2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/04(月) 19:52:47.70 ID:46kVEZIko

最近ボクの周りで、変わったことがあった
学年が変わってクラスメイトが変わったことでもなければ
新しい担任があまり好きじゃない先生だったことでもない

「あ……おかえり」

変わったことと言うのは、毎日学校帰りにボクの家の前に居座っているこの子のことだ
服を見る限り、学校へ行っているようには見えない
髪もぐしゃぐしゃで目つきも悪く、血相も思わしい状態じゃない
そんな子がボクの家のドアの前で体育座りをしている理由は

ただいま

この子がボクの彼女だからだ

元スレ
SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)
「生きてる意味とか」「死なない理由とか?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1359975113/


 
 
3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/04(月) 19:53:18.28 ID:46kVEZIko

この子との出会いは、学年が変わる前のこと
その日のボクは少しイライラしてた
理由がなんだったか、今では思い出せないのだけれど
多分、物凄く小さなことだったと思う
なぜなら思い出せないのだから

今日は外に出れたんだね

「うん……玄関の所、までだけど」

とにもかくにも、そんな日に
ボクの家の前で倒れていたのが、この子だった
驚いたボクはそんなこの子を家の中へ運び
目覚めるのを待ってから事情を聞いたのだ




4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/04(月) 19:53:49.61 ID:46kVEZIko

お腹空いてる?

「ううん、大丈夫。歳木くんが空いた時でいいよ」

話を聞くと、この子はこの辺に住んでいるらしく
あんなところで倒れていた理由は、家から閉め出されてしまったからだそうだ
最初それを聞いたときは驚いて、この子を家に帰そうとも思ったが
本人の懇願もあって、ボクはこの子を家に置いてあげることにした

「……ねぇ、歳木くん」



「なにか……嫌な事、あった?」




5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/04(月) 19:54:38.54 ID:46kVEZIko

この子としばらく一緒にいて、この子が家を出された理由がなんとなく分かってきた
この子は自分のことしか基本的に考えない
お腹が空けば何か食べるし、喉が渇けば水を飲む
痛ければ泣くし、嬉しければ笑う
だがそれはあくまでも自分のためであって

……

だからこうして話しかけてくるのも
決してボクの事を心配しているとかそういう感情はなくて
ただ自分が気になるから聞き出したいだけで




6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/04(月) 19:55:41.67 ID:46kVEZIko

「っう……ぐ」

あったよ、学校でね……色々あるんだ、ボクにも

「ぐ……るじ……」

じたばたともがき、ボクの手に爪を突き立てる
じんわりと滲む血が痛みを訴え、尖った爪が肉を少し削る
これ以上は流石にボクも痛いので、ゆっくりと手を放す

「げっほ……げふ……ぅ」


床に突っ伏し、激しくえずくその子
酸素を求めてもがくその子の背中に、ボクは声をかけた

お腹空いたからご飯、食べよっか




7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/04(月) 19:56:38.24 ID:46kVEZIko

「…………ぅ、ん」

咳の間に微かに聞こえた返事を聞いたボクは
冷蔵庫を開けて晩餐の準備を始める
ボクは料理なんて出来ない
むろん、この子に出来るはずもない
だからいつも食事は冷凍食品だ
この子が来る前もそうだったから、別になんだってわけでもないのだが

「……」

……?

ふいに視線に気付いて、ボクは正面を見る
ボクから視線が返ってきていることに気付いたあとも
その子は気にする様子もなくボクを見つめ続けた
なのであなたはその隙を付いて、その子のおかずをひょいと取り上げた




8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/04(月) 19:58:00.46 ID:46kVEZIko

「あっ……」

別にお腹が空いていたわけじゃない
人のお弁当から摘み食いをするのはなんというか
そういうのじゃないってのは分かってもらえると思うけど
ボクは恨めしさの籠った視線を浴びながら、ゆっくりと唐揚げを口へ運んだ

「むーっ……」

そんなプチ優越感で油断していたボクに向かって
机を挟んで彼女が突然顔を近づけ




9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/04(月) 19:58:44.89 ID:46kVEZIko

ん……むっ

「……ん、ぅ」

唐揚げを無理やり奪われてしまった
ゆっくりと離したボクと彼女の口の間に、とろりと短く糸が伸びる
満足気にぺろりと口を舐める彼女の服を指差してボクは一言

服、汚れちゃったよ

「……あ」




11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/05(火) 06:36:54.90 ID:46kVEZIko

彼女が来てから、ボクの生活が少し変わった
ボクの親はよく言えば放任主義、悪く言えば育児放棄と言うやつで
今の学校に入ってからほとんど一人暮らしのような状態だった
それをいいとも悪いとも思ってなかったが、今の状況を考えるといないでくれてありがたいと思う

「……お風呂、上がったよ」




12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/05(火) 06:37:22.92 ID:46kVEZIko

彼女が着ている服は、ボクが普段着ている服だ
母の服を貸そうかとか、新しく服を買おうかとか提案したが
本人たっての希望でそういうことになっている
口では『あまり迷惑……かけたくないから』などと言っているが
ここにいる時点で大なり小なり迷惑かけていることは理解した上で言っているのだろうか

ん、それじゃボクも入ろうかな

多分、彼女はその辺理解していると思う




13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/05(火) 06:38:33.20 ID:46kVEZIko

「……?」

理解した上で、改善しようとは一切思っていないのだろう
ボクは前にも言ったのに、下着姿で歩き回るなって
壁が鈍い音を立てて軋む
彼女が額を押さえながら、小さな声で『いだぃ……』と呟いた
ボクは聞こえなかったフリをして風呂場へと向かった




14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/05(火) 06:39:02.23 ID:46kVEZIko

……

鏡に映る自分の姿
彼女と同じくらいの身長、貧弱な体格
ボクは鏡を視界になるべくいれないようにして、脱衣所を後にした
綺麗に並べていたはずのシャンプーとリンスの位置が、大きく違っている
こういう所がついつい目に付いてしまうのが、ボクの悪い所なのだろうか
それともこういう所を気にしないのが、彼女の悪い所なのだろうか
とりあえず元の場所に、戻しておこう




15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/05(火) 06:40:06.51 ID:46kVEZIko

……ふぅ

「歳木くん……さっきは、ごめんなさい」

今度はちゃんと服を来た状態で、彼女が風呂上がりのボクの前に立っている
さっきボクが貼ってあげたおでこの絆創膏を押さえながら、謝罪の言葉を述べる彼女
だがそんなこと今はどうでもいい
ボクはガシッと彼女の腕を掴み、引っ張る




16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/05(火) 06:40:42.47 ID:46kVEZIko

「ひっ……」

彼女の体が強張るが、今のボクは別に苛立っているわけじゃない
確かにさっきの風呂場でのことは少し腹が立ったが
それよりももっと言いたいことが今はある

また、やったんだ

「……」

彼女がこうして謝らず黙って目を逸らす時は
自分が悪いと分かっていてそれでも悪いと認めたくない時の反応だ
こういうのは人の勝手だとも思うのだが、やはり見ていて気分のいいものじゃない
何より、こういうことをしておいて隠そうともしないことに腹が立った




17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/05(火) 06:41:20.70 ID:46kVEZIko

何か不満があるの?

「そ、そうじゃなくて……そ、その……」

未だに目を合わそうとしない彼女
それでもボクはじっと彼女の方を見続ける
小さく抵抗され続けているが握った手首を離すつもりも、毛頭ない




18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/05(火) 06:42:01.35 ID:46kVEZIko

「ご、ごめん……なさい……お、怒らないで……」

じわりと彼女の目に、涙が滲む
これも最近になって知ったのだが
どうやらボクは女性の涙に弱いらしい
深く、大きく、わざとらしい溜息を付いてから
ボクは救急箱を持ってきて、彼女の腕に丁寧に包帯を巻いてあげた




19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/05(火) 06:42:21.16 ID:46kVEZIko

「……怒ってる?」

上目遣いにボクを見つめる彼女
確実に分かってて聞いているのだろう
分かって聞いていることが分かっていながらも、ボクの答えは一つ
こう言ってしまったら、どうせまた同じことするんだろうけど

怒って、ないよ




22:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/05(火) 17:24:14.98 ID:46kVEZIko

彼女は一人になることを嫌う
初対面の次の日は、ボクが学校へ行くことを妨害して学校を休まざるを得なかったぐらいだ

「……すぅ」

今もボクの袖を掴んで、離そうともしない
ソファーで寝るのは体に悪いと言っているのに、よっぽどリビングが気に入っているのか
それとも、この部屋にいればボクが必ず顔を出すとでも思っているのか




23:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/05(火) 17:24:42.54 ID:46kVEZIko

……さむ

春というのにこの寒さは、なんとかならないものか
暖房を付けようにも、防寒着を着ようにも、毛布を被ろうにも
こうガッチリと腕を掴まれては、動くに動けない
それでもなんとか指を離し、なんとかその呪縛から逃げる
ボクはなるべく急いで毛布を二つ持ってくる
そして所在なさげに指を揺らす彼女に毛布を掛けると、ボク自身も毛布に包まり
彼女に指を絡め直し、ボクも寝ることにした




24:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/05(火) 17:25:09.86 ID:46kVEZIko

……ん

胸に感じる重量感に目を開けると、そこには丸い毛布の塊があった
もぞもぞと動いているが、明確な意思を持っているようには見えない
要するに、寝ぼけた彼女がボクの上にのしかかっているわけだ
人の温もりを感じないと眠れない性質なのかもしれない
なぜならここ数日、胸に重量感を感じなかった朝が無かったからだ




25:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/05(火) 17:25:38.87 ID:46kVEZIko

「すぅ……すぅ……」

相変わらず寝息を立てる彼女の頬に触れる
平熱が高いのか、それともボクが低体温なのか
触れ合った体から伝わる熱が、心地よい
そうしている間にボクは、もう一度寝てしまっていた




26:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/05(火) 17:26:23.54 ID:46kVEZIko

「……起きて、歳木くん」

……?

次にボクが目を覚ました理由は彼女の声で
ゆさゆさとボクの体を揺らし、不安をたっぷり込めて見つめる瞳と目が合う
元からぼさぼさの頭が、寝起きでさらにぼさぼさになっている




27:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/05(火) 17:27:00.84 ID:46kVEZIko

どうしたの?

「寝てた、から……」

寝てたから何だと言うのか
ボクは少しだけ続く言葉を待ってみる
数分ほど待ってみて、自分の言葉が無駄だったことに気付く
本当に寝てたから起こしただけらしい
ボクの上からどく気がない彼女を無視して、彼女の背中側の壁に掛けてある時計を見る




28:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/05(火) 17:27:33.88 ID:46kVEZIko

……あ

時間はとっくに昼を過ぎている
もちろん、今日は学校が休みなどと言うことは無く
ボクは自分の髪をわしわしと掻き上げ、大きく人あくびをして
彼女の毛先を指先でくるくる回して遊びながら、声をかける

ご飯、食べよっか

「……うん」




29:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/05(火) 17:28:36.99 ID:46kVEZIko

昼ご飯なのか夕ご飯なのか微妙な時間の食事を済ませ
ボクはボーッと天井を見つめていた
学校をサボるのはこれが初めてではない
だがもちろん常習犯というわけじゃなく、教師が適当にスルーしてくれるであろう程度の回数だ
明日学校へ行ったとき、少し面倒そうだが




30:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/05(火) 17:29:03.53 ID:46kVEZIko

「……ねぇ」

突然首に回された手にボクは驚き、その手をパシンッと払いのける
爪の先が当たってしまったらしく彼女の手の平に血が滲んだ
だが彼女はそんな痛みよりも、ボクに拒絶されたことがショックだったのか
すがりつくようにボクの首にまた手を回した
彼女のこういう自分の気持ちに素直なところが、実は少し羨ましくなる
だから少しこうしてやりたくなる




31:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/05(火) 17:29:52.80 ID:46kVEZIko

「……ぁ、がっ」

固い部分を殴った抵抗が、ボクの拳に痛みを伝える
柔らかいように見えて、意外に固い
頬を押さえながら、うずくまる彼女
こういう姿を見ていると、ふつふつと湧いてくる何かを抑えきれなくなる
意外とボクも欲望に忠実なのかもしれない




32:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/05(火) 17:30:29.32 ID:46kVEZIko

……ふぅ

「……ぅ……く」

少し疲れてきたので、ソファーに腰掛けて一休み
彼女がフラフラと立ち上がり、そんなボクの隣に腰掛ける
肩を揺らし、両手の指を組んで小さく身を縮める彼女
そんな彼女の髪に、ゆっくりと指を絡める
ビクリと彼女の体が揺れたが、しばらく撫でると大人しくなって
ボクの肩に頭をこつんと乗せてきた
こういうのも、案外悪くないなと思うボクがいて
そのまま天井を見つめながら時間を浪費してみた




35:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/06(水) 01:31:52.37 ID:46kVEZIko

ボーッとしている間に、外からの光がだんだんと弱くなり
その光がまったく入らなくなる前に、部屋に明かりを点けた
もちろん、彼女はボクの腕を掴んだままだ
彼女は眩しそうに目を細め、ボクの腕を掴んでいない方の腕で顔を庇う
微妙な時間に食事をとったせいか、まだお腹が空かない
それは彼女も同じらしく、いつもならお腹が空いたと言い出す時間だがそれも無い




36:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/06(水) 01:32:19.73 ID:46kVEZIko

「……ねぇ、歳木くん」

ん?

やっと目が慣れてきたのか、彼女が腕を顔から離してあなたの方を向く
相変わらず病的にボクを見つめる、魅力的で引き込まれそうな黒い瞳

「……今日、みたいにさ……毎日、一緒に……」

小さく、弱弱しく、自分が紡ぐ言葉が力を持たない事を自覚しつつ
ボクの腕を掴む力を強めながら、ボクに迫る
そんな彼女をボクは、力の限り突き飛ばす




37:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/06(水) 01:32:55.77 ID:46kVEZIko

「……ぁっ」

体勢を崩した彼女が、尻餅を付きながら小物棚にぶつかる
今のはボク自身、反射的に手が出てしまった意図しない行動だった
だから、そこから先に起こることもまったく予測できなくて

「……い、づっ」

小物棚から落ちてきた鋏が、彼女の腕を掠めて
じんわりと腕から血が滲みだす




38:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/06(水) 01:33:22.42 ID:46kVEZIko

あ……

「……」

彼女は拒絶のショックで半ば放心状態のような表情をしていたが
自分の腕から流れる血を見て、それをぺろりと舐めた
妙に艶っぽさを帯びながら血を舐める彼女に、ボクは手を差し伸べることも忘れて見入ってしまう
彼女が血を舐め終わったとき、ボクはハッと気を持ち直して

ご、ごめん……

彼女に謝罪をしながら、ボクは彼女へ手を伸ばす




39:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/06(水) 01:33:54.09 ID:46kVEZIko

差し出された手に、彼女が指を絡めながらボクの体を引き寄せる
元々力が無いボクが不意を付かれたことで、あっさりと体勢を崩されて
彼女の胸元に倒れ込む形になる

「あやま……らない、で」

ボクの髪を撫でながら、彼女が小さく呟く
近くで見ると、まだ顔が少し腫れているようだ
心地よい熱が全身を包み込むように広がっていく
この温もりはマズい気がする、何がマズいかよく分からないけど
離れようとするが、グッと顔を固定されて目を逸らすことも出来ない




40:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/06(水) 01:34:20.04 ID:46kVEZIko

「……」

……

何かしてくるかと思ったが、意外にも彼女はあっさりとボクを解放した
ボクらはお互いに少し乱れた服を正しながら立ち上がる
そのまま彼女は小さく『お風呂……入るね』と言って行ってしまった
部屋に一人残されたボクは、へたんとその場に座り込んでしまう
ここまで迫られたのは、今までで初めてだった
いつの間にか、ボクが加える側で彼女が受ける側だと思ってしまっていた
鼓動が収まるまで、ボクはへたり込んだまま天井を見ていた




41:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/06(水) 01:34:40.14 ID:46kVEZIko

ボクの鼓動がやっと収まり始めた時、彼女がお風呂から上がってきた
昨日言ったことぐらいは何とか覚えてくれているのか
彼女はちゃんとTシャツ一枚を上に着ている

「……空いたよ」

ぽつりと呟くように、ボクにそう告げる彼女
まだ湿り気を帯びた髪と、少し紅潮した表情が嫌にボクの目を引き付ける




42:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/06(水) 01:35:08.98 ID:46kVEZIko

無意識のうちに伸びていた手が、彼女を捉え押し倒した
馬乗りされても力を帯びずにボクを見つめ返すことしかしない彼女
そんな彼女を見て、ボクもどんどん熱が籠っていく

「……ぅ……げ、ふ」

口の端から小さく、だが荒く息を吐く彼女の指が
ボクの首へとするりと伸びてきてボクはぞくりと震える
てっきりやり返してくるのかと思ったが
そんなことはなく、そのまま伸びてボクの後ろ髪を優しく撫でるだけだった
無意識的に、ボクの指から力が緩んでいく




43:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/06(水) 01:35:49.79 ID:46kVEZIko

「……死ぬかと、思った……ふふ」

酸素が減って生気の失せた表情で、イタズラっぽく笑う彼女
ボクはそんな彼女の視線をまっすぐに受け止めるのが怖くて
彼女の顔を見返すこともなく、風呂場へと逃げ出した




44:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/06(水) 01:36:38.34 ID:46kVEZIko

ボクはまるで、甘い香りに釣られて絡め取られた虫のようだ
ボクに絡みついて、ゆっくりと時間を掛けて溶かしていく
絡め取られている自覚はあるのに、逃げられない
湯船に浸かって体の力を解くと、本当に溶けていくように感じる
体を溶かされていく虫も、こんな気持ちなのだろうか




45:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/06(水) 01:36:56.42 ID:46kVEZIko

……あれ

「……くぅ」

お風呂から上がって居間へと戻ると、珍しく彼女がすでに寝ていた
今まで必ず手を繋ぎながら寝ていたので、それがとても意外に感じているボク
彼女に毛布を掛けながら、ボクはその正面に座った
下を向きながら、手持ち無沙汰に指をくるくると回すボク
掴まれていたら掴まれていたで迷惑だが、掴まれていないと掴まれていないで持て余す

……あぁ

大分溶かされてきちゃってるみたいだな、ボク




48:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/06(水) 20:27:30.62 ID:46kVEZIko

いつもより早く目が覚めたボクは、時計を確認した
時間はまだまだ余裕で、昨日のようなことにはならなそうだ

「……くー……ぅ」

彼女は小さく寝息を立てて、まだ夢の中にいるらしい
昼前に起きることが少ないから、別に驚くようなことではないが
ボクは朝の準備を済ませると、彼女を起こさないように物音に気を付けて家を出た
いつもなら起こすと悪いかもという感情の元の行動だが
今日のそれは、いつもと大分違う感情を含んでいた気もする




49:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/06(水) 20:29:06.30 ID:46kVEZIko

「オッス、歳木」

ん、おはよう

案の定休みの理由について深く聞かれず、担任への軽い返答を済ませてボクの所へ
一人の男子生徒が軽く挨拶をしにきた
この人はボクが新しいクラスになって初めて出来た会話相手だ
席が後ろという接点だけでボクに話しかけてきたよく言えばフランクで、悪く言えばなれなれしい人




50:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/06(水) 20:29:32.44 ID:46kVEZIko

「この時期の風邪は長引くから、気を付けろよ?」

……ん

さっきの会話端を聞いていたのだろうか、風邪の心配をされた
そんなものもちろん嘘なので、ボクは生返事で返す

「まぁ、俺も結構予防に無頓着だから人の事言えないんだけどな」

そう言いながらケラケラと笑う彼
結構彼は会話の主導権を握ろうとしてくるタイプで
ボクが一つを返す間にはすでに二言三言喋ってる感じだ




51:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/06(水) 20:30:32.16 ID:46kVEZIko

「あ、先生来た。また後でなー」

授業が始まるので席へと彼は戻って行った
ボクは授業に使う教科書とノートを出しながら、目を擦った
寝不足と言うわけではないのだが、なんだか目に重さを感じる
最近寝る時間がずれてしまっているからかもしれない




52:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/06(水) 20:31:46.42 ID:46kVEZIko

「――が、―――になって」

……む

元々、授業を真面目に聞いている方の人間ではないボクだが
こんな見事に居眠りをしたことは無かったかもしれない
そう自分で自覚が出来るぐらいに見事に寝てしまっていた、らしい




53:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/06(水) 20:32:16.43 ID:46kVEZIko

授業の終わり毎に彼に起こされては眠り、起こされては眠るといったことを繰り返していると
そのうちボクの事を気遣ってか彼はボクを起こさないようになり
そうこうしてる間にいつの間にか昼休みになっていた

「こんなに居眠りなんて、珍しいな」

彼はときたま、こういう風に相手を知ったように話すことがある
どうもボクはそういう知ったような口というのが好きになれないのだ
一年ぐらい一緒にいた友人なら、こういう感情を持たないかもしれないが




54:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/06(水) 20:32:45.96 ID:46kVEZIko

最近少し、ね

こういう時は適当に言葉少なく返しておけば

「俺も昨日ゲームやりすぎで寝不足だけどなー」

こんな具合に彼が勝手に会話を繋いでくれる
別に人の話を聞くことが嫌いと言うわけじゃないボクは
そんな彼が話を気持ち半分で聞いておくことにする




55:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/06(水) 20:33:18.95 ID:46kVEZIko

「うおっと、話すのもいいがまずは購買行こうぜ」

突然立ち上がった彼にボクは手を引かれる
実を言うとボクはあまりお昼を進んで食べる方ではないのだが
いつも彼の強引さに押し切られて購買へ付いて行ってしまう
彼が買うのは、毎回メンチカツサンドを含むサンド系数個
ボクが買うのは、パン屋さんが作った本格あんぱん




56:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/06(水) 20:33:43.99 ID:46kVEZIko

「歳木さ、それで足りんの?」

もふもふとパンを頬張りながら、彼がボクの方を向いてそう言った
ボクはボクで千切ったアンパンを口に放り入れながら答える

元から、お昼は大して食べないからね

彼がパンをゴクリと飲み込み、次の袋へ手を伸ばしながら言葉を続けた

「もっと食べた方がいいと思うけどなー。食べないと元気出ないぞ?」




57:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/06(水) 20:34:14.93 ID:46kVEZIko

……

彼に悪気が無いことは分かっている
だが、彼は一体ボクの何を知っていて何をもってボクが元気でないと定義しているのだろう
ボクが元気でないなら、きっと彼女は彼から見れば死体にでも見えるのだろうか
なんて他愛もないことを考えていたら、昼休み終了のチャイムが鳴った




62:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/07(木) 18:30:53.10 ID:46kVEZIko

何事もなくその後も授業は進み、ボクの眠気もそのままで
気付いた時には放課後になっていた

「歳木、今日暇か?」

寝惚け眼を擦りながら呆けるボクの耳に、彼の言葉がゆっくりと流れてくる
その意味を理解しながらボクは意識をハッキリさせていく




63:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/07(木) 18:40:54.91 ID:46kVEZIko

……なんで?

「遊びに行かないか!」

ボクの返事と同時かそれよりも速いぐらいの速度で彼の顔が目の前に現れた
活気があって、見ている人まで元気にしてくれるような
そんな大嫌いなタイプの瞳とボクは見つめ合う

やだ

無機質にボクはそう言い放ち、鞄を持って立ち上がる
そのまま横を通り過ぎようとしたボクの腕を、彼の腕が捉えた
悲しいことに貧弱なボクの力では、その拘束とも言えぬ拘束すら解くことは出来ない




64:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/07(木) 18:42:00.73 ID:46kVEZIko

「そんなこと言わずにさ、ゲーセンとかカラオケとか嫌い?」

……

ボクは家庭用ゲームは人並みに嗜むし、歌を聞くことも嫌いじゃない
だがゲーセンもカラオケも好きじゃない、そういう人間だ
そういうのを好きな人は、万人がそういうのが好きだとでも思っているのだろうか




65:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/07(木) 18:42:30.76 ID:46kVEZIko

……離して

「俺だから、嫌なのか?」

彼は依然として手を放そうとはせず
質問にまともな回答が返ってくるまで離さないでいる気なのだろうか

別に、キミだからって訳じゃないよ

「……なら、一緒に帰るぐらいはいいか?」

なおもしつこく食い下がる彼
一体何が彼にここまでさせるのだろうか
ボクは先ほどから手に感じている感想を率直に彼にぶつける

……痛いんだけど




66:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/07(木) 18:43:51.06 ID:46kVEZIko

「あ、ご、ごめん……」

ボクの腕から手を離し、バツが悪そうな表情でこちらを見つめる彼
先ほどの言葉への返答を、待っているのだろうか
ここでボクが走って逃げたら、彼はどんな顔をするのだろう
なんてことも思ったが、新しいクラスで早々に敵を作ってしまうような行動は賢明じゃないだろう




67:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/07(木) 18:44:32.62 ID:46kVEZIko

そのぐらいなら、いいけど

ボクの返答に、先ほどまでとうって変わって明るい表情を取り戻す彼
くるくる回る表情が少し滑稽で、ボクはくすりと笑う
彼はそんなボクの反応に少しだけ恥ずかしそうに顔を伏せ、歩き出した
その背を追うようにボクも教室を出る




68:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/07(木) 18:46:12.30 ID:46kVEZIko

「歳木の好きな食べ物って何?」

……甘いもの

「どんな種類のゲームよくする?……って、ゲーム嫌いだっけ」

……ポケモン、とか

「苦手な教科あったりする?」

……勉強はあんまり好きじゃないかな




69:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/07(木) 18:46:58.46 ID:46kVEZIko

彼は帰り道でもおしゃべりなままだったが、明らかに会話の方向性に違いがあった
学校にいた時と違って、妙にボクの事を聞いてくるのだ
彼の誘いを承諾したことを少しだけ後悔しかけたところで、ボクの家が見えてきた

……ボクの家、ここだから

「あ、もうか……なんか俺ばっかりしゃべっちゃってごめんな」

一人でしゃべり過ぎている自覚はあったらしい
謝るぐらいなら、もう少し話す頻度を減らせばよかったのではないだろうかと思うのだが




70:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/07(木) 18:47:30.01 ID:46kVEZIko

「あれ……歳木、お姉さんか妹さんがいるのか?」

……?

普段はこんな所まで出てくることが無いくせに
こういう時に限ってなぜ玄関の外まで出てきているのか
明らかに寝起きと言ったボサボサの髪に、着の身着のままと言った寝間着姿

……それじゃ、またね

「ん、あ……おう」

突き放すようにそう言って彼を帰らせると
ボクは彼女の腕を引いて家の中へと急ぐ
なぜか不安げにこちらを見つめる彼女を睨むように見つめる




71:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/07(木) 18:48:36.59 ID:46kVEZIko

なに、してんの?

「……そ、その……な、なんだか……嫌な、予感が……」

彼女が言い終わる前に、ボクは彼女のお腹に思い切り拳を埋めた
ビクンと揺れた彼女のことも、痛みを訴える拳もすべて無視して何度も、何度も
ボクの非力な腕でもこのぐらいすれば、少しは分からせてあげることが出来るだろうか




72:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/07(木) 18:49:05.10 ID:46kVEZIko

はぁ……はぁ……

「うっ……おえぇっ……」

彼女の服が汚れ始めた所で、ボクは少しだけ冷静さを取り戻す
ボクの方まで汚れが映る前に距離を取りながら、冷たくボクは言い放つ

掃除、しといてね

「おぇっ……ごべ、んなざ……」

彼女の謝罪を無視しながら、ボクは久しぶりに自分の部屋へ向かう
今日はこのまま、寝てしまおう
そうすれば得体のしれない感情も、少しはよくなってくれるかもしれないし




75:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/07(木) 21:25:17.99 ID:46kVEZIko

お腹、空かない?

「……うん、空いた」

時計の針が1つか2つ進んだぐらいに、ボクはそう彼女に声をかけた
彼女の快諾を聞き、心地よい枕から頭を離すボク
ぐーっと伸びをしてから冷蔵庫へ向かい、夕飯の準備をする
そんなボクを彼女は終始見つめていて、なぜだかドキドキしてしまうボク




76:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/07(木) 21:25:45.10 ID:46kVEZIko

……ボクの顔、何か付いてる?

「……うぅん」

返答の決まりきった質問に、決まりきった返答で返してくれる彼女
その首を振る仕草もなんだか魅力的に感じてしまう
一体全体どうしてしまったと言うんだろうボクは

「……私の顔、何か付いてる?」

……うぅん

そんなやりとりをしながら、レンジから夕飯を取り出し運ぶボク
機械的にぱくぱくと食べるが、味なんか分かったもんじゃなくて
今感じている感覚は、とても甘美で、そして怖い




77:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/07(木) 21:26:03.19 ID:46kVEZIko

……ごちそうさま

「……ん」

気付いたら、ボクも彼女も夕飯を食べ終えていて
全くなんの糧にもならなかった食事を片付ける
後片付けをしている間も、ボクの体は小刻みに震えていた
多くの言葉で踏み入るわけでもなく
一線を越えようと迫ってくるわけでもなく
それなのにボクの内部をじわじわと浸食していくその感情への恐怖




78:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/07(木) 21:26:42.73 ID:46kVEZIko

「……歳木、くん……寒い、の?」


彼女の指が、ボクの肩に触れる
いつもなら心地よく感じるあたたかさが今のボクには気持ちの悪いぬるさに感じて
一瞬気が緩んだ瞬間に、ガシャンと大きな音が部屋に響いた

……っ

「あ……歳木くん、指……」

彼女の手がボクの手にそっと伸びて、そのまま引き寄せられる
破片で傷つけられ血が滲むボクの指に彼女の唇がそっと触れ




79:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/07(木) 21:27:12.75 ID:46kVEZIko

……んっ

そのままするりと、咥えこまれた
ぺちゃ、ぺちゃと粘液が交わる音が妙に耳に響く
普段肌に触れた時よりもさらに温かく、むしろ熱いほどで
本当に体が溶かされるような感覚に襲われた
だがそれは先ほどまで感じていた恐怖よりも甘美な感覚の方が勝っていて




80:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/07(木) 21:27:32.48 ID:46kVEZIko

ん……ふ、ぁぁ……

自分でも聞いたことのないような声が、ボクの口から漏れ出た
そんなボクの様子にもお構いなしに、彼女はボクという存在を貪り続ける
彼女に吸われていく血と一緒にボクという存在が零れ落ちていくような

「あがっ……!」

無意識に出ていた足が、彼女の腹部を見事に捉えて仰向けに転がす
動悸がどんどん早くなって、肩で息をするのも辛い




81:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/07(木) 21:28:02.50 ID:46kVEZIko

「……」

なおもボクを求めて、痛みを押さえて近づく彼女
このままじゃボクは完全に溶かされてしまう
逃げなきゃいけない、逃げなきゃいけない……のに




82:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/07(木) 21:28:47.92 ID:46kVEZIko

ハーッ……ハーッ

子供の知的好奇心にも似たもう一人のボクが、逃げようとするボクを抑え込む
彼女がボクに馬乗りになり、ゆっくりとその唇がボクの唇と重なる
この感覚が意外と悪くないと感じてしまっている辺り
もう元のボクはほとんど残っていないのかもしれないな
冷静さを保てた最後の瞬間にボクは、そんなことを考えていた




84:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/08(金) 20:24:49.91 ID:46kVEZIko

……

乱れた髪と衣服を整え、ボクは立ち上がった
同じくぐちゃぐちゃの格好の彼女に布団を掛け、時間の確認
時計の針が指しているのは12時
昼なのか夜なのかは知らないけど

……汗くさ

ベタベタと張り付く衣服をその場で脱ぎ捨て、ボクは風呂場へと向かった
もちろん鏡は見たくも無いので、視界に最初から入れない




85:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/08(金) 20:25:18.04 ID:46kVEZIko

……ふぅ

体を伝う温水が足元へと伝う度に、一緒に気怠さも流れていくかのようで
いつもより長めにじっくりとシャワーを浴びたい気分だ
湯気が浴室たっぷりに広がるぐらいにシャワーを堪能したところで、ボクはお湯を止める
ぽたんぽたんと垂れる雫を頭を一振りして払い、ボクはお風呂を後にする
ボクは湯船に浸かるのがあまり好きじゃない
全身を何かに包まれるような感覚が、むず痒くて落ち着かないのだ




86:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/08(金) 20:25:45.94 ID:46kVEZIko

「……あ」

……っ

風呂場のドアを開けると、彼女が目の前にいた
大方ボクの姿が無かったのを見て、ボクを探しに来たのだろう
申し訳なさ気な表情をしつつも、何も言おうとしない彼女
ボクからの言葉を待っているのかもしれない
一体ボクに何を言って欲しいと言うのだろうか
許して欲しいのか?受け入れて欲しいのか?叱責して欲しいのか?
あえてボクは一言も発さず、だが彼女から目を離さない




87:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/08(金) 20:26:55.90 ID:46kVEZIko

「え、えと……あ、あぅ……」

だんだんと涙に目が滲み、狼狽えだす彼女
そんな彼女の姿に、さっきまでの変な感情が全部抜かれてしまう
自分の頭が重傷過ぎて、少しだけ笑いが漏れた

お腹空いたね、ご飯食べよう?

「……うん、食べる」




88:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/08(金) 20:27:25.85 ID:46kVEZIko

お腹がいっぱいになった所で彼女を風呂へ向かわせ、ボクはリビングで一休み
時計を改めて確認したが、どうやら今日もサボってしまったみたいだ
そろそろ言い訳も面倒になってきそうな気がする、明日はしっかり行かないと

「……んしょ」

仰向けにソファーで寝ていたボクの横に、彼女が腰を下ろした
ボクと同じシャンプーの匂いなのに、他の人から香ると何かが違う気がする




89:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/08(金) 20:28:19.30 ID:46kVEZIko

ついつい、手を伸ばしてくしゃっと髪型を崩してしまう
彼女の髪は、ボクと違ってかなりの長髪で
正直どのぐらいの期間をかけたらここまで伸びるのか分からない

「ん……くす、ぐったい、よ……」

撫でてみたり、指に絡めたり、軽く引っ張ってみたり
彼女は彼女でまんざらでもないといった様子で、ボクにされるがままにされている
しばらく弄っていると彼女の目がこちらを向いていた




90:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/08(金) 20:29:00.85 ID:46kVEZIko

「……歳木くん、大丈夫?」

……?

一体何が大丈夫と聞かれているのだろうか
体に不調なところは特にない
心配されるようなことは無かったような気がする




91:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/08(金) 20:29:41.75 ID:46kVEZIko

大丈夫って、何が?

「……うぅん、何でもない」

彼女がボクから視線を逸らし、そう言い残した
もうボクへと視線を合わせなくなった彼女が何を考えているのか、ボクには分からない
馬乗りになって首でも絞めれば教えてくれるだろうか?
壁に押し付けて脅しつければ、教えてくれるだろうか?
なんてことも考えたが今はとりあえず、彼女と二人の時間をまったり楽しむことにした




94:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/09(土) 22:24:50.32 ID:46kVEZIko

次の日学校へ来たボクに、担任がいろいろと聞いてきた
体調に問題あるかとか、イジメとかはないかとかそういうの
以前まではそんなことなく二、三言葉を交わすだけだったというのにだ
やはり、流石に休みすぎてしまっているのかもしれない




95:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/09(土) 22:25:30.20 ID:46kVEZIko

「オッス、おはよう」

……おはよう

さっきまでいなかったはずの彼が、いつの間にか席に戻ってきていた
ボクは彼の表情も見ず、一限目の授業の準備をする
だがそんな態度も別段気にしていたないらしく、彼はさらに言葉を続ける

「昨日休んでたけど、何かあったのか?」

……

何かあったら、なんだと言うのだろうか
もしもここで重い話でもされたら、どう対応するつもりなのか
なんだか少し、からかってみたくなってきた




96:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/09(土) 22:25:56.51 ID:46kVEZIko

……言えない

少し庇護欲を掻きたてるような表情を演出しながら、そう呟くボク
演技とはいえ今の自分を鏡で見たら、鏡を割ってしまうかも

「え……」

さっきまでの表情に少し陰りが見えた彼
予想通りの反応に、ほんの少しの罪悪感が顔を出したが
それよりも大きな感情でそれは塗り潰されていく

……

ダメ押しとばかりに意味ありげに沈黙
これで少しは彼も大人しくなってくれるだろうか




97:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/09(土) 22:26:22.38 ID:46kVEZIko

「……げ、元気出せよ?」

彼はどうにかしてボクを元気づけようと言葉を考えて、やっと一言絞り出した
こういう姿、意外と微笑ましくてかわいいかもしれない

……

さらに追撃と言わんばかりに、ボクは机に突っ伏す
彼の表情は見えないが、きっとオロオロとボクを見ているに違いない
そんな彼の表情を見ることも出来ぬまま、授業開始のチャイムが鳴った




98:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/09(土) 22:26:50.87 ID:46kVEZIko

いつもなら授業終わりに軽く声をかけてくる彼が、今日は放課後まで無言だった
朝のあれがよほど堪えているのかもしれない
そこまで重く捉えるほどのことでもなかったような気もするのだが

「……うしっ」

窓から外を見ているボクの耳に、彼の声が聞こえた
妙に近かった気がして振り返ると、彼の顔が目の前にあって

っ!

ガタンッとガラにもなく机を揺らして驚いてしまう
そのまま、イスが傾き大きくバランスを崩すボク
衝撃に備えギュッと目を瞑ったが、二秒三秒待っても衝撃が訪れない




99:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/09(土) 22:27:17.15 ID:46kVEZIko

「す、すまん……驚かすつもりは、無かったんだ」

体が緊張していたので気付かなかったが、彼の腕がボクの腰に回り全身を支えていた
そんな体勢だから、彼の顔もボクのすぐ近くにあって
ボクにも彼女にも無い輝きを持つ、大嫌いで、羨ましい瞳

「……歳木?」

……くすぐったいな

「あ、あぁ……今離す」

彼の腕がボクから離れ、一緒に彼の顔も離れていく
彼女とはまた違った方向性でボクを壊そうとしてくる彼
きっと彼女と違って、彼の場合は無意識なんだろうけど




100:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/09(土) 22:27:48.92 ID:46kVEZIko

「……」

……何か用だったんじゃ、ないの?

待っても彼が話し出しそうにないので、ボクから助け船を出すことにする
彼はその言葉を待っていましたと言わんばかりにボクの手を掴み

「放課後、遊びに行かないか?」

どんなことを言い出すのかと思ったら、前も聞いた台詞だった
違う所は、前みたいな軽い感じがないというか、余裕がないというか
言い終わった彼がボクの方に目を合わせない辺り、大分悩んだ末の言葉だったのだろう
ここで冷たくあしらうのは簡単だけど




101:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/09(土) 22:28:14.98 ID:46kVEZIko

……いいよ

彼の手の平を広げ、軽く指を絡めながらそう答えるボク
予想だにしない行動だったのか、彼が驚いてバッと手を離す
やっぱりなんだか、面白い
くすりと笑いながらボクは立ち上がり、彼の横をするりと抜けて教室の入口へと向かい

……遊びに行くんじゃ、ないのかな?

そう言い残し、振り返らずに廊下へ向かう
すぐにパタパタと忙しい上履きの音が追いつき
ボクより一回り大きい歩幅が、ボクを置いていかずに並んだ




102:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/09(土) 22:28:41.61 ID:46kVEZIko

「歳木は、行きたいとことかあるか?」

……特には

「そうかー……気に入ってくれるといいんだが」

……どこに行くの?

「行ってからのお楽しみ、ってことにしといてくれ」

……そっか

なんて言いながら並んで歩く姿は
街行く人にどういう風に見られているのだろうか
一人の時は全く気にならなかった事が、変に気になってしまう
大分変かも、今日のボク




105:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/10(日) 20:59:27.20 ID:46kVEZIko

てっきり前言ってたみたいにゲームセンターなんかに行くかと思っていたが
彼はそのままどんどん歩を進めていく
夕方だからなのか、平日だと言うのに街には行き交う人が多い
ボクは人混みが何故か苦手だ
理由はと聞かれても、これと言ってはっきりと答えれるわけじゃないけど




106:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/10(日) 20:59:53.77 ID:46kVEZIko

……あれ

ボーッとしていたせいか、彼の姿を見失ってしまったらしい
通学路しか基本的に知らないボクは、ここがどこかなんてよく分からないわけで
人混みの中に、ポツンと一人
まるで世界がボクだけを置いていってしまったみたいだ
なんて自分に酔ってみても、ボクが迷子な現実は変わらないけど




107:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/10(日) 21:02:24.42 ID:46kVEZIko

……帰ろうかな

なんて小さく呟いた時に、ボクの手に温い感触が触れる
その妙な嫌悪感にボクは思い切りそれを振りほどく
拒絶したにも関わらずその手は、もう一度ガッチリとボクの手の握った
その手をボクは掻きむしってでも逃げようとするが、それは叶わず
強い力で人混みから引っ張り出され、ボクはやっとその正体に気付く




108:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/10(日) 21:02:51.30 ID:46kVEZIko

「大丈夫だったか?」

血の滲む手に構わず、彼がボクに優しく声をかけた
ボクはポケットからハンカチを出して、その手を押さえながら小さな声で謝罪した

……ごめん

「いや、あれは俺も悪いわ。声かければ済む話だった」

理不尽な暴力を、軽く笑い流す彼
受け入れられるよりも許される方が心に重くのしかかるなんて、知らなかった




109:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/10(日) 21:03:43.15 ID:46kVEZIko

「おっと、急がないと不味いな」

彼が空を見上げ、そう言って
ボクの手を血の滲んだハンカチごとぎゅっと握り、走り出した
突然のことにボクは唖然として、前のめりになりながらもなんとか付いていく
日がだんだんと、沈んでいた




110:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/10(日) 21:05:02.02 ID:46kVEZIko

「はぁ……はぁ……」

……ハッ……ハッ……

滴る汗をぬぐおうともせず、公園のベンチに座り肩で息をするボクと彼
こんなに走ったことなんて初めてで、全身が焼けるように熱い

「……これ」

……?

彼が指差した方に、ボクの視線がすっと流れる
それは丁度沈みつつある夕日の色が、街全体を包んでいくところで
幻想的で、それでいて現実のものであるという実感のあるその光景




111:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/10(日) 21:05:32.90 ID:46kVEZIko

「ここ、俺のお気に入りの場所なんだ」

ボクと目線を同じ向きに揃え、彼がそう教えてくれた
そんな彼の言葉が耳に届かないぐらい、ボクはその景色に魅了されていた




112:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/10(日) 21:06:25.08 ID:46kVEZIko

しばらくしてその夕日とっぷりと沈んでしまい、辺りが静寂に包まれる
ボクが夕日を見つめている間、ずっと隣に座っていて
何度か鼻を啜っていたことも知っている

……そろそろ、帰るね

「お、おう」

少しだけ足取り軽く、ボクは彼の横をまたするりと抜けて
今度は立ち止らずに出口へ向かう




113:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/10(日) 21:06:51.58 ID:46kVEZIko

「……禊ーっ!」

……?

名前を呼ばれて、振り返るボク
外灯に照らされて伸びたボクの影と彼の影が、重なる

「また、こういう風に誘っていいか?」

……

こういう風に必要以上に出歩くのは、本音を言うと苦手だ
だけど、なんだか拒否する気にはなれなくて
小さく頷きを返してそのまま帰路へと付くボク
ボクだけが壊れていくのは不公平だ
こんなに何かを壊してしまいたい気分は、初めてかもしれない




117:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/11(月) 20:33:39.00 ID:46kVEZIko

「……何かいいこと……あった?」

……?

嫌いな鏡を見つめるボクに掛けられる後ろからの声
その声にハッとして鏡を見つめると、そこに映っているのは
櫛を片手に髪のセットを練習している

っ!

ボクは手を振り上げ、鏡へとそれを振り下ろす
だがそれは、目の前に躍り出た彼女に妨害されて
行き場を間違えた拳が彼女に叩き込まれる




118:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/11(月) 20:34:05.57 ID:46kVEZIko

「あぐっ……」

それでもボクは拳を止めることは無く
ボクは壊したいのか、壊されたくないのか
壊したいなら、何を壊したいのか
壊されたくないなら、なぜ守らないのか

「……ぐ、ぅ……」

強く握り過ぎた拳で櫛が砕け、じんわりと血が滲みだす
滲みだした血なのか、彼女の血なのか分からなくなってしまうぐらいでボクは
拳の痛みに限界を感じて、膝を付いた




119:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/11(月) 20:34:34.40 ID:46kVEZIko

「……気が、済んだ?」

ボロボロの彼女の両目が、ボクの方へゆっくりと動いた
無気力で、虚無的で、堕落的な
大好きな瞳が、大嫌いな表情でボクを見つめる

……見る、な

ボクはゆっくりと手を伸ばす

「え……」




120:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/11(月) 20:35:15.35 ID:46kVEZIko

生ぬるい感触が両手に広がって
それをそのまま、見せつけるように握りつぶす
手の平に広がる感覚が、ボクの背筋を震わせた

「があっ……ぐ、ぅぅぅぅ……」

今までに無い大きな反応を示す彼女
大きな背徳感に、もっと大きな罪悪感と




121:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/11(月) 20:35:47.52 ID:46kVEZIko

「……ぅ」

彼女の手が、力の抜けたボクへと伸びてくる
その手は救いか、はたまた断罪か
受け入れるわけでもなく、拒絶もせず
あるままにボクはただ視線を宙に泳がせた
鏡に映るボクが、ボクをじーっと見つめ返す
彼女の目は好き、彼の目は嫌い
ボク自身の目には、何も感じない、何も
抱きしめる彼女の手も、何も感じない、感じたくない
何も見たくなくて、ゆっくりと目を閉じるボク
そうか、ボクも彼女にしたようにしてしまえば、何も見ずに済むのかな

「……大丈夫、だから……ゆっくり、おやすみ……」

なんてことを考えていたぼくの耳に響いた彼女の一言で
ボクの頭へゆっくりと闇が広がっていった




122:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/11(月) 20:37:16.15 ID:46kVEZIko

目をゆっくりと開けると、ボクの視界に広がったのは天井
体を起きあげると、自分の体に毛布がかかっていることに気付く
どうやらソファーに寝かされていたらしい
ここまでボクを運んだのはきっと

「……」

普段ボクが巻いてあげる包帯を自分で引っ張り出して巻いたのか
顔半分を包帯で覆っている彼女
自分がしてしまった事を見せつけられているようなその姿に
喉の奥から何かが込み上げてきて




123:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/11(月) 20:37:53.88 ID:46kVEZIko

……げっ……ふ……ぅ

どろどろと自分の中から出てくる液体は、自分の意思で止めることも出来ず
ボクの服を汚しながら垂れ流される
まるで自分の中の汚れをすべて流しだしてしまいたいかのように

「ん……」

……はぁ、ぅ……

「え……禊く……あっ」

ボクの立てた音が原因かそうでないかは分からないが、彼女が目を醒ます
彼女はボクの様子を見ると、すぐに台所へ走り手際よくボクの粗相を片付けてくれた
片付けつつもボクを心配する彼女を、吐き気を堪えながら見つめるボク




124:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/11(月) 20:38:31.12 ID:46kVEZIko

「……落ち、着いた?」

……

彼女の質問にも答えず、ボクの視線は一か所
そんな様子のボクに、彼女はそこを押さえながらはにかむ

「……痛かった、けど……禊くんがそれで落ち着くなら……ね」

ここまでしても、キミは何も言わずに受け入れて
その優しさが、嬉しくて怖くて
気付いたらボクの目から、また液体が零れ落ちた
いつぶりか分からないその奔流は留まることもなく
彼女の腕に思い切りしがみ付いて、そのまま泣き続けた




128:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/16(土) 23:21:11.68 ID:46kVEZIko

「おっす、禊」

……

朝の何気ない挨拶に、ペコリと頭を下げるボク
今日は本当に最後の最後までここに来るかを悩んでしまった
彼女にああいう事をしてしまった償いも込めて、彼女に付き添ってあげたかった
だけどそれ以上に、一緒にいること怖くなっている自分もいるらしい

「……また、何かあったのか?それとも、ずっと同じ事で悩んでるのか?」

彼がボクの机に我が物顔で腕と顔を乗せ、こちらを向く
彼の質問の答えはイエス、でもボクは答えなかった
彼もそれ以上踏み込む気は無いのか、黙ってこちらを見つめている




129:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/16(土) 23:22:07.11 ID:46kVEZIko

……大丈夫だから

苦し紛れにボクの口から出た言葉
自分でも意図しないほどに突き放すような言葉で

「……そうか」

彼がボクの席から離れ、前を向いてしまう
自分で突き放しておきながら、身勝手な感情が湧き出して
でも、こういう時どう言えばいいのかなんてわからないボクは
ただ彼の背中をさびしく見つめることしか出来なかったわけで




130:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/16(土) 23:22:33.64 ID:46kVEZIko

彼が休み時間に話しかけてくれないだけで、こんなにも
孤独が辛い物だなんて、すっかり忘れていた
気付くと右の爪が無くなっていたので、左へと移る
やっぱり家にいた方がよかったかな

……あ

ふと視線をずらした先、廊下に見つけた彼
ボクの足が意思とは別に動き出して、彼の後を追う
朝から何も食べてないせいか、足取りが重い
いや、最後に何か食べたのはいつだったか




131:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/16(土) 23:23:04.44 ID:46kVEZIko

……っ

「いって……んだよ」

彼にばかりに気を取られ過ぎて、障害物を避けきれなかったらしい
目の前に立ちふさがられて、彼が見えない
そんな障害物を避けてボクは歩を進め

「おい、待てよ!ぶつかっといてワビもなしか?」

ガッと肩を掴まれるが構わず先へ
肩の生地が掛けられた力に耐えきれず破れた気がしたが、そんなことはどうでもいい
急がないと彼を見失ってしまう




132:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/16(土) 23:23:35.93 ID:46kVEZIko

「なんだこいつ、きもちわりぃな……」

やっと障害物が無くなったが、代わりに彼と大分距離が空いてしまった
なんとか背中を追いながら彼がたどり着いたのは図書室
本は嫌いではないが、大して趣味なわけじゃない
なので中には入らず、外から彼の様子を覗く
彼は本を借りに来たわけではなかったようで
入口付近で図書委員と雑談をしているらしかった
眼鏡の下のツリ目が性格の厳しさを想像させる、女の子

……

楽しそうな横顔が二つ並んでいる
あんな顔見たこと無かったなんて思えるほど、一緒にいたことないけれど
図書室の窓に、ボクの顔が映る




133:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/16(土) 23:24:02.66 ID:46kVEZIko

パリンッ


「きゃっ!?」

「なんだ今の音……わっ、ガラスが!?」

「誰がこんなこと……ん」

「もう、周りの迷惑を掛けない人がいたもんね……どうかしたの?」

「……いや、何でもない」

「手伝ってくれるかしら、善意の一般生徒さん?」

「……どうせ断ってもやらせるんだろ」

「そう思うなら、さっさと箒とチリトリね」

(さっき走っていったの……)

「早くしなさい!」

「……」




134:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/16(土) 23:24:33.04 ID:46kVEZIko

屋上の風は気持ちがいい
今何限だったっけ
彼女、今何してるかな
頬が冷たい
そういえば、午後から雪が降るとか言ってたっけ
でももう少しだけ、こうしていたい




135:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/16(土) 23:25:05.79 ID:46kVEZIko

あの日見たような夕焼けが辺りを包んだ頃
ボクはやっと視線を動かして、空を見上げた
ちらちらと白い粒が、ボクの周りを漂っている
どうりで寒いと思った

……寒い

認識して口に出して初めて、感覚と言うものが生まれて
自分の体に積もる物体の重さも改めて感じ始めた
ボクは世界から切り離されてしまった存在だなんて思ったことあったけど
どんなに強がったって所詮はボクだ

……

このままずっとここにいれば
雪と一緒に溶けていけるのだろうか
溶けてしまえば、もう二度と誰かを傷付けることも傷付くことも無いのだろうか

……ぁ

世界がドロリと溶けだして、ボクの視界を埋めていく
溶けだすそれを止めようとして、またドロリと溶けていく
本当に溶けてしまったのだろうか
少し、怖い




136:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/16(土) 23:25:37.74 ID:46kVEZIko

「――そう――――なよ」

「……は………て」

聞きなれた二つの声が、ボクの耳に反響する
暗い視界の中にはまだ溶けた世界が水に溶けない薬品のように廻っている
それを何とか容器に押し込め、ボクは目を開ける

「俺もこいつが心配でだな……」

「……私がいるから平気」

……

目の前でなんとなく険悪ムードを出している二人は
今ボクが一番会いたかった人と一番会いたくなかった人で
ボーッとしているのだろうか、ボクは自分の頭をゴツンと一撃

っ……

最近、力加減と言うものを忘れていたせいか
予想以上の力が籠っていたらしく、声を漏らしてしまう




137:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/16(土) 23:26:04.98 ID:46kVEZIko

「……」

「……」

……

好きな目を嫌いな目、3つの目がボクを見つめる
とりあえず夢や幻の類ではないことだけは確かになったけど

「大丈夫だったか?禊」

「……寒くない?」

……

二人の質問に答えるために頷くボク
記憶が正しければ、ボクの最期の場所は屋上だったはずだが

「あんな所で倒れてるなんて……誰も見つけなかったらどうなってたことか」

彼がやれやれ、と言った表情を浮かべる
今の答えは全ての疑問を一発で解決する一言だった




138:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/16(土) 23:27:00.60 ID:46kVEZIko

「……寒くない?」

彼女はさっきと同じ言葉を繰り返し、ボクの方に寄った
今気付いたがどうやらボクは布団の中にいるようだ
リビングに布団は無かったはずだが、どちらかが準備してくれたのだろう

……大丈夫

そういえば、彼女に誰かを会わせたことなんて無かったから
ボク以外の人にこんな反応をするって知らなかった
普段の無感情な表情からは想像できないほどに、敵意を向ける彼女
ボクには見せたことのない表情の彼女が、なんだか少しだけ悔しい

「まぁ……禊が心配だっただけで、大丈夫そうなら帰るかな」

ボクの表情を見て安堵したのか、彼が立ち上がりそう言った
本当に、無意識だった
横の彼女が邪魔出来ないほどに自然な動作で
指先が彼のズボンの裾を掴んでいた




139:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/16(土) 23:27:41.91 ID:46kVEZIko

「毎日こんな食事なのか?」

いつもと変わらない冷凍食品と
いつもと違う食卓風景

「……文句があるなら……」

……ごめん

「いや、文句があるわけじゃないんだ……ただ、少し心配になっただけだ」

心配になっただけ
彼にとってはだけと言ってしまえることなのだろうけど

……

「禊く……」

「……禊?」

……え

ボクの頬を伝う雫は、この前彼女の前で流したそれとは違って
嬉しいときにも涙って出る物なんだって、その時ボクは初めて知った




140:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/16(土) 23:28:17.20 ID:46kVEZIko

「禊、今日はどこに行く?」

……どこでも

「……禊くん、髪跳ねてるよ」

……ん、ありがと

「そこの式はこうしてだな」

……んー

「……こうして留めると、可愛い」

……そうかな

ただ一人誰かが増えたところで、ボクの日常は変わらない
恐れることはない、何かが壊れたわけではなく
そこには意味も理由も無い世界が広がっているだけ

……

ここから先、またどうなるかなんて分からないけど
とりあえず私は私みたいです




141:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/16(土) 23:34:44.49 ID:46kVEZIko

これで終わり

最期まで読んでくれた人はありがとう
またどこかで会いましょう




142:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/17(日) 08:55:01.78 ID:TGpfQ6WAO

完結乙です。

主人公は最後に自己肯定できた……のかな?
それも、心に触れてくる彼と身体に触れてくる彼女のおかげ、という感じで主人公の積極的な行動が少ないので物語がなかなか動かない印象。

毎日自分を保つだけで死ぬほど苦労している主人公の不安定さは共感できるけど、流石に表現に抑制が効き過ぎて分かりにくい所も。

>>130
気付くと右の爪が無くなっていたので、左へと移る
↑爪を噛んでいた?




143:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/02/17(日) 15:42:24.80 ID:46kVEZIko

>>142

その解釈で大丈夫です






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