳は――

 めりめり、めりめり。

爪'ー`)「!」

 フォックスが何事かを叫ぼうとする。




184: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/05/16(土) 00:42:43.88 ID:vYSW07vx0

 めりめり、と鉄錆びが下から上へと失われていく。


 世界に逆方向の変調が起こり、白衣の男は消え去ってしまった。


【Save】




5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 21:33:44.88 ID:ZENPWxCt0

【Load】


 痛くて苦しいのに、男と女は胸まで締め付けられる。


 ぼろぼろの身体と、ずたずたの心。




7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 21:34:34.41 ID:ZENPWxCt0

 しけった壁紙が剥がれるような変調音でなく、一瞬の暴風。
 ぶわ、と病院内に一陣の風が訪れ、金網も錆びも、赤も黒も消え去った。
 そして、慌てた様子だったフォックスさえも。

 病院の中に暗闇が戻った。
 バッグから懐中電灯を取り出し、スイッチを入れる。
 スライド式のそれが、手に付着した血液で粘ついた。

(メメ・∀-)「……っ」

 モララーがバランスを崩しかけていた。
 すぐに腕を彼の脇に差し込む形で支えに入る。

ξ ゚)ξ「大丈夫?」

 彼からの抵抗は一切なかった。
 ちょっとした礼さえも、同じくなかった。

(メメ ∀・)「ああ」

 短い受け答えだけが一往復する。




8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 21:35:55.49 ID:ZENPWxCt0

 モララーは何度か深呼吸をすると、なるたけ滑らかに喋ろうとする。

(メメ ∀・)「俺の時もお前はこんな気持ちになったのかな」

ξ ゚)ξ「……錯乱していた時のこと」

(メメ ∀・)「錯乱、か。いや、思い違いかもしれない」

 彼は、息子の死や自らのことをすっかり「思い違い」していた。
 投獄され、精神状態に変調をきたし、そして記憶に齟齬を起こしたのかもしれない。
 では、わたしはどうだ。

 わたしに夫がいたかどうか、確証が持てないでいる。
 先ほどの、自らを婚約者であるとする発言も否定しきれない。
 物的な証拠、結婚指輪の所在も不明。

 裏付けとなる何かを待っていても、周囲に広がる闇は何も返してはくれない。

(メメ ∀・)「さ、さっきの、男に、会いたいか」

 足元に落としていた鉄パイプを拾おうとすると、そんな問いがかけられる。




9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 21:37:52.38 ID:ZENPWxCt0

ξ ゚)ξ「わからない」

 本当に、わからない。

 暗闇、無音、緊張、負傷、失血。
 重なる要素が混乱を助長させ、痛覚信号とともに口を鈍らせる。
 論理が通用しない事象を余計に迷走させている。

 辛うじてモララーによって孤独が要因に含まれていない。
 そのために完全なる狂気に陥ることはなかった。
 しかし、

ξ ;)ξ「ほ、本当に、何が何だか、わからない」

 どうしてここに来たのか。
 何故わたしがこんなひどい目に遭うのか。
 苦痛や恐怖にさらされる現状に意味があるのか。

(メメ ∀ )「……俺もだ」

 モララーはそう呟いてから、階段への扉を開けた。




10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 21:38:48.14 ID:ZENPWxCt0

 捜し人との遭遇によって揺らいだ感情が、この町へと来た原初の目的意識を甦らせた。
 しかし、それは本当に正しいものだったのか。

 子供の声が時々、頼りなく頭に響く。

 では、この声については?
 彼、あるいは彼女を助けたいという気持ちは、偽りではない。

 フォックス・カウフマン。

 彼の言葉を信じて、着いていくべきだったのだろうか。

 モララー。

 彼は自らも危険へと飛び込む意志があることはわかっている。

 わたしはどうするべきか、何を――特に自身を――信じるべきか分からないまま、病院の深奥へと進んでいく。




11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 21:39:42.78 ID:ZENPWxCt0

 徐々に地下へと足を踏み入れていく。
 ひどく暗い視界と、自分達の足音が反響によって気分が悪くなる。
 いや、それが直接の原因ではないのかもしれない。

 わたしもいくらかの出血と多量の発汗により、水分が失われている。
 意識が朦朧としてきている。
 加えて、忘れることのできないフォックスの言葉が頭にちらつく。

ξ゚ )ξ「モラ゙……ッ、ン、モララー、大丈夫?」

 喉がいがらっぽく、発声が億劫になっている。
 気を抜けば階段から落下しそうなほどの消耗状態。
 なんとかモララーの肩を担いで武器を持ってはいるが、いずれもすぐに放り出したいほどだった。

(メメ・∀ )「なん、とかな」

ξ゚ )ξ「とりあえず、下に行けば。せめて輸血をしましょう」

 緊張を維持したままで進むのはかなり危険だ。
 蓄積された疲労がとうとう脚に表れ始め、震えてきている。
 一段下に足を置こうとするのすら危うい。




12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 21:40:49.84 ID:ZENPWxCt0

 先に下の段で待ち、小さく跳ねるモララーを支える。
 持ち物全てが煩わしい。
 べたつく空気すらも重たく感じる。

(メメ・∀ )「俺もだ。俺も、わからないことだらけだ」

 わたしは答えない。

(メメ・∀ )「ここ、に来るまで、は、どうして、いたのか」

 わたしは答えない。

(メメ・∀ )「マタンキが、死ぬ、ほどの価値が、ある、人間だったのか?」

 そんなのこと、わたしには答えられない。

(メメ・∀ )「呼んでる。息子が、呼んでる。やっと、会えそうなんだ。待ってろよ」

 わたしは言葉では応えない。
 代わりに、首に回されていた彼の腕を強く掴んだ。

 彼が没入しようとしている「死」から、少しでも守ってやりたいという気持ちからの行動だった。




13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 21:42:57.42 ID:ZENPWxCt0

 下へ。

 わたしの子供とモララーの子供の声がまた、ぽつり、聴こえる。
 逃げて欲しい、という言葉。
 助けて欲しい、という口調。

 それに強く惹きつけられながら、別のものも胸にあった。

 モララーは当ての無い悔恨を晴らそうと。
 わたしは消えてしまった男を追いかけて。
 どちらも曖昧で、不確かなもの。

 こんな非常の世界に確証を求めるのは、とてつもない愚行だとは知りつつも、
 しかし、自分は先に進まなければならない、という確信があった。

 わたし達は、ふらふら、身体を地下へと埋めていく。




14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 21:43:54.01 ID:ZENPWxCt0

 それから一度折り返し、さらに下り、地階の空間に通じるドアの前に立つ。

(メメ ∀ )「……ヒュゥ……カッヒュウ……」

 小休憩を挟むほどの猶予は無さそうだった。
 座り込んでしまえば二度と立ち上がれない気がする。
 疲労している事実を頭から振り払って、慎重に鉄扉を開けた。

 そして、怪異が待ち構えていた。

 地階にあるべき平坦な床は認められず、そこにあったのは金網の段々。
 左方向に大きく湾曲して、下方へと続いている。
 手摺や外周に所々存在する鉄柵以外に、天井も壁も無く、闇が広がるばかり。

 支柱も無しに独立しているという異常な部分を除けば、これは――

ξ゚ )ξ「螺旋階段……」

 吹き抜けから底は見えず、かなり深くまで下ることになるだろうと予想できた。
 半周ごとに淡い明りを放つランタンが「宙に浮いており」懐中電灯は必要なさそうだ。

 ふと、振り仰げば、くぐった扉の周囲壁面は数十cmのみが残されている。
 階段と繋がって、不自然に浮いた病院の名残……。




16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 21:45:25.00 ID:ZENPWxCt0

ξ゚ )ξ「ッ」

 モララーが大きく前傾し、わたしも引っ張られる。
 2、3段飛ばして下方のステップを踏みしめることで、なんとか持ち直した。

(メメ ∀ )「カハッ……ヒュゥ……ヒュゥ……ゼァ……ヒュッ、ウゥゥ」

 彼の体温が高い。
 怪我に対する反応で、流汗を起こしている。
 呼吸にすらかなり体力を使っているようだ。

ξ゚ )ξ「頑張って」

 ぼんやりとした返事を聴く。

ξ゚ )ξ「歩くわよ」

 時々手摺にもたれながら、わたし達は螺旋を辿る。

 かしん、がっしゃ、かしん、がっしゃ、かしん、がっしゃ。

 わたしが踏み出して、モララーが一歩、跳ぶ。




17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 21:46:49.54 ID:ZENPWxCt0

 半周。

 ランタンの近くで、階段の外周に檻が吊られているのが見えた。
 太い鎖が上方から伸びている。
 空中に隔離された牢屋のような印象。

 中に押し込められていたのは、ひとつの大きなモノと、それに比べて小さなのモノが数十。
 蠢く内容物に眼を奪われて、しかし、見なければよかったと思う。

 そこではグロテスクな、ぬめりに包まれた灰色の皮膚が絡まりあっていた。




18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 21:47:56.38 ID:ZENPWxCt0

「ケァア。ケァアアアアア」

 人間の脚が生えた、胴の短く太い蛇か、あるいは巨大なヒルのような、怪物達。
 後方は尻尾のように尖り、灰色の身体が滑らかな凹凸を持っている。
 それが、

「げあああああうぎゃあああああああ」

 病院の三階で遭遇した脚付きの大玉に、丸っこい頭部を突っ込んでいた。
 正確には、頭を突っ込んで、肉を貪り食っていた。

 みちみち。
 くちゃり。

 徐々に内部へと、文字通り侵食している。

 さながら、卵子に群がる精子の群れ。

 学生時代、発生を学ぶ際に眺めたスライドを思い出す。
 それぞれに生えた脚と大きさ以外、行動の差異はない。

 だが、手を出すことも、それ以上に気に留めるもせずに横を通り過ぎた。




19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 21:49:05.77 ID:ZENPWxCt0

 かしん、かしん、がっしゃ、かしん、かしん、がっしゃ。

 わたしが二歩、踏み出す。

 モララーがゆっくりと手摺とわたしの肩に補助を受けて、跳ぶ。

 かしん、かしん、がっしゃ、かしん、かしん、がっしゃ、ん。

 モララーが金網の階段を少し踏み外してしまう。

 心臓が跳ね上がったが、彼を抱きとめて事なきを得る。

 手摺に沿って左へと緩やかに方向修正をしながら下り、下り、下り、下った。




20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 21:50:15.07 ID:ZENPWxCt0

 二周。

 その部分には、螺旋階段の外周と接続された扉があった。
 ランタンの明かりで、鉄扉に張られた紙切れを見つける。
 それは、登場を期待していた赤い紙。

 ぐらぐらに歪み始めた視界で拙い文字を読む。

[Blad is in here]

 意味を理解すると、すぐドアノブに手をかけた。

 そこには階段の始めの扉と同じく、周辺の壁しか存在しない。
 向こう側に空間がないかもしれず、踏み出せば奈落の底へと落ちるかもしれない。
 薄っぺらいハリボテのようなものの裏に部屋があるという保証はなかった。

 それでも、赤い紙を信じて躊躇せずに中に入った。




21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 21:51:39.06 ID:ZENPWxCt0

 煌々と電気に照らされた、眼が痛くなるような白っぽい部屋。
 青いタイル張りの壁と白のリノリウムが、これまで訪れた場所とは対照的に、かなり清潔だった。
 壁際に寄せられた銀色の冷蔵庫や、ダンボールの詰まれた一角、また、いくつかのスチール棚。

 赤い紙の「Blad」はすなわち「ち」。
 正確には「Blood」、「血」だ。

 部屋に入るなり扉に施錠し、モララーをダンボールの山に座らせる。
 持っていた荷物を全て部屋中央に置くと、棚をあさった。

ξ ゚)ξ「これ、と、これ。あとは、これがあれば」

(メメ ∀ )「カフッ、ゲホッ! カッ……カヒュウ……」

 利き手の指が飛ばされていなくて助かった。
 左手を握り、開いて確認したが、作業に支障は生じないだろう。

 疲労で震える指先が、冷蔵庫の中にあったビニール素材のパックに触れる。
 赤い液体入りのものを2つ掴むと、ぐったりと上を向いたモララーの額に乗せた。

 熱冷ましと、輸血用血液の温度上昇を狙っての行動だ。
 低温のまま輸血してしまえば、体力を消耗してしまう。

 モララーの血液型は訊いていなかったため、これはO型のものだ。
 特殊なタイプで無い限り、血液凝固は起こさないだろう。




22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 21:53:00.06 ID:ZENPWxCt0

 点滴用のスタンドが見当たらない。
 針とチューブ、テープ、包帯はあった。
 オキシドールもわたしがカバンに詰めていた。

(メメ ∀ )「すまっ、ない……ヒュウ……助か、たす……」

 黙らせるようにモララーの口元に手を添えると、彼はすとんと眠りに落ちた。
 ダンボールがソファの役割をして、彼に安息を与えているようだった。
 その間に、包帯を彼の上腕に巻きつけ、駆血帯とする。

 前腕内側を消毒して、浮き上がった血管へと針を打ち、テープで固定する。
 そして、パックを壁の高い位置に貼り付ければ、輸血の準備は完了だ。

ξ ゚)ξ「これで、よし」

 チューブの中をゆっくりと血液が流れ始めた。
 看護婦を現役でやっているからこそ、ぼんやりとした意識でも完遂できた。
 若干の安堵。

 モララーがまだ生存しているのを確認すると、冷蔵庫をさらに探る。




23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 21:54:38.20 ID:ZENPWxCt0

 輸血用の血液、いくつかの移植用臓器。
 保存開始期間を意味する数字の入ったラベル。
 そんなものはどうでもいい。

 求めているのは、もっと単純なものだ。

ξ ゚)ξ「あった……よかった……」

 透明の分厚いビニールに入った、同じく透明の液体。
 一般的に言う点滴だった。

 内容物は、いくらかの栄養物質――血糖値を上げるためのもの。
 そして、ひどく渇望していた水分だ。

 チューブを繋ぐための穴はプラスティックの蓋がされていた。
 半ば強引にそれを歯でくわえて回し取り、よく冷えた中身を飲み始める。

 唇に触れた瞬間から、水分が身体中に染み渡るのがわかった。
 舌にみずみずしさが戻り、喉のいがらっぽさが流れる。
 冷たさが胸を通り、胃の辺りに溜まる。




24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 21:58:12.41 ID:ZENPWxCt0

 夢中になって飲んだ。

 ごくり、と喉を鳴らしながら。

 唇の端を水が流れる。

 呼吸が阻害されて辛い。

 それにも構わず飲む。

 あっという間に一袋を飲み干した。

 次の点滴の袋を取り出し、それも同様に干す。

 床に放ったパックを踏みつけて、もう一袋、と腕を伸ばした。

 そこで、冷蔵庫の取っ手に近づけた手を止める。

 モララーにも分けなくては。




26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 21:59:37.44 ID:ZENPWxCt0

 危ないところだった。
 血を与えたところで水分や栄養が無ければ死んでしまう。
 彼の方が必要だったのに、自分のことばかり……。

ξ ゚)ξ「いけない。彼は死なせたくない。見殺しにしてはいけない」

 彼も下に用がある。
 わたしだけが、わたしだけが。

 わたしだけが、何だ?

ξ ゚)ξ「え?」

 何だ?

 何でわたしはここに?


 保管庫の扉が、がちゃがちゃと揺れる。




27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:00:27.23 ID:ZENPWxCt0

「なんだこれは……。鍵を開けてください!」

 焦ったこの声が誰のものか、判別するのに時間はかからなかった。

ξ ゚)ξ「フォックス、先生?」

「ツンさん!? 良かった! 突然消えてしまったから……」

 そうだ、さっきこの人が階段の入り口で消えてしまったから。
 だからわたしはフォックス先生を探しに来たんだっけ?

「さっきの方もそこに?」

 さっきの方。
 振り向くと壁際には男性。
 どうしてあんなに苦しそうなんだろう。

 輸血まで受けて。
 あれ、足にひどい怪我を負っている。
 さっきの方とは誰だ?

 ぴらり、と空中から赤い紙が現れて、冷蔵庫前に落ちた。




28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:02:04.70 ID:ZENPWxCt0

「とにかく、ここを開けてください! 看護婦達が狂ってしまっている!」

ξ ゚)ξ「看護婦」

 思い出す、その異形との遭遇の瞬間。

 わわわわわ。

 その水中から響く声が耳に残っている。

 どぱっ。

 こちらはショットガンの音だ。

 悲鳴。

 そうだ、わたしはそれを殺した。

ξ ゚)ξ「看護婦が狂ってしまっている?」

 狂った、ということは、元は人間だった?

「早く! 話さなければならないこともあります……」




29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:03:07.11 ID:ZENPWxCt0

 人間を殺した――。
 罪人という単語が浮かぶ。
 思い出される、赤い三角頭と、肉厚の刃を持つ大鉈。

 ぶうん、ごり、ざぎん。

 モララーの足先が真っ二つに割れた。
 噴出した血。
 絶叫に上塗りの、ずん、という重々しい足音。

 彼は現在も治療を待っている。

ξ ゚)ξ「そうだ、モララーに点滴を」

「モララー……。彼は今どうしていますか?」

 急に声が潜められた。
 違和感を覚え、扉に寄って返答した。

ξ ゚)ξ「寝ています。疲れてしまって。怪我もしていましたから」

 ぴらり、背後でもう一度音がする。

「ここに来るまでに三階に行ったんです。そこで僕は、彼を見ています」

 重ねるように鉄扉の向こうから声がする。




32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:04:42.80 ID:ZENPWxCt0

 何のことを言いたいんだろう。
 彼はわたしと一緒にいたのに。

 一緒にいたって、誰と?
 あれ?

 そうだ、フォックス先生に声を返さないと。

ξ ゚)ξ「それが、どうしたんですか?」

 鍵に手を伸ばしながら、わたしも声を抑えて訊いた。
 フォックス先生に詳細を尋ねたかったからだ。

「見ませんでしたか。特別病室で死人を」

 動きを止める。
 思い出される、悲しい光景。
 胸を幾度も切り裂かれた看護婦、イザベラの亡骸。

 後ろで、ぴらり、紙が落ちる音。

ξ ゚)ξ「女性を見ました……」

「女性のものだけ?」

 やたらと明るい電灯の下で体中についた赤を見る。
 乾いてしまったそれは、そういえば、何者かもわからない死体の血液。

ξ ゚)ξ「いえ。もう一人、誰か分からない死体を」




33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:06:21.37 ID:ZENPWxCt0

「では、顔は見ましたか」

 ……?

ξ ゚)ξ「いえ」

 何が言いたい?

「体つきは覚えていますか」

 何だ?

ξ ゚)ξ「それも、分かりません」

 この人は何を――

「それは――」




35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:08:46.86 ID:ZENPWxCt0

 慎重に聴く。


「モララーさんの死体ではありませんでしたか?」


 背後で、衣擦れを聴いた。




36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:09:32.27 ID:ZENPWxCt0



 どくん






37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:10:55.31 ID:ZENPWxCt0

ξ ゚)ξ「え?」

 ゆっくりと、振り向く。

(メメ ∀ )「……」

 男性が身を起こしてこちらを向いていた。
 聴いたのは、姿勢を直す時の音だった。

「モララーさんが、死んではいませんでしたか」

 ダンボールに座ったままの男が、投げ出している傷ついた足を見つめている。
 焦点の合わない眼で、ぼんやりと。




38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:11:48.28 ID:ZENPWxCt0

「ひどく出血して、倒れ伏した。そうではありませんか」

 足の紫になった皮膚、どす黒い断面、縛った紐の白さ。
 乾いた血液がかさぶたのように切り口を縁取っている。

「誰かを守るようにして、たとえば、貴女を守るように死んだのでは?」

 血で固まったズボンの裾、多量の汗で濡れた布地。
 汚れきった衣服を纏った、見知らぬ男性。

ξ ゚)ξ「まさか」

 彼は口を聞かずに自らの足を見つめている。




41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:14:14.85 ID:ZENPWxCt0

ξ ゚)ξ「……」

(メメ ∀ )「……」

 冷蔵庫の低い稼動音だけが静寂を遮る。
 わたしと視線を合わせようとは、彼はしない。
 ただ、うつむいている。

 そうだ、彼はモララー。

「ツンさん?」

 はい、と小さく答えるも、それが扉越しに聞こえたかは分からない。
 声が掠れるのを自覚した。




42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:14:56.38 ID:ZENPWxCt0



 どくん。






43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:16:19.43 ID:ZENPWxCt0

「ひとつ、ただ、ひとつだけ、気になることがあります。
 さっきの彼は、本当にモララーさんなのか。信用にたる人物、あるいは、生物なのか?」

(メメ ∀ )「……」

ξ ゚)ξ「モララーが、死んでいる?」

 ねと、とモララーの口が開かれるのを聴く。
 ぴらり、紙が冷蔵庫の前に何度目かの出現を果たす。

 断続的な、それでいて耳障りな音が、邪魔を……。

 ざわ、ざわ、ざわ。

 煤けていくように背景が黒くボケていく。
 モララーの姿が壁面が消えていくのに合わせて、ぼやける。

 ざわ、ざわ、ざわ。

 電灯を受けてつややかなタイルは、もはやない。
 冷蔵庫や棚も見当たらなければ、光があるかも分からない。

 何もない。




44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:17:00.05 ID:ZENPWxCt0



 どくん






45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:17:42.02 ID:ZENPWxCt0

 病院だ。

「ツンさん、問診表出しておいてもらえるかしら」

ξ゚゚)ξ「……え?」

「どうしたの? 珍しいじゃない、ぼうっとしてるなんて」

「夜勤でもないんだからしゃきっとしないと、婦長に叱られるよ、ツン」

ξ゚゚)ξ「ごめんなさい。どうしたんだろうわたし」

「ほーら、おいでなさった」

「シーツにシワがあったってクレームがありましたよ!」

ξ;゚゚)ξ「す、すみません」

 いつものように婦長のお小言攻撃!
 たまんないなあ、もう。




46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:18:31.64 ID:ZENPWxCt0


***

 息の詰まるような、空気の停滞した病室。
 暗い部屋にひとつの寝台とサイドテーブル、点滴スタンド。

「――――」

 声無き悲鳴を上げる、包帯に巻かれた人影がベッドにある。
 白かったはずの包帯は滲出した体液に汚されている。

「――――」

***





47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:19:13.87 ID:ZENPWxCt0

 友達とゆっくりお昼。
 と言っても、もう午後三時だけど。

「あんなにネチネチ言わなくてもね!」

ξ゚゚)ξ「……」

「ツン? おかしいわよ、さっきから」

ξ;゚゚)ξ「あ、ごめん聞いてなかった」

「ひっどい。久しぶりにお昼一緒に食べてるのに」

ξ゚゚)ξ「久しぶり。そうね、久しぶりだったわね」

「ちょっとしっかりしなさいよ。それにしても、婦長も、ねー。あれじゃ婚期逃して当然だよね」

ξ゚゚)ξ「今年40歳だったかしら?」

「自称、ね」

 くすくす笑いあって、コーヒーを一口。
 やっぱり楽しく過ごすには噂話が最適かな。




48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:19:58.68 ID:ZENPWxCt0


***

 すすり泣くその声は、少女のものだと分かった。
 薬がサイドテーブルに置いてあり、その横に、ファイル。

【アレッサ・ギレスピー】

 少女の名前だろうか。
 しかし、全身を覆われた彼女の姿は惨い。

「――――」

***





49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:21:07.98 ID:ZENPWxCt0

 近況を報告。
 そしたら、もう大爆笑。

ξ゚ー゚)ξ「やだ、笑いすぎよ」

「だって、おかしいじゃない!」

ξ゚ー゚)ξ「あの子、真顔で言うのよ」

「ますます笑える!」

ξ゚ー゚)ξ「……まあ、確かにね」

「あ、ほら。お呼び出しよ。行ってらっしゃい」

ξ゚゚)ξ「こら、そのニヤケ顔見られたら怒られるわよ!」

「はいはい」

 ロッカールームから出頭。
 あんまり休めないのがこの仕事のツライところ。




50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:21:49.13 ID:ZENPWxCt0


***

 意味のある言葉が聴こえたように思える。
 おそらく、こんな感じだ。

『あなたも利用されている』

 背後で扉が開かれた。
 見たこともない男だ。

(´・_ゝ・`)「聖女、ご機嫌は」

 少女が叫ぶ。

***





51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:23:17.93 ID:ZENPWxCt0

 神妙な面持ちの先生。
 手には、小箱。

爪'ー`)「あの、これ受け取っていただけますか」

ξ;゚゚)ξ「え、でも、そんな。高価なものを」

爪'ー`)「婚約者としてこれくらいはさせてください」

ξ゚゚)ξ「先生……」

爪'ー`)「ちょっと早いですが。さあ、手を」

ξ*゚ー゚)ξ「……はい」

爪'ー`)「では」

 リングについた宝石は、煌いて美しかった。
 耳まで赤くなるのが分かる。




53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:24:59.21 ID:ZENPWxCt0

ξ゚゚)ξ「……?」

爪'ー`)「どうしました?」

ξ゚゚)ξ「あの、何故左手の薬指に」

爪'ー`)「婚約指輪ですから」

ξ゚゚)ξ「いえ、その」

爪'ー`)「ふふふ、なんです? 言ってみてください」




54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:25:39.61 ID:ZENPWxCt0

ξ゚゚)ξ「わたしは今、右手を出したのに」

爪'ー`)「?」

ξ゚゚)ξ「左手に指輪をすると邪魔になると」

 言ったのは、誰だ。

 利き手にリングをはめる。
 それはよくないかもしれない。

 それを言ったのは誰だ。

 それは誰だ?




55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:26:29.20 ID:ZENPWxCt0



 うーん、そっちだとちょっと邪魔になる。



 なんだろう?
 何がおかしいんだ?



 そうか、左手だと邪魔になる。






56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:27:09.74 ID:ZENPWxCt0

(メメ ∀ )「眼を覚ませ、ツン」


 わたしは、急激な視界の消失にさらに困惑する。


 眼を、覚ませ?




57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:28:03.79 ID:ZENPWxCt0

 身体がひやりとする。
 暗い。
 明かりは?

 少しして自分が床に横たわっていたことを知った。
 右手をついてしまい、痛みに呻く。

「おい。おい。ツン、そこにいるか」

「モララー?」

「どうなってる。俺は、いつからここにいた?」

 それなりに流暢な口調を取り戻している彼の顔が暗闇のせいで見えない。

 左手を床に這わせる。

 点滴類のビニール、滑らかなリノリウムの床、冷蔵庫のごく短い足。
 使い捨ての注射針が入っていたパック。
 それらを除けると、プラスティックの太いグリップに当たった。




58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:28:58.44 ID:ZENPWxCt0

 地面に座り込んだままスライド式スイッチをずらし、円形の光を投射する。

(メメ・∀-)「まぶ、しいな」

 眼前に腕をかざしたモララーがダンボールの上に座っていた。
 前腕からは赤いチューブ。
 いや、赤の液体が通っていた、ビニールの管。

 輸血は完了したらしい。
 あのペースだと、終了するまでに一時間ほどかかるはずだった。
 ということは、その間見ていたのは……。

ξ ゚)ξ「モララー、あの、あなたは死ん――」

(メメ ∀・)「驚いた。同じ夢を、見て、いたのか?」

ξ ゚)ξ「途中まで? ……夢?」

 そうさ、と彼が身を乗り出した。

(メメ ∀・)「死んでいたら、こんな、苦痛も覚えない」

 女房を夢に見て苦しむはずがない、と言葉が続く。




61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:30:16.67 ID:ZENPWxCt0

 馬鹿げている、という口調で言い放つ彼の顔色は良くなっていた。
 万全とは言いがたいが、瀕死の状態は脱したらしい。

ξ ゚)ξ「それもそうだけど……。いえ、それよりも」

 どこからが夢――むしろ、幻影だったのか。
 境目の無い世界転換は恐怖。
 いつどこからわたしが狂ってしまっているのか、分からなくなるのだから。

 清潔で正常な病院内でのプロポーズ。
 あれは記憶の再現なのか。
 それとも、誰かの創作か。

(メメ ∀・)「なあ」

 挿入されていた、謎の病室に廻らせていた思考が、中断される。

(メメ ∀・)「俺の、過去、確認させてくれないか」

ξ ゚)ξ「過去」

(メメ ∀・)「俺が俺であると……確認させて、くれ、ないか」




63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:30:59.24 ID:ZENPWxCt0

 黙って首を縦に振ると、彼は静かにそれを始めた。
 少年時代から赤裸々に語られる彼の歴史。
 そして、件の罪に話は移行していく。

(メメ ∀・)「強盗殺人犯。子供は一人いた。二年前、ブタ箱に入るまでサイレントヒルに。
      高校時代、に、知り合った女と結婚、でも妻は、マタンキの出産後死んだ。周りが死んでばっかりだ」

 俺のせいで、と辛そうに付け加えるモララー。

(メメ ∀・)「そこからは分からない。気がついたら息子に呼ばれて戻ってきていた。
      お前とこの町の路上で出会い、助け、それからは一緒に行動していた」

 短く息を吸い、区切ってから、

(メメ ∀・)「今。俺は、怪我もするし、血も流す。輸血、されなきゃ死んでた。死んでないってことは、つまり」

ξ ゚)ξ「……分かった。あなたは、生きている」

(メメ ∀・)「俺は生きている。俺は、そう思っている」

 それが彼の中の、自身に関する記憶。




65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:32:48.67 ID:ZENPWxCt0

 促されるでもなく、わたしは自分の番だと悟った。

ξ ゚)ξ「わたしは、ツン。ファミリーネームは……」

 しかし、早速言葉に詰まる。
 ファミリーネームはいつのものだ。
 それに、結婚しているとしたら、どちら?

ξ ゚)ξ「わたしは」

(メメ ∀・)「フルネームは、ツン・ナイトウ。俺は、そう思っている」

 それが彼の中の、わたしに関する記憶。

ξ ゚)ξ「モララー」

(メメ・∀・)「あの男の言葉、は、この際どうでも、いいんだ。お前の言葉が聞きたい」

ξ )ξ「……わたしは」

 ぐ、と健全な左と欠けた右の、両手を握り締めた。




66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:33:37.34 ID:ZENPWxCt0

ξ )ξ「わたしは、ホライゾン・ナイトウの妻、ツン・ナイトウ。そう、ナイトウ……」

 涙腺がじわりと緩んだ。
 思い出せる限りの記憶を、紡いでいく。

ξ )ξ「出会いはサイレントヒルのバー。赴任してから一年半が経って、遊びに行った場所。
      そこで彼はにっこり笑って声をかけてきたの」

 身の程知らずな男だと思った。
 日系人はあまり好きじゃなかったからだ。
 なよなよして、顔はどこか抜けていて。

 特に、ホライゾン、ブーンはほんわかした雰囲気で、一見間抜けだった。
 でもそうじゃなかった。
 芯に強さがあって、教養もあって、そして何より優しかった。




67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:35:14.25 ID:ZENPWxCt0

 連続殺人犯で、わたしをレイプした?
 そんな人間じゃない。
 少なくともわたしが覚えている彼じゃない。

 ありえない。

 フォックスにプロポーズを受けたというのも、同様にだ。
 彼との記憶は、ほとんどが黒に塗りつぶされて、思い出せない。
 それはむしろ、わたしが無意識下に消去したようでもある。

 その相手が婚約者だった?




68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:36:13.25 ID:ZENPWxCt0

 なのに、ホライゾン・ナイトウとの思い出はいくらでも甦ってくる。

 日本の風習を教えてくれたのは彼。
 料理を失敗しても笑ってくれたのも。
 食事をキャンセルすることになって謝った相手も。

 公園に行ってゆっくり散歩したのも。
 こっちで売っている日本食の値段に驚いていたのも。
 ケンカをして、先に謝ってきたのも。

 そして、指輪をくれたのも。
 全部、彼だ。
 ホライゾン・ナイトウだ。

ξ;;)ξ「会い、たい」

 そう、わたしは思った。




71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:37:57.90 ID:ZENPWxCt0

 結婚指輪をはめていたはずの、そして薬指の欠けてしまった「右手」を、胸に当てた。

 左手の邪魔にならないように、彼が、そうしてくれた。

――指輪する手が普通とは違うからって、どうってことないお?

――でも、なんだかおかしいわよ。

――僕が左に、ツンが右に。そうしたら、手を繋いだ時に指輪もキスできるお!

――……馬鹿ね。

 あの、プロポーズの台詞と笑顔。

 胸がきゅうと締め付けられ、息が苦しくなる。

 その気持ちが真実かどうかは、霧に――この町がそうであったように――包まれている。

 切なさを覚える原因が分からない。

 だから、余計に苦しい。




72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:38:54.22 ID:ZENPWxCt0

(メメ ∀・)「指輪を、右にというのは、確か、か」

ξ; -;)ξ「……記憶では、夫がそう提案したの」

 だから、フォックスに言われて欠けてしまった右の薬指を見た。
 わたしが、夫の行動を受け入れて、そこに指輪をしていたから。
 それが最も「右手を見た」理由として違和感がない。

 と、自分に言い聞かせる。

(メメ ∀・)「この町は、異常、だ。俺だってかなりのことが、記憶から、抜けている。
      ……それが、お前の、記憶の全てか?」

ξ; -;)ξ「そうね……。これが、全て」

(メメ ∀・)「……信じよう」

 不審な存在となったフォックスへの強い疑念。
 湧き出すナイトウへの気持ちは、愛おしさ。

 どこか遠くから保管庫へと響いてくるような、弱々しい声が聴こえる。

 入り混じったふたつの感情を抱えながら、それに耳を傾けた。




74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:39:40.15 ID:ZENPWxCt0

――ママ、逃げて。

 この声は遥か下から、床を通して聞こえてくる。

――お願い、逃げて。

 冷蔵庫の近くに落ちていた赤い紙も同じことを言っている。

――ママ。

 そうだ、わたしはこの子に会いたい。

 もしかしたら、わたしはフォックスを殺すのかもしれない。

 でも、そんなことより、助けを求めるこの子を抱きしめてあげたい。
 愛し合った夫がいて、そして彼との子供だと信じて、優しく。

 赦されなくてもいい。
 罪を背負っていても、子を愛してあげたい。

 今は、それだけが望みだ。
 もう、これから先は迷わない。




75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:40:26.85 ID:ZENPWxCt0

 懐中電灯を向けると、モララーもぼんやりと宙を仰いでいた。
 その眼に、光るものが認められた。

(メメ ∀ )「マタンキ。苦しい、思いを、したな。待ってろ。いま、いく」

 彼は、息子に会ってどうしたいのだろう。
 会えば満足するのだろうか。
 それとも、「一緒の場所」へ行こうするのか。

 わたしが何かを訊く前に、彼は立ち上がった。
 片足立ちとなった彼に無言で肩を貸した。

 武器と明かりさえあればいい、という意見が一致した。
 螺旋階段へと戻って、装備品を大雑把に整理した。

 わたしの所持品は、鉄パイプ、ポケットに懐中電灯、腰にメス。
 一方、モララーは拳銃とマガジン、ベルトにやや大振りなナイフ。
 他はまとめて、保管庫の扉の前に置いた。

 かしん、がしゃん。

 このテンポは始めよりいくらか軽快となっていて、半周をすぐに下った。

 ランタンの明かりに照らされて、吊られた牢屋が再び見えた。
 中身はさっきの脚付き大玉と脚付きヒルだ。




76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:41:59.37 ID:ZENPWxCt0

「ケアァアアアアアアアアア。キュアエアアアア」

 擬似・精子同士が共食いをしている。

 大玉は灰色の表皮の上に厚い皮膜を作っていた。
 それを食い破ることができず、精子様の怪物は困惑したらしい。

「ゲエェェェエッ! グエェエウウ!!」

 黒い液体が染み出して虚空に垂れ落ちる。
 わたし達が見ている中、脚付きヒルがまた一匹死んだ。
 残ったのは一匹。

 どこかのテキストで見たような光景だ。

 卵子は受精後、透明帯と呼ばれる皮膜を作る。
 そうして卵子と結合できなかった精子は、それに阻まれ死滅するのだ。
 もっとも、精子は共食いなどしないのだが。

 階段を下りながらもそちらを眺めていると、脚付きヒルが檻の鉄格子に身体をぶつけ始めた。
 寸詰まりに太った蛇のような身体をしならせ、何度も。
 十度目ほどで飽きたのか、今度は頭を格子の隙間にねじ込んでいく。




77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:43:21.87 ID:ZENPWxCt0

 ぐり、めり、ぐりぐり、ずるぅり。

 わたし達の歩みが止まってしまった。
 呆気に取られてしまった。
 ぬらりとした灰色の身体が、鉄格子を滑り抜けて、落ちたのだ。

「クアアケケケケケケケケ。けけけけけけ!! けっけっけっけえええええ――」

 後を引く鳴き声を発して、落下。
 落下。
 落下。

 すう、と姿が闇に吸い込まれていく。

 そして、どたん、という鈍い着地音。

 モララーが、歯軋りをして呻く。

(メメ ∀ )「畜生……。畜生。クソ、クソ、クソ!」

 「誰か」が「屋上から」落ちたのを直視したように、呟き始めるモララー。




79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:44:58.28 ID:ZENPWxCt0

(メメ ∀;)「マタンキ。畜生。畜生! マタ――」

 悪態をつくモララーが口をつぐんだ。
 それも無理からぬことだった。

 螺旋階段の外周を雨のように、脚付きのヒルが落下していったのだから。
 しかも、その姿が途中で少年の姿に変わるのだ。
 それが特定の人物の外見を模しているとなれば、ますます。

 水気を含んだ雪の塊が、ぼたぼた降っているような光景。
 見えない闇に吸い込まれていく一粒一粒が、小柄な人の形。
 一言でその様子を表すならば「最悪」だった。

 落ちてきた一体の怪物、あるいは、一人の少年と視線がかち合う。


          (・∀ ・)


 モララーの息子と視線がぶつかる。




80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:46:40.27 ID:ZENPWxCt0

no title




81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:47:23.52 ID:ZENPWxCt0

no title




83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:48:23.13 ID:ZENPWxCt0


 ばたばたばたばたばたばたばたばた。

 着地、あるいは衝突が間断なく続く。

 ぐしゃ、べちゃり、どたん、どった。

 耳を澄ませば、それぞれが水っぽく、あるいは、重々しく聴こえる。

 続く、続く、続く。





85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:49:34.28 ID:ZENPWxCt0

ξ )ξ「……」

(メメ ∀ )「くそ。くそ……マタンキ……」

 二年も昔に芽生えた罪悪感が強力に根を伸ばし、わたしの精神を縛っていく。
 未だに癒えない心の傷が、無理矢理こじ開けられる。
 眼を背けても、外壁の無い螺旋階段では意味がない。

 どこを見ても彼は落ちていく。
 どこからでも、マタンキ君は笑って落ちていく。
 わたし達を見て、空っぽの笑みを浮かべるのだ。

 がきん、と異質な存在感の主張。

 受精卵と化した脚付き大玉の入った檻が大きく揺れた。

 がががががががが。

 そのまま、鎖が伸びて下方へと急速に落下する。

 がっきん。

 そして、唐突に停止した。
 螺旋を三周した後、わたし達が横を通過する辺りだ。




86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:50:49.25 ID:ZENPWxCt0

 ぼたぼたと少年もどきが落ちていく中、階段を下って檻の近くに到達する。
 鉄格子の中身は成長していた。
 生理的嫌悪を催す、微細な穴を持っていた大玉は、「細胞分裂」していた。

 胎児へと発生する過程の、未成熟な胚。
 エビのように縮こまった体は灰色で、巨大だ。
 成人男性が膝を抱えているような大きさ。

 ぬめった表面に明かりを当てると、てらてら光を返した。

(メメ ∀ )「随分、早く、成長しているな」

ξ )ξ「そうね」

 がきん。

 がりがりがりがり。

 吊られた牢屋がさらに深部まで下ろされる。
 そして、鉄のひしゃげる音。
 どうやら、半ば落とされる形で檻は底に着いたらしい。




88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:51:47.93 ID:ZENPWxCt0

 降り続ける人体の雨に慣れてしまった。
 害はなく、足元さえ見ていれば辛うじて耐えられる。
 わたしはモララーの補助に努めた。

 長い階段だ。
 気が狂いそうなほどに長い。
 気が狂っていても気付けないほどに長い。

 妙な間隔のステップ音が上方から聞こえてきた。

 仰げば、闇に紛れて白っぽいものが階段を下りているのが分かる。
 歩き方から察するに、あれは、さっきまで戦っていた相手。
 数は、三体。

(メメ ∀・)「まだ、ナースの生き残りが、いた、か」

 手摺を支えにした、不安定な足取り。
 ショットガンのような長い物は持っていない。

ξ ゚)ξ「急がないと」

 螺旋の吹き抜けを見下ろすと、ランタンはあと10個。
 つまり五周分、高さにして30mほどか。
 底部に何かがあることを期待して、段を降りる速度を上げた。




89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:52:48.29 ID:ZENPWxCt0

 あと二周ほどというところで、底が見えた。
 打ちっぱなしのコンクリート床。
 そこに、赤い紙の張られた鉄扉も確認できる。

 追っ手のナース達は三周と半分、上にいる。
 なんとか逃げ切れるかもしれない。
 今やりあいたくはない。

 ぼんやりと響く声を聞く。

――助けて。

 今までの声だけじゃない。
 複数の子供の分が重なっている。

(メメ ∀・)「マタンキだけじゃない……」

ξ ゚)ξ「そうね……。何人もいる」

 ようやく聞けた、本当の気持ち。

 待ってて、すぐ行くから。




91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:54:15.49 ID:ZENPWxCt0

 螺旋階段が終わった。

 じっとりと汗をかいている。
 無理を押してペースを上げただけの疲労は押し寄せていた。
 わたし達は上がった息のままで、ドアを目指す。

 背で聞いていたナース達の足音が、金網のステップのそれから硬質なものに変わる。

 彼女らも、到着してしまった。

 モララーが拳銃を腰元から引き抜き、振り返る。
 身体を支えてやり、わたしも鉄パイプを握り締めた。

 だが、看護婦達はこちらに来ない?

 彼女らが向かった先は、階段外周に相当する方向。
 少年の雨が降り注いだところは、一様に黒っぽい肉片に床が覆われていた。
 不浄な体液を踏みながらナースが歩み寄っていくところには――

 そこには、崩れかけた鉄格子が地に落ちていた。
 それはもちろん、さっきからわたし達に着いてきていた、宙吊りの牢屋。
 いや、宙吊りだったもの、だ。




93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 22:55:12.91 ID:ZENPWxCt0

 看護婦の一人が手にした何かを振り上げた。
 そのまま、ぐらりぐらありと近づいていく。
 残りの二人も遅れてそれに倣った。

 そちらから、赤ん坊の泣き声。

ξ ゚)ξ「!」

 巨大な赤ん坊がそこにいた。

(メ; ∀・)「おい、ウソだろ」

 モララーがグロテスクな幼児に驚く。
 だが、わたしはその手前に注目していた。
 先行していたナースの手にした刃物の煌き――メス――だ。

ξ; )ξ「やめて!」

 叫びこそしたが、身体は動かなかった。

 本来、子宮内で胎児は泣かない。
 わたしのお腹にいた子は、呼吸すら許される前に殺された。
 なのに、何故「あれ」が記憶の細胞塊と被るんだろう。




96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 23:02:59.61 ID:ZENPWxCt0

 腫れぼったいまぶた、ちょっとふやけた手や足の先。
 額にのみ、べっとりと張り付いた髪の毛が少し。
 丸めた背中と、腹から伸びるへその緒。

「ふゃあ、おぎゃああ」

 へその緒は、牢屋の天井に続いている。
 それは、真っ暗な空から黒い地面に下ろされた鎖だ。
 この暗闇の、それも鉄製の子宮内に「あれ」はいる。

「ふぎゃ、ふぅあああ」

 無情な仕打ち。
 「あれ」は無抵抗だ。
 眼も、耳も利かない。

 カツンカツン、とローヒールの靴がコンクリートを叩いて近づく。

 なのに、看護婦がメスを握った手を叩きつけようとしていた。




97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 23:04:17.84 ID:ZENPWxCt0

 人の持った鋭いものが柔らかいものに刺さると、鈍い音がするらしい。
 勢いがあるほど、行為者の体重があるほど、それは大きい。

 それは、刺さった刃物でなく、握った手が対象にぶつかる時に起こるからだ。
 刺突ではなく、ほとんど殴打による衝撃音。

 そんな分析をして、心の平静を保とうとした。


 どん。


 メスが引き抜かれる前に、黒い体液が噴出す。

 そういえば、マタンキ君に似た雨は止んでいるな……。

「っぎやぁ――――っ」

 刹那の思考を裂くように、赤ん坊が耳をつんざく悲鳴を上げた。




98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 23:05:37.47 ID:ZENPWxCt0

 がりがりがりがり。

 がしゃあん。

 それが、七回続いた。
 螺旋階段の八方を囲むようにして鉄の檻が落下してきたのだ。

 看護婦達が一個目の檻から身を引いて移動を始めた。
 右隣に、または、その逆方向に、あるいはわたし達に向かってそれぞれが歩きだす。

 ……残された、刺し傷だらけの肉は泣き声を上げなくなっている。

 最短で右方の檻に辿り着いた一体が、産声を上げる灰色の肉塊にメスを立てた。

 阿鼻叫喚とはこのことだ。
 飛び散る体液に悲鳴、裂ける肉、小さく鋭い刃。

ξ;;)ξ「こんなこと、やめて」

 こちらに来た看護婦が、数歩の距離を残して立ち止まっていた。
 彼女は右手にメスを持ち、空いた左手を差し伸べてくる。
 例の泡立つような鳴き声を発しながら。




99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 23:07:09.83 ID:ZENPWxCt0

 指差すのは、わたしの腰元にあるもの。

 鞘に収まった医療用のメス。

 言わんとすることは分かる。
 だが、絶対にやりたくない。

ξ;;)ξ「いや! そのためにこれを握るんじゃない!」

 灰色の皮膜に覆われた顔面が、横に小さく傾く。
 「なんで今更、躊躇するの?」
 そんな言葉が聞こえてきそうだった。

ξ;;)ξ「違うの! 違うのよ!」

 からん、鉄パイプを取り落とす。
 精神に冷たい刃を入れられたように、胸が切り裂かれる思いがする。
 どんな暴力よりも痛く苦しい、こんな恐怖は初めてだった。

 看護婦がわたしの参加を求めているのだ。

 一緒に赤ちゃんを殺しましょうよ、と。




100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 23:07:50.77 ID:ZENPWxCt0

(メメ ∀・)「ツン。もういい。放っておけ」

 肩を貸しているわたしの方が、モララーに導かれる。
 彼はどうやら、銃弾を無為に使ってまで止めることでもない、と判断したらしい。

(メメ ∀・)「操ら、れているのか、狂っている、のか」

 不思議そうにわたし達を見送るパペット・ナースが、新たな赤ん坊に向かっていった。
 ちらりと見れば、他の二体は、それぞれが担当した中絶対象を殺しきってさらに移動中だ。

 「こわいおんな」達は、嬉々として殺戮に殉じているようだった。

 折れてしまっても、メスを振り下ろし続ける看護服を着た異形。

 檻の中で死の予感すらなく、ただひたすらに殺されていく巨大な灰色の異形。

 この光景は一生忘れらないだろう。
 たとえ何年経っても思い出され続けるはずだ。
 「こわいおんな」は、わたし自身でもあった、ということを。




101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 23:08:41.50 ID:ZENPWxCt0

 赤い紙を扉から剥がし、読み上げる。

ξ )ξ「『ありがとう、でもごめんなさい』」

(メメ ∀ )「『にげてほしかった。でもたすけてほしかった』」

ξ )ξ「『もう、かえれないかもしれなくって、ごめんなさい』」

(メメ ∀ )「『きてくれて、ほんとうにうれしかった』」

 役に立つ情報ではない。
 だが、わたし達が聞きたい言葉ではあった。

ξ )ξ「さあ」

(メメ ∀ )「ああ」

 おそらく、これは地階で開かずの間となっていたであろう扉。
 病院に勤めてきて、一度もその向こうを見たことがない。

 未知であるとの覚悟も相まってだろうか。
 何が起きても、もう驚かない気がする。
 どこへ繋がっていても、不思議であるとは、思わない。




102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 23:09:45.93 ID:ZENPWxCt0

 膨れ上がった悲しみを抱えたまま、ドアをくぐる。


 その先は、鉄と錆びにまみれた、暗澹たる「遊園地」だった。


【Save】




103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 23:10:28.65 ID:ZENPWxCt0



 ツンが持っていたカバンの中身。






104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 23:11:14.31 ID:ZENPWxCt0

【免許証】

Name Tsun = (※)

(写真)

Sex Female


 ※の部分の文字は歪められて読めない


【財布】

 レシートは入っていない。
 彼女はこまめに家計簿をつけるためだ。
 所持金、272ドル79セント。
 電話用にクォーターを3枚持ち歩いている。




105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 23:11:59.93 ID:ZENPWxCt0

【オキシドール】

 過酸化水素水。消毒用に利用されるもの。
 理科実験でもカタラーゼなどを触媒にして酸素を発生させることがある。
 強い還元力を持ち、粘膜に付着すると失明の恐れがある。


【ソーイングセット】

 彼女がハイスクール時代に購入したもの。
 黒のプラスティックケースに入っている。
 縫い針・まち針が数本と白・黒の糸がふた巻き。
 よく使い込まれている。




117: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 23:47:13.65 ID:ZENPWxCt0

【回転式拳銃】

 護身用に携帯される、銃身の短いリボルバー。
 経口は小さめで女性でも扱いやすい。
 彼女が人に向けたことは、一度もなかった。
 予備の弾丸はない。


【応急セット】

 スプレー式の消毒液。
 絆創膏数種類。
 包帯2mが二本。
 安全バサミが一本。
 酔い止め程度の薬が少し。




118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 23:48:20.19 ID:ZENPWxCt0

【ビスケットの空き袋】

 中身は既に無い。


【ペットボトル】

 中身は既に無い。


【携帯電話】

 まともに機能しない。


【腕時計】

 全ての針が勝手に動き続けている。




119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 23:49:21.35 ID:ZENPWxCt0

【拾った画用紙】

(涙を流す少年と少女の周りに、多数の黒い人影)

(変化が起きている。

 少女の片手の指が不恰好に欠けている。
 少年の片足から流血が起きている。

 多数の黒い影は、子供の影だ。
 生きたくても生きられなかった子供だ。

 中心の二人に、亡霊が群がっている。
 あるいは、まとわりつこうと機会を伺っている。

 いずれにしても、それらは虚ろな眼つきで漂っている)




120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/04(木) 23:50:16.90 ID:ZENPWxCt0

【赤い紙が数枚】

 ありがとう

(今まで書かれていた文字が全て、それになっている)


【少女の人形】

 彼女は荷物の中にこれが入れられたことを知らなかった。
 これを捜している人物がいることも知らない。




5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 22:26:30.99 ID:JGmBYR/70

 楽しいな、嬉しいな。


 ○○と一緒に行く遊園地。


【Load】




6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 22:27:42.78 ID:JGmBYR/70

 そこが遊園地だと理解するのに少し時間を要した。
 遠くにローラーコースターが見えなければ、しばらく状況が把握できなかっただろう。

 振り仰げば有刺鉄線の巻かれた鉄柵の門。
 病院の名残は完全に消えている。

 レンガ造りのアーケードが、背後のチケット売り場から続く道を覆っている。
 その道というのが、踏み込んでも歪みを作らない、頑丈な金網だった。

 警察署でモララーは言った。
 またか、くらいにしか思わなくなる、と。

 まったくもってそのとおりだ。
 今更構うものか。

 正常な神経が麻痺していても、五感と生命維持だけに集中するだけ。
 脚はゆっくりとでも動けば問題ないし、腕も武器を振るえればいい。
 倫理観は、「あの子達」にだけ適用すれば、十分だ。




9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 22:29:03.52 ID:JGmBYR/70

 完全な暗闇と言い切れるほどの重苦しい空。
 足場の金網を空かして見える下方には暗黒が広がっている。
 なのに、ライトはなくても背景物がそれなりに見分けられた。

[レイクサイド・アミューズメントパークへようこそ!]

 その看板は、やや離れたところからでも読めた。
 ピンク色のウサギが、青いオーバーオールを着ている様子が描かれている。

 そのキャラクターの浮かべる、幼子を惹きつけるための笑みが、今はひどく狂気じみて見えた。

 アーケードの下を真っ直ぐ行くと、道は三方向に分かれていた。
 噴水を中央に置いた、ちょっとした広場のような三叉路。
 右方に足場は無く、左方には資材のバリケード。

 黒々とした液をどろりと流し続ける噴水を横切り、前方へ。

 広場にはポップコーンやアイスキャンディーを売るワゴンが放置されていた。
 閑散とした園内に人はなく、ぽつぽつと並べられたベンチの上にも誰も――

 いや、いた。
 進行方向に遊園地のマスコット、ピンクのウサギ「ロビー」がベンチに座っていた。




10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 22:30:08.24 ID:JGmBYR/70

 座っていた、と表現するには脱力しすぎている感があった。
 くたりと首を後ろに倒し、四肢は力無く伸びている。
 夢の無いことを言えば「きぐるみの中の人間は死んでいる」ように思えた。

 その証拠に、首のつなぎ目から赤いものが染み出していたからだ。

(メメ ∀・)「あいつ、なんで口が、血だらけなんだ」

 ピンク色の頭部を持つロビーの口周りは本来、白だ。
 ふわふわの素材が使われたその部分に、赤の染色はないはずだった。

 毛糸のセーターに鼻血を着けてしまった思い出が甦る。
 柔らかい繊維に染みた血液は擦ると、じんわりと伸びる。
 ロビーの汚れた口元は、その様子を彷彿とさせた。

 横を素通りしても、それは起き上がってきそうにない。
 ぴくりともすれば迎撃する覚悟はあった。
 しかし、杞憂に終わった。

 その時は。




11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 22:31:51.75 ID:JGmBYR/70

 幅の広い道は花壇に挟まれている。
 それより外側には腰ほどの高さの鉄柵。
 さらに外部に、アトラクションかスタッフルームなどの建物。

 レンガで装飾された外壁が続く中、視界の右上方に動くピンクを見た。

ξ ゚)ξ「?」

 屋上にある煙突の形をしたオブジェクトの根元で、ロビーがしゃがみこんでいる。
 眼を細めてみても、下からでは何をしているのか分からない。
 やがて、ウサギのきぐるみは手にしたものを掲げた。

 ロビーが誇らしげに片手で持ち上げたそれを上下させている。
 空いた手には、ジッポーライター。
 小躍りするウサギの大きな頭の前で、ふたつが近づけられた。

(メメ ∀・)「……くそったれ」




12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 22:33:26.57 ID:JGmBYR/70


 じゃり、とホイールの擦られるのを小さく聴いた。

 太い金串に胸から背へと刺された、小さな子供の死体に火花が飛ぶ。

 ガソリンでも染みこませていたのだろうか。

 人体の松明は、勢いよく、燃え始めた。





14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 22:34:23.46 ID:JGmBYR/70

 ウサギのきぐるみは、分類が「マスコット」から「クリーチャー」になる。

(メメ ∀・)「奴ら、まだ、いそうだな」

 モララーも認識を改めたようだ。

ξ ゚)ξ「弾は?」

 立ち止まって残弾数を確認させる。
 マガジン一本と、銃の中に二発。

(メメ ∀・)「逃げられそうにない、時、だけ……。いや、逃げ場なんて、ない、か」

 火達磨を両手で持ったウサギが屋上からこちらを眺めていた。
 炎に照らされて、プラスティック素材の目玉が光を返している。

 その笑った眼で品定めするように、じっ、とこちらを見ている。
 モララーが舌打ちをして、そちらに向かって中指を立てた。

 屋上の縁にさらなるウサギが、数体。

 不快な笑みを貼り付けた、きぐるみ達。
 わたしは視線を切って、モララーと歩き出す。




16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 22:36:02.09 ID:JGmBYR/70

 足場の無い部分や柵によって作られた道を歩くと、お化け屋敷に辿り着いた。
 どうやら一本道だったようだし、誘導されたとも言える。

 建物の前には、整列用のバーが並んでいた。
 入場を待つ親子や男女の姿は当然そこには無い。

 このアトラクションの趣向は、単純だ。
 ストーリーテラーの音声に従って道を行くだけ。
 ドアは各部屋で話が終わるまで開かれない。

 内装は時期によって変更された覚えがある。
 館、ホテル、森、トンネル。
 いずれもなかなか凝った話が作られていた。

ξ ゚)ξ「まだウサギは追ってこないわ」

(メメ ∀・)「中に、いるかもな」

ξ ゚)ξ「かもね」

 進むしかないことは、とうに分かっていた。
 どちらからともなく、わたし達はお化け屋敷に踏み入る。




17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 22:37:19.26 ID:JGmBYR/70

 入り口の小広間には裸電球がひとつだけ、ぶら下げられていた。
 部屋が弱い電灯に照らされてオブジェクトを浮かび上がらせた。
 すぐさま敵の姿を探したが、動くものはわたし達以外にない。

 やや高い天井のそこに、いくつかの「お化け屋敷らしい」装飾があった。
 壁にかかった数点の絵、割れた鏡、煤けた暖炉、砕けたテーブル。
 もとからそうだったのか、変異によるものかは分からない。

 ただ、敷き詰められた絨毯についた黒い染みは、いまだ生臭さを残していた。

ξ ゚)ξ「……これ」

(メメ ∀・)「怪物が、が、先にいる、か……? 行くしか、ないんだがな」

 血痕を除けもせず、真っ直ぐに正面の扉をくぐった。

 ぎぃ。

 暗い中に入り後ろ手に戸を閉じると、視界は途端に明るくなる。




21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 22:41:11.60 ID:JGmBYR/70

 どこかに隠されたスピーカーが喋り始める。
 アトラクション然とした、演技じみた声が響く。

『病院へようこそ。湖に近い静かな町で一番の病院、ブルックヘイブン』

 壁に沿ってL字型に通路が確保された部屋。
 話の内容に沿った内装は、その中心に作られていた。
 ストーリーテラーの言葉にかなった、病院の白。

『病院の一室では患者が治療に励んでいる。見舞い客も何人も訪れ、賑やかだ』

 そこには病室が、切り取られたように存在していた。
 わいわいと人の話し声が小さく聴こえる。




22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 22:42:16.63 ID:JGmBYR/70

 腰ほどまでの柵に囲われた空間には、ベッドとサイドテーブル、花瓶など。

『しかし、そんな病院にも悲しいできごとが……』

 照明が、すう、と弱くなる。
 壁面の窓には明るい空があった。
 安っぽい青空。

『とある少女の話だ。彼女は神経を病におかされていたのだ』

 話を遠くに聞きながら、進行方向のドアを開けようとする。
 しかし、平生と同じように「物語」が終わるまでロックは解かれないようだった。




23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 22:43:39.14 ID:JGmBYR/70

『ある日、大手術が行われた。少女の病を少しでも改善するのではないか、と言われていた手術だ』

 わたしはモララーを床に座らせた。
 ぼんやりと、病室を模した空間を眺める。
 ベッドのシーツには、ついさっきまで人が寝ていたような跡がついている。

『それは残念ながら失敗した。医師が彼女の脳を傷つける結果に終わったのだ』

 窓の設えられていない壁に、手術の光景が影だけ投影される。
 失敗、それを表すように、医師の影が頭に手をやった。




25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 22:44:52.46 ID:JGmBYR/70

『少女は次第にまともな人格を失い始めた。始めにそれに気付いたのは担当の看護婦だった』

『雨の日に屋上に出た少女は笑って、天使が迎えにきた! と叫んだそうだ』

『それから一月で少女の奇行は頻度を増していった』

『ついに彼女は人を傷つけるようになる。看護婦を、患者を、両親を』

『そして、悲劇が起こった』

 声のトーンが落とされ、悲しさを表現しているようだ。

 窓の外の風景が曇天に変わる。




26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 22:46:25.93 ID:JGmBYR/70

『少女が果物ナイフを奪って暴れ始めた! 恐ろしいことに!』

 再び投影。
 おさげの女の子が倒れた誰かに刃物を振り上げている。

『少女と同じく入院していた男の子は即死……』

 悲鳴。

『看護婦が駆けつけた時には、二人が死に、一人が重症を負っていた』

『そのまま少女は屋上に駆け上がり、そこにいた看護婦にも切りつける!』




27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 22:47:21.33 ID:JGmBYR/70

 また、悲鳴だ。

『もちろん看護婦も驚いた。ナイフ! しかも少女は血まみれだ!』

『もみあううちに、少女はナイフを取り落とし、ちょうど刃先が上を向いたところに、倒れた』

『ざっくり!』

 窓の外でフラッシュ。

 大げさな斬り付ける音がする。

 そして、

 天井から おびただしい量の 赤黒い液体が あふれ出す。




28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 22:48:32.39 ID:JGmBYR/70

ξ; ゚)ξ「!」

 生暖かくぬめつく。
 その事実に気付いたのは、頭から被った後だった。
 この匂い……。

(メ; ∀・)「血だ!」

 口に入り、鉄の香りと塩味が広がる。
 吐き出そうにも次から次から降り注ぐ赤。
 床に座っていたモララーは、既に胸まで浸かっている。

『苦しい! なんで! どうしてこんなことに!』




29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 22:49:59.69 ID:JGmBYR/70

 靴に、服に、ぬるい水分が染みこんでくる。
 たじろいで足を動かせば、立った波が壁を打った。
 水位が急激に上がってくる!

ξ; )ξ「うあっ……!」

(メ; ∀ )「ぶっ、ぐっああ、くっそ!」

 モララーを助けようと手を伸ばすが、波が強い。
 身体が飲まれる。
 視界は暗い。

 誰か、助けて……。

『誰か助けて! 看護婦も叫ぶ!』

 叫べ、な、い。




31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 22:52:58.24 ID:JGmBYR/70

『なんて、ジョークさ』

 途端、血液らしきものは一切が消え失せた。
 服も濡れておらず、生臭さも無い。

ξ; ゚)ξ「……幻覚?」

 でも、それなら。
 それなら、わたし達が今、這いつくばっている説明はどうつく?

『そんな事件はまったくなかった。悲惨な事件なんてのはね』

(メ; ∀・)「く、そ」

『そうさ、そんなものはなかった』




32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 22:54:51.52 ID:JGmBYR/70

『一人の男の子が死んだだけさ。屋上から落下して』

ξ )ξ「!」

 窓の外を人影が、上から下へ移動した。
 いや、落ちた。

 どたん。

 わたしはモララーを盗み見る。
 彼はうつむいて、しかし、すぐに顔を上げた。

(メメ ∀・)「くだらない」

 噛み締めた歯の間から、そう搾り出すのが辛うじて聴こえた。




33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 22:55:56.97 ID:JGmBYR/70

『さて、次の部屋へどうぞ』

 軽く、開錠される音が扉から聞こえた。
 この部屋での物語りはここまでということだ。
 ドアノブに手をかけて、しかし、わたしは止まってしまった。

ξ; - )ξ「うっ……ぶ……」

 予感があった。

 先にあるものは、絶対にわたし達に関係のある物語という予感。
 このお化け屋敷が閉じ込めているのはお化けじゃない。

 忌まわしい記憶の再現だ。

 こみ上げた胃液を無理やり飲み下す。
 止まってはいられない……。

ξ; )ξ「ハァ、ハァ」




36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 22:57:16.76 ID:JGmBYR/70

 扉を開ければ10mほどの通路。
 金網の床、壁と低い天井は黒い板。

 足場の下には、きぐるみ。

(メメ ∀ )「気持ちが、悪い連中、だ」

 下方にピンク色の頭が見える。
 すぐ足の下にいて、三体が手を繋ぎながらゆったり輪になり踊っている。
 足運びはひどくお粗末なものだった。

「キャフッ! キャフフフ……アハハハハハ!」

 マスコットキャラクター、ロビーの笑い声だ。
 甲高く、早い発声。
 ひどく耳障りなそれ。

「キャハハハハ……。ハ、ハ、ハ、ハ、ハ」




38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 22:59:01.67 ID:JGmBYR/70

 段々と声が太く、大きくなる。
 笑い袋から発せられるものから、男性のものに。

「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ」

 スタッカートのついた野太い声が、やがて騒音になる。
 三体分の、高笑い。

「ハッハッハッハッハッハッ! アーハッハッハッハッハッハ!」

 小さな行動を開始するウサギのきぐるみ。
 頭が小刻みに揺れ動かし始めた。
 がくがく、耳は徐々に角度を寝かせていく。




40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:00:20.60 ID:JGmBYR/70

 前後左右に頭が震え、上に、上に、面を向けていく。

 ぐぎぎぎぎぎ、ぎ、ぎ、ぎ。

 ぎ。

 ぎ。

 ついに、それらがわたし達を見上げた。

 気味の悪い笑みを貼り付けた顔を三つ揃えて。

ξ )ξ「……何よ」

 にっこりと、白い歯を覗かせた頭、顔、顔。




42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:02:52.45 ID:JGmBYR/70

 三体のロビーの内、一体が大げさに掌を打った。
 「なるほど!」といった仕草だ。

 そして、視線を切ってしゃがみ込む。
 モララーはそれを認めて、無言で銃口を向けた。

「キャハハッ」

 ケタケタ笑う声に混じって、エンジン音がする。
 モララーが銃を向けたまま「それ」を凝視した。

「キャハハハハハハ」

 取り上げたのは、灰色の胴体に煌く回転式刃を備えた道具。
 本来の利用法は樹木などの伐採や切断。




44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:04:23.04 ID:JGmBYR/70

 しかし、こうも使える。
 大鉈でそうしたように、足を切断することもできるのだ。

 それを証明するかのように、ピンクのウサギは行動を起こす。
 チェーンソウを「仲間の片足」に押し当てた。

(メメ ∀ )「はははははははははははははははは」

 モララーが刹那、乾いた笑いで応えた。

「キャハハハハ」

 けらけらとロビーちゃんも笑った。

 ジャガッ。




46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:05:49.86 ID:JGmBYR/70

 ジャッ。

 ガガガガガガガガガ。

「キャーッ!」

 受けたウサギは、悲鳴を――あるいは嬌声を――上げはするが、抵抗はしない。
 みるみる片足の足首にノコギリ歯が食い込んでいく。

(メメ ∀ )「はははは。そうだよ。痛いんだよ」

「キャハハ」

 チェーンソウは斬り進む。
 三体目のウサギは何もしない。

 じじゅじじゅじゅぶぶぶぶ。

「ギャババババアハハハッハハハハ!」

(メメ ∀ )「あははははは」




49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:09:01.87 ID:JGmBYR/70

 なおもチェーンソウは斬っていく。

 じゃじじゅじじじじじゅじゅぶ。

 ががっ、ががじゃじゃじゃじゃ。

 足首の関節で一旦詰まり、そして再開。

 じゃりじゃりじゃじゅじじゅぶ。

 脛、膝、太腿。

 腰元まで切り裂かれて、バランスを崩した被害者ロビー。

 第三のロビーはようやくアクションを起こした。

 被害者に肩を貸したのだ。




50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:10:19.68 ID:JGmBYR/70

 完成した片足立ちのウサギに、傍観していたウサギが手助けをした。

ξ )ξ「なんだ。そういうこと」

(メメ ∀ )「見ろよツン! あいつら、俺の真似してるぜ!」

ξ - )ξ「本当に。……馬鹿みたい」

 彼らはそれ以上、何もしてこなかった。
 上を通過するとき、少し視線を追わせただけだ。
 チェーンソウの駆動音は続いた。

 モララーはその通路を出るまで笑っていた。
 それでもわたしには分かった。
 目が笑ってはおらず、むしろ、逆の感情に染まっていることが。

 意味のない中間地点を終えると、最初の部屋の続きが現れた。

 ベッドがぽつんと置かれた病室、そしてやはりL字型の通路。
 しかし、今度は薄暗く、清潔とは言いがたい密室だった。




52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:11:13.22 ID:JGmBYR/70

『失礼! 我が遊園地のマスコットが無礼を働いたかな。彼らは人を笑わせるのが好きでね』

 途切れていた語り部が復活した。

――キャハハハハハハハ。

 そこに割り込む、例の不快な声。

『おっと、少々お待ちいただけるかな』

 銃声。

――ぎゃっ。

『いたずらが過ぎるので御仕置きをしておいた。さて、この部屋の幽霊について教えようか』

(メメ ∀・)「くだらねえ。鍵、開けろ、よな」

『そういうなよ、お客さん』

 思わぬ返答にモララーが身を強張らせた。




53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:12:31.16 ID:JGmBYR/70

『この病室には一人の女の子がいたんだ。彼女は大火事でひどい火傷を負ってね』

 わたしは、頭が急速に、

 白

 く

 ぼや



 け




55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:13:25.15 ID:JGmBYR/70

***

 小さなシェードの被された電球が吊るされている。
 床材も壁紙も煤けたようにぼけて汚らしい。
 病室というにはあまりにも不衛生だ。

(´・_ゝ・`)「まだ息があるのですね。やはりあなたは選ばれた人だ」

 スーツ姿の男が言う。
 ベッドに寝かされた包帯だらけの小さな人間が呻く。
 滲み出た体液で包帯は黄ばみ、固まっている。

(´・_ゝ・`)「わたしに対する警戒を解いていただけませんか。味方ですよ」

 あるいは、と言葉が続く。

(´・_ゝ・`)「あなたのしもべです。聖女」

 うやうやしく頭を下げる男。




56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:14:16.37 ID:JGmBYR/70

 ベッド横のサイドテーブルには薬瓶と注射器、水差し、ファイル。
 青いファイルには患者の名前が書かれている。

 【アレッサ・ギレスピー】。
 聞いたことのない名前だ。
 いや、ついさっき見た。

 薬も知らないもので、澄んだ赤色をしている。
 わたしはそれらを手に取ろうとして、果たして、触れられない。
 病室内を動けはしたが、いずれのものも身体をすり抜けてしまう。

(´・_ゝ・`)「おや、そろそろ注射の時間ですね」

 そう言って、サイドテーブルに置かれた瓶と注射器を手にする。
 その際、彼はわたしの身体を透過した。
 不思議な気分だ。

 部屋の隅にはぼんやりした小さな人影が蠢いている。
 先ほどまでなかったのに。




58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:16:19.30 ID:JGmBYR/70

 影は部屋の四隅から徐々に中心にいるわたし達に迫っている。
 少女は腕に注射針をぞんざいに突きたてられて呻く。
 およそ筋肉らしいものが見えない細腕に、薬剤が投与された。

 影が、霧散する。

(´・_ゝ・`)「わたしをどうにかしようとするなんて悪い子です」

 無表情に、少し歪ませた唇を添えて男は言う。
 いやらしい笑みだ。

(´・_ゝ・`)「あなたがその力を使うのは個人を殺すためではありませんよ」

 腰の後ろで手を組み、男がベッドの周りを歩き出す。

(´・_ゝ・`)「この町を中心に楽園を作るため。お母上もそれを望んでおられます」

 この町が楽園?

(´・_ゝ・`)「苦痛のない世界。異教徒さえも包み込む、平穏」

 それがこんな後ろ暗い町?




59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:17:12.30 ID:JGmBYR/70

(´・_ゝ・`)「あなたはそれを望みませんか。幸福を迎え入れる準備は」

「ウソ」

 少女の声がこだまする。
 その主がベッドに横たわる彼女だと、自然に分かった。

(´・_ゝ・`)「ウソではありません」

「私には分かるもの」

 10歳ほどの少女が部屋の隅にすう、と現れる。
 長い黒髪の痩せた女の子だ。

 白いソックスとシャツ、小学校の制服らしいすみれ色のジャンパースカート。
 だが、実体がないように曖昧で頼りない輪郭をしている。

「皆死んじゃえばいいんだ」

(´・_ゝ・`)「そんなことを」

「うるさい」




61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:18:39.43 ID:JGmBYR/70

 やれやれと男は頭を振ってベッドに背を向ける。

(´・_ゝ・`)「また参ります。儀式は来月。貴方の依り代が見つかりましたので」

「デミタス。あなたもよ」

 男は歩みを止める。

「あなたも死ぬのよ」

(´・_ゝ・`)「聖女のご希望とあらば」

 次第に少女が姿を維持できなくなる。

(´・_ゝ・`)「薬が効いてきましたね」

 少女の輪郭は消える。
 男も消える。
 わたしと、包帯だらけの人間が残る。




62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:20:08.66 ID:JGmBYR/70

 少女が張り付いた包帯をパリパリと鳴らしながら腕を上げる。
 わたしの方に手を差し出す。
 頭の中に言葉が響く。

『ごめんなさい』

 どうして謝るの?

『身体をもらったの』

 え?

『それでも、わたしは生まれ損なったの』

 生まれ損なった?

『ごめんなさい』

***




64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:21:50.18 ID:JGmBYR/70

 頬を軽く叩かれて、自分が床に寝そべっていたこと知った。
 目を開き、倒れたまま頭だけを動かす。

(メメ ∀・)「目が覚めたか」

 毎度のことになりかけている。
 幻覚からわたしを引き戻したのは、やはりモララーだった。

ξ ゚)ξ「ごめんなさい。……鍵は?」

(メメ ∀・)「開いた。物、物語は――」

 彼はストーリーテラーの言葉を省略して教えてくれた。
 まとめると、次のようになる。

――サイレントヒルに、悪魔に取り憑かれた少女がいた。




65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:23:32.54 ID:JGmBYR/70

 時として、意図せずに超常現象を起こしてしまう。
 感情の昂ぶりで周囲を傷つけてしまう少女は忌み嫌われた。

 家を焼かれた彼女は、人間には虐げられさえした。
 しかし、悪魔に愛されていたのだ。

 全身を焼かれながら、およそ人間とは程遠い姿になりながら、彼女は生きていた。
 いや、半ば強制的に生かされていた。

(メメ ∀・)「名前は」

 既に、わたしは知っている。

 アレッサ・ギレスピー。

 すんなりと、それを口に出すことができた。




68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:24:58.16 ID:JGmBYR/70

 めりめり、と、

(メメ ∀・)「……そうだ」

 さっき幻覚で見た内装が、

ξ ゚)ξ「……」

 わたし達の目の前で再現された。

(メメ ∀・)「……」

 わたしは首を振る。

ξ ゚)ξ「彼女は実在したのね」

 ここは、既にお化け屋敷の一室ではない。
 アレッサの閉じ込められていた病室だ。
 おそらく、立ち入りの禁止されていた隠し部屋。

 L字の通路や、進行方向にあるべき扉は無くなっていた。




69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:26:09.97 ID:JGmBYR/70

(メメ ∀・)「お前は、何を見た」

 倒れたわたしの傍らで、モララーが座る。
 わたしも身体を起こして膝を抱えた。

ξ ゚)ξ「誰かの、いえ……アレッサの記憶」

 床に転がっていた鉄パイプを引き寄せて、言う。

ξ ゚)ξ「何かわたしに伝えたかったみたい……」

 そうか、とモララーが壁に頭をつけた。
 追求しても栓の無いことだと知っているのだ。
 非常識ばかりのこの町では、それが常識。

ξ ゚)ξ「『ごめんなさい』か」

 ガガ、と隠されたスピーカーがノイズを立てた。
 聴こえて来たのは、ストーリーテラーの演技じみた声ではなかった。

 女性のアナウンス。




71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:27:43.88 ID:JGmBYR/70

『迷子のお知らせです』

『ツンさんとモララーさんが連れて行ったジャクリーンさんを、ご家族がお探しです』

 ぎくり、身が固まった。
 わたし達の名前が呼ばれたこともそうだが、もうひとつ原因がある。

 どんどん、という強すぎるノック音がそれだった。
 ……病室のドアが誰かに叩かれている。

 正方形のこの部屋で、わたし達から向かって左の壁。

『トーマス・ゴードン氏がお二人をお探しです』

 ゴードン。
 確か、認知症で入院していた男性だ。
 それが何故ここで。




73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:29:30.07 ID:JGmBYR/70



『ただいま、お二人のいる部屋の前にいらっしゃいます』


 後頭部の毛がざわつくのが分かった。






74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:30:10.88 ID:JGmBYR/70

「じゃくりーん! 僕のじゃくりぃいいいん! じゃっきいいいいいい!」

 どん、どん、どん、どん。

 しわがれた絶叫がノックと重なる。

 私は状況を理解するより早くドアに駆けつけていた。
 施錠しようと目を凝らしてドアノブを見る。

 が、ない。

 スイッチ式、スライド式、またシリンダー式の鍵も、扉には見当たらない。
 そうか、ここは内側から鍵がかけられるようにはできていないんだ。

「じゃっきいいいいいぃいい! うあああああああああああああ!」

 殺す、殺す、という単語が混じる。

「じゃっきぃをかくっ、かくしたやつ! いるんだな! いるなッ! ころしてやる!」




75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:31:25.28 ID:JGmBYR/70

「ぎゃあああ! じゃっきぃいぃをかぁええせぇええ!」

 がりがり、扉が何かに削られる音がする。

 がり、がり、がり、がり。

「いるんだろうッ! ああああぁあああ! あけっ、あけっろおおおぉおぉああああ!!」

 がりっ。がりっ。

 ガリッガリッガリッ。

 ガッガッガッガッガッ。

 ダンッ、ダンッ!

 ダンッ!




78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:32:26.47 ID:JGmBYR/70

「があああああ! ヒィイイィイィィ!!」

 錯乱した老人の叫び。

 木製の扉がひどく揺れている。

 殴打は間断なく続く。

 三角頭の男とは別の種類の恐怖。
 だが、程度は同じだった。
 扉から飛びのいて、モララーに駆け寄る。

 彼は既に銃を抜いていた。

(メ; ∀・)「俺を、向かいの壁まで、連れて、行け」

『ゴードンさん少々お待ち下さい。ただいま開錠いたします』

 モララーを引きずる。
 ここの床材は金網ではなかったためにそれが容易だった。

 そして。




79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:33:07.81 ID:JGmBYR/70



 かちゃり、鍵が何者かに開けられた。






81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:34:12.52 ID:JGmBYR/70

 壁を背にして振り返れば、ベッドを挟んで木製ドアが見える。

 蝶番が軋んで少しずつ開かれる木製ドアが見える。

 闇が戸口に現れ始めて、ぬめった何かがいるのが見える。

 ドアが半分開いたのが見える。

 立っている人物が見える。

 奇妙ないでたちの怪物が見える。




83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:35:42.64 ID:JGmBYR/70

「じゃっきーは、どこ」

 頭が常人の三倍ほどに肥大した、男が見える。

「じゃっきー、どこ」

 ドアが開ききって、病室の壁を打ったのが見える。

「どこ」

 片目が零れ落ちかけている怪物が、問うているのが見える。




85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:37:32.10 ID:JGmBYR/70

 茶褐色の身体で最も異常な点は、手足が二対ずつ生えていることだろう。

 余分な腕は脇の下に位置し、いずれも普通の二倍は長い。
 過剰な脚は、腰の前部にある。

 あばらの浮いた細い胴体を反らして、四本の脚全てで身体を支えている。
 その怪物は、てんでばらばらの足運びで、のそのそと歩いた。

「おまえたちがががあがが、じゃっきー、つれてった」

 ぶよぶよの頭を揺らしながら動かす口は、醜い皺に覆われていた。
 グレーの頭髪はまばらになら、広がった頭皮に残っていた。

(メ; ∀・)「ジャクリーンなん、て、知らないぞ」

 ほとんど人間らしい造形を失った顔面が、きょとんとする。
 眼窩に収まっている方の眼が、おどおどしている。

「だ、だって、だって」




87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:39:30.37 ID:JGmBYR/70

(メ; ∀・)「勘違い、じゃなかったのか」

 知能は高そうではない。
 こうして言葉がかけられるたびに怪物は思考に時間を奪われている。
 ……言いくるめられるかもしれない。

ξ; ゚)ξ「そうよ。ゴードンさん、落ち着いて」

「で、でも。じゃっきー。じゃっきー」

 わたし達は互いの焦りを感じ取っていた。

 理由のひとつに、弾丸がほとんど無いことがあった。
 三角頭の件もある。
 どれだけ弾を撃ち込めば撃退できるか、分からない。

 もうひとつ。
 戦うことになったとして、怪物の腕の長さはわたし達に不利にはたらくだろう。
 部屋は正味、5m四方もないのだ。

「う、うううう、うううううう」

 ちらりとモララーを見た。




88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:40:32.46 ID:JGmBYR/70

 まぶたの下にくまを作った彼は、銃を上手く背後に隠していた。
 わたしも鉄パイプを隠す。
 敵意は無いとアピールするのだ。

ξ; ー゚)ξ「落ち着いて、ゴードンさん。ね?」

「うううう、う、う……う?」

 哀れな色を浮かべていた瞳がわたしに向いた。

「う、うう?」

 頭をぶるんぶるんとしてから、歪な人間が口を開いた。

「あ、ああ、あ、あ、あ」

 短い方の右腕が伸ばされ、さらに人差し指が伸ばされた。

 そして、たるんだ唇が笑う。

「じゃっきー」




90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:42:26.38 ID:JGmBYR/70

 何が起きたか理解するほどの猶予は無かった。

 怪物の四本脚が、ざかざか、と動かされベッドを乗り越えた。

 珍妙な身体をしたゴードン氏が一直線にわたしに近寄った。

 あまりの素早さに身動きの取れなかったモララーを長い腕でなぎ倒した。

 短い方の腕がわたしの身体を掴んだ。

 いや。

 がっちり、抱き上げた。

 足が床から浮いて、ようやくわたしはそれに気が付いた。




93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:44:16.27 ID:JGmBYR/70

「じゃっきぃいぃぃぃ!」

 生臭い口臭に顔をしかめるよりも先に、肋骨が軋む痛みに呻く。

ξ; -゚)ξ「ぐっう!」

 違う、と言葉に出すことができない。

「じゃっきー! じゃっきーははははははは!」

 醜い怪物がわたしに頬ずりし始めた。
 視界の端に、モララーが体勢を立て直す姿が映った。

「ははははは! いた! じゃっきー!」

 モララーが二度発砲する。
 怪物の頭から体液が飛散して――

 いや、しただけだった。




94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:45:14.15 ID:JGmBYR/70

「じゃまだぁ、はははは」

 長い腕がモララーを殴り飛ばす。

(メ; ∀ )「がっ、あっ!」

 胸元に受けた拳の衝撃で彼の身体は容易く浮いた。
 そして、壁に叩きつけられそのまま動かなくなる。

ξ; ゚)ξ「もらっ」

 胴に巻きついた腕が締め付けられる。
 ひゅう、と息が漏れた。

「じゃっきー! 二人だけになれたよ! わはははは!」

 長い方の腕も抱擁に参加してきた。
 ますます身体が怪物に密着する。
 冷えた体表面は湿っており、服を濡らした。

「いくよ、じゃっきー! ふふふふ……」




95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:46:09.71 ID:JGmBYR/70

 眼に糸のようなものを吐きかけてきた時、ゴードン氏は「ころしてあげる」と言った。


 その前に、「また」と付いていたのは、聞き間違いではなかったと思う。


【Save】




96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:46:35.42 ID:Esr/xIxj0

ツンもモララーももうボロボロだ・・・支援




98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/21(日) 23:47:47.62 ID:qpyRDM4G0

こいつは……
どうなるんだよ




ξ゚゚)ξはサイレントヒルで看護婦をやっていたようです【後編】へつづく


・ニュース速報(VIP)@2ちゃんねるに投稿されたスレッドの紹介でした
 ξ゚゚)ξはサイレントヒルで看護婦をやっていたようです
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