1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 18:50:35.60 ID:6SLLPHsoO
 荷馬車に揺られながら、僕はついさっき買った芸術品を見ていた。

「……妾を見るなと言っただろう。汚らわしい」

 腰まで伸びる真っ直ぐで美しい金の髪。エメラルドのような色をした、いかにも気の強そうな目。スッと筋の通った鼻。桜色の唇。滑らかで真っ白な肌。特徴的な長い耳。
 そう、僕の買った芸術品とは、エルフのことである。罵詈雑言ですら、この美しい声にかかれば芸術品である。

 こんな汚れきった世の中に、こんな美しい物があるなんて、世の中も捨てたものじゃないな、なんて思ってしまい、僕は思わず微笑んだ。

「……なんて気持ちの悪い笑み。鳥肌が立つわ」

エルフ姫ニィーナ
エルフの血脈
よくわかる「伝説の亜人種」事典
元スレ
エルフ「……妾を見るな」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1350035435/
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1350133617/
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1350215475/


 
 
6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 19:00:10.85 ID:6SLLPHsoO
 この芸術品は、服を一切身につけていない。まだ膨らみかけの胸に、ほっそりとした手足、どこにも産毛すら生えていない美しい身体。まるで少女の彫刻のようだ。
 それは、僕の対角で、膝を抱いて座って、こう言った。

「……妾は貴様を許さぬ」

 それで結構。お前がどう思おうと、もう僕の物なんだからね。
 そう言うと、悔しげに顔を歪め、下を向いた。
 悔しがる表情まで完璧とは、本当に僕は良い買い物をした。




7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 19:08:54.35 ID:6SLLPHsoO
 荷馬車が止まった。屋敷に着いたようだ。僕が布をかけようとすると、

「触るな!貴様のような下郎に触られるのを許す程、妾は落ちぶれてなどいない!」

 僕は抵抗するそれの肩を布を持ったまま押さえつけ、耳に口を近づけた。そうして、もうお前は僕の所有物なんだ、今更抵抗しても遅いんだよ、そう囁いた。
 すると、抵抗をやめて大人しくなった。それでいい。

 僕はそれの肩を抱きながら、屋敷へと入っていった。




12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 19:18:33.66 ID:6SLLPHsoO
 僕はまず自室へと向かった
 鍵を開け、中に入り、部屋を施錠した。
 まず「それ」は施錠音に驚いた後、僕の顔を睨み、そうして部屋のベッドを見ると、蒼白になって崩れ落ちた。
 本当に良い反応をしてくれる。実に良い。
 お前は今から僕の女だ、そう良いながら頭を撫でると、手を振り払ってこう叫んだ。

「獣!死ね!死ね!呪い殺してやる!」

 どうしたんだ、そんなに興奮して。処女の癖に、これからの行為を想像して濡れているのか?笑いながらそう言うと、

「……うぅっ……お父様、お母様……助けて下さい……妾を助けてぇ……」

 と、泣き出した。泣き声に快感を覚えながら、勘違いさせておくのも面白いなと思った。
 芸術品を汚すなど、僕がするわけないのだから。




16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 19:28:12.81 ID:6SLLPHsoO
 僕は力の入らなくなった彼女の腰に手を当て、優しく立ち上がらせた。
 案の定、僕が触れると振り払おうとしたが、もう諦めたのだろうか、手を所在なさげにさまよわせた後、力なく下げた。

「せめて……せめて優しくしてくれ……えぐっ……」

 さぁ、どうしようか。お前の対応次第だね。そう囁くと、身体を震わせ、屈辱に耐えるように唇を噛み締めた。
 僕は、抱いている方の手とは反対の手で、彼女の唇に触れ、綺麗な口が傷つくからやめろ、そう言った。

「くっ……今からお前が汚すくせに……」

 どうやら、彼女は性の知識は豊富らしい。勘違いとも気付かずどんどん妄想が加速しているようだ。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797351020/minnanohima07-22/ref=nosim/




20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 19:40:01.77 ID:6SLLPHsoO
 彼女から布を剥ぎ取り、ベッドに優しく横たえる。
 必死に胸と股関を抑える彼女に、力を抜け。手で隠すな。そう命じると、少し迷った後、その通りにした。

 一糸纏わぬ彼女は、本当に美しかった。控えめな胸についた、ぷっくらと尖った桃色の乳首が、これまで見たどんな芸術品よりも美しく、そして扇情的であった。
 滑らかな肌を下っていくと、毛の生えていない恥部が目に入った。見られているのを意識してか、肉付きの良い太ももをすり合わせているのが、僕を誘っているようで、また一層僕の性欲を煽った。

「やるなら、早くしろ……そんな舐め回すように見るな……」

 彼女の言葉で僕は我に返る。そうだな、それじゃあまずは、自慰をしてくれ。僕がそう静かにつげると、彼女は少し意外そうな表情を一旦見せた後、すぐに悲しそうな表情をし、それからゆっくりと頷いた。




34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 20:16:32.21 ID:6SLLPHsoO
 彼女は、右手を恥部にあてがうと、ゆっくりと指を動かし始めた。快感を探るようにして、手を動かす彼女の表情は、恥辱のあまり赤くなっていて、それがまた良かった。
 さっき、意外そうな顔をしていたけれど、期待していたのか?唐突にそう尋ねると、彼女は身体を少し奮わせた。

「な、にを、んっ、言っている、っ…そんなわけっ、ないだろうっ」

 彼女が答えると同時、彼女の恥部と手の間から、水音がし始めた。
 ならば、僕が聞いた途端に、何故水音がし始めたんだろうね?さっき君がしていた、僕に犯される妄想を、また思い出して濡れてしまったんだろう?彼女を責めるように、僕は囁く。

「っ……」

 淫らな音を部屋に響かせながら、恥辱の中で必死に快感を貪る彼女は、たまらなく美しく、僕を興奮させた。




37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 20:31:17.20 ID:6SLLPHsoO
 彼女の手が徐々に激しさを増す。左手は胸にあてがわれ、より多くの快楽を求めて動いている。
 僕に買われて、そしてその前で自慰をしている。しかも、僕に無理やり犯され、処女を失う妄想で、ね。そんなに美しいのに、お前はなんて淫らなんだろうねぇ。今も必死に手を動かして、そんなに気持ちいいのかい?

「あぁんっ……はぁっ、んぅっ!」

 どうやら彼女は、自分の右手から送られてくる快感に夢中で、僕の声など聞こえていないようだ。
 性的快感の中に、逃げているのだ。到底受け入れることの出来ないであろう、この現実から。

「あ、あ、い、っっっ〜!」

 どうやら、絶頂を迎えたようだ。強く目をつむり、絶頂で声をあげないよう、必死に我慢している。愛液に濡れた未熟な秘部が、ぬらぬらと光る右手が、僕の劣情を誘った。
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39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 20:39:29.84 ID:6SLLPHsoO
 どう、気持ちよかった?僕は偽りの笑みを浮かべて、彼女の頭に手を伸ばし、こう言う。

「はぁ、はぁ……頭を、触るな……」

 絶頂の余韻で息を荒くし、脱力した彼女の頭を、優しく撫でる。
 彼女の目を見つめると、その美しいエメラルドの瞳には、戸惑いと、恐怖が浮かんでいた。
 しばらくそうしていると、恐怖に耐えきれなくなったのか、唐突に彼女は呟いた。

「これから、私を犯すのだろう……?」

 震える声で、妾の目を見つめながら言う彼女に、僕は何も答えず、微笑みながら、頭を優しく撫でる。




44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 20:51:46.43 ID:6SLLPHsoO
「……覚悟は出来た。だから、早く終わらせてくれ」

 彼女がそう言うと、僕は手を引っ込め、微笑みを消し、立ち上がった。
 お前が何を想像していたか知らないが、僕は最初から君を犯す気なんて無い。だって、君は芸術品なのだから。
 僕が冷たく言い放つと、彼女は放心したように僕を見つめ、それから僕を睨んだ。

「妾を……妾を、弄んだな……?」

 じゃあなんだ?本当に犯されたかったのか?
 重ねてこう言うと、彼女は黙り、そして静かに泣き出した。
 僕は静かに振り向くと、扉の前へ歩いていって、自室の鍵を開け、外へと出た。
 僕の耳に、彼女の最後の泣き声がこびりついて、離れなかった。




46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 21:03:46.06 ID:6SLLPHsoO
 僕は、使用人達に僕と彼女の分の食事を作るように命令した後、庭へと出た。
 庭に置いてある鉄製の椅子に腰掛け、空を見る。夕暮れの空に、僕の心は少しも動かない。彼女を見た後では、何もかもが色褪せたように感じてしまう。
 そして、今更になって、ただの芸術品を彼女と呼び始めていた自分に気づいた。
 なのに、それを悪くないと思っている自分が、ただの芸術品を女として見ている自分が、たまらなく憎かった。
 これでは、この汚い世界の薄汚いあいつら共と、一緒ではないか。そう呟いた。




48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 21:15:16.48 ID:6SLLPHsoO
 使用人達から、夕食の準備が出来たとの報告を受け、僕は自室へと向かった。

 自室の扉を開けようとすると、鍵が掛かっていたので、ノックをした。自室をノックしている自分に苦笑していると、鍵の開く音がして、彼女が顔を出した。

「……相変わらず気持ちの悪い笑みだな」

 お前は買われた分際なのに、偉く生意気じゃないか。どうしてくれようか。僕が真顔でそう言うと、

「妾は芸術品なのだろう?貴様は我に傷をつけないのだろう?ならば、どう振る舞ってもよいではないか」

 愛らしい顔で皮肉っぽく笑いながらそう言う彼女は、さっきまでの弱さなど、微塵も感じさせなかった。案外、図太いらしい。
 まぁいい。夕飯だ。付いて来い。そう言うと、一瞬目を輝かせて喜んだ後、顔を赤らめ、先程とはうって変わり、弱々しい声でこう言った。

「ふ……服を着せてもらえぬだろうか?」




51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 21:28:41.72 ID:6SLLPHsoO
 使用人に頼んで、服を持ってきてもらったところ、なんとドレスだった。何故ドレスなんだ、と問い詰めると、あんな美しいお嬢さんが貧相な格好をしているのは勿体無い、などと言ってきた。
 僕は溜め息をつきながら、仕方なくそれを受け取った。

「素敵なドレスだ……」

 彼女は目を輝かせながらそう言った。ちなみに、この時彼女は裸であった。
 何故、と問い詰めると、

「あんなところをまじまじと見られたのだ。もう恥ずかしい所など無い」

 ……本当に図太いな、こいつ。
 もういいから早く着ろ。そう言うと、顔を赤くし、上目遣いに僕を見ながら、

「……ひ、1人では着れない」

 何故俺が使用人のようなことをしないといけないんだ。
 そう言いつつ手伝ってしまったのは、早く夕食が食べたかったからで、早くも彼女に甘くなってきたわけではない。




55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 21:41:17.02 ID:6SLLPHsoO
 食堂に行き、席につく。彼女は僕の目の前にいる。
 赤いドレスは彼女によく似合っていたし、何より彼女自身が美しかった。
 買われた時の暗い瞳はなりを潜め、次々に運ばれてくる料理に目を輝かせる彼女に、僕は目を奪われ、フォークを何度か手に突き刺しかけた。

「ここの料理は凄いな。妾はこんな美味しい料理を食べたのは初めてだ」

 彼女が誉めると、使用人が皆デレデレし始めた。もう誰も僕が彼女を買い、彼女は芸術品に過ぎないのだ、ということを覚えてないらしい。また溜め息が出た。

 毎日こんなに豪華な訳ではない。お前が来たから使用人達が気合いを入れただけだ。そう言おうとしたが、これを言ってしまうと、僕も彼女を認めてしまった様で癪だったので、何も言わずに黙々と手を進めた。




57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 21:47:53.62 ID:6SLLPHsoO
「非常に美味だった。みんな、ありがとう。礼を言う」

 食事が終わり、彼女が満面の笑みで使用人達にこう言うと、僕が見たことの無いほどの笑顔で笑いやがった。あいつらいつか僕を裏切りそうな予感しかしない。

 不機嫌になり、早足で自室に戻ろうとする僕に、彼女は弾んだ調子でこう言った。

「食後の運動に散歩などは出来ないのか?」

 僕は今日何度目かわからない溜め息をつき、彼女に、付いて来い、と言った。




62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 22:03:11.49 ID:6SLLPHsoO
 使用人から羽織る物を受け取り、屋敷の外に出る。ひんやりとした空気が心地いい。月の光が淡く僕を照らした。

 ふと振り返って彼女を見る。 彼女は月を眺めていた。そして、静かに、一筋の涙を流していた。真っ白い彼女の肌は、淡く青に輝いていて、妖精のようだった。澄んだ瞳の中で、緑と青が複雑に混じり合い、僕の目を捉えて離さなかった。

 僕がしばらく彼女に見とれていると、彼女は僕を見て、微笑んだ。僕は、その笑みを直視できずに、視線を地面へと落とした。
 ……何故、僕に向かって笑えるんだ。お前を僕は買って、物扱いしていて、あれだけのことをして、今も泣いていたじゃないか、なのに。
 僕は吐き出すように、一気に言った。

 しばらくして、彼女はぽつりと一言言った。

「妾も、な、わからんのだ、自分の気持ちが」




70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 22:16:25.71 ID:6SLLPHsoO
「妾は、一国の姫だった。お父様もお母様も、尊敬出来る素晴らしい方だった」

 彼女は、ぽつり、ぽつりと話していく。僕は、彼女の言葉に耳を傾けながら、彼女の影しか見ることが出来なかった。

「妾は散歩が好きでな。夜中にお忍びで、散歩に行くのが好きだった」

 楽しい思い出なのだろう、彼女の声は弾んでいる。だが、次第に、彼女の声は萎んでいく。

「妾がいつものように散歩していると、何者かが私の後ろにいてな、そうして意識を失った」

 僕は、無意識に心臓の位置を押さえていた。その事に気付いて、やっと心の疼きを自覚した。

「目が覚めると、貴様と妾が荷馬車に乗っていた」




73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 22:31:20.88 ID:6SLLPHsoO
「まだ思考の働かない妾に、貴様は次々と事実を突きつけていった」

「妾は絶望した。神を呪った」

「知らない人間の男に妾を好きにされるのだと思うと、耐えきれなかった。だから、全てを諦めたつもりだった」

 なのに何故。

「……何故、だろうな。お前が私を傷つけないことが、わかったからかもしれない」

 そうか。そう僕は呟いた。そうして、今日は冷えそうだ。散歩はまた日を改めよう。と続けて、屋敷へと早足に帰った。
 結局、彼女の顔を見ることが、出来ないままだった。




76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 22:40:33.83 ID:6SLLPHsoO
 自室に戻ると、僕はベッドに倒れ込んだ。
 決めたはずのことを、僕はもう破りそうになっている。そんな自分の弱さに腹が立った。
 父と母に頼まれた事を守らなければならないのに、僕がこんなでは、僕を信じて逝った両親に顔向けが出来ない。

 ……彼女の両親からの約束は、必ず守り通す。

 僕はそう決意し、微睡みのなかへと落ちていった。




79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 22:49:54.51 ID:6SLLPHsoO
「起きろ。朝だ。使用人が起こしにきているぞ」

 ノックの音と、誰かの声。
 体を揺さぶっている。

「起きろ。起きろ」

 あぁ、お前か……?

「使用人。起きたようだ」

 徐々に思考が覚醒してくる。そうして、この異常事態に気付いた。
 ……何で、お前が俺の隣にいるんだ。すると、さも当然と言うような表情でこう言った。

「仕方ないだろう。知ってる部屋はここしかないのだから、ここで寝るしかない」

 僕は今日一回目の溜め息をつき、そして床にある赤い布の塊を見て、更にもう一回溜め息を付いた。彼女はばつの悪そうな顔をして、

「……悪い。一人で脱ぐのが難しく、少々破れた……」




82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 22:59:01.29 ID:6SLLPHsoO
 一体どうすればドレスが破れるんだ…?唖然としながら僕が言う。

「勝手に破けるのだ。妾もわからぬ」

 戸惑い顔で言う彼女に、……わかった。とりあえず服の着方を学ぼうか。と言い、使用人を呼ぶ。その間に、裸の彼女に布を巻いた。
 僕は、僕の芸術品を独り占めにしたいのだ。使用人にだって見せる気は無い。そう、こいつは女ではなく芸術品だ!自分にそう言い聞かせながら、布を巻く。
 僕が彼女に布を巻いている間、不思議そうに僕を眺めているのが印象的だった。


 少しして使用人が到着し、服の着方講座が始まった。




88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 23:15:25.84 ID:6SLLPHsoO
 その講座が終わったのは夕方だった。使用人は、服の着方を教えるのに、こんなに手間がかかるのはお嬢さん位でしょうね……なんせ一瞬でも目を離すと布一枚になってますから……と疲れ顔で言っていた。
 彼女が笑顔でありがとうと言ったらそんな疲れは吹き飛んだようだったが。

 そうして夕飯を食べ、その日僕は講座の疲れで寝てしまった。
 寝る時に、彼女が不満そうな顔で僕を見ていた気がするが、何かあったのだろうか。

 ちなみに、彼女は自室では裸になるそうで、服が着れるようになった今でも、自室(結局、彼女は僕の部屋を自室とした)では裸である。エルフは、みんなこうなのだろうか…疑問だ。




92:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 23:28:48.26 ID:6SLLPHsoO
 彼女が来て三日目。

「起きろ。使用人がノックしているぞ」

 ……おはよう。寝ぼけ眼でそう言う。

「おはよう。使用人、起きたからもういいぞ」

 使用人の奴、お嬢さんが付いてるから、朝は起こさなくていいかしら、うふふ。とか言いやがった。後で減給を盾に脅してやる、と僕が呟くと、

「妾は朝の目覚めがいいからな。お前を起こすことなど朝飯前だ。だから使用人に頼む必要は無いぞ」

 と言った。そういう問題じゃなく、使用人が僕達を冷やかしたことに問題があるのだが。それを言うのも気恥ずかしく、僕は、お前は裸で寝てるから早く目が覚めるのかもな、と言った。遠回しに服を着て寝ろ、と言ったつもりだったのだが、

「ならばお前も裸で寝るか?」

 と、満面の笑みで言われ、僕は今日もまた朝から溜め息をついた。




95:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 23:43:11.03 ID:6SLLPHsoO
 僕の一日は、特に何もすることはない。
 あえて言うなら、僕の仕事はたまに貴族連中から正体されるパーティーへ出席することだ。ただ、僕は貴族という奴が大嫌いなので、かなりの苦痛だ。
 そして、そのパーティーという奴はかなり悪趣味なのである。僕がこの世で最も嫌悪する物だと言っても良い。

 この世界には、エルフや人間の他にも、多様な種族が存在する。それぞれの種族がコミュニティを持ち、お互いに極力干渉しない。そういう暗黙の了解がある。

 ただ、貴族というのは、大抵が自分は特別だ、などと思っていて、ルールは何でも破ろうとする。
 そんな貴族の集まりであるパーティーは、つまるところ他種族の者が見せ物にされるのだ。残虐かつ冷酷な方法で。




98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/12(金) 23:51:37.83 ID:6SLLPHsoO
 今日は昼間から、そのパーティーをやるらしい。僕にも以前に招待状が来ていた。
 僕は、彼女が自室にいる間に、使用人にその旨を伝えた。彼女には、僕は仕事で出かけたと言っておいてくれ、そう言って、僕は荷馬車に乗って出かけた。



 しばらくして、荷馬車が止まる。降りると、かなり大きな屋敷が見えた。
 ようこそいらっしゃいました、どうぞ中へ。入り口の前に立っていた、やたら香水をつけまくった厚化粧の女が、僕を案内する。
 扉を空けると、中にいた二十人ばかりの人々が皆僕を見て、僕の方へ我先にと早足にやって来た。




101:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 00:02:07.11 ID:6SLLPHsoO
 これは毎回のパーティーで見かけられる光景だ。みんな、僕に対してごますりをしてくる。
 貴族といってもピンキリであり、下級貴族は上級貴族に気に入ってもらわなければ、日々の生活すら満足に出来ない。
 僕は、僕の親のおかげで上級貴族になっていて、そんなわけでこうやって媚びへつらわれるのだ。

 いつもの様に、笑顔で適当に受け答えをしていると、後ろで扉が開く音がした。
 そうして新しく来た上級貴族を取り囲みに下級貴族が行ったところで、ようやく僕は席につくことができた。
 こういう面倒なところも、僕は好きではない。




104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 00:17:01.97 ID:6SLLPHsoO
 料理を適当につまみながら、しばらくすると、パーティーのメイン、異種族の見せ物が始まる。

 前方の劇場に、舞台袖から男が現れる。今日の見せ物は、なんと、エルフです!そう叫ぶ男の声を、僕はどこか他人事のように聞いていた。

 二人のエルフが入れられた檻が運ばれてくる。男と女のペアのようだ。二人ともボロボロの服を身にまとっていて、手と足に枷がはめられている。
 貴族共の興奮の叫びに、その二人の目は絶望に染まる。これから何が起きるのか、薄々気付いているのだろう。

 司会の男の指示で、檻が開けられると、ほとんどの者が檻に殺到した。




107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 00:27:27.60 ID:6SLLPHsoO
 美しいエルフは、このような場では好まれる。
 犯され、殴られ、殺される。

 貴族達は狂ったような笑い声が響く。不愉快なその声を聞いて、二人が地獄に叩き込まれるのを見ながら、僕は何もしない。
 下級貴族の一人が僕のところへやってきて、反吐がそうになる笑みを浮かべて、今回のは上玉ですよ、と言ってきた。
 僕は、いや、見ているだけで十分だよ。君達で楽しんできたまえ。そう行って、傍観する。

 二時間程すると、事切れた二人の無残な遺体が、ゴミのように処理された。

 更に延々と続いた貴族達の長話が終わり、パーティーが終わる頃には、もう夜だった。




110:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 00:37:50.49 ID:6SLLPHsoO
 ただいま、そう言って屋敷に帰ると、使用人達が出迎えてくれた。何も言わない彼らの配慮に感謝しながら、僕は自室へと向かう。

 ノックをしても、反応が無かった。マスターキーを使い、部屋に入ると、彼女は既に寝ていた。
 ベッドに腰掛け、彼女を見る。
 彼女が、僕が二人を見殺しにしたことを知ったら、一体なんと言うのだろうか。
 僕は彼女の頭を撫でようとして、途中で手を下ろした。

 これほど強く、自分はどうしようもなく汚れた存在なのだ、と感じた瞬間は、初めてだった。




112:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 00:48:13.54 ID:6SLLPHsoO
「起きろ。朝だぞ」

 ……目を覚ますと、彼女の顔があった。
 おはよう。使用人は?と聞くと、

「お前、昨日の事を覚えてないのか?」

 昨日と言われ、二人のエルフの姿が脳裏をよぎる。急に黙った僕に、彼女が心配そうな顔をしながら、

「……大丈夫か?昨日は遅くまで仕事だったのだろう?疲れているのなら、まだ寝てていいぞ」

 僕は、あぁ、そうする。ありがとう。と言って、毛布に潜り込むのが精一杯だった。強がることすら、出来なかった。

「おやすみ……」

 彼女のその声に何故か安堵を感じながら、僕はまた眠りに落ちていった。




113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 00:59:08.18 ID:6SLLPHsoO
 背中に体温を感じる。
 温かくて、柔らかい何か。
 寝返りをうって、逆を向く。

「……んぅ……」

 息が僕にかかり、薄目を開けると、目と鼻の先に可憐な少女がいた。
 僕は、何故こうなっているかを考えていると、

「……おはよう……」

 そう言ってきたので、おはよう、と返した。
 僕がまだボーっとしていると、彼女は次第に赤くなりながら、小声でこう言った

「ち……近いぞ……」

 あぁ、そういえば二度寝したんだった。それを思い出して、やっと状況を理解する。何も無かったかのように逆側を向いてベッドから下り、昼飯を食べよう、と言う。

「あ、あぁ」

 次は彼女がボーっとなっているようだった。




5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:09:20.59 ID:6SLLPHsoO
 昼飯を食べ終わり、自室へ戻る。今日は本を読んで過ごそうか、そう思い立ち、使用人に本を持ってこさせた。

「それは何の本なのだ?」

 錬金術、いわゆる魔法の本だ。そう答えると、彼女は心底意外そうな顔で、

「だが、魔法はもっと器具のあるところで学ぶのではないか?」

 確かに、普通はそうする。ただ、僕は両親が残した物を学んでいるだけだからな。彼女は頷き、そうして黙った。

 何で錬金術を知っているんだ?これは、人間だけしか使わない技術のはずだが。僕が本から顔を上げ、唐突に尋ねる。
 彼女は、少し迷うように下を向いてから、顔を上げて、

「妾の国では、人間と貿易していてな。妾達の資源と引き換えに、人間から技術提供をしてもらっていた」




6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:11:18.87 ID:6SLLPHsoO
 そう。貴族は、そうやって他種族と貿易し、栄華を保っている。ただ、他種族との関わりを持つというのはタブーとなっているから、秘密裏に、なのだが。
 それを知っているということは、政を両親から習っていたのか?こう尋ねると、彼女は少し拗ねたような顔で、

「妾を何歳だと思っている。これでも、お前たちの慣習に乗っ取れば、とっくに成人は迎えているのだぞ」

 エルフの寿命は長く、その美しさは死ぬその時まで保たれるという。確か、人間の二倍近い寿命だったはずだ。
 ならば、実際は僕の少し上位の年齢なのか。そう言うと、彼女は少し驚いて、

「そうなのか?うーむ、人間の歳はわからない」

 それが普通だろう。他種族のことなど、一切知らずに一生を終える者も多いのだから。僕はそう言って、本に目を落とした。




7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:13:06.08 ID:6SLLPHsoO
 使用人のノックの音で我に返り、今いく、とだけ返事をする。彼女を見ると、ベッドの上で本を読んでいた。せわしなく目が動いている。かなり集中しているようだ。
 勝手に読むな、僕はそう注意するが、全く反応しない。
 肩を掴んで軽く揺さぶると、ようやく反応した。

「どうした?夕食か?」

 何故勝手に本を読んだ。そう聞くと、

「妾は何度もお前に読んで良いのか尋ねたが、お前は本に夢中だったからな。妾がいるのに本を置いていたから、構わないのかと思って。だめ、だったか?」

 彼女は、ばつの悪そうな顔をしてこう答えた。
 ……お前に読まれたところで、困る本ではない。それに、読んだところでお前の役に立ちはしないだろう。それでも読みたいのなら、勝手にしろ。
 僕がそう言うと、彼女は嬉しそうに目を細め、頷いた後、服を着始めた。




8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:15:28.18 ID:6SLLPHsoO
 夕食が終わり、自室に戻ろうとしたところを、使用人に引き止められた。彼女に先に戻っておけと言って、使用人室へ向かう。

 部屋に入ると、使用人は、淡々と、次のような報告を始めた。

 エルフの国でクーデターが起きたとのこと。前王は殺され、新体制となったようです。恐らく、人間と手を組んだエルフによるものでしょう。前々からされて いた噂は本当だったようです。貿易は続けるとのことでしたので、私達の生活には直接の影響はありません。ご心配無く。

 使用人室には重い空気が流れていた。我が家はエルフの国とは密接な繋がりがあっただけに、予想出来たクーデターだったとは言え、ショックは大きいようだ。




9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:18:02.00 ID:6SLLPHsoO
 ここにいる使用人達は、先代から仕えてきた者ばかりで、僕はほとんどの仕事を、彼ら彼女らに任せている。そのため、貿易をする必要上、様々な種族と関わりを持っていた。
 エルフの彼女をお嬢さんと呼んで、当たり前のように使用人達が接するのは、そのような理由からである。
 エルフの国王が殺された、というのは、使用人達にとっては、旧友が殺されたのと同じような感覚なのだろう。

 僕は、わかった。報告ご苦労だった。そう労いの言葉をかけ、使用人室を後にした。



 自室に戻ると、彼女はまたベッドで本を読んでいた。
 自分の両親が殺されたと知らない彼女は、目を輝かせて、その元凶となった、錬金術の本を読んでいる。
 僕は、こいつは何も知らない。それでいい。これで約束は守れる。そう自分に言い聞かせながら、そんな彼女を見ていた。




10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:19:18.62 ID:6SLLPHsoO
 彼女を買ってから、今日で五日目。彼女はすっかり日常に溶け込んでいた。
 朝、僕を起こし、一緒に朝食を食べ、本を読み、昼食を食べてまた本を読み、夕食を食べ終わると、またまた本を読む。
 驚くべき集中力である。僕も本を読む方だと自覚していたのだが……
 本を読むのは好きだったのか?そう聞くと、

「政を習うのに、本を読まなければならなかったし、物語なども好きだったからな」

 錬金術の本は、楽しくないだろう。こう言うと、

「そんなことはない。それに、妾は一回学んでみたかったのだ。お母様とお父様が夢中になっていた人間の魔法を」

 笑顔でそう言う彼女に、そうか、とだけ言って、また本を読むのに没頭した。そうして、また一日が終わった。




12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:20:38.56 ID:6SLLPHsoO
 こんな生活が更に一週間続いた。何かに夢中になると、時の流れは恐ろしく早くなる。

 彼女が僕の物になってから、十三日目。彼女は、ふと、こんな事を言い始めた。

「実際に、実験をしてみたいものだ……」

 何のために?僕がそう尋ねると、

「知識の収集にのみ力を注いでも、それを実際に使えるかどうかはわからない。習ったことを実践しなければ、生きた知識にはならない」

 真剣な表情でこう言う彼女に、幼い頃の自分を思い出した僕は、何も言い返せなくなり、結局押し切られてしまった。




13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:22:43.11 ID:6SLLPHsoO
 屋敷の地下にある、僕の実験室へと向かう。扉を開けると、そこには整えられた実験室があった。

「この屋敷にこんなものが……」

 彼女はかなり驚いていた。無理もない。本でしか見たことの無かった物質や器具が、全て目の前に置いてあるのだから。
 さぁ始めよう。そう言って、僕らは準備を始めた。


 錬金術とは、もとは金を作り出す事が目的だったようなのだが、そんな物は既に達成されてしまっていて、今の錬金術の目標は、全ての願いを叶える、万能の力を手に入れることである。
 今回は、炭から金の生成をする。
 物質その物を変化させることこそが、錬金術の要であり、その基礎訓練としては代表的な物である。




15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:25:00.94 ID:6SLLPHsoO
「――――――!」

 錬金術が魔法と言われる所以は、呪文によって物質を変化させるからだ。

「出来た……だろうか?」

 貸してみろ。そう言って彼女の作った物を手に取る。
 軽い。確かに外側は金なのだが、内側まで呪文は浸透していないようだ。
 ただ、触媒無しにこれだけ物質を変換できるというのは、かなりの才能があると言ってよい。
 中身は完全に炭のままだが、頑張った方じゃないか?そう言って返すと、悔しげに顔を歪め、その炭に向かって、

「何故妾に従わぬのだ。妾に従え!」

 などと言ってから、また呪文を唱え始めた。

 触媒を使って、呪文の浸透率を上げれば、確実に純金が出来上がるだろうが、僕はそれを言う気にはなれず、黙って彼女を眺めていた。




16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:27:36.81 ID:6SLLPHsoO
 結局、夕方まで実験室にいた僕達は、夕飯を食べ終えると、彼女は、明日に向けた知識の収集のために本を読み出した。僕も本を読み始め、静かに夜は更けていった。


 次の朝、彼女はまだ寝ている僕の手を引っ張りながら、

「早くいくぞ!時間が惜しい!」

 と言ってきた。まだ眠いと言っても聞かないので、僕は仕方なく起きた。

 手を引っ張られるまま、食堂に行くと、使用人達は手を繋いでいる僕らを見て微笑んだ。手を繋いだまま座れるようにだろうか、彼らは椅子を並べて引いた。
 僕はされるがままに席につく。彼女はナイフとフォークを持とうとして、ようやく僕の手を握っているのに気付いたらしい。顔を赤らめて、

「わ、わざとではないぞ!成り行きだ!勘違いするな!」

 そんなことを言ってから、僕の手を離して、食べ始めた。
 僕もまだはっきりと覚醒しない頭で、もそもそと食べ始めた。




18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:29:51.06 ID:6SLLPHsoO
 食べ終わると、使用人が僕を呼んだ。彼女を見ると、今にも飛び出しそうな表情をしていたので、よけいな物には触らないように、とだけ言ってから、先に実験室へ行かせた。



 パーティーの招待状です。今週末のようですね。これまでで最も規模の大きなパーティーだそうです。使用人は淡々と言い、僕も淡々と、わかった。とだけ答える。
 おそらく、エルフのクーデター成功の暁に、大量のエルフを貰ったのだろう。全く、反吐が出る。そう思いながら、僕は実験室へと向かった。




19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:31:12.99 ID:6SLLPHsoO
 実験室に入ると、異臭がした。彼女が炭にかけている、何かの液体が元凶らしい。
 この臭いは……触媒か?近付いてそう尋ねると、

「そうだ。昨日本に書いてあってな。……何故、昨日妾に秘密にしていたのだ」

 半眼で責めるように言う彼女。実験というのは、そんな簡単に上手く行かないものだ、ということを教えようとしただけだ。
 僕がそう言っているうちに、彼女は触媒のかかった炭に呪文を唱える。拳大の炭が萎んでいき、手の平サイズの純金へと姿を変えた。
 彼女はそれを持ち上げ、そのずっしりとした重みを感じ、ふむ、と一つだけ頷くと、得意気な顔で、

「こんな風に上手くいったら、面白くないからだろう?」

 と、声色まで得意気にそう言った。




20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:33:36.25 ID:6SLLPHsoO
 そういう風に調子に乗るのが目に見えていたからだ。僕は一言そう言って、彼女の手の平の上の金を取り上げ、彼女の手の届かない位置まで手を上げる。
 あ、と言って拗ねた表情をする彼女。おもちゃを取り上げられた子供みたいだな、と思い少し笑った。

「妾を今子供みたいだと思ったな!?妾を子供扱いするな!そしてその気持ち悪い笑みをやめろ!」

 全くうるさい奴だ。
 少し金の密度が荒いな、もっと触媒を上手く調合しろ。そう言って、手の平を返し、金を下に落とすと、彼女は慌てて両手でキャッチした。

「人の物を粗末にするな馬鹿者!落としたらどうする!」

 と叫ぶと、静かにポケットに金を入れ、触媒の調合を再開した。
 元々その炭も触媒も僕の物なんだが。お前の物じゃないんだが。喉元まで出掛かったその言葉を飲み込む位には、僕は大人だった。




21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:35:27.28 ID:6SLLPHsoO
 このようにして、彼女の実験はどんどん高度な物になった。


 翌日、つまり、最初の実験を始めて三日目には、二つの物質の合成に挑戦した。さらにその翌日にはそれを成功させた。
 五日目には、三種以上の物質を合成したし、六日目には、合成させる時に、それぞれの物質の好きな特性を選ぶことを成功させた。
 例えば、金と布とを合成し、質感そのままに金色の布を作ることができる。まぁ、そんな物を作ったところで、眩しいだけだろうが。

 このようにして、彼女の錬金術のスキルは、本を読んでいた時期も合わせると、たった二週間で、並みの貴族を超すレベルにまで達した。




22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:37:59.20 ID:6SLLPHsoO
 そうして、翌朝。彼女が買われて二十日目。

「起きろ。今日は仕事なのだろう?ビシッとしなければ」

 いつものように、彼女の声で目を覚ます。ここで起きなければ、無理やり手を引っ張られ、使用人達に冷やかされる。最近はその想像で、朝スッキリと目が覚めるのだから、感謝しなければならないのかもしれない。

「よし、起きたな。待っていろ、妾は服を着る」

 この前、僕を起こす前に服を着ろ、と言ってみたところ、

「妾は極力裸がいいのだ!」

 と、力説された。
 エルフというのは、美しい故に、その溢れんばかりの魅力を発散しないと、死んでしまうのかもしれない。そうでないなら、こいつはただの露出狂なのだろう。
 試しに、お前は露出狂なのか?と尋ねると、ゴミを見るような目をされたので、前者のようだ。

 僕は彼女の着替え姿を見ながら、それにしても、毎日見ても飽きない美しさだ、と内心感動していた。




23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:38:52.29 ID:6SLLPHsoO
 朝飯を食べ終え、外行き様の服に着替える。彼女には、今日は実験室には入らないように、とだけ言って、僕は出かけた。


 目的の屋敷に着き、扉を開けると、いつもの様に下級貴族達がわらわらと集まってきた。
 適当に受け答えをし、次の上級貴族へ皆が行った後、席につく。
 周りを見渡すと、有名な上級貴族が何人かいた。今回のパーティーが特別だ、というのは、どうやら本当のようだ。
 一体この中の誰が、エルフのクーデターに協力したのか、僕には全員が怪しく思えて、判断できなかった。




25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:40:45.34 ID:6SLLPHsoO
 しばらくして、今回のメインが始まった。司会は女のようだ。今回は、これまでで最大級のメインでございます。ここにいる皆様一人一人に、エルフが一匹付きます!司会の女も興奮した様子で、上擦った声でそう言った。
 入り口の扉が開き、ぞろぞろとボロ布を纏い、手枷と首輪を付けられたエルフ達が入ってくる。
 貴族達の歓声が爆発した。
 僕は、一体、こんな大量の者達をどうやって誰にもバレず運んだのだろうか。そんなことを思っただけだった。

 上級貴族の皆様から選ばれて下さい、そう言われ、エルフ達の顔をチラリと見る。すると、見知った顔が二つあった。




26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:42:45.91 ID:6SLLPHsoO
 普段僕はあまり楽しんでいないんだ、こういう時くらい、わがままを言ってもいいだろう?そう皆に言うと、貴方も人が悪いなぁと言いながら、どうぞと言ってきた。
 僕は、さっき目に付いた二人、いや、この場では二匹と言った方が正しいだろう、その二匹を選んだ。

 二匹の目の前に行くと、僕の顔を見て、ほんの少し眉を動かした。
 王と王女は殺されたと聞いたが。僕がそう囁くと、約束……約束は、果たしているか?そう囁き返してきた。
 僕がほんの少し顔を動かし、それを肯定すると、彼等は安堵の表情を浮かべた。
 その後ろでは、真っ先に選んだ僕が、エルフをどう扱うのかを心待ちにしている貴族共の、僕へ向けられた視線を感じる。

 いつも参加しない彼は、一体、どんなことをエルフにするのだろうか。そんな吐き気のするような残酷な期待。

 僕に任せろ、安らかに逝け。僕がそう囁くと、王と女王は、微かに微笑み、目を瞑った。




27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:45:50.83 ID:6SLLPHsoO
 僕は、懐のナイフを取り出すため、右手を上着の中に入れた。僕の錬金術で作られた合金で、よく切れる。
 そうして、二匹に向かって呪文を呟き、ほんの少し遅れて、ナイフで二人の首元を横に薙いだ。
 二匹は同時に崩れ落ち、僕は勢いよく吹き出す鮮血を身体に受ける。
 エルフの内の何人かは、恐怖のあまり失禁し、何かうわごとを言いながら、その場に座り込んだ。唖然とする貴族達の方へと振り向き、血だらけのまま、僕は次のように話した。




28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:48:08.91 ID:6SLLPHsoO
 僕は他種族という奴が大嫌いでね、本当ならこうやって、一思いに殺してやりたいんだ。特に、芸術品のようなエルフを殺して壊してやるのは、最高だ。
 ただ、それをやると君達が楽しめないからね。まぁ、今回で僕は結構満足したよ。
 さぁ、どうぞ、次は君達の番だ。存分にやっておくれ。

 そう言って戻ると、貴族共は、僕を畏れと賞賛の入り混じった目で見てきた。
 服に着いた血は、もう落ちないだろうな、そう思いながら、血を洗い落とすために風呂場へ向かった。

 この時、ある上級貴族が、僕を疑いの目で見ていたことを、僕は微塵も気づいていなかった。




30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:50:06.07 ID:6SLLPHsoO
 夜中、屋敷に戻ると、使用人達は、僕の服が変わっていることに気付いたが、それには何も言わずにいてくれた。全く、こういう時の気配りは有り難い。


 自室に戻ると、彼女は、ベッドに腰掛け、こくりこくりと船をこいでいた。僕が来たことに気付くと、眠そうな顔で、微笑しながら、

「お疲れ様。仕事は上手くいったか?」

 僕は笑顔で、あぁ、と呟く。彼女に近付いて、待っててくれたのか、ありがとうな。眠いならもう寝て良いぞ。僕もすぐ寝る。そう言う。

「わかった、おやすみ……」

 そう言って、掛け布団にくるまると、すぐに気持ちよさそうな寝息を立て始めた。

 僕は、全く感情の起伏を感じなかった。約束を守れている、それだけを、心の中で繰り返し唱え続けているだけだった。

 冷えた思考のままベッドに横たわり、隣の芸術品を横目で確認して、目を閉じた。




32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:51:51.84 ID:6SLLPHsoO
 次の日、彼女を買って二十一日目の朝。僕は誰にも起こされることなく目を覚ました。
 隣に寝ていたはずの彼女がいない。その事実に違和感を感じながら、僕は自室を後にした。


 食堂に行くと、使用人がいた。おはようございます。いえ、もうこんにちは、でしょうか。そう言ってきた。もう昼過ぎのようだ。
 お嬢さんなら、蔵書室で朝から本を読むと言っていましたよ。僕があいつの事を聞く前にそう言われた。僕は、それを聞いた瞬間、嫌な予感がした。
 何か、おかしな所は無かったか?僕は早口でそう尋ねる。いえ、いつも通りでしたよ?使用人の答えを聞き、そうか、わかった。とだけ返事をして、僕は早足に蔵書室へと向かった。




34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:55:29.07 ID:6SLLPHsoO
 蔵書室へ入ると、彼女が部屋の中央の椅子に腰掛けて、本を読んでいるのを見つけた。周りにある本の山を見る。
 そこに、僕の恐れていた本があった。彼女に近づき、肩を揺さぶり、話しかける。
 僕は、ここに入って良いなんて言っていないぞ。
 彼女はゆっくりと僕の目を見た。僕は、きっと恐怖を宿した瞳をしているに違いないと思っていた。だが、そこにあるのは、縋るような目だった。

「お前は、ここに書いてあったようなことは、やっていないよな?」

 彼女のいう『ここ』とは、間違いなく、貴族のあの狂った見せ物を記録した本のことだ。
 ……自分の手ではやっていない。僕はどう答えようか考えながら、そう言った。脳裏をよぎるのは、昨日の二人のエルフを殺した光景。
 彼女の瞳に、ほんの少しの安堵が宿る。

「それは、どういうことだ?」




35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:57:16.10 ID:6SLLPHsoO
 貴族は定期的にそれに参加しなければならないからな。僕は見ているだけ、ということだ。僕は、だから安心しろ、という風に彼女に語りかける。
 彼女は、ふっと一息を吐いて、目をつむって下を向いた。そうして、小さく呟いた。

「それを止めることは、出来ないんだろう?」

 あぁ。それを止めたら、僕が生きることが出来なくなるから。自分で言いながら、どこか言い訳じみているように感じて、心の中で自嘲した。




36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:58:41.59 ID:6SLLPHsoO
 彼女は、自分の両肩を抱いて、震えた声で、

「妾は、一層人間が恐ろしくなった……」

 ……僕も、人間が嫌いだ。大丈夫、僕はそんな人間達とは違う。そう言って、肩を抱く彼女の手を握る。
 彼女は、僕を濡れた目で見て、

「お前だけは、妾を裏切らないでいてくれるか?」

 勿論だ。僕が微笑みながらそう言うと、泣きながら、僕の手を両の手で握り返してきた。
 しばらくの間、彼女の泣き声が、蔵書室に響いた。

 これだけ僕のことを信じていたら、昨日のことに気付かれることも無さそうだ。
 人間である僕の手を握りしめて泣く彼女に、そんなことを考えて、僕は安堵していた。




37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 23:00:10.44 ID:6SLLPHsoO
 今回の事で、信頼を失うことは無いと判断した僕は、彼女に蔵書室を好きに利用する許可を出した。
 その時の彼女のはしゃぎようは、年相応に見えた。あくまで、見た目の年、だが。



 蔵書室で、錬金術に関する彼女の質問に答えていると、使用人がやってきた。上級貴族の客人が来ている、玄関で待たせているので、急いで来て下さい、とのことだった。
 客人?誰だろうか。思い当たる節の無い僕は、怯える彼女に、自室に戻って鍵をかけておくように言いつけて、玄関へと向かった。




38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 23:01:20.41 ID:6SLLPHsoO
 駆け足で玄関に着き、お待たせした。そう言うと、客人らしい長身の初老の男性は、突然の来訪の無礼を許して欲しい。そう言って、一つ礼をした。
 この男は、確か昨日のあの屋敷にいた男か……僕はそう思いながら、食堂へと彼を案内した。

 世間話をしながら並んで歩く。武器は持っていないようだ。それに少し安堵しながら、それでも僕は警戒を緩めなかった。

 食堂に着き、お互いに席に腰掛ける。
 さて、本題を聞こうか。僕からそう切り出した。

 そうさせていただく。昨日のことなのだが、君は昨日、あれを殺す時に何かしただろう。私は、そのことについて知りたくてね。




39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 23:02:42.12 ID:6SLLPHsoO
 なんのことだ?僕はそうとぼける。ただ、内心は焦っていた。
 屋敷まで来るということは、かなり自信があるということだからだ。僕が何か隠しているという自信が。

 そうだな。まずは、殺す前に何か話していただろう。なんと言っていたか。たしか……約束がどうとか。

 相手が話しかけてきただけだ。恐怖のあまり、気が狂っていたのだろうな。
 僕の焦りは一層大きくなる。まずは、こいつはそう言った。どこまで聞かれた?それとも……すべて知られている?

 嘘は良い。君がそれに首を振って返事をした瞬間、奴らは安堵を浮かべた。これは、意志疎通が成立していた、そういうことだろう?




41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 23:04:40.01 ID:6SLLPHsoO
 こいつは、全てを聞いていたようだ。僕は必死に嘘を吐く。

 ……わかった。ありのままお伝えしよう。実は、僕は、彼らとは繋がりがあったのだ。
 僕がそう言うと、彼は、ほぉ。と一言言った。

 あなたも貴族ならわかるだろう?僕は彼らの国と貿易をしていた。その国とは長い付き合いでね。彼らの王とは面識があったのだ。

 僕はここで言葉を切る。

 そう、お察しの通り、あの二人はその国の王と女王だ。約束とは、彼らの国との貿易を取りやめないこと。僕の技術定期で、彼らの国は莫大な利益を得ているからね。

 僕の言葉に、相手は微動だにしない。まだ疑っているのだろう。




42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 23:06:34.79 ID:6SLLPHsoO
 ……そうか。わかった。それはそういうことにしておこう。
 では、彼らを殺すときに、何故呪文を使ったのだ?使わなくても、殺せていただろう。

 僕は咄嗟に言葉が出てこず、沈黙する。

 しかもあれは、物質を消滅させる呪文だ。どういうことだ?畳みかけるように彼が言葉を繋ぐ。

 あれは、何かの命を奪う時の癖のような物だ。
 そもそも、触媒だって無かっただろう?そんな状態で、錬金術が発動するわけが無い。あなたもご存知だと思うが?
 僕は必死に言い訳を捻り出す。




45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 23:10:20.99 ID:6SLLPHsoO
 ……優れた錬金術の使い手は、触媒など無くても、ある程度の発動は出来る。そんな話を聞いたことはないか?

 ……無いな。そんな物は伝説だろう。
 彼はまだ僕を疑っている。

 しばらく、沈黙が続いた。

 ……わかった。私の勘違いだったようだ。非礼を詫びる。彼はそう言って立ち上がった。
 僕も立ち上がり、彼を玄関まで案内する。その間、言葉が交わされることはなかった。

 そうして、彼は帰り際、玄関を出て数歩のところで立ち止まり、僕の方を見ることなく、こう言ってきた。

 エルフの国で起きたクーデターをご存知か?そこでの噂なのだが……なんでも、姫が見つからないそうな。

 ……そうか。奇怪なこともあったものだ。僕がそう答えると、彼は何も言わずに帰って行った。

 ……僕は、とんでもない男に目を付けられたのかもしれない。背中を走る悪寒に、微かに身を震わせた。




49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 23:21:47.52 ID:6SLLPHsoO
 自室の前に立ち、扉をノックする。しかし、返事は返ってこなかった。
 おい、どうした?そう叫ぶが、反応が無い。
 マスターキーで部屋を開ける。そのまま部屋に入ると、彼女はベッドの上でうずくまって寝ているようだ。
 近付くと、彼女は泣きながら寝ていた。

「お母様……お父様……」

 彼女がそんな寝言を言った。

 もういない。僕が殺した。この手で。僕は心の中でこう呟く。
 そうして、彼女を守るという約束を、どうすれば果たせるのか。それをずっと考えていた。




51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 23:30:16.99 ID:6SLLPHsoO
 翌朝、彼女を買って二十二日目の朝。

 今日も、誰からも起こされることなく、目を覚ました。
 彼女はもう本を読んでいるのだろうか、そんなことを考える。

 起きて食堂に行き、遅めの朝食を取る。どうやら、昨日のように、昼飯となることは避けることができたようだ。

 蔵書室には、やはり彼女がいて、一心不乱に本を読んでいた。
 僕も椅子を彼女の隣に用意し、読書に没頭した。


 夕方になり、夕飯を食べに食堂へ行く。
いつものように向き合う位置で座り、彼女の顔を見ると、不安げな表情をしていた。




52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 23:37:44.89 ID:6SLLPHsoO
 どうしたんだ?そう聞く。

「妾は怖いのだ……お母様やお父様が無事かどうか、心配で心配でたまらないのだ」

 彼女は、声を震わせてそう言った。

「もし人間に捕まえられたりしたら、あんな酷いことをされるのだろう?そんな想像をするとな、涙が止まらないのだ」

 大丈夫だ。僕が知る限り、エルフの王が捕まった、なんて話は聞いたことが無い。だから、安心しろ。僕はまた嘘を吐く。

「そうだな……お前が言うなら、そうなのだろうな……ふふ、不思議だな。お前がそう言うだけで、不安など吹き飛んでしまった」

 彼女は笑いながら言う。僕は曖昧に笑いながら、夕食を食べ始めた。




53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 23:48:05.58 ID:6SLLPHsoO
 夕食を食べ、また読書した後、僕達は自室へと戻った。

 ベッドに二人で横たわり、おやすみと言い合う。
 僕は彼女に背を向けて、目を瞑った。

 多分、あの上級貴族の男は、近いうちに、この屋敷にまた来るだろう。次は、武力を持って、僕の嘘を暴こうとする筈だ。
 僕は、彼女を守らなければならない。僕に出来ることは何なのだろう。

 そんなことを考えていると、不意に背中に体温を感じた。

「今日はこうしていたいのだ……いいか?」

 僕は頷く。彼女は、僕の背にぴたりと寄り添っていた。
 僕は、僕は……まとまらない思考のまま、眠りに落ちていった。




55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 23:56:02.47 ID:6SLLPHsoO
 二十三日目の朝。

「起きろ。朝だぞ」

 彼女の声で目を覚ます。朝から彼女の声を聞くのが、酷く懐かしい気がした。

「何だ?変な顔をして」

 いや、お前に朝から起こされたのは、久しぶりだと思って。そう言うと、彼女は何故か顔を赤くした。
 いそいそと服を着だした彼女を見て、僕は少し笑った。

 その日も、昨日と同じように過ぎていった。
 夜、彼女が僕の背中に寄り添うと、思考が定まらなくなるところまで、同じだった。




56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 00:04:02.79 ID:6SLLPHsoO
 二十四日目。

 彼女に朝から起こされ、朝食を食終わると、使用人に呼ばれた。
 彼女もそれに気付くと、そそくさと食堂を出て、蔵書室へと向かった。

 この前の男から、手紙が来ました。そう言って手紙を渡される。
 そこには、僕にはエルフの要人誘拐の疑いがかけられている、との旨が書いてあった。
 明日、家を捜索させてもらうとも。

 僕が彼女を守るためには、どうすればいいのだろうか。
 嘘だらけの僕に、約束を果たすことは出来るのだろうか。




57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 00:11:14.87 ID:6SLLPHsoO
 その日の夜。僕は、彼女に、明日人が捜索に来ることを伝えた。
 彼女は、捕らえられることを想像したのか、一瞬表情を固めた後、微笑して僕にこう言った。

「妾はお前を信じている。妾は何をすればいい?」

 時間が来るまで実験室に隠れていてくれ。そう言うと、

「わかった」

 とだけ返事をした。
 僕も信頼された物だ。

 どんどん自分が薄汚れていくのを自覚しながら、僕は眠りについた。




58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 00:16:15.79 ID:6SLLPHsoO
 二十五日目。

 彼女に起こされ、目を覚ます。朝食を食べ、実験室へと向かった。

 彼女を実験室に入れ、鍵の閉まる音を聞いてから、玄関へと向かった。

 扉が閉まる時、僕に笑いかけた彼女の顔が、脳裏から焼き付いて離れなかった。

 玄関で『敵』が来るのを待っている中で、僕はこれまでのことを思い返していた。




59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 00:25:33.22 ID:6SLLPHsoO
 僕の両親は、どちらも錬金術の天才だった。どんどん新たな技術を発見し、富も名声も欲しいままにした。
 二人とも誠実で、何より優しかった。他種族への偏見も無かった。だから、貴族達を嫌っていた。
 当然、貴族は彼らを煙たがっていた。だから、僕を誘拐し、その解放を条件に、彼らは貴族になった。
 あの悪趣味な見せ物を記録したのは、きっと貴族に対するささやかな抵抗だったのだろう。貴族という物の醜さを、彼らは誰かに伝えようとしたのだ。

 僕は彼らが貴族になるのを条件に解放されたが、誘拐されている中で、心に傷を負った。




62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 00:34:26.95 ID:6SLLPHsoO
 僕を誘拐した貴族達は、幼かった僕にありとあらゆる醜悪な物を見続けさせた。
 他種族を生きたまま解剖したり、殺しあいをさせた。ホビットやゴブリンが悲鳴をあげるたびに、貴族達は笑い声をあげた。

 解放された時、僕は人に対して幻滅していた。人は醜悪な物で、僕も醜悪な存在で、この世界は汚れている。そう感じていた。
 それから、僕は美しい物に異常な執着を見せるようになった。
 そうしなければ、生きる気力なんてわかなかっただろう。




64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 00:48:11.63 ID:6SLLPHsoO
 そんな中、両親が貿易のために連れて行ってくれたエルフの国は、僕にとってはたまらない物だった。
 美しい彼らは、僕の憧れだった。

 それから何年か経ち、僕が成人して少し経った頃、両親は死んだ。錬金術の実験中の事故死だった。
 彼らの錬金術の能力は、もはやその最終目標の達成、万能の力を手に入れる間際にまで達していた。
 その最後の実験の前。父は、これが最後になるだろうから、僕に手紙を渡すようにと、使用人に言いつけていた。
 使用人から受け取った手紙には、これを見たら実験室に来るように、そこにあるものが、私達からの贈り物だ。そう書いてあった。
 父と母の実験室に向かった僕がみたのは、黒い石だった。




66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 00:59:09.17 ID:6SLLPHsoO
 僕がその石を握った瞬間、僕の頭の中に二人の一生の記憶が流れ込んできた。
 そうして、悟った。これが、錬金術の最終地点なのだと。
 ただ、その石を使ったことは一度もないし、これからも使うつもりはない。

 彼らが死んだので、僕がこの屋敷の当主になった。僕は貴族になった。
 両親の記憶を使えば、錬金術の発見には事欠かなかった。そうして、僕は上級貴族という階級を、両親から受け継いだ。
 エルフの国との貿易も、上手くいっていた。
 ただ、貴族として過ごすうちに、僕の心は更に冷えてしまったが。

 そんな日々が続いて、エルフの国の王と女王から、頼みごとをされた。




68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 01:07:51.52 ID:6SLLPHsoO
 最近、クーデターが画策されているような動きがある。人間側が糸を引いているようで、私達は殺される可能性が高い。
 そこで、頼みがある。どうか我が子を守ってはくれないだろうか。
 それは、そんな頼みだった。

 両親の記憶によれば、この国の王と女王とは、仲がよかったらしい。
 そうして、両親は、貴族になる前も後も、この二人から援助を受けていたからこそ、生活出来ていたようだ。

 僕が彼女に暴行するとは、考えないのか?そう尋ねる。
 君は美しい物にしか興味がないのだろう?ならば、我が子にそのようなことはしないはずだ。全てを見透かした様な目をしながら、王はそう言った。
 それに、あの二人の子供が、そのようなことをするわけ無いもの。女王は微笑みながらそう言った。




69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 01:21:04.24 ID:6SLLPHsoO
 一体、エルフの二人に、人間の何がわかるのだろう。その時、僕はそう思っていた。
 僕の苦しみも知らないくせにと、憤りすら覚えた。

 だが、初めて彼女を見た瞬間、僕はその美しさに全てを忘れた。僕の凍った心が、溶けていくような気がした。
 この美を守るためなら、何でもしよう。僕はそう誓った。

 王と女王は、気付かれないように彼女を国外に出すように要求してきた。
 散歩中の彼女を、腕利きの人間にさらわせ、予め決められていた通りに謝礼を払い、僕は彼女を手に入れた。




71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 01:27:19.00 ID:6SLLPHsoO
 僕は、最高の芸術品を手に入れた。そう思っていた。
 だからこそ、僕は彼女を汚すことは出来なかった。
 そうして、徐々に彼女に情が移っていくのも感じていた。
 彼女の両親は、きっとそれを見抜いていたのだろう。
 今更になって、あの時の言葉がよくわかった。



 玄関がノックされる。来たようだ。僕は玄関を開ける。

 ようこそ、我が屋敷へ。僕は、そう言って微笑むと、そいつらは屋敷へと入ってきた。




72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 01:36:26.10 ID:6SLLPHsoO
 この前の初老の男を入れて、十人の男達がいた。
 それでは、捜索させてもらうが、構わないな?初老の男がそう言うと、他の九人は屋敷の中に散らばっていった。

 返事も待たずに人の屋敷に勝手に侵入するとは、あなたの部下は随分良い躾がされている。僕がそう言うと、男は僕を睨みつけながら、化けの皮を剥いでやる。そう言った。

 僕は何もしていないのに、何故こうも疑われるのか…残念だ。僕はそう言って、男を見た。僕を睨むその瞳には、僕ではなく、別の誰かが映っているような気がした。




74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 01:50:39.86 ID:6SLLPHsoO
 結局、何も発見が無いまま、夕方になった。
 もう疑いは晴れましたか?僕がそう言うと、男は僕を睨んだ後、九人の部下達に帰るぞと言って、帰って行った。

 彼らが屋敷から離れていったところを確認して、僕は地下へと降りる隠し階段を降りていった。

 実験室をマスターキーで開け、中に入る。
 彼女は僕を見ると、僕の方に走ってきて抱きついた。

「良かった…本当に良かった…」

 そう言いながら僕の胸に顔を埋める彼女を、僕は優しく抱き返した。
 罪悪感と、これからの現実から目を背けながら。




75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 01:58:46.50 ID:6SLLPHsoO
 その夜。ベッドに二人で腰掛けて、話をする。

「それにしても、どうやって見つからないようにしたのだ?」

 彼女は首を傾げながらそう聞いてきた。地下の階段への扉は、普通に見ても床と区別のつかない仕掛けになっているからな。そう簡単に見つかりはしないさ。

「確かに妾も全く気付かなかったからなぁ…」

 彼女はそう言った後、

「これから、どうなるのだろうな」

 ぽつりとこう零した。




76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 02:08:33.67 ID:6SLLPHsoO
「妾は、ずっと隠れておいた方がいいのだろうか?」

 そんな必要は無い。気付けば、僕はそう言っていた。

「だが、妾がそうしておいた方が、お前は」

 お前は芸術品として買ったんだ。なのに、それを見えないところに置いとくなんて、馬鹿のすることだ。僕は、照れを隠すように、こう言う。

「そうだな。なら、お前は妾を守るのだから、心配なんていらないな」

 満面の笑みでこういう彼女。あぁ。……もう遅い。寝よう。それだけ言って、ベッドに潜った。
 今日も彼女は僕にくっついてきて、その体温に僕は安心した。守らなければではなく、守りたいと、そう思っている自分を自覚した。




2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 20:54:10.19 ID:6SLLPHsoO
 二十六日目。

「起きろ。朝だぞ」

 そう言って、彼女は優しく僕の肩を揺すった。
 目を覚まし、彼女と一緒に食堂に行く。後何回こう出来るのだろう。僕はそんなことをぼんやりと考えた。

 朝食を食べ、昨日と同じ様に彼女を実験室へ入れる。
 彼女に何か言葉をかけようとしたが、何故かこれまでのように上手く言葉が出てこなかった。

 僕は、実験室の扉の前でしばらく立ち尽くした後、玄関へと向かった。




4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 20:57:06.64 ID:6SLLPHsoO
 昼過ぎに、昨日の男達がやってきて、玄関をノックした。
 僕がすぐに玄関を開けると、初老の男は少し驚いた顔をしていた。
 いい加減にしてもらいたいものだ。今日何もなかったら、今後一切関わらないで頂きたい。僕はそう言う。

 いいだろう。ただ、こちらも条件がある。初老の男性は、口の端を吊り上げ、次のように言った。

 お前の実験室を見せてもらおう。




6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 21:00:04.45 ID:6SLLPHsoO
 何故だ?僕はそう答える。


 昨日ここを調査した者達によると、貴族に絶対必要な、実験室が見当たらなかったそうだ。
 確かに、実験室は貴族にとっての生命線だ。隠しておくのも頷ける。
 だが、何か見られたく無い物を隠すには、持って来いの場所でもある。冤罪だと証明したいなら、見せてもらおう。勝ち誇った顔で、男はそう言った。

 わかった。付いて来い。僕はそう言って、実験室へと歩き出した。
 歩みを進める毎に、心が冷えていくのを感じた。




7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 21:03:03.63 ID:6SLLPHsoO
 実験室の前の扉に到着する。
 では、扉を開ける。そう言って、鍵穴に鍵を差し込む。

 その瞬間、これまでの彼女との日々が、僕の頭の中を駆け巡った。
 僕の人生で、これほどまでに輝いた瞬間は無かった。
 彼女の存在は、いつの間にか、僕の中でどうしようもなく大きくなっていたらしい。
 僕は、彼女を守るためなら、何だってするに違いない。

 鍵穴を回すのと同時に、初老の男を思い浮かべ、物質消滅の呪文を呟く。
 その瞬間、彼の脳の一部が掻き消え、彼の体は床へと崩れ落ちる。
 実にあっけなく、そいつは死んだ。振り返ってそいつの亡骸を見て、あまりの呆気なさに笑ってしまった。




8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 21:05:58.76 ID:6SLLPHsoO
 残りの九人は、あまりのことに呆然としていた。
 あぁ、そいつはもう死んでいるよ。そして、次は君達の番だ。僕はおかしそうにそう言って、そのうちの三人を見てから、呪文を呟く。
 三つ、死体が増えた。

 残りの六人のうち、一人が何か叫びながら僕へと向かってきた。また呪文を呟く。彼は崩れ落ちる。
 これで五つ目の死体。

 他の五人は、失禁しながら、土下座して僕に謝っていた。
 僕は、そいつらを見ながら、ゆっくりと五回、呪文を呟いていった。
 一人死ぬごとに、声を張り上げ、僕に必死に許しを乞う彼らが滑稽だった。

 僕は、全員死んだのを確認して、実験室へと振り向くと、扉の前に立つ彼女と目があった。




11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 21:09:02.70 ID:6SLLPHsoO
「……何故そんな簡単に殺せる」

 僕は何も言わない。あぁ、遂にこの時が来てしまった、そんなことを思いながら、彼女を見る。

「貴族だからか?そいつらが貴族だから、さっきのように楽しんで殺せるのか」

 当然の報いだ。あんな醜悪な見せ物で楽しんでいた、ゴミ共に対する罰だ。こう思うが、言葉にはならず、ただ沈黙する。

「だがそれでは貴族と一緒ではないか!そんなのはだめだ!妾はお前をそんな奴とは思いたくない!」




12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 21:12:02.08 ID:6SLLPHsoO
 僕も貴族なんだ。醜悪で残酷な人間なんだ。当たり前じゃないか。そう言おうと思い、口を開く。
 だが、出て来たのは、お前を傷付けようとしたからだ。そんな言葉だった。
 どちらが、僕の本心なのだろう。僕は、自分のことだというのに、わからなかった。
 彼女は、怒った顔をしながら、

「ならば、妾を守る必要など無い!お前が、お前がそんな悲しい表情をする位なら、妾は死んだ方がマシだ!」

 僕は、そんな表情をしていたのだろうか。この僕が人間を殺す位で?有り得ない。
 そう思い、動揺して呆然とする僕に、彼女は歩いて近付いてきた。
 そうして、僕を優しく抱きしめた。僕も、ゆっくりと彼女を抱きしめ返す。

 僕らは何も言わずに、互いの体温を感じていた。




13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 21:15:04.40 ID:6SLLPHsoO
 死体は、実験室にあった触媒をかけ、炭に変換した。

 処理が終わると、僕らは自室に戻った。ベッドに並んで腰掛ける。しばらく、無言の時間が続いた。

 多分、この屋敷には、もういれなくなる。明日には、国の兵士共がやってきて、ここは取り押さえられるだろう。僕がそう切り出す。
 彼女は、目を輝かせながら、

「ならば、妾の国に逃げれば良いのではないか?お母様とお父様は、妾が説明すればきっとわかって下さる」

 僕は、酷い罪悪感を感じながら、エルフの国は、既に貴族の手が回っている。行っても捕まるだけだ。そう言った。
 彼女は、貿易によってのみ、貴族の手が回っていると思っているだろう。
 クーデターが起きて、彼女の帰るところはもう無いということを、彼女はまだ知らないのだから。
 そして、両親のことも。
 彼女は悲しげな表情をして、

「そうか、駄目か…」

 そう言って、目を伏せた。




15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 21:18:08.72 ID:6SLLPHsoO
 ……僕を置いて、国に帰りたいとは思わないのか。僕は、そう尋ねた。
 もしここで彼女がこれを肯定したなら、僕は真実を洗いざらい話そうと一瞬思っていた。
 そうして、なんて幼稚な思考なんだろう、と内心苦笑した。

 彼女は、拗ねたように頬を膨らませて、こう言った。

「お前と一緒でなければ、嫌に決まっている。そんな下らないことを聞くな」

 僕は、頭を殴られたような衝撃を感じた。
 何故だ?僕は君を買って、物として扱っているのに。僕は自分を責めるように言った。
 彼女は、少し恥ずかしそうに僕を見ながら、

「……そんなの言うまでも無いだろう。妾だけに恥ずかしい事を言わせるな」

 そう言って、僕の肩に頭を預けてきた。僕が頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細める彼女が、愛おしかった。




16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 21:21:03.53 ID:6SLLPHsoO
 その日の夕方。夕飯を食べ終えた僕らは、使用人室へと向かった。

 明日、この屋敷は、国の兵士達によって取り押さえられる。
 先代から尽くしてくれたお前達を、巻き込む訳にはいかない。今をもって、お前達を解雇する。自由に生きてくれ。
 僕がそう言うと、使用人達は顔を見合わせた後、お嬢さんと当主様はどうされるんですか?そう聞いてきた。

 この屋敷を焼いた後、逃げ続けるつもりだ。と僕が答える。それで逃げ切れるのですか。そう尋ねられる。




17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 21:24:11.82 ID:6SLLPHsoO
 わからないが、やるしかない。そう答えると、使用人室は沈黙に包まれた。
 すると、僕の隣に立っていた彼女が、重い沈黙を破るようにして、

「妾は、皆のお陰で、楽しい日々を過ごせた。いくら感謝しても足りない位だ。ありがとう」

 そう言うと、使用人達は、涙を流し始めた。そうして、こちらこそ楽しかった、ありがとう。使用人達からそう言われると、彼女も涙を流した。



 使用人達が出て行った後の屋敷は、がらんとしていて、どこか寂しかった。




19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 21:27:04.07 ID:6SLLPHsoO
 夜。

 これが、この屋敷で過ごす、最後の夜なのだと考えると、不思議な気持ちになった。

 ベッドに彼女と向き合って横たわる。
 最初に来たときのこと、覚えてるか?僕がそう言うと、

「何故今そんな恥ずかしい話をするのだ」

 彼女は顔を赤くしながら言った。
 最後の夜なんだ。思い出話に花を咲かせるのも悪くないだろう。

「あ、あんな思い出いらない!」

 僕にとっては、忘れられない強烈な思い出だけどな。僕がそう笑いながら言うと、

「忘れろぉ!」

 と言って、僕の胸をぽかぽかと殴りつけてきた。




20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 21:30:03.58 ID:6SLLPHsoO
 そんな彼女の背に手を回し、優しく抱きしめる。
 僕のすぐ前にある彼女の顔は真っ赤だ。

 僕が、彼女の目を見つめると、彼女は少し目を逸らした後、また僕を見つめて、恥ずかしそうに目を閉じた。
 僕も顔を近付けながら、目を閉じる。
 僕の唇と、彼女の唇が、一瞬触れて、すぐに離され、また短く触れる。

「んっ、んんぅっ」

 啄むようにキスをする度に、小さく喘ぐ彼女が愛おしい。
 何回かそうした後、長いキスをする。僕が舌を伸ばすと、彼女も舌を伸ばしてきた。お互いの舌を絡め合い、唾液を交換する。

「んん……んくっ、んぅっ」

 彼女も、僕の胸の前にあった腕を僕の首に回してきて、一層深く、貪るようにキスをした。




21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 21:33:09.91 ID:6SLLPHsoO
 僕が唇を離すと、彼女も唇を離した。

「はぁ……はぁ……」

 息を荒くしながら、彼女はとろんとした瞳で僕を見つめる。

「キスとは、気持ちの良い物なのだな」

 彼女はそう言うと、次は自分からキスをしてきた。

 次は、最初から、長く、深いキス。お互いを優しく抱きしめながら、舌で相手の舌を愛撫しあう。

「んぅっ……ぁっ……ふふっ……」

 僕は、理性の枷が外れていくのを感じながら、彼女とのキスに溺れた。




22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 21:35:59.76 ID:6SLLPHsoO
 唇を離し、彼女を仰向けにする。僕は、彼女を膝立ちで跨いで、首もとにキスをしてから、徐々に下へと下りていく。

「んぅっ……ひぅっ!」

 僕が彼女の胸にキスをすると、彼女は一際大きく喘いだ。
 左手で彼女の膨らみかけの胸を、優しく揉みながら、右の胸を舐める。

「妾の小さい胸など、んっ、舐めて、楽しい、のか?」

 楽しいよ。だって、君のこんな反応が見れるから。
 そう言って、右胸の桃色の乳首を吸い、左胸の乳首を指で軽くつまむ。

「ああぁっ!」

 彼女は、ビクビクと背筋を震わせながら、あまりの快感に声を出して喘いだ。
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25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 21:39:05.02 ID:6SLLPHsoO
「はぁ、はぁ…馬鹿者、何が、楽しいだ…」

 そうして、更に下に下りていき、彼女の彼女の秘裂を眺めると、彼女は顔を押さえながら、

「恥ずかしい……」

 と呟いた。
 もうかなり濡れていて、垂れた愛液が、ベッドをぐっしょりと濡らしている。
 そんなに気持ちよかったのか?そう聞くと、こくり、とひとつだけ頷いた。
 僕が筋に沿って舐めると、一際甲高い声で彼女は喘いだ。




27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 21:42:03.32 ID:6SLLPHsoO
 両手で彼女の秘部を広げる。美しいピンク色で、未成熟ながらも女らしさを主張するそれは、ヌラヌラと光っていて、僕の性欲を煽った。
 舌で奥から溢れてくる愛液を拭うように舐める。

「んんっ、気持ちいいっ、あぁっ」

 徐々に速く、強く舐めると、彼女は、喘ぎながら、うわごとのように、呟く。

「奥から、あぁっ、何か、来るっ、あぁっ」

 秘部を舐めながら、右手の指で彼女の硬くなった陰核を擦る。

「〜〜!!」

 彼女は声にならない叫びをあげ、絶頂に達した。飛び出した愛液が僕の顔を汚した。




28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 21:45:11.10 ID:6SLLPHsoO
 僕は、顔について愛液を拭って、彼女を見た。
 真っ白だった身体は桜色に染まり、快感のせいか息を荒くしている。
 彼女は、僕の顔を見ると、微笑んだ。
 僕は、彼女を守るのだ。だから、彼女を汚すことは絶対にしない。そう必死に言い聞かせた。
 すると、彼女は、そんな僕の葛藤を知ってか知らずか、顔を赤らめ、恥ずかしそうにこう言った。

「妾は、お前と一緒になりたい。一人の女として、お前を愛している。妾を抱いて欲しい」

 僕は、最後の理性が音を立てて崩れるのを感じた。




30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 21:48:08.43 ID:6SLLPHsoO
 僕が服を脱ぐと、彼女は僕の勃起したものを見て、驚いた顔をした。

「そんなものが妾の中に入るのか…?」

 優しくするから、大丈夫。身体の力を脱いて。僕はそう言って、彼女の秘裂に股間をあてがう。

「き、キスしてくれたら、少しは楽になるかもしれない」

 彼女がそう言うので、僕は彼女に覆い被さって、キスをした。
 僕が唇を離すと、彼女は潤んだ瞳で僕をみた。

「……出来るだけ、優しく、だぞ?」

 その言葉を聞いて、一つ頷くと、僕はゆっくりと彼女の中へ入っていった。




31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 21:51:05.46 ID:6SLLPHsoO
 さっきの前戯で十分に濡れた彼女の中は、思っていたよりも抵抗は無かった。

「んっ、本当に入ってきてる……」

 徐々に徐々に腰を押し込んでいくと、こちらを押し返そうとするような、わずかな力を感じた。
 痛かったら、叫んでいいからな。僕はそう言って、無理やりねじこんだ。

「っ!い、痛っ……!うぅっ、本当に痛いぞっ!もっと優しくっ」

 これでもかなり優しくしている方なんだが。僕はそう言って、ゆっくりと彼女の中を進んでいく。




32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 21:54:07.12 ID:6SLLPHsoO
「まだなのか……っ!」

 多分あと少しだ。僕がそう答えて腰を進めると、コツンと奥に当たる感覚がした。

「!今っ、奥に…っ」

 よく頑張ったな。そう言って頭を撫でて、キスをする。

「んっ……うぅ、痛い……だが……嬉しい」

 僕はしばらく、彼女の中を満たしたまま、動かないでいると、

「慣れてきたから、動いても大丈夫だと思う……」

 じゃあ、動くぞ。僕はそう言ってゆっくりと腰を動かし始めた。




33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 21:57:00.99 ID:6SLLPHsoO
 彼女の奥で、緩やかに腰を振る。
 彼女の中は、熱く、そしてきつく僕を締め付けていた。

「くっ……はぁ、はぁっ……」

 僕が動く度に、彼女は苦しそうな声をあげる。
 僕は、左手で彼女の手を握りながら、キスをする。

「んんっ……大好き……」

 僕もだ。そう言って、キスを繰り返す。
 僕は腰を徐々に大きく動かし始めた。
 彼女の中を掻き分け、貫き、何度も何度も往復する。




34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 22:00:08.52 ID:6SLLPHsoO
「良いぞ……妾も、あんっ、段々気持ちよくなってきた……んっ」

 僕は、徐々に腰を強く振っていく。
 その度に、彼女の愛液で淫靡な音がしている。
 聞こえるのは、彼女の喘ぎと、水音だけだ。

 僕は、快感が高まってくるのを感じた。
 彼女も、最初の痛みは無くなったようで、喘ぎ声をあげている。

「んんっ!はぁっ、気持ちいいっ、んぅっ!また、さっきのがぁ!」




35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 22:02:54.83 ID:6SLLPHsoO
 僕が、更に強く腰を打ち付けると、一層甲高い声を上げた。僕も、熱いものが込み上げて来るのを感じた。

「んんっ、だめっ、もう、もうっ」

 彼女は、足を曲げて僕の足に絡めてきた。僕は彼女に覆い被さり、彼女の口を貪る。彼女は僕を抱きしめ、それに応える。
 彼女の一番深いところで、小刻みに腰を振る。

「〜〜!!」

 これまでとは比べものにならないきつい締め付けに、快感が限界を超え、僕は彼女の中に欲望を吐き出した。




36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 22:06:01.50 ID:6SLLPHsoO
 二人で快感の余韻に浸りながら、息を整える。
 ベッドに横たわり、お互いに見つめ合う。

「妾は、本当にお前の物になってしまったな」

 彼女は、微笑みながら、こう言った。

「だが、妾は幸せだ。お前と出会えてよかった」

 僕もだ。僕はそう言って、彼女の手を握った。

 お互いの体温を感じながら、僕らは眠りへと落ちていった。




37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 22:10:10.84 ID:6SLLPHsoO
 二七日目の朝。

 僕は実験室へと行き、両親の片見である黒い石と、触媒をとった。
 自室で着替えを持ち、少しの食料と金を持った。



 僕らは、屋敷に火をつけ、馬に乗って屋敷を後にした。振り返ることは、しなかった。



 目星をつけていた田舎町へと馬を走らせる。
 僕は貴族の連中に顔をしられているので、誰も僕を知らない、田舎へと行かなければならなかった。

 その日は一日中馬を走らせ、森の中で野宿をすることになった。

 錬金術を使って火を起こし、屋敷から持ってきた食料を温める。
 二人で火を囲んで暖を取りながら、食べ物を食べる。

「これからどうするんだ?」

 街を転々としながら、旅をする。心配無い。金はあるしな。大丈夫だ。

「そうか……」

 その後はお互い無言だった。火を消して寝袋にくるまる僕らを、闇が包み込んでいった。




39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 22:11:58.93 ID:6SLLPHsoO
 二十八日。

「起きろ。水浴びをしよう」

 そう言われて僕は目を覚ました。朝は寒く、屋敷の中とは比べ物にならなかった。
 こんな寒いのに水浴びをしたら、風邪を引くぞ。僕が鼻をすすりながら講義する。

「ならば、湯を沸かせば良い」

 そんなに体を洗いたいのか?

「妾は裸で寝れなかったら、そうしなければ気が済まないのだ!」

 なるほど。と納得した。

「妾が露出狂だからではないからな!?そこを勘違いするな」

 はいはいと適当に返事をして、僕は湯を沸かす手順を考え始めた。




41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 22:14:56.44 ID:6SLLPHsoO
 森の中に流れている川へ行く。石を錬金術で連結させ、即席の浴槽を作る。川の水を中に入れ、錬金術によって水の温度をあげる。
 正に錬金術は魔法だな、と僕は一人感心した。
 彼女は僕の手際の良さを誉めた後、すぐに裸になって湯の中に入った。

「お前も来ると良い」

 そう言われて、僕も服を脱いで湯に浸かる。二人して、ふぅ、と一つ息を吐く。

 こういう旅というのも、案外良いかもしれない。そんなことを僕は思っていた。




42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 22:17:52.51 ID:6SLLPHsoO
 馬を走らせ、夕方に目的の町へ着いた。
 彼女には、耳と顔が隠れるようにフードを被せているので、少しは人に見られても大丈夫だろう。

 町の料理屋へ入り、料理を注文する。人はあまり入っていないようだった。
 出てきた料理を黙々と食べる。味は……可もなく不可もなく、といったところだ。
 すると、男二人組が料理屋へ入ってきた。そいつらは、何やら噂話をしているようだった。

 なんでも、上級貴族が一人指名手配されたらしい。十人の大の男を殺せるような奴なんだと。
 間違い無く、僕のことだろう。僕は急いでこの場を去ろうと思い、彼女に目配せをすると、彼女はこくりと頷いた。




44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 22:20:55.41 ID:6SLLPHsoO
 またなんでそんなことに。

 その貴族様は、エルフの娘を誘拐したそうだ。

 僕は、料理代を机に起き、彼女の手を引いて、この店を出ようとした。
 しかし、少し遅かった。店から出た瞬間、その男がこう言っているのが聞こえた。

 そのエルフの両親を殺して。

 彼女は、立ち止まって、僕を見た。

「嘘……だろう?」

 僕の脳裏に、彼女の両親を殺した光景がよぎり、僕は一瞬言葉に詰まった。その一瞬の沈黙は、その噂話を肯定しているようなものだった。




45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 22:24:05.04 ID:6SLLPHsoO
 彼女は、その場に崩れ落ちた。そうして、こう呟いた。

「妾を、裏切っていたのか」

 違う。違うんだ。僕はそう言って、彼女の肩に手をおいた。
 彼女は僕の手を振り払い、走り出した。
 僕は彼女を追いかけながら、恐怖を感じていた。
 彼女が僕から離れていってしまうことに、今まで感じたことの無い程強い恐怖を感じていた。



 馬のところでようやく彼女に追いつき、肩を掴む。

「離せ!裏切り者!」

 そう叫んで暴れる彼女を、僕は必死に押さえる。

「触るな!散々妾を弄んで、さぞ楽しかったろうな!」

 彼女は泣いていた。そうして、恐ろしいほどの憎悪を僕にぶつけていた。
 聞いてくれ!君が考えているようなことを、僕はしていない!僕は必死に叫んだ。

「ならば、どうやってそれを証明するんだ?お前の言うことを、どうやって信じろと言うんだ!?」




46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 22:27:02.71 ID:6SLLPHsoO
 ……わかった。証明しよう。だから、今だけで良いから、僕の言うことを聞いてくれ。僕がそう言うと、彼女は騒ぐのをやめた。
 フードを深く被り直して表情を隠し、ひとつ頷いた。
 僕は馬に乗って、付いて来て。そう一言言って、今日朝いた森へ向かった。

 森へ向かっている間、彼女の表情を見ることは一度も出来なかった。

 そうして、こうなってしまったのは、天罰だろうと僕は思った。
 彼女に秘密にしていた報いを、僕は受けなければならない。

 僕の命をもって、これまでの罪を償おう。




48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 22:30:09.43 ID:6SLLPHsoO
 森へ着いた頃には、すっかり真夜中だった。
 ランプを灯して、昨日野宿した所へと向かう。

 僕は火を付け、その周りに僕らは座った。
 火を挟んだむこうに彼女は座り、フードを外した。馬に乗っている間中、ずっと泣いていたのだろうか、憔悴しきった顔をしていた。

 僕らは、しばらく沈黙していた。これまでの彼女との思い出を、僕は思い出していた。

 僕は、ポケットの中から黒い石を取り出し、彼女に近付いた。その時、怯えた目をして身を引く彼女の姿に、僕の手は震えた。
 だが、ここで弱音を吐くわけにはいかない。僕は体に力を込めて、震えを止めた。




49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 22:33:09.50 ID:6SLLPHsoO
 これは、僕の両親の形見だ。これが、錬金術の終着点。万能の力の結晶。
 僕はここで言葉を切る。彼女は、黙って聞いていた。
 僕は彼女に、この石を握らせた。
 その瞬間、彼女は目を見開いた。

「今のは……お前の両親の記憶か……?」

 そう。これは、作った者の魂を焼き付ける。だから、君は今、僕の両親の人生を見た。
 僕がそう言うと、彼女は、はっとした表情をした。

「だから……だから、どうしたのだ?」




50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 22:36:22.25 ID:6SLLPHsoO
 ……わざわざ言わなくても、わかるだろ?僕がそう言うと、彼女は怒りや、恐れ、悲しみが入り混じった表情をした。
 そうして、僕の目を見てこう叫んだ。

「そんなのはだめだ!他に、何か他に方法があるだろう!?」

 僕は首を振った。君が幸せになるには、これが一番だ。僕はそう言って立ち上がり、バッグの所へ行って、持ってきた触媒を出し始める。

「お前がいなくなったら、妾は、妾はどうすればいい!?」

 僕は何も答えない。彼女は、走って僕の後ろに来て、背中を揺さぶる。




51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 22:38:59.07 ID:6SLLPHsoO
「妾は、そんなつもりで言ったのではない!もう良いから!お前を信じるから!」

 彼女の声が段々と泣き声になる。僕の背中を揺さぶる力も段々弱くなって、最後には、彼女の震えが伝わてくるだけだった。
 罰を受けないといけないんだ。僕はそう言った。

「やめてくれ……そんな物妾が許すから……」

 僕は彼女を立たせて、近くの木に錬金術で繋いだ。身体に力が入っていない彼女を拘束するのは、あまりに簡単だった。

「やめろっ……やめてくれぇ……妾はお前を失いたくない……」

 彼女は、ポロポロと大粒の涙をこぼしていた。まだ、必死に僕を説得しようとしていた。




52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 22:40:55.54 ID:6SLLPHsoO
 僕が石になったら、その木の拘束は解ける。君のために僕を使ってくれ。
 僕はそう良いながら、身体に触媒をかけていく。何をすればいいのかは、両親の記憶が教えてくれた。

「やめてくれ……嫌だ……」

 彼女は、泣きながら、そう言うだけになった。

 僕は彼女に微笑んで、呪文を唱え始めた。

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

 彼女の声を聞きながら、僕は呪文を唱え終わり、意識が途絶えていくのを感じた。

 どうか、彼女が幸せでありますように。




53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 22:42:16.30 ID:6SLLPHsoO
 気がつくと、両の手を縛っていた木が消えていた。
 妾は、しばらく呆然とし、そうして、ゆっくりと彼が先程までいた所へ近づいた。
 妾は、まだ現実を受け入れることができなかった。

 彼のいた所には、赤い石が落ちていた。妾は、恐る恐るそれに触れた。

 次の瞬間、妾は彼となって、彼の一生を追体験した。
 どんな一生を過ごし、どんなことを感じ、どんな思いを持っていたのか。その全てを理解した。




55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 22:45:09.49 ID:6SLLPHsoO
 彼は、妾と会うまで、幸福というものを感じたことが、ほとんど無かった。
 あるのは、貴族への憎しみ、それだけだった。

 妾と出会って、凍ってしまった彼の心は、少しずつ溶け始めた。
 お父様、お母様を殺す時、彼の中を激情が駆けめぐっていた。
 彼はそれに気付かない振りをして、彼らが辱めを受けないよう、呪文をもって、最も痛みの無い方法で彼らを殺した。
 その時、彼は心で泣いていた。彼は、悲しみから目を背け、妾を守るためだけに、気丈に振る舞った。

 彼は、それをずっと悔い続けていた。
 妾のことが大切になればなるほど、彼は自分を責めた。
 だが、妾にそれを言って、妾を失うことを恐怖していた彼は、そのことを言い出すことが出来なかった。

 今日、妾が彼を拒絶した時、彼は恐れていたことが現実になり、絶望した。そうして、そんな状況でも、彼は妾のことだけを考えていた。
 顔の知られている自分よりも、妾が変装してひとりでいる方が安全で、しかも万能の力があれば、絶対安全だと。そう考えていた。
 嘘だらけの自分が、妾と一緒にいることを願うことなど出来ないと、そう思っていた彼は、最後まで妾の幸せを願って、居なくなった。




56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 22:46:18.02 ID:6SLLPHsoO
 妾は、彼の結晶を握りしめて泣いた。
 もう涙など出ないと思っていたのに、止まることはなかった。
 彼を疑った自分を責めて、戻らない時を嘆き続けた。




58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 22:49:01.02 ID:6SLLPHsoO
 二十九日目。

 妾は、彼の両親の石と、彼の石を眺めていた。

 彼の唯一愛していた人間は両親だけだった。
 持っていればわかるが、これはその人自身なのだ。石に姿を変えた、その人自身。
 だからこそ彼は、使うことが出来なかった。両親を使うことなど、出来なかった。

 そして、石は別の何かにしか働きかける事が出来ない。
 だから、両親を蘇らせることも、出来なかった。

 妾は、彼の両親の石を見た。これを使えば、彼を蘇らせることが出来る。だが、それは、彼の決意を無駄にする行為だ。
 妾は、どうしたいのだろう。どうすればいいのだろうか




59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 22:51:05.90 ID:6SLLPHsoO
 地響きがする。それは、徐々に大きくなってきた。
 昨日あれだけ街で騒いだのだ。そこから連絡がいき、ここを突き止められたのだろう。

 すぐに大量の兵士達が、妾を囲んだ。

 目を瞑って、彼との日々を思い出す。
 それは、妾にとって、かけがえのない日々だった。
 彼がいない毎日など、妾にとっては、何も意味が無いのだ。
 彼がいるから、妾は生きていける。

 答えなんて、彼の一生を見て、それでも彼への愛しさは変わらなかった時点で、決まっていたのだ。




60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 22:54:08.84 ID:6SLLPHsoO
 妾は、お前を愛している。一生側にいて欲しい。

 妾がそう呟くと、右手に持った黒い石が輝きだし、その輝きと同じ輝きが、左手の赤い石を包んだ。

 周りの兵士達は、その光景に驚き、立ちすくんでいた。

 目の前が真っ白になるほどの閃光の中、妾は彼の両親が微笑んでいるのを見た。そうして、その温かい光に、妾は包まれた。

「君は、僕の決意をなんだと思っているんだ」

 聞き慣れた声が、妾のすぐそばで聞こえる。

「……ありがとう」

 妾は、彼に抱きしめられていた。そうして、妾は笑って、嬉しさのあまり少しだけ泣きながら、彼を抱きしめ返した。




61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 22:57:12.44 ID:6SLLPHsoO
 妾はまだ右手に石の感覚が残っているのを感じた。
 そう。彼の両親は、二人で石になったのだから。

「もう一つの願いは、決まったか?」

 彼が聞いてくる。さっきの光の中で両親に会えたのだろう。妾は、何故かそう思った。
 そんなもの、聞かなくてもわかっているだろう?笑いながら言うと、

「確かにな。……じゃあ、一緒に言おうか」

 彼が少し照れながらそう言う。そんな彼が新鮮で、また笑ってしまった。



 二人でずっと幸せに暮らしたい。




63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 23:01:25.08 ID:6SLLPHsoO
 彼女と出会って三十日目。

 世界が光に包まれた後、僕達二人は、屋敷の自室にいた。
 何がなにやらわからず、お互いの驚いた顔をしばらく見つめ合っていた。そうして、僕らはおかしくなって吹き出して、笑いあった。

 部屋の外に出ると、当たり前のように使用人達がいた。僕らはそれを見て、本当に驚いた。そうして彼女が

「良かった…本当に良かった」

 と、言いながら泣き出すと、使用人達はおろおろし始めた。その後ろで、僕も泣きそうになっていたのは、秘密だ。

 ただ、何で部屋の前にいるんだ、と僕が質問したら、いえ、今日の朝もお熱いご様子が見れるかなぁ、と。こう言われた時に、あぁ泣かないで良かった……と思ったのだが。
 全く、良い雰囲気が台無しだ。

 しかし、お熱いご様子、という言葉に真っ赤になった彼女が見れたので、まぁ良しとしよう。かわいいというのは正義だ。

 あの石は本当に万能の力があったようで、このように世界全体を変えてしまっていた。

 ただ、死んでしまった人間は蘇らないようで、僕と彼女の両親はが生き返っている、というようなことは、無かった。

 他に大きく変わっていたのが、種族間の交流が自由になっていたことだ。
 この世界の貴族は、純粋に錬金術の研究者で、あのような残酷な見せ物をするような、腐った集団では無くなっていた。




64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 23:03:16.22 ID:6SLLPHsoO
 屋敷の中で、もとの世界とは変わったのだなぁ、としみじみ思っていると、使用人が僕と彼女を呼んだ。

 お迎えが来ています、と言われ、一体誰だろうか、と二人で首を傾げながら会いに行く。
 すれと、その客というのはなんとエルフだった。

 そうして、そのエルフに言われた一言で、僕らは本当に、言葉では言い表せないくらい驚いた。それは、


 王様、女王様、お迎えにあがりました。


 だったのだから。




65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 23:09:13.38 ID:6SLLPHsoO
 僕と彼女が出会って、何年もの月日が経った。

 この世界には驚かされてばかりだ。
 僕は容姿は人間のままなのに、身体的特徴はエルフと一緒になっていた。
 彼女より先に寿命で死んでしまう、ということも無いし、老いも来ない。本当に不思議だ。

 一番びっくりしたのは、二人がエルフの国の王と女王になっていたことなのだが。

 僕の両親は、少しサービスし過ぎだと思う。親バカ、という奴か。

 だから、僕の親バカは、両親譲りなのだろう。

 隣でベッドの上に座っている彼女の膝を枕にして、僕らの子供が寝ている。
 あの頃より成長して、更に美しくなった妻は、僕を見て微笑んだ。



 あぁ、僕は幸せだ。

おわり




66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 23:09:35.34 ID:7LLmn5Us0
ええ話や




69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 23:12:06.00 ID:2BjxYpSc0
よかった





70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 23:13:37.82 ID:6SLLPHsoO
支援ありがとうございました。

三日に渡ったこのSSも、無事に完結を迎えることが出来ました。
最初からプロットを作っていたわけでは無かったので、違和感ばりばりな部分もあるでしょうが、大目に見ていただけると嬉しいです。
それと、誤字や脱字も多かったですね。本当にごめんなさい。
あと、一日で完結出来なかったことを、ここでお詫びします。

質問があれば答えますので、どうぞ。




71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 23:14:50.86 ID:7LLmn5Us0
前にエルフのss書いたことある?




72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 23:16:14.08 ID:6SLLPHsoO
>>71
無いですね。
エルフSSは初めてです。




73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 23:18:48.47 ID:6busJUSu0
過去に書いたSSとか教えてください




75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 23:23:22.12 ID:6SLLPHsoO
>>73
最近男女のSSを2つ書きましたのでそれを。

女「力が欲しい」
http://minnanohimatubushi.2chblog.jp/archives/1805505.html

男「感動したい」
http://minnanohimatubushi.2chblog.jp/archives/1805525.html




76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 23:28:07.99 ID:I7wANVJp0
>>75
あーこれだったのか・・・

シリアス系のSSは普段読まないんだけどすごく良かった


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