転載元:o川*゚ー゚)o思い出レストランのようです

1: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:21:21.206 ID:0raBhKNo0.net

 




    − OPEN −




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2: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:22:23.171 ID:0raBhKNo0.net

 


・当店では人生に疲れたお客様に、今までの人生で味わった物から、もう一度食べたい物をご提供させて頂いております。




 1品目 宇津田タケシ様 ご注文

      肉じゃが



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3: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:23:21.795 ID:0raBhKNo0.net

 
 カランコロンと入店を知らせるベルが鳴る。

 パチンコで大負けし、いつもなら買って帰るコンビニ弁当を買いに行く余裕もなく、腹の虫を鳴かせながらの家路。
 その日、俺、宇津田タケシは間違いなく自宅のボロアパートに帰宅したはずだった。
 だが、玄関を開けたその先には、クラシカルな洋食店の光景が広がっていた。

o川*゚ー゚)o「いらっしゃいませ。思い出レストランへようこそ」

('A`)「は?」

 同じ境遇となった現代の若者10人いれば10人とも同じ反応をするだろう、芸の無い言葉が思わず口から飛び出る。
 築20ウン年のスチールドアを押しのけたはずが、それはいつの間にか重厚感あふれる樫と真鍮のドアへと変貌を遂げていた。
 更に、収集日に捨てそこねたゴミ袋が占拠するワンルームが、年季の入った木板とレンガのオシャンティなレストランに大変身だ。
 そんな反応も仕方ないだろう。

 思えば、どうやって言い訳して親から仕送りを頼もうか、頭の中をデタラメな嘘がぐるぐると回って、気もそぞろだったのは確かである。
 前は確か怪我をしてバイトを休んで金が無いことにしていたから、怪我系はなしだ、だとかそんな具合だ。
 そしてついさっき、意を決して掛けた電話は留守電で、やり場のない怒りとやるせなさと安堵に、思わず肩の力が抜けていた。
 
 そんな調子だから、一瞬、入るドアを間違えたのかと考えて、いや、確かにアパートの階段を登ったと思い出す。

(;'A`)「(なんだ? 一体、どういう状況なんだこれは?)」

 とりあえず、入るドアを間違えたことは確かなのだろう?
 どうやら相当頭がぼうっとしていたらしい。





 


ディーラー「納車だよ。保護シートとるからね」 アルト「えっ」
【マジキチ注意】女「すいません…」モジモジ 膣内洗浄師俺「なんだ股患者か」
男「よりによって最後の村に生まれてしまった」
医者「こりゃアレだね、一日30回くらいはオーガズム感じちゃう奇病だね」 俺「うわーん…やったぜ!!」
【胸糞注意】女「痴漢です!」 男「えっ」 私服警察「えっ」

6: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:25:11.529 ID:0raBhKNo0.net

 
 ウェイトレスは随分と可愛らしい人だった。
 黒髪は後ろで結ばれて、シンプルだが品のいいYシャツとスラックスの上に、黒のエプロンを羽織っている。
 豊かな膨らみがYシャツとエプロンを膨らませていて、思わず目を奪われる。

o川*゚ー゚)o「一名様でよろしいでしょうか?」

('A`)「あーえっと。はい。い、一名です」

 家に帰宅したはずが、何故かレストランに入っていたなんて、大失態の理由はさておき、俺はレストランを利用する予定などなかった。
 コンビニ弁当すら惜しいほど羽振りが悪いのだ、当然である。
 だが、ここまで来て入ったドアを引き返せるほど、俺のコミュニケーション能力は高くない。
 流石に1食分くらいの金はある、なんとかギリギリ、だが……。腹も減っていたことだし、とりあえず何か安いものを頼んでこの謎を解こう。

o川*゚ー゚)o「禁煙席と喫煙席ございますが、どちらになさいますか?」

('A`)「喫煙で」

o川*゚ー゚)o「かしこまりました。お席へご案内いたします」

 店員さんは、可愛いもののやけに硬質というか、綺麗過ぎる顔をこちらから逸らして席へと案内をしていった。

 はて、そもそも近所にはこんな小洒落たレストランがあっただろうか?
 脂が爆ぜる熱された鉄板と、小気味よいテンポで振るわれる包丁の交響曲。
 そこに香草の匂いがいいアクセントとなって、腹の虫を刺激する。




9: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:26:38.894 ID:0raBhKNo0.net

 
 わけも分からないまま、店員に連れられて真っ直ぐ進む店内。
 歩きながらようやく俺は落ち着いて店内をゆっくりと見渡した。

 入り口に入って見えるのは、アール・デコ調の透かしが入ったガラスの衝立と恐らく順番待ちを記載したメモ。
 その向こうに並ぶ、年季の入った椅子とテーブルにもアール・デコの幾何学模様が施され、綺麗に整列している。
 壁に見えるのは、恐らくアンティークの食器棚と、オレンジがかった間接照明。
 フローリングは綺麗に磨かれているが妙に脚にしっくりと来て、壁の照明を白く照り返している。
 観葉植物が幾つか並び、壁や仕切りに使われるレンガは偽物ではなく、ちゃんと本当のレンガを使っているらしい。

 丁寧な調度品の数々を見て、これはもしや高級の部類に属する店かもしれないな、と内心焦り出すが、店員は歩みを止めない。
 いや、ドレスコードまでは求められなかった、俺は今ヨレヨレの私服だ。
 存外、内装に凝っているだけで、そこまで法外な値段のレストランではないと見た。

o川*゚ー゚)o「こちらの席へどうぞ」

(;'A`)「あ、はい」

 まあ、最悪、クレジットカードでなんとかなるだろう。

o川*゚ー゚)o「こちら、お冷とおしぼりになります」

 銀色、恐らく錫で出来た水差しから透かし彫り細工が美しいアンティークのグラスへと水が注がれる。
 レモンが漬け込まれているのだろう、仄かに柑橘類の香りが漂って、軽やかな気持ちにさせてくれた。
 その水の質だけで、どうにも財布も軽やかになりそうなのが恐ろしいところだ。




11: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:27:45.581 ID:0raBhKNo0.net

 
 だが、メニューを見れば値段もわかるだろう。
 そうすれば安心すべきか、今からでもなんとかここを出るかの踏ん切りがつく。

o川*゚ー゚)o「ご注文が決まりましたら、お声をお掛けください」

 しかし、店員はメニューを出さず、何事もなかったかのように、そのまま去っていこうとした。
 なんだ? 高級店ではメニューを出さないのが普通なのか?
 いや、そうも言っていられない、ここは恥を偲んで店員を引き留めよう。

(;'A`)「す、すすす、すいません!」

o川*゚ー゚)o「いかが致しましたか?」

 くるりと店員が振り返り、黒いエプロンの裾がひらりと舞う。
 その所作はまるで何かの舞台のワンシーンのように様になっていた。
 やめてくれ、そんなに完璧だと、場違いな俺が浮いてしまうだろう?

(;'A`)「め、メニューは?」

 だが、そんな考えも吹き飛ぶような発言が、店員から飛び出た。




12: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:28:41.270 ID:0raBhKNo0.net

 
o川*゚ー゚)o「当店にメニューはございません」

('A`)「え、やっぱりそういうお店なのか?」

 やばい、これは時価とかそういうお店なのか?
 だとしたら、出て行ったほうがよさそうだ。
 ウン万という大金を請求されたらどうしよう。というか、ぼったくりバー的な物だったら本当にヤバい。

o川*゚ー゚)o「当店、思い出レストランは人生に疲れたお客様が、今までの人生でもう一度食べたいと思った物を提供させていただくレストランです」

 は?
 なんだこいつ? 電波か? おいおい、ヤバいの意味が変わってくるぞ?

 いや違う。もしかするとあれか? 何を頼んでも作ってくれるとかそういう粋な店なのか?
 例えば、こうこうこういうコダワリの料理を再現して欲しいとか。そんなノリの店なのかもしれない。聞いたこともないが。

(;'A`)「はあ? じゃあ、何を頼んでもいいってことか?」

o川*゚ー゚)o「いえ、お客様が今まで食べた物であり、もう一度食べたい物のみとなっております」

 いや、そんなのお前にわかるのかよ?




13: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:29:29.393 ID:0raBhKNo0.net

 
 なんだか、狐に摘まれた気分だ。もうなんか適当に頼んで食べて帰ろう。
 怪しすぎるが、店員の説明がやけに気になる。ここは冒険に出て、後で笑い話にしたら面白そうだ。
 それにこれで予想外なものが出たら出たで、それなりにいい思い出かもしれない。

(;'A`)「例えば、適当に頼んでもいいのか? 10年前の今日食べた晩御飯とか」

o川*゚ー゚)o「はい、かしこまりました。肉じゃがが一点。以上でよろしいでしょうか?」

('A`)「はい、じゃあそれで……」

 嘘くせー! 10年前に食べた夕飯なんて覚えてねえよ、どうせ適当言ってるんだろう?
 そんな感想が出る直前、しかし、俺の思考は続く言葉で完全に停止した。

o川*゚ー゚)o「では、ご注文を繰り返させて頂きます。宇津田幸子様がお作りした肉じゃがが一点、以上でよろしいでしょうか?」

 それはカーチャンの名前だ。10年前の今日、肉じゃがを食べたかどうかは覚えていない。
 だが、少なくともカーチャンは、俺の好物だからとよく肉じゃがを作っていたのは確かだった。

o川*゚ー゚)o「お客様?」

(;'A`)「は、はいじゃあそれで」

 店員は微笑を湛えたまま、こちらをしっかりと見て尋ね、それに対して俺は反射的に返答した。

o川*゚ー゚)o「かしこまりました。少々お待ち下さい」

 コツコツと、フローリングを靴底が叩く音を尻目に、俺は呆然としていたと思う。
 まさかここでカーチャンの名前が出てくるなんて思わなかった。
 なんだ? 何なんだこの店は?




14: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:30:59.975 ID:0raBhKNo0.net

 
o川*゚ー゚)o「お待たせいたしました。こちら肉じゃがになります」

 料理が出るまで数分。どう考えても注文してから作っては間に合わない時間。
 まず驚いたのは、その料理の器、およそ店の雰囲気に似つかわしくない、幼児向けキャラの描かれた少々大き目のプラスチック皿だった。
 アンティークと言えば聞こえのいい、ただ古いだけの量産品。センスのいい調度品が並ぶ店内で浮いた食器類。

('A`)「これは……」

 その食器は間違いなく、小学生の頃に使っていたものである。それも流石に幼児向けで古くなったため、捨てたはずの食器だ。
 箸も当時少し背伸びして使い始めた鉄木の黒い箸。陶器製の安い和柄の、でも実家の食卓で見覚えのある取り皿。
 小学生の頃使っていた茶碗にはホカホカの白いご飯があの頃と同じように小山を作っている。
 趣のあるオーク材のテーブルが、実家のちゃぶ台に変わった気がした。しかし、それらが、何故ここに? 

 だが、それ以上の疑問は肉じゃがの方にある。

 黄金色の油が無数に浮かぶ暗いこげ茶の煮汁。子供の頃は嫌いだった玉ねぎは、食べやすいように薄くスライスされている。
 茶色く染まった白滝と眩いオレンジの人参が煮汁の中で楽しげに踊り、メインの肉とジャガイモを飾る。
 油揚げや鞘付きインゲンは入っていない。代わりに麩と椎茸が煮汁を吸って旨そうに膨らむのが我が家流である。

 小さな頃インゲンが食べれなかった俺のため、カーチャンは僅かでも栄養バランスを改善しようと干し椎茸を入れるようになった。
 干し椎茸は出汁となり、甘く濃厚な煮汁に旨味成分を足し、さらに複雑にしてくれる。
 毬麩は煮汁を多く吸うため、あえての汁だく。アツアツの煮汁を吸い込み柔らかくなった麩は、それだけでご飯が進むだろう。

o川*゚ー゚)o「ライスはおかわり自由となっておりますので、気軽にお申し付け下さい」

 これは単に見た目だけじゃない。カーチャンが作る我が家の肉じゃがが、確かにテーブルの上にあった。




15: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:32:51.140 ID:0raBhKNo0.net

 
 立ち上る白い靄は、出汁と醤油の香りを含んでいて、俺の腹の虫が限界を発する。

('A`)「いただきます」

 レストランでは普段言わない挨拶が思わず出たのは、懐かしさからくる反射だろうか?
 口に溜まった生唾を音を立てて嚥下する。まず、最初に手を付けるのは、ジャガイモだ。
 箸を使って二つに割ると、ホクホクとした断面が覗き、しっかりと味が染み込んでいることが確認できる。

 これはもしかすると?

 箸の上に乗るジャガイモをふーふーと冷まし頬張る。それは柔らかく煮込まれて、歯に当たるとほろほろと崩れた。
 熱さの中に、染み込んだジャガイモの煮汁がふわっと広がり、遅れてジャガイモ特有の滑らかな舌触りと風味を楽しむ。
 我が家の味は濃いめだ。子供が好む様な、強い甘みとそれに負けない程度のしょっぱさが、脂と椎茸の風味を伴いじわじわと舌を行進する。
 そして、みりんと醤油、野菜と肉、後味に仄かに残る本だしの香ばしさ。それらが複雑かつ一体となって絡み合い、鼻から抜けた。

('A`)「おお……マジかよ」

 続いて牛肉を選ぶ。我が家は豚肉を使わない、こま切れの牛肉を使う。こちらの方がよく味が染み込むためだ。
 やや硬めに煮込まれた牛肉は、歯ごたえを感じさせながら、しかし、薄切りであるためよく噛み切れる。
 口の中でじゅわっと肉の旨味と風味、そして脂と複雑な甘さを持つ煮汁が蕩けるように広がっていく。




16: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:34:05.136 ID:0raBhKNo0.net

 
 噛み締めるたびに、何度も広がる肉の味に、舌が、味覚神経が、脳が懐かしさを伴って喜びのシグナルを発する。
 レストランで食べる手の込んだ煮物とは違う、家庭の味。
 優しさが味覚になったならば、きっとこんな味がするだろう。

(つA;)「ああ……ああ……」

 美味い。でも、これ以上に美味いものはまだ沢山あるだろう。
 高級な料理というわけでも、プロ特有の手間の異常に掛かった料理でもない。
 しかし、それを補って余りあるこの味わい深さは、間違いなくこれがカーチャンの肉じゃがの味付けだったからに他ならない。

 最後に一縷残った疑惑が、完全に払しょくされた。
 子供が美味しく食べれるように、否、俺が美味しく食べれるように、今思えば家庭でできる範囲で手間と工夫を凝らした、俺のための料理。
 見た目から始まり、味付に至るまで、完全にカーチャンの肉じゃがだった。

 どうしてこのお店はそんなものを提供できるのか?
 なぜ、家に帰った時にこの店に入ってしまったのか?
 そんなことはどうでもよくなって、ただひたすらにご飯の上に肉じゃがを乗せて、掻き込む。掻き込む。

 煮汁を吸って大きくなった麩は、箸の上でやや滑るため、慎重に摘まむ。
 大変熱いそれを、あえてご飯の上に乗せて、少し冷ます。
 それは同時に余分な汁気を落とし、濃すぎる味を緩和させるとともに、白米へとその味を移していく。




19: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:35:31.702 ID:0raBhKNo0.net

 
 冷めるのを待つ間に、玉ねぎと白滝、そして小さくイチョウ切りされた人参、そして椎茸を摘まんで頬張る。
 野菜は溶けるほど煮込まれており、柔らかく触感はほとんどない。椎茸も柔らかく触感にはやや乏しいだろう。
 代わりにアクセントとして主張するのは、白滝の弾力とのど越しだ。それを野菜の素朴な甘さと椎茸の癖のある旨味で楽しむ。

 毬麩がちょうどよく冷めて、ご飯と共に口に掻き入れた。
 汁気は互いに張り付いた米つぶ同士を解き、つるりと口の中へと納まる。
 ふわふわとした麩は、旨味の詰まった熱い汁を溢れさせ、濃厚すぎるそれをご飯が中和して、程よく噛み締めることができた。

 次は牛肉とじゃがいも、そして少しの白滝と白米だ。この組み合わせは最高にして至高だと思う。
 牛肉は敢えての少なめ、じゃがいもは多く、白滝は食感を感じられる程度でいい。白米は遅れて口に入るだけ掻きこむ。
 この黄金バランスは、濃い目の味付けを適度に緩和し、最も好みの味へと昇華させる。

 そうだ、この味だ。この味が俺は食べたかったんだ。

('A`)「はふはふ、んぐんぐ……うめぇ……」

 懐かしい、カーチャンの味。

 大学に進学するため上京して、何年食べていないだろうか?
 十年前は普通に食べていたこの味が、こんなにも貴重になるだなんて、思っていなかった。
 俺の脳に刻まれた、最も正解に近い旨さだったと、気が付いた時にはもう、滅多に食べることができなくなっていた。




20: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:36:35.472 ID:0raBhKNo0.net

 
 カーチャンはちょっと天然なところがある人だった。

 例えば高校生の頃、俺がカーチャンの肉じゃがを褒めた次の日のことだった。
 カーチャンが作る肉じゃがは俺の大好物だった。
 だから、何気なく今日の肉じゃが、よく味が染みてて美味しいよと、何気なく言ったのだ。
 カーチャンはその言葉が、きっととても嬉しかったのだろう。少し残った肉じゃがを弁当に詰めてくれたのだ。

 しかし、汁気の多いものをそのまま入れれば、当然、弁当の包みを茶色く染めて甘そうな匂いを漂わせる結果となる。
 隙間からあふれた汁は俺のカバンの中身をべたつかせ、匂いはしばらく取れなかった。
 クラスメイトにからかわれてその時は笑っていたが、帰宅してから俺はカーチャンを怒鳴ってしまった。

J( 'ー`)し「ごめんねえ……カーチャンドジだから、ごめんねえ」

 そう申し訳なさそうにいうカーチャンを、幾度も詰った俺を今はぶん殴りたい気持ちでいっぱいだった。
 たった一言何気なく言った言葉を覚えていて、朝早くに起きて弁当に入れてくれた肉じゃが。
 手間を掛けて、喜んでもらおうと入れてくれたそれを、怒鳴って返すなどちょっと酷すぎるじゃないか。

 この肉じゃがを食べていると、そんな思い出が蘇ってくる。

 罪悪感が胸を締め付け、眼頭が熱くなって視界が少しぼやけた。ぐっとこらえると喉の奥の方が少し痛くなる。
 カーチャン。あの時は怒鳴ってごめんな。肉じゃが、旨かったよ。また作ってくれよ。
 でも、カーチャンが弁当に肉じゃがを入れたのは、これが最初で最後だった。




21: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:37:50.492 ID:0raBhKNo0.net

 
 カーチャンはシングルマザーだった。過去形だ、今は再婚を果たしている。
 俺を女手一つで育ててくれていた。だから、高校を卒業したら就職すると親には黙って決めていた。
 それが再婚と共に事情が変わった。新しい父さんはいい人だった。連れ子である中学生の義弟もナマイキながら可愛いものだった。

 それ以前から、カーチャンは大学に進学するよう、強く勧めていた。
 まだ、高卒で働くと思っていた俺は、再婚後もなんとなくプランを変える気が起きず、それを断っていた。
 恐らくは将来、俺が苦労しないように、考えていてくれたのだろう。

 俺が進学すると、弟が苦労するのではなかろうか? 連れ子の負担により母の立場が弱くなるのではなかろうか?
 そんな思いもあって、俺はどうにも躊躇していた部分がある。

J( 'ー`)し「お前はいい大学を出ておくれ、大丈夫。お金はなんとかするから」

 しかし、カーチャンは再婚後もやめる予定だったパートを続けて、家計の負担を防いでくれた。

J( 'ー`)し「急に仕事が減るとやることがなくて暇だからね」

 そう笑って理由を述べていたが、多分俺の考えは読まれていたのだろう。
 4人家族では、家事だけでも十分に忙しいものだ。独り暮らしして余計にそう思う。
 今思えば、カーチャンはいつまでも俺のために自己犠牲を強いてくれていた。




22: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:39:52.975 ID:0raBhKNo0.net

 
 だが、今の俺はなんだ?

 親が苦労して入学させてくれた大学をサボって、今日もパチンコで遊んで帰った。
 そして少し金がなくなったからと、金を無心することばかりを考えていた。
 親が無理やり勧めた進学だ、俺は本当は働きたかったと、自分に言い訳までしてサボりを正当化していた。
 ただどちらの意思もなく、カーチャンの気持ちに流されて進学しただけだというのに。

 ご飯を2杯お代わりして、満腹になった俺は、もうカーチャンのことが頭から離れなかった。

 たまに自炊するようになって気が付いた。この肉じゃがは手間がかかっている。
 他の家の肉じゃがは知らないが、ネットで調べたレシピ通り作っても、こんなに味は染み込まなかった。
 パートで疲れた帰りに、カーチャンはこんな手間を掛けて料理を作っていたのかと気が付いて、今更ながらに頭が下がる思いだった。

('A`)「すいません。お会計をお願いします」

o川*゚ー゚)o「いえ、当店ではお代は頂いておりません」

('A`)「えっ? じゃあ、えっと何を払えばいいんですか?」

o川*゚ー゚)o「なにもお支払い頂く必要はございません。当店は必要な方に必要なものをご提供させて頂いております」

 一瞬、こんな不思議な店のことだから、魂でも取られるのかと身構えたが、それは杞憂だった。
 ううむ。ちょっと漫画を読み過ぎたみたいだ。




23: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:40:54.877 ID:0raBhKNo0.net

 
 ここはいい店だ。例えお金を払ってでも、また来たい。
 この近くのどこかでやっているのだろうか? 必要な方、というのはどういった人を指すのだろう?

o川*゚ー゚)o「ありがとうございました。また当店をご利用するほど疲れぬよう、心からお祈り申し上げます」

 店を出る直前。ウェイトレスの言葉が脳みその端に引っかかる。ああ、そうか。人生に疲れた人が、必要な方なのか。
 それはなんだか、ストンと胸に落ちる理解の仕方だった。
 そうか、俺は人生に疲れていたんだ。

 上京して、ずっと実家に帰っていなかった。再婚した母に少しでも二人の時間を、といえば聞こえがいい。
 ただ消極的な自分に対する言い訳だろう。
 大学で肌の合わない友人達と無理やりノリを合わせて、講義に出ないことも普通になって、バイトと人付き合いにすり減って。

 カーチャンの晩御飯を食べただけで、こんなにもホームシックになるなんて、思ってもみなかった。

 レストランを出ると、そこはアパートの玄関だった。
 白昼夢でも見たんじゃないかと、一瞬不安になってしかし、吐息に肉じゃがの香りを感じて錯覚ではないと思い直す。
 我ながら下品な確認の仕方である。




24: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:41:22.635 ID:0raBhKNo0.net

 
 ふとスマホの画面を見れば、帰宅したはずの時間より30分ほど過ぎていた。
 通知欄には、少し前にカーチャンからの着信があった旨が書かれている。
 そうだ、金を無心しようと思って、電話をかけたが留守電だったんだっけ?

J( 'ー`)し「もしもし、タケシかい?」

 画面を指で弾いて、コールバックを選択するとスピーカーから懐かしい声がした。
 今しがた思い出していたカーチャンの声である。
 反射的にかけ直していたが、何を言うか考えていなかった。

J( 'ー`)し「どうしたんだい? もしかして、お金がなくなったかい?」

 母という生き物は、何故こんなにも勘が鋭いのだろうか? 元々仕送りを頼むためだったその意図は、完全に看破されていた。
 伊達に20年も俺の母親をやっていない。

 そうなんだ、金がなくなっちゃってさ。申し訳ないんだけど、仕送りをお願いできないかな?

 そう伝えれば、まったくもう、などと呆れた言葉を返されつつも、きっとお金が振り込まれるだろう。
 だが、先ほどの思いが、俺の言葉を押しとどめる。
 財布の中身を頭の中で思い描く、さっきのレストランでこっそりと、しかし幾度も確認したからしっかり覚えていた。




25: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:41:53.712 ID:0raBhKNo0.net

 
 今の所持金では、コンビニ弁当を買ったら、まず間違いなく給料日前に底をつく。
 でも、自炊すれば多分余裕があるだろう、それくらいの金額だった。



('A`)θ「もしもし母ちゃん? あのさ……母の日、何が欲しい?」



 余ったお金は、カーネーションを買う予算に回そうか。



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26: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:42:15.251 ID:0raBhKNo0.net

 




 − NEXT GUEST −




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28: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:44:08.886 ID:0raBhKNo0.net

 
 カランコロンとベルが鳴る。
 コンビニに入ったはずの俺は、何故か知らない洋食屋にいた。
 おそらく、これから行うつもりだった40年の人生で初めての大犯罪に緊張しすぎて、入る店を間違えたのだろう。

爪'ー`)「なんだぁここ?」

 ガラスの自動ドアは、いつの間にか古風なドアへと変わり、リノリウムの床は重々しいフローリングとなって、柔らかな照明を白く照り返す。
 雑多な商品が陳列されて明るいはずの店内は、煉瓦と板目、テーブルとイスが規則正しく並ぶモダンな洋食店となっていた。
 そこで綺麗な女が頭を下げて、まるでそういう動きを仕込んだカラクリ人形みたいに俺を出迎える。

o川*゚ー゚)o「いらいっしゃいませ。思い出レストランへようこそ」

 手頃だからとコンビニを選んだつもりだったが、今更ここで引き下がるわけにはいかない。
 なに、ここでターゲットが変わっても、やることは大差ないはずだ。
 大丈夫、考えていたとおりの言葉を吐いて、考えていたとおりに実行するだけ。

 幸いにして、店は古い。随分とまあ洒落た佇まいだが、防犯カメラの類は見当たらない。
 むしろ、こちらのほうがやりやすいかもしれなかった。
 ただまあ、自動ドアと木製の手動ドアを間違えるなんて、随分と緊張でパニックを起こしかけていたに違いない。
 そう考えると、少し、リラックス出来た気がした。

o川*゚ー゚)o「お客様?」

 店員が俺の様子がおかしいことに気がついたのか、小首を傾げて尋ねる。
 だが、もう、遅い!

 俺は決めていた通りの言葉を叫ぶため、大きく息を吸い込んだ。




29: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:44:33.653 ID:0raBhKNo0.net

 

爪'ー`)「強盗だァ! 金を出せ!」



・当店のスタッフはどのようなお客様にも満足いただけるよう常に完璧な対応をいたします。ご安心ください。




 2品目 火野今太様 ご注文

      カップ焼きそば




 そして俺は、素早くナイフを引き抜いて、コンビニで叫ぶ予定だった言葉をそのまま洋食店の店員に吐き出した。




31: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:45:17.707 ID:0raBhKNo0.net

 
 女性店員が悲鳴を上げて、一歩後ずさり、助けを乞うような視線を俺に向ける。
 そんな反応を予想したが、しかし、帰ってきたのは全くの別物だった。それは、ある意味で、考えうる限り最悪の反応でもある。
 首を可愛く少しだけ傾けたウェイトレスは、その口から悲鳴以外の声を紡ぐ。優しく、問いかけるように。

o川*゚ー゚)o「1名様でよろしいでしょうか?」

 あくまで店員は、機械的に接客を続けたのだ。
 予想外すぎる対応に、思わず俺は言葉に詰まる。
 戸惑う俺に、彼女はまた繰り返す。

o川*゚ー゚)o「1名様でよろしいでしょうか?」

爪;'ー`)「お、おいテメエ! ナイフが見えねえのか? 強盗だよ金をだせ!」

 店員の美しい無機質な瞳が、鏡じみた表面に俺の姿を反射する。
 まるで恐怖を感じていないその姿に何故か憤り、少し脅してやろうとナイフの切っ先を突きだした。
 だが、店員は全く動じず、また避けることもせずに、その刃先を白磁のような肌で受け止める。

o川*゚ー゚)o「1名様でよろしいでしょうか?」

 喉元からぷつり、赤い血が玉を作り、次いでナイフの刃先を這った。
 傷つけるつもりはなかったので、思わず身体がすくんで、手を引いてしまう。
 しかし、店員の様子は何も変化しない。そう、痛がりも、怖がりも、怒りも何も感じさせない、微笑が浮かんでいる。




32: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:46:35.101 ID:0raBhKNo0.net

 
 焦る俺を急かすように、店員はまた、同じ言葉を繰り返す。

o川*゚ー゚)o「1名様でよろしいでしょうか?」

 その姿に、とある有名なゲームのセリフを思い出していた。
 「はい」を選ぶまで何度も同じ質問を繰り返す、あの定番のセリフ。
 微笑を浮かべて接客を続ける店員は、まるで機械仕掛けの人形だ。

o川*゚ー゚)o「1名様でよろしいでしょうか?」

 接客という対応以外を、まるで知らないように振る舞う、狂気。
 薄ら寒さを感じて、俺は転げるように店から飛び出ようとするが、しかし、ドアノブは溶接されたように回らず、閉じて開くことがない。
 何か防犯システムでも作動したのか? 体当たりを試みようとして、振り返れば店員のガラス細工のような眼と視線がかち合う。

 そこには何の感情も読み取れない。相手に目線をあわせている自覚があるのかさえ、疑問を感じ始めていた。

 ずい、と、店員が距離を詰める。これは一種の防犯対応なのだろうか? だとしたら、この対応は正解だ。
 腰を抜かすまで行かないが、俺は全く動けなくなっているのだから。
 どうしようもなくなった俺がなんとか絞り出した言葉は、たぶん、切羽詰って何かおかしくなってしまったからに違いない。




33: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:47:47.144 ID:0raBhKNo0.net

 
爪;'ー`)「い、一名だ」

o川*゚ー゚)o「畏まりました。喫煙席と禁煙席ございますがどちらになさいますか?」

爪;'ー`)「喫煙席で頼む」

o川*゚ー゚)o「畏まりました。席をご案内いたします」

 俺が質問に答えると、店員は何事もなかったように言葉を継いだ。
 人間味のない店員は、すたすたと店の中を歩いて行く。
 その様はまるで、決められた仕事をこなすからくり人形が人の皮を被っているかのようだ。

o川*゚ー゚)o「こちらへどうぞ」

 席へと案内され椅子に座って一息をつく。少し時間を置いて、気持ちが落ち着いてきた。
 何やっているんだ俺は、強盗に来たはずが、何故かテーブルについて接客を受けている。
 いや、それを言ったら、強盗を客としてもてなすこの店が異常か。
 
o川*゚ー゚)o「失礼いたします。こちらお冷とおしぼりになります」

 目の前にコルクのコースターと透き通った氷が浮かぶ、ガラスのコップが差し出された。
 それから、ほんのり暖かいおしぼりを置いて、一礼すると店員はどこかへと歩き出す。
 機械的でやたら完璧な対応をしたがるウェイトレスだが、ここで穴が出た。やはりナイフで脅されたのは内心ビビってたようだ。




34: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:48:48.798 ID:0raBhKNo0.net

 
o川*゚ー゚)o「それでは、ご注文決まりましたら声をおかけください」

爪'ー`)「おい、待てよ。メニューは?」

 俺はまさに鬼の首を獲った心境だった。
 ニヤニヤと下卑た笑みが浮いているのが、自分でもわかる。

 だが、店員は眉ひとつ動かさず、ただ接客するために作られたロボットのように、完璧な微笑を浮かべたままだ。
 その能面のような顔面から発せられる言葉は、またもや俺の予想を裏切ってくる。

o川*゚ー゚)o「当店にメニューはございません。お客様が今までの人生でもう一度食べたい物をご提供させていただいております」

爪'ー`)「は? じゃあ、なに頼んでもいいのか?」

o川*゚ー゚)o「いえ、お客様が今までの人生で召し上がったことがないものはご注文いただけません」

 随分とふざけたことを言ってやがる。だが、要するに何頼んでも出せる店ってことなのか?
 細かい注文を受け付ける、とか、そういう話だろうか?
 さっきのやりとりといい、この店は頭のおかしい店らしい。気味が悪い。

爪;'ー`)「どうすりゃ分かるんだよそれ」

o川*゚ー゚)o「今までの人生でお客様が召し上がっていればわかります」




35: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:50:33.734 ID:0raBhKNo0.net

 
 バカバカしい、何だこの店は、先ほどの対応といい、頭がおかしいんじゃないか?

爪'ー`)「じゃあ、そうだな……」

 だが、ここで俺の天邪鬼な部分が鎌首をもたげた。ここまで小馬鹿にされて黙ってもいられない。
 絶対に出せない料理を頼み、ゴネて金をむしり取ってやろう。
 先ほどは失敗したが、今度は正当な客として戦ってやる。

爪'ー`)「じゃあよ。4年前の俺の誕生日。あの日の晩に食ったものがいい」

 こんな曖昧な注文に応えられる奴はいないだろう。
 もはや意地だ。この店員を困らせようという意地。

 その日はちょっと特別で何を食べたのか、俺は正確に覚えている。人生で最悪のあの日を俺は忘れない。
 だが、こんな曖昧な注文に店員が応えられるはずがない。仮に応えられても、アレは絶対に出せないはずだ。
 しかし、店員はまるで動揺も見せないまま、それに応じた。

o川*゚ー゚)o「畏まりました。ご注文を繰り返させていただきます。VIP食品 カップ焼きそば 夜店のソース味が一点ですね。少々お待ちください」

爪;'ー`)「へ?」

o川*゚ー゚)o「なにかございますでしょうか?」

爪;'ー`)「い、いやそれでいい」

 なんだ? 何なんだこの店は?




37: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:51:51.116 ID:0raBhKNo0.net

 
 なんで? なんでそれを知っている?
 俺をずっと監視してたってことか? いつからだ?
 だから俺が強盗に入るのも知っていたのか?
 おい、どうなってる?
 そもそも、もう倒産して、とっくに市場に出回っていないカップ焼きそばをこの店は出せるっていうのか?

 料理が運ばれるまで疑問が頭の中を渦巻いて、喫煙席を選んだのにタバコの一本に火も着けることはなかった。

 そもそも、ここは洋食店か何かのはずだ。そんな古いインスタント食品が残ってるとは思えない。
 だが、その疑問も数分後に運ばれてきたチープな白い容器を見て、四散する。

o川*゚ー゚)o「失礼いたします。こちらVIP食品 カップ焼きそば 夜店のソース味になります」

 目の前のテーブルに、湯気を浮かべるもう存在しないはずのカップ焼きそばが置かれた。
 隣にあるのはあの時と同じ、コンビニの割りばし。

o川*゚ー゚)o「ごゆっくりどうぞ」

 焼きそばの蓋を取り除くと、ふわりと湯気が躍った。
 その湯気に乗って安っぽいソースと青のりの香りが漂い、乾燥キャベツの何とも言えない匂いが遅れて混ざり鼻腔をくすぐる。
 思わず、ごくりと喉が鳴った。

 今更ながらに思い出したのは、昨日から何も食べていないことだった。

 とりあえず、食べよう。食べてから、考えよう。
 そう考えたらなんだか、急に肩の力が抜けた。どうにでもなれ、そんな気分だった。




39: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:52:31.433 ID:0raBhKNo0.net

 
 最初に鼻を刺激するのは、どこか懐かしいソースの香り。
 次にからしマヨネーズが、鼻をツンと刺激する。
 最後に磯の風味がしっかりと薫る、青のりも焼きそばを語る上では外せない。

 まずは一口。乾燥キャベツからだ。

爪'ー`)「わかってんじゃねえか」

 俺はキャベツは後入れ派だ。小袋に分けられていれば必ずソースの直前に入れる。
 これは譲れないポイントだが、このレストランはそれもわきまえていた。
 後入れすることによって、乾燥キャベツは戻りきらず、カリカリとした小気味のいい歯ごたえを感じさせてくれる。
 口の中で砕いていくが、全ては絶対に食べない。お楽しみはこれからである。

 続いて、本命。むしろ、ほぼこれしかないといえる麺だ。
 一口サイズに割り箸で掬い、口へと運ぶ。同時に、即席麺特有の柔らかな麺が、ソースの味とともに口に突撃を図る。
 豊かな風味とわずかに甘い、ソースの塩気。焼いてもいない焼きそばの安っぽくも濃厚な、あの味。
 俺の貧乏舌が、その味に歓喜の声を上げた。

 ズルズルとすすれば、マヨネーズのまろやかな酸味とカラシの刺激がハーモニーを奏でてくる。
 縮れた麺は水が抜け切れておらず、変にふやけているが、それはそれで風情があった。
 もう食うことができないと思っていたその味が確かにここにあるのだ。

爪'ー`)「ぷはっ」

 ここで一旦リセットだ。レモン水を口に含み、味を帳消しする。




40: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:55:20.786 ID:0raBhKNo0.net

 
 濃すぎる焼きそばに占拠されていた口内は、これで完全とは言わないが、だいぶリセットされる。
 レモン水だったのは運が良かった。ただの水よりも清涼感があり、切り替えがうまくいく。

 これでビールがあれば最高だったが、頼めばよかったか?
 いや、今から頼んでは麺が冷めてしまうか?
 しかし、ベストタイミング。店員は俺の心を読んでいるんじゃなかろうか? そこに救世主は現れたのだ。

o川*゚ー゚)o「こちら、生ビール大ジョッキになります」

爪'ー`)「へ?」

 頼んでもいないビールが、追加で持ち込まれたのだ。
 なんという行幸。なんという手際の良さ。
 もはやこの程度では驚くのも今更だが、この店は本当に、今食べたいものを提供してくれるのだ。

 もうちょっといいものを頼めばよかったかもしれない。
 いや、それはリリに悪いか。
 その意味でも今一番食べたいものは、このカップ焼きそばで正解だっただろう。

爪'ー`)「じゃ、お言葉に甘えて」

 久しぶりのアルコールが、身体に染み渡る。
 サッパリとした苦味と喉越しが濃い味付けに疲れた舌を癒やす。
 一息で半分飲み干して、かーっと吠える。良いビールだ。俺の舌は信用ならないが、たぶん、スーパードライだと思う。
 これも飲んだことがあるものなのから選ばれたのか? いやきっと、そうなのだろう。




41: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:56:20.466 ID:0raBhKNo0.net

 
 ここでビールから焼きそばに戻る。麺を混ぜてひっくり返し、底に沈んだキャベツの救出を図った。

 ソースを吸って戻りかけたキャベツも乙なもので、味が通常よりもよく染みて、それは絶品となる。
 カリカリとザクリの中間をいく、サクっとした歯ごたえを狙って、キャベツの甘味を存分に味わう。
 また、同時に残ってしまった水気をこのキャベツが吸ってくれることで、焼きそばの味は徐々に変化を続けるのだ。

 この店は、まるで俺の食べ方を熟知しているような、完璧な焼きそばを提供してくれていた。

 そして、最後は麺に絡まりきらなかったソースの残り汁。
 これをキャベツと麺で掬って食べる。

 濃すぎる味に口が疲弊したところでビールの登場だ。
 焼きそばとビールのコラボレーションは、ビールとしてみればベストではないかもしれない。
 しかし、焼きそば側から見れば完全にベスト。最高の組み合わせである。

 ビールは変に上品すぎてもいけない。
 ただ冷たく、サッパリとしていて、香ばしさもほどよくあり、そして苦味は後味が引かぬ薄めの味、そういったビールがベストだ。
 それによって、濃すぎるカップ焼きそばの味付けと上手く調和が取れるというものである。

爪'ー`)「意外と満足してしまった」

 今さら、意地だのと言った感情はなかった。
 度を超えた完璧さに、もはや何も言うことはない。勝てる相手ではなかったのだろう。




42: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:57:48.813 ID:0raBhKNo0.net

 
 だがしかし、この店のサービスはそれだけに留まらなかった。
 食べ終わる直前になって、ウェイトレスが持ってきたのは生クリームの塊だった。
 皿の上に乗ったそれは、テーブルの上に置かれて、コトリと、小さな音を立てる。

o川*゚ー゚)o「こちら、店主からサービスです」

 妙な見覚えがあるそれは、歪つな形で斜めに傾いでおり、申し訳程度にいちごが一つ乗っかっている。
 ホイップクリームは泡だて方が足りず、妙に汁っぽくてところどころ垂れていた。

o川*゚ー゚)o「2年前の誕生日にお召しになったケーキとなっております」

爪'ー`)「あ……あああ!」

o川*゚ー゚)o「では、失礼いたします。ごゆっくりどうぞ」

 店員の言葉を聞いて、完全に思い出した。

爪'ー`)「待った。なあ、灰皿くれねえか?」

o川*゚ー゚)o「灰皿ですね。こちらになります」

爪'ー`)y‐「ありがとうよ」

 紫煙を吐き出しながら、愛おしむようにケーキを眺めた。
 火を着けてから気がついたが、どうにもこれは最後の一本だったらしい。
 しまった、食後の一服がこれで出来ない。

 まあ、仕方がないか。




43: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 00:59:54.398 ID:0raBhKNo0.net

 
 いつもは甘く感じるフィリップモリスの軽い煙が、やけに苦く、目に沁みる。
 どれくらい眺めていただろうか? 数分だったと思うが、思いのほか長く眺めていたかもしれない。
 タバコの火はいつの間にか消えていた。最後だったのに、勿体無いことをした。

 手癖から消えたタバコを灰皿で揉み、フォークを掴んだあと、少し、気合を入れる。それから、意を決してケーキに手を伸ばす。
 フォークを立ててケーキを切り取ると、ぱさついたスポンジがぐしゃりと割れて、ホイップクリームがどろりと垂れた。
 それを銀の爪に乗せ、口に運ぶ。

 焼きすぎてパサパサとするスポンジは、変に歯ごたえがあって噛み切れない。
 その上、ところどころダマになったまま焼かれており、たまに粉っぽさを感じて、砂糖を入れ忘れたのか妙に甘くない。
 逆に混ぜ足りないホイップクリームはやたらと甘く、時折じゃりっと砂糖の塊が歯に当たる。

爪つー;)「ははっうめえなあ」

 口に出た言葉と裏腹に、当然、不味かった。できそこないと言われても、否定はできないケーキだ。

 でも、俺にとっては世界で最高のケーキだった。
 完全に、完璧に、あの時と全く同じケーキだった。

 見ただけで思い出せなかった自分を恥じる。これは、娘が作ってくれた誕生日ケーキだ。

 ああ、涙が止まらない。こんなレストランで泣くなんて、思いもしなかった。
 畜生。だっせえ。




44: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:01:10.990 ID:0raBhKNo0.net

 
 俺には娘がいた。名前をリリという。当時としては珍しいことに出来婚だったが後悔はなかった。
 妻は愛していたし娘は可愛くて仕方なかった。

⌒*リ´・-・リ「お父さん。わたしね、おおきくなったらお父さんのおよめさんになってあげるの」

爪'ー`)「ええ? ダメだよ。お父さんには母さんがいるんだ」

⌒*リ´・-・リ「でもお父さん、頼りないからお母さんにすてられちゃうかもしれないでしょ?」

爪'ー`)「ははっ随分手厳しいこというねぇ」

⌒*リ´・-・リ「そしたらリリがお父さんのおよめさんになってあげるの」

爪'ー`)「そうかそうか。じゃあ期待して待ってるよ」

 そんな会話を笑いながらしていた頃は、本当に別れることになるなんて、思っていなかった。

 ケチのつけ始めは、異動が決まり、部署が変わった頃だった。
 30後半の仕事盛りの俺は、社内でも厳しいと悪名高い部署に飛ばされた。すぐ人の辞めてしまう部署だった。
 代わりに新人を入れても、慣れる前に辞めてしまう。根性がないとは言えない。それくらい理不尽な部署だ。

 当然、人手が足りなくなって、仕事は回らない。仕事が回らないために、毎日サービス残業で遅くなる。
 残業代を付けるなんて、部署の空気が許されなかった。そんなことをすれば何時間も部屋に閉じ込められて説教された。
 何日も家に帰れないのが普通になって、気が付けば古株は俺だけになっていた。




45: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:02:13.231 ID:0raBhKNo0.net

 
 今でいうブラック企業、ブラック部署だったんだろう。
 以前の部署もブラックというかグレーな部分はあった。でもこの部署ほど強烈ではなかったのだ。
 ヤバいという気持ちよりも、常に焦りが心を支配するそんな暮らしだった。

ミセ*゚ー゚)リ「あなた、本当に大丈夫なの? 顔色悪いわ」

爪'ー`)「でも、俺がいないと仕事が回らないから」

ミセ*゚ー゚)リ「そうなの? でも、前よりもお給料減ってるし、大丈夫なの?」

爪'ー`)「なら、俺がもっと頑張って仕事をしなきゃね」

ミセ*゚ー゚)リ「そうね。リリのためにも頑張って!」

 その頑張ってが、重たかった。鎖のように身体を締め付けていった。
 だけど、妻と子供のためだけに、俺は頑張れた。
 今思えば、この時にはもう歯車は狂っていた。

 毎日のようにカップ麺を食べていたから、健康的だった身体はみるみる太っていった。
 そのくせ栄養失調で倒れたこともある。病院に連れて行かれて、それから会社に電話したら上司に怒鳴られた。

「軟弱者が、すぐ会社にこい! 健康管理は社会人の義務だ。できて当たり前のことができない奴に会社を休む権利なんかあるか!」

 倒れた人間に掛ける言葉ではない。でもこれくらい日常茶飯事な部署だった。
 無視して休めばいいものを、フラフラになりながら会社へ行って、何時間も怒鳴られ、結局その日は会社に泊まりこんだ。




47: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:03:37.145 ID:0raBhKNo0.net

 
 それでも家族を守るために仕事は辞めなかった。
 いや違う。働かなければならない妙な責任感と強迫観念に憑りつかれていたのだ。
 上司の言う、無茶苦茶な社会の常識が、まるで洗脳のように俺の心を蝕んだ。

 そんな身を粉にして働いた俺だが、最後はあっけなく、なにかの摘発を受けて、その建て直しができずに会社は倒産した。
 残ったのはわずかな金銭と、ボロボロの身体とうつ病だった。
 失業保険がなくなるまで、俺は就職もしないで酒に溺れた。

 いざ辞めると今度は何もかもが億劫で、どうにも次の会社に勤めるのが怖くなってしまったのだ。
 嫁と娘はそんな俺を見限り、去ってしまった。

 ただ、別れてからも、娘とは定期的に会うことができた。

 嫁は会わせたがらなかったが、養育費を支払う以上、法的に会う権利が発生するのだとか、そんな理由だった。
 俺は何とか見つけた次の就職先で、年下の上司に詰られながら安い賃金を得て生活していた。
 半年以上就職もせずにふらついていた俺を拾ってくれたのは、やはりブラック企業だったのだ。

 それでも俺は安い給料から何とか金を工面して、養育費を支払い娘と会って話すことができた。
 僅かな時間だったが、心休まるひと時だった。

⌒*リ´・-・リ「お父さん! 誕生日おめでとう」

 その頃に娘が苦心して初めての手作りケーキを持ってきてくれたのは、今でも忘れることができない。
 こんなダメ人間を、彼女はまだお父さんと呼んでくれるのだ。
 そのことが、うれしくて、嬉しくて、仕方がなかった。




48: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:04:11.668 ID:0raBhKNo0.net

 
 しかしそんな生活も最初の一年ほどの間だった。

 年下の上司と些細なことで口論になり、つい手が出てしまって、クビを切られた。
 半分は正当な理由で、半分は私怨の喧嘩だった。
 そいつの人を小馬鹿にした態度と理不尽かつ無理な要求。そしてなにより、息子自慢を繰り返す普段の会話。
 理不尽さに羨ましさが混ざって我慢が出来なくなってしまった。

 失業して治りかけていた鬱が再発した。

 でももう、通院する金も余裕も俺には残っていなかった。
 日雇いの仕事をこなして、ただ借金を増やしながら生きるだけの日々が始まった。
 娘の養育費も払えなくなり、俺は娘と会う権利を失った。

 あとはもう、堕ちていくだけだった。その結果が今の俺であり、先ほどの強盗だ。
 もう俺に残っているものなど何もない。今あるのは借金と、捨て鉢となっての犯罪をする覚悟だけだった。

 今にして考えてみれば、今日頼んだ料理はただ単に誕生日に食べたものではない。

 あのカップ焼きそばは、人生で最も苦い思い出の味だった。
 このケーキは、人生で最後の甘い思い出の味だった。

 その思い出を、今、最後の一口まで完食する。
 ただそれだけで、なにか生きる気力が、俺の中に芽生えていた。
 我ながら現金なものだ。ただ飯を食っただけで、もう考えが変わっていやがる。




49: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:05:37.833 ID:0raBhKNo0.net

 
 そこでふと、我に返る。しまった、金がない。ゴネて支払いをしないつもりが、いつの間にやら完食してしまった。
 いや、違う。それでいい、ここでそんなことをしたら、娘に会わせる顔がないだろう?
 レジカウンターへと足を運ぶ。もう、迷いはない。覚悟は決めた。
 ここはいい店だ。もう俺の心の中にはこの店からゴネ得しようだとか、金を奪おうだとか、そんな気持ちは一切ない。

爪'ー`)「なあ、店員さん。会計なんだがよ。すまねえ!」

o川*゚ー゚)o「はい。いかが致しましたか?」

爪'ー`)「俺は金がないんだ!」

 ある意味、店員は強盗した時からわかっていただろうが、それを告白する。
 同時に、俺はやたらと綺麗でゴミひとつないフローリングの床に、膝と両手を突いていた。
 ただ俺の思いが伝わることを祈って、俺は頭を下げる。

爪 ー )「でも、またこの店に来たいと思っている! 必ず返す! すまねえ!」

o川*゚ー゚)o「お客様、当店ではお代は一切頂いておりません」

爪'ー`)「へ? どういうこと?」

o川*゚ー゚)o「なにもお支払い頂く必要はございません。当店は必要な方に必要なものをご提供させて頂いております」

 なんだか急に拍子抜けしてしまった。
 不思議な店だとは思っていたが、ホント、何なんだこの店は?




50: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:05:53.340 ID:0raBhKNo0.net

 
爪'ー`)「じゃあ、強盗に来た俺でも、また食べに来てもいいのか?」

o川*゚ー゚)o「当店は人生に疲れたお客様が、今までの人生でもう一度食べたいと思った物を提供させていただくレストランです」

爪'ー`)「えっと、つまり、人生に疲れてねえとダメってことか?」

o川*゚ー゚)o「左様でございます」

爪'ー`)「ははっそりゃあ、ひでえ。ここにまた来るってことはどん底ってことかよ」

o川*゚ー゚)o「左様でございます」

 鉄面皮の言葉は皮肉だろうか? それとも、単なる機械的な対応の延長なのか?
 どちらとも取れるし、どちらでも構わない。
 ただなんとなく、その対応にも慣れて、ちょっと笑みがこぼれた。

爪'ー`)「ありがとう、美味かった」

o川*゚ー゚)o「ありがとうございました。また当店をご利用するほど疲れぬよう、心からお祈り申し上げます」

爪'ー`)「ああ! もう来ねえよ!」

 ニヤついて、店を出る。そこは強盗しようと目をつけていたコンビニの店内だった。
 電子チャイムが鳴って、俺の入店を店員に知らせる。
 そうだった。俺はこの店に入ろうとしてたんだ。一瞬、夢でも見たのかと疑って、しかし満たされた腹がそれは違うと否定する。

 まあどっちでもいい。コンビニってのもちょうどいいや。欲しかった物がある。

 そう考えて、俺はタウンワークを探した。コンビニを出ても、タバコは切らしたままだった。




51: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:06:30.087 ID:0raBhKNo0.net

 




 − NEXT GUEST −




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52: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:07:36.999 ID:0raBhKNo0.net

 



・当店ではご予約も受け付けております。



3品目 赤木浩一・椎奈様 ご注文


  ハンバーグステーキ


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54: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:08:51.321 ID:0raBhKNo0.net

 
 俺の妹は病気だった。

 病名はなんたら線維症。詳しくは知らないが、生まれつき分泌腺の異常で全身の内臓が上手く機能しなくなる病気らしい。
 特に酷いのは肺の中が粘液で覆われて、呼吸困難を引き起こしたり、粘液に雑菌が繁殖し肺炎を起こして苦しむことだ。
 更に消化液の分泌にも支障があるため、栄養がほとんど消化できないのだという。

 一種の生まれ持った障害であり、根本的治療法はない。
 薬で症状を緩和しながら、いずれ死に至るのを苦しみながら待つだけの病気。

 それが判明したのは妹が小学生になる前、彼女は物覚えがある頃から入退院を繰り返している。
 新生児の時点で見つかることが多いため、珍しい症例だと医者は言っていた。
 妹は入院していない時でも、消化酵素薬やビタミン剤、抗生物質など、大量の薬を飲み続ける必要があった。
 そのため、食欲はあるのに痩せていて、病院暮らしの肌は青白く痛々しい。

 まだ彼女は小学生だ。
 6年も歳の離れた妹を俺は可愛がっていた。シスコンと言われても否定できないくらいだった。
 だから、退院中は少しでも一緒にいてあげた。

 妹の世界は狭い。

 入退院を繰り返す生活のため、学校に友達は少ない。
 明るい性格をしているから、いじめられたりはしてないみたいだが、それでも一年の半分は病院で過ごすため仲良くなりようがないみたいだ。
 学校の話題にもついていけず、必然的に俺に懐いていた。




55: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:10:21.030 ID:0raBhKNo0.net

 
 妹がテレビを横目に見ながら、今日の出来事を報告し始める。

(*゚ー゚)「今日はねえ、なべちゃんが面白かったんだよー」

 楽しそうに語る友達の話。でも、俺はそれが嘘だと知っている。
 家族を不安にさせないために、彼女はよく嘘を吐く。
 毎日みたいに、延々とそうやって嘘を吐けば、矛盾が積み重なって俺はそれに気が付ける。

 でも、それを否定したら彼女が壊れてしまいそうで、俺は毎日黙ってそれを聞いていた。
 両親は妹の治療費を稼ぐために、共働きでいつも家にいない。
 だから、妹の世界にいるのはいつも俺だった。俺が彼女の嘘を否定したら彼女の支えがなくなってしまう。

(*゚ー゚)「お兄ちゃんいつもごめんね。家にすぐ帰ってくるの、大変でしょう?」

 正直にいえば、俺だって友達と遊びたい。バイトもしたいし、家事は億劫だ。
 でも、俺がいなければ家事を妹がしてしまう。
 いつも自分を支える家族の負担を憂う彼女は、少しでも負担を和らげようと家のことをしたがるのだ。




56: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:11:24.293 ID:0raBhKNo0.net

 
 いつ肺炎を起こしても不思議ではない彼女に、掃除なんかさせられない。
 空気中に舞った雑菌を吸い込むと、正常な人間はすぐに排出できるのに、彼女はそれが困難で体内で増殖してしまうのだ。
 だから、俺はいつもすぐに帰宅した。友達と遊べない苦痛は、妹の生活を思えば大したことがなかった。

(*゚ー゚)「お兄ちゃん、遊んできていいんだよ? 掃除はできないけど、食器洗いはできるよ」

(,,゚Д゚)「いいの。ほら、お前は昨日肺炎治ったばかりなんだから寝てろ」

(*゚ε゚)「ぶー」

 こいつはズルい。いつもこうやって俺のことを気遣ってくれる。
 俺たち兄妹は、神様をいつも呪っていた。

 液晶テレビの薄いスピーカーが「人生40代から!」などと言い出して、思わずチャンネルを変えた。
 妹は人生を40年も過ごせないのに、無神経な番組である。無論、単なる八つ当たりだ。
 神様は本当にいつだって意地が悪い。

 なあ神様。こんなにいい子がなんでこんな苦しむ必要があるんだよ。治してくれよ。
 誰かが死ななきゃいけないなら、俺が代わりに罹ってもいい。でも、こいつは助けてやってくれよ、神様!

 そんな願いはいつだって届けられることはない。




57: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:12:14.150 ID:vETMLcXj0.net

何か食べたくなってきた
支援




58: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:12:15.347 ID:0raBhKNo0.net

 
(,,゚Д゚)「なあ、買い物行ってくるよ。今日食べたいものはなんだ?」

(*゚ー゚)「一緒に行く! ちゃんとマスクつけるからお願い!」

(,,^Д^)「わかったわかった。で、なにがいい?」

(*^ー^)「ハンバーグ! ねえ、お兄ちゃん。一緒に作ろう?」

(,,゚Д゚)「そうかー、お前、ハンバーグ大好きだもんな」

(*゚ー゚)「あのね、昔食べたハンバーグ。美味しかったでしょ? あんなハンバーグが作りたいの」

 彼女が思い浮かべるのは、小さな頃食べたハンバーグステーキのことだろう。
 まだ、肺炎も酷くなかった頃、家族で食べに行った洋食店。彼女が話す中で数少ない嘘のない話。楽しかった思い出。

 かつて生活が今より苦しくなく、一軒家で暮らしていた頃の思い出。
 俺たち家族が珍しく一同揃って行った個人経営の小さなレストラン。
 今のマンションに引っ越してからは、遠くなって行けなくなった。行きたいと妹が主張しても、何故か両親は連れて行ってくれない。

 病気が治ったら、食べに行こう。

 それは両親の決まり文句だった。




59: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:13:25.319 ID:0raBhKNo0.net

 
 両親があのレストランに連れて行ってくれないのは、生活が苦しいからだ。
 「病気が治ったら」そんなことがありえないのを、俺は知っている。この病気は未だ治療法が見つかっていない。
 彼女はずっと、あのレストランでハンバーグを食べられない。

(; ー )「ごほっゲホゲホ!」

(;゚Д゚)「しぃ? おい! しぃ! 大丈夫か!?」

(; ー )「ぜひぜひ……だいじょ……ぜひぜひ……」

 歩きながらそんなことを考えていると、しぃの体調が唐突に悪くなった。
 痰の出ない空咳、目の血走り方、震える両手、多分呼吸困難と軽度肺炎。
 鞄の中から常備していた抗生物質と気管支を広げるステロイド系の吸引器を取り出す。

 この程度の発作はよくあることだった。たぶん、今すぐ入院にはならないだろう。
 でも、次の入院は近い。そうしたら、また数か月間、彼女は病院に閉じ込められてしまう。
 腕の中で汗だくになりながら、吸引器を吸い込む彼女を見ていると、様々な思考が駆け抜けていく。

 頭の中で、一つの結論が浮かぶ。
 ちょっと早いか? でももう、今しか、ないんじゃないか?

(,,゚Д゚)「なあ、しぃ」

(*゚ー゚)「……なぁに? お兄ちゃん」

 健気にも無理やり息を整えて、平気そうな笑顔で返事をする妹。
 汗がにじんだその顔は、赤く上気していて、とても辛そうだった。




60: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:14:31.112 ID:0raBhKNo0.net

 
(,,゚Д゚)「今日の買い物は辞めにして、あのレストランにいこうか」

(*゚ー゚)「えっお金大丈夫なの?」

 そんな状態なのに、喜ぶよりも先に家計の心配をする。
 この彼女がこんなにつらい病気になるなんて、絶対何かの間違いだ。

(,,^Д゚)「大丈夫、お兄ちゃんに任せておきな」

 小遣いをずっと貯めていた。使い道はたぶん、今だと思う。
 アルバイトもしていない。いや出来ないので、その貯まりは牛歩のごとく遅かったが、それでも電車賃と食事代くらいはある。
 今日は日曜日、今から行けば夕飯時にちょうどいいだろう。

(*゚ー゚)「おにいちゃんは何食べる!? 私はね! やっぱりハンバーグがいい!」

(,,゚Д゚)「そうだなあ、なににしようかなぁ」

 電車に乗るまで、家計の心配を続けていた妹だが、途中からは嬉しさを抑えきれなくなったようだ。
 小学生らしい歳相応な笑顔をして、電車の中で元気そうに跳ね回る。
 迷惑だからやめなさいというと、舌を出してむくれた。
 連れてきてよかったと、自然と顔が綻ぶ。

 だが、そんな喜びも長くは続かなかった。




61: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:15:23.883 ID:0raBhKNo0.net

 
 到着してすぐの間、俺は茫然自失としていた。
 妹が手を引くまで、思わず思考を停止してしまったほどだ。
 おい神様。そりゃあねえだろ。なあ! 畜生!!

(*゚ー゚)「お兄ちゃん? ここだよね?」

(,,゚Д゚)「そのはずだけど……」

 そのレストランは、既に閉店して廃墟となっていた。
 両親が連れてくれなくなった意味が、やっとわかった。 
 妹が何度も慰めてくれる声が、上の空になった俺の右耳から左耳へと抜けていく。

(*゚ー゚)「わたし大丈夫だよ? ほらあそこにケーキあるよ! 買って行こう?」

(*゚ー゚)「お兄ちゃんのハンバーグも大好きだし! あ、でも今から帰ったら手の込んだもの作れないか!」

(*゚ー゚)「じゃあ、コンビニで買い食いでもいいよ! ハンバーグは明日ね?」

(*゚ー゚)「ねえ、だからお兄ちゃん。元気出して?」

 一番楽しみにしていたはずの小学生に、何故俺が慰められているのか。
 情けない。実に情けない。
 妹を喜ばせようとして、逆にぬか喜びを与えて、無為に体力を消耗させてしまった。

 このまま、どこかへ消えてなくなってしまいたかった。




62: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:16:42.002 ID:0raBhKNo0.net

 
 しばらくして、気を取り直した俺は、当て所なく歩き始めた。
 何処に行こうとも考えていない。ただ、どうしていいかわからなくなったのだ。
 でも、この子の病気を思えば長くは歩けない。近くにはファミレスもなく、仕方なしに俺はコンビニへと足を運んだ。

 ただ、ひたすら自分が情けなかった。インターネットの発達した現代、ちょっと調べればわかることだった。
 それを怠り、妹を深く傷つけてしまったのだ。
 せめてコンビニの弁当でも、妹が食べたい物を食べさせてやろう。そう、考えながら、コンビニに入る。

o川*゚ー゚)o「いらっしゃいませ。思い出レストランへようこそ」

 しかし、そこはコンビニではなかった。見慣れぬ洋食店の店内。いつの間にこんな店に入ったのだろう?
 聞いたことがない店名。チェーン展開をしていない個人経営店だろうか?
 だとしたら、この店ができたから、思い出のあの店も消えてしまったのかもしれない。

(;゚ー゚)「お兄ちゃん?」

(,,゚Д゚)「ああ。ちょうどいい。ここで食べようかしぃ」

(;゚ー゚)「えっでも、平気? ここ高そうだよ?」

 言われてみれば、店内は落ち着きのある大人な雰囲気が漂っていた。
 内装は凝っていて、どの調度品も古く歴史を感じさせるが、よく手入れされていて汚い印象はない。
 ちょっと手持ちがヤバいかもしれないが、これを逃したら次がいつになるかわからない。
 今回の電車賃を補うのに1か月かかってしまうし、しぃの容体が急変しないとも限らない。




63: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:17:39.020 ID:0raBhKNo0.net

 
o川*゚ー゚)o「2名様でよろしいでしょうか?」

(,,゚Д゚)「ああ、二人だ」

(;゚ー゚)「ええ? 大丈夫なの?」

(,,゚Д゚)「子供がお金の心配するもんじゃねえよ。なに、結構兄ちゃんもお金持ってるから大丈夫」

o川*゚ー゚)o「では、禁煙席にご案内いたします」

 格好つけたものの、少々心配だ。
 メニューをみて高いなら、俺は簡単なものを頼んで、妹に好きなだけ食わせよう。
 妹が遠慮しなければいいが……

 お冷を飲みながら周りを見渡すと、夕飯時だというのに俺たち以外に客はいなかった。
 なんだ? 随分とまあ、人気がない店だ。この調子だと、美味しいものは期待できないかもしれない。
 それとも高い店は皆こうなのだろうか? あるいはこの店に何か問題があるのか?

(*゚ー゚)「メニュー、持ってこないね?」

(,,゚Д゚)「えっ? あ、ああ、そうだな。すいません!」

 お金の心配ばかりしていたので、メニューがないことを言われるまで気付かなかった。
 手を振ると、店員がこちらに歩いてくる。

o川*゚ー゚)o「お待たせいたしました。ご注文お決まりでしょうか?」

(,,゚Д゚)「すいません、メニューがないんですが……」




64: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:19:17.278 ID:0raBhKNo0.net

 
o川*゚ー゚)o「当店にメニューはございません。お客様が今までの人生でもう一度食べたい物をご提供させていただいております」

(,,゚Д゚)「えっと……それはどういう?」

o川*゚ー゚)o「そのままの意味でございます」

(*゚ー゚)「じゃあ、あのハンバーグも頼めるの!?」

o川*゚ー゚)o「はい。畏まりました。レストラン「VIP亭」のハンバーグステーキが2点でよろしいでしょうか?」

(,,゚Д゚)「えっ? は?」

(*゚ー゚)「やった! ハンバーグ! それでよろしいです!」

 しぃが喜んで返事をするが、なんで、あの店のハンバーグ・ステーキだと何故分かったんだ?
 いや、もしかするとあれか? あの店がリニューアルしてこの店になったとかそういう理由か?
 だとしたら、これは運がいい。それこそ本当に調べるべきだった。
 でも、それなら値段も高すぎることはないし、何でも出してくれるなら、ハンバーグというのはちょっと惜しい気がするな。

(,,゚Д゚)「いや、俺はタンシチューがいい」

 「VIP亭」は元々、タンシチューが売りのレストランだった。
 俺は当時それを知らなかったから、食べたことがない。
 看板メニューなら残っているだろうし、しぃとは別の物を頼んだ方が、分け合う事ができてちょうどいいだろう。

o川*゚ー゚)o「大変申し訳ありません。タンシチューはお客様が召し上がったことがないため、ご提供できません」




65: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:20:05.478 ID:0raBhKNo0.net

 
(*゚ー゚)「ダメだよお兄ちゃん。聞いてなかったの? 食べたものしか出せないんだよ」

 しぃは何故か既に順応して、そう忠告してくるが、推理の外れた俺はただ驚くしかない。
 どうにも変に勘ぐってしまうのは、大人として汚れたからだろうか?
 それともなんだ? この店員、俺が子供だと思ってからかっているのか?
 なら、とりあえず、食ったことがあるもので、なんか出すのが難しそうなものを……

(,,゚Д゚)「じゃあ……俺もハンバーグステーキで。タレは和風ソース」

o川*゚ー゚)o「はい。畏まりました。レストラン「VIP亭」のハンバーグステーキが2点ですね? 少々お待ち下さい」

 しばしの逡巡。でも結局、食べたいものが浮かばなかった。
 ただ妹が叫ぶハンバーグがやけに美味しいそうに感じて仕方ない。
 なので、俺はとりあえず、タレだけ彼女と別のものにして、それを要求する。

(*゚ー゚)「やったー楽しみだなぁ!」

(,,^Д^)「そうだな、楽しみだ」

 口ではそうやって答えるが不安は拭えない。なにやら変な店に来てしまった。
 まあ、目的の店が閉店していたのだ。仕方ないことだった。そう自分を納得させる。
 これで出てきたものが中途半端だったらどうしようと、内心の怯えが顔を覗かせるが、無理やり押し留めた。




66: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:21:00.301 ID:0raBhKNo0.net

 
o川*゚ー゚)o「お待たせいたしました。ハンバーグステーキになります。鉄板お熱いのでお気をつけ下さい」

 出てきた料理は、まさしくあのハンバーグだった。
 肉汁を爆ぜさせる熱い鉄板も、それを支える木のトレイも、添えられた色とりどりの副菜も完璧に記憶の通りである。
 それも、俺の方は何も言わなかったのに200gのキングサイズである。
 そうか、そっちしか食べていないからか。なんとも財布に優しくない店だ。

 しかし、食器まで同じとなると、やはりあのお店がリニューアルしただけじゃないか。
 だとすると、タンシチューを出してくれなかった理由はなんだろう?

o川*゚ー゚)o「ごゆっくりどうぞ」

(*゚ー゚)「いただきます!」

 しぃが元気よく食前の挨拶をして、ナイフとフォークを手に取る。
 吊られて俺も、銀色のそれを手にとった。

 熱された鉄板の上で、ジュウジュウと音を立てる肉汁と脂の爆ぜる音。
 コーンと人参のグラッセが鉄板に焦げて甘い匂いを漂わせる。
 なにより、ハンバーグだ!
 メインとなる肉の塊は、わずかにナツメグと玉ねぎの芳香を伴う圧倒的な肉の焼ける匂いが、熱い蒸気となってテーブルを支配する!

 俺は手にとった銀のフォークとナイフを使って、それの端を1切れ切り分ける。
 ボロボロと崩れるでもなく、しかし、まるでバターのように抵抗なく食い込むナイフ。
 それは脂を十分に含んだ上質な挽き肉だからこそ感じられる適度な手応えだといえよう。

 断面にはみじん切りされたオニオンとキャロットが多すぎず、少なすぎずまばらに垣間見える。
 同時に、開放された肉汁が熱された鉄板に躍り出て、バチバチと歓喜の舞を始める。
 香りと音のコンビネーションをしばし楽しみ、熱々のハンバーグを一切れ頬張った。




67: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:22:22.199 ID:0raBhKNo0.net

 
(,,゚〜゚)  (゚〜゚*)

 何も言うことはない! ただひたすらに肉! 肉の味である! 素材本来の味わいがしっかりと生きている。
 柔らかい。しかし、決して、柔らか過ぎないしっかりとした歯ごたえは、噛みしめるたびに肉汁と野菜の豊かなハーモニーを生み出す。
 そこで効いてくるのが、火を通しすぎていない玉ねぎのシャキシャキとした歯ごたえ。これがいいアクセントとなって、食感を楽しませる。

 その後味を彩るのは、ちょっとキツめの胡椒の辛味と野菜の甘味、そしてナツメグの風味が、遅れて口の中で暴れ過ぎ去る。
 歯を、舌を存分に蹂躙したその上質な脂たちは、だが、余韻を残さず、後味は決して悪く残らない。
 挽き肉という素材を、最大限に活かした調理方法、ハンバーグ。
 どうやっても美味しいその料理は、しかし、手を抜かずに作っていることがその味から窺い知れる。

(,,゚Д゚)「うめえ!」

(*゚ー゚)「おいっしー!」

 続いて、鉄板の隣に置かれた和風ソースを手に取る。
 そう、最初は本来の味を楽しむために、わざとソースを掛けなかった。
 それを今、たっぷりとハンバーグの上から回し掛ける。

 熱された鉄板に、醤油と大根おろしが爆ぜていく。l
 同時に、ただでさえ美味しそうな匂いが充満していたテーブルに、焦げた醤油の匂いが加わりより賑やかに場を支配していく。

 切り分けて、一口頬張る。
 肉の味は醤油のしょっぱさと香ばしさを加えて、より引き立てられる。
 更に大根の辛味がアクセントとなり、甘みが強かったハンバーグのバランスを完璧に整えていく。

 ああ、この味だ。
 小さな頃食べた、レストランのハンバーグ・ステーキ。
 懐かしさが最後の調味料となり、それは完成に至った。




68: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:23:49.513 ID:0raBhKNo0.net

 
 そこでふと気がつく。妹のハンバーグは、ガーリックソースを使っていた。
 女の子にしてはワイルドなソースだが、小学生はそのようなこと気にも留めない。

 オーソドックスでありながら、いやだからこそ、定番となりうるその魅力。
 焦がしにんにくは特有の、胃を揺さぶる激しい香りをこちらに漂わせていた。
 その視線に妹が気が付き、ニヤリとしょうがないな、と言いたげに笑う。

(*゚ー゚)「お兄ちゃん、一口ちょうだい」

 妹が切り分けたハンバーグを一切れ、こちらの鉄板に乗せていう。
 ちょうだい、と言いながらも、しっかりと交換をしているのは、ちょっと小学生らしくない気の利き方だ。
 だが今は、それを指摘するよりも先に、ガーリックソースが優先である。

(,,゚Д゚)「おう、お互い交換な!」

 兄妹として育った二人の、いつもの儀式。
 違うものを頼んで、お互いに分け合い、より味を楽しむ戦略。
 これをしてこそ、思い出の味といえるだろう。

 しぃが寄越した一切れをフォークで突き刺し、口に運ぶ。
 醤油と大根の比較的サッパリとした味が占拠していた口内は、甘辛いソースの味が新鮮に感じられる。
 たっぷりと使われたにんにくの香ばしさが鼻孔を突き抜け、香りづけのバーボンがほんのり残る。

 思わずやみつきになるその味は、まさしくにんにくの専売特許であろう。
 それが唯でさえ美味しい肉塊と組み合わさり、口の中に広がる肉汁に別の顔を与えた。
 二人だから楽しめるこの味を、妹もしっかり味わっていることだろう。




70: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:25:27.380 ID:0raBhKNo0.net

 
 ここで、一つの悩みが鎌首をもたげる。

 ご飯が、欲しい。食べ盛りの時期である自分は、どうしたってこれに白米を合わせたい。

 だが、ライス一杯。それを頼むにしても懐事情というものがある。
 非常時の金はあった。しかし、それは両親から渡された生活費だ。
 これを使うと来月のお小遣いを前借りしたことになってしまう。それはどうしても避けたい。、

(*゚ー゚)「お兄ちゃん。追加注文していいかな? メニューはないけど、たぶん、安いやつだから!」

(,,゚Д゚)「おういいぞ! お前が食う量なんてたかが知れてるしな!」

(*゚ー゚)「やった」

 妹の手前、気前よくそれに答えるが、内心はヒヤヒヤしている。
 せっかくこんなにも美味しいハンバーグだが、これではロクに味わえないかもしれない。
 だが、そんな想いを、妹の注文は木っ端微塵に破壊してくれた。

(*゚ー゚)「すいませーん! ここって、今まで食べたことがあれば、なんでも出せるんですよね?」

o川*゚ー゚)o「はい、左様でございます」

(*゚ー゚)「だったら、お母さんが作ったオニオンスープ、頼めますか?」




71: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:26:08.945 ID:0raBhKNo0.net

 
 それはまだ今ほど生活が苦しくなかった頃のこと。
 食卓に並ぶ料理は、今と違って母親が作ってくれるものだった。
 今は俺が作っている。家計を支えるためであり、同時に俺ができる精一杯の支援でもある。

 妹はそのことに不満を漏らしたことはない。ないけれど、やはり、母親の味は別格なのだろう。

o川*゚ー゚)o「はい。赤木奈津様がお作りになったオニオンスープでよろしいですか?」

(*゚ー゚)「よろしいですー」

 店員の返答に思わず顔が上がった。何故、この店員は母親の名前を知っているんだ?
 先ほどまでの推理、この店はあの潰れたレストランの後継、という路線が音を立てて崩れる。
 なんだ? どういうことだ?

(*゚ー゚)「お兄ちゃんは何も頼まなくていいの? 足りる?」

 妹がふとこちらを見て、首を傾げる。気を抜いていたため、ふと濃密な誘惑が俺の心を揺さぶった。
 ジュウジュウと、まるで官能的とさえ言える、甘美な脂の誘い。
 こってりとした脂を、白米で押し流したい欲求。
 ごくりっと、喉が鳴る。まあ、白米程度なら、せいぜい200円ってところか? 高級そうな雰囲気からもっとするかもしれない。




72: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:27:09.499 ID:0raBhKNo0.net

 
(,,゚Д゚)「すいません。ライスを1皿ください」

 欲求には結局抗えず、ライスを1皿頼む。

o川*゚ー゚)o「ガーリックライスでよろしいですか?」

 ガーリックライス、だと!? 
 ゴクリ……。いや、駄目だ。誘惑に負けすぎている。
 来月のお小遣いに手が出る可能性がグンと上がってしまう。

(,,゚Д゚)「ライスで大丈夫です」

o川*゚ー゚)o「当店はもう一度食べたい物をご提供させていただいております。申し訳ありませんが、食べたい物以外はご提供できません」

 なんだそのルール!? なんで食べたいものがわかるんだよ!
 確かにガーリックライス、にんにくとバターで炒めたライスが食べたい欲求はある。
 でも、なんでそこにこだわるんだ!?

(,,゚Д゚)「じゃあもうそれで」

 だが、結局折れた。ガーリックライスの誘惑は、あまりに魅力的に過ぎたのだ。
 どうせそんなに高くはならないだろうし、なにより、先ほど食べたガーリックソースの誘惑は凄まじかった。
 店員が引っ込むと同時、オニオンスープとガーリックライスを手に持ち、現れた。
 どんな準備の良さだろう? しかし、度肝を抜くのはそこではない。




73: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:28:29.912 ID:0raBhKNo0.net

 
o川*゚ー゚)o「こちら、オニオンスープとガーリックライスになります」

(,,゚Д゚)「!?」

 そのオニオンスープに、見覚えがあった。
 正確にはその器、まごうことなき、我が家で使っていた器である。
 なぜ、それがここに?

(*゚ー゚)「わーい」

 妹はなんの疑問も持たずに、そのオニオンスープを受け取り、スプーンで掬ってふーふーと息を吹きかける。
 なんだ? 何なんだこの店は?

(,,゚Д゚)「店員さん。すいません。一つ訊いてもいいですか?」

o川*゚ー゚)o「如何いたしましたか?」

(,,゚Д゚)「このスープは間違いなく、我が家の器です。ガーリックライスも家で見た覚えがある」

o川*゚ー゚)o「当店はもう一度食べたい物をご提供させていただいております」

(,,゚Д゚)「それは何度も訊いた! この店は、何なんだ? 何のためにこんな……」

o川*゚ー゚)o「当店は乱数調整のために存在しております」

(,,゚Д゚)「は? 乱数?」




74: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:28:56.280 ID:0raBhKNo0.net

 
 その単語は聞き覚えがある。確か、コンピュータは計算が完璧すぎて逆に曖昧なランダムが作れない。
 それの代用として、キャラクターの合計歩数やアイテムの並び順から、複雑な計算を用いてランダムの代わりの数字を作る。
 その代用ランダムは、逆に言えば条件さえ揃えれば、狙った通りの結果が出せる、その条件を整える調整行為を、乱数調整と呼ぶ、らしい。

(,,゚Д゚)「なんだ? ゲームか何かの話をしてるのか?」

o川*゚ー゚)o「いえ、そのような話はしておりません」

 意味がわかんねえ! でも、店員はそれ以上答えてはくれず、結局心にモヤだけを残す。
 いや、それ以上問答を繰り返しても、せっかくのガーリックライスが冷めてしまう。
 しょうがない、今はこれに集中しよう。

 ガーリックライスは白い皿に乗って出てきた。いつも家で使っている皿と同じ皿だ。
 にんにくの香りが程よく焦げたバターと共に薫る。
 その蒸気を吸い込むと、もう一つの顔、パセリとクレソンの香りが姿を表わす。

 パラパラのライスをスプーンで掬って、口に運ぶ。
 醤油の塩気に胡椒の辛さがピリリと映えた。にんにくの味はバターにしっかり移ってご飯に染み込んでいる。
 適度な脂気が食欲をそそる、これが多すぎてもべたつくし、少なすぎても物足りない。適度な量。

 続いてもう一口。
 今度はお焦げを貪る。

 カリカリとした食感に焦げ特有の苦さ、そしてそれに負けない複雑な香りが移った脂。
 それらで口の中を賑やかにさせながら、ハンバーグを一切れ追随させた。
 焦げたバターと醤油の味は、ハンバーグの濃厚な味に負けずに混ざり合い、絶妙なハーモニーを繰り広げる。

 そうだ。やはり肉料理にはこれである!




75: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:29:53.436 ID:0raBhKNo0.net

 
 さらに、一口。しぃから貰ったオニオンスープ。
 よく煮込まれたそのスープは、よく加熱した玉ねぎの甘みがコンソメと共に芳醇に広がる。
 胡椒が甘すぎる味を抑え、適度に効いたこれは、間違いなく母のスープ。

 具はあえて玉ねぎだけを使い、味付けも塩胡椒とコンソメの素オンリー。
 圧力鍋でそれらをじっくりコトコト煮込むだけで、それは最強のご馳走に変わる。
 玉ねぎは舌に触れるだけでとろけ、甘く崩れる。
 シンプルだが、故に素材の味を活かしたこのスープは、胸だけでなく心も温めてくれる。

(*^ー^)「美味しいね! お兄ちゃん!」

(,,゚Д゚)「ああ、最高に旨いな!」

 しぃも俺のガーリックライスを頬張って舌鼓を打っている。
 妹のこんな笑顔を何年ぶりに見ただろうか?
 変な店だが、来てよかった。しぃの笑顔を見て、心からそう思う。
 後は会計だけが不安だが、なんとかなるだろう。

(*゚ー゚)「お兄ちゃん、私、また来れるかな?」

(,,゚Д゚)「これるさ。きっと連れてきてやるよ」

(*゚ー゚)「ホント!? じゃあ、お兄ちゃん、一つ約束!」

(,,゚Д゚)「なんだ? 無理な事じゃなけりゃ大抵は……」




76: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:30:42.728 ID:0raBhKNo0.net

 
(*゚ー゚)「10年後、ここで一緒に食べよう? でも、それまでに私は美味しいものを沢山食べたり難しいと思うの」

(,,゚Д゚)「おい。そんなこと……」

 ない、とはいえない。彼女は定期的に入院生活を送っている。
 そのうち、病院から出れなくなる日も、来るだろうと医者は言っていた。

(*゚ー゚)「だからお兄ちゃんが、10年間。美味しいものを沢山食べて、その中の一番を私に出して欲しいな」

(,,゚Д゚)「……わかった。だから、絶対約束だ! 10年、がんばろう!」

 妹は、たぶん自分の治療が絶望的なことを、知っている。

 この病気は10年耐えたところで、治療法が見つかるほど簡単な病気ではない。
 多少平均寿命は伸びるだろう。でも、根治はまず不可能だ。
 一切の打開策が見えないまま、ただ毎日を死ぬためだけに生きている妹。
 それは、まるで暗闇の中を、いつ明かりが見えるとも知れないまま進む、マラソンのような恐怖。

 そこに明確な目標があれば、それはきっと道標になるだろう。
 蝋燭のような儚い光であっても、彼女を支えてくれるだろう。
 今まではそれは、ハンバーグを食べに行くことだった。
 それが今日から一歩、変わる。果たした目標のその先に進むのだ。

(*゚ー゚)「約束だよ!」

 その笑顔は、やけに痛々しく、俺の胸を焦がした。
 来てよかったと、10年後、そう思える事を祈るばかりである。




77: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:31:10.635 ID:0raBhKNo0.net

 





o川*゚ー゚)o「ありがとうございました。また当店をご利用するほど疲れぬよう、心からお祈り申し上げます」





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79: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:32:39.108 ID:0raBhKNo0.net

 
 あれから、何度もあのレストランを訪ねようとこの店について調べたが、どうにも情報が掴めなかった。
 住所どころか、このような店舗が営業しているという情報すら、わからないありさまだ。
 もしかすると、あのレストランは夢だったのかもしれない。思い出の料理を出してくれる、そんな不思議な店が、実在するわけがない。

 そう考え始めた頃に見つけたのは、とある2chのスレッド。思い出レストランで母親の肉じゃがを食べたという一人の男だ。
 住人達は作り話だと思って聞いているし、話す男もそう捉えらえて仕方ない、夢だっただろう。という雰囲気で話している。
 だが、内装ややたら機械的なウェイトレスの反応、そして、非常に正確に思い出通りの品を出すという説明は、どう考えてもあの店だった。
 ただ、引っかかったのは人生に疲れた者が行けるレストラン、という、その言葉。

 全身の毛がぞわりと湧き立つのを感じた。行き方を見つけた気がしたのだ。
 10年後の約束の日、俺は予感を感じながら、準備をして玄関のドアを開けた。

o川*゚ー゚)o「いらっしゃいませ。思い出レストランへようこそ」

(,,゚Д゚)「久しぶり、また来たよ。10年ぶりだっていうのに、君は全く変わらないね。不思議な店だ」

o川*゚ー゚)o「ご予約の赤木様、2名でよろしいですか?」

(,,゚Д゚)「え? ああ、なるほど。ここの店員は本当に完璧な対応をしてくれる。それで合っているよ」

o川*゚ー゚)o「かしこまりました。ご予約の席へご案内いたします」

 俺は、店員に連れられて進む。
 十年前の、あの席へ。10年前、ここでもう一度食べようと誓った時と寸分違わぬあの席へ。
 しぃの遺影を抱えながら、俺はここで約束を果たす、その微かな希望を胸に、この10年を生きてきたのだ。




80: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:33:03.830 ID:0raBhKNo0.net

 




 − NEXT GUEST −





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81: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:33:42.937 ID:0raBhKNo0.net

 


・当店ではお持ち帰りも承っております。気軽にお申し付け下さい。



ラストオーダー 長岡譲二様 ご注文



     駄菓子




82: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:35:03.606 ID:0raBhKNo0.net

 
 仕事の関係でしこたま飲まされた帰り道。
 地元の駅で、久しい顔をふと見つけた。一瞬、誰かが分からなくて、喉に小骨が引っ掛かるような感覚を覚える。
 相手もすぐに気が付いて、声を掛けてきた。

( ・∀・)「あ。お、おう久しぶり」
  _
( ゚∀゚)「あー……もしかして、棚主? 何年ぶりだ?」

( ・∀・)「同窓会に出れなかったから、8年ぶりくらいか?」

 声を聞いて、ふと、答えが出た。
 棚主茂夫。小、中学校の同級生で、幼馴染と言う奴だった。
 小さい頃は毎日のように遊んだ仲でも、流石に8年も疎遠だと顔も変わってすぐに誰だかわからなかったのだ。

( ・∀・)「長岡。お前実家暮らしだっけ?」
  _
( ゚∀゚)「おう、そうだよ。お前は?」

( ・∀・)「俺は今帰省中。今何やってんの?」

 帰る方向も同じなので、必然的に並んで帰ることになる。
 幼馴染といえど、話すのは随分久しぶりだった。
 こいつはたしか東京の大学に行っていて、そのころから顔どころか後姿も見ていない。
  _
( ゚∀゚)「中学校で数学教えてる」

( ・∀・)「マジか。すげーな先生かよ」




83: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:36:04.229 ID:0raBhKNo0.net

  _
( ゚∀゚)「お前は? 院に進んだとかカーチャンが言ってたけど」

( ・∀・)「俺は今助教だよ」
  _
( ゚∀゚)「マジ? いいなぁ、俺も院に進んで勉強すりゃよかった。いや、それはそれで大変か」

( ・∀・)「そっちも大変なんじゃねえの? 子供の相手って」
  _
( ゚∀゚)「あー……まあなぁ」

 思い描くのは、盛岡という名の一人の生徒。
 学校で暴力沙汰の事件を起こして以来不登校になった彼は、今も悩みの種である。
 気弱な生徒だと、ずっと思っていた。それが、あんなことを起こすなんて……
  _
( ゚∀゚)「……」

(;・∀・)「あ、なんか地雷踏んだ? わりいな」
  _
( ゚∀゚)「ああ、いや。気にすんな」

 しばし、思考の海に沈んでしまう。ふと、気がつくと途切れた会話。
 日暮れも遅くはなった初夏と言えど、すでに夜空は暗く申し訳程度の星が小さく明滅しているのが見える。

( ・∀・)「……」
  _
( ゚∀゚)「……」
 
 唐突の沈黙。その奇妙な歯がゆさに、8年の歳月が急に重たく感じる。
 久しぶりすぎて、一度勢いを失うと何を話していいかわからなかった。




85: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:36:53.935 ID:0raBhKNo0.net

 
 ポケットを探って煙草を探すが、先ほど飲み会で随分と減っていることに気がつく。
 棚主に断って駅前のコンビニへと立ち寄った。
 先に帰っていいといったが、彼は待っていると手を振ってくれた。

 正直、帰ってもらっても構わなかった。
 昔は特に理由もなくダラダラと会話できたが、長い年月がそれを錆びつかせてしまったのだ。
 どうにも気まずい。かつては親友と呼べた仲が、今ではどうにも仮面越しに喋っている気がする。

 自動ドアをくぐり抜け、カランコロンと小気味のいいベルの音に、一瞬、違和感を覚える。

o川*゚ー゚)o「いらっしゃいませ。思い出レストランへようこそ」
  _
( ゚∀゚)「……あ、悪い。店を間違えた」

o川*゚ー゚)o「一名様でよろしいですか?」
  _
( ゚∀゚)「店を間違えたんだって、友達待たせてんだ。悪いな」

 酒には強い自信があったが、思ったより酔ってたのかも知れねえな。
 そんなことを考えながら引き返してドアノブに手をかける。
 が、ドアノブは回りもせず、ツルツルとした表面の感覚だけが手に伝わった。
  _
( ゚∀゚)「なんだぁ? おい、鍵掛かってるぞ?」

o川*゚ー゚)o「一名様でよろしいですか?」
  _
( ゚∀゚)「だから客じゃねえって」




86: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:37:44.397 ID:0raBhKNo0.net

 
 何だこの店員。頭おかしいのか? やだなぁ。変な店に入っちゃったかもしれない。

o川*゚ー゚)o「一名様でよろしいですか?」
  _
( ゚∀゚)「ああもう、一名でいいよ。帰らせてくれ」

o川*゚ー゚)o「かしこまりました。すぐご帰宅できるものですね。少々お待ち下さい」

 何が少々なんだよ。帰るだけだ。すぐドア開けろよ。
 イライラが募るが、しょうがない。見渡すとどうやら内装は凝っている。変な店員がいなければ、高級レストランに見間違えただろう。
 本当に少しの時間を待つと、店員はビニール袋を持って現れた。
 白く安っぽいビニール袋は何もロゴのようなものはなく、妙に店の雰囲気から浮いて感じる。

o川*゚ー゚)o「お待たせいたしました。こちらお持ち帰りとなっております」
 _
(#゚∀゚)「いや何も頼んでないんだけど? 早く出してくれ。金払わねえぞ俺は」

o川*゚ー゚)o「当店ではお代は頂いておりません」

 どういうことだろう? つまり、店を訪れたサービスってことか?
 この辺にこんな小洒落たレストランはなかったと思うから、もしかすると開店直後で少しでも顔を売りたいのかもしれない。
 まあ、受け取れば出してもらえるのだろう。仕方ないので、それを受け取る。

o川*゚ー゚)o「ありがとうございました。また当店をご利用するほど疲れぬよう、心からお祈り申し上げます」

 変な別れの挨拶を聞き流していると、今度はドアは簡単に開いた。
 もしかすると、酔ってて変に力を込めていて、鍵なんか最初から掛かっていなかったのかもしれない。




87: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:38:57.587 ID:0raBhKNo0.net

 
( ・∀・)「……」
  _
( ゚∀゚)「……」

 結局、煙草を買わずに帰路に戻る。棚主は飄々とした顔をして、律儀に待っていた。
 待たなくてもよかったのだが、しょうがない。
 何食わぬ顔で隣を歩く、会話は生まれない。

( ・∀・)「なあ、あの公園」

 ふと、モララーが足を止めたのは、懐かしい公園だった。
 小学生の頃、よく一緒に遊んだ小さな公園である。

( ・∀・)「球体ジャングルジム、撤去されたんだな」
  _
( ゚∀゚)「ああ、そういえばそうだな」

 棚主がそちらに気を取られたその時に、カランとビニール袋が鳴る。
 そう言えば、何が入っているんだこれ? あの変な店員だ。もしかすると、変なものが入っている可能性は否めない。
 街灯の明かりを頼りに、ビニール袋を開けると、その中には懐かしい色とりどりの駄菓子が収まっていた。
 カランと音を立てたのは、2本のラムネ瓶だ。

( ・∀・)「お、お前! 懐かしいもん買ったなぁ! コンビニにラムネなんて売ってんだ?」
  _
( ゚∀゚)「えっ? ああ、まあ……」

 変な勘違いを産んだが、気にせず1本差し出す。
 棚主は一瞬きょとんとしたが、ニヤリと笑ってそれを受け取った。




88: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:41:14.988 ID:0raBhKNo0.net

 
 二人でなんとなく公園に入り、ブランコに腰を掛ける。
 ラムネのビー玉をピンで押しこむと、炭酸が一気に溢れ出し、それを慌てて口に付ける。
 よく考えたら、炭酸ジュースが入ってるなんて考えず、適当にビニールを振り回していた。
 溢れて当然だ。
  _
( ゚∀゚)「あっ! うわっ……」

( ・∀・)「バッカwww」

 見れば、棚主は上手くジュースを口に運んでこぼしていない。
 ああそうだ。こいつはラムネ飲むの上手かったなぁ。
 今思えば何の役にも立たない技能だが、でも、当時は憧れた技能だ。

( ・∀・)「あっなんだっけこれ! さくらんぼ餅? なっつかしっ!」
  _
( ゚∀゚)「確か、フルーツ色々入ってるミックス的なやつもあったよなぁ」

 モララーが取り出したのは、四角いチップ状の餅が1つずつ丁寧に入れられた薄く透明な容器。
 爪楊枝が入っていて、それで突く定番の駄菓子である。
 口に入れるとやたら甘く、わずかにサクランボ、と言われればサクランボの風味がする。
 やたら歯にくっつくような硬さと粘りが、だが、懐かしく心地いい。

 サイコロキャラメル、きなこ棒、ポン菓子、きびだんご、らあめんババア、セコイヤチョコレート。
 どれも、まだ生き残っていたのかと、懐かしい戦友に出会った気分でそれらを取り出していく。
 あ、ポテトフライ。この強烈に濃い甘しょっぱさが好きだったなぁ。




89: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:41:40.065 ID:0raBhKNo0.net

  _
( ゚∀゚)「お、蒲焼き屋さんあるぞ」

( ・∀・)「ジョルジュさ。それでうなぎの蒲焼き丼だって、ご飯の上に乗せて食ってたよな?」
  _
( ゚∀゚)「懐かしいなそれ。味濃いからいけなくもねえんだよな」

 懐かしいアダ名。すごく、久しぶりにその名前で呼ばれた気がする。
 俺の名前のジョージをフランスだかスペイン読みだかするとジョルジュというらしい。
 小学生の頃、それが何故か俺のアダ名で定着していたのだ。

( ・∀・)「いやー、硬くて食いづらいつってたじゃん」
  _
( ゚∀゚)「そう言いながら、モララーだって食ったじゃん」

 釣られて、俺もついアダ名で呼ぶ。 それがきっかけだった。二人で見つめ合い、どちらともなく破顔する。
 元はなんでモララーなんてアダ名になったんだっけか?
 もう、思い出せないけれど、些細なことはどうでもいい。

 他人行儀の苗字読みから、ただアダ名で読んだだけ。懐かしい駄菓子を一緒に食べているだけ。
 それだけで、なんだか、急に親友に戻ったような心地だった。

( ・∀・)「公園の前に駄菓子屋あったよな。酒屋兼任のもうやってないのか」
  _
( ゚∀゚)「ああ、結構前に潰れたよ。高校くらいだったけかなぁ?」




90: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:42:59.939 ID:0raBhKNo0.net

 
 ラムネの瓶をカチンと鳴らして乾杯をして、きなこ棒をかじりながら、懐かしい思い出を語る。
 駄菓子が俺たちの会話の蓋を開けたみたいだった。

 目の前の滑り台を逆走して、そのまま頂上付近ですっ転んでゴロゴロと転がり落ちた記憶。
 蜂の巣に石を投げたら予想以上の大群が出て、花火の煙でなんとか逃げ切った思い出。
 3階から下の女子更衣室を覗こうとして、見つかりそうになって飛び降りて全治2ヶ月を負った話。
  _
( ゚∀゚)「あれは勇者だったわ。男子全員の憧れの的」

( ・∀・)「いや、お前が授業中に消しゴムハンコで口から血をダラダラ垂れ流した方が勇者だって」
  _
( ゚∀゚)「ああ、授業中に消しゴムハンコ作たらカッターで指切って、バレちゃ不味いから血を吸って乗り切ろうとした時のことか」

( ・∀・)「先生ドン引きしてたからなあれ」
  _
( ゚∀゚)「気道に入って、思わず吐血したからな」

( ・∀・)「吐血浴びてた高崎先生、元気かなあ」
  _
( ゚∀゚)「高崎先生は知らんけど、渋澤先生は今校長やってるよ。ってか上司」

( ・∀・)「マジかよ。俺、高校からずっと地元離れてて、そういう事情は疎いんだよな」
  _
( ゚∀゚)「あー、じゃあ流石兄弟の兄貴の方。弟よりも早く結婚したよ。しかも美人と」

(;・∀・)「マジで!? 相手どんな物好きだよ」
  _
( ゚∀゚)「弟と違って残念なのになー」




91: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:44:04.873 ID:0raBhKNo0.net

 
( ・∀・)「お前はー? 相手いねえの? 周りJCばっかだろロリコン野郎」
  _
( ゚∀゚)「いやー教師の目線で見ちゃうと皆ガキですわ。エロ動画で見るJCの文字は魅力的なのにな。出会いねえー」

( ・∀・)「まだマシだろ。理系の助教授なんて本気で女いねえぞ。学生含めて男子9割、怪物1割」
  _
( ゚∀゚)「えーでも合コンとかモテそうだけど? 大学では白衣でフラスコクルクルしてたり?」

( ・∀・)「そんなんじゃねえって。俺の専攻は化学じゃねえし。今はカオス理論の応用で気象のコントロール研究してる」
  _
( ゚∀゚)「なにそれ? カオス? 何かカッコいいな」

( ・∀・)「あー……えっと、バタフライ効果って知ってる?」
  _
( ゚∀゚)「ああ、大学の授業で聞いたことあんな。ブラジルで蝶々が羽ばたくとどうたらって」

( ・∀・)「蝶の羽ばたき程度の小さな攪乱が、数日後には遠いテキサスでハリケーン起こすくらい大きな影響を与えちゃうって話」
  _
( ゚∀゚)「ほー。風が吹けば桶屋が儲かるみたいな?」

( ・∀・)「そそ。長期的な予報は方程式が分かってても、ちょっとした差による変化が加速度的に激しくなって当てにならない、ってわけ」




92: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:44:31.274 ID:0raBhKNo0.net

  _
( ゚∀゚)「逆に直近だと微々たる影響は微々たるままだから、今日、明日の天気はだいたい当たると?」

( ・∀・)「明日の天気は経験則なんだけど、まあそんな理屈。近似値で計算できない予測不能だからカオス理論」
  _
( ゚∀゚)「それをどう応用すんだよ? 無理じゃね?」

( ・∀・)「複雑すぎて一見予測不能でも、ランダムじゃないのがミソな。計算さえ間に合えば長期予報が実現する、はず」
  _
( ゚∀゚)「いや、それこそ蝶の羽ばたきまで全部把握するんだろ? 無理じゃね?」

( ・∀・)「そりゃそうなんだけど、羽ばたきを無視するくらいデカい影響を継続的かつ任意に与えたらどうよ?」
  _
( ゚∀゚)「例えば?」

( ・∀・)「海に1劼瓦箸鵬硬戮鯆汗阿垢覽ヽを1万個浮かべて、海面温度をコントロールする、とか」
  _
( ゚∀゚)「うへー、規模でっけえー」

( ・∀・)「後は大量のナノマシンとかな。それで大きな台風を半分に分割する確率を跳ね上げたら、災害を減らせるだろ? そういう研究」
  _
( ゚∀゚)「なんかすげーな。SFみてーだ。まあ、実は知ってたけどねカオス理論。数学科だったし」

( ・∀・)「おい」




93: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:45:58.318 ID:0raBhKNo0.net

  _
( ゚∀゚)「あー研究いいなぁ。大学じゃ数学は結構マジでやってたんだけどな」

( ・∀・)「数学科って数字ラブな変態多いイメージだしな」
  _
( ゚∀゚)「そういうガチ勢になれなかったから教師やってんだけどさ」

( ・∀・)「……なあ、さっきの地雷だろそれ。なんかあった?」
  _
( ゚∀゚)「んー、いや不祥事だからあんま言えたもんでもねえけど、学内でイジメがあってさ」

( ・∀・)「そういうのって、教師がどう努力しても、どこにでもあるよなぁ」
  _
( ゚∀゚)「まあ、それは気づけなかった俺らが悪いんだが……」

( ・∀・)「問題になったとか?」
  _
( ゚∀゚)「いやちげえんだ。正義感のある奴が庇った」

( ・∀・)「おおすげえじゃん」
  _
( ゚∀゚)「で、いじめっこを怪我させた。全治一ヶ月で大問題。親がPTAの役員でさ。教師としてはその子を叱るしかねえ」

( ・∀・)「ああー……やるせねえな」
  _
( ゚∀゚)「正しいことやって何が悪いんだって、今そいつは不登校になっちまったよ」




94: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:47:26.743 ID:0raBhKNo0.net

  _
( ゚∀゚)「赤木センセっていたじゃん?」

( ・∀・)「ああ、いたいた。体育の教師。面白かったよなぁ。保険の授業で超リアルなチンコ描いたり」
  _
( ゚∀゚)「女子が戻ってきてマジ焦りで消したりな。あの人に言われて、教師になろうって思ったんだよ俺」

( ・∀・)「そういやサッカー部の顧問だったっけ?」
  _
( ゚∀゚)「そうそう。あの不良教師」

( ・∀・)「あの人色んな意味で豪快だったからなぁ」
  _
( ゚∀゚)「あの人さー、妹さんが病気で中学生の頃に亡くなってんだと」

( ・∀・)「へー知らなかった」
  _
( ゚∀゚)「だから中学校で教師になったらしいんだけどさ。今更ながら、あの人とは背負ってるもんちげえわ」

( ・∀・)「……」
  _
( ゚∀゚)「その不登校児になんて声掛けていいかわかんねえんだよ。あの人なら上手く声掛けてる気がするんだ」




95: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:48:20.472 ID:0raBhKNo0.net

 
( ・∀・)「なあ、さっきバタフライ効果の話したじゃん?」
  _
( ゚∀゚)「ん? ああ」

( ・∀・)「あの理屈でいうとさ、何やっても未来は大きく変わっちまうんだよな。例えばまばたき一回多いだけで、台風の原因になるかも」
  _
( ゚∀゚)「その台風で人が死ぬかもな」

( ・∀・)「助かるかもしれん。どんな行動でも起こせば、それだけで数日後、数年後、デッカい影響になってるもんなんだ」
  _
( ゚∀゚)「つまりは、なんかやれ、と?」


( ・∀・)「いやそれは予測不能なんだから、後悔しなきゃいいんじゃねえか? 放置が正解だと思ったならそれも行動だ」
  _
( ゚∀゚)「そこまで言って放置推奨かよw」

( ・∀・)「後悔しなきゃそれでいいんだよ。子供にとって中学の教師なんざうぜえだけさ」
  _
( ゚∀゚)「かもなー」

( ・∀・)「それでお前が後悔しないならなー」

 それだけ言って、モララーはラムネを最後の一口まで飲み干した。
 結構な量があったはずの駄菓子は、マーブルガムを残して全て食べ終えている。




96: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:48:36.847 ID:0raBhKNo0.net

 
 お互いが、先生と呼ばれる立場になるなんて、この公園で遊んでいた頃には想像もつかなかった。
 でも、こいつは俺よりも教師に向いているかもしれない。
 何故かそんな気がする。

 駄菓子のゴミをビニール袋に詰めて、ゴミ箱へと放り捨てる。
 モララーは手を上げて、別れを告げた。

 この公園からはバラバラの帰り道だ。
 次にあいつと会うのは何年後だろう?
 もしかすると、もう二度と会うことはないかもしれない。

 ただ振り返って思考を巡らせる。
 何かが吹っ切れた気がした。
 何も変わっていないのに、未来が少し手に届く、そんな気持ちになれる。
  _
( ゚∀゚)「明日、あいつの家に行ってみますかね?」

 俺の出した結論は、行動。
 あいつに言われたからってわけじゃないけど、後悔をしないようにしよう。
 どうせ未来は予測不能なんだから。




97: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:48:57.874 ID:0raBhKNo0.net

 




 − NEXT GUEST? −




.




98: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:49:26.806 ID:0raBhKNo0.net

 


・当店は乱数調整のために存在しております。



食後のデザート 盛岡リリ様 ご注文


      レストラン


.




100: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:50:32.116 ID:0raBhKNo0.net

 
 あの人と結婚してから、7年になる。私たちは、長年の夢であったレストランの開業を間近にしていた。
 事の発端は私が父から聞かされた、とある夢のようなレストランの話。
 そのレストランは、お客さんの記憶を見透かして思い出の料理を食器から味付けまで完璧に再現して出してくれるらしい。

 それは酔って見た夢なのかもしれない。口から出任せの物語かもしれない。

 青い狸のドアのように、疲れた人が普通の扉を通るとそこに広がる素敵なお店。
 アールデコ調の調度品と煉瓦と板目の店内は、淡い間接照明で落ち着いた雰囲気を醸し出す。
 まるで未来を予測しているような、完璧な接客のウェイトレスに、最初は戸惑うけれど、必ず、心温まり満足して帰るお客さん。

 幼い頃、その話を聞いた私はそのレストランに憧れた。
 きっと、酔って見た夢だろうと父はいう。ならば、私はその夢を実現させたいと考えた。

(´・_ゝ・`)「遂にここまで来たな」

⌒*リ´・-・リ「ええ……」

(´・_ゝ・`)「今までありがとうな」

⌒*リ´・-・リ「いえ、これからもよろしくお願いします。シェフ」




101: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:52:15.916 ID:0raBhKNo0.net

 
 そんな私は女ばかりの調理学校で、少ない男子生徒だった旦那と出会った。
 料理に対するそのひたむきさに、私は惚れていった。
 そして結婚し、二人でお金を貯めて、やっとここまでたどり着いたのだ。

 保健所や税務署への申請など、細々とした書類は提出済みだが、開業してから送る書類はたくさん残っている。
 従業員はまだ雇っていないから、私と旦那の二人きり。
 メニュー以外のものも積極的に出すというスタイルは受け入れてもらえるかわからない。

 問題は山積みだけれど、でも、開業に辿り着いたのだ。

 私は開業して一番最初にお父さんを呼ぶと決めていた。新しい方ではなく、本当のお父さんの方だ。
 旦那は中学生の頃、一時は不登校にまでなった時に立ち直らせてくれた恩師を最初に呼ぶと決めていたらしい。
 カランコロンとドアベルが鳴る。私はいそいそとそちらへ駆け寄り頭を下げた。


⌒*リ´・-・リ「いらっしゃいませ! 思い出レストランへようこそ!」


 たぶん、そのどちらかが訪れたのだろう。
 私達はあの夢物語のように満足させられるだろうか?
 いや、違う。させるんだ。さあ、張り切って行きましょう!




102: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:52:38.334 ID:0raBhKNo0.net

 




 − CLOSED −




.




105: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:55:23.229 ID:0raBhKNo0.net

 

      〜 お品書き 〜

>>1
1品目 宇津田タケシ様 ご注文

    カーチャンの肉じゃが

>>26
2品目 火野今太様 ご注文

    誕生日のカップ焼きそば

>>51
3品目 赤木浩一・椎奈様 ご注文

    憧れのハンバーグステーキ

>>80
ラストオーダー 長岡譲二様 ご注文

    公園の駄菓子

>>97
食後のデザート 盛岡リリ様 ご注文

    思い出レストラン




106: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:55:52.336 ID:0raBhKNo0.net

 本日はご来店、誠にありがとうございました。
 当作品はブーン系飯テロ祭り参加作品となっております。
 詳細はこちらにてご覧いただけます。

ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1437092155/

 当店の料理でご満足いただけなかったお客様は、他の参加作品をご賞味いただければ幸いです。
 ご質問等ございましたら、可能な範囲でお答えいたします。




108: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 02:01:12.596 ID:PfXuHs4G0.net

おつ
ブーン系とか久しぶりに読んだけど良かった




107: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 01:59:55.770 ID:AL0hN9Ui0.net

>>106
絶版に等しい料理をどのように調理しているのでしょうか?
どうしても気になるのですが…




110: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 02:09:07.860 ID:0raBhKNo0.net

>>107
当店の企業秘密ですのでお答えいたしかねます。
強いて言えば、最低でも10年以上容姿に変化のない店員がどう考えてもおかしいでしょう。




113: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 02:15:42.227 ID:XVmZPPnj0.net

読み終わったら終わってた
てか祭やってのかよwww全く気が付かなかったわwwww
とりあえず乙、面白かった




114: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 02:19:49.922 ID:aA7CYZSup.net


良かった




115: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 02:35:10.315 ID:0JPgbcPZK.net

すばらしいブーン系でした
おかげで夜更かししてしまった。どうしてくれる

また流行ってほしいな




116: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2015/07/25(土) 02:43:47.282 ID:AL0hN9Ui0.net

改めて乙です
面白い作品でした、自分も思い出レストラン行きたい…

やはり何を見てもブーン系は面白いですねー




・ニュース速報(VIP)@2ちゃんねるに投稿されたスレッドの紹介でした
 o川*゚ー゚)o思い出レストランのようです
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