1: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 18:52:26.15 ID:Ga3UGIlR0.net

たまには外の空気でも吸わないと、と危機感を抱いた私は三カ月ぶりに部屋を出る決意をした。

中途半端に寂れた繁華街は今やクリスマスというキリスト教のお祭り一色になっており、

どこもかしこもその祭に乗っかって楽しむカップルや店で賑わっていた。

俺「やっぱり帰ろうかな」

部屋を出て10分も経たずに外出したことを後悔する。

俺「そういえばクリスマスシーズンだったんだよな……どおりで部屋が寒いと思った、もう冬かあ」

空を見上げると灰色の雲が厚く覆ってあり、この寒さの中いつでも雪を降らせられる状態のようであった。

俺「せっかく外へ出たんだ。この際どうなっても良いから汗を流して帰ろう」

冬の澄んだ空気は、ずっと籠っていて淀んだ部屋の空気とは違い滑るように鼻から入って肺を満たしてくれた。

三ヶ月ぶりの外の空気は驚くほど美味しかった。

俺「外の空気は美味しいな……美味しい? いや、本当に美味しそうな匂いがするぞ」

鼻を膨らませ深く呼吸をしていた私の鼻腔を擽ったのは冬の澄んだ空気ではなく、紛れもない『美味しそうな匂い』だった。

俺「あの路地の奥から漂ってきているな」

街の賑わいとは対照的に建物同士の陰になり、暗く寂しい雰囲気のある路地裏の奥を見つめるとそこには一つの扉と看板が立てかけてあった。

俺「なんだ、こんな所に飯屋なんてあったのか。……なになに? なんて読むんだ……『千味望料』?」




元スレ
俺「なんだ、こんな所に飯屋なんてあったのか」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1419241946/


 
7: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 19:00:33.86 ID:Ga3UGIlR0.net

丁寧に四つの漢字の下にローマ字で『Chimimoryo』と書かれてあった。

俺「ちみもうりょう……当て字かよ。それにしても……」

魑魅魍魎とはあまり料理を出す店の名前に付けて欲しくない名前であった。たとえ当て字でも。

俺「……あ」

そこで私はようやく自分が路地の奥にある店の前に立っていたことに気付く。

美味しそうな匂いに誘われて無意識に店前まで来てしまっていたようだ。

俺「……」

少し遠くから、クリスマスのこの時期を楽しむ若者たちの声が聞こえてくる。

俺「……」

今さらあの自分に似つかわしい繁華街を歩くよりも、この店で時間を潰した方が良さそうだ。

俺「ちょうど腹も空いてきてたしちょうど良いか」

匂いに釣られた私は潔く路地奥の飯屋の扉を開けることにした。




11: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 19:13:47.70 ID:Ga3UGIlR0.net

扉を開けると、カランコロンと扉に付けてあったベルが鳴った。

「いらっしゃいませ」

俺「……ど、どうも」

店内は暖かい光で淡く照らされていて隅の方はやや暗くて見えにくい。

路地奥の店だから仕方のないことではあるが思った通りに……。

「ははは、狭くてすみませんねえ……」

俺「あ、いえ別に……むしろ、えーっとそっちの方が落ち着きますし」

「そう言って頂けると嬉しいです」

見た所客は私一人、店員? らしき人もこの中年の男性だけしか見当たらない。

俺「この店の店主さんですか?」

店主「ええ。お客さんなんて滅多に来ないものですから私一人充分なんですよ……」

申し訳無さそうに店主は答えた。案の定あまり客入りの多い店というわけではないようだ。

俺「街を歩いていたらとても美味しそうな匂いがしてきましたもんで……ついついふらっと誘われてしまいました」

店主「ほほう、匂いを嗅いだんですか? ほー」

私の何気ない言葉に珍しそうに反応する店主。なんだろう、少し引っかかるが私はカウンターの椅子に座ることにした。




12: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 19:28:52.32 ID:Ga3UGIlR0.net

モダンでナイスな雰囲気を漂わせる店内は、淡く暖かな光に揺られキラキラと輝いていた。

俺「……なんかカッコイイですね。俺、こういう雰囲気のお店初めてでなんかドキドキします」

三ヶ月ぶりの外出で人と話すのも久し振りだった私だが、なんだか不思議と言葉がスラスラ出てくるように饒舌になっていた。

この店の心地の良い雰囲気に酔ったのだろうか。

店主「ははは、別に狙ってやっているわけではないんですけどね。好きなように店を切り盛りしていたら自然とこの形に落ち着いたんですよ」

照れながら答える店主。私は店内を見回しとうとう自分もこういう隠れ家的な店デビューか……と得意気になっているととある違和感が湧き起こる。

俺「……? あれ?」

店内を一通り見回し、そして自分が座るカウンターを見降ろして違和感が本物だと確信する。

俺「ここって料理屋ですよね?」

店主「……ああ、そうですね。大変申し訳ないんですけど」

店主は困ったように頭を掻きながら私に何度も頭を下げていた。

俺「メニュー表みたいなのないんですね」

店主「はい……いかんせん食材の調達も一人でやっているもので、その日作れる料理ってのがまちまちなんですよ」

その言葉を聞き私は心配になった。

もしかして凄くお高いお店なのではないかと。財布にいくら持ってきていたっけ。




14: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 19:45:34.99 ID:Ga3UGIlR0.net

俺「あの……もしかしたら俺、せっかく来たのに払えないかもしれないです」

人のよさそうな店主の手前私も正直に打ち明けらざるをえなくなり、頭を下げて白状した。

店主「ああ、別に良いですよ。それこそせっかく来店して下さったお初見のお客様ですし。お支払出来ない場合は次の機会にでもお越しいただければ」

本当に人のよい店主だった。さっきまでクリスマスの騒がしい繁華街に荒みきっていた私の心に染みわたる温かさだった。

俺「良いんですか、そんなこと言ってしまって……」

店主「心配しないで下さい。それになんかお客さん、大分お疲れのようですし」

見抜かれていたようだ。外に出てものの十数分でメンタルを削り取られていた私の心を。

俺「いやあ、全く……本当に疲れますよ。巷はクリスマスなんぞに浮かれやがって」

自然と愚痴を吐いてしまう。

俺「どこを見渡しても若いカップルが楽しそうに歩いている。なんなんでしょうね、独り身の私を邪魔だと言わんばかりに歩いていて……」

店主「本当に……お疲れのようですね」

俺「ははっ、クリスマスなんて鬱になるだけです」

店主「それならちょうど良い。今仕込んでいる料理でも召しあがってはどうでしょう」

俺「あ、え、いやでも……」

と断りかけたところで思いとどまった。外で鼻を擽った美味しそうな匂いは店内を満たしていて、腹も空いていた私はせっかくだし店主の言葉に甘えようと思ったのだ。




17: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 19:59:27.59 ID:Ga3UGIlR0.net

店主「随分とクリスマスがお嫌いのようですね」

俺「ええ、そりゃもう寂しい野郎には妬むことしか出来ない日ですし」

店主「ではこちらを召し上がって下さい。一晩煮込んで味も染みています」

そう言って店主は厨房にあった大きな鍋をかき混ぜ皿に何かをよそい始めた。

ぐつぐつと煮える鍋がこの芳しい匂いの出所だったのか。

自然と口の中は唾液が滲み出してくる。本当に美味しそうな匂いだったのだ。

今からその料理を食べられるのだと思うと、さっきまでのクリスマスを楽しむ人間たちへの嫉妬も、

部屋で鬱屈と過ごしてきていた無気力な心も吹き飛ぶような、生き生きとした気持ちになってきた。

店主「さあ召し上がって下さい。精もつくから疲れたお客さんにピッタリですよ」

半透明のゼラチン質な塊が皿に盛られてあった。フカヒレなのだろうか?

俺「い、いただきます!」

何の料理か確認も取らずに、ただただ目の前にあった煌めく照りと温かな湯気を纏い、

美味しそうな匂いを放つその料理に私は本能的に齧り付いた。

柔らかく、しかしコリコリと心地の良い歯ごたえを持つゼラチン質のそれは思った以上に肉々しい味をしていた。しかし、とても美味しい。

店主「美味しいでしょう、サキュバスの子宮は」




18: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 20:01:47.99 ID:72JpT13AM.net

おい。いきなり流れ変わったぞ




23: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 20:18:12.97 ID:Ga3UGIlR0.net

噛めば噛むほど複雑な旨味が口の中いっぱいに広がり、よく煮込まれているだけではなく、

この食材自体が持つ旨味も存分に堪能出来た。まるで気持ちの良い夢を見てる気分だった。

……え?

夢見心地で朦朧としていた私の耳に、まるで霧の彼方から聞こえてくるような店主の言葉が我に返させた。

俺「今、なんて言いました?」

店主「え? 美味しいでしょう、サキュバスの子宮は、と」

未だに口の中を満たす旨味と、不思議と火照ってくる体に気を抜けばすぐにまた夢のような料理の味を堪能したい欲求を押さえ込みながら聞き返す。

俺「……さ、サキュバスの子宮!?」

店主「ああ……そういえばあまりメジャーな食材ではないですもんね子宮って。でも豚のなんかは割と食材として使われているお店多いんですよ」

いや、そうじゃない。

俺「サキュバス……サキュバスって……」

店主「え? だってお客さんクリスマスは嫌いだって……クリスマスと言えばキリスト教、といえばキリスト教が忌み嫌う悪魔を食材にと……」

俺「……」

店主「それにお疲れ気味でしたので精の付く物をと思いまして、これはちょうどいいと思ったのですが……お口に合いませんでしたか?」

いや、そうじゃない。




24: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 20:25:58.22 ID:Ga3UGIlR0.net

俺「大変美味しいですよ、ええ、料理は美味しいですけど……」

店主「ああ……そう言って頂けると作った私もとても嬉しいです」

にっこりと笑う店主の顔にはなんの悪気も感じられなかった。

俺「いやいやいや、サキュバスって……サキュバスってあの……」

店主「いかんせん夢魔ですからね、捕獲するのに苦労しましたよ。だって相手は夢の中ですもの」

俺「……」

何を言っているのか理解出来ない私は、目の前の食べかけの料理と店主を交互に見つめた。

店主「けど……お客さんに美味しいと言って貰って私も苦労した甲斐がありました」

確かに美味しい。そして私は理解するのを放棄し、この料理、サキュバスの子宮煮込みを再び食べ始めたのであった。

まるで夢のような美味しさは脳に直接語りかけてくるような感覚をもたらし、口の中では染みわたった旨味の塊がじゅわじゅわと、

噛めば噛むほど溢れ出るのであった。




25: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 20:30:56.27 ID:8huTROKC0.net

普通に面白くてワロタ
どっちかというとファンタジー寄りか




26: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 20:36:47.61 ID:Ga3UGIlR0.net

俺「ご馳走様でした」

店主「ありがとうございました」

あっという間に食べ終わってしまった私はお家計を店主に確認すると、予想外に手ごろな値段であったため、

ツケを残すこと無く店を出られることにほっとした。

俺「はあ、なんだかとても幸せな気分になりました」

店主「心なしか入って来た時よりも顔が明るくなられましたね」

俺「なんだか不思議と力が湧いて来るようですよ」

店主「それはもう、精の付く料理ですから」

店内は変わらず淡い光で彩られ、私が食べ終わった料理の皿を厨房の流しへ運びながら店主が自慢げに言った。

俺「滋養効果のある薬膳料理なんかよりも全然良いですね。ほんと、元気が出ましたよ」

店主「相当溜めこんでたんでしょうね」

俺「では、また」

店主「ありがとうございました」

食後の会話もまちまちに私は店を出ることにした。すっかりこの店の料理の虜になってしまった私はどうせまた来るだろう、と思ったのだ。

カランコロン、扉に付いたベルが鳴る。外はすっかり暗くなっていた。澄んだ空気を肺に入れながら、私は『千味望料』を後にしたのであった。




27: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 20:40:59.81 ID:TFlOlSB2p.net

魑魅魍魎の時点でフラグだったのか




28: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 20:51:11.63 ID:Ga3UGIlR0.net

真っ赤なお鼻の〜トナカイさんは〜♪

クリスマスシーズンというのは、クリスマス当日よりも遥か以前より到来する。

相変わらずこの忌々しいムード一色の繁華街を歩きながら、私はクリスマスセールで赤緑に彩られた店々を冷やかすことに勤しんでいた。

店員「いらっしゃいませ〜」

にこやかに出迎える店員をしり目に、派手に飾られた多種多様なケーキの陳列されてあるショーケースを一通り見終えた後、何もせず店を出る。

店員「ありがとうございました〜」

変わらずにこやかに挨拶をする店員だったが内心ハラワタ煮えくり返っているんだろうな、と思い気分良く再び繁華街を歩き始める。

ハラワタ……煮えくり……。

俺「……あ」

唐突に、以前ふらっと立ち寄った料理屋のことを思い出した。

隣りでは遭遇したのが一体何組目だかわからない若いカップルがとろとろと立ち止まる私の横を通り過ぎる。

俺「……行ってみるかなぁ」

ちょうど腹を空かせていた私は、またあの素晴らしく美味しい料理の味を思い出し、またあの味を口にしたいと思い、足を運ぶことにしたのであった。

繁華街の一角にある寂しく暗い路地の奥にひっそりと佇む料理屋。

『千味望料』へと。




32: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 21:03:47.82 ID:Ga3UGIlR0.net

カランコロン。

以前にも聞いたことのあるベルが鳴り、扉を開くと店内は真っ暗だった。

俺「うわ……暗っ」

店主「いらっしゃいませ……ああ! お客さん!」

前に入った時のあの暖かみのある光は消えていて、モダンな雰囲気の店内は全く確認出来なかった。

俺「……どうも……ってなんですかこの暗いのは。停電ですか?」

たった二回目の来店だということを忘れ、人のいい店主に焦りながら尋ねる。

次には馴れ馴れしいなとも思い反省しようとするが、どうやら店主は私の顔を覚えてくれていたようで前と変わらない優しい口調で答えた。

店主「いえいえ、停電ではないんですよ。せっかくなんで店内の明かりを消してみようかなと」

せっかくなんで? 何がせっかくなのかは言ってくれなかったが、サキュバスの件を考えれば、

この人は重要な事を予め伝えない性分の人だということはわかっていたのであまり気にせず暗い店内へ入ることにした。

店主「驚かせてしまってすみません」

俺「いやあそりゃあ……看板は立ってたのに店が真っ暗でやってないのかと思っちゃいましたよ」

店主「ははは、何ぶんいい加減な店主でしたもんで」

微かな光に映る店主の顔は、それだけでも申し訳無さそうな顔で笑っているのがわかった。




35: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 21:18:55.54 ID:Ga3UGIlR0.net

俺「さっきまで繁華街を意味も無くぶらぶら歩いてたんですよ」

変わらず真っ暗な店内で、私はカウンターに座りながら店主のいるであろう暗闇の方向へ語りかけた。

俺「そうしたら、どこもかしこも店の中から聞こえるクリスマスソングで溢れてて」

店主「あはは、こことは違って随分と賑やかでしょう繁華街の方は」

俺「あ、いやすみません。別にそういうわけじゃ……」

店主「冗談ですよ。お客さんも気にしいですねえ」

俺「あ、あはははは……」

冗談なのかどうかはさておき、すっかり冗談を言える相手だと思われたらしい。

しかし話し相手のいない私にとってはなかなか嬉しいことであった。

店主「クリスマスソングですかぁ〜。ではまたちょうどいいものが手に入りましたよ」

カウンターの向こうの暗闇から店主が嬉しそうに言ってくる。

俺「へえ、またサキュバスの子宮煮込みみたいなのを食べさせてくれるんですか?」

店主「そうですねえ、肉料理なんてどうです? 好きですか?」

俺「そりゃあもう、焼き肉もハンバーグも大好きですよ」

それは良かった、では今日はステーキをお出しします。肉料理という響きに心躍らせ答える私に、店主も嬉しそうに応えた。




37: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 21:31:53.42 ID:Ga3UGIlR0.net

当然だが料理をしている厨房は電気をつけ明るくなっていた。

私が座っているカウンターの所は、というよりも厨房以外は変わらず暗いのでその明かりがとても眩しい。

奥からジュージューと肉を焼く音が聞こえる。今にも唾液が溢れそうになる心地の良い音だ。

するとたちまち肉の焼ける良い香りが店内を満たし、期待に胸を躍らせて私は唾を飲み込んだ。

店主「肉ってのは熟成させたら旨味を増して、また違った味わいになるんですよ」

明るい厨房の奥で、店主の声だけが聞こえてくる。

俺「腐りかけが一番美味しいってよく言われてますもんね」

肉を焼く音に耳を傾けていた私はあまり知らない知識を適当に言う。

店主「本当に腐りかけさせたらダメですけどね、熟成です、熟成」

店内に広がる肉の匂いを思う存分鼻腔で味わい、より一層これから出てくる料理に期待が膨らむ。

今日はどんな料理が出てくるのだろうか。

店主「お待たせしました、こちらがステーキになります」

パチッ。厨房の明かりを消す店主。

俺「……え? まさか俺この真っ暗の中で食べるんですか? いや、まあ闇鍋とかはありますけど……ってええ!?」

完全な暗闇の中、店主が料理を持って厨房からこちらに来るのがわかった。見えたのだ、暗いのに。なぜならステーキが赤く爛々と輝いていたのだから。




41: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 21:42:25.08 ID:Ga3UGIlR0.net

店主「驚きましたか? 凄いでしょ」

赤く輝くステーキの光に映り浮かび上がる店主の顔はニコニコと得意気に笑っていた。

暗闇の中、懐中電灯で照らされた顔を見るような不気味さがあったがそれ以上に摩訶不思議なステーキ驚かされた。

俺「な、なんですかこれ? 中に電灯でも入れてあるんですか?」

店主「いえいえ、この肉自体が光っているんですよ。私は何も細工などしていません」

サキュバスの子宮なんぞを食わされた私は、ちょっとやそっとのことでは驚かないぞと息まきながら来たわけだが、

ダメであった。驚いてしまった。

店主「トナカイのステーキですよ」

俺「へ? トナ……カイ……」

店主の口から出た食材名は思いの外普通の物で、またしてもその意外と平凡な食材に驚いてしまった。

店主「クリスマスソングでもよく歌われているあの……」

真っ赤なお鼻の〜トナカイさんは〜♪

唐突に、先程繁華街をうろついている時に耳に入って来たクリスマスソングが私の脳裏をよぎった。




43: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 21:56:23.08 ID:Ga3UGIlR0.net

俺「……」

コトッ、とカウンターに静かに置かれた輝くステーキはじゅうじゅうと鉄板の熱で良い音を奏でている。

俺「真っ赤な……ってえ? じゃあこれ、鼻のステーキってことですか?」

店主「さすがに鼻は食べられませんねえ……食べられたとしても私にゃあ鼻を美味しく料理する腕がありません」

輝くステーキに照らされる店主は恥ずかしそうに頭を掻いた。

ステーキを囲む私と店主の一帯だけ、とても暖かくどこかほっとする安心感のある光に包まれていた。

俺「……でも、じゃあこれは、鼻の肉じゃないってことですか?」

そう言って再びステーキを見て、確かに違う何かだと察する。

ステーキ自体は小ぶりで、丸みのある肉の塊を焼きやすいように平たく切り揃えたような形であった。

そのどこからも鼻と判断出来るような形状はなく、本当に小さな肉の塊であった。

店主「空飛ぶトナカイの肉腫です。その上鼻にできた赤く輝く貴重な肉腫」

いろいろと頭を捻らなければならない言葉が飛んで来た気がするが、一先ず私はそのうちの一つを聞き返すことにした。

俺「……肉腫? ってええぇ……」

店主「安心してください。悪いものではありませんから」

輝くステーキの向こう側で店主がにっこりほほ笑んだ。




46: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 22:08:26.45 ID:Ga3UGIlR0.net

俺「……」

未だにじゅうじゅうと音を立てて輝き続けるステーキ。

熱せられた肉汁がパチパチと跳ねる。

肉の焼ける芳ばしい香りが鼻をくすぐり、たまらず私はナイフとフォークを手に持った。

俺「……うわあ」

ナイフはスッと静かにステーキへ入り込み、コツンと下の鉄板にぶつかった。全く力を入れてなかったのにも関わらず。

それだけでこのステーキがとても柔らかい肉質だとわかり、私は食べるまでもなくその柔らかさに感動した。

ゴクリ、と唾を飲み込む。

俺「い、いただきます!」

そして無我夢中に切り取ったステーキの一部を口へ頬張った。

味わい深い肉の脂が口を満たし、とろけるような旨味が流れ込んでくる。

相当柔らかいと思っていたのだが、しかししっかりと肉の繊維を歯に感じ、

ゆっくりと味わいながら噛んでいると、その繊維が細かくほどけそこからまた旨味が溢れ出てくるのがわかった。

店主「何せ空飛ぶトナカイですからね。遥か上空の大気に冷やされ熟成を重ねた肉の旨味は他の肉では味わえない深みでしょう」

申し訳無いと思いながらも店主の言葉を聞き流し、トナカイだろうが肉腫だろうがそんなのは無視して、私はただただこの輝くステーキに齧り付いた。




49: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 22:24:53.44 ID:Ga3UGIlR0.net

俺「ご馳走様でした」

美味しいステーキを堪能した私は満たされた腹と心を抱えお会計を済ませた。

店主「ありがとうございました」

俺「でも……よくもまあ真っ赤なお鼻のトナカイさんの鼻、じゃなくてそこに付いてる肉なんて手に入りましたね」

店主「知り合いが送ってきてくれたんですよ。肉腫はほっておくといけないということで定期的に切除しているらしくて」

俺「へえ……でもこの時期は切り取っちゃったら……」

自分でもなんというファンタジー染みた会話を当たり前のようにしているのかわけがわからくなるが、気にせず会話を続けた。

店主「もう働くには体力の衰えてしまったトナカイだったそうで、じゃあ切除した肉は私が買い取りますと頼んでおいたんです」

俺「ああ、なるほど……」

なんともまあ……非現実的な夢のような会話だが、私は納得してしまった。

俺「では、また」

店主「はい、いつでも気が向いた時にいらして下さい」

そして私は、料理屋『千味望料』を後にした。

繁華街の方からは相変わらずクリスマスソングが流れているのが微かに聞こえてくる。

店主の知り合いというのが誰なのかは計り知ることが出来ないが、真っ赤なお鼻のトナカイを飼っている人は容易に想像出来た。




50: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 22:26:27.79 ID:TFlOlSB2p.net

サキュバスを飼ってる人は……




51: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 22:28:08.87 ID:5Ho08ZM30.net

>>50
魔王様とかじゃないすかね(白目)




56: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 22:37:01.39 ID:IwCZuD0L0.net

食欲がわきそうな文なのに食欲がわかない




57: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 22:44:44.28 ID:Ga3UGIlR0.net

俺「……はあ、疲れた。けど一段落ついたなあ」

狭い部屋だが本格的に掃除をするとなると半日もかかってしまった。

大晦日のこの日、私は溜まりに溜まった一年分の汚れを一気に取り払ったのだ。

俺「……ってもう新年じゃないか」

気付いたら時計は0時を周り1月1日になっていた。

俺「結局今年の元日も一日寝て過ごすことになるのか」

大掃除により疲弊した体を布団に沈ませると、眠気よりも先に空腹が私を襲った。

そういえば掃除をしている間何も食べていなかったな。

一度気にしてしまうと、空腹というものはどうしようもなく頭から離れなくなってくる。

お腹が空いた。仕方ない。

体は疲れ切ってはいるが空腹には勝てず、私は新年初の食事を求め外へ出る事にした。




58: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 22:52:11.45 ID:Ga3UGIlR0.net

カランコロン。聞きなれたベルの音が鳴る。

俺「……え、まさか」

随分と勝手なことだが、まさか新年早々しかもこんな夜中に店が開いているはずがないと思いつつも、

扉に手をかけたらすんなりと開いてしまったことに私は驚く。

店主「いらっしゃいませ。明けましておめでとうございます」

俺「あ、お、おめでとうございます」

いつもと変わらず出迎えてくれる店主にまた驚く。

店主「? どうかなさったんですか?」

俺「いやあ、まさかこんな時も開いてるとは思わなくて……」

店主「ははは、そうですねえ。私も普通ならこんな日に店なんて開けないんですけどね」

やっていないと思いつつも店の扉を開いた私と、客なんか来ないと思いつつも店を開けていた店主。

どうやら考えることは同じだったようだ。




60: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 23:04:57.99 ID:Ga3UGIlR0.net

店主「お客さん、新年ですよ新年。いやあ目出度いですね」

俺「はあ、そうですねえ」

一人暮らしを始めてからというもの、日に日に一年の行事からは縁遠くなり、

クリスマスに始まりお盆はおろか正月さえも外の世界の出来事のように意識しなくなっていた私は、

毎年大掃除をしては初詣にも行かず部屋で独りいつも通り寝て過ごす正月であったので空返事をするしかなかった。

店主「どうしたんですか? 正月なのに元気がないですね」

俺「正月だから元気になるってことがないんですよ。別に、ああ、新年か……くらいにしか感じれなくて」

店主「そんな、珍しいですねえ。正月を祝わない人なんて、凄く珍しい」

純粋に驚いている店主。店主にとって私はサキュバスや空飛ぶトナカイよりも珍しいようであった。

店主「ということは初詣なんかにも行かれないんですか?」

俺「そりゃまあ、基本的に出不精ですし部屋の掃除をしたら疲れてあとは寝て過ごすだけなんで」

ダメ人間の生活を恥ずかしげもなく言えてしまう自分に呆れる。

店主「ダメじゃないですか、大掃除でせっかく一年分の汚れを落としてるんですから初詣で魔もしっかり祓っとかないと」

初詣に行きたくないわけではないのだが、そこまで行く手間と部屋の布団の中の暖かさを比べてしまうとどうしても部屋に籠ってしまう。

店主「じゃあそうですねえ……それならもういっそのこと、ここで魔除けでもしましょうか」




63: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 23:14:42.03 ID:Ga3UGIlR0.net

俺「魔除け? なんですか、店主さん神主かなんかなんですか?」

店主の言葉が引っかかる。

店主「いえいえ、私はただの料理人ですからね。料理を作ってお客さんに食べて貰うことしか出来ませんよ」

俺「その料理を食べて魔除けをするってことですか」

店主「そういうことですね」

なるほどな、今度は一体どんな珍妙な料理が出てくるのだろうか。

空腹も相まって私はこの何が出てくるかわからないスリルに胸が高鳴った。

味のほうは今まで訪れた二度の食事で存分に思い知らされたのでさらに期待が出来る。

店主「お客さんは年越し蕎麦はもう食べましたか?」

俺「あ、いやぁ……それが、大晦日はほとんど掃除に時間を使っちゃって」

店主「そうですか、では……まだ0時を周ってすぐですし大目に見て貰うということで……」

店主が厨房へ入り、程なくして運んで来たのは黒い丼に盛られた普通の蕎麦だった。




67: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 23:25:10.41 ID:Ga3UGIlR0.net

俺「……蕎麦ですか?」

店主「はい。蕎麦を食べずに年は越せませんからね」

俺「へぁ……」

それにしても一年の行事を重んじる店主だなと思い、

これまで食べた奇天烈な料理に比べいたってまともな目の前の蕎麦を見て呆気にとられてしまう。

店主「なんですかその気のない返事は」

あっはっはと明るく笑う店主。

俺「そりゃそうですよ今までサキュバスの子宮の丸煮込みやら光るステーキなんて出てきたんですもん」

蕎麦は刻んだネギとよく染みた油揚げが乗ってあるだけのシンプルなものだった。

俺「こんな普通の料理が出てくるとは思いませんでしたよ」

店主「そりゃあ蕎麦ですからね、それ以上でもそれ以下でもないですよ」

俺「まあ……でも、いただきます」

この店主のことだ味は保証付きだろう、と割り箸を手にし透き通る茶色い汁の中から蕎麦を持ち上げズルズルと啜った。

俺「……おお」

案の定、とても美味しい普通の蕎麦だった。




71: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 23:37:53.07 ID:Ga3UGIlR0.net

店内には私が蕎麦を啜る音だけが響く。

蕎麦の芳醇な香りもさることながら、とにかく汁が美味しい。

温かな汁は味わい深く口を潤し、喉を伝って空腹に冷え切っていた胃を優しく温めてくれた。

美味しい。それと同時にほっとする。なんと言えばいいのか、ふかふかの布団に包まれたような幸せを感じた。

俺「……はあ、美味い」

店主「改めて、明けましておめでとうございます」

俺「え、ああ。おめでとうございます」

にこりと笑う店主に釣られ、私も顔が綻んだ。

店主「良い顔ですねえ。やっぱり新年は明るく迎えないと」

俺「この蕎麦が美味しいんですよ。なんか、この素朴な味に凄く安心出来て……良いですね」

あっという間に食べ終えてしまった。店内の時計を見ると0時半を少し過ぎていた。

まあ、30分程の遅れなら年越し蕎麦も許してくれるだろう。なぜだか私はそんな呑気な気分にさせられていた。

店主「それでは蕎麦には似つかわしいかもしれませんが、食後のデザートを召し上がって下さい」

そして店主がカウンターに置いたのは、ガラスのコップに注がれた赤い液体だった。

店主「何でも喰らい魔すらも食べてしまう魔除けの象徴、饕餮の血液です」




73: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/22(月) 23:53:04.86 ID:Ga3UGIlR0.net

ガタッ!

私は思わず立ち上がりカウンターから二、三歩後ずさる。

俺「血……え、血ィ!?」

さすがにそれは予想だにしていなかった。

てっきりデザートと言うものだから、勝手に私はケーキやパフェといった見るからに甘くて美味しそうなスイーツを連想していた。

しかし、カウンターに置かれたそれは……とう、てつ? 聞き慣れない生物の血液と言うではないか。

血液……血、ヘモグロビン、なんか鉄分。

中学高校で申し訳程度に学んだ拙い生物の知識が必死で頭の中を駆け巡り、不安はより明確になる。

俺「血って、大丈夫なんですか?」

店主「はい、スッポンの血もよく飲まれますしねえ。別になんの心配もありませんよ」

いつも通りのにこやかな店主に今さら動物の血液程度で慌てふためく自分が阿呆のように思えてきた。

そうだった、そういえば前から変な物食わされてるんだった。

店主「饕餮という魔獣の血液はこれが驚くことに甘いんですよ。一度飲んだら病みつきになりますよ」

俺「はあ……じゃあ、いただきます」

観念した私は、ガラスのコップに注がれたさらさらとした赤い液体を一気に口へと流し込んだ。




75: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/23(火) 00:06:16.06 ID:YAlXwtOE0.net

するとどうだろう。

なんとも上品で口当たりの良いなめらかな甘みが口の中を満たすではないか。

さらりとした赤い液体は口の中に居座ることなくするっと胃へと落ちていく。

俺「血なのに、なんか凄い柔らかいですね」

後にはまろやかな甘味の残響が口を震わせるだけで、それすらも名残惜しく感じてしまうような儚い味だった。

店主「寒いですからね、ぬるめに温めておきましたよ」

先程食べた蕎麦に感じたほっとする気分も良かったが、このとうてつ?とやらのぬるい血液もとても心安らぐ味だった。

店主「魔を食べる魔獣の血ですからね。それが体を満たせば当分外の魔が入り込む余地なんてありませんよ」

なるほど。予め体に魔を詰め込んでおけばもう魔が溜まることもない、と。

だから魔除けなのか。……は?

俺「……え、っと店主さんそれって」

店主「毒をもって毒を制す、ですよ」

店主はにこやかに笑った。

俺「……」

この甘美な味に思わず私は残りのとうてつの血を飲み干してしまった。




76: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/23(火) 00:19:36.81 ID:YAlXwtOE0.net

俺「店主さん、もしかしてですけどこの蕎麦に使ってる出汁も」

店主「おお、気付かれましたか? なかなかどうして鼻の効く人だ」

俺「やっぱりそうなんですね」

店主「ええ、饕餮の骨を煮込んで出汁を作ったんですよ」

蕎麦を食べている時に感じたあの安心する香りが、血液を飲んだ時にも感じられたのだ。

俺「今日はとうてつづくしだったんですね」

店主「新年ですからね。目出度い料理ということで」

すっかり満たされた気分になった私は会計を済ませ、店の扉を開けた。

俺「そういえば、店主さんは初詣行くんですか?」

店主「ええ、そりゃ勿論。この日しか取れない食材がありましてね」

仕事熱心な人だなあと思いながら、私は夜中の繁華街へ足を踏み出した。

店主「では、よいお年を」

俺「はい、よいお年を」

こうして新年を祝いながら食べる料理も良いもんだなあ。

私はそう思いながら、『千味望料』を後にした。




77: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/12/23(火) 00:22:26.56 ID:YAlXwtOE0.net

こんな時間まで読んでくれた人申し訳ないもう終わりにするわ
俺だって出来る事ならもっと文章力欲しいわちくしょう

おやすみなさい





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