転載元:男「賢くて強くて早口な彼女」


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男「賢くて強くて早口な彼女」

140: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/07(日) 01:59:06 ID:yTKCh8ew

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結局僕たちは学生結婚はしなかった。
彼女曰く、「約束があれば充分」だそうだ。
卒業まで待つと言ってくれたけど、彼女と出来る限りの時間を共にすると決めた僕は会社勤めはしないと決めていた。
ならば大学を出ることにあまり意味はなく、親に無駄金使わせることもないと思い学校を辞めようかと言うと、それも彼女に却下された。
「学生の恋愛を楽しみたい」なんて茶化して言っていたけど、僕に対する遠慮がまだまだあったのだろう。
彼女はいつでも僕に逃げ道を残してくれていて、それが無くなるまでには随分時間がかかった。





 


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141: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/07(日) 02:21:47 ID:yTKCh8ew

ついでに当然だけど両親にも反対された。
彼女のことを話して辞めたい旨を伝えると「貴方の人生だから好きに生きなさい。 ただし、せっかく受かったのだから学校は出ておきなさい」とのことだった。
彼女は彼女で、僕に卒業するように言っておきながら自分は退学を考えていて、しかしやはり親に反対されたらしかった。




144: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/11(木) 22:20:42 ID:a1iNcUtM

彼女「ホット一つ入ったよ」

男「はいよ」

彼女「ついでに私にも淹れて」

男「はいはい」

彼女「彼女今日すごく天気良いよ」

男「海荒れてるな」

彼女「風は強いね」




145: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/11(木) 22:30:39 ID:a1iNcUtM

僕たちは学校を卒業したあと就職はせず、シーズン中は山小屋で一緒にバイトをした。
冬の間は学生時代のバイト先に無理を言い、やはり彼女と一緒にバイトをして、とにかく出来る限り時間を共にしならがお金を貯めた。
収入はアルバイトだけとはいえ彼女のやりくりは完璧で、特に山小屋のバイト中は支出がほとんど無いこともあり、四年でかなりのお金が貯まった。
そして半年前、僕たちは喫茶店を開いた。
初めて旅行した海沿いのあの町だ。




146: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/11(木) 22:37:19 ID:a1iNcUtM

男「やっと落ち着いたな」

彼女「そろそろバイト雇うことも考えなきゃね」

男「そうだなー……こんなに繁盛するとは思わなかった」

彼女「君のコーヒーが美味しいから」

男「君のパスタが美味いから」

彼女「新しいメニュー考えたんだけど作ってもいい?」

男「二人しかいないんだからあんまりメニュー増やせないぞ」

彼女「簡単なやつだから」




147: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/11(木) 22:42:30 ID:a1iNcUtM

彼女「どう?」

男「……美味い」

彼女「合うと思ったんだよねー!」

男「既存のメニュー合わせただけだし、これなら新しく出してもいいかも」

彼女「あ、お客さん呼んでる。 はーい!」

男「伝票忘れてるぞ!」

彼女「おっと」




148: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/11(木) 22:49:08 ID:a1iNcUtM

彼女「和風唐揚げパスタ入りまーす!」

男「またか」

彼女「すっかり看板メニューだね」

男「パスタとしてより、唐揚げの美味さで売れてるみたい」

彼女「唐揚げはいろいろ研究したからねー」

男「一個余分に揚げて。 食いたい」

彼女「仕方ないなー」




149: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/11(木) 22:58:50 ID:a1iNcUtM

彼女「はい、あーん」

男「し、仕事中だぞ!」

彼女「お客さんからは見えないよ」

男「……ん、美味い」

彼女「店の造り、正解だね。 カウンター作らなくて良かった」

男「なんで」

彼女「イチャイチャするスペースが確保出来たから」

男「……まぁね」




151: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/11(木) 23:12:48 ID:a1iNcUtM

彼女「怖いくらいに順風満帆だね」

男「そうかな。 君の唐揚げがあればもう少し売れてもいいと思ってたけど」

彼女「私はこれくらいが一番良い」

彼女「生活に不安が無いくらいに繁盛してて、でもこうやってのんびり出来る時間もあって、雨の日なんかはさらにもうちょっとゆったり出来て」

彼女「忙しいときでも暇なときでも苦になる時間が少しも無い」

男「……そうだね」

彼女「刺激的かつ穏やかな日々。 私の求めてたものだ。 とっても幸せ」

男「僕も今すごく幸せだ」




152: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/11(木) 23:22:03 ID:a1iNcUtM

彼女「『幸せすぎて怖い』ってフレーズがあるじゃん?」

男「あるね。 今までピンとこなかったけど、この頃よくそういうことを思う」

彼女「ほんと?」

男「失うことが怖いね」

彼女「……私は君と付き合ってからずっとそれを思ってた」

男「……」

彼女「でも今君も同じことを思ってると知って、それがすごく嬉しかった」

男「……うん」

彼女「人生を共にしてる感が堪らないね!」

男「むず痒いな」




153: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/11(木) 23:32:57 ID:a1iNcUtM

彼女「……私、この生活を失うのも怖いけどさ」

男「うん、わかってる」

彼女「……」

男「しばらく喫茶店を続けてお金が貯まったら、また別のことを始めよう」

彼女「ほんと!?」

男「失うことは怖いけど、でも長い人生だからいろんなことやりたいよね」

彼女「うんうん!」

男「君となら尚更」

彼女「へへ」

男「でもきっとすごく苦労するよ?」

彼女「君がいれば苦労は苦じゃないよ」

男「僕もそう思う」




154: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/11(木) 23:38:22 ID:a1iNcUtM

男「……この新メニュー、駄目かも」

彼女「え」

男「時間が経つとアイスが溶けてベチョベチョになる」

彼女「あー……」

男「味はいいんだけどね……」

彼女「シフォンケーキはよく水気を吸うなぁ……」

男「少し焼いたら改善されるかな?」

彼女「どうだろう。 試してみようか」

男「こういうのも人生を共にしてる感があっていいね」

彼女「ね!」




156: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/13(土) 01:01:28 ID:VJ2ulNzE

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彼女「まだ焼けない」

男「網に置いたばっかじゃん」

彼女「お腹空いた」

男「僕もだよ」

彼女「火おこすの遅いから」

男「上手くいった方だと思うんだけどなぁ」




157: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/13(土) 01:07:11 ID:VJ2ulNzE

彼女「焼けたかな?」

男「まだ早い」

彼女「少しくらい赤くても平気だよ」

男「豚は危ないよ」

彼女「あと何秒?」

男「20秒待とう」

彼女「うーむ」




158: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/13(土) 01:12:14 ID:VJ2ulNzE

男「そろそろいいかな」

彼女「やった!!」

男「いただきます」

彼女「いただきまーす!」

男「うめぇー!」

彼女「美味しーい!!」

男「まだまだじゃんじゃん焼くよ!」

彼女「どんとこい!」




159: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/13(土) 01:21:25 ID:VJ2ulNzE

今日は彼女の誕生日。
何がしたいと聞くとバーベキューがしたいとのことだったので、今日は臨時休業にして店先でバーベキューをしている。
といっても小さな七輪を二人で囲むだけの簡素なものだけど。

彼女「ビール飲む?」

男「後で車出すだろ」

彼女「私が運転するよ」

男「いいよ。 それより豚トロ焦げるぞ」

彼女「あ、大変!」




160: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/13(土) 01:30:50 ID:VJ2ulNzE

男「それにしても豚トロ多いな」

彼女「私豚トロ好き」

男「そうなの?」

彼女「早く焼けるから」

男「あぁ……」

彼女「少しお腹満たしたら分厚いお肉焼き始めよ」

男「おう」




162: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/13(土) 01:51:13 ID:VJ2ulNzE

彼女は人一倍待つことや苦しいことが嫌いで、人一倍美味しいものや楽しいことが大好きだ。
その中でも一番嫌いなのが一人でいる時間で、一番好きなのが僕といる時間だそうだ。
こんな風に僕に甘えたり、「お店閉めて誕生日して欲しい」なんてわがままを言ってくれたりするまで大分時間がかかり、彼女が僕の意見を無視して豚トロ祭りを開催したりすることが実はかなり嬉しかったりする。




163: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/13(土) 01:55:52 ID:VJ2ulNzE

彼女「タレ作ってみたの。 レモン風味であっさりしたやつ」

男「どれどれ」

男「あ、これ美味い」

彼女「ほんと? よかった!」

男「君はほんとに料理が上手いね」

彼女「君が食べるの好きなせいだよ」

男「勉強してくれたんだ」

彼女「いっぱいね」

男「ありがとう」

彼女「こちらこそ」




164: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/13(土) 02:12:09 ID:VJ2ulNzE

彼女「お腹いっぱい」

男「久々のバーベキュー、美味かった……」

彼女「うーむ、満たされた」

男「そりゃよかった」

彼女「ね」

男「うん?」

彼女「耳かきして欲しい」

男「唐突だな」

彼女「今日は君が何でも言うこと聞いてくれる日だから」

男「そうだったの?」




165: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/13(土) 02:14:38 ID:VJ2ulNzE

彼女「ほらほら早く!」

男「急かすなよ」

彼女「リビングから座布団取ってくる!」

男「え、リビングでするんじゃないの?」

彼女「店でしよう!」

男「なんで?」

彼女「なんとなく!」

男「変なの」




166: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/13(土) 02:18:29 ID:VJ2ulNzE

彼女「ん、そこ気持ちいい……」

男「前したばっかりだからあんまり溜まってないな」

彼女「もーちょっと強くしていいよ」

男「はいはい」


彼女は気持ちがいいことも大好きだった。
自分を幸せにする全てに貪欲だ。


男「綺麗になったよ」

彼女「じゃ、変わってあげよう!」

男「悪いね」




167: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/13(土) 02:24:13 ID:VJ2ulNzE

彼女「お、大きいのみっけ」

男「その辺かなり際どいんだけど」

彼女「でもこのお宝を逃すわけにはいかない」

男「慎重に頼むぞ……」

彼女「うい」



耳かきされながらスカートから出るナマ足を見ていると、僕の中の男の欲望がふつふつと湧き上がってきた。




168: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/13(土) 02:33:47 ID:VJ2ulNzE

ということは恐らく彼女も。


彼女「終わり!」

男「すっきりした」

彼女「ね」

男「うん?」

彼女「キスしよう」

男「うん」


彼女は気持ちいいことが好きで、つまりセックスも大好きだった。
彼女から誘ってくるようになるまでには、やはり時間がかなりかかり、しかしその後は毎日のようにセックスをした。
しかも一回で済まないことのほうが多い。




169: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/13(土) 02:46:53 ID:VJ2ulNzE

僕は僕で毎日していても飽きることがなく、どれだけ疲れていても少し照れながら誘ってくる彼女を見ると可愛くて仕方がなく、五年以上経ってもまだまだ僕たちは所謂バカップルのままだった。

彼女「ね、バスタオル取ってくる」

男「へ? なんで?」

彼女「ここに敷くの」

男「はぁ?」

彼女「ここでしたことってまだ無かったなーと思って」

男「え」

彼女「思いついちゃったんだから仕方ない!」


僕は苦笑いした。
本当に、貪欲だ。




171: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/14(日) 00:06:35 ID:pTEOMovQ

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男「コーヒー飲みたい」

彼女「わかったよ」

男「ありがとー」


お客さんが飲むコーヒーは彼が淹れるが、彼が飲むコーヒーは私が淹れることが多い。
彼が淹れる方が圧倒的に美味しいのだけれど、あまり自分では淹れようとはしない。




172: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/14(日) 00:22:07 ID:pTEOMovQ

ものぐさではない彼がわざわざ私に頼む理由を聞いたことがある。
「僕にとって一番美味しいコーヒーは君が淹れたやつだから」だそうだ。
本当はそう返ってくるのはわかってたんだけど、それが聞きたくて、聞いた。

彼女「こんなもんかな」

恐らく適温まで加熱されたお湯を、豆の上に「の」の字を描くように注ぐ。
そしてタイマーをセットして豆を蒸らす。

彼女「これでなんで味の差が出るかなぁ」




173: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/14(日) 00:28:19 ID:pTEOMovQ

タイミングが命の料理は私の得意とするところだけれど、ジッと見ててもさっぱり変化の無いコーヒーの蒸らし等はタイマーに頼らないと出来ない。
彼の場合、その日の気温や湿度に合わせて蒸らし時間を変えてるそうだ。
そんなので味が良くなるなんていかにもオカルトくさいけど、でも彼の淹れるコーヒーはいつも美味しい。
そこまで繊細な舌を持ってるわけでない私にわかるくらいハッキリと、私のコーヒーとは違う。
彼の用意した豆で、彼とさほど違わない手順で、だけど味はハッキリ違う。
不思議なもんだ。




174: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/14(日) 00:44:06 ID:pTEOMovQ

蒸らしの時間を持て余してボーッとしていると、隣にあるガラスドアの冷蔵庫に写る私の姿が目に入った。
下着の上にTシャツを着ただけの格好で仕事場にいるのがなんとなく可笑しくて、私はそっと笑った。
私はよくこの格好をする。
「楽だから」なんて彼には言っているが、本当の理由は違う。
彼が、この格好が好きだからだ。
彼の口から実際にそれを聞いたわけではないが、この格好でいるときの私を見る目は明らかに違い、この格好でいると彼が誘ってくることが明らかに多い。
彼の好きな格好をしていると私も気分がよく、またそっと笑った。




175: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/14(日) 00:50:45 ID:pTEOMovQ

彼女「出来たよ」

男「お、ありがと」

彼女「どう?」

男「ん、美味い」

彼女「良かった」

男「この後どうする?」

彼女「カラオケ行こう!」

男「お、久しぶりだね」

彼女「街まで車出して!」

男「よし来た」




176: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/14(日) 01:06:31 ID:pTEOMovQ

私達の喫茶店かつ住居は海沿いの田舎で、一応観光地だけど観光客はあまり無く、カラオケなんてものは車で40分走らないと無かった。

男「普通車が欲しいなぁ」

彼女「私ジムニー好きだよ」

男「僕だって好きだけど」

彼女「この歳で一軒家持っちゃったんだから、車はもう少し軽で我慢してね」

男「安かったよなぁ」

彼女「家が? 車が?」

男「家。 田舎にしても安い」

彼女「一応観光地なのにね」

男「大丈夫かこの町」




177: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/14(日) 01:19:33 ID:pTEOMovQ

彼女「改修費は結構したけどね」

男「それでもあと二年で払い終わる」

彼女「お客様は神様だね」

男「その後は何しようか」

彼女「何しようねー」

男「今の店は人に任せて、全く別のところで全く別のことをしたいと思ってる」

彼女「せっかく持った一軒家なのに?」

男「惜しいならここでも構わないよ」

彼女「惜しくない。 夢が広がるね」

男「まぁ全てはこれからの経営次第だけどね」

彼女「だね」




178: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/14(日) 01:40:18 ID:pTEOMovQ

カラオケに着いた私達は、ドリンクを取ってから各々好きな曲を歌う。

彼女「ナマ足魅惑のマーメイド!」

男「脚をしまえ!」

このフレーズと共にスカートをたくし上げるのは鉄板のネタだ。
彼は脚フェチだから、私はことあるごとに脚を見せる。
彼が好きなのは太ももらしいから、私は膝より上のスカートは履かない。
私の身体を世の男性が見てるなんて自惚れてはいないけど、それでも私の身体は彼だけのものだ。
他の誰も興味はなくても、彼にとっては興味がある。
ならば私がそれを隠して、彼だけにしか見せないようにするのは、少なくとも私にとって大事なことなのだ。




179: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/14(日) 01:51:21 ID:pTEOMovQ

男「……あのさ」

彼女「ん?」

男「カラオケって監視カメラついてる店が多いんだってさ」

彼女「え」

男「だからさ……前から言おうと思ってたんだけどカラオケで脚を出すのはやめて」

彼女「あちゃー……」

男「君は可愛いしスタイルもいいし、世の男は君が脚を出せば当然見ようとするからさ」

彼女「えっ、えっ」

男「君の脚は僕のものだから、他の男には見せたくない」

彼女「……へへ」




180: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/14(日) 02:01:36 ID:pTEOMovQ

男「僕さ、君の身体で一番好きなのって実は脚なんだ」

彼女「知ってるよ」

男「え、なんで!?」

彼女「あんなにジロジロ見て、気付かれないと思ったの?」

男「う……」

彼女「だからね、ことあるごとに君に見せようと、かつ他の人に見せないようにしてきたんだけど」

男「む……」

彼女「そうか、カラオケでやるのは危険だったんだね……ごめん」

男「あ、いや俺の方こそごめん……」




181: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/14(日) 02:18:26 ID:pTEOMovQ

彼女「……ふふ」

男「……ははは」

私達は自分たちの間抜けさが可笑しくってゲラゲラ笑った。

男「もしかして君が短いスカートを履かないのってさ」

彼女「そういうことだよ」

私達はまたゲラゲラ笑った。
彼と思っていることが一緒で、その答え合わせをするこういう瞬間が堪らなく好きだった。

彼女「今度から気をつける」

男「頼んだよ」




183: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/14(日) 11:05:03 ID:pi/CDHoM

理想的な女だな




184: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/14(日) 23:44:46 ID:pjl4b8dI

男「しかし君歌上手くなったなぁ」

彼女「私はもともと上手かったの!」

男「そうなの?」

彼女「事故以来慣れなくて音痴になってただけで」

男「あ、なるほど」

彼女「次入れてよ」

男「うん」




185: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/14(日) 23:51:03 ID:pjl4b8dI

私達は声が枯れるまで歌い、カラオケを後にした。

男「飯どうする?」

彼女「あのね、家の近くの海沿いの通りあるじゃん?」

男「うん」

彼女「あそこで今日から三日間お祭りやるんだって!」

男「へぇー」

彼女「出店とかたくさんあるみたい!」

男「いいね」

彼女「行きたい!」

男「よし行こう!」

彼女「やった!」




186: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/14(日) 23:57:59 ID:pjl4b8dI

車を家に置いて、私達は海沿いの通りに向かって歩いた。

男「あーほんとだ、やってるやってる」

彼女「浴衣着たかったぁ……」

男「今度買いに行こう」

彼女「いいよ、高いもん」

男「でも僕も君の浴衣姿見たい」

彼女「うーむ」

彼女「あ、じゃあさ」

男「?」




187: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/15(月) 00:04:11 ID:c/qB364A

彼女「甚平買おう!」

男「浴衣とはまた違うじゃん」

彼女「似たようなもんだよ。 パジャマ代わりに。 それにさ」

男「それに?」

彼女「結構君好みだと思う」

男「……まぁね」

彼女「決まり! 無しでいいって言ったけど、それが誕生日プレゼントってことで!」

男「うん。 じゃあ明日買いに行こう!」

彼女「うん!」




188: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/15(月) 00:09:20 ID:c/qB364A

彼女「たこ焼きだ!」

男「美味そう」

彼女「焼きそばだ!」

男「ちょっと落ち着きなよ」

彼女「どっちも並んでるなぁ」

男「じゃあ僕はたこ焼き並んでくるから君は焼きそばを」

彼女「一緒に一つずつ回ろう!」

男「……そうだね」




189: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/15(月) 00:12:58 ID:c/qB364A

彼女「牡蠣は無いのかなぁ」

男「祭りの出店で牡蠣ってのは聞いたことないなぁ」

彼女「君と初めてここに来たときに食べた牡蠣、美味しかったなぁ」


彼が目を丸くして私を見ていた。


彼女「どうしたの?」

男「いや、そんなこと覚えてるんだなぁと」

彼女「あぁ……」

男「だって君にとっては」

彼女「うん」




190: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/15(月) 00:24:50 ID:c/qB364A

彼女「不思議だね。 私の中では200年近く経ってるのに、君との記憶は色褪せない」

男「……そういうもんなの?」

彼女「と言いたいところだけど」

男「?」

彼女「君との記憶だけじゃなくて、他の記憶も六年前のそれのようにちゃんと覚えてる」

男「え」

彼女「私はさ、2年で60年分の時間を過ごすわけじゃん?」

男「うん」

彼女「でも精神年齢は変わらず25のまま! 老獪さの欠片もない!」

男「そうだね」




191: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/15(月) 00:33:52 ID:c/qB364A

彼女「2年足らずで認知症とかなったらどうしようかと思ってた」

男「……ごめんな」


あ。
しまった。


男「不安だっただろ。 僕は気づけなかった」


私は人の30倍も考える時間があるのに、こういう失言をしてしまう。


彼女「……」


何か彼が気に病まないことを、もしくは気の利いたジョークでも言って楽しいお祭りモードに戻りたかったけど、何も言葉が出てこなかった。




192: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/15(月) 00:44:48 ID:c/qB364A

男「これからは、そういうこともちゃんと話してな」

彼女「……うん」

男「お、順番が来た。 6個にする? 8個にする?」

彼女「16個!」

男「それ二人分だよね?」

彼女「私一人で食べると思ったの?」

男「一瞬」



彼はショックを受けただろうに、そんなことはおくびにも出さずすぐにお祭りモードに戻してくれた。
私がして欲しいことを、彼はスムーズにこなしてくれる。
私の30倍以上、彼は頭の回転が早い。




193: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/15(月) 01:11:23 ID:c/qB364A

始めの頃は私に合わせてくれる彼に対して申し訳ないとか、私と一緒にいない方が彼は幸せになれるだろうとか考えていたけれど、それもすぐに彼が払ってくれた。
彼は私といて本当に幸せなのだ。
私にそう思わせる彼は本当にすごい。
私が気に病まないようにしてくれる彼に、ならば私も「ごめんね」などとは言うまい。
代わりにほどほどの感謝の言葉と、あらん限りの愛情を彼に捧げよう。
付き合って一年目のあの日からほどなく、彼は私にそう決心させた。
私の苦労は感謝の言葉をほどほどに抑えることと、愛情を伝える不自然でない手段を考えることだけ。
私は彼のTシャツの裾をそっと握った。




194: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/15(月) 01:27:10 ID:c/qB364A

彼女「美味しい!」

男「そうかぁ?」

彼女「ぼそぼそでぱさぱさ!」

男「うん。 ぶっちゃけ不味いよね」

彼女「違う! お祭りではこれがいいの!」

男「君の焼きそばを出せばかなり売れると思う」

彼女「わかってないなぁ。 君が日によって蒸らしの時間を変えるのと同じように、お祭りにはこの不味さがベストなんだよ!」

男「今不味いって言ったな」

彼女「あ、君のコーヒーのことじゃないよ!」

男「わかってるよ」




195: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/15(月) 22:53:31 ID:PLwNFuR.

彼女「あ」

男「ん?」

彼女「迷子だ」

男「ほんとだ」

彼女「ちょっとあそこのトルコアイス買ってきて」

男「なんで?」

彼女「子供を泣き止ますのは甘いものが一番なんだよ」

男「君が泣いたときには甘いもの用意するよ」

彼女「聞かなかったことにしてあげるから早く買ってきて」

男「はいよ」




196: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/15(月) 22:58:04 ID:PLwNFuR.

彼女「どうしたの?」

子供「わああああん!!!」

やっぱりまともに話せない。
感情が昂ってるときは止めようと思っても止まらないものだ。
恥ずかしながら比較的最近この経験をした私にはよくわかる。

彼女「迷子?」

子供「うぐっひぐっ」

男「おまたせ」

彼女「遅いよ」

男「店の親父がなかなかアイス渡してくれなかったもんで」

彼女「はい、どーぞ!」

子供「! ……いいの?」

彼女「ママには内緒ね!」

子供「……ありがとう」




197: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/15(月) 23:02:25 ID:PLwNFuR.

彼女「ちゃんとお礼言えて偉いね」

男「ほんとに泣き止んだ……」

彼女「はぐれちゃったの?」

子供「……うん」

彼女「そっか。 ママの携帯の電話番号とか知ってる?」

子供「……うん。 ここにかいてある」

彼女「よし、すぐにママ呼んであげるね!」

子供「ほんと!?」

彼女「ママが来る前にアイス食べちゃいな!」

子供「うん!」




198: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/15(月) 23:09:52 ID:PLwNFuR.

あの子と母親は無事合流し、あの子がちらちら振り返ってくるのを見ながら、私達はたこ焼きを食べた。

男「ありゃ惚れたな」

彼女「?」

男「あの子の初恋は君だ」

彼女「そ、そんな馬鹿な」

男「僕も同じような経験があるからよくわかる」

彼女「……へぇ」

男「性が芽生えてない分、よりピュアな恋心だったな」

彼女「……なんか面白くない」




199: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/15(月) 23:15:38 ID:PLwNFuR.

男「え」

彼女「そうか、私は身体目的だったんだね……」

男「そ、そうは言ってないだろ!」

彼女「ごめんね、私なんかとピュアじゃない恋愛をさせて」

男「そ、それは違う!」

彼女「何が違うの?」

男「え、あの、上手く言えないけど」

彼女「……」

男「……君の性的な魅力に全く惹かれなかったとは言えないけどさ」

彼女「……あはははは!」

男「ど、どうしたの」




200: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/15(月) 23:23:58 ID:PLwNFuR.

本気で弁解しようとしながらあくまで嘘をつかない彼が可愛くて私は吹き出した。

彼女「な、何もそんな……あはは!」

男「え、何、何が面白かった?」

彼女「わ、私が本気で嫉妬してると思った?」

男「……思った」

彼女「む……」

流石だ。
幼い彼を射止めた見知らぬ女性に、ほんの少しではあるが、本気で嫉妬していた。
でも、まだまだ余裕だ。
今、彼は間違いなく私のものなのだから。




201: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/15(月) 23:28:48 ID:PLwNFuR.

彼女「うーん、しかし可愛かったなぁ」

男「可愛くない」

彼女「そう?」

男「君に惚れてる男を可愛がるなんて出来ない」

彼女「大人気ない!」

男「子供だろうがなんだろうが君を狙う男は皆敵だ」

彼女「うわぁ……」

男「君は僕のものだ!」

彼女「や、やめてよ恥ずかしい」

私達は、本当に大人気ない。




202: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/15(月) 23:32:12 ID:PLwNFuR.

彼女「……私に決して恋心を抱かない子供だったら可愛いと思う?」

男「女の子ってこと?」

彼女「私達の子供ってこと」

男「……!」


いい加減、私も腹を括らなければ。


彼女「欲しい?」

男「……君との子供はどんなに可愛いことだろうな」

彼女「……じゃあさ」




203: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/15(月) 23:35:07 ID:PLwNFuR.

男「待つよ」

彼女「……へ?」

男「お腹を痛めるのは君だから。 それは君にとってどんなに怖いことかくらいはわかる」

男「どれだけでも待つよ」


あぁ。
やっぱり彼には全てお見通しだ。


彼女「……ごめんね」

男「久しぶりに君の『ごめんね』を聞いた」

彼女「……」




204: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/15(月) 23:44:22 ID:PLwNFuR.

男「僕のために辛いことを耐えるのは、絶対にやめてね」

彼女「……わかってる」

男「ならばよし。 このまま君と二人だけの人生を送ることになっても、それはそれで最高なんだよ」

彼女「私も、そう」

男「君がいれば人生薔薇色!」

彼女「……ほんと、君は私にはもったいないよ」

男「……今なんて言った?」




205: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/15(月) 23:48:48 ID:PLwNFuR.

彼女「あ、いや私は本当にラッキーだって話」

男「誤魔化すな。 もっと重いことを君は言った」

彼女「……」


今度のはうっかりじゃなかった。
言ってはいけないと思いながら、ずっと溜め込んできた言葉が口をついて出た。
愛想を尽かされたくないと思いながらも、一度決壊したら止められない。
さっきの男の子のように。




206: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/16(火) 22:06:10 ID:esItj2zI

彼女「う……」

堪えようとしても涙が溢れ出す。
情けないのか悲しいのか、よくわからない想いがこみ上げてきて、私はそれを止められなかった。
子供のころ、友達と喧嘩するときに何故かこみ上げてくるそれと似ていた。

男「場所移そう」

こんな姿を彼に見られたくはないのに、彼に見られてるせいでどれだけ泣いても収まらなかった。




207: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/16(火) 22:08:01 ID:esItj2zI

男「落ち着いた?」

彼女「……少し」

男「じゃ、話して」

彼女「……やだ。 お祭り戻りたい」

男「駄目」

彼女「……」

男「……」

彼女「……」




208: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/16(火) 22:16:08 ID:esItj2zI

男「……君はさ、最初の頃、僕によく謝った」

彼女「……」

男「ことあるごとに『ごめんね』『ごめんね』って」

男「脈絡は無かったけど、どうして謝ってるのかは想像できた。 謝るべきことじゃないんだけど」

彼女「……」

男「さっきの、『私にはもったいない』ってのも同じとこから来てるように思えてならないんだ」

彼女「……」




210: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/16(火) 22:22:32 ID:esItj2zI

男「……君は、ずっと耐えてたんだね」

男「……僕は、気付きもしなかった」

男「僕のせいで君は……」

彼は唇を噛み締めて拳を震わせた。

彼女「ち、違う! 全部私が悪いの!」

男「お、言う気になった?」

演技だった。

彼女「……ハメられた」

男「ハメてないよ。 こういうことを言えば君が喋ると思っただけ」

彼女「ずるいよ……」

全てが演技ではないから、ずるい。




211: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/16(火) 22:28:38 ID:esItj2zI

彼女「……君は、誰とだって幸せになれたんだ」

男「……」

彼女「君を好きになる娘はたくさんいるだろうし、君は誰と付き合ったとしても愛せるだろう」

でも。

彼女「私は君がいなきゃ生きていけない」

男「……」

彼女「君と別れたら、数日で絶望のうちに死んじゃうかも」

彼女「……これって依存だよね」

男「……それは」




212: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/16(火) 22:40:30 ID:esItj2zI

彼女「君がいなきゃ生きていけないから君といたい、なんて君に言いたくなかった」

彼女「だってそれは真心じゃない」

彼女「……あの運転手が心の底から憎い」

彼は、黙って聞いている。
表情が無い。

彼女「君が愛をくれるから、私はそれに応えてきたつもりだった」

彼女「『ごめんね』を言わなくなったのも、君のことを思ってだ。 そう思ってた。 でも違う」

彼女「私は、君といなきゃ生きていけないから、自分自身の為にそうしたんだ」




213: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/16(火) 22:50:39 ID:esItj2zI

彼女「……君といたい気持ちは、実はとても醜い」

彼女「今まで気付かないふりしてたけど、無理なんかしてなかったけど、そうなんだ」

彼女「情けなくて恥ずかしくて……悲しくて」

言いながらまた堪えられなくなる。
子供のように、感情の制御が出来ない。

彼女「私は、まともな人間として君と出会いたかった!」

彼女「こんな、こんなクズが君と」

男「もういい」




214: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/16(火) 23:01:42 ID:esItj2zI

男「君の言いたいことはわかった」

彼女「……」

男「僕も、君に言わなきゃならないことがある」

彼女「……」


終わっちゃったな。
仕方がない。いずれこうなったんだ。
こうなるべきだったんだ。
でも、彼ともっといたかったなぁ。

男「あのな」

彼女「……うん」




215: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/16(火) 23:08:19 ID:esItj2zI

男「僕の身体の中に、爆弾がある」

彼女「……へ?」

男「爆発すれば綺麗に僕だけが吹き飛ぶ爆弾だ」

彼女「……え?」

男「その爆弾は、君と別れたら爆発しちゃうんだ」

わけがわからない。
明らかに冗談なのに、彼は真面目な顔をして話す。

男「僕は君と別れたら死んじゃうんだ」

男「信じてよ」

彼女「え……」




216: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/16(火) 23:12:03 ID:esItj2zI

男「僕のことが信じられない?」

彼女「あ、いや」

男「信じてくれる?」

彼女「う、うん」

男「良かった。 でね、僕はどうしても君と別れたくない」

彼女「えっ」

男「君は僕のことを軽蔑した?」

彼女「……しない」

男「なんで?」




217: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/16(火) 23:21:27 ID:esItj2zI

彼女「だって、軽蔑する理由が無い」

男「僕は、君といなきゃ生きていけない。 だから君と付き合ってるんだ。 軽蔑する?」

彼女「……そんなの」

彼と過ごした日々を思い出す。

彼女「……君がくれた愛は本物だ」

男「うん。 そうだと思う」

彼女「……何が言いたいの?」

男「君もまた、そうだってこと」




218: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/16(火) 23:32:59 ID:esItj2zI

男「君は自分の気持ちがわかってないんだ。 罪悪感と劣等感に縛られてる」

彼女「……」

男「君は本当に僕を愛してるんだよ」

彼女「……なんでそんなことが」

男「君もさっき同じことを言ったんだけどな」

彼女「……」

男「こんな話は、もっともっと早く、それこそあの日のすぐ後にするべきだった」

男「『ごめんね』を言わなくなったことで僕は勝手に君がふっ切れたと思ってた」

男「まだまだ僕たちは言葉が足りない」

彼女「……うん」




219: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/16(火) 23:40:58 ID:esItj2zI

男「言葉が足りないのがわかったから」

男「5日待って」

彼女「?」

男「レポート出すよ。 僕が君をどんなに愛してるか、君がいなくなったらどんな悲しい人生になるかの考察をまとめて」

彼女「い、いい! そんなのいい!」

男「プレゼン形式の方がいいかな」

彼女「いいってば! 充分伝わった!」

男「とにかく、僕の身体にある爆弾と同じように、君のそれは君のせいじゃないんだから」

彼女「……うん」

男「君の愛は本物だから、だから僕と結婚して」

彼女「……うん?」




220: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/16(火) 23:48:45 ID:esItj2zI

男「タイミングを逃しちゃったからさ、いつ言おうかいつ言おうかとずっと考えてたんだよ……」

男「結婚式挙げてあげたいし、でも金が無いしで」

彼女「と、唐突だなぁ」

男「唐突じゃない。 店も軌道に乗ってきたし」

男「結婚してください!」

彼女「……喜んで!」

男「よし、早速結婚式のプランを練ろう!」

彼女「その前にもうちょっとお祭り楽しみたい」

男「そういやまだはしまき食べてなかった」

彼女「私りんご飴食べたい」




221: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/17(水) 00:01:59 ID:2Zitw6Ig

彼は早足で私の前を進む。
彼は嬉しそうに見える。
まさかはしまきのせいではないだろう。

彼女「早いよ!」

男「君が遅い!」

視界の端に動くものが見えた。
あきらかに法定速度を超えるスピードで走ってくる車がいた。
彼が渡っている横断歩道の歩行者用信号機は確かに青で、しかしこのスピードだとあの車は止まれないのではないか。
止まる気配すらない。

彼女「男!!」




222: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/17(水) 00:08:08 ID:2Zitw6Ig

私の声を聞いて彼がこちらを見る。
その間にも車は彼に迫る。
もうあの車が止まることは期待できない。
私がなんとかしなければ。
私は思いっきり地面を蹴った。
車はジリジリと彼に近づく。

もっと急げ!

思い切り脚を出すと、限界を超えて早く動いた気がした。
しかしこっちに気付かないはずはないのに、車はますますスピードを上げる。




223: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/17(水) 00:13:05 ID:2Zitw6Ig

私は彼に向かって思いっきり手を伸ばして突き飛ばした。
彼に手が触れるころには車はもう間近に迫っていた。
大丈夫、この距離なら彼は避けられる。

車はますます加速し、私の身体は吹き飛んだ。




227: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/17(水) 21:33:10 ID:2Zitw6Ig

━━
━━━
━━━━

彼女に呼ばれて振り返ると、彼女は今まで見たことがない必死な表情をしていた。
何事かと思い、止まってもいいはずの音が止まってないことに気がついた。
右を見ると、停止線を超えて白のセダンが走ってきていた。

が、止まった。




229: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/17(水) 21:58:10 ID:2Zitw6Ig

車だけではなく、僕自身も止まった。
いや止まったように見えて少しずつ、少しずつ動いていた。
咄嗟に理解した。
これが彼女の見ていた世界なのだ。

まずい、早く逃げなくては。
そう思ったが、すぐに考え直した。
また彼女の方を振り返ると、案の定彼女は僕を突き飛ばそうとしている。
このまま彼女に突き飛ばされては、彼女は助からない。
考えている間にも、彼女の右手が僕の胸に触れて、僕を押し始めている。
彼女の左手に近い所に僕の右手があった。
これなら間に合う。
僕は右手を彼女の左手にゆっくり伸ばし、掴んだ。
そしてそのまま思いっきり彼女を後ろにぶん投げた。




230: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/17(水) 22:15:38 ID:2Zitw6Ig

一旦突き飛ばされてコースから外れたが、彼女を引っ張ったことでまたコースに入った。
もう自力で避けられる距離ではない。

ここで死ぬのかもしれない。
遺された彼女はどうするだろう。
辛いだろうな。
もう彼女を思って泣くのも間に合わない。
しかしやはり走馬灯は走馬灯で、彼女との思い出を振り返る時間はほんの少し残ってそうだ。
轢かれる瞬間が怖いので僕は目を瞑り、彼女との時間を思い出す。
僕はなんて幸せだったんだろう。
願わくば、彼女はすぐに新しい相手を見つけて幸せになって欲しい。
嫉妬深い僕がこんな風に思えるなんて信じられなかった。

ああ、そろそろ車が僕にぶつかる。




231: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/17(水) 22:23:41 ID:2Zitw6Ig

……まだぶつからない。
目を開けると、彼女が横から抱きついてきた。
泣いている。
時間が、もとに戻っている。
あぁ、車の方が避けたんだ。
後ろを見ると、急ハンドルを切ったせいでコントロールを失ったのか、車は電柱に突っ込んでいた。
潰れたのは誰もいない助手席の方で、運転手の方はピンピンして座席から出てきた。
途方に暮れたように車を見ていたが知ったことではないので僕は彼女の方に視線を戻した。




232: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/17(水) 22:38:23 ID:2Zitw6Ig

泣きじゃくって、僕に何か言っているが全く聞き取れない。

男「と、とにかく歩道に避難しよう。 危ない」

彼女を歩道まで引っ張り、彼女を見ると、彼女も涙と鼻水まみれの顔で僕を見ていた。

男「……酷い顔」

彼女「だ……だ、い」

男「落ち着いて」

彼女「き……」

男「……逃げちゃおうか。 君も擦り傷だけみたいだし」

彼女「あああ……」




233: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/17(水) 22:45:38 ID:2Zitw6Ig

僕は彼女を引っ張って、うちに帰った。
彼女はその間ずっと泣いていた。

僕は彼女を椅子に座らせ、コーヒーを淹れた。

男「……落ち着いた?」

彼女「……」

彼女はゆっくりと携帯を出し、何かを打ち込んだあと僕に画面を見せてきた。

彼女『LINEで話して』

男「……?」

目の前にいるのにそんなことをする意味はわからなかったが、僕は言うとおりに携帯を出してアプリを立ち上げた。




234: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/17(水) 22:59:01 ID:2Zitw6Ig

彼女『君を突き飛ばしたはずの私が何故か君をすり抜けてて、何が起こったかわからなかった』

男『わからなかった? 君が?』

彼女『君を突き飛ばそうとして『急げ、急げ』と思ってたらほんとに私の身体が速く動いたの』

彼女『その代わり車もどんどん速くなっていった。 そして君を押した瞬間、私は吹き飛んだ』

男『え?』

彼女『目の前から君が消えて、後ろを振り返ると君がいて、車はいなくなってて』

彼女『私は信じられないほど速く君に抱きついて、状況を理解した』

彼女『私、治ったんだ』

男『えっ!?』




235: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/17(水) 23:09:06 ID:2Zitw6Ig

彼女『君が引っ張った瞬間に、私は治ったんだ』

治った!?
あれのことか!?

男『ほんとに!?』

彼女『同時に何が起こったかも理解できた。 君は私の代わりに轢かれそうになったんだ』

彼女『怖かった』

彼女を見ると、唇を噛み締めて、また泣いていた。

男『ごめん』

彼女『私こそ、ごめん』

お互いがお互いを助けようとして、たまたま両方が助かった。
僕は自分が死ぬより彼女が助かることを選んだけど、彼女の方もそうだった。
どっちかが死んでいたら、どっちも助からなかった。




236: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/17(水) 23:15:05 ID:2Zitw6Ig

男『コーヒー、飲みなよ』

彼女はコーヒーに口をつけた。

彼女『美味しい』

男『よかった』

彼女『ごめんね、打つの遅くて』

男『いいよ』

彼女『君の声が聞き取れないし、私も上手く喋れないの』

男『あ、なるほど』

彼女は笑いだした。

男『何が面白いの?』

彼女『だって君、動きがコミカルでものすごい早口で』

彼女『ピングーみたい』

ピングー?
あのクレイアニメか。
彼女の目に、今僕はそう映っているのか。




237: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/17(水) 23:22:25 ID:2Zitw6Ig

男『とにかく良かった。 君はもう何も悩むことがない』

彼女『うん。 君が引っ張ってくれたから』

男『君が僕を助けようとしたからだろ』

彼女『最後に引っ張り上げてくれたのは君だ』

男『とにかく良かった』

彼女『うん』




238: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/17(水) 23:27:39 ID:2Zitw6Ig

僕は彼女を抱きしめ、キスをした。

彼女が携帯に打ち込み、画面を見せてくる。

『短い!』

僕は彼女の携帯にそのまま打ち込む。

『いつも通りだよ』

『いつもこんなので満足してたの!?』

『まぁ』

『全然足りないよ! もっと!!』

僕は苦笑いをし、また彼女にキスをした。
彼女は治ったけど、今まで以上に彼女と時間を共にすることになる気がした。




241: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/18(木) 21:32:05 ID:21qLoP5o

━━
━━━
━━━━

あれからもう一週間。
彼のCDをありったけ引っ張り出して聴いたり、映画のDVDをありったけ引っ張り出して見たりした。
音楽や映画は以前は楽しめなかったもので、治ってから私はそれらを貪った。
もちろん彼を付き合わせた。
もっともっとやってみたいことがたくさんある。
もちろん彼も付き合わせる。




242: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/18(木) 21:40:48 ID:21qLoP5o

とんでもなく速く過ぎる時間に、私はすぐに慣れた。
もともと産まれてから18年間それで生きてきたのだから、勘を取り戻すだけだ。

彼女「明日は何をしよう?」

男「君はこの一週間ずっとテンションが高いね」

彼女「だって、生まれ変わった気分!」

男「だろうね。 疲れない?」

彼女「疲れる!」

男「だろうね」




243: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/18(木) 21:45:37 ID:21qLoP5o

彼女「でもそんなことも言ってられない」

男「なんで」

彼女「私は焦ってるの!」

男「どうして」

彼女「だって、君といられる時間は5、60年しかないんだよ!?」

男「充分じゃないか」

彼女「全然足りない! もう一日たりとも無駄に出来ない!」

男「……やっぱり君で良かった」

彼女「へ?」




244: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/18(木) 21:57:47 ID:21qLoP5o

男「君といると、とんでもなく濃い人生を送れそうだ」

彼女「もちろん!」

男「治って、僕に対する気持ちは変わった?」

彼女「全く変わらなかった」

男「やっぱり」


そう、客観的には何も変わらなかった。
変わったことといえば私が、少しどんくさくなったことと喋りがトロくなったことくらい。
結局前と同じく彼と出来る限りの時間を共にしようとしてるし、毎晩彼を求めている。

でも、自分の気持ちに確信が持てた。
これは大きな収穫だ。
前よりも彼と過ごせる時間は圧倒的に短くなったけれど、私はこれから彼と一緒にとんでもなく濃い人生を送れるだろう。




245: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/18(木) 22:02:51 ID:21qLoP5o

男「あ、これ」

彼女「? なにこれ」

男「レポート」

彼女「ほ、ほんとに書いたの!?」

男「うん」

彼女「うわぁ……」

分厚い。100枚近くありそうだ。

彼女「いつ書いてたの?」

男「君が寝てから」

驚いた。
この一週間私は夜ふかししていて、つまり付き合ってる彼も夜ふかししていた。
しかし実は彼は、私が寝てからさらにこんなものを書いていたのだ。

彼女「大丈夫なの!?」

男「平気」




246: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/18(木) 22:11:39 ID:21qLoP5o

彼女「……明日はゆっくり寝てね」

男「じゃあ昼まで寝させてもらおうかな。 そのあとカラオケ行こう」

彼女「うわぁ……うわぁ……」

パラパラとレポートをめくると、文章こそレポート用のそれだったが、内容はラブレターに等しかった。
顔が真っ赤になるのがわかり、とりあえずレポートを閉じた。

彼女「あ、後で一人で読むね」

男「今読まないの?」

彼女「読んでる私を見られたくない。 君が寝てから読む」

男「ちぇ」

彼女「あ、PDFで頂戴」

男「どうするの?」

彼女「携帯に入れる」

男「いいけど絶対に友達に見せたりするなよ!」

彼女「しないよ。 もったいない」




247: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/18(木) 22:18:09 ID:21qLoP5o

男「それからこれ」

彼女「あ、甚平!」

男「買ってきた。 着てみてよ」

彼女「生着替え?」

男「え、いいの?」

彼女「いいのって……今更そんなのなんでもないでしょう」

男「いや、すごく見たい」

彼女「そ、そう言われると恥ずかしくなってきた」

男「早く脱げー!」

彼女「エロオヤジみたい」




248: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/18(木) 22:24:35 ID:21qLoP5o

私は一枚一枚服を脱いでいった。
普段彼の前で着替えをしたりもするが、ここまでジロジロ見られながら着替えるのは初めてで、なるほどこれは恥ずかしい。
やっとの思いで甚平を着て、くるくると回って彼に見せつけた。

彼女「どう?」

男「……超可愛い」

彼女「へへへ……」

顔が真っ赤になる。

男「もう辛抱たまらん!」

彼女「うわっ!」




249: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/18(木) 22:26:44 ID:21qLoP5o

押し倒された。
押し倒して欲しかったのでそれはいいが、セリフはもうちょっとなんとかならなかったのか。

彼女「辛抱たまらんって……」

男「今日はとことんエロオヤジでいってみようと思って」

彼女「なるほど」

うーむ。
愛おしい。




250: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/18(木) 22:30:22 ID:21qLoP5o

彼女「あのね」

男「うん?」

彼女「ありがとう」

男「こちらこそ」

彼女「これから60年、よろしくね」

男「うん。 60年、よろしく」

彼女「大好き!」

男「僕もだ」


私達は、同じ時間を生きてゆく。


fin




251: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/18(木) 22:56:45 ID:5TBeQwjA

ハッピーエンドで良かった。
んで子育て編はいつですか?




252: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/18(木) 23:08:13 ID:aEOcZqb2

おつ。
男と彼女ってお互い初彼女彼氏?




253: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/18(木) 23:25:16 ID:21qLoP5o

>>251
そんなの見たい?www

>>252
一応そのつもりだった
それも書けば良かったなぁ
酔っぱらいながら書いてたけど初めて後日談書きたくなるくらい楽しかったからもう少しちゃんと書けば良かったと後悔してる




254: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/18(木) 23:41:02 ID:CD7huqyc

>>253
そかそか、良かった
続き見たいみたい。後日談も補完したいところも書けばいいと思うよ!
思い入れあるなら満足行くまで書いちゃえ!いくらでも待つで




255: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/18(木) 23:54:57 ID:5TBeQwjA

>>253
みたいからはよ




256: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/19(金) 06:40:15 ID:AGCVIMGg

おつ
楽しかったよ




257: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/06/19(金) 12:53:22 ID:ghJnpoZw

おつ!
老後編はまだですか?




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