1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/02/28(金) 00:05:43.70 ID:FBy2SPn60

むかしむかしあるところにとても正直なきこりがおったそうなー。

そのきこりはたいそう働き者で、今日も朝から木を切り木を切り、汗を流しておったそうなー。

きこり「たーおれーるぞー!」バキバキバキ

きこり「いやー誰もいないけどこれを言わないときこりやってる気がしねえからな」

きこり「あー疲れた、ったくきこりも楽じゃねえよどっかから金湧いてこねえかなあ」

きこり「よーし今日はこの一本で終わりだ。そーれラッセーラー!」バキッ

きこり「あっ」スルン

斧「」ボチャン

きこり「」

きこりの手から滑った斧は美しい流線型のアーチを描き、吸い込まれるように近くの泉へと落ちていったそうなー。

きこり「おいおいヤベーよ洒落になんねえよどうすんだよ俺の商売道具」






 
 
3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/02/28(金) 00:14:06.07 ID:1lLfKV5T0

きこりが慌てふためいていると、泉が突然輝きだしたそうなー。

女神「私は泉の女神です。人間、あなたに問います――あなたが落としたのは、この金の斧ですか?」ピカー

きこり「」

女神「――あなたが落としたのはこの純金製の金の斧ですか?」ピッカピッカ

きこり「」

女神「ちょっと! 聞いてます!?」ピッピカッチュー

きこり「あ、ああ聞いてる、聞いてるよ。最近の経済についてだろ?」

女神「聞いてないじゃないですか! もう一度しか言いませんからちゃんと聞いてくださいよ!」

女神「――あなたが落としたのはこの金の」

きこり「それエコーかける必要あんの?」

女神「最後まで聞いてェ! それにこのエコーは様式美です!」





6: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 00:20:13.38 ID:1lLfKV5T0

きこり「へえ。で」

女神「はい?」

きこり「その金の斧くれるの!?」

女神「突然の強欲発言!? 物語通りだったら私もう帰ってますよ!?」

きこり「物語?」

女神「あ、いえそれはこちらの話です。もう、そこは正直に『違います』でしょうに」

きこり「へえ、正直に言えばくれるんだ」

女神「ああっ! それは言っちゃいけなかったのに! 私のバカ!!」

きこり「げっへっへ」

女神「はあ、せっかく正直そうな人間だと思ったのに……不運です」

きこり「まあ俺は(自分の欲望に)正直なきこりだしな」

女神「その注釈は欲しくなかったです……」





7: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 00:25:00.23 ID:1lLfKV5T0

女神「さ、もう金の斧あげますからさっさと終わらせてくださいよ。あーあ上司に怒られます」

きこり「女神がヤケクソになるなよ……ところでさ」

女神「なんですか私は早く帰りたいんですけど」

きこり「ここで金の斧もらって、また斧を投げ入れたら出てきてくれる?」

女神「そんな都合のいい話があるわけないでしょうがァァ!!」

きこり「あー、そっか。……じゃあその金の斧俺の」

女神「はあ!? 私の話聞いてました!?」

きこり「ああ、聞いてたよ」

女神「じゃあなんでですか!? ……もうっ、知りません! さようなら!!」ポチャン

きこり「…………」





10: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 00:27:44.31 ID:1lLfKV5T0

――次の日


バッシャーン

女神「――あなたが落としたのはこの金の斧ですか?」ペカー

きこり「おっす」

女神「あー! あなたは昨日の人間さん! さては純金が惜しくなったんですね!」

きこり「まあそんなとこだわ。あと俺は人間さんじゃなくてきこりっていう名前があるんだが」

女神「やっぱり低俗な人間は金と神の力の前では無力なんですね!」

きこり「お前そんなキャラだったっけ。つか人の話聞け」

女神「一度お会いした仲じゃないですか。さあ、早く魔法の言葉を! そして跪いて女神様とお呼び!」

きこり「やめなさい」





11: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 00:30:48.75 ID:1lLfKV5T0

きこり「そんなことよりさ、お前ずっと泉にいんの?」

女神「へ?」

きこり「いや、その、退屈じゃないのかな、って思ってさ」

女神「うーん、私はこの泉の女神というよりもこの森そのものみたいなものなんですよ」

女神「だから特に退屈は……というか私女神ですしそもそも退屈も何もないです」

きこり「……そっか、どうりで」ボソッ

女神「はい?」

きこり「いや、なんでもない」

女神「確かに人間の遊びに興味がないわけではないですが、ここから動けないものでして」

きこり「ふーん、じゃあこれやるよ」

女神「? なんですかこれは」





12: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 00:33:12.34 ID:1lLfKV5T0

きこり「これはディルドーといって大人のおもち――」

女神「わわわっ、女神になんて物を持たせるんですかっ!」カァァッ///

きこり「ほほう? 俺はまだ用途は言ってないぞ、どうして顔を赤らめてるんだ? ん?」ニヤリ

女神「ち、違いますっ、これは///」

きこり「この淫乱女神め!」ニヤニヤリ

女神「い、淫乱じゃありません! まだ処女です!」

きこり「ほほう?」ニヤニヤニヤ

女神「ッ/// もう、これだから人間は! 変態! 嫌いです!」

きこり「ゲュッヘッヘ」

女神「ううう……」

きこり「冗談だよ冗談。それはけん玉っつーんだ」





13: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 00:36:03.67 ID:1lLfKV5T0

女神「けん玉、ですか? その、で、ディルドーじゃなくて?」シュン

きこり「なんでちょっと残念そうなんだよ。まあ、おもちゃってことには変わりないけどな。こうやって、玉を回したり乗っけたりしてして遊ぶんだ」

女神「玉を回す……///」

きこり「お前想像以上に卑猥だな」

女神「違います! 今のは人間さんの言い方が悪いです!」

きこり「のーのー、あいむのっと人間さん、まいねーむいずきこりさん。おーけー? すぴーくあふたーみーきこりさん」

女神「え、あ、はい。とにかく! 今のはきこりさんに非がありますからね!」

きこり「はいはい」

きこり「まあ暇つぶしくらいになるかなと思ったんだけど、退屈じゃないならいらないか」

女神「い、いえせっかくだからもらってあげます!」

きこり「それが人に頼む態度かな?」

女神「くっ、人間の癖に足元を見てきますね」

きこり「いらないなら持って帰って――」

女神「く、ください!」

きこり「しかたねえな、はい」(堕ちたな)





14: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 00:38:59.13 ID:1lLfKV5T0

女神「えへへ」

きこり「そんなに嬉しいか?」

女神「はい」

きこり「そんなん今時子どもでも喜ばねえぞ」

女神「それでもいいんです。私、人間から物をもらうのははじめてなので」

きこり「……そうか。これは俺がここの木を削りだして作ったやつだから綺麗なものじゃないけどな」

女神「いえいえとても綺麗に仕上がってますよ! ここの紐の編み方とか! きこりさんは器用なんですね!」

きこり「そこは既製品くっつけただけなんだけど」

女神「」

きこり「おいこっちを見ろこっちを」





16: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 00:41:29.36 ID:1lLfKV5T0

女神「そ、それでは特別サービスできこりさんにもう一度チャンスをあげましょう!」

きこり「話をそらすんじゃねえ。……まったく」

女神「こほん――あなたが落としたのはこの金の斧ですか?」ピカー

きこり「うん」

女神「ちょーっ! せっかくいい流れでしたのに!」

きこり「じゃあの」

女神「ぐぬぬ……」ブクブク





19: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 00:43:30.85 ID:1lLfKV5T0

――そのまた次の日


ドバッシャーン

女神「……あなたが落としたのはこの金の斧ですか?」

きこり「おい様式美はどうした」

女神「エコーはもういいです」クルッコンッ

きこり「そうか」

女神「ええ」カンッコンッ

きこり「ていうかけん玉しながら現れる女神ってなんなんだよ……」

女神「もうこの状況に慣れましたからね。ほっ」カンッ

きこり「おっ世界一周」

女神「楽しくてずっとやってましたから、すごい上達しましたよ。見ててください、それっ」ヒョイッカッ

女神「自由の女神!」ドヤッ

きこり「お前それやりたかっただけだろ」

女神「うふふ」





20: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 00:46:29.35 ID:1lLfKV5T0

きこり「今日はな、弁当を持ってきたんだ」

女神「あっ察しのいい私にはわかりましたよ! 一緒に食べようということですね? しかし私は女神なので下賎な人間の食べ物なんて口にしません! 残念でしたね! どうしてもというなら――」

きこり「いや、あげないよ?」

女神「えっ」

きこり「食ってるところを見せ付けてやろうと思って」

女神「えっえっ」

きこり「あぁ〜うめえ〜超うめぇ〜」モグモグ

女神「ううう〜」グギュルルル

きこり「なんつーステレオタイプな反応だよ。あげたいのはやまやまだけど高貴な女神様は卑しい人間の食べ物なんて口にしないって言ってたからなー」ニヤニヤ

女神「ぬぬぬう〜」涎ジュルルル

きこり「どうしてもっていうなら、ちゃんとさっきの発言取り消して頭下げてお願いすれば考えないこともないかもなあ〜」ニヤニヤ

女神「くらしゃい! はしたない女神に人間しゃんのその浅黒くて太いのちょうらいいいいい!」





21: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 00:49:00.56 ID:1lLfKV5T0

きこり「だれがそこまでやれといった」

女神「はやくうううううくらはいいいいいい」

きこり「わかった、やるから。やるからもうそれやめろ俺が恥ずかしい」

きこり「まったく、パン一つでいやしんぼな女神もいたもんだ、ほれこっちこい」

女神「し、仕方ないですね! 私と食事をとれること、光栄に思いなさい!」

きこり「そろそろキャラを固定したほうがいいぞ。あとボケ役にこれ以上ツッコませるな」

女神「はぁい」

きこり「はいこれ」

女神「はえ? これだけですか?」

きこり「うるせえ、女神が貧しいきこりにたかるな」

女神「すみません……」

きこり「見た目と量は乏しいけど味は保障するぜ」

女神「どれどれ……? !! おいしいです!」モッキュモッキュ





22: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 00:51:47.10 ID:1lLfKV5T0

きこり「なんせここの森で採れたくるみを使ったくるみパンだからな」

女神「へえ、ここってこんなのも採れるんですねぇ」モッシャモッシャ

きこり「お前自分でこの森の化身だって言ってなかったっけ?」

女神「そんなこといっても森全体を把握しているわけじゃないですから」ムグムグ

きこり「そんなもんかね。まあくるみに限らずこの森ではいろんなものが採れる。栗とか山菜とか、たまに兎も狩るな。水も美味い。俺の体の半分はこの森でできているといっても過言ではない」

女神「きこりさんは本当にこの森が好きなんですねえ」ゴクン

きこり「まあ、な。小さい頃から走り回ってるからここが一番落ち着くんだよ。都会にでも出稼ぎに行けばもっと楽に生きていけると思うんだけど、どうもここから離れられなくてな」

女神「森が幼馴染、ですか」

きこり「ああ、ここだから儲からないきこりも頑張ってやれる。そんな気がするんだ。俺にとってここは、一番大事な場所だよ」

女神「ふぅん」

きこり「……そういう話聞いて女神的にはなんか感慨深いものとかないわけ?」

女神「女神的には特に。そりゃうれしいっちゃうれしいですけど」

きこり「はあ」

女神「? どうかしましたか?」クビカシゲ

きこり「いや……なんでもない」





24: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 00:54:14.30 ID:1lLfKV5T0

女神「あっ、もしかして私がパン食べちゃったから足りなかったんですか?」

きこり「違えよ……もともとパンは二人前用意してたし……」

女神「はい?」

きこり「ああもう! 食ったらさっさと帰れ!」

女神「自分で呼び出しておいて勝手ですねえ、まったく」

女神「無駄だとは思いますけど一応お仕事なので聞いておきますよ? あなたが落としたのはこの金の斧ですか?」

きこり「イエス! イッツマイン!!」

女神「もー……」ブクブク





26: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 00:56:31.30 ID:1lLfKV5T0

――そのまたまた次の日


ジャッパーン

女神(また斧ですか)

女神(泉の底には斧がたまっていく一方。一体きこりさんはなにがしたいのでしょうね……)

女神(ここはひとつガツンと女神の威厳を示してやりますか)

女神「またですか! あなたはこの泉の水をミネラルたっぷりの硬水にする気ですか!?」ドッパッシャーン

きこり2「ひえーっ! な、なんか出たー!?」

女神「えっ」

きこり2「食べないでーっ! 命だけはーっ!」

女神「人違いでしたか。それにしてもこの界隈の樵さんたちは女神をなんだと思ってるんですかね。こんなプリチーな神様捕まえといて化け物扱いってどうなんですか」

きこり2「自分でプリチーとか言うのってどうかと思いまーす! ぎえーっ!」

女神「ツッコむとこはツッコむんですね……安心してください、私はあなたを殺しもしないですし食べもしないです。おなか壊しそうですから」

きこり2「は、はあそうかい……助かったよ」ホッ





27: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 00:58:36.43 ID:1lLfKV5T0

女神「あのーところでいつもここで木を切ってる頭の悪そうなきこりさんは……?」

きこり2「あん? ああ、あいつか。あいつならなんだか体調を崩したらしくてしばらくは療養するそうだ」

女神「ほ、本当ですか?」

きこり2「おうよ、まあ軽い栄養失調らしいから見舞いの食いもん食って寝てればすぐ良くなるだろ」

女神「そ、そうですか」(なんだか急に慣れなれしくなりましたね。樵さんってみんなこんなに態度が大きいのでしょうか)

きこり2「樵なんて実入りが少ねえ稼業だからなあ、ろくなもん食ってなかったんだろ。あー俺も都会に出てがっぽがっぽ荒稼ぎしてみたいぜー」

女神「はあ」

きこり2「ところであんた、泉から出てきたけどナニモンなんだ? 新手の痴女か?」

女神「痴女とは失礼な! なにを隠そうこの私は泉の女神なんですよ!」エッヘン

きこり2「ない胸張るんじゃねえ」

女神「やっぱり樵なんていう人種は嫌いです! 滅んでしまえばいいんです!!」ポチャン

きこり2「あ……」





28: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 01:00:41.73 ID:1lLfKV5T0

――泉の中

女神(そっか……きこりさんは栄養失調……)

女神(やっぱり私がパンを食べてしまったのがいけなかったのでしょうか?)

女神「ううむ……」

女神(きこりさん、しばらく来られないのでしょうか……)

女神(……いつ振りでしょうか、この居慣れた水底を退屈に感じるのは)

女神(なんだかんだ楽しかったといえば楽しかったわけですし……)

女神「いやいやいや。私は女神です、人間のことなんて知りません!」ブンブン

女神(……でもちょっとだけ、本当にちょっとだけ寂しいかも……なんて)

女神「…………」

女神「あと、何かを忘れている気がします……」モヤモヤ





29: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 01:02:42.30 ID:1lLfKV5T0

――地上

きこり2「俺の斧……」





30: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 01:05:14.24 ID:1lLfKV5T0

――数日後


ホーラワッショーイドバーン

女神「…………」カオハンブンダケ

きこり「めんごめんご手が滑ったわ☆」

女神「……復活したんですね」ゴポゴポ

きこり「ん、まあな。それよりどうしたんだ今日はえらく地味な登場じゃねえか。
    いつもなら後光ギンギラに輝かせて『だんだん雑になってますよ!! わざとですよね!? 絶対わざと投げ入れてますよね!?』とか激しいツッコミ入れるとこなのに。ははあ、もしかして俺が恋しかった? 女神ちゃん寂しかったの?」

女神「そんなわけねーですよ。それより、栄養失調だったそうじゃないですか」

きこり「ああ、きこり2に聞いたのか。あんなもんたいしたことねーよ」

女神「ダメです! ちゃんと食べないと……これ少しでも足しにしてください」

きこり「え、なにこれ」

女神「泉に棲息する小魚です。頑張って集めたので食べてください」

きこり「いや……こんなちっこいの二匹だけもらっても……」

女神「むむう……」





31: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 01:07:26.11 ID:1lLfKV5T0

きこり「なあもしかしてお前さ、こないだのパンのことまだ気にしてんの?」

女神「そんなことないですぅ……」

きこり「わっかりやすいなお前……あれはちゃんと女神の分も含めて持ってきてたから大丈夫だって」

女神「そう、ですか」

きこり「おう」

女神「……本当にもう体は大丈夫なんですか?」

きこり「元気元気のんたんよ」

女神「じゃあ私は悪くないんですね! やった!!」

きこり「立ち直りが早くてうらやましいよ」





32: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 01:10:04.54 ID:1lLfKV5T0

きこり「それはそうときこり2に聞いたぞ。『頭の悪そうなきこり』ってどういう了見だ?」

女神「ぎくっ」

きこり「女神のくせに陰口を叩くとは……まあそれは許してやろう」

女神「ほっ」

きこり「なあ? 貧 乳 女 神 さ ん ?」ニヤニヤ

女神「」ブチッ

女神「」ズパッズウウウン

きこり「」

女神のノーモーションからの金の斧の一振りは、大木を一撃で切り倒したそうなー。

女神「斧の錆になりたくなければそこになおりなさい」

きこり「はい」

女神「いいですか? たとえ女神といえども触れてはいけない部分というものがあるのです」

きこり「はい」

女神「だいたいあなたは――」





33: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 01:12:11.44 ID:1lLfKV5T0

――小一時間後

きこり「でも貧乳はステータスだと思うぜ」

女神「叩き斬りますよ? 金の斧真っ紅に染めますよ?」

女神「もういいです……反省の色は見えないし、だんだんこっちが惨めになってきます」

きこり「やっと開放されるーはー疲れたー」

女神「それはこちらのセリフです! まったく、心配して損しましたよ!」

きこり「でも、女神も俺のこと心配してくれてたんだな」なでなで

女神「私は慈しみ深く美しい女神ですからね!」ムフン

きこり「ない胸を――」ズゴン

女神「女神の顔も三度までですよ?」ニッコリ

きこり「ウィッス」

女神「今回はこのくるみパンで勘弁してあげます」

きこり「あの俺この前まで栄養失調――あ、もう食ってる……」

女神「やっぱりくるみパンは絶品ですね」モッチャモッチャ





34: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 01:14:36.54 ID:1lLfKV5T0

きこり「なんかお前丸くなったよな……」

女神「!!??」ゴフォ

きこり「あ、いや体型じゃなくて」

女神「ほっ」

きこり「ほら、ちょっと前まで人間を嫌ってた? っていうか、見下してたっていうか。『下賎な人間の食べ物なんて口にしません!』とか言ってたし。まあ結局食ってたけど」

女神「ああ、それはですね。別に私は人間に恨みを持っているとか、そういうわけではないんです」

女神「私がここから動けないという話、前にしましたよね?」

きこり「おう」





36: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 01:20:20.46 ID:1lLfKV5T0

女神「なので私が取ることのできる行動、得ることのできる知識は限られていたんです。
   娯楽も何も、やり方すら知りえない中で私の無聊を慰め、相手をしてくれるのはせいぜい物言わぬ植物や動物たちくらいだったんですよ」

女神「人間とも、森を通じて一方的に観察することはできても、『斧を泉に落とす』なんていう奇天烈な条件を満たさない限り、存在にすら気づかれない」

女神「退屈や窮屈さは時が経つごとに慣れていったので問題なかったのですが」





37: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 01:22:37.53 ID:1lLfKV5T0

女神「でも、人間たちが気だるそうに森に入り、夢中で仕事をこなし、そして、楽しそうに帰っていく姿を見るたびにえも言えない感情に襲われました」

女神「ああ、この人たちには、森の外に私の知らないような幸せがあるのでしょうね、と」

女神「きっと私、いつでも自由に、この広い大地を謳歌できる人間が羨ましかったんです」

女神「けん玉なんて、きこりさんが持ってきてくれなかったらその存在を知ることすらなかったでしょう」

女神「この世界には私の知らない楽しいことで溢れてるんです」

女神「それが手に入らないからって僻んでいたんですよ、私は」

女神「……ごめんなさい、なんだか愚痴になってしまいましたね。まあ、今はそんなものけん玉と、くるみパンの美味しさでどこかに飛んでいってしまいましたから」

女神「きこりさんのおかげで、私は少しでも外の世界の楽しみに触れることができたんですよ」





39: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 01:24:53.84 ID:1lLfKV5T0

きこり「……けん玉とかそのくらいだったら俺がまた持ってきてやるよ」

女神「え?」

きこり「酸いも甘いも噛み分けたこのきこりさんが、この世界にある面白いもの、いろいろ教えてやるってーのよ」

女神「本当ですか!」

きこり「ああ、きこりさん嘘つかない」

女神「約束ですよ?」

きこり「ああ、約束する。そのかわり――」

女神「な、なんでしょう」





40: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 01:26:56.62 ID:1lLfKV5T0

きこり「金の斧ちょーだいっ」ヘラッ

女神「ズコーッ! あ、あなたという人は……」

女神「ついに問うてもいないのに要求しだしましたね!? もう本来なら永久追放ものの欲深さ、恥知らずさですよ!?」

きこり「お金欲しいんだよーギブミーマネーついでに銀の斧もくれ」

女神「本当に欲望の化身ですね……一瞬でもまともだと思った私が馬鹿でした」

きこり「お金だいしゅき!」ツブラナヒトミ

女神「そんな顔してもダメです、規則は規則です」

きこり「ちぇ〜」

女神「はあ、これじゃあいつまで経っても金の斧を渡せませんよ」

きこり「心労お察しするよ」

女神「あなたがその原因でなければ嬉しいお気遣いなのですが」





41: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 01:28:58.40 ID:1lLfKV5T0

きこり「ていうか女神はそんなにそれもらって欲しいの?」

女神「そりゃあこれがお仕事ですから……」

きこり「……仕事、ねえ。社畜?」

女神「どちらかというと派遣に近いですね」

女神「はあ、とにかく、用事は済んだので私は帰ります」

きこり「アデュー」

女神「もう体調を崩さないでくださいね! できればあんまり無意味に斧を落とさないでくださいね!」

きこり「だが断る」

女神「うぅ……でも、たまにならいいですよ」ポチャン

きこり「…………」ワキワキギュ

きこり「約束、か」





43: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 01:31:00.80 ID:1lLfKV5T0

――???


???「ハァン……ここは実にいい場所だねぃ。環境、面積、立地、なかなかこれだけ条件の整った場所もあるまいて」

???「でしょう、まだ誰も目をつけていない穴場中の穴場ですよ」

???「ヒョッヒョッ、いいじゃないか、ますます気に入ったよ……決めたぞ、ここを新たな新天地としよう!」

???「さすがお目が高い! さて、気になるお値段ですが仲介料コミコミでこんなものでいかがでしょう?」

???「! ちょっと法外じゃないかねえ、君」

???「いえ、実はですね――お耳を拝借――ここはゴニョゴニョでゴニョゴニョすればゴニョゴニョ――」

???「ハァン……成る程。不動産屋、君もワルだねぃ」

???「いえいえ、あなた様ほどでは……」

???「ではさっそく手続きを進めてくれたまえ。……さて、ここはもう少し見晴らしを良くせねばなあ」ニヤリ


???「……!」





44: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 01:33:06.42 ID:1lLfKV5T0

――翌日


ガラッシャーン

女神「あ落金」ザパー

きこり「略すなよ!?」

女神「もうどうせ女神の威信とかありませんから」

きこり「そう拗ねるなって。ほら、お前の会いたがってたきこりさんだぞ〜」

女神「ついに欲望だけでなく妄執にまで憑かれましたか。いっそお祓いでも受けたほうがいいのでは」

きこり「別に憑かれてねえよ、生まれつきだよ」

女神「まあ、馬鹿につける薬はないといいますし……」

きこり「おい」

女神「お祓いでもどうしようもないならあとは燃やすしかないですね」

きこり「さらっと怖いこといわないで。俺は呪いの市松人形かなにかか」





45: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 01:36:26.28 ID:1lLfKV5T0

女神「それで。今日はどうしたんですか」

きこり「いや、別段用はないが」

女神「まったく、意味もなく召喚されるとは、私も安上がりになったものです」

きこり「今日はいやにテンションが低いな。あっ、もしかしてあの日?」

女神「違います!! ちょっと、メモらないでください! ルナルナ登録しないでください!」

きこり「じゃあどうしたんだよ」

女神「はあ、なんでもありませんよぅ……」

きこり「女神もそういう日もあんべか」

女神「……そうですよ、年中脳内スプリングハッピーなのはきこりさんぐらいです」

きこり「失礼な。俺の頭の中は春ではなく常に夏休みだ。常夏ハワイだ」

女神「ツッコむ気力すら湧きません」





46: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 01:39:00.00 ID:1lLfKV5T0

きこり「まあ元気出せよ。ほれお茶」

女神「ありがとうございます」

きこり「苦しゅうない」

女神「ずずず……それにしても綺麗に切り倒しますね、木」

きこり「まあ、慣れてるしな」

女神「……実はですね、きこりさん」

きこり「ずずず……なんだ?」

女神「この間、きこりさんは森が大好きだって言ってたじゃないですか」

きこり「ああ」

女神「実はきこりさんも森に好かれているんですよ」

きこり「ブフォッ!」

女神「うわばっちい」エンガチョ





48: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 01:41:01.36 ID:1lLfKV5T0

きこり「そそそそれって」

女神「言っておきますけど私という女神としての自我ではなく森本体のほうですからね」

きこり「あっそういう」

女神「今まで森の中でなんだか幸運にも助かったことってありませんか?」

きこり「そういえばあるな。前に森奥に迷ったときに偶然大木の根っこがお誂え向きの洞穴になってて一晩をしのいだこととか」

女神「でしょう。きこりさんは森に愛されてるんですよ。よかったですね相思相愛ですよ」

きこり「お、おう。でもなんでだ? 俺なんかむしろ森を傷つけてる側の人間のはずなんだけど」

女神「もしかして無意識にやってるんですか?」

きこり「え?」





49: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 01:43:22.45 ID:1lLfKV5T0

女神「“間伐”って知ってます?」

きこり「いや」

女神「森というのは木々が群生しているものです。ですが、あまりにも多く木が混み合ってると、一本一本に日光や水が十分に行き届かなくなったり、小さな苗木が育たなくなってしまいます」

女神「そこである一定の間隔、木量を維持するように伐採を行うことを間伐といいます。言ってしまえば木の間引きですね」モグモグ

きこり「難しいことは良くわからんが、俺がそれをやっていると?」

女神「はい。それはそれは見事な間伐です。この森がこうして健やかで瑞々しくあるのはきこりさんのおかげといっても過言ではありません。本当に無自覚なんですか?」ムシャ

きこり「ふむ……特に意識したことはないけど、なんとなくバランスよく切ってはいるな。あとは切りすぎず、必要な分だけってのは気をつけてる。きこりが森を枯らしてちゃ話にならないし」

女神「それはそれですごい話ですけどね……とにかく、そんなこんなで森はきこりさんに感謝しています。私からもお礼を言わせてください」ペロンチョ

きこり「それはちょっと嬉しいな。森にはいろいろと与えられてばかりで、いつか恩返しがしたいと思ってたんだ。それがこんな形でなあ」

女神「うふふ、良かったですね!」





50: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 01:45:24.10 ID:1lLfKV5T0

きこり「……こんなまともな話を突然しだすなんてやっぱりヘンだ。お前何かあったのか」

女神「だーかーら違いますって。私は純粋にきこりさんに感謝の気持ちを伝えたいだけです。もう、邪推する男の人は嫌われちゃいますよ? あと地味に失礼です」

きこり「そ、そうか。……いやなんだかそんなにほめられると調子狂うな」

女神「まあ人間性、性格、徳心あたりは最低ですが」

きこり「ハイ台無し! 今までの空気全部台無しだよ!」

女神「すみません、知能指数を入れ忘れてました」

きこり「薄々気づいてはいたけど君俺のこと馬鹿にしてるよね!?」

女神「何をいまさら」ハンッ

きこり「すげーむかつく! 馬鹿に馬鹿にされるのすげーむかつく!!」

女神「馬鹿と言ったほうが馬鹿なんです!」ドヤッ

きこり「でた小学生理論」





53: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 01:49:03.78 ID:1lLfKV5T0

女神「ああそういえばこれご馳走様でした」ケプッ

きこり「アッ! それは俺の弁当!! てめっ、またいつの間に!」

女神「10行ほど前に完食しました」

きこり「おのれは俺を餓死させる気か」

女神「女神を呼び出す代償は高くつくのです」

きこり「ちくしょう……お、そうだそうだ、この泉って斧以外のものいれたらどうなんの? やっぱ金になって戻ってくんの?」

女神「いえ、斧以外のものだったらそのまま泉に落ちて私のものになります!」

きこり「まあいじきたない」

女神「当たり前です。斧以外の落としものはなんであれ、あなたのものは私のもの、私のものも私のものです」

きこり「げに恐ろしきジャイアニズム。そうか、だめか」

女神「おや、残念そうですね」

きこり「いや、ここにひ○しくん人形いれたら金のひと○くん人形になって返ってくると思ってワクワクしてたんだけど」

女神「神の奇跡をなんだと思ってやがるんですか」





54: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 01:51:48.01 ID:1lLfKV5T0

ヤンヤヤンヤ

そうこうしてるうちにもうこんなにとっぷりと日が暮れていったそうなー。

きこり「やっべもう暗くなり始めてんじゃん。女神も今日は珍しく長く付き合ったな」

女神「ええ、まあ」

きこり「それじゃあ遭難しないうちに帰るか……ま、森の加護を受けている俺は大丈夫だろうがな!」

女神「そうやって直ぐ調子に乗る……」

きこり「へっへっへ」

女神「あ、きこりさん、あなたが愛してやまない森からのお告げです。『明日は森に近づかないほうがいい』ですって」

きこり「なんじゃそりゃ」

女神「なんでも明日のきこりさんの運勢は最悪だそうです。血液型占いによると」

きこり「あんま森の加護関係ねえ! ていうかなんで俺の血液型知ってんの!?」

女神「と・に・か・く! 明日は来ないでくださいね!」

きこり「わかったって」





56: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 01:59:50.36 ID:1lLfKV5T0

女神「それじゃあいつもの――の前にきこりさん」

きこり「ん?」

女神「その……ありがとう、ございました」

きこり「ああ、間伐のこと? いいっていいって。俺もこれで生計立ててるわけだしさ」

女神「……はい。あなたが落としたのはこの金の斧ですか?」ズイッ

きこり「そっす」

女神「そう、ですか……では――」

きこり「ちょっと待て」

女神「え、はい」

きこり「…………」

女神「どうしたんですか……?」





58: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 02:02:25.50 ID:1lLfKV5T0

あともう少しでクライマックスです。
見ていただいている方は長い間お付き合い頂いて申し訳ありません。


きこり「――ボッシュート!!」

女神「神妙な面持ちで何言ってるんですか!? ていうかふしぎ発見ネタ引っ張りすぎです!
   確かに似てますけど! 泉に沈みゆく様子とか似てますけど!」

きこり「……よし、これでいつもの女神だな」

女神「あ……」

きこり「いやーこんくらい激しいツッコミでなきゃな」

女神「……本当にもう、どうしようもない人ですね。それじゃ、今度こそ帰りますからね」

きこり「おう、またな。今度はお土産持ってきてやるから楽しみにしとけよ!」

女神「……いえ」ボソッ

女神「きっと、これが――」チャポン

きこり「?」





60: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 02:05:49.16 ID:1lLfKV5T0

――Tommorow、町中


きこり「とはいえすることないってのも落ちつかねえな」

きこり「せっかく徹夜でヨーヨー作ってストリングプレイスパイダーベイビーできるようにしたのになあ」

きこり「……きこり2からパクった斧あるし、森に行っちゃうか」

きこり「言いつけ破るのって完全に死亡フラグだけどこうでもしないと話進まなさそうだし……」テクテク

町人「ついにこの過疎の極みを迎えた田舎にも工場ができるのか!」

町人2「マジッスカwwwッパネwwww」

きこり(……ん?)

町人「これで出稼ぎに行かなくても働ける! 俺車とか買ってみたいな!」

町人2「ウェーーーーイwwwwww」

きこり「ちょっといいか、どういうことか三行で」

町人2「ウェイ
    ウェッww
    ウェーーーーーイwwwwww(ハイタッチ」





61: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 02:07:50.15 ID:1lLfKV5T0

きこり「なるほどさっぱりわからん(ハイタッチ」

町人「とりあえずこのリクルートをみるといいよ」

ウェイ「ッシャッセーwwwwオラィッオラィッwwwww」

きこり「どうも」

『全く新しい体系の工場、近日オープンにつき人員募集! 明るくアットホームな工場です! 未経験でも可! アナタも一緒に産業革命の担い手になりませんか? ※開発予定地○○森林、予定日×月△日』

きこり「……なん、だよコレ……しかも日付が、今日!?」

『明日は森に近づかないほうがいい』

『いえ、きっとこれが――』

きこり(あいつ……これを知ってて!)ダッ

町人「ちょ、ちょっと!」

ウェイ「ウェッwwwwwwカオスッスネwwwww」





63: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 02:10:07.39 ID:1lLfKV5T0

――森

工場長「ヒョッヒョ! 何もない森だ。だがやはり、このなだらかな平地に広大な面積……工場にはおあつらえ向きだねぇ!」

副工場長「ヘヘェ、さすが工場長、見事な眼識です!」

工場長「ヒョッヒョッヒョッ、そう褒めるな副工場長。さあ、邪魔な木を全部切り倒す作業を開始しろ! 重機を森に入れるのだ!」

作業員たち「「「アイアイサー!」」」





64: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 02:12:26.80 ID:1lLfKV5T0

――森の泉

ワイワイガヤガヤ

女神(始まってしまいましたか……)カコン

サッサトキリタオサンカ!

女神(私も女神です……ここで森とともに死に逝く覚悟はできています)クルッ

ヘイコウジョウチョウ!

女神(きこりさんに言いたいことは全部伝えました)トンッ

ガガガバリバリ

女神(思い残すこともありません)カッカッ

ヒョッヒョ、カネノナルキダ

女神(昨日きこりさんに釘を刺しておいて正解でした。きこりさんには、私が死んでいくところを見られたくないですから……)カツ





66: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 02:14:30.51 ID:1lLfKV5T0

コウジョウチョウ!

女神(でも。けん玉、嬉しかったなあ。くるみパン、美味しかったなあ)ヒョイッ

ハァン? ナンダネ

女神(とても楽しかったです)カコ

ジツハ、モンダイガ……

女神(生まれ変わったらまた、ううん、もっとああやって遊びたい、です……)ポロッ

ミシラヌオトコガジャマヲ

女神(あ……もう、すべて終わっちゃうんですね……)


「やめろ!!」


女神(!? どうして、なんでこんなときまで、あなたがここに……)





67: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 02:17:00.34 ID:1lLfKV5T0

――森

工場長「――誰だね、このみすぼらしい格好の青年は? 副工場長、君の知り合いかね?」

副工場長「滅相もない! こんな小汚い知己はおりませんよ」

きこり「俺はきこりだ。いや、今はそんなことはどうでもいい。今すぐこの馬鹿げた破壊をやめろっつってんだ!」ゼェハァ

工場長「オォゥ……破壊とは酷い物言いだねぃ」

きこり「森の木々を滅茶苦茶に切り倒してる! この暴挙を破壊といわずになんというんだ!!」

工場長「ハァン……破壊なくして創造はありえないというのに……察するに君はここを縄張りとする樵といったところか」

きこり「そうだ、アンタが何者かは知らないがこんな馬鹿げたこと、黙って見過ごせねえ」

副工場長「どうしますか工場長、アイツ面倒くさそうですよ」ヒソ

工場長「まあ見ていたまえ、上手く丸め込んでやるとしよう」ヒソ

工場長「名乗りが遅れてすまない、私は工場長、君も聞いたことくらいはあるだろう。都一の大企業の主、マニュファクチュアの申し子たる私の名前をなぁ」

きこり「残念だがそっち方面には興味なくてな、アンタの名前なんて知らねえよ」

工場長「なっ、私の名前を知らないだと……この低所得者め……」ヒクッ





68: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 02:19:03.14 ID:1lLfKV5T0

きこり「とにかく止めろ! ここはみんなの森だ! 勝手な真似は許されないぞ!」

工場長「ハァン……確かにここは“国”の公有森で“勝手”にいじくったら罰せられるだろうねぃ」ニヤリ

きこり「わかったらさっさとこれをやめさせろ!」

工場長「ハァン……副工場長、“アレ”をお見せして差し上げなさい」

副工場長「ヘイ工場長! ……おい貧乏人! これが読めるか? ん?」バッ

きこり「これ……は……」

工場長「ヒョッヒョッヒョッ、副工場長、たとえ教養のないきこりでもこの王家の金印を見違えることはなかろうて」

副工場長「ヘッヘッヘ! その通りで!」

きこり「嘘……だろ……?」

工場長「ハァン……君にとっては信じがたいことだろうが、これが真実なのだよきこり君。私たちはね、日ごろの勤労振りを認められ、国王陛下直々にこの森を開拓する許可を与えられているのだよぉ。いやあ高い金を払っておいて正解正解」

副工場長「この証書はまさにその確たる証拠ってワケよ!」





72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/02/28(金) 02:26:46.23 ID:JvWDh+NK0

ちょっとチャージアックス担いでくる





75: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 02:31:27.47 ID:1lLfKV5T0

工場長「ハァン……そういうことだ。さて、この場から立ち去らなければならないのが誰か、ご理解いただけたかね?」

きこり「そんなの……そんなの認められるかよ!」

工場長「オォゥ……君の気持ちもわかるよ、きこり君。職場を突然失ってさぞかし困惑しているのだろう。しかしねぇ、我々にも都合というものがあるのだよ。この産業革命時代の真っ只中、たかだか森一つのためにインダストリアライゼーションを止めるわけには、いかんのだよ」

きこり「たかだか森、だと……っ!」ガッ

工場長「おい」

ガードマン「はっ」バキッ

きこり「ぐっ!」ドサッ

ズサーボチャン

工場長「ハァン……斧なんて振り回したら危ないじゃないか名もないきこり君。まあ、私には意味のないことだったがねえ」

副工場長「ヘッ! バカなやつですねえこいつ!」





76: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 02:33:37.28 ID:1lLfKV5T0

焦って投稿してたらちょいと規制されてしまったみたいなので少しペース落とします。

きこり「ちく、しょう」

工場長「ヒョッヒョッ、これこれ副工場長」

副工場長「ヘッヘ!」

きこり「てめえっ!」ザッ

工場長「まだわからないようだね」サッ

ガードマン「御意」ドカッバキッ

きこり「ぐっ!!」

工場長「コレが金の力だよきこり君、金の前には人は、実に無力だねえ」

きこり「ごっ……の……」グッ





78: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 02:35:51.87 ID:1lLfKV5T0

女神「やめてください!」


工場長「……ン?」

きこり「!? どうして女神が……? っ! 斧が、ない」

副工場長「女が水の上を歩いてる!?」

工場「ハァン……恐らくアレは泉の女神だ。副工場長、君も逸話くらいは聞いたことがあるだろう。まさかこんな辺鄙な片田舎でお目にかかれるとはねぇ」

副工場長「あ、あれが伝説の……?」

工場長「いかにも。して女神様がなんの御用ですかな? よもや開発をやめろと仰りますまいなぁ?」

女神「いいえ、私にあなた方を止める力はありません……ただこの人を――きこりさんをこれ以上傷つけないでください」

工場長「そうしたいのはやまやまなのだがねえ、困ったことに彼のほうから突っかかってくるのだよぉ」

きこり「おい女神! こいつらは……」

女神「わかっています。すべて聞いていましたから……でも、もうどうしようもないんです。食物連鎖、ってわかりますよね。弱いものを強いものが食う……たまたま人間のほうがこの森よりも上だった、ただそれだけのことですよ」





81: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 02:38:30.19 ID:1lLfKV5T0

きこり「だけど!」

女神「大丈夫です! あなたほど図太い人ならここじゃなくてもしぶとく生きていけるはずですから……私のことは気にせず、帰ってください」

きこり「……ッ!」

工場長「ほぉらきこり君! 麗しの女神様もこう言っているではないか!」

工場長「それに開発も悪くないぞぉ! いいかね、科学が発展し、産業が興盛すれば生活の水準は上がり人々は豊かになる。どうだね、こんな幸せなことはないだろう! その恩恵は君にもいつか巡り巡ってくる。これはその先駆けなのだよ!!」

工場長「その上、聞けば、君は斧を買うために周りに金を借りているそうじゃないかぁ」

きこり「……だからなんだ」

女神「え?」

工場長「しかも、そのせいでまともに食事も摂れず倒れたとか。ヒョッヒョ、商売道具を買うのにも事欠くとは、実にかわいそうに!」

女神「じゃあ、あの放り込んでた斧は……」

きこり「余計なことをべらべらと……!」





83: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 02:40:54.64 ID:1lLfKV5T0

女神「どうしてですかきこりさん! そんなに生活が厳しかったのならどうして! 金の斧をもらえば倒れることもなかったじゃないですか! なんで毎日徒に斧を捨てるような真似を……」

きこり「……そうでもしなきゃ、お前は出てこないだろ」

女神「なっ! まさか、私に会うためだけに……?」

きこり「あんなもん、惚れた女に会うためなら安いもんだ」

女神「えっ……?」

きこり「殴るなら殴れ、蹴るなら蹴れ。だが俺はテコでもここから動かねえぞ……!」ググッ

工場長「はぁ、わかったわかった、きこり君。君の不屈の精神は見上げたものだ。そんな君にはこれをあげよう」

パサッ

工場長「これが欲しかったのだろう? わかるよぉ、貧しい貧しい君にとっては喉から手が出るほど欲しい代物のはずだ」

きこり「! この札束……どういうつもりだ?」





85: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 02:43:36.25 ID:1lLfKV5T0

工場長「ハァン……とっておきたまえきこり君。これは私からのプレゼントだ。
    なぁに、私もタダで無理やり事を押し進めようだなんて考えてはいないのだよぉ。ここに工場が建った暁には君を作業員として迎え入れようじゃないか」

工場長「勿論、給金も弾もう。君が汗水流して木を百本切り倒しても拝むことすらできないであろう額だ。
    君を力ずくで動かすのは難しそうだからねぇ、これで手を打とう。君と私、どちらにとっても旨い話だろう?」

工場長「さあ、これで君が路頭に迷う心配はなくなったぞ。とりあえずはこれで街を遊び歩きでもするといい。遠慮は要らんよ、金ならいくらでもあるからなぁ! ヒョッヒョッヒョッ!」

女神「そ、そうですよ。私なんて気にせずにこれを持って帰ってください。きこりさん、お金が大好きだっていってたじゃないですか。
   それに、私はもういいんです。短い間でしたけど、きこりさんとの日々はとても楽しくて、それに森もあなたにこんなにも思われて幸せだったはずです」

きこり「女神……お前はそれでいいのかよ」





87:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/02/28(金) 02:44:08.85 ID:tMMn9lFe0

ちょっと森いって工場長殴り飛ばしてくるわ





88: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 02:46:08.99 ID:1lLfKV5T0

きこり「ただただ泉から森を見守るだけの人生にやっと少しずつでも楽しさを見出してきたんだろ? 生きる喜びを知ったんだろ?
    ならどうしてそこで幕を引いていいことになるんだ。お前の人生は、お前が笑顔になれる舞台は、まだやっとプロローグが終わったばかりだろうがっ……!」

女神「そ、それは」

きこり「どうしようもないとかこれでいいとか、適当な理由で諦めてるんじゃねえよ。お前の人生を決めるのは、お前自身だろうが……!
    聞かせろよ女神。他でもないお前の気持ちを、お前の、声で!」

女神「私、は……生き、たいです。まだまだ知らない楽しいことがいっぱいあるのに、私は死にたくない……!」

きこり「なら、止まる理由はねえ。戦わない理由はねえ。守らない理由はねえ。そうだよなあ!」

女神「なんでですか……人間なんてみんなお金の亡者で、私は……人間に金を与えるだけの存在なのに……どうしてそんなに私を守ってくれるんですか……」

きこり「決まってんだろ……金なんかよりお前のほうが、お前との約束のほうが大切だからだ!」





91: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 02:48:23.13 ID:1lLfKV5T0

女神「ッ! それでも私はっ! きこりさんの犠牲の上で生き残りたくなんかないんです!」

きこり「樵をあなどるなよ、誰がこんな悪趣味成金に負けるかってんだ……!」

女神「きこりさん……」

工場長「……なんだね、その目は。ええ!?」

副工場長「こいつ、札金を見たことないんじゃないですか?」

きこり「……悪いが、そんな紙切れこれっぽちも欲しくない。――この森から出て行ってくれ」





94: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 02:50:38.08 ID:1lLfKV5T0

工場長「…………」ジャキッ

きこり「!!」

女神「!!」

工場長「早く意地汚い貧乏人らしくその金を取れと言っているのだよ。さもなくばここで撃ち殺す」

副工場長「こ、工場長、いくらなんでもそれはやりすぎでは……?」

工場長「お前は黙っておれ!」

副工場長「ヒィッ」

工場長「私はねぇ、君ように貧乏人のくせに粋がって大金持ちの私に刃向かうやつが大ッ嫌いなんだよぉ……!」

工場長「さっさとその金を拾い、私に感謝したまえ!!」

女神「やめてください! これは私の問題です! 無関係なきこりさんに手を出さないでください!!」ガッ

きこり「女神!」

工場長「うるさいッ!!」バシッ

女神「きゃあ!」ドサッ

きこり「!」





95: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 02:53:33.56 ID:1lLfKV5T0

きこり「ふざ……けるなよ」

きこり「金だ? 生活の水準だ? 豊かさだ? そんなもののために……」

工場長「ハァン?」

『それでもいいんです。私、人から物をもらうのはじめてなので』

きこり「ここにはたくさんの思い出があるんだ」

『きこりさんは本当にこの森が好きなんですねえ』

きこり「それに、何より大事なものもここにあるんだ」

『まったく、心配して損しましたよ!』

きこり「それを……そんなもののために踏み躙られてたまるかよッ!!」

『その……ありがとう、ございました』

きこり「うおおおおおおっ!!!!」

女神「やめっ――」


ッターン





96: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 02:55:46.52 ID:1lLfKV5T0

きこり「……え……?」ビチャ

きこり「……か……はっ」ドサリ

女神「きこり、さん……? い、いやあああああああっ!!」

工場長「ハァッ、ハァッ……ハ、ハハハハハ!」

副工場長「こ、工場長?」

工場長「貴様が、貴様が悪いのだぞ!! 私は金を持っているのだ!! 金も、土地も、名誉も、地位も!! その私が金をやるといっているのに何故卑しく喜び、ゴマをすり、忠誠を尽くさない!?
    貴様のような賎民はそうやって地に這い、私に媚び諂っておけば良かったのだ!!」ゲシッ

副工場長「そ、そうだ! お、お前が悪いんだ! 素直に従わなかったから!」

工場長「フゥーッ、フゥーッ……そうだ、このままそいつをそこの泉に沈めてしまえ。なぁに、たかが樵一人いなくなっても誰も騒がんわ」

副工場長「えっ? わ、私がですか?」

工場長「そうだ! 早くしろ!!」

副工場長「ヘ、ヘイ」





98: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 02:58:02.46 ID:1lLfKV5T0

副工場長「ヨイショ、ヨイショ」

工場長「喜びたまえ女神とやら、お前の大好きなそこの男とはお前の中で一緒にいられるぞ? 永遠になぁ」

副工場長「そォれ!」バシャーン

女神「ああっきこりさん! しっかりしてください!」バシャバシャ

きこり「…………」グッタリ

女神「そんなあ、きこりさん……!」

工場長「ヒョッヒョッヒョッ、いい様だ!」

工場長「さぁて、噂によると女神のいる泉に斧を投げ込むと金の斧と変えてくれるという言い伝えがあるという。
    私には何をくれるのかな? その男の金の像でもくれるか? ヒョーッヒョッヒョッヒョッ!」

副工場長「ヘ、ヘッヘッヘ……」





99: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 03:00:27.50 ID:1lLfKV5T0

女神「…………」

工場長「さあ邪魔者は消えた! さっさと作業に戻らんか!」

女神「……なた……は……」

工場長「ハァン?」

女神「あなたが落としたのはこのきこりさんですか……?」

工場長「ップ! 本当によこしてくれるというのかね! ヒョッヒョッ、それじゃあ正直に答えてやるとしよう」

工場長「ああそうだ。私が落としてやったのはそこの惨めで哀れなきこり君だよ!!」

女神「違う……」

工場長「ハァン?」

女神「あなたが突き落としたのは、いじわるでエッチで性格悪くて欲望まみれでおバカだけど……とても森を大事にして、そして私を笑顔にしてくれたすごく、すごく優しいきこりさんです!!
   決して惨めなんかでも、哀れなんかでもない!!」

工場長「なんだとぉ……?」

女神「出て行って……ここから出て行ってよ!!!!」ブワッ





112: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 03:58:54.75 ID:1lLfKV5T0

ザワザワザワ……

工場長「な、なんだ……森の様子が……」

ザワザワザワ……

「「「うわああああああ!」」」

工場長「な、何事だ!?」

作業員1「工場長! 突然動物たちが襲ってきて――ぎゃああああ!」

作業員2「木がっ木がっ!」

作業員3「誰か助けてぇ!」

ワーワーギャーギャー!!

工場長「こっ、これ全部貴様がやっているというのか……?」

女神「うっ、うっ……」





102: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 03:03:07.78 ID:1lLfKV5T0

工場長「おい、副工場長! 何をしてる、早く何とかせんか!」

副工場長「え、え」

ガサガサガサッ

副工場長「ひっ、わ、私はこんな気味悪いところはもうたくさんだ……! もう知らない!」ダッ

工場長「チィッ、使えないやつめ……こんなのどうせまやかしだ! こんなことでこの金になる土地をみすみす――」ダンッ

工場長が言い切るまもなく、一本の大木が彼の目の前に倒れてきたそうなー。

そしてそれを皮切りに、列を成すかのように森の木々がその身を傾けていったそうなー。

工場長「ひ、ひ、ひょえええええええええ!!!!」ダッ

ドンッ、ドンッ、ドンッ

その巨人の足音のような地響きは暫くの間、森の中を木霊したそうなー。





104: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 03:05:38.41 ID:1lLfKV5T0

女神「うう……きこりさん……こんなことをしたって、きこりさんはもう帰ってこない……うっ、うっ」

きこり「……ぐ……あ……」

女神「きこりさん!? 良かった……まだ息が!」

きこり「なあ……女神……」

女神「なんですか、きこりさん?」ポロポロ

きこり「この泉に落ちた斧以外のものは……お前のものになるんだよな……」

女神「は、はい。そうですよ」

きこり「じゃあ……俺がこのまま沈めばお前のものになるわけか……」

女神「!? きこりさん、何を……」

きこり「このまま死ぬなら……俺……それでもいいって思うんだ……」

女神「そんな! きこりさん! 私の知らない楽しいこと、たくさん教えてくれるって約束したじゃないですか! いつもの適当なきこりさんはどうしたんですか! ほら! しっかりしてください!!」

きこり「聞いてくれ……俺……女神と初めて会ったとき……初めて会ったような気がしなかったんだ……」

女神「これ以上話すと、傷口が!」





106: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 03:06:42.99 ID:1lLfKV5T0

きこり「まるで……今までずっと一緒にいたみたいな……懐かしい感じがしたんだ……」

女神「――!」

きこり「女神がこの森そのものって聞いて納得したよ……俺はこの森が大好きなんだ……無邪気で……いつも明るくて……コロコロと表情が変わって……それでいていつも優しく包み込んでくれる……」

女神「ぎごりざん……」ボロボロ

きこり「だから俺はそんな森みたいな……いや、森そのものの女神が……出会ったときから……ゲホッゲホッ……大好きだ……!」

女神「きこりさん! しっかりしてください!!」ガシッ

きこり「あはは……俺、あんな説教垂れといて……結局最期まで……お前に守られっぱなしだったな……女神……本当に……あり……が……と……」

女神「きこりさん! きこりさん!! いやっ、いやですっ、うわあああああああああああん!!!!」

女神は大粒の涙を流し、その涙は雨となってしんしんと降り注いだそうなー。

獣も鳥も息を潜めた森には、女神の泣き声と雨粒が落ちる音だけが、寂しく響き渡ったそうなー……。





113: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 04:03:14.06 ID:1lLfKV5T0

――暫く後

きこり2「……そうか、あいつがそんなことをなあ」

女神「はい。事切れる直前まで、私に語りかけてくれました……」

きこり2「なんというか、かける言葉が見つからないんだが……悲しい事件だったな」

女神「ええ……でもいいんです。きこりさんの想いは、今でも私の中で生き続けていますから」

きこり2「やっぱり、女神ちゃんは強いなあ」

女神「そうでなきゃ、命がけで私たちをを守ってくれたあの人に顔向けできませんから」

きこり2「そっか。ああそうだ、これ……供えさせてくれねえか」

女神「それはきこりさんの大好物だったくるみパン……それにその喪服……そう、ですか。もうそんなに経つのですか」

きこり2「ああ、今日がちょうど、あの日だ」

女神「きこりさん……」

きこり2「あいつはっ! 喪くすのには惜しすぎる友だった……!」





115: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 04:06:37.61 ID:1lLfKV5T0

女神「きこり2さん」

きこり2「なんだ?」

女神「もうこれ以上、湿っぽいのはやめにしませんか? あの人がいたからこの森は、私たちは年月が経ってもこうして平和でいられるんです」

きこり2「そう、だな。ここはあいつへの感謝の気持ちを込めて静かに黙祷を捧げるとするか」

女神「ええ」

女神&きこり2「「…………」」

むかしむかし、あるところに美しい森とそして愛する者を守って死んでいった勇気あるきこりがおったそうなー。

その泉に住む女神は、彼を讃え、その泉を『きこりの泉』と名づけたそうなー。

人々は皆こぞってその自然豊かな森と、すこし鉄臭い泉に安らぎを求め、愛でたそうなー。

そして世界は平和になったそうなー。

めでたしめでたsきこり「ストップストップ! おいちょっと待て!!」





116: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 04:08:56.19 ID:1lLfKV5T0

女神「あっ、きこりさんじゃないですか。せっかく今いい感じの雰囲気だったんですから空気読んでくださいよー!」

きこり2「なんだお前まだ出歩くのはダメだって医者に言われてたんじゃなかったのか」

きこり「ふざけるな。なんだこれは。なんでナレーションまで総動員して俺を殺してんだ。いじめか? 森を守った勇気あるきこりをいじめてそんなに楽しいかお前ら」

きこり2「まあまあいいじゃないか。それに毎回ここまで女神ちゃんの大好物、お前お手製のくるみパンを届けさせられる身にもなってくれよ。こんくらいの寸劇くらいさせろっての」

きこり「毎回っててめえこの茶番をくるみパン渡すたびにやってたのか」

女神「巨大隕石を爆破するために独り宇宙に残り地球を救った勇気あるきこりさんバージョンもやりましたよ!」

きこり「やめろよ! エアロスミスにエンディング歌わせる気かよ!! つーか女神も女神でなんで平然と現れてんの? 病み上がりの身で重い斧引き摺ってきた俺の苦労はどうなんのコレ!?」

女神「いやーあの一件から女神パワーに開花しちゃいまして、自由に出現可能になったんです」

きこり「女神パワーってなんだよ!? ていうか女神なのに今まで開花してなかったのかよ!?」

女神「てへぺろ☆」





117: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 04:12:47.83 ID:1lLfKV5T0

きこり「お前はホンット、ッ! いてて……」

きこり2「あーほら怒鳴るから傷口が……」

きこり「誰のせいだと思ってやがる……そんな喪服まで着込みやがって……」

きこり2「ああこれか、じいさんの法事の帰りでな」

女神「ちなみに“あの日”というのはきこりさんの退院日のことです」

きこり「ああそうかい、とにかく俺は死んでない、オーケィ?」

きこり2「何言ってんだよ、あのとき俺が斧返してもらおうと森に寄ってなかったらお前マジで死んでたんだぞ? 机に花瓶とか供えられてたんだぞ?」

きこり「お前ビビッて隠れてただけじゃねえか」

きこり2「隠れていたからこそあの悪趣味な工場長に見つからなかったんだ」

女神「そうですよ。私ときこり2さんあってのその命なんですよ? 感謝してください」

きこり「なんだろう……間違っていないはずなのに認めたくない……」





119: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 04:26:23.45 ID:1lLfKV5T0

女神「それで、そんな痛々しい身体でこんなところまでどうしたんですか? ははあ、もしかして私が恋しかったんですか? きこりちゃん寂しかったんですか?」

きこり「ああそうだよ。一秒でも早く女神に会いたかった」

女神「ふーむふむやっぱりそうですかー……って! 突然なに言ってるんですか!///」

きこり2「おーおーお熱いこって」

きこり「よっと」ガシッ

女神「ふええっ! なんでここで抱きつくんですかあ!?」

きこり「……よかった」

女神「えっ!? ……は、はい」

きこり「……大好きだ、女神」

きこり2「カーッ!!」

女神「えっ、えっ、それって」

きこり「ああ、所謂愛の告白」





120: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 04:28:57.58 ID:1lLfKV5T0

女神「うう……///本当にあなた、あのヘタレなきこりさんですか?」

きこり「人は死線超えると変わるってやつかな。人間いつ死ぬかわからないから、言いたいことは言っておかないと。それに実際これは二回目だし」

きこり2「ヒューヒューッ!」

女神「あの……その……またこれからもいろんな楽しいこと、私に教えてくれますか?」

きこり「もちろんだ。約束したからな。それで、答えは?」

きこり2&ウェイ「ウェーーーーイwwwwww(ハイタッチ」

女神「じゃあ……その……こ、答えはもちろん――」

むかーしむかしあるところに正直なきこりと女神がおったそうなー。

きこりと女神は森を愛し、森もまたきこりと女神を愛したそうなー。

そうしてふたりは平和な森の中で、いつまでもいつまでも幸せに暮らしたそうなー。

ときおり、森の中では無数の斧が飛び交うことがあったそうだがそれまた別のお話ー。

これでほんとのめでたしめでたし。

きこり2「……ところで俺の斧っていつ返ってくんの?」

おしまい。





127:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/02/28(金) 04:37:17.85 ID:GRZOVNcC0

楽しませて貰いました、乙!

>>120

ウェイって誰だ!





128: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 04:39:46.96 ID:1lLfKV5T0

>>127
町ででてきた町人2ですね。ウェイしか言わないのでウェイでいいかなーと。





124:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/02/28(金) 04:34:34.75 ID:bsmd5jKc0







129:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/02/28(金) 04:41:55.21 ID:GRZOVNcC0

ウェイおったーーーーーーーーーーーーーーー!

まあ、悪人なんてあれぐらい悪人らしい方がわかりやすくて良いと個人的には思う。
あれ以上に思想とかちゃんとした町の発展とかを願ういい人だったら色々と大変。





130: ◆lFO5IqKb7g :2014/02/28(金) 04:43:57.30 ID:1lLfKV5T0

>>129
個人的には勧善懲悪よりも正義vs正義の複雑に絡み合う戦いのほうが好きなのですが、
今回はあくまでギャグメインでSSなのでああいったTHE・悪人に仕上げました





132:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/02/28(金) 04:53:52.90 ID:ILDsqC390

ウェ-イwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww





135:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/02/28(金) 06:19:03.57 ID:5GLFjZEQ0








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