2:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 20:36:50 ID:xVKvQhDs

「早くエレンを見つけないと」
「ごめんね、私が侵入角度を間違えちゃったから……」
「それを言うなら僕だって同じだよ。もう少し距離をとっておくべきだった」

 夕日に煌めく金髪の訓練兵が二人、立体機動訓練場である森を飛び回る。
 互いに相手を気遣いながら、その目はもう一人の班員を探していた。
 それはただでさえ最近この二人とは力量差の出てきたエレンである訳だが、今回は彼も近くで待っていてくれるであろう理由がある。

 今回の訓練目的は巨人討伐ではなく、広い森を少人数制の班で正確に進む事なのだ。
 エレンはきっとどこか目立つ場所で自分たちを待っているはず。

 アルミンはそう確信していた。

元スレ
SS深夜VIP
エレン「森にて、触手誕生」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1374320112/


 
 
3:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 20:37:50 ID:xVKvQhDs

「エレンはどこかな?声を掛ける間もなかったから、もし気づいていなければかなり先に行っちゃったかも。悪いことしちゃった……」
「僕らが一緒でないとエレンの成績にも響いてしまうしね。最近は特に立体機動訓練に力を入れているみたいだし……」

 そう言いながらも、アルミンはチラリと隣にいる少女を盗み見た。
 訓練に心血を注ぐ親友の足を引っ張りたくはないと心から思うが、104期きっての美少女と二人きりで森を進む事はなかなかにして得難い体験なのである。
 この少女には普段から番犬よろしく周囲の男共に睨みをきかせる護衛女子が常に付き添っているので、今のこの距離が嬉しいのは尚更のことであった。

(一度二人でいながらルートも外れちゃったし、だいぶ復帰に手間取っちゃったな)

(……夕日を受けた横顔まで可愛い。今日はついているのかも)

 しかし、そんな呑気な事を考えていたアルミンを現実に引き戻したのは、まさに今見とれていた少女の叫び声であった。





4:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 20:38:48 ID:xVKvQhDs

「あ!見て、あそこに人が倒れている!」

「……え?」

 アルミンが倒れている人間を視認するよりも早く、クリスタは横たわる影に向かって急速に近づいていく。
 クリスタについて行き、足下の不自然に拓けた草むらを見下ろすと、確かに人間が一人倒れていた。

 しかし、それは異様な光景であったと言える。

 衣類を一切身につけておらず、うつ伏せのままで引き締まった肉体の全てを晒す少年。
 その全身をどろりとした黄色がかった粘液が覆いつくしていたのだ。





5:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 20:40:06 ID:xVKvQhDs

「あっ……」

 見つけた者が全裸の少年であると気づいたクリスタは、慌てて目を逸らして頬を染めるという、彼女の見た目を裏切らない初な反応を示した。

(人間だとは思っていたけど、まさか裸だなんて……)

 どうしたらいいのかと助けを求めるように、クリスタは隣にいるアルミンに視線をやったその時──

「あれは……エレン?」

 目を限界まで見開いた驚きの表情でアルミンは小さく呟いた。

 その震えた声に、ゾクリと泡立つクリスタの肌。
 迷わず少年の隣へと降り立ったアルミンの後を追い、クリスタも湧き上がる羞恥心を抑えその姿を見た。

 細身ながらしっかりとした筋肉に黒髪……確かに背格好はよく似ている。
 訓練以外では親しく会話する機会の少ないクリスタは確信をもてずにいるが、エレンと付き合いの長いアルミンの表情は完全にその色を失っていた。

 アルミンは少年の顔のそばに膝をつき、震える手を恐る恐る伸ばすと、伏せられた顔を慎重に動かし夕日の下に晒す。





6:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 20:46:50 ID:xVKvQhDs

(お願い……せめて人違いであって欲しい)

 兵士でありながらも、普段から優しく朗らかに笑う目の前の少年。
 倒れていたこの人が、その少年の大切な親友であって欲しくないとクリスタも胸が締め付けられる思いで見守る。

「……っ!そんな……」

 しかし、息を飲んだアルミンの反応にクリスタは絶望を感じ取った。

 クリスタからは、その少年の顔は見えていない。
 しかし目の前のアルミンが苦しげに動かした口元は、確かに彼の親友の名を音もなく告げていたのであった。





7:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 20:47:56 ID:xVKvQhDs

 粘液に覆われてしまっているエレンの顔。
 それを無言のまま自分の手拭いで拭いてやっているアルミンに、クリスタはおずおずと小さく声を掛けた。

「アルミン、エレンは……?」
「……息はある。気を失っているだけみたいだ」

 その場の空気は重いが、死んだのではないとわかりほんの少しだけクリスタは安堵した。
 しかしそうなると場違いとも思える自分の存在に居たたまれなさを感じてしまうのも事実で。

(どうしよう……声、かけられないよ……あれ?)

 気づけば一歩、また一歩と後ずさりしてしまう……そしてふと視線を移した草むらの陰に、彼女はまとまって落ちている訓練兵団の団服を見つけた。

「アルミン、こっちに服があったよ!これを着せてあげ──あ……」

 服を手にとり、振り返ったクリスタは、そこで初めてエレンの惨状を知ることとなった。
 クリスタが目にしたのは尻から足にかけての粘液の下に滲み流れる赤──

 兵士である者が見間違えるはずもなく、それは血であった。





8:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 20:49:19 ID:xVKvQhDs

「……っ!クリスタ、服を見つけてくれてありがとう。僕が着せるから……悪いけど教官を呼んできて欲しいんだ」
「う、うん……その、私……行ってくる……っ!」

 クリスタが事態を察したようだとわかると、アルミンの青ざめた顔はより一層悲愴さを増すことになってしまった。
 絞り出すようなアルミンの願いに、上手く言葉も紡げないクリスタはそれでも気を強く持ち直して装置に身を任せて飛び出していく。

(早く……服を着せてあげなきゃ……)

──でもなぜエレンがこんな目に……?

 クリスタがいなくなった事で、耐えていた涙が堰を切ったようにその目から溢れ出した。
 本当に泣きたいのは自分ではないと分かっていながらも、止まらない涙は視界を酷く潤ませていくばかりだ。

 ノロノロとした手つきで、親友の体に服を着させる。
 手についた粘液の不快さは思わず眉根をひそめたくなるほどだ。
 しかしそれを全身に浴びたエレンを思うとまた胸が苦しくなるばかりで……アルミンは手近な木に粘液をなすりつけ、横たわるエレンの隣で膝を抱えて助けを待った。

──身の内に湧き上がる、信じがたい衝動に抗いながら……





9:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 20:50:31 ID:xVKvQhDs

・・・・・

「……っ!……オレは助かった……のか?」

「目が覚めたか」
「エレン!良かった……気が付いたんだね」

「教官!それにアルミン、オレは……っ!?」

 突然目の前に現れたキースとアルミンの姿に驚き身を起こそうとしたエレンは、自身の両手が拘束されているのに気づき驚愕の表情を浮かべた。

 途端に吹き出す汗と、気を失っていた時よりも更に白さを増す顔色。

「手の縄を……解いて下さい。お願いします、お願い……」

 ガタガタと震えるエレンの姿に、キースはすぐさまその拘束を解いてやった。
 すると、エレンは目に見えて落ち着きを取り戻していく。

 目覚めを嬉しそうに喜んだアルミンも、その異様さを目の当たりしては口を噤む外なくなってしまったのであった。





11:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 21:27:58 ID:xVKvQhDs

「イェーガー、貴様は立体機動訓練場で倒れていたのをアルレルトとレンズの二人に発見されている」
「アルミンと……クリスタに?」
「そうだ。その時の状況から、我々は貴様が何者かにより性的な暴行を加えられたものとみているのだが……どうだ?」

 答えるよりもまず、エレンの目が部屋の隅で気配を押し殺すように縮こまっているクリスタを捉えた。
 そこにいる誰もが、その視線の意味を理解していた。
 エレンは同期の少女がいる場では話したくないのだろう。

「そう……です」

 しかし、それが配慮される場であるならば既にその措置はされているだろうことも明白であった。
 思わず言いよどんでしまったエレンにも、それは理解出来ている。
 何より自分を発見したのがこの二人だと言うならば、隠しても仕方ないことだと、エレンは話す覚悟を決めたように真っ直ぐ教官に向かった。

「ですが、襲ってきた相手は人間ではありませんでした。信じてもらえるか……自信はありませんが」





12:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 21:29:24 ID:xVKvQhDs

「何だと……?」

 元よりエレンはかなり肝の据わった男であるということを、彼を監督する立場にあるキースはよく知っていた。

 エレンに襲われた時の記憶があるならば、犯人は容易に捕まえられるものと楽観視していた部分もあったのは否定できない。
 それがどうやら間違っていたようだと、つかの間混乱をきたした頭をすぐさま落ち着かせ、身構えて言った。

「……では貴様を襲った物は何であったと言うのだ?イェーガー。順を追って話してもらうぞ」

 コクリと頷くエレン。
 彼は一度だけ唇を噛み締め、自らの恥辱にまみれた体験を語り始めた──





13:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 21:30:41 ID:xVKvQhDs

─────
───


(クソ……昼に走らされた疲れが足にきてるな)

 ジャンと昼食時に派手にやり合った場面を教官に見られてしまい、飯抜きで走らされること二十周。
 最近になり気温を下げた午後の風は森を抜けていく体に心地良いが、いかんせん全身運動である立体機動は疲労が激しい。
 一度立ち止まり、他の二人の様子を見よう……そう思って辺りを見回したエレンは愕然としてしまった。

「あ、あいつらはどこだ!?置いてきちまったか!?」

 エレンと同じ班だとわかった瞬間に「足を引っ張ったらごめんなさい」と声を合わせるように言った金髪コンビは、今はその影すら見えない。
 訓練目的を考えると、早く二人と合流しなければいけないのは明白で。

「どこか姿の探しやすい場所は……お、あれがちょうどいいな」





15:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 21:32:12 ID:xVKvQhDs

 エレンが狙いを定めたのは巨大な古木であった。

 周囲の木々に比べるとかなり弱ってはいるが、枝は太く、また辺りが見渡しやすく拓けていることも好都合だ。
 エレンは躊躇い無くその枝に飛び乗るとアルミン達を探して森に目を走らせた。

「追い越されてはいないはずだから予定通りならあっちから……ん?」

 疲れた体を休めながら目をこらしていると、ポタリと額を濡らした液体に気づいた。
 途端に、頭上の枝葉がガサガサと音をならして騒ぎ始める。
 強風に揺れたのとは違う、巨大な生物の移動を思わせるその音にエレンは身構え、すぐさま違う木に移ろうと身を翻した。

 しかし、その行動は遅過ぎた。
 いや……初めから逃げる事など出来なかったのかもしれない。
 古木から足を離した瞬間、エレンは“それ”に絡め捕られてしまったのである。





16:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 21:37:55 ID:xVKvQhDs

 時が止まったかのように宙に浮く己の体に、エレンは混乱していた。
 四肢を何かに絡め捕られているのはわかるが、後方に捻り上げられて視界の外にあるため、腕や足に伝わるその感触しか情報がない。

(ぐにぐに動きやがって……痛くはねぇけど気色悪い)

 しかし、得体の知れない物との遭遇にも、エレンはなんとか冷静さを取り戻した。
 今己を拘束している物は痛みを与えるのが目的ではないようだ。
 刃を装備出来れば叩き切れるだろう、そう思い拘束に逆らって装置をぐっと鞘に近づける。

 が、それを阻んだのは、まるで子供から危ない玩具でも取り上げるかのような意外な優しさで動く“何か”であった。





17:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 21:38:29 ID:xVKvQhDs

 ぬるりとした物が、エレンの両手を優しくこじ開け、操作装置を取り上げる。
 四肢は解放されていない。
 つまり、そこには少なくとも六本かそれ以上のモノが蠢いているということになる。

「な……何なんだよコレは。オレは一体何に捕まって……っ!」

 再びエレンの頭が混乱し掛けた時、それは動き出した。
 エレンをぐるりと反転させ、古木の方へと顔を向けさせる。
 自分を捕らえる物を視認した時、エレンは叫び声すら上げることが出来なかった。

「う……っ!」

 この世には巨人なんてものさえ存在している。
 しかし、こんな怪異は聞いた事がない。

 それはまるで水中に揺れる水草のようであった。
 何本ものぬらぬらと光る黄緑色の触手の集合体。

 本体と呼べそうな部分も見当たらない、意思の疎通など期待も出来ないような化け物がそこにいた。





18:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 21:39:05 ID:xVKvQhDs

「ひっ……ひっ!」

 その化け物の異様さから目を離せないでいるエレンをよそに、化け物は触手を駆使し積極的にその強張る体を責め始めた。

 首筋を這い、そのぬめりを塗りつけるかのように肌を舐める。
 いくつもの触手が脇腹を撫で、尻を撫で、胸を撫で上げる。
 絶対に外されない、大丈夫だと縋る気持ちでいた立体機動装置も、ベルトごと眼下の草むらに落ちるのを見送ることになり──

 エレンは、いつのまにか溢れ出した絶望が己の両の目を滲ませていることにも気づけずにいた。





19:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 21:39:45 ID:xVKvQhDs

・・・・・

「んっ……んっ!」

 風の吹き抜ける森にいながら体を覆うものが何もないという不安は、エレンから抗う気力を根こそぎ奪い去っていく。
 全身を舐め回され、夕日を煌めかせるほどにぬらぬらと光る体。
 その体の内側では、はっきりとした変化が起き始めていた。

(ああ……)

 永遠とも思える悪夢の中にいたエレンであったが、実のところ化け物との遭遇からはさほど時間も経っていない。
 短い時間で服を脱がされ、不快感しかなかったその触手のぬめぬめとした感触。

 しかし、今ではその優しい動きが物足りなくすら思えてきているのだ。

(自分で触りたい……)





21:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 22:36:15 ID:xVKvQhDs

(足りない)

(化け物のくせに……何をそう優しくしてやがるんだ……)

(大して意識したこともない胸の飾りが、こんな快感をうむ場所だったなんて……知らなかった)

(汚ねぇ粘液を頭からぶっかけられてから……体が熱くて仕方ない)

(頼むから……もっと強くしてくれ。オレの手を離す気がないなら)

「もっと……強く……」





22:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 22:38:29 ID:xVKvQhDs

「うわっ……んあっ、あっ!」

 エレンの呟きに呼応するかのように、触手は急にその動きを早めた。
 エレンの立ち上がった陰茎を粘液ごと擦りあげ、明確に射精を促してくる。

「あっ……あっ……」

(ああっ……もう……っ!)

 グチュグチュと遠慮の無い水音を立つ。
 触手はまるで必死にエレンを喜ばせようとする恋人のように、彼の快感を押し上げていく。

 そして、霞みがかった意識の中、解放を待ち望んだ瞬間……それはエレンを襲った。

──ギチッ……





23:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 22:39:38 ID:xVKvQhDs

「がぁ……っ!あぐっ……うあ……」

 突如としてエレンの後孔に侵入を果たした触手。
 粘液の助けはあれど、今までの生ぬるい責めから一転して貫かれたその場所は、メリメリと無理に広げられ激しい痛みを訴えていた。

「ぎ……いぃっ!」

 ガクガクと身を震わせ、もがくように手足をバタつかせるエレンだったが、それは無意味な行動であった。
 後孔に侵入した触手は、エレンの抵抗など気にもせずに暴れ出す。

 絶頂の直前まで高まっていたはずの陰茎は既に萎え、触手になぶられようとも反応を示さないでいる。

 そしてその時、エレンの足を血が静かに伝い流れていった。





24:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 22:41:21 ID:xVKvQhDs

「ちくしょう……っ!オレは何を考えてるんだよ……っ!化け物にいいようにされて……っ!!!」

「誰か助けてくれよ、オレは……こんなのは嫌だ……っ!」

 後孔を責められる痛みが、エレンを覆っていた霞みを少しずつ晴らしていく。

 しかし助けを求めるその声はまだ小さかった。
 助かりたいのは確かだが、捨てきれないプライドが邪魔をしているのだ。

 こんな姿は誰にも見られたくないという、当たり前の感情がそこにはあった。

 自分を探しているだろう親友に。
 常に自分を気に掛けてくれる家族に。
 同じ森を駆け抜ける同期たちに。
 自分を鍛え上げ、そして評価してくれる上官たちに──

 化け物に尻をなぶられているこんな自分の姿なんて……絶対に、見られたくない。





25:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 22:43:20 ID:4TAXcRgM

エレンでおっきするのはホモじゃないよな?…な?





27:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 22:44:37 ID:TYsz5Q52

>>25
大丈夫だ…俺はホモじゃないのが確証だ…





26:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 22:44:05 ID:ctWFtCIg

俺もおっきしてるし違うと思うよ





28:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 22:55:08 ID:xVKvQhDs

・・・・・

「ぐっ……ん……?」

 それは緩やかな変化であった。

 突き上げられる痛みに耐え、悲鳴をかみ殺していたエレンの下腹部に起きた小さな変化。

 幸か不幸か、エレンの体が見つけてしまったのは今まで痛みに埋もれて見えずにいた快感の芽であった。

「あ?んんっ……ひぃっ……」

 訳がわからないといった表情で、次第に大きくなる快感に戸惑うエレン。
 しかし漏れる声を抑えられないほどにしっかりとその快感を意識した時、彼を襲ったのは悔しさだった。

(痛みだけに……してくれよ)

(何が悲しくてオレは……化け物にケツを突き上げられるのが気持ちいいだなんて思わなきゃならないんだ?)





29:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 22:57:23 ID:xVKvQhDs

「……やめろ」

「やめろっ!」

「やめろっ!離せっ!離せよぉっ!!!」

「オレはこんなバカみたいな姿を晒したくはないっ!」

 人間として……男としての矜持を保ちたい、負けたくないと、心が悲鳴を上げていた。

 得体の知れない化け物の与える快楽になんて屈したくないのに、それでも高まる射精感に心が折れそうになる。

 再びその鎌首をもたげたエレンの陰茎が、体と心の乖離を如実に示していた。





30:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 22:59:36 ID:xVKvQhDs

「もういい、誰に見られてもいいっ!」

「誰かオレを助けてくれ!」

「誰かぁっ!」

 意図せず漏れてしまう喘ぎ声の合間に、エレンは精一杯助けを求めた。

 しかし、触手は相変わらず遠慮もなく後孔への責めを繰り返し、強く陰茎を擦り上げ続けている。
 胸の両乳首をこねくり回す触手も、確実に快感を押し上げる役割を果たしていた。

 もう、保たない。
 エレンの絶望がその色を深めた。

「ああっ……嫌だ……っ!」

「こんなのは知らないっ!オレは化け物にやられて喜ぶような変態じゃないんだっ!」

「助けてくれ……っ!」

「オレは……っ!」

「……っ!」


 それは無情にも、抗う理性のふちから溢れ出していく。

 エレンの眼下に広がる草むらを濡らす雨となったのは、彼の頬を伝い落ちた涙だけではなかった。





31:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 23:01:13 ID:xVKvQhDs

・・・・・

「──それから先は覚えていません」

 エレンは俯き、誰の目も見ることが出来ずにいた。

 まだ人間相手なら良かったのかもしれない。
 誰が信じるというのか……未知の生物に弄ばれたなどという話を。

「……覚えているのは本当にそれだけか?」
「え?は、はい。勿論嘘も隠し事もしていません。さっきここで目覚める前の記憶はそれが全てです」

「そうか。では今日はもう休め。アルレルト、レンズ、貴様らは私についてこい」





32:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/20(土) 23:06:59 ID:xVKvQhDs

「……え?教官、でもオレの……」
「聞こえなかったか?今日は休めと言ったのだ。夕食は誰か他の者に運ばせる。窮屈であろうとも、今夜は医務室を出るな。これは命令だ」
「は……はい」

 自分ですら記憶を疑いたくなるこの状況である。
 しかし疑われもしない代わりに、信じると言われた訳でもないエレンの戸惑いは最もであった。

 教官について医務室を出るアルミンが小さく振った手に軽く応え、静かになった部屋のベッドで一人膝を抱える。
 サラリとした髪が俯いた目に影を落とし、ふと気づく。


(あ……オレ、風呂入ったっけ?)

(誰かが入れてくれたのかな?)

(恥ずかしい……なぁ……)

(でも……今更、か)





39:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 12:55:24 ID:xVKvQhDs

・・・・・

 エレンが一人、目を開けたままに見た悪夢を忘れようともがいていた同じ時、アルミンは教官室でキースと向かい合っていた。

 医務室を出た後、クリスタは今回の件を他言しないことを約束し、本人の希望によりエレンへと夕食を運ぶ役割を買って出ておりここにはいない。

 目の前で姿勢を正したままのアルミンにも意識を向けずにいるキースは、どこか普段のその人とは違って見える。
 言いにくい事があるようで、とても慎重に言葉を選んでいる、そんな印象を与える沈黙だった。

「……アルレルト、貴様はイェーガーとの付き合いは長いようだな?」
「はい、小さい頃からの付き合いです」

「では最近の奴についても詳しいか?」
「……はい、男子の中ではたぶん、一番彼を知っているかと……」





40:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 12:56:05 ID:xVKvQhDs

「では聞こう……イェーガーには男色の趣味はあるか?」

「……は?えっと……いえ、彼はとてもストイックな性格ですが、性的な興味は女性にあると思い……ます」

「では自分から男に誘いを掛けるようなことも無いと、考えていいな?」
「は、はい。僕は寮でも同室で、彼とは比較的長く時間を共にしています。ですが今までそんな様子は一度も……」
「……そうか」

 予想もしかなった教官の問いかけにアルミンが面食らったのは言うまでもなかった。

(どういう事だ?教官はエレンの話を疑って……?いや、勿論すんなりと信じられるような話じゃなかったのは確かだけど……)

「一つ、宜しいでしょうか?」
「なんだ?」
「……教官は、エレンのいう“化け物”は存在せず、あくまでも“人間”に襲われたのだとお考えですか?」





41:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 12:56:46 ID:xVKvQhDs

「いや、現場にあった大量の粘液をわざわざ人間が用意したとは思えん。それにイェーガーの話を聞く限り、全てを奴の幻覚であるとするには本人の記憶がしっかりし過ぎている」

「また、奴の性格を考えると長々と語れる程嘘も上手くないだろう。誰かを庇うにしても、何も無かったと言い張るのでは無く、化け物に襲われたと主張するのもおかしな話だからな」

 少なくとも教官はエレンをこのまま精神に異常をきたしたとして開拓地送りにしたりはしないだろうと、アルミンは安堵した。

 しかし、それならば先ほどの質問の意図は何だろうか。

 確かにこの世でいう“暴行”は多種多様だ。
 襲われるのがか弱い女子供に限った事ではないということくらい、治安維持を担う立場で無くとも知識としては持ち合わせている。

「……倒れていたイェーガーが兵舎に戻る為に荷馬車に乗せられた事は知っているな?」

 アルミンの疑問ははっきりと顔に出ていたらしい。
 教官の口から、エレンも知らないという新たな情報が伝えられる。

 しかしそれは、アルミンにとってはエレンの話と同じくらい信じがたい話であった。





42:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 13:00:18 ID:xVKvQhDs

・・・・・

「エレンが……荷馬車の中で副官に襲われかけた……?」

「そうだ。私が副官に見張りを任せた。が、その副官がイェーガーに手を出したと言う訳だ」
「何故ですか!?あの人は……副官はとてもそんな事をするような人には──」
「だから私も疑問に思ったのだ。あいつは最近結婚したばかり……その相手とも長い付き合いだと聞いている」

 アルミンだってそれは知っている。
 いつも厳しい教官のフォローに奔走しているような人なのだ。
 男好きだなんて噂がある訳もないほど、奥さんを大切にしている人。

「!……だからエレンが誘ったのではないかと……そう言いたいのですか?エレンは何者かに襲われて傷ついたばかりの体なんです!それなのにそんな事……っ!」





43:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 13:00:54 ID:xVKvQhDs

「落ち着けアルレルト、単なる確認だ。それでなくとも不可解な状況ではある」
「不可解……ですか?」

「そうだ。副官がイェーガーに手を出したと言ったが、それは“中に人を呼んだ後で”行われたのだ」





 エレンの見張りを頼まれた副官は荷馬車に同乗し、暫くした後に小窓から「イェーガーの様子がおかしい、誰か手を貸してくれ」と、そう叫んだそうだ。
 そして荷馬車を止め、中に入った他の上官が見たもの……。

 それは今助けを求めたばかりの副官がエレンを抱き締め、その陰茎を握りこみ熱心に愛撫している姿であった。





44:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 13:01:36 ID:xVKvQhDs

 虚ろな瞳でその行為を受け入れるエレンは、その副官の空いた手を自分の胸へと誘っている。

 まるで恋人同士のような二人に上官は驚き、すぐさま副官を引き剥がそうとした。
 しかしその副官の抵抗は凄まじく、荷馬車に積まれていた縄で拘束されてもなおエレンに触れようと暴れていたという。

 そしてそんな騒ぎの中、エレンは急に消えた愛撫の続きを己の手で続けていた。
 そのとろけるようなエレンの表情に上官は異様なものを感じとり、結局はエレンも副官同様、拘束されることとなったのだった。





「──そして兵舎についてもまだ暴れていた二人には鎮静剤が投与された。それからイェーガーは風呂に放り込まれた上で医務室へ、副官は事が事だけに見張りをつけて営倉にて謹慎中という訳だ」





45:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 13:03:51 ID:xVKvQhDs

 アルミンは言葉も出なかった。

(エレンは一体どうしてしまったんだ……?)

(自分たちと離れた隙に何が……そして荷馬車の中でエレンに何が起きた?)

「……私はイェーガーの言う古木を調べようと思っている」

「!……副官の事はどうなるのですか?」
「友人が襲われて思うところもあるだろう。しかし、今回の件は二つとも無関係とは思えん。古木の異常を調査し終えるまで、副官の事は保留とする」

 逆らっても意味はないとはっきりわかる、有無を言わさぬ言葉だった。
 アルミンに出来ることといえば、教官室を出る前に調査の折りには協力したいと申し出ることくらいだ。

(僕……夕飯食べてないや)

(明日ミカサをどうやって誤魔化したらいいんだろう)

(……なんて小さいんだ、僕の悩みは)

 戻ったところで今一番支えになってやりたい親友はそこにはいないが、アルミンは部屋に戻るしかない。
 今はエレンの心と体の傷が癒えるのを願うほかなかった。





46:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 13:07:51 ID:xVKvQhDs

 翌日の午前中、そして翌々日の午後に、立体機動訓練場には上官五人で構成された調査隊が派遣された。

 上官にとっても見慣れた森であることは確かである。
 探す範囲がわかっているならば見つけ出すのも簡単だろうと調査隊は意気揚々と出発していくが、実のところそう上手くはいかなかった。
 エレンが発見された付近を何度捜索しようとも、エレンが言う“周囲の木よりも明らかに巨大な古木”は発見されなかったのだ。

(おい、古木なんて本当にあるのか?)
(探す範囲は大した広さでも無いのに……普通五人がかりならとっくに見つかってたっておかしくはないよな)

 訓練兵の立体機動訓練を中止し、他の訓練に回してまで森を二日に渡り調べつくしたのにこの結果である。
 いよいよ調査隊の中にもエレンの幻覚ではと疑う者も出てきて、三日目の調査をする必要があるのかという愚痴も聞こえてきた。

 しかしその三日目、ある人物の休暇が明けたことにより、事態は好転することとなる。





47:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 13:08:31 ID:xVKvQhDs

「古木……ああもしかして“癒やしの古木”の事かな?君も世話になったのかい?」
「な、何かご存知なんですか!?」
「ああ、話だけは何度か聞いているよ」

 エレンが精神異常だなどと判断されては困ると切羽詰まっていたアルミンが医務室を訪れたのは全くの偶然だった。
 古木の情報をくれたこの人物、それは身内の不幸で五日間訓練所を離れていて今日復帰したばかりの医務官である。

「ここに勤めて長いけどね、時々訓練兵がその古木の事を話してくれるんだよ」

「森が夕日に染まる頃、疲れきった人に反応して姿を現す古木。その幹に触れるとたちまち元気になるってね」





48:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 13:09:03 ID:xVKvQhDs

「姿を現す?つまり普通に探したのでは見つからないのが癒やしの古木……」
「ああ、“癒やしの古木”というのは私が勝手にそう呼んでいるだけだよ。でもそれに襲われたなんて話は聞いたことも……」

 医務官の言う“癒やしの古木”が、エレンの言うそれと同じであるとは断定出来ない。
 しかし、実のところアルミンやクリスタ、そしてエレンの救助に駆けつけた者が誰一人としてその“古木”を見ていないこと……それが気がかりな部分であったことは確かであった。

(解決……出来るのかも知れない、エレンの言う化け物がいた古木を見つけられれば!)

 それはこの数日で、一番の希望をもたらしてくれた情報だと言える。
 教官の元へ報告に急ぐアルミンの足取りはいつになく軽かった。





49:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 13:10:33 ID:xVKvQhDs

・・・・・

 調査開始から三日目、ついに調査隊は古木の発見を果たした。

 夕日に空が赤く染まり始めた頃、今まで何度もアルミンとクリスタ、そしてエレンから詳しい場所を聞いて探した筈の場所にそれはあった。

 明るい日差しはなくとも目立つ巨大な古木。
 今までの調査でなぜ見つけられなかったのかと疑問も湧くが、怪異を起こし年若い訓練兵を弄んだ化け物がいるという古木の発見に、調査隊にも緊張が走った。

「……いけっ!」
「ハッ!」

 一人の上官が恐る恐る近づく。
しかし、古木の根元まで近づきその幹に触れても辺りは静かなままだ。

 次に屈強な体躯の者が立体機動で古木の枝に降り立った。
 上方へ移動し細い枝をボキリと折るも何の変化も無く、それはただの“折れた枝”でしかない。

 その後も古木の周辺をウロウロとしてみるが、怪しい物音一つせず、澄んだ空気の流れるばかりで普段の森となんら変わる事はないまま。

 意図的に疲労を溜めさせられた二名の上官には同情を禁じ得ないが、最後まで調査隊に怪異が訪れることはなかったのだった。





53:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 20:27:49 ID:xVKvQhDs

『古木を発見、しかしただの樹木となんら変わる事はなく──』

「ふむ……」

(どうしたことか……)

 調査隊の報告を受けたキースは一人、まとまらない思考をため息で誤魔化していた。

 そろそろ決断を下さねばならない時期ではある。
 本部への連絡無しに訓練内容を変更し、更には三度調査隊を派遣した。
 事の詳細を知るものは最小限に留めているが、他の訓練兵までもが騒ぎ出しては抑えようもなくなるだろう。

「やはり鍵はイェーガーなのか……?」

 しかし、普通の性的暴行被害と今回の件は違う。
 再度現場に赴いて、エレンが無事でいられるかどうかはキースにも分からないのだ。
 同行させるべきか、否か。

 その夜、キースは苦渋の決断を下さねばならなかった。





54:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 20:30:59 ID:xVKvQhDs

・・・・・

(大丈夫だ、大丈夫。皆がいるんだ)

(オレは離れて見ているだけだ、あの古木さえ切っちまえばきっと……)

 巨人と対峙するのとは違う恐怖が、そこにはあった。

 今エレンを取り囲んでいるのは調査隊に加わっていた上官五人、キース、医務官、そしてエレンの護衛を任された成績優秀者のライナーにベルトルトだ。
 そしてその一行の遥か後方には本人たちの強い希望により、アルミンとクリスタが控えている。
 本来ならば女性の参加は拒否したい場面であったが、事情を知る者で連絡要員を確保する為の措置である。
 クリスタには十分に「被害者となる可能性があること」が説かれたのは言うまでもなかった。

 医務官以外は全員立体機動装置を装備し、夕暮れ間近の森を古木目指して進んでいた。





56:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 20:32:43 ID:xVKvQhDs

「教官、古木発見致しました!」

 エレンたちより先を行く上官たちが古木を発見したのは、あの日と同じ、夕日が森を赤く染め始めた頃だった。

「おい、これって……」
「ああ……“昨日とは違う”な。気をつけろ」

 しかしその古木は、前日に調査隊が見たような穏やかな森の一部とは言い難かった。
 その生々しい気配に、斧を構えた上官たちも軽口一つ叩けないでいる。

「これだけの大木だ、挟み込むように立ち、両側から切り込め」
「ハッ!」

 教官の命を受け、斧を構えた上官が二人、まず古木へと近づいた。

 周囲の空気こそ重いものの、今のところ何かに襲われる気配はない。
 二人がその大木を挟むようにして立ち、無言で互いにタイミングを合わせると、一気に古木へ斧を振りきった。





57:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 20:33:35 ID:xVKvQhDs

「!?う、うわぁっ!」
「な、なんだこりゃ!?」

 抵抗も少なく、ザクリと幹に深く入った斧。
 しかし、その切り口からは樹液……いや、先日エレンの体を覆ったあの黄色い粘液が大量に飛び出し、上官たちの顔や手を濡らしたのだった。

 こみ上げる不快感に加え、このままでは手が滑って斧など振れない。
 上官は粘液にまみれた斧を他の二人に手渡して拭いてくれるように頼み、自身もその身に降りかかった粘液の除去に取り掛かった。

「チッ、汚ねぇなぁ……」
「全くだ。手がぬるぬるしてなかなか取れん……」

 暫くは愚痴をこぼしていた四人だった。
 しかしその四人は同時にピタリと動きを止め、やがて斧を捨てて静かに歩き出したのだ。

 確かな足取りで、後ろにいたキースや医務官には目もくれず。

──エレンの方へと。





58:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 20:37:29 ID:xVKvQhDs

「おい、上官方の様子がおかしいぞ」
「お、おかしいってなんだよ……騒いでるような感じではねぇぞ?」

 木の枝に立ち、辛うじて見える上官たちの様子を窺っていたライナーの言葉に、エレンの声が震える。

 エレンたちのいる場所は古木から三十メートルほど離れた場所だ。
 何か異変があれば余裕で声も届くはずである。

「いや、やっと古木を切り始めたと思ったのに何故か全員こっちに向かって来てるんだ。俺が様子を見てこよう……ベルトルト、エレンを頼むぞ」

「あっ、おいライナー!」





59:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 20:38:07 ID:xVKvQhDs

 ライナーはベルトルトの返事を待つでもなく、さっさとガスをふかして飛び出していった。
 その後ろ姿を見送ると、ベルトルトは両手に刃を構える。

「エレンは僕の後ろにいて。装置は構えていた方が良さそうだ」
「あ、ああ……悪いな」

 エレンにとって、本来同じ立場である仲間たちに庇われるのは決して居心地がいいものではなかった。
 しかし今は恐怖が先行している為か、素直に応じるほかない。

(頼むから早いとこ切り倒してくれ!)

 祈るような思いでライナーの向かった先を見つめる。
 柄を痛いほどに握り締めるエレンの両手は、とうにその感覚を失っていた。





60:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 20:38:40 ID:xVKvQhDs

・・・・・

「教官、これは一体!?」
「ブラウン!こいつらを取り押さえろ!」
「は……ハッ!」

 古木のそばまで来たライナーは、その場の異様さに面食らってしまった。

 教官ともう一人の上官で暴れる四人を拘束し、医務官は鎮静剤を投与して回っているのだ。
 訳もわからないまま、まだ元気な一人を押さえ込むと、その者を最後に薬の投与は終わったらしい。
 説明を求めるライナーを無視し、キースは次の指示を飛ばした。

「こいつらはもうだめだ、体勢を立て直す!貴様はすぐにイェーガーの元に戻りフーバーと共に奴を連れて逃げろ!」





61:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 20:39:16 ID:xVKvQhDs

「ハッ!」

 不測の事態が起こった事をすぐに理解してライナーは身を起こし、そして今自分が来たばかりの方向へ叫んだ。

「ベルトルト!エレンを連れて逃げろ!」

 ライナーはまるで自分の声を追うかのように装置を構えた。
 目の前の木に狙いを定めアンカーを撃ち込み、自身を巻き上げていく力に身を任せる。


 そのライナーの真横を、追い越して行ったものがあった。





62:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 20:44:26 ID:xVKvQhDs

(十分に距離をとっていたつもりだった)

(あの日自分を取り囲んだ触手の長さを十分に考慮し、予想する長さの三倍以上も離れて待機した)

(恥を忍んで、仲間の体の影にも隠れさせてもらった)

(それなのに……)

『エレンを連れて逃げろ』

(ライナーの叫びからほとんど間もなく、訓練でも感じたことがないほどの重力に晒された)

(呆気にとられたようなベルトルトの顔も、見えたのはほんの一瞬だけだ)

(逃げる為の立体機動装置も易々と外された)

(おしまいだ)

(犯される)

(……今度は仲間の前で)





63:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 20:45:11 ID:xVKvQhDs

 いつの間に現れたのか、古木にはあの化け物の姿があった。

 ぬめついた黄緑色の触手をめいいっぱい伸ばし、目当ての獲物を正確に捕獲する。
 刃を構えていたベルトルトの後ろから呆気なく引きずり出され、ライナーの目の前を高速で通り過ぎ、無数の触手に絡めとられ高々と掲げられたもの……言わずもがな、それはエレンであった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 エレンの口からもれる悲鳴、思い出される悪夢。

 一瞬、何が起こったのか理解出来ずに呆けていた周囲の者も、その声にハッと我に返った。
 そして気づく、最悪の状況だと。





64:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 20:46:32 ID:xVKvQhDs

「く……くそっ!俺が声を掛けたからか……っ!?」

 ライナーはすぐさま方向転換し、古木へと引き寄せられたエレンを追った。
 目の前には無数の触手に捕らわれたエレンが、既に滴る程の粘液を掛けられ助けを求めている。

(狙いは……四肢を拘束する太い触手!)

 古木の奥の木を目指してアンカーを出し、通り過ぎる勢いのままに一本の触手を切断した。
 それによりエレンの左腕は一度解放されたものの、すぐさま別の触手が左腕を拘束し直してしまう。

 しかし、切れない物ではないと分かっただけでも良かった。

(いける!こいつはかなり脆いぞ。全部叩き切って──)

「避けろブラウン!上だ!」





65:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 20:47:26 ID:xVKvQhDs

「ラ……ライナー!?嘘だろ!?おいっ!!」

「目を覚ませよ!ライナーってば!!」

 鳥肌が立つような触手の感触に耐えていたエレンは、目の前の光景が信じられなかった。

 ライナーは確かに一瞬ではあったが、エレンの左腕に絡んでいた触手を切り落としたのだ。
 この化け物は刃で切れる。
 そう希望を持ったのもつかの間、次にエレンが目にしたのは目の前の木に叩きつけられるライナーだった。

 両足を揃えて触手に捕まれたライナーはぐったりしており、どうやら気を失っているようだ。
 触手はそのライナーを古木の上方の枝へと引っ掛けると、興味を失ったかのように放置した。

 そしてやはり、その全ての触手はエレンへと向かう事になったのだった。





66:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 20:57:41 ID:xVKvQhDs

「やめ……い、やだぁ……」

 思い出したくもない記憶だが、あの日の触手は今日よりもずいぶん優しかったと、エレンは頭の片隅で考えていた。

 前回は服も傷つけられることなく脱がされたのに、性急さを増した化け物は鋭利な枝のような触手を体に這わせてくる。
 それはエレンの肌こそ傷つけはしないものの、数少ないエレンの服を確実に切り刻んでいった。

「んっ……くっ」

 ぬめる触手が露わになったエレンの胸を滑る。

 そして前回同様、徐々に熱がこもりはじめる体に霞んでくる意識と理性。
 目には自然と涙が溢れ、またその悔しさからエレンはギリギリと唇を噛み締めた。





67:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 20:58:11 ID:xVKvQhDs

「うっ……ん……え?き、教官……教官っ!待ってください!」

 声を押し殺していたエレンが曇りガラスのような視界の中に見つけたのは、新たな絶望。

 キースが足早にこの場から去っていく、その後ろ姿をその目は捉えたのだった。

(置いていかれるのか?ここに?一人で?)

(体勢を整えたらまた助けに来てくれるのか?)

(応援を呼びに……?でも戻ってくる確証なんて……)

(もし見捨てられたら……?)





68:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:00:35 ID:xVKvQhDs

「い、行かないで……はぁっ……あっ…」

 下着の中に潜り込んだ触手の愛撫に、エレンは熱い吐息を漏らす。
 そしてその隙を縫うように、顔中を撫で回していた触手が一本、エレンの口内へと侵入を果たしたのだった。

 粘液は、想像していたよりも舌に甘い。

(あまい……おいしい……)

(それに……きもちいい)

 エレンの体は与えられる快感に素直な反応を返している。

 ぬめりを利用して陰茎を滑らかにしごき上げられると腰がビクビクとその快感を追って動き、慣れない乳首への愛撫はゾクリと背中を走る電流のようだ。





69:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:01:51 ID:xVKvQhDs

(ずっとこのままでも……いいのかもしれない)


 グチュグチュと耳すら犯す水音に思考を支配される。

 そしてエレンが抵抗をやめた時、下着の中へと更に数本の触手が入ってきた。

 その触手が目指したのはエレンの後孔だ。
 もぐり込む場所を探すように、触手の先で尻を刺激する。

(あ──)

 唐突に開けた思考の霧。
 “あの痛み”への恐怖は、何よりも体が覚えていたのである。

「ぐぅっ!」

 エレンは口内を蠢いていた触手を噛みちぎり、不快な欠片を吐き出し叫んだ。

「──負けてたまるかぁっ!!!」





70:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:06:59 ID:xVKvQhDs

「フンッ!」
「ハァッ!」

 絶叫の後、ふと気づけば目の前にはキースとベルトルトが迫っていた。

 立体機動で一息に距離を詰めてきた二人によって触手が数本断ち切られ、エレンの両足が自由を得たのだ。

 すぐさま触手は二人を捕らえようと新たな触手を伸ばすが、二人は冷静に襲い来る触手へ刃を叩き込み続けた。

「ああ……教官、ベルトルト……」

 置いて行かれたのではなかった。
 エレンの体を弄んでいた触手も徐々に減りつつある。





71:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:07:32 ID:xVKvQhDs

「ぐ……っ!」

 しかし、長い攻防を接近と離脱を上手く使い切り抜けていたキースも、ついに背後からの一撃をくらってしまいその膝をついた。

 化け物の出現に腰を抜かした医務官と上官は既に応援を呼びに行かせているが、戻るにはかなりの時間を要するだろう。

(後はフーバーに頼るしか……っ!?)

「フーバー!何をしているっ!?早く構えろ!」
「ベルトルト!後少しなんだ!早く……え?」

 カシャンと、刃の落ちる音が響いた。
 刃の持ち主はベルトルト。
 彼は何故か古木の真正面に立ちながら、構えもせずにエレンを見つめていた。





72:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:08:53 ID:xVKvQhDs

「あ?……え?」

 戸惑うエレンをよそに、今度は触手が不可解な動きを見せた。
 未だ両腕を拘束され宙吊りになっていたエレンの体が、立ち尽くすベルトルトの目の前へゆっくりと下ろされていく。

 二人の目が合う。
 ベルトルトはいつもと同じ、いや、普段以上に穏やかで満ち足りた表情を浮かべている。

「ベル──?」

 エレンが仲間の名を口にしようとしたその時、腰に辛うじて引っかかっていたエレンの下着が、ベルトルトの手で脱がされた。
 そして粘液にまみれた手をエレンの尻へと滑らせ、浮いたままの体を引き寄せる。

「なっ……やめ……っ!ベルトルト!?」

「……して、……るよ」
「……な、何?」


「癒やして、あげるよ」





73:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:09:29 ID:xVKvQhDs

「あ……な、何で……?お前……」


「ヌンッ!!!」

「え!?ハ……ッ!教官!!!」

 エレンがベルトルトの行動に混乱していた時だった。
 異変を感じ取ったキースは一瞬のうちに距離を詰め、ベルトルトを引き倒して組み敷き、その体を力で押さえつけたのだ。

「エレン!」
「遅くなってごめんなさい!」

「お、お前ら逃げてなかったのか!?」

 そして、新たに合流した二人。
 それは、エレン達よりも遥か後方で待機していたはずのアルミンとクリスタだった。





74:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:10:13 ID:xVKvQhDs

「今助けてあげるからね!」
「ク、クリスタ!?ダメだよ、まだ状況が……っ!」

「くっ……アルレルト、手伝え!そこの縄でフーバーを縛れ、こいつは混乱している!」
「は、はい!」

 到着するや否や、クリスタは果敢にもエレンに纏わりつく触手へと向かって行った。

 キースとベルトルトの活躍でだいぶ触手は減らされているものの、先に切られたものはゆっくりとではあるが再生しているようだ。
 短いながらも太く力強い触手がクリスタを苦しめている。

「そういえばライナーはどこに……あ、あれ?あれは──教官!見てください!古木の上の方!」
「なんだあれは……一本だけ木の上に向かって伸びている触手があるな」

「はい、前にエレンが襲われた時に“本体の居場所は分からなかった”と言っていました。あの太い触手を辿ればもしかしたら……!」





75:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:10:53 ID:xVKvQhDs

 うっすらとではあるが、絶望の中にも勝機が見えた。

 後はベルトルトの拘束を済ませて古木を調べるだけ。
 しかし、頭では理解しているアルミンではあるが、焦りがその手元を狂わせてしまい、なかなか暴れるベルトルトを捕縛出来ずにいる。

「まだか!?……もういい、アルレルト!縄を貸せ!」
「は、はい!すみま──」

 もたつくアルミンから縄を奪い、キースがその役目を交換しようとした、その時だった。

「アルミーンッ!助けてくれ!これは本当にヤバい……っ!」

 エレンの絶叫。そして──


「……癒やしてあげるよ」

 静かに、クリスタの声が響いた。





76:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:15:16 ID:xVKvQhDs

「来るな……っ!おい、クリスタ!目を覚ませってば!」

 宙吊りにされたエレンは、それでも自身に触れようと伸ばされたクリスタの手から逃れようともがいていた。

「癒やしてあげたいの」

 べルトルトと同じ言葉をつぶやきながらふわりと笑顔を浮かべ近づくクリスタに、エレンは冷や汗をかく。

 その言葉は、体に湧き上がる熱と同時にエレンの頭の中でずっと響いていた言葉であったからだ。





77:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:15:54 ID:xVKvQhDs

「マズいな……レンズが粘液を被ってしまったようだ」
「粘液を……ま、まさかベルトルト達は皆、この粘液のせいで……!?」

「恐らく。フーバーも上官達も今のレンズと同じだった」

 キースに押さえ込まれているベルトルト、そして鎮静剤を打たれ転がっている上官達を見ると、確かにその体には粘液が大量に付着している部分があった。

 キースの服にも多少粘液が飛んでいるものの、彼が平静を保っている様子から、どうやら肌に触れなければ平気なようではある。

 しかし辺りは切断された触手から飛び出した粘液だらけで、油断出来ない状況に変わりはなかった。





78:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:16:41 ID:xVKvQhDs

「アルレルト、貴様は本体の特定と破壊に集中しろ。ここは私が抑える」
「し、しかし教官、ベルトルトとクリスタ二人とも操られているのに──」

「なめるなよ若造。さっさといけ!」
「は、ハッ!」

 キースの強い指示に、アルミンは立ち上がり走り出した。

 目の端にとらえたエレンは近づいてくるクリスタに対し足を振り上げて牽制している。
 エレンにとっても、またクリスタにとっても残された時間は多くはなかった。





79:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:17:20 ID:xVKvQhDs

(とにかく上へ行かなくちゃ!)

 巨大な古木を慎重に登る。
 しかし、上へ行けば行くほど枝ももろくなり、思うように進路が定まらない。

 そしてアルミンがこれ以上古木は登れないというところまで来た時、すでに辺りの木々は軒並みその眼下に収まってしまっていた。

「あった……あの塊、きっとあれが……」

 化け物の本体。
 それは意外にも呆気なく見つけることができた。
 古木の細く頼りない幹にしがみついた球体のようなそれは、幹が折れはしないかと心配になるようなほどの大きさで、夕日を浴びて燃えるような赤に染まっている。

 そしてそれを強く照らす太陽に目をやれば、陽がおちるのは時間の問題だということがわかった。

 暗闇で出来ることなど多くはない。
 涼やかな風を全身に浴びながらも、アルミンの背中にはじっとりとした汗が滲んでいた。





80:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:21:57 ID:xVKvQhDs

 辺りの一番高い木から本体を狙ったとしても、その距離は二十メートル程ある。
 細い古木の幹を確実に狙い、ガスの勢いと体重移動で本体目掛けて正確に飛ばなければいけない。
 そしてなにより攻撃が成功した後も、アンカーを刺せる目標が少ない中で落下に備えなければいけないという場面だ。

(僕に出来るか……?)

 アルミンの頭に不安がよぎる。
 ただ森を抜けるという訓練ですら順位は下から数えた方が早く、技術も体力も頭で理解している半分も発揮できていないのが現状だ。
 ミカサであれば躊躇いなく飛び出したであろうこの状況は、アルミンには荷が重い。

 しかし──

(僕しか、いない)

(出来なければ、エレンが危ないんだっ!)

(何としてでも決めてみせる……この一撃で!!!)





81:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:22:35 ID:xVKvQhDs

 アンカーを刺し、一直線に化け物の本体を目指し飛ぶ。
 轟々と耳元でなる風の音も、アルミンには聞こえていなかった。

(エレンを返せ、化け物め……っ!)

「ああああああああっっっ!」

 刃を構えて、薙ぎ払う。
 水を切るような手応えの無さから一瞬遅れて、幹の硬さがビリビリと腕に響く──が、

「ハァッ!」

 負けじと振り切り、アルミンは化け物を幹ごと切り裂いた。

 弾けるように霧散した化け物。

 空に舞うアルミンには、声にならない断末魔が聞こえていた。





82:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:23:36 ID:xVKvQhDs

・・・・・

「エレン!」

 顔中に細かい傷を作ったアルミンが古木へと戻った時、エレンはぐったりと地面に突っ伏していた。
 辺りに散らばっていた化け物の触手や粘液は全て消えており、そこは穏やかな夕暮れの森という本来の姿を取り戻している。

「よくやった、アルレルト」
「教官!皆は……」
「気を失っているだけだ。直に医務官達が呼びに行った応援も来るだろう」

 言いながらキースはジャケットを脱ぎ、服を刻まれてしまった裸のエレンにかける。
 アルミンも慌てて自分のジャケットをかけてやるが、ふとエレンの顔に目をやると目立つ赤が目に入った。

 エレンが、触手に弄ばれる悔しさから噛み締めた唇……そしてそのせいで滲んだ血である。
 親友の心の傷を思うと胸が苦しい。
 しかし、今はただその血をそっと拭ってやることしか出来なかった。





83:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:24:59 ID:xVKvQhDs

「イェーガーは強い。立ち直るだろう」
「……はい、エレンならきっと……」

「……貴様は捕縛の練習をしておけ。いざという時に使い物にならん」
「は、ハッ!」

 目をやればアルミンがあれだけ手こずったベルトルトも、更にはクリスタまでもがきっちりと捕縛されていた。

(終わったんだ……)

 ほっとして、アルミンは思わずその場に座り込んでしまう。

 気づけば辺りはすっかり明るさを失い、肌寒さすら感じる風が流れ始めていた。





84:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:29:11 ID:xVKvQhDs

・・・・・

「切ったのか、あの木……」
「うん。化け物が居なくなってからは粘液も出なくなったみたいだし、今は切り株だけ残ってるってさ」

 エレンとアルミンが、古木について話したのはあれから五日後のことだった。
 何とはなしにお互いが避けていた話題。
 しかし、ふと二人きりになった時に話を始めたのはエレンの方であった。

「実はさ、この前触手に捕まってぶん回されてた時に思い出したんだけど……俺、あの木を見るのって初めてじゃなかったんだ」

「え?じゃああの、初めて君が倒れた時より前に……ってこと?」
「ああ、休日に自主練習してた時にな」





85:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:29:46 ID:xVKvQhDs

 エレンはその日、ミカサとの圧倒的な技術差を埋める為にひたすら立体機動装置を駆使し続けたらしい。

 適切な高度も、吹かすガスの量も、最適なルートも、やればやるほど焦りから荒さが目立ってくる。
 余裕の無さは操作を誤らせ、エレンは張り出た太い枝に激突してしまった。

「それがあの古木の枝だったんだ。中が空洞になるくらい脆い枝だったから助かったけどよ」
「もしかして腕を怪我して帰ってきた時のこと?」

「そう、それだ。そんで、幹をオレの血で汚しちまうわ枝は折っちまうわで……古くてもあんな立派な木に悪いことしたなと思ってさ。一応近くの川で水汲んできて洗ったんだけどよ」





86:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:30:22 ID:xVKvQhDs

「だからさ、もしかしてあの時、オレが枝を折っちまった事に怒って化け物になっちまったのかなって……」

 シュンとしているエレンには悪いと思うが、アルミンは思わず苦笑いしてしまった。

(全く……枝を折った事を気にするくらいの繊細さを、普段はどこに隠し持ってるんだか)

「エレン、たぶんだけど、あの化け物は怒っていたのではないと思うよ」
「な、なんでそんなことが言えるんだよ」

「……倒れている君に服を着せた時、僕も少しだけ粘液を触ったから」





87:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:33:31 ID:xVKvQhDs

「たぶん操られた人達と、感じ取ったものは同じだと思う。ただエレンを“癒やしてあげたい”って、それだけ。その気持ちが他の人の場合よりも大きくなっちゃったんじゃないかな?」

「いやいや……だってオレ……結構痛い思いしたぜ?」

 面食らったようなエレンをよそに、アルミンは続けた。

「多分ね、エレン……君はストイック過ぎるんだよ」

「……は?」

「君は仲間内の猥談だって大して参加もしないし興味もないだろ?手っ取り早かったんじゃないかな……その……癒やしてあげるのに」





88:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:37:04 ID:xVKvQhDs

「納得いかねぇ……けど、まぁ全部終わったならよしとするか」

 憮然とした表情になったエレンだったが、アルミンは最近の近寄り難い雰囲気が薄れていくのを感じた。

 エレンも不安だったのだろう。
 化け物からの得体の知れない執着に理由を見いだせずにいて、気の休まらない日々を過ごしていたのだ。

「ね、エレン。新しい団服が貰えるんだよね?貰いに行こうよ」
「そうだな、行くか」

 まだ暫くは、互いに気遣う毎日が続きそうではある。
 しかしそれも教官の計らいにより罰則無しに手に入る真新しい団服に身を包めば、少しは気が紛れてくる──かもしれない。





89:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:37:39 ID:xVKvQhDs

──数日後

「なぁアルミン、クリスタに言ってくれよ。オレと目が合っただけで顔赤くして逃げるのはやめろって」
「……え?……えぇっ!?本当に!?うわぁ、それってまさか……本当に?」

「ああ。後さ、逃げる前にチンコをチラ見してるのバレてるからなってのも言っておいてくれ」

「……は?」

 最近になりクリスタとの距離を少しだけ縮めたような気でいたアルミンは、エレンにからかわれている事にやっと気が付いた。
 いたずらが成功した時に見せるエレンの笑顔を、アルミンは久しぶりに見たのだった。





90:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:38:16 ID:xVKvQhDs

「ちょっとエレン!……ふふっ、でも本当なの?」

「本当だって。こっちだって全裸見られて恥ずかしかったのによー。思い出しちゃうだろ?やめて欲しいぜ全く」

 あれほど傷ついていた親友の心が、冗談を言える程に回復したことを、アルミンは素直を喜んでいた。
 エレンが言うには、ライナーやベルトルトも相当あの日の事を気にしてしまっているという。

「ああ、そう言えばライナーは足を引っ張った上にずっと気絶してたってへこんでいたね」

「ああ。でもベルトルトの方が特に酷いな。急に話し掛けてきたかと思ったら毎回『弁解させて欲しい。僕はホモではないんだ、断じて。でもあの時は〜』って。もう十回は聞いたぜ」






 カラカラと笑うエレンは、記憶にないながらも話だけ聞いた副官の事も、一切処罰を求めたりはしなかった。
 ただ一言、「忘れましょう、お互いに」と言っただけで。





91:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:38:54 ID:xVKvQhDs

「あーあ!……早く皆忘れてくれねぇかなぁ……」

「……大丈夫だよ、すぐに忘れるさ。僕にとっては、癒やしてあげるーって笑いながら言ったクリスタの方がインパクトあったし」

「あれな。実現してたらオレ、触手じゃなくてユミルに殺されるよな、ハハッ」

「私が何だって?腰痛野郎」
「うわっユミル!急に出てくんじゃねぇよ!」
「ああん!?ケンカ売ってんのかてめぇ!人の名前出してバカ笑いしてたのはそっちだろうが」

「うるせぇな、何でもねーって!お前もオレが腰痛で休んでた事は早く忘れろ!」





92:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:39:29 ID:xVKvQhDs

 つまるところ、それが今回関わった全ての人に対するエレンの望みであった。

 忘れたい、忘れて欲しい。
 そしてアルミン達も思うのだ……忘れてあげたいと。

 互いの願いは流れる時が叶えてくれる。
 厳しい訓練を監督する教官や上官たちも、生傷のたえない兵士を見守る医務官も、自分を鍛え上げることが第一の使命である訓練兵たちも。
 いつかは日々の忙しさの中で、あるいは友人との触れ合いの中で、この記憶を薄れさせていくだろう。


 ……しかし、立体機動訓練場の森には”忘れないで“と囁く声が一つ。

 森を抜ける風が、古木の切り株から出た小さな新芽を微かに揺らしたことを──

エレンはまだ知らない。








93:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:40:50 ID:xVKvQhDs

以上です。
途中レスくださった方、どうもありがとうございました!

触手万歳!





95:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 21:47:52 ID:UZ0QDGDU

面白かった





96:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 22:12:17 ID:ggp0SbnI

乙!
おもしろかった!





99:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 22:26:36 ID:ufABwFqE

面白かった







101:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/21(日) 23:04:47 ID:Ul0GNE4o

面白かった乙





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