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バタコ「ジャムおじさんっ…!チクビ吸うのらめぇぇ!」
【パート1】【パート2】【パート3】



487 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 18:50:36.48 ID:qVMXlbYRO
集まってゆくイチゴジャムと距離をとって、バイキンUFOは空中にとどまっていた。
コックピットでは、険しい表情のバイキンマンが、その観察を続けている。

バイキン「…畜生、ジャムの野郎…」

思わずそう呟やいて、後方から飛んでくるショクパンマンに気がついた。

バイキン「ショクパンマン!こっちだ!」

キャノピーを開いて、ショクパンマンを呼び寄せる。

ショクパン「状況の説明を。何があったのですか」

想像以上に落ち着いたショクパンマンの声に、一瞬拍子抜けしたように感じた。
…いや、舞い上がっていたのは、自分のほうか…
そう気づき、一度大きく深呼吸して話し始めた。

バイキン「ジャムのやろうが、また変体し始めた。おそらく、今度は俺様たちみたいな、人型になるはずと思う」

ショクパン「人型、ですか…何故そう思うのですか?」

バイキン「…勘、かな」

勘などではない、自分の中では確信を得ているといってもいいが、それを説明することは出来ない。

ショクパン「…勘ですか」

意外にもそう言って、ショクパンマンが苦笑いをする。
この状況で笑える彼の度胸の大きさに、素直に感心させられた。



 
 


494 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 19:02:44.05 ID:qVMXlbYRO
バイキン「大足ロボットでは、十中八九相手にならない。
だから、今唯一動けるお前を呼んだんだ」

会話をしている間にもイチゴジャムは一点を目指してどんどん収束していく。

ショクパン「分かりました。私がその相手をすればいいんですね?」
バイキン「俺様とお前とで、だ」

バイキンマンが、すかさず訂正する。
普段の彼ならば、自分の今のセリフに身もだえしたくなるほど後悔したことだろう。
だが、もうそんな思いは頭の片隅にも浮かばなかった。

ショクパン「いいえ、あなたはまだ何かやることがあるのでしょう?
だから、私一人です」

予想外の返答に、思わず目を見開く。
確かに、自分にはまだやらなければならないことがある。
しかし、何故それがショクパンマンに分かったのだろう。

ショクパン「顔に書いてありますよ、正直な人ですね」

そう言って彼は、にこやかに笑う。

バイキン「…チッ…嫌な野郎だねまったく…」
ショクパン「アハハ、失礼しました」

もう一度笑って、そして今度は真剣な顔で言う。

ショクパン「時間は稼ぎます。任せてください」


495 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 19:12:33.92 ID:qVMXlbYRO
バイキン「…ケッ…大層な大口たたくようになったじゃーねか…」

思わず頼もしいと感じてしまった自分をごまかすように、バイキンマンが減らず口をいう。

バイキン「…無理は、するなよ…」

そうポツリと呟く。

ショクパン「…誰かさんのセリフですよ」

それを聞いて、思いついたようにショクパンマンが答える。

バイキン「…あ?」

ショクパン「はじめから、負けると思って闘う馬鹿はいないそうです」

そう言って彼は、いたずらっ子のように目を輝かせて笑った。

バイキン「ほんっとに嫌な野郎だなてめえはッ!!せいぜいくたばるんじゃねーぞ!!!」

捨て台詞のようにそう言って、キャノピーを閉め、飛んでいくバイキンUFO。

ショクパンマンはそれを笑顔で見送り、再び真剣な表情で向き直った。

ショクパン「負けませんよ、私は…どんな相手だろうともっ!!」


509 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 19:53:04.96 ID:qVMXlbYRO
ショクパンマンと別れた後、チーズは森をさまよっていた。
まわりの空気は、懐かしい、しかし吐き気のするほど嫌なにおいにみちている。

そのにおいから逃れるように、森の奥へ、奥へとやつれたからだを引きずるようにしてすすんでいく。

しばらく歩くと、突然、木々が開けた場所に出た。日の光もそろそろ傾き始めている。
今夜は、ここで寝よう…
うずくまり、優しかったかつての主人の思い出を抱きしめるように前足を縮める。
これからどうしたらいいのだろう…しばらくは食事もろくにしていない。
ショクパンマンの顔の切れ端で少し体力を取り戻せたが、既に体の限界に近いのは間違いない事実だ…

突然、流れてくる風に、もうひとつの懐かしい匂いが混ざっていることに気がついた。
知らず知らずのうちに、尾がピンッと立ち上がる。

チーズはのそりと体を起こすと、その懐かしいにおいの元目指して、むかっていった。


512 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 20:07:56.26 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「…どうやら、彼の勘は正しかったようですね…」

少しずつ、少しずつ凝縮され、どす黒くなっていくイチゴジャムの塊を眺めながら、ショクパンマンが呟く。
いや、もはやジャムではない。なにか別の酷く禍々しい物が、そこに存在しているように感じていた。
しかし、当然感じていいはずの恐怖は、何故か微塵も感じない。

ショクパン「…本当にジャムおじさんとは別のものになってしまったんですね…」

そう、悲しそうに呟く。先ほどから、あのどす黒い塊に攻撃することを考えても、何も感じない。
つまり、最早既に、あの物体はジャムおじさんですらないのだ…

ショクパン「ッ!!!」

どうやら変体が終わったらしい。眼下の黒い物体がゆっくりと立ち上がる。

漆黒の肌、背中に生えた黒く艶やかな羽、長くしなやかな尾、そして、頭頂部に生えた二本の特徴的な角。

ショクパン「あれ、は…」

その生き物は、一度大きく伸びをすると、ゴキゴキと間接を鳴らし、そして

JAM「…あ亜あああああああああああああああああ亜亞s蛙唖阿アああッッッ!!!!!」

ショクパン「うわっ!!」

信じられないほどの大音量で、強く吼えた。


521 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 20:17:02.51 ID:qVMXlbYRO
JAM「…ふぅ…ああ、私は再び生まれ変わったのだな…」

黒くしなやかな腕を伸ばし、筋肉質な足に目をやり、ゆっくりと尾を持ちあげる。

JAM「…すばらしいな、これが新たな私の力か…」

そう呟いてぐるりとあたりを見渡し、空中でこちらの様子を伺っているものがいることに気づいた。

JAM「…ショクパンマンか、お前は、まだ、私に取り込まれていないのだな…」

突然の問いかけにショクパンマンは、答えを返す代わりに身構えてみせる。

JAM「…まったくもって素晴らしい、まさか、これでもなお今以上の可能性が残されているとは…」

そう言ってJAMは足を曲げ、力を下半身にいきわたらせる。

JAM「貴様のイースト菌も……食わせろッッッ!!!!!!」

そう吼えると、空中に飛び上がった。


527 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 20:29:06.50 ID:qVMXlbYRO
ドキン「い、今のは?」

突然聞こえてきた獣のような唸り声に驚いて、アンパンマン号のドキンちゃんが怯えた声を出した。

バタコ「落ち着いて、バイキンマンの兵隊だっているわ。ここはまだ安全なはずよ」

そう言ってみたものの、彼女自身今の叫び声には心底驚いていた。
不安で押しつぶされそうになるが、ここで逃げ出すわけには行かない。

バイキン『アンパンマン号アンパンマン号、こちらバイキンマン様だ 聞こえているか?』

突然無線機を通してバイキンマンが呼びかけてきた。

バタコ「こちらアンパンマン号、バタコよ バイキンマン、無事なのね?今の叫び声は?」

バイキン『無事だ さっきのはジャムじじいのくそったれの産声だろうよ カレーパンマンの顔の準備は出来ているか?』

バタコ「え?え、ええ 言われたとおりに焼きあがっているわ。でも…」

バイキン『分かった 今行く』

そう言って通信は一方的に途絶えた。
頭の中にいくつものクエスチョンマークが浮かんだが、一度頭を振り、それらを外に追い出す。

私は、私に出来ることをしなければ。


529 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 20:41:15.81 ID:qVMXlbYRO
ドキン「みんな、ぶじなの?」

ドキンちゃんが心配そうに呟く。

バタコ「ええ、きっと。それよりバイキンマンが来るわ。なんだか分からないけど、できることをしましょう」

そう言って、かまどから、焼きあがったばかりのカレーパンマンの顔を取り出す。
大丈夫、いつも通りだ。きれいに焼けている。
そとから、おそらくUFOが着陸したのだろう。ずいぶん乱暴な音が聞こえてきた。
かまどを閉めたそのタイミングで、アンパンマン号の扉が開いた。

ドキン「バイキンマン!!」

ドキンちゃんが、その無事を喜ぶかのように名前をよぶ。

バイキン「よし、準備は出来ているな。それをカレーパンマンの体に」

バタコ「でも、イースト菌が抜かれていては…」

浮かんできた当然の疑問が、口をついて飛び出してくる。
しかし、バイキンマンは何も答えない。
仕方なく、後ろの台の上のカレーパンマンのつぶれてしまった顔を、新しい焼きたてのそれへと付け替える。

バタコ「…何もおきないわよ?」

分かりきった結果、しかし万が一の期待を裏切られ、失望ともため息ともつかない言葉が自然に口から漏れる。

ドキン「…バイキンマン?」

ドキンちゃんも不思議そうにバイキンマンに問いかけるが、答えはない。


533 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 20:53:30.66 ID:qVMXlbYRO
バイキン「…しばらく、こいつと二人きりにしてくれないか…」

押し黙ったままだったバイキンマンが、その重い口を開いた。

バタコ「…でも…。それに、万が一カレーパンマンがよみがえったとしても…」

そこで言葉を切る。”また、裏切られるかもしれない”
そんなセリフは言いたくなかった。

バイキン「…そんな心配はいらない。気づかなかったのか?」

そういって静かに指差した先には、カレーパンマンの古い、ぐちゃぐちゃにつぶれた昔の顔があった。

バタコ「…この顔が、どうかしたの?……えっ…そんな、まさかッ?」

突然閃いた恐ろしい考えに、全身が鳥肌立つ。

バイキン「…おそらく、そのまさかだ。よく調べてみろ」

そういわれ、恐る恐るつぶれたパン生地を開いてみる。中には…

バタコ「……こんな、…なんでこんなひどいことをッ!!!」

恐ろしい衝撃と、激しい怒りがバタコの体を震わせる。

バイキン「…言ったとおりだろう…
俺の知っているカレーパンマンは、あんな馬鹿にそそのかされるほど、弱いやつじゃなかったはずだ」


539 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 21:00:58.53 ID:qVMXlbYRO
ドキン「…いったい、なにがあったの?」

話についていけず、ドキンちゃんがバタコの肩越しに声をかける。

バイキン「…見ないほうがいい、気分が悪くなるだけだ…胸糞悪いこと、しやがってッ……」

バイキンマンがそう毒づいて、静かに続ける。

バイキン「…そういうわけだ。二人とも、ちょっと席をはずしてくれ」

有無を言わさぬ迫力に、長年の付き合いのドキンちゃんが空気を察する。
こういうときのバイキンマンは、そっとしておいたほうがいい…

ドキン「…バタコさん、外にでましょう」

そういって震えているバタコの手をとり、外へ降りていった。

バイキン「…」

扉が閉まるのを確認して、バイキンマンが無言で横たわるカレーパンマンに向きなおる。
その瞳は、何故か、言い知れない悲しみで満たされていた。


546 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 21:18:52.19 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「ショック!!!パアアアアアアアンチッ!!!!!!!!」

意外にも、先手を取ったのはショクパンマンだった。
自分に向かってすさまじいスピードで飛んでくるJAMの巨体にも、ひるむことなく力強いパンチを繰り出す。

JAM「シッ!!!!!!」

しかしそのパンチは片腕であっさり防がれ、変わりに、丸太のように膨れ上がったもう片方の腕での、横なぎのラリアットが飛んでくる。

ショクパン「フッ!!!!」

しかし、それを予想していたのだろうか、
ショクパンマンは空中で素早く身をかがめ、ラリアットをかわすと、そのまま反動を使いJAMのわき腹をつま先でけりあげる。
だが、驚くほどJAMの体は硬かった。まるで鋼鉄を蹴りつけたようだと、ショクパンマンは感じた。
いそいでいったん距離をとる。

JAM「…まだ、体がなじんでいないようだ…」
ダメージはほとんどなかったのだろう。
悠々とツバサをはためかせ、空中に浮かぶJAMは、それでも、まるで一発あたってしまったことさえも気に入らないかのように、首を鳴らす。

ショクパン「…なるほど。これは厄介だ…」
真剣な面持ちで距離を測るショクパンマン、しかし、その顔に恐怖は微塵も感じられなかった。

JAM「…貴様で…」
それが気に入らなかったのか、JAMが再び攻撃を加える気配を見せる。
JAM「準備体操するとしようかッ!!!!!」

そう叫ぶと、力強くツバサを動かし、すさまじい勢いで飛び掛ってきた。


549 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 21:29:44.58 ID:qVMXlbYRO
風に漂うかすかなにおいを頼りに、チーズはどこまでもすすんでいった。
バタコさんもほめてくれた、その自慢の鼻は、ゆっくりと、しかし確実にチーズを目的地にいざなってゆく。

…ちかくだ
そう思ったとき、チーズの鼻ほどはよくないがしっかり見える両目は、
懐かしい友人の姿を捉えていた。

アンパンマンだ!!!!
それに気づくと、いそいで駆け寄ろうとした。
ピンと張ったしっぽが、自然に左右に大きく振れている。

しかし、その彼の前に立ちはだかるものがいた。
カビルンルンだった。
小さな体を精一杯張り、何本もの菌糸を逆立たせ、必死に恐い顔をしている。
きっと、自分を威嚇しているんだろう、と、チーズはおもった。
闘って、負ける気はしない。アンパンマンを、助けなければ!!


559 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 21:46:29.42 ID:qVMXlbYRO
全身の毛を逆立たせて、ぐるぐるとうなり声を上げる。
足に力をこめ、いつでも飛びかかれる体制をとる。

…しかし、異変に気づく。
彼の前に立ちはだかったカビルンルンは、倒れ伏したアンパンマンを自分から隠すように、その体を揺らしている。
必死に何事か叫びながら自分を威嚇する様は、むしろまるでアンパンマンを守っているかのように、彼の目には見えたのだ。

…なにか、事情があるのかもしれない。
そう思って、飛び掛るのをやめる。

しかし、このままこの場所にアンパンマンを置いてゆけない…
いままでこういうときはどうしたら良かったんだろう?
必死に思い出そうとする。
誰かに助けを呼べばいいのではないだろうか…
だれが…ジャムおじさん…だめだ…バタコさん…そうだっ!!バタコさんだ!!

それに気づいて、チーズは顔をあげ、必死に空気の中のにおいをかぎ出した。
何かの焼ける嫌なにおいにみちた空気の中に、しかしそれでもかすかなバタコさんのにおいをかぎつける。
…みつけた!!バタコさんだ!!

チーズはくるりとカビルンルンに背を向け、一つ大きく空に吼えると、一目散に走り出した。


565 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 22:20:31.95 ID:qVMXlbYRO
バイキン「…」
横たったまま動かないカレーパンマンを前にバイキンマンは、腕を組んで両目をつむり何事か考え込んでいるようだった。

しばらく微動だにせずそうしていた後、やがてゆっくりまぶたを開きバイキンマンは語り始めた。

バイキン「…お前たちはさ…」
ゆっくり一呼吸おいて、さらに続ける。
バイキン「…いつだって、強かったよな…だれに頼まれたわけでもないのに…ただ…自分たちの正しいと信じることを…馬鹿みたいにひたすら繰り返して……」
そこでぎゅっとこぶしを握る。

バイキン「…カレーとも何回闘ったか、わからんな…実際…お前は強かったよ…きっと…」
いったん言葉を区切る。


567 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 22:21:18.52 ID:qVMXlbYRO
バイキン「…きっと、なにか信じるものがあったんだろうな…お前の中にも…あの二人の中にも…だから、たたかえたんだ…いつだって、闘えた…」
そういって、またしばらく押し黙った後、声の変わりに奥歯を強くかみ締める音が、車内に響いた。

バイキン「…お前は、誰かに言われて、闘ってたのか?どこぞの神様にでも命令されて、正義のパン戦士、カレーパンマンに生まれてきたのか?」
次第に口調が熱を帯びていく。さらにバイキンマンは続けた。

バイキン「ちがうだろ…俺様たちは違う。望んで生まれてきて、そしてだからここにいる。
俺様たちは違う!自分で自分に命令して、そうやって生きてきた
くだらない菌なんかなくったって、お前たちは最初っから誇り高き正義の戦士だったろッ!!!
そんなやつらに…そういうやつらに、こんな終り方はまっぴらだなんだよッ!!」

そう怒鳴りつけるようにいうとおもむろに、後ろにおいてあったパンきり包丁を手に取る。

バイキン「…なあ、帰って来いよ…」



『 ・・・ 兄 第 ・・・』


569 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 22:24:47.58 ID:iUQOncNCO
兄弟?


577 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 22:34:08.10 ID:qVMXlbYRO
外で待機していたバタコは、突然アンパンマン号からバイキンマンの怒鳴り声が聞こえて、
思わず車内をのぞきこんでしまった。
そして目の当たりにした光景に驚く。
何故か、調理用の包丁をバイキンマンがその手に取り上げたからだ。

びっくりして扉に手をかけるが、ドキンちゃんに肩をつかまれ引き戻された。

ドキン「お願い、信じてあげて」

バタコ「でも…」

そういってもう一度車内を覗き込む。
バイキンマンは己の手のひらに包丁を当てると、そのまますっと引いた。
その表情は、影になっていて良く見えない。

バタコ「ひっ…」


579 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 22:36:02.32 ID:qVMXlbYRO
傷ついた手のひらから、当然のように血があふれ出てくる。
バイキンマンは、その手のひらをそのまま上に上げ

バタコ「…いったい、なにを…」

横たわっているカレーパンマンの胸の上にかざした。
あふれ出した血液が、重力に抗えずそのまま下に落ちる。

バタコ「…!!!」

信じがたい光景を目の当たりにして、バタコが声にならない声を上げる。
バイキンマンの手から零れ落ちていく血液が、空中で優しく光輝き、星型を形作ってカレーパンマンの胸に落ちていくのだ。

ドキン「…流れ星が…」

ドキンちゃんが、呟くように言った。


584 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 22:44:42.37 ID:wWtJ98CP0
カレーの中にはなにが入ってたの?


587 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 22:45:50.64 ID:ez8Nh0UIO
リンゴとハチミツ


591 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 22:48:00.47 ID:qVMXlbYRO
カレーパンマンの胸に落ちた星型のしずくは、やわらかくはじけ、そしてそのまま体にしみこんでいく。
一滴、また一滴とそれが繰り返さる。
そして、信じられないことがおこった。

しばらくして、横たわっていたカレーパンマンの右足がピクリと動いた。
そして続いて左足も。
胸はよわよわしくだが上下し始め、遠目からでもそれが分かった。

バタコ「カレーパンマンッ!!」

思わずバタコさんが、扉を開け、横たわるカレーパンマンに走りよっていく。
ハッとして振り返り、いそいで傷ついた手のひらを隠したバイキンマンは、続いて搭乗してきたドキンちゃんと目があうと、

バイキン「…みてたのか…」

と寂しそうに笑って呟いた。

ドキン「…うん…どういう、こと?」

答えはない。バイキンマンは顔を伏せ、また寂しそうに笑うと

バイキン「…いつか話すよ」

と言っただけだった。


597 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 22:56:11.20 ID:FkFsK5SaO
なんだろうこの切なさは・・・


607 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 23:10:09.77 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「フッ!!!!!!!」
JAMの突進を寸前でかわしたショクパンマンは、
空中でくるりと回って体勢を立て直しそのまま無防備なJAMの背中を蹴りつける。

JAM「…小虫がッ!!!」

こちらを向き直ることもせず、鞭のようにしなる尾で背後に飛ぶショクパンマンを狙うが
やはりギリギリでまたかわされる。
少し距離をとって空中に静止したショクパンマンが、あろうことかJAMを挑発するように喋りだした。

ショクパン「…思ったとおりですね。力は凄まじいものがある、だがスピードがそれを活かしきれていない
それだけなら、私のほうが勝っているかもしれませんね」
真顔でそんなことを言う。

JAM「…黙れ、ゴミがッ!!!」
プライドを刺激する一言だったらしい。ショクパンマン目指してがむしゃらに突っ込んでくるが、
それもまたかわす。


608 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 23:11:21.24 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「…あなたは、私の大切な人たちをたくさん傷つけた。決して、許しませんよ…」
また距離をとりながらショクパンマンが続ける。

JAM「ほう…ならばどうすると言うのだッ!!!!!!」
一言吼えて三度JAMが突っ込んでくる。

ショクパン「…こうするんですよっ!!!!!」
少しだけ浮き上がったショクパンマンのちょうどひざの部分に、ジャムの顔が当たる。
そのすさまじい突進力を利用しての、ショクパンマンならではの戦い方だった。

JAM「ガアッ!!!!」
膝蹴りをもろに顔面にくらい体勢を崩したJAMが墜落してゆく。


633 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 00:04:02.30 ID:qVMXlbYRO
鉛のように重たいまぶたを、かろうじて押し上げる。
視界がゆがみ、白と黒のモノクロームな世界が広がる。
ゆっくりと息を吸う。そして、目だけ動かしてあたりを見渡す。
心配そうに自分を覗き込む…あれは、バタコさん…か?

瞬間、世界に色が戻ってきた。急激に流れ込んでくる記憶に、体全体が揺さぶられるように感じる。

バタコ「気がついたのね!!!カレーパンマンッ!!!」

カレーパン「…あっ…」

いったい何があったのだろう。ゆっくりと体を起こした。
何故、自分はこんなところで寝ている…

カレー「…あっ…あぅ…あっ!ああっ!!」

そして、全て思い出した。自分が何をしたのかを。
何をしてしまったのかを。

カレーパンマン「ああああああああああッ!!!!!!!!」

バタコ「落ち着いて!落ち着いてッ!!カレーパンマンッ!!
あなたは何も悪くないッ!!何も悪くないのよッ!!!!」

涙を流しながら、バタコが懸命にカレーパンマンをなだる。

カレーパン「…どう…どうしてッ!!どうしてッ!!!」

身が焼かれるような忌まわしい記憶を、心が拒絶する。
しかし、体は覚えている。間違いなく、自分が何をしてしまったのかを。


640 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 00:14:38.91 ID:qVMXlbYRO
バイキン「…今回の一件は、全部ジャムの野郎の仕組んだことだ…」

傍らに立っていた男が、低い声でそう呟いた。
あれは…バイキンマン…?

バタコ「カレーパンマン…あなたはジャムおじさんに利用されていたのよ…
それもとても酷いやり方で。何も悪くないわ、あれは仕方のなかったことなの」

バタコがカレーパンマンの手を握り、必死に訴えかける。

バタコ「そうよ…あなたはジャムおじさんにイースト菌を抜かれた時、既に死んでいたのよ…
それから起こった事は、全部あなたの体をのっとった悪魔が、勝手にやったことだわ!
大丈夫、あなたは何も悪くないの…」

嗚咽交じりにバタコが言った。

バイキン「そういうことだ…お前はあの時既に死んでたんだ。先のこととは関係ない」

バイキンマンが壁によりかかり、腕を組んだまま険しい顔でそう告げる。

カレーパン「…でも、でもッ…覚えてるんだ!!この体が!!この両腕がッ!!!」

泣けることができたのなら、恥ずかしげもなく号泣していただろう。
しかし、涙は出ない。ただ顔をゆがめ、両の手のひらを見つめていた。


644 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 00:23:08.48 ID:qVMXlbYRO
ドキン「…ショクパンマン様が、闘っているの」

それまで黙っていたドキンちゃんが、ポツリと、呟くように言った。

カレーパン「ショクパンマン…が?」

バイキン「そうだ、ショクパンマンが。たった一人で」

バイキンマンが続ける。

バイキン「ショクパンマンは、言ってたよな。自分たちは誇り高きパン戦士だって
どんなに強い敵でも、三人なら戦えるんだって」

そこで、いったん言葉を区切る。

バイキン「…待ってるんだよ、お前を。そしてアンパンマンを
必ず助けに来るって、仲間を信じて、一人っきりで闘ってるんだ」

その言葉を聴いて、体中に電流が駆け巡った気がした。

カレーパン「…行かなくちゃ…ショクパンマンが…ショクパンマンが…待って、る…」

そう言って床の上に降り立った。
バタコはもう何も言えず、ただ顔をくしゃくしゃにして泣いている。


648 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 00:36:02.38 ID:qVMXlbYRO
バイキン「…そういうこった、カビパン野郎」
そう言ってバイキンマンがニヤリと笑った。

カレーパン「バタコさん…本当に…」
振り返り、泣いているバタコを見つめる。

バタコ「…行って来なさい!カレーパンマン!!」
泣きながら、それでもはっきりと、バタコがカレーパンマンの背中を押す。

バイキン「ただし無茶はするなよ、本調子とは程遠いいはずだからな」

その言葉とともにバイキンマンは後部ハッチを開いた。
詳細は何も聞いていない。しかし、何故かどこで戦いがおこなわれているのか、感じ取れるような気がした。

バイキン「おい」
飛び立とうとする自分の背に、バイキンマンが声をかける。

バイキン「…お前は、いったい なにものなんだ ?」
その質問が頭の中を駆け巡る。答えは、すぐに出た。

カレーパン「俺は……おいらは 誇り高きパン戦士 カレーパンマンだ!!!」
バイキン「…よし、ぶちのめして来い!!!」

そう言って再びバイキンマンが、ニヤリと笑った。


655 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 00:54:20.43 ID:qVMXlbYRO
JAMの落下地点から土ぼこりがもうもうとたちあがる。
ショクパンマンは油断なくその場所を見つめ、距離をとって地面に着地した。
煙の中から声が聞こえてくる。

JAM「…ずいぶんと、強くなったんじゃないか。ショクパンマン
どうやらお前を見くびっていたようだ…」

あの高さから落下したのに…こころの中で思う。しかし面には出さない。

ショクパン「あなたにだけは、負けられませんからね」

そういって身構える。実際、地力以上のパワーが出ていると、自分でも思う。
その力は、JAMにたいする溢れんばかりの怒りによるものか、それとも……ドキンちゃんのあの笑顔のおかげだろうか

JAM「…クフ、フフフ…予想以上だ、素晴らしい。その力も私のものに…」

土煙の中にJAMの巨体が浮かび上がってゆく。

ショクパン「だからッ!!させませんよッ!!!!」

そう叫んで強く地をけり、飛び出した。

JAM「しかしッ!!!!驕りが過ぎるぞッ!!!!ショクパンマンッ!!!」

しまっ!!!!…たと思ったときには既に遅かった。パンチを手のひらで受け止められ、そのまま腕をつかまれる。

ショクパン「(マズイッ!!!つかまったらッ!!!)」

だが、JAMの力が強すぎて、どうしても振りほどくことが出来ない。
自由になる片腕でJAMの顔を狙うが、それより早く鞭のようにしなる尾がショクパンマンの体にまきつき、そのままギリギリと締め上げていく。


657 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 01:04:08.60 ID:qVMXlbYRO
JAM「クフフ、フフ…とうとう捕まえたぞ、ショクパンマン…
まったく、ちょこまかと…流石小虫だな…」

そう言って含み笑いをするJAM

ショクパン「(なんとかッ!!何とか振り払わねばッ!!!)」

必死で体に巻きついた尾を引き剥がそうとするが、まったくその力は緩まない。
逆にどんどんと力強く、ショクパンマンの体を締め上げていく。

ショクパン「ぐッ!!ぎぎッ!!」

JAM「クフフフフ…そうだ、もがけ、苦しめ!」

全身を締め上げられる激痛に苦しみもがくショクパンマンをみて、JAMが満足そうに微笑む。

ショクパン「ぐうううううッ!!!!」

JAM「クフッ…さて、では貴様のイースト菌を頂くとしよう。
こんなことなら、前の体も少しは残しておけばよかったか。あれを貴様に塗りたれば、さぞかし美味だったろうに」

そんなことを言って笑う。


677 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 01:53:31.97 ID:qVMXlbYRO
ショクパン「グッ!…がっ…」

視界がゆがんで白くにごって行く。気を失いそうなのだろうか…
…悔しいっ…ただひたすら悔しいっ…
心の中で繰り返し叫びながら、それでもなお最後のときがくるまで抗い続けようと思った。

JAM「…喜べッ!!!私の糧となることをッ!!!!」

JAMが耳まで割けた口を大きく開いた。
鋭くとがった牙と、赤い赤い舌が、今か今かとショクパンマンを待ち受けている。

ショクパン「(クッ…ここまでですかッ!!!!)」

崩れていく視界の中で、遠くの空に黒い点が見えた気がした。
ぼやけた目でもう一度、見る。
その点はすさまじい速さでぐんぐんと大きくなりつづけ、やがて

ショクパン「(あれはっ…あれはっ!!!!!)」

突然自分の後方を見てうれしそうに微笑んだショクパンマンをみて、JAMは訝しげに後ろを振り返った。

JAM「…?」

その無防備な顔面に

カレーパン「カッアアアアアアレエエエエエキイイイイッツックッッッ!!!!!!!!」

カレーパンマンの全体重を乗せた一撃が、炸裂した。


683 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 02:09:25.09 ID:qVMXlbYRO
バイキン「…よし、俺様もいくぞ」

飛び出していったカレーパンマンを見送り、バイキンマンもその後を追おうと、
いそいでアンパンマン号をおりた。
その耳に

「〜〜〜」

なにやら甲高い鳴き声がする。

バイキン「…あ?」

不審に思ってあたりを見渡す。すると、突然バイキンUFOのそばの茂みが揺れ、
転がるように一匹のみすぼらしい犬が飛び出てきた。

バイキン「…なんだ?…ああ、こいつ、パン工場のあほ犬か、おいッ!!バタコさんッ!!」

大声でまだ車内にいるバタコを呼び、自分はさっさとUFOに乗り込もうとする。

バタコ「…何か…?ッチーズ?チーズなのねッ!!良くぞ無事でッ!!!」

そう叫んで、両腕をひろげ、旧来の友を迎えうけようとする。

しかしチーズは、何度も何度もその場で繰り替えし吼えるだけだ。

バイキン「けっ…躾がなってねーんだよ、俺様はもう行くぜ」

そういってUFOに乗り込もうとするバイキンマンを、バタコさんが引き止める。


687 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 02:19:41.02 ID:qVMXlbYRO
バタコ「まって!バイキンマン…チーズの様子が変なの…どうしたの?あわてなくていいのよ?」

そういってバタコさんがゆっくり、ゆっくりとやせ細ったチーズの体をなでる。

バイキン「…おい、そんなことしてる暇は…」

少しイラついた声でバイキンマンが何か言いかけるが、
その非難の言葉は、バタコさんがいきなりあげた歓声にかき消された。

バタコ「アンパンマンがッ!!!アンパンマンが生きていたわっ!!!!!」

バイキン「なんだと!!?」

予想外の言葉に、思わずUFOのツバサにかけていた手がすべる。
体勢を崩してふらつくバイキンマンなどお構い無しに、
バタコさんはチーズを抱け上げ何か意味不明なことをわめきながらそのばでぐるぐる回っている。

バイキン「おっ、おいっ!!落ち着けっ!!詳しく説明しろっ!!!」

揺れる体を何とか建て直し、バイキンマンがあわててさけんだ。

バタコ「チーズがアンパンマンを見つけてきたの!!!案内するって!!!」


691 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 02:32:15.38 ID:qVMXlbYRO
JAMの尾が一瞬緩んだすきに、ショクパンマンは何とかその支配から逃れていた。
地面にひざをついて、せわしなく息をする。
すさまじい力で締め上げられ、今にも倒れそうにつらいであろうはずなのに、
何故か俯いて咳き込むショクパンマンのその顔は満面の笑顔だった。

それもそのはずだ。
帰ってきたのだ 頼もしい仲間が

カレーパン「無事かッ!?ショクパンマンッ!!!」

力強く自分を呼ぶその声は
別れてからそれほど時間がたったわけではない、しかし何故かとても懐かしく、ショクパンマンには感じられた。

ショクパン「…助かりましたよ!!カレーパンマンッ!!」

万感の思いをこめて、傍らに立つ仲間の名を呼ぶ。

カレーパン「…本当にすまないッ!!おいらはッ…おいらはッ!!!」

昔どおりの一人称も、ショクパンマンの心を強く揺さぶる。
…本当に、帰ってきた…帰ってきたんだ、カレーパンマンがっ!!

ショクパン「積もる話は後です!今は闘うことに集中しましょう!!」

そう叫ぶようにいって吹き飛んだJAMのほうに向き直り、身構える。
何故だろう、分からない、本当に不思議だ。
…だが、今なら負ける気がしない!!!


699 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 02:51:46.02 ID:dv1H6t5GO
がんばれパン戦士!負けるなパン戦士!
こんなにドキドキワクワクしたのは久々だ


700 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 02:52:06.59 ID:qVMXlbYRO
地面に無様に倒れ臥しながら、屈辱に沸き返るような頭の中でJAMは考えていた。
あそこに見えるのは確かにカレーパンマン…イースト菌は確かに残らず抜きさったはず…
そうか、あの出来損ないの仕業か

しかし解せない…
先ほどの一撃は確かに強烈だった。しかし不意をくらったとはいえ、
パン戦士2体分のイースト菌を取り込んだはずの自分が、こうもやすやすと、蹴り飛ばされるとは…

…2体分?

そこまで考えて、カレーパンマンのイースト菌を取り込んだときのことを思い出す。
地下秘密工場にもぐり、予めイチゴジャムを媒介に保存していた、
あの培養槽のなかに身を沈めていった時の、世界がどんどん変わっていく、あの感覚…

Strawberry Jam体の時は、他者の命を貪り食らっている実感はあった。
しかし、カレーパンマンのイースト菌を取り込んだときのような、すさまじい衝撃はなかった…

……そういうことか
JAMが大きく目を見開いた。
口角をゆがめ、牙をむき出しにし、恐ろしい顔で笑う。

…わかったぞ…生きているなッ!!!!アンパンマンッ!!!!!


779 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 15:09:28.56 ID:qVMXlbYRO
自分の傍らに力なくその身を横たえるアンパンマンを見詰め、
カビルンルンは泣き出してしまいそうになりながら、それでも必死に考えていた。
すでに日が落ち、あたりは暗闇に包まれている。自分たちをぐるりと囲む、暗い夜の世界が、心細さを増徴させる。

さっき、突然暗闇から現れたあの犬は、とてもこわかった。
もしかしたら、またやってくるかもしれない…
そんなことになれば…

せめて、みんなと一緒にいればこんなにこわくはなかったのに…
頼りがいのある仲間たちの顔を思い浮かべ、心細さがよりいっそうます

バイキンマンから渡された無線通信機は、逃げる途中でどこかに落としてしまった
あれがなくなってしまったのは、本当に残念だ。
バイキンマンにあれを手渡され、難しい顔で自分の任務をつげられたとき
カビルンルンは、なんだか自分が偉くなったような気がしてとても誇らしかった。
せめてあの通信機があれば、仲間に自分の位置を知らせることが出来たのに…

そこまで考えて、カビルンルンはひとつの素敵なアイディアを思いついた。
そうだ!みんなを呼べばいいんだ!きっと気づいてくれる!


781 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 15:15:33.43 ID:qVMXlbYRO
菌糸を地面に向けてピンっとはり、少しでも遠くまで合図が届くように自分の体を持ち上げる。
バイキンマンは浄化の光とか言っていたっけ、難しいことは分からない、
でもきっとこれが、今の自分に出来る精一杯だ。

みんなっ!気づいてっ!!ぼくはここだよっ!!!
そう思いながら、風にたよりなさげにゆれるカビルンルンの体が、暗闇で、淡いピンク色に輝きだした。


782 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 15:19:45.69 ID:hvNfTqw7O
ルンルン萌えキター!


784 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 15:22:46.14 ID:qVMXlbYRO
ゆっくりと立ち上がったJAMの顔は、何故か笑みで満たされていた。
こちらに身構えている二人のパン戦士たちを一度ちらりと見やってからくるりと背を向け、
大きなツバサをひろげて夜空に舞い上がっていく。

カレーパン「…にげ、たのか?」

カレーパンマンが不審そうに呟く。

ショクパン「いえ、あれは…」

何かがおかしい。飛び立つ前一度こちらを見たJAMの顔は、確かに不敵に笑っていた。

ショクパン「わかりません…でも、追わなければ!嫌な予感がします!!」
カレーパン「ああ、そうだな!行こう!」

そう言って二人のパン戦士は、JAMの後を追い空中に飛び上がっていった。


785 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 15:23:18.36 ID:p56GViIaO
かびるんるんかわええ


789 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 15:42:35.57 ID:qVMXlbYRO
眼下に広がる黒い森を見渡しながら、JAMは夜空を飛んでいた。
アンパンマンのイースト菌はまだこの体に取り込まれていない。それは、確かなことだ。
ではなぜ、ヤツはあの場にいなかったのか。可能であれば、きっと一番最初に闘いに赴く、それがアンパンマンだ。
まだ人間だった頃の記憶が、その結論を確信させる。
…ならば答えはひとつ。闘える状況になかったのだ。

目を皿のようにして下を眺めながら、必死にStrawberry Jam体だった頃の記憶を思い出す。
あの地下秘密工場から逃げ出すとき、アンパンマンはどうしていたか…
何故か、顔にカビを生やし、今にも……カビ?そうだ、やつは胸に一匹のカビルンルンを抱いていた!!!
カビルンルンだ!!!

それに気づくと同時に、視界の隅で、夜の森の中で輝きだした淡い光が目に留まる。
あの光は…仲間を呼ぶ…カビルンルンの発光だッ!!!!!!!
人間だった頃の知識が、己の幸運を自身に告げ、喜びに体が打ち震える。

…そうか…クフフ…そういうことか………
見つけたぞッ……アンパンマンッ!!!!!!!!


794 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 15:57:30.54 ID:qVMXlbYRO
バタコ「いそいで!!もうすぐだってチーズが言ってるわ!!!」

バイキンUFOの後部座席に乗り込み、バタコさんが息せき切って早口で促す。
その手にはアンパンマンの焼きたての顔。チーズの知らせを聞き、
アンパンマン号より小回りのきくUFOに、バイキンマンとともに乗り込んだのだ。
それに感化されたのか、隣に座っていたチーズも、甲高い声で鳴き始める。

バイキン「おい、ちょっと黙らせろそのあほ犬。うるさくてかなわん!!」

操縦かんをとるバイキンマンが、堪りかねたようにそんなことを言う。
しかし興奮したバタコさんの耳には届かない。

バタコ「ああ…アンパンマン…私のアンパンマンッ…」

胸に焼きたてのパンを抱きしめ、一刻も早くと願い続けるバタコさん。
突然バイキンマンが前方を指差し、大きな声を上げる。

バイキン「おい、あれ見ろ!!あの光は…カビルンルンかっ!!」

叫んで前方の淡いピンクの輝きを見返す。
本来、カビルンルンの発光には微妙な個体差があり、その数は千とも万とも言われる。
カビルンルンの数だけ、違った色の光があるのだ。
しかしバイキンマンは、常人には決して見分けられないはずのその色の違いを
身内のカビルンルンに限り、一目で完璧に判別できる。完璧に、だ。

バイキン「あの色は…アンパンマンたちと一緒にいたカビルンルンだ!!!!」


796 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 16:14:03.38 ID:qVMXlbYRO
バタコ「あそこにアンパンマンがいるのねッ!!!」

バタコさんがそれを聞き、感極まった声を出す。

そのとき、突然チーズがあらぬ方向を向いて、牙をむき出し、ものすごいうなり声を上げた。

バイキン「おい、急に、何を……ッ!!!あれはッ!!」

そう叫んでチーズが吼え声を上げている方向を見返した。

バイキン「…くそったれッ!!!ジャム爺だッ!!!!」

その言葉とともに、UFOのアクセルを最大出力に引き上げる。
まさしくその方向には、暗闇と同化しそうなJAMの巨体が二人のパン戦士を引き連れ、猛スピードで
こちらのすすんでいるのと同じ方角を目指して夜空を飛んでいるのだ。


797 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 16:16:05.79 ID:QakovI3YO
急げバイキンマン!


798 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 16:25:03.11 ID:qVMXlbYRO
だめだ、間に合わない…
そう思った瞬間からのバイキンマンの行動は早かった。

バイキン「おい、バタコさん!!低空飛行に切り替えるから、飛び降りて先に行けッ!!」

そう叫んで、UFOを操作し、地面すれすれまでその高度をさげる。
キャノピーが開かれた瞬間、アンパンマンの顔を抱きしめたバタコさんとチーズが地面に飛び降りた。

無事に着地したのを一度確認するとすぐさま機体を立て直し、弾丸のように飛んでくるJAMに向かい進路をとる。

バイキン「オオオオオオッッ!!!!」

一声吼えて、UFOごと最大出力でJAMに突っ込んでゆく。


802 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 16:39:45.28 ID:qVMXlbYRO
夜空にせわしなく翼をはためかせ、JAMは悪鬼のようなその顔に恐ろしい笑みを浮かべながら、
光を目指して全速力で飛んでいた。

もう少しだッ!!!もう少しで私はッ!!

心の中でそう叫んだ瞬間、あらぬ方向から、バイキンマンの乗ったUFOが凄まじい速度で突っ込んできた。
間一髪その存在に気づき、両腕で機体を受け止める。

バイキン「オオオオオオッ!!!!!」

バイキンマンがさらにアクセルを強く引き上げるが、その機体はJAMの両腕につかまれたまま空中で静止してビクともしない。

JAM「グ、ギギッ!!!」

JAMが両腕にさらに力を込める。

JAM「ジャああまあああをおおおするなあああアアアあッ!!!!!!!」

バイキン「うおッ!!!!?」

次の瞬間、JAMの凄まじい叫び声とともにUFOごと投げ飛ばされていた。


805 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 16:54:16.90 ID:qVMXlbYRO
地面に飛び降りたバタコは、その瞬間からすぐさますぐ近くに見える光に向かって走り出していた。
着地したときにひねったのだろうか、一歩足を踏み出すごとに激痛が走るが、今はそれすら気にかからない。

バタコ「アンパンマンッ…アンパンマンッ!!」

大切な想い人の名を繰り返し繰り返し、呪文のように唱え名がら、懸命に走り続ける。

…見えたッ!!!カビルンルン!!その下に……ああっ、アンパンマンだわっ!!! 

溢れ出しそうな涙をこらえ、さらに一歩踏み出そうとする。
そのとき、恐ろしい叫び声をあげながら夜空からJAMが舞い降りてくるのが目に入った。

JAM「があああああああッ!!!!」

流星のようにアンパンマン目掛けて飛んでくるJAMを見て、
なぜかバタコさんは足を止める。そして大切に抱えてきたアンパンの顔を頭上に高く掲げ、弓なりに背を反り返らせる。

大丈夫よ、これが私に出来ることだから

一言心の中で呟いて、掲げた新しい顔を勢いよく投げる。

バタコ「アンパンマンッ!!!!新しい顔よッ!!!!!」


807 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 17:11:01.07 ID:qVMXlbYRO
それをみて、きりもみしながら揺れるUFOのコックピットで、
バイキンマンは叫んだ。

バイキン「バタコさんッ!!!だめだッ!!!」

しかし、ことは既になされていた。
投げ出されたアンパンマンの顔は美しい放物線を描いて、横たわるアンパンマン目指してとんでいく。

しかし…

JAM「クフハハハハッ!!!!!ひとあし遅かったなッ!!!!」

その軌跡の間に割り込むように体を入れたJAMが、けたたましい笑い声とともに叫ぶ。
思わず目をつぶりたくなる。JAMが飛来するパンを叩き落そうと片腕を掲げた。

…まに、あわなかった…ッ!!

その瞬間、信じられないような光景を、バイキンマンは目にした。
突き出されたJAMの丸太のような腕を、まるで操り糸でもついているかのようにするりとさけ、
横たわるアンパンマン目指してパンが飛んでいく。
JAMは腕を突き出したまま呆然として固まってしまい、口をあけたマヌケな表情でそれを見送った。

全てを見届け、風になびく黒い髪をかきあげながら、バタコさんが誇らしげに呟いた。

バタコ「そんなこともわすれてしまったの、ジャムおじさん?
私のコントロールは世界一なのよ」


841 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/03(水) 19:52:55.20 ID:hFaDzrGHO
このスレタイにこんな極上SSが隠されていようなんざ誰も思わんだろうね



※ネタバレ防止のためコメント欄は非公開です。【完】にてコメントを受け付けます。


バタコ「ジャムおじさんっ…!チクビ吸うのらめぇぇ!」【完】へつづく
※11月4日20時ごろ更新予定。まったりとお付き合いください。


バタコさん抱き人形


バタコさんの活躍を読みたい人はこちらのSSをどうぞ
バタコ「え?中日ドラゴンズ?」


転載元
バタコ「ジャムおじさんっ…!チクビ吸うのらめぇぇ!」
http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1243788214/
 

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