1 :おつかい:2009/08/26(水) 00:50:52
    この世界には、魔王がいました。
    侵略や虐殺を繰返す魔王に、人間達は遥か昔から苦しめられていました。
    ある時どこかの国の王様が、遂に魔王を封じることに成功します。
    これで人々には、平和が約束され……──たかに思われました。

    その後少しの時を経て、魔王の封印が解かれてしまったのです。
    再び世に現れた魔王は自身を封じた国を滅ぼし、魔王城へと戻っていきました。
    こうして振り出し。こうして元の木阿弥です。

    ですが少しだけ、以前と異なる点がありました。


    魔王の部屋─

    魔王「………またか」
    娘「………」
    魔王「自分の部屋で寝ろと言うのに……年頃の娘が全く…(ブツブツ)」
    娘「むー……にゃふ」
    魔王「こら、起きろ」
    娘「ふぁあ……おとーさんだ」
    魔王「ああ父だ。お早う」
    娘「おはよー」


    魔王に、娘ができていました。


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魔王「今日も平和だ飯がうまい」



















 



2 :みんなの暇つぶしさん:2009/08/26(水) 00:53:24
    魔王「お前、いい加減にしろよ」
    娘「えー……」
    魔王「えー、ではない。いつまで私と寝所を共にする気だ」
    娘「半永久的?」
    魔王「…改める気が全くないという事が理解できた」
    娘「いいじゃない、減るもんじゃなし」
    魔王「お前の何かが着実に磨耗されているのだが」


    娘「お父さんは良い人でもいるの?」
    魔王「いいや」
    娘「そして、私にもそんな人はいません!」
    魔王「ふっ…そんな者、存在を確認した次点で消炭だ」
    娘(…自分も大概だって、自覚ないんだろうなー)

3 :みんなの暇つぶしさん:2009/08/26(水) 00:59:07
    娘「ま、まあ。こういう次第で何も問題はないのです!以上!」
    魔王「……腑に落ちん」
    娘「ほら、早く食べないと朝ご飯が冷めちゃうよ」
    魔王「…ああ」
    娘「おいしいねー」
    魔王「そうだな、美味いな」


    ギイッ

    側近「よーっす」
    魔王「側近か」
    娘「側近おはよー」
    側近「今朝も娘ちゃんは魔王と一緒か。物好きだねー」
    娘「競争相手が少なくていいもんだよ!」
    側近「なるほど」
    魔王「待て、お前達」

4 :みんなの暇つぶしさん:2009/08/26(水) 01:05:11
    側近「さて、気を取り直して……今日こそ仕事をしてもらうぞ、魔王」
    魔王「む……本日は体調が優r」
    側近「うるせえ!お前はいつになったら調子が良くなるんだ!復活してもう何月経った?!!」
    娘「気が向いたら元気になるんだよねー」
    魔王「そうだな。気が向けばな」
    側近「うっぜえええ…」


    側近「ったく…娘ちゃんは毎日自分の分片してから、お前と遊んでるっつーのに…」
    魔王「うむ。よく出来た、自慢の娘だ」
    娘「えへへ…」
    側近「娘ちゃんが出来る分、お前のダメさが目立つんだがなあ……」
    娘「お、お父さんは駄目じゃないよ!」

5 :みんなの暇つぶしさん:2009/08/26(水) 01:07:48
    娘「そりゃ…お父さんはちょっと魔王っぽくないし、ニートだし、取り得といえば園芸くらいだけど…」
    娘「それでも、私の自慢のお父さんなの!」
    魔王「………ありがとう、娘よ」
    娘「……お父さん」
    側近「帰りてえ」


    側近「駄目かどうかはもういい…とりあえず、今日こそ仕事しやがれ」
    魔王「ふっ………愚かな。この机の山に挑むと言うのか」
    側近「山を作ったのはてめえだろうが。今日だけと言わず終わるまで監禁して」
    娘「あ、それなら全部私が終わらせておいたよ?」
    側近・魔王「何、………だと?」


7 :みんなの暇つぶしさん:2009/08/27(木) 02:06:15
    娘「昨日、夜ご飯の後暇だったから…つい」
    魔王「………どうだ」
    側近「(パラパラ)……完璧。相変わらず憎たらしいほどチートだねえ」
    娘「今日の分も、私がついでにやっておいたの!これで今日も一日遊べるよ!」
    魔王「……すまんな、お前に頼ってばかりで」
    娘「そんな…っ!いいんだよお父さん!」


    娘「お父さんと一緒にいれるなら、私は何だって頑張るんだから!」
    魔王「娘……それほどまでに私を…」
    娘「だって……親子でしょ?」
    魔王「ああ…ありがとうな(ナデナデ)」
    娘「えへへー…」
    側近「………」

8 :みんなの暇つぶしさん:2009/08/27(木) 02:08:08
    夜─

    コンコン

    娘「はーい」
    側近「…俺だけど、ちょっといいかな?」
    娘「もしかして夜這い?」
    側近「んな死に直結するような真似誰がする?!入るぞ!」
    娘「はいはーい」


    娘の部屋─


    娘「すぐお父さんの部屋に行くから、手短にね」
    側近「すぐ済む。ちょっと魔王のことで話があるんだ」
    娘「お父さん?お父さんがどうかしたの?!」
    側近「……どうにか、なるかもしれないと言うか…」
    娘「?」

9 :みんなの暇つぶしさん:2009/08/27(木) 02:09:32
    側近「あいつが不在の間、形式的に魔王は娘ちゃんだっただろ?」
    娘「う、うん。側近や城の皆のお陰で、魔王ができたんだよ」
    側近「いいや、娘ちゃんが頑張ったからだろ。俺達はちょっと背中を押しただけさ」
    娘「…ありがと」


    娘「……でも、お父さんが戻ってきた今、私の身分はただのお付き。側近と大して変わらないよ」
    側近「ああ…でもそれが問題なんだ」
    娘「……私、何かやっちゃった?」
    側近「とんでもない。娘ちゃんは完璧だ」

10 :みんなの暇つぶしさん:2009/08/27(木) 02:11:38
    側近「ただ、完璧すぎる」
    娘「完璧、すぎる……?」
    側近「あいつは…魔王は元々仕事が出来るというよりも…その人柄で、それなりにまあまあの支持を得ていた」
    娘「先代様がやり手な魔王だったから、逆にお父さんが魔物の皆に受けたんだっけ」
    側近「ああ……先代様は魔物に対しても無慈悲なお方だった…だから皆、疲れてしまった」


    側近「だが、魔王の支持が今後揺らいで来るかもしれない」
    娘「……私が、出しゃばるから? やっぱり元々が人間だと…皆嫌なのかな……」
    側近「城の魔物は皆娘ちゃんの味方だ。誰も文句は言わんし、応援してるよ」
    娘「な、なら別に……」
    側近「世界中に、魔物は数多く存在している。城にいる魔物なんざ、ごく僅かだ」
    娘「あ…」

11 :みんなの暇つぶしさん:2009/08/27(木) 02:12:40
    側近「率直に言おう。大半の魔物たちは未だ、娘ちゃんのことを快く思ってはいないんだ」
    娘「………」
    側近「最近噂になってるんだよ。魔王が復活したのに、偽の魔王が実権を握ったままだ…って」
    娘「偽……か。私はまだ、本物にはなれないのかな…」
    側近「無責任な話だよ。あんまり気にすんな」


    側近「しかし、このまま娘ちゃんが活躍して、魔王がニートのままだと……城にいる奴等は娘ちゃん、それ以外は魔王を立てるだろう」
    娘「対立の火種になるかもしれない……か」
    側近「ああ。どれくらい大きくなるかも分かんねえし、あくまで可能性の話だがな」
    娘「ごめんなさい…私、何も考えてなかった……」
    側近「いや…娘ちゃんが謝ることはねえよ。十割方あいつが悪いんだし」

12 :みんなの暇つぶしさん:2009/08/27(木) 02:14:59
    娘「……どうすればいいのかな」
    側近「娘ちゃんには少しの間休んでもらって…あいつにみっちり仕事をさせようと思う」
    娘「そ、それは……どっちも無理だよ」
    側近「おお。言い切ったか」
    娘「だって…私がやった方が確実で正確だと思うと……ついつい手が」
    側近「だからそれが駄目なんだって」


    娘「うん、分かった。心を鬼にして…お父さんを頑張らせる」
    側近「難しく考えなくても、娘ちゃんが言えばあいつはやる気を出すと思うぞ」
    娘「ふふ……そうだったね。あの頃はお父さん、私が見てるからって、一生懸命お仕事してたなあ」
    側近「大体娘ちゃんは働きすぎだ。たまには気分転換でもしたらどうだ?」
    娘「うーん…それも難しいよ…」

13 :みんなの暇つぶしさん:2009/08/27(木) 02:18:09
    娘「私、ずっと魔王だったから……お休みって、何をやればいいのか分からないよ…」
    側近「好きなことをして時間を潰せば…ああ、駄目だな……」
    娘「私の趣味は仕事とお父さんだからね!」
    側近「まあ…その辺は明日考えようか…じゃあ、お休み」
    娘「うん。お休みなさい」

14 :みんなの暇つぶし:2009/08/27(木) 02:19:03
    魔王の部屋─

    娘「……」
    魔王「全く、また今夜もか…………どうした」
    娘「え」
    魔王「顔色が優れぬ。何かあったのか」
    娘「何でもないよ!この通り、ピンピンしてるよ!」
    魔王「…そうか」


    魔王「まあいい。ほら、こちらに来い」
    娘「……うん」
    魔王「お前が言いたくなるまで、私は何も聞かんよ。さあ、眠れ」
    娘「お父さん…」
    魔王「何だ?」

15 :みんなの暇つぶしさん:2009/08/27(木) 02:21:31
    娘「私ね、お父さんを守るの」
    魔王「ほお…」
    娘「昔お父さんが私を攫って守ってくれたみたいに…今度は私が守ってあげるの」
    魔王「………私も、お前を守って…共に生きたい」
    娘「同じだね」
    魔王「ああ。同じだな」


    魔王「心配はいらん。私はもう、どこにも行かない」
    娘「うん……ねえ、お父さん」
    魔王「何だ?」
    娘「私ね、魔王やってる、お父さんが見たいなあ…」
    魔王「……分かった。お休み、娘」
    娘「お休みなさい、お父さん」

16 :みんなの暇つぶしさん:2009/08/27(木) 02:25:27
    娘(……お父さんは仕事…なら、私は何をすべきなんだろ)

    娘(私は私で…魔物の信頼を築かなきゃいけない……)

    娘(元人間の私が、そう簡単に受け入れてもらえるとは思わないけど…何とかしなきゃ)

    娘(あ…)

    娘(そうだ。あれ…あの仕事、私が片付けちゃお……)

17 :みんなの暇つぶしさん:2009/08/27(木) 02:32:43
    次の日─

    魔王「お早う……今朝は、早いんだな」
    娘「おはよ。ちょっと準備があるから、早起きしたんだ」
    魔王「準備?」
    娘「うん。ちょっとの間、出張します」
    魔王「な……………………?!」


    魔王「側近!側近!!」
    側近「朝からうるせえよ…」
    魔王「一体どういうことだ?!!」
    側近「何がだよ」
    魔王「娘が出張すると言い出した!!」
    側近「……あ、ああ…なるほどね」

18 :みんなの暇つぶしさん:2009/08/27(木) 02:33:16
    娘「報告書によると……この地域に住む魔物が、最近暴れてるみたいなの」
    側近「最近、近くの人間を食い散らかしてるようだ…ってあれか。討伐隊が出るって噂もあるみたいだな」
    魔王「そんな所に何をしに行くと言うのだ?!」
    娘「報告の事実確認と、今後の対策を練るために現地調査をしに行くの」
    魔王「だ、だが別にお前が行かずとも…」
    娘「ううん。私が行くよ」


    娘「私、ずっと城の中でばかりお仕事してたから…たまには外の仕事もいいかな、って」
    魔王「しかし、外は危険だ!お前にもしものことがあれば…私は……私は!」
    側近「国一つ余裕で滅ぼす魔王後継者に、何を言ってんだお前は」
    娘「そうそう。私のことなら、心配いらないよ!」
    魔王「くっ………!!」

19 :みんなの暇つぶしさん:2009/08/27(木) 02:34:43
    魔王「側近!」
    側近「何だよ」
    魔王「魔王直々に命ずる!お前が代わりに行け!!」
    側近「あー、それ却下」
    魔王「何故だ?!!!!!」


    側近「娘ちゃんは仕事がもう他に無い。俺とお前にはある」
    魔王「何を言うか私も無いぞ!昨日娘が片付けてくれたからな!」
    娘「お父さん、威張れることじゃないよ」
    側近「残念。今日の分がほれ、この通り山と」
    魔王「な、ん………だと?」

20 :みんなの暇つぶしさん:2009/08/27(木) 02:35:41
    魔王「この量は、私一人分………か?」
    側近「勿論、留守中の娘ちゃんの分も入れてっから。ま、死ぬ気でやればいつか終わるんじゃね?」
    娘「私も頑張るから、お父さんも頑張ってね♪」
    魔王「く……っ!何だお前達その満面の笑みは!」
    娘・側近「別にー」
    魔王「実の娘と側近にハブられる、だと…?!」

22 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/02(水) 22:06:03
    魔王「……娘」
    娘「じゃあ、行ってくるね!」
    魔王「待て。忘れ物は無いか?」
    娘「大丈夫だよ。それじゃ」
    魔王「待て、顔色が冴えぬぞ。熱があるのではないか?やはり出張は取り止め」
    側近「はいはい。そこまで」
    魔王「む………」


    娘「大丈夫だよ。そりゃ、私もちょっとは不安だけど…未来の魔王として、色んなことに挑戦して、経験を積まないとね!」
    魔王「娘…」
    娘「だから、お父さんは私がいない間、ちゃんと現役魔王らしく仕事すること!」
    魔王「……分かった。お前がそう言うなら…努力しよう」

23 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/02(水) 22:07:32
    娘「約束だよ?」
    魔王「ああ。お前も、くれぐれも無茶はするなよ」
    娘「約束します!」
    魔王「……良いだろう。行け」
    娘「…ありがと」
    魔王「お前は一度言い出したら、他の言葉など聞かんからな」


    側近「娘ちゃん、娘ちゃん」
    娘「何?」
    側近(…気ぃ使わせちまって、悪かったな)ヒソヒソ
    娘(いいよ。お父さんのことよろしくね)ヒソヒソ
    側近(ああ……みっちり仕事漬けにしてやんよ)ヒソヒソ
    娘(ふふ…これで仕事する習慣がつけばいいね)ヒソヒソ
    魔王「あからさまな内緒話をするな。気になるだろうが」

24 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/02(水) 22:08:37
    側近「じゃあま…気をつけてな」
    娘「うん!」
    魔王「本当に共はいらんのだな…?」
    娘「私一人の方が人の町に潜り込みやすいしね。そんなに大きな仕事じゃないし、平気だよ」
    魔王「そうか……分かった」


    魔王「では……行って来い」
    側近「行ってらっしゃい」
    娘「ありがと!行ってきます!!」

    娘はワープの呪文を唱えた!

    魔王「本当に、気をつけてなーーー!!!」


    魔王「……はあ」
    側近「早々に溜め息か。長くても五日で帰ってくるんだから、ちっとは我慢しろよ」
    魔王「いや。昔は泣いてばかりいたというのに…大きくなりおったな…と」
    側近「………そうだよな。お前にとっちゃ、ついこないだまで娘ちゃんはちっちゃくて…」
    魔王「よし、私も負けてはおれんな。リハビリがてら、仕事でもするか」
    側近「おおうツッコミ待ちか?」

25 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/02(水) 22:25:33
    某国某街─


    娘「わあ……(キョロキョロ)」
    娘(報告書にもあったけど…本当に大きな街…)
    娘(どこを見ても人間ばっかり…当たり前だけど)
    娘(人も一杯だけど……お店も一杯…)
    娘(平和そうだけど…本当にこの近くで、魔物が暴れているのかなあ……)


    娘「……?」
    娘「……」
    娘「……(パク)」
    娘「……♪」

26 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/02(水) 22:27:41
    娘「はっ………?!」
    娘(違う!何で私観光しちゃってるの?!何で買い食いしちゃってるの?!)
    娘(こんな庶民派な魔王は……駄目だよね、そうだよね……)
    娘(うう…魔物に認めてもらうため、まず手近な所からポイントを稼ごうっていう緻密な計画が……)
    娘(こんなところ誰かに見られたら…もう消すしか)


    店主「なあ。お嬢ちゃん」
    娘「ふぶっ?!」
    店主「何だい、そんなに驚くこたねえだろ…」
    娘「ご、ごめんなさい……何かご用でしょうか…?」
    店主「いやなに。ちょっと気になったもんだから」
    娘「?」

27 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/02(水) 22:29:30
    店主「お嬢ちゃんはこの街の人間ってわけでもなさそうだし…ひょっとして一人旅かい?」
    娘「はい、そうです…けど」
    店主「じゃあ……ここから南の方角に、山脈があるだろ?」
    娘「あ、はい…」
    店主「あの山脈の奥には、凶暴な竜が住んでいるんだ」


    店主「最近、その竜が山を下りて人を襲うようになってね……山近くの街道で出くわすことがあるらしい」
    娘「それは…本当なんですか?」
    店主「昨日も犠牲者が出たところだ。だから南には行かないほうがいい」
    娘「……ご忠告、ありがとうございます」
    店主「何、お嬢ちゃんみたいなべっぴんさんを、危ない目に会わせらんねえからな」

28 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/02(水) 22:31:00
    店主「しかし物騒な世の中になってきたもんだねえ」
    娘「……半年ほど前に滅んだ隣国、ですか?」
    店主「王都に残った国王も兵も、一人残らず皆殺しだろ…本当、世も末だよ」
    娘「そ、そうですね……」
    店主「その上、魔王の封印が解けたとあっちゃ……次に狙われるのは、この国かもしれん」
    娘「今のところ、そんな予定は…」
    店主「え?」
    娘「い、いえ!なんでもありません!」


    店主「まあ何にせよ…あの山にだけは近付かん方がいい。命が惜しいならな」
    娘「分かりました。そんなに恐ろしい場所があるだなんて、私ちっとも知りませんでした…」
    店主「最近の話だしなあ。ま、国王様から直々に討伐隊が派遣されるって噂だし、もう少しの辛抱さ」
    娘「……そうですか。貴重なお話、どうもありがとうございました」
    店主「いやいや。まあ、気をつけてな」
    娘「はい」


    娘(………報告書通り)
    娘(嘘をついているようには見えなかったし、そんなことをしてもメリットが無い)
    娘(討伐隊の話は噂でも…魔物は本当に騒ぎになっている様子……)
    娘(これは……やっぱり直接確かめるのが一番か……な)

29 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/02(水) 22:38:36
    山─


    娘「うっわあ……」
    娘「どうやら…人はあんまり来ないみたいだね…手付かずの大自然か…」
    娘「はあ…暗いしジメジメするし進みにくいし…」
    娘「木とか切り倒しながら進んじゃ駄目……だよねー…」
    娘「うう……独り言が多くなる虚しさ…」


    娘「……はあ」
    娘「……」
    娘「………」
    娘「……………」

30 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/02(水) 22:39:12
    洞窟・入り口─

    娘「……この奥、か」
    娘「大丈夫。きっと、いい人…いや、いい魔物だよ…」
    娘「別に戦いに来たわけでもないんだし……でも城の外に住む魔物に会うのは初めてだし…」
    娘「うう…………よし!」
    娘「行くか」


    洞窟・奥─


    娘「………」
    竜「………」
    娘「お前がここの主か?」
    竜「………」
    娘「答えろ」

31 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/02(水) 22:45:42
    竜「貴様は……人、か?」
    娘「違う。もう、人ではない」
    竜「…そうか、ならば貴様が…あの偽の王か」
    娘「……」
    竜「ふん」


    竜「陛下が消え……側近殿が救出の算段を立てていると聞いてはいたが……」
    娘「………」
    竜「真相を知り驚いたよ。人間が魔王を騙るとはな」
    娘「………私はもう、魔王ではない。その名は父上にお返しした」
    竜「父、か…陛下もお戯れが過ぎたようだ」
    娘「その言葉……父上への侮辱と取るが、構わぬな?」
    竜「くっくっく………若い。若いな偽の王よ」

32 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/02(水) 22:47:47
    竜「与太話はここまでだ。わざわざ訪ねて来るとは、何用だ」
    娘「お前が人間を襲っているという話を耳にした」
    竜「……ふん」
    娘「何故、今頃になって人間を煽るような真似をする?これまで、お前は縄張りである山を出ることは無かったと聞くが…」
    竜「言えぬな……」


    竜「…貴様には、言わぬ」
    娘「………そうか」
    竜「どうする、偽の王。従わぬ我を殺めるか?」
    娘「そのような無粋な真似は好まぬ。喋りたくなるまで私は待つよ」
    竜「…………」
    娘「それに、今日は顔を見せに来ただけだ。また明日来る」
    竜「……勝手にしろ」

33 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/02(水) 22:48:32
    洞窟・入り口─

    娘「……ふう」
    娘「き、緊張した…」
    娘(気難しそうだけど……別に訳ありって感じはしなかったな…)
    娘(気長に頑張ろう………きっと、分かってくれるはずだから)


    娘「『偽の王』、か……」
    娘「私はいつまで経っても…偽物のままなのかな」
    娘「………ううん」
    娘「こんなこと言っちゃ、お父さんが悲しむよね」
    娘「私は私の本物」
    娘「それで……いいんだよね」

35 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/03(木) 23:31:38
    街─

    娘「さてと。宿を探さないと……ん?」
    娘「あっちの方が騒がしいな…」
    娘「まさか…また人間が襲われたとか」
    娘「時間もあるし、見に行ってみよう」


    ザワザワ…

    騎士「皆の者、長旅ご苦労だった。今夜はゆっくり体を休めてくれ」
    騎士「明日からはこの周辺の巡回と、遺族への聞き込みを行う」
    騎士「気を引き締めて、任務に臨んでくれ」
    兵達「はっ!!」

36 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/03(木) 23:32:20
    娘「これは…」
    店主「おお、さっきのお嬢ちゃん!見ろよ!すげえ事になったぞ!」
    娘「…本当に来ちゃったんですね……兵が」
    店主「ああ!国王様も仕事が早いぜ!これでひとまずは安心だな!」
    娘「ええ……」


    娘(確かにあの鎧に刻まれた紋章は王家のもの……つまり本物)
    娘(数は二十ほど。装備を見る限り、今回の目的は討伐ではなく視察)
    娘(しかし、事態が悪化したことに変わりはない)
    娘(下手をすると……本当に厄介なことになる…!)
    娘(とりあえず私は目立たないようにしないと……)

37 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/03(木) 23:32:56
    店主「お嬢ちゃんどうした、顔色が悪いようだが…」
    娘「あ……すみません。ちょっと考え事をして…大丈夫です」
    店主「そうかい?ああそうだお嬢ちゃん、今夜の宿はもう決めてあるのかい?」
    娘「い、いえ。まだですけど」
    店主「俺は宿屋もやってるんだ。お嬢ちゃんは何やら訳ありみたいだし特別に安くしとくよ、どうだい?」
    娘「では……よろしくお願いします」
    店主「おう!」


    騎士「……?!」
    兵「どうしました、隊長殿」
    騎士「あの女性は……」
    兵「おお…すっげー美人ですね。隊長殿はああいうのが好みで……って聞いてますか隊長殿」
    騎士「まさか…いや、そんなはずは……」
    兵「もしもーし」

38 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/03(木) 23:33:39
    翌日─

    娘「ふああ……むう」
    娘「一人で寝たのは久々だー」
    娘「そしてやっぱり…未だに一人じゃ起きられない私……」
    娘「もうお昼か…これじゃ、お父さんのこと馬鹿にできないなぁ…」


    娘「お昼ご飯を食べたら、また主の所に行こーっと」
    娘「兵に見つからないようにしないとなあ…絶対止められちゃうもの」
    娘「とにかく、今日からはなるべく目立たないようにして…」
    娘「目を合わせないで、姿を見かけたらすぐ逃げて……って」
    娘「私…犯罪者みたいだなあ……まあ、悪いことは色々したけどさ…」

39 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/03(木) 23:34:25
    娘「おは……ううん。今日は、おじさん」
    店主「お、やっと起きたかお嬢ちゃん」
    娘「ははは…お部屋が良くって、ぐっすり眠れましたよ」
    店主「そりゃあ嬉しいね。…って、そうだ、お嬢ちゃんにお客さんが来たんだよ」
    娘「へ?私にですか?」


    娘(お父さんか、側近かな。全くもう心配性なんだから…)
    娘「どんな人ですか?」
    店主「聞いて驚くなよ…?昨日見た、あの兵達を率いていた騎士様だ」
    娘「え……ええええええええええ?!」

40 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/03(木) 23:35:45
    娘「な、何でですか?!」
    店主「俺に聞かれてもなあ。朝早くにやって来て、お嬢ちゃんに会いたいと言ってきてね」
    娘「それでその人は?!!」
    店主「お嬢ちゃんが起きて来ないから、また昼過ぎに来るって一旦帰ったよ」
    娘「あ…あわわわ」
    店主「どうしたお嬢ちゃん、昨日に増して顔面蒼白だぞ」


    娘「す!すみません!私今すぐ宿を出」
    騎士「今日は…あ」
    娘「……………?!」
    店主「おお、騎士さん。お嬢ちゃんが起きたぞ」
    騎士「…………」
    娘「あ……あの、その」


    店主「そこいらの怪しい奴ならお嬢ちゃんに近付けねえんだけど、騎士様なら安心だろう」
    娘「あ、あの…おじさんちょっと」
    店主「おっと失礼。後は若いもんに任せねえとな」
    娘「え、ちょ?!違」
    店主「まあまあ、表の喫茶店でも行って来いって。な?」
    娘「う、うあ……は、はい」
    騎士「………」

41 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/03(木) 23:38:26
    喫茶店─

    娘「………」
    騎士「………」
    娘「………」
    騎士「………」
    娘「………」
    騎士「………」


    娘(う、うう……もう半時間も黙ったまんま)
    娘(思わずサクっと殺っちゃいそうだよ……街中だし、我慢我慢…)
    娘(正体がバレてるわけではないみたいだけど…この人の目的が分からない……)
    娘(私に何の用なんだろう……)
    娘(…………あれ)
    娘(この人……どこかで…?)

42 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/03(木) 23:39:36
    娘「あ、あの」
    騎士「私の名は騎士と言います」
    娘「え……は、はあ」
    騎士「君の名前を……教えてくれますか」
    娘「えっと……娘です」
    騎士「娘さん、か。ありがとう」
    娘「……はい」
    騎士「ああ、すみません」


    騎士「昨日古い知り合いに似ている貴女を見かけて……それで気になったんです」
    娘「知り合い……ですか」
    騎士「ええ。ですが、どうも私の勘違いだったようです」
    娘「はあ」
    騎士「お詫びに、今日はお昼をご馳走させてください。お願いします」
    娘「はあ……(よかった…ナンパか……)」

43 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/03(木) 23:40:16
    一時間後─

    騎士「女性の一人旅とは……さぞかし苦労していることでしょう」
    娘「い、いえ。私は少しその……魔術の心得がありまして」
    騎士「しかし貴女はか弱い女性です。強い魔物に襲われでもしたら、どうするのです」
    娘(知り合いなら談笑で済むんだけどなあ……あ)
    娘「すみません、私用事がありまして……この辺で失礼します」
    騎士「そうですか、残念です。もしよろしければ、送らせて頂いても……」
    娘「け、結構です!失礼します!!」
    騎士「あ!!」


    騎士「行ってしまった……」
    騎士「そうだよな」
    騎士「そんなわけが無い」
    騎士「あの人は違う……」
    騎士「姫は……ずっと昔に亡くなったのだから」

44 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/08(火) 19:42:08
    娘「疲れた……」
    娘「目立っちゃいけないのに……どうしてこんなことに……」
    娘「まあ……」
    娘「お昼ご馳走してもらったのはいいんだけどね!」
    娘「……はあ」


    洞窟─


    竜「……また来たのか偽の王」
    娘「その呼び名はやめてくれ。もう私は王ではない」
    竜「では、偽の姫」
    娘「あまり変わらんな……」
    竜「貴様はどちらつかずの紛い物。そう呼ぶ他、ないだろう」
    娘「……まあいい。好きにしろ」
    竜「ふん」

45 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/08(火) 19:43:00
    竜「しかし偽の姫よ。貴様、人の臭いが染み付いているな」
    娘「ああ。麓の街で寝泊りしているからだろう」
    竜「不愉快だ。今直ぐ頭から齧ってやりたくなるくらいには、不愉快だ」
    娘「気難しい奴だな……。今更人間の臭いなど、気にするものでもあるまいに」
    竜「言っておけ」


    娘「ところで、だ。お前がむやみやたらと暴れるものだから、国から調査の人間がやって来たぞ」
    竜「知らぬ。邪魔になれば、そやつらを食ろうて仕舞いよ」
    娘「やめておけ。本格的に人間を敵に回す気か」
    竜「ふん。偽の姫は今も人を捨てきれずにいると見た」
    娘「そうではない。支援するこちらの身になれと言っている」
    竜「先の戦いで、軍が疲弊でもしているのか?」
    娘「いや。また新たに一つ国を落とす労力を考えろ」
    竜「……くっくっく」

46 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/08(火) 19:44:07
    竜「随分と血の気が多いな、偽の姫よ」
    娘「一度衝突が起これば、いずれそうなるのは必至だろう。何せ私は手加減などできぬからな」
    竜「聞けば……先の戦いで、貴様は配下の魔物を中々戦いに出さなかったと聞くが」
    娘「ああ。皆が傷つく様など見たくもなかったからな」
    竜「ふん。人のくせをして」
    娘「もう人ではない。魔物だ」


    娘「父上をお助けするには人間でいなければならなかった……もうその必要も無くなったからな」
    竜「人から魔物への転変の術か。そのようなものが実在するとはな」
    娘「だから私は魔物だよ。お前の同胞だ」
    竜「ふん。心の底では人間を捨てきれていないとも限らんだろう」
    娘「……平行線だな」
    竜「分かったのならば早く消えろ」

47 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/08(火) 19:45:00
    竜「私は貴様と違い、忙しい身だ。もう一度だけ言う。消えろ」
    娘「……分かった。先ほども言ったが、人を襲うのはなるべくやめておけよ」
    竜「……貴様に指図を受ける謂れはない」
    娘「また明日来る」
    竜「…………」


    娘「…………」
    娘「はあ……」
    娘「がんばろ」

48 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/08(火) 19:47:34
    娘「さーてと」
    娘(おじさんには悪いけど、宿を変えないとね)
    娘(あの若い騎士さんとこれ以上会わないためにも……)
    娘(とりあえず、裏通り辺りで古くて安くてダメそうな宿でも探すかな)
    娘(犯罪者が潜伏していそうな、ね!)
    娘(…………強く、生きるもん)


    宿─

    娘「い、いえ、ですから……」
    店主「金のことなら負けてやるって。何ならタダでもいいくらいだ!」
    娘「あ……えっとそのでも悪いですし」
    店主「気にすんなって!」
    娘「いやあのその……うう」

49 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/08(火) 19:53:01
    騎士「こんにちは」
    娘「う?!」
    店主「おお、どうした騎士さん。またお嬢ちゃんに用かい?」
    騎士「ええ。今日の任務が終わったので、夕飯もご一緒できないかと思いまして」
    娘(しつこいよこの人!!)
    店主「いやあ、実はね」


    店主「お嬢ちゃん、金がなくなってきたからもっと安い宿に移るって言うんだよ」
    騎士「それはそれは……」
    店主「ウチより安いとこなんて、治安も質も悪いとこばっかだ。だからもっと安くしてやるからって止めてた所なんだよ」
    娘「いや……やっぱりそれは悪いですし」
    騎士「……分かりました」
    娘「え」
    騎士「私が宿代を立て替えておきましょう」
    娘「えええ?!」

50 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/08(火) 19:54:07
    娘「そ、そんな!悪いです!今日会ったばかりの方にそこまでして頂いては……!」
    騎士「貴方のような女性が困っている時に力になれなかったとあらば、一生の恥となります。お気になさらず」
    娘(爽やかにいい人しないでお願い!!)
    娘「でも何もお返しできるものがありませんし……」
    騎士「では、お願いがあります」


    騎士「夕食もお付き合い願いませんか?勿論私がご馳走します」
    娘「え、えええ?!」
    店主「あはは。騎士さんもすみに置けないねえ」
    騎士「如何でしょう?」
    娘「あ……えっと、その」

51 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/08(火) 19:56:07
    夜─

    娘「ご馳走様でした……」
    騎士「お気になさらず。私が誘ったのですから」
    娘「はい……あ、あの」
    騎士「はい」
    娘「あ、ありがとうございます」
    騎士「どういたしまして」


    娘(結局宿代も立て替えてもらったし、ご飯もまたご馳走になって……)
    娘(こういうの、良くないよね……)
    娘(私はもう人間じゃない)
    娘(人と関わりを持ってはいけない)
    娘(……はずなのに)

52 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/08(火) 19:58:43
    騎士「娘さん」
    娘「は、はい」
    騎士「先ほどから黙ったままですが、どうかしましたか?」
    娘「え、えっと……あ、あの一つ聞いてもいいですか?」
    騎士「ええ、何でもどうぞ」
    娘「私に似ている古い知り合いって、どんな方なんですか?」
    騎士「…………」


    娘「少し気になって。だから、私に親切にして下さるんですよね」
    騎士「……恥ずかしながら」
    娘「あ、別に言い辛ければ無理にお聞きするつもりはありませんから」
    騎士「いえ……構いません。貴女になら、話してもいいかもしれません」

53 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/08(火) 20:01:35
    騎士「まず、私の身分を明かしておきましょう」
    娘「騎士様ではないんですか?」
    騎士「私は……この国の王位継承権を持つものです」
    娘「?! じゃ、じゃあ」
    騎士「はい。恥ずかしながら、王子と呼ばれることの方が多いですね」


    娘「そんな方がどうしてこんな所に」
    騎士「一度王となってしまえば、自由が効かなくなりますから。今の内に我が国を見て回りたいと思いましてね」
    娘「それは……ご立派ですね」
    騎士「いえいえ。危険な任務など貰えないため、申し訳程度に遊んでいるような放蕩者ですよ」
    娘「は、はあ」
    娘(……私も似たようなものか)

54 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/08(火) 20:09:18
    騎士「そして、貴女は」
    娘「は、はい」
    騎士「私の許婚によく似ているのですよ」
    娘「…………え」
    騎士「まあ、今となっては元許婚ですが」


    騎士「親の決めた許婚で、子供の頃に何度かお会いしただけですが……」
    騎士「優しく、笑顔の似合う、とても可愛い女の子でした」
    騎士「許婚の意味すら分かっていなかった私でしたが、彼女と会えるのを、いつも楽しみにしていました」
    騎士「ご存知ありませんか?その昔魔王に殺められた……隣国の姫君のことを」
    娘「あ……あ」

55 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/08(火) 20:11:00
    騎士「最後にお会いした時、なぜか彼女はとても辛そうだった」
    騎士「私が言葉をかける度に俯いて、終いには涙を流してこう言いました」
    騎士「『ごめんなさい』と。何度も何度も」
    騎士「あの時、彼女が何を謝っていたのか、私には分からぬままです」
    騎士「その少し後に、彼女は魔王に攫われましたから」」
    騎士「折角、次に会った時は喜んでもらえるようにと、子供ながらに色々と策を練っていたのに」
    娘「…………」


    騎士「生きていたら……彼女はきっと、貴女のように素敵な女性になっていたと思います」
    娘「……」
    騎士「あはは、勿体無いことです。私はこんな美人と結婚できたかもしれないのに」
    娘「魔王を」
    騎士「はい?」
    娘「恨んでいますか」
    騎士「そうですね」

56 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/08(火) 20:29:16
    騎士「当然、憎んでいます」
    娘「……はい」
    騎士「確かに、親の決めた相手でした」
    騎士「会ったのもほんの数回。私は彼女の好きな花、好きな言葉、何一つ知らない。今も知らないままだ」
    騎士「それでも……大事な、初恋の人でした。今から思えば、ですがね」


    騎士「魔王は姫を殺めただけでなく、国さえも滅ぼした」
    騎士「そのせいで民は国と王を失い、何もかも奪われました」
    騎士「私の国が彼らを受け入れるのにも限度があります。食料も住居も、何もかもが足りません」
    騎士「我が国の民にも不安が広まっています。大きな混乱が起こる可能性だって、十分にある」
    騎士「その全ての元凶は魔王です。魔王さえいなければ、誰も不幸にならなかったはずなんです」
    騎士「だから私は……絶対に魔王を許さない」
    娘「……」

58 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/19(土) 01:02:21
    宿─

    娘「ふう」
    娘「……だから、か」
    娘「だから見覚えあったんだなあ」
    娘「ふふ……あんな昔に一度だけ会った人のことなんか、よく覚えてたもんだよ」
    娘「本当に。人間の、ことなんか……」


    騎士『私は……絶対に魔王を許さない』
    娘『許さない、と言うのであれば』
    騎士『……』
    娘『貴方は魔王を討つ気でいるのですか』
    騎士『ええ』
    娘『無謀以外の何物でもありませんよ』
    騎士『そうでしょうね』

59 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/19(土) 01:03:45
    騎士『私個人に出来る事など、たかが知れています』
    騎士『ですが、私は特別な人間だ』
    娘『……王として、魔王に挑むと言うのですか』
    騎士『はい。時代は確実に、人と魔王との戦争へと流れています』
    騎士『このままでは人が滅ぶかもしれない』
    騎士『我が国もそうですが、他の国々も皆一様にそのような危惧を抱いています』
    騎士『ここだけの話。近々この近辺の国王同士で話し合いが設けられる予定なのです』
    騎士『そこで、魔王への対抗策などを話し合うことになっています』


    娘「困ったなあ……」


    騎士『私が父上から王位を授かる頃には、きっと争いが眼に見える程近くにあることでしょう』
    娘『……』
    騎士『ですが私は恐れない』
    騎士『人の未来のため、守れなかった彼女のためにも』
    騎士『王として最後まで民を守り、戦い抜くと誓います』
    娘『……』

60 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/19(土) 01:04:50
    騎士『ああ、すみません。突然こんな話をしてしまって……』
    娘『いえ……ですが、良かったのですか? そんな話を、私のような素性の分からぬ者にしてしまって』
    騎士『貴女だからですよ。貴女なら、むやみやたらに吹聴して回ったりしないと思いまして』
    娘『もう。一国の王子様がそんなに口が軽くていいんですか?』
    騎士『美人の前では、私はただの騎士ですからね』
    娘『ふふ、お上手ですね』


    娘「戦争か。戦争になったら……」
    娘「私の仕事が増えちゃうじゃない」
    娘「……」

61 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/19(土) 01:07:22
    ───………

    『正気ですか王!!』
    『仕方があるまい……この縁談を白紙にするのはあまりに惜しい』
    『だからといって! 死んだ娘の代わりなど……おぞましいことです!!』
    『もう、決めたことだ』
    『王! 何故ですか! 何故、何故私達の娘は死に』

    『あのような下賤な産まれの子供を、娘と偽り育てなければならないのですか?!』


    『王妃も死んでしまうとはな……』
    『しかし、私はこの血を次に繋げる義務がある』
    『お前はその時間を稼げ』
    『隣国に嫁ぎ、我が国のために生きろ』
    『分かったな』


    『どうしたの?』
    『ぼくだよ。いっしょに遊ぼうよ』
    『泣いてるの?』
    『どうして?』
    『どうしたの? 姫さま』


    『姫だな?』
    『わりぃんだけど、ちょっと攫わせてもらうわ』
    『うちの王様がお前をご所望なんでね』
    『ん? 俺は魔物で、俺らの王様は魔王様だ』
    『まー多分殺しはしないと思うから、せいぜい大人しくしてくれよな』


    『……?』

    『お前』

    『姫か?』

62 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/19(土) 01:08:27
    偽姫「…………」
    偽姫「…………」
    偽姫「…………」
    偽姫「…………」


    偽姫「…………」
    偽姫(しんじゃうの、かな)
    偽姫(あのおんなのひとがいっていた)
    偽姫(『おまえは、なんでしなないのか』って)
    偽姫(たぶんそうなる)
    偽姫(しんじゃうのか)

63 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/19(土) 01:09:33
    偽姫(こわくない)
    偽姫(ずっと、しんでいたから)
    偽姫(いっしょ)
    偽姫(いっしょのこと)
    偽姫(こわくなんか、ない)
    偽姫(しぬのって……いたいのかな)
    偽姫(やだな)


    偽姫(まもののひとはこわいし)
    偽姫(まおうのひとは、もっとこわい……)
    偽姫(ひとりぼっちでしぬのかな)
    偽姫(こわいな)
    偽姫(やだな)
    偽姫(…………)
    偽姫(……う)
    偽姫「……うぐ」

64 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/19(土) 01:10:32
    ギィッ……

    偽姫「ひっぐ……えう」
    魔王「?!!」
    偽姫「う…えぐ、あ、う」
    魔王「お前…全く食事に手をつけていないではないか!」
    偽姫「ひっ………!」
    魔王「あ、ああすまん。そんなに怯えるな、寿命を縮めてしまうだろう」
    偽姫「ひっ…………う」


    魔王「…ほら、食え。口を開けろ」
    偽姫「……(フルフル)」
    魔王「くそ……どうすれば」
    偽姫「………」
    偽姫(あ)
    偽姫(おこっちゃったかな……)
    偽姫(ころされちゃうのかな……)
    魔王「そうだ!」
    姫「……?」

65 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/19(土) 01:11:33
    魔王「ほら、これならどうだ」
    姫「…え」
    魔王「わざわざ持ってきてやったのだ。ケーキなら、食えるだろう?」
    姫「……」
    偽姫(いちごのけーきだあ……)
    魔王「食わんのか?子どもなら、甘いものが好きなはずだろう」


    魔王「食ってくれ。お前に食ってもらわねば、私が困る」
    姫「………」
    魔王「ほれ」
    姫「……(パク)」
    魔王「よしよし、もっとあるぞ。沢山食え」
    姫「……(パク)」
    偽姫(あまい……おいしい)


    魔王「平らげてしまったな。これなら、普通の食事も食えるだろう」
    姫「あ、あの」
    魔王「何だ」
    姫「あ……ううん」
    魔王「変な奴だな」
    姫「……」
    偽姫(まおうさん……か)

66 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/19(土) 01:12:51
    夜─

    偽姫(あの、まおうさん)
    偽姫(まおうさんはこわくない)
    偽姫(ひどいことしないし、いやなこともいわないから)
    偽姫(おっきくて、こわくって、まっくろだけど)
    偽姫(あのひとたちより……いやじゃない)


    偽姫「あしたも」
    偽姫「……」
    偽姫「けーき、くれるかな」

67 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/19(土) 01:14:55
    ───………

    朝─


    娘「……ふぁあ」
    娘「懐かしい夢……」
    娘「お父さん、どうしてるかな」
    娘「……今日はもう、今から主の所に行こう」
    娘「あの人に会っちゃ駄目だから……」


    洞窟─


    娘「お早う」
    竜「む……」
    娘「今日は朝から来てやったぞ」
    竜「誰も頼んでなどいないはずだが」
    娘「こちらにも事情というものがあるのだ」
    竜「身勝手な奴め」

68 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/23(水) 21:44:37
    竜「……人間の臭いが日増しに強くなっている」
    娘「仕方ないだろう。私だって出来る事なら早く城に帰りたいんだ」
    竜「帰ればいいだろう」
    娘「この一件に片がつけば、そうさせてもらう」
    竜「……ふん」


    竜「全く……陛下のことは昔から存じ上げているが、何故このような人間を飼う気になったのやら」
    娘「……え」
    竜「む」
    娘「ごほん……お、お前父上とは古い知り合いなのか」
    竜「ああ。あの方が即位なさる前からな」
    娘「う…………うむ」

69 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/23(水) 21:45:41
    娘「主よ……一つ頼みがある」
    竜「ふん、嫌だと言ったら?」
    娘「頭を下げる。この通り……」
    竜「……何だ。聞くだけ、聞いてやる」
    娘「父上の話を……聞かせて欲しい」
    竜「む……」


    娘「私が父上と過ごせた時間は……今この時を合わせてなお、一年にも満たない」
    娘「だから、私は父上のことをもっと知りたいんだ。私を拾い、側に置いてくれたあの人のことを」
    竜「……ふん」
    娘「だから、色んな者から見た父上の姿を知りたい」
    竜「陛下の話が……聞きたいのか」
    娘「頼む」
    竜「ふん。満足したら、帰るがいい」
    娘「わ、ありがとう!」
    竜「む」
    娘「ご、ごほん。頼む」

70 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/23(水) 21:46:42
    竜「……」
    娘「……」
    竜「……」
    娘「……!」
    竜「……」
    娘「!!」


    竜「……こんなものか」
    娘「……お父さんって、本当に魔王なの? 全然魔王らしい逸話が出てこないんだけど」
    竜「我に聞くでない」
    娘「でも、主はお父さんのこと認めているんだよね」
    竜「当然だ。あの方ほど、我等魔物を慮って下さる王はいない」
    娘「引き篭もりでも?」
    竜「…………ふん」

71 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/23(水) 21:47:29
    娘「今日はありがとう。でも、長々と喋らせちゃってごめんなさい」
    竜「偽の姫よ」
    娘「なあに?」
    竜「言葉は、それでいいのか?」
    娘「え…………あ」
    竜「ふん」
    娘「い、いつから私……ちゃんと喋ってなかった?」
    竜「さあな」
    娘「う、うう……やっちゃった」


    竜「偽の姫よ、何故自身を偽る必要がある」
    娘「だって、私はこんな外見だし……せめて威厳が出るように、って思って」
    竜「…………」
    娘「あと……あの喋り方をするとね、元気が出てきたの」
    娘「お父さんが側にいる気がして……ちっちゃい頃から真似してたんだ」
    娘「だから……」
    竜「やめろ」

72 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/23(水) 21:48:39
    娘「え」
    竜「もういい。やめろと言った」
    娘「……」
    竜「貴様の生い立ちになど興味はない」
    娘「……ごめんなさい」
    竜「ふん」


    竜「……貴様は」
    娘「な、何?」
    竜「それほどまでに、陛下を慕っているのか」
    娘「うん! たった一人のお父さんだからね」
    竜「『父』……か」

73 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/23(水) 21:50:39
    竜「貴様は、陛下のお父上。先代様のことは、存じ上げているのか」
    娘「あ、うん。人間に……倒されちゃったんだよね」
    竜「…………」
    娘「それでもお父さんは、私を娘だって言ってくれたの。親を殺した人間なんか、憎いはずなのにね」
    竜「……そう、か」


    竜「陛下はきっとあの時の事を、墓にすら持ち込む気は無いのだろうな」
    娘「え、何?」
    竜「お前には関係の無いことだ」
    娘「そ、そう」
    竜「……」

74 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/23(水) 21:52:20
    娘「そろそろ日も暮れてきたし、私はもう行くね」
    竜「ああ」
    娘「じゃあ、また明日来るから」
    竜「偽の姫」


    竜「……いや、何もない」
    娘「そ、そう」
    竜「…………」
    娘「じゃあね」
    竜「また、明日」
    娘「え」
    竜「ふん」
    娘「あ、うん! また明日ね!!」

75 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/27(日) 00:05:10
    娘「……」
    娘「えへへ……」
    娘「うん。仲良くなれそう」
    娘「これならきっと、魔物の世界で生きていけるはず」
    娘「大丈夫。私が生きるのはあっちの世界」


    娘「でも……」
    娘「いい人も、いない訳じゃないんだよね」
    娘「あの王子様も、宿のおじさんも、いい人だし」
    娘「あの人達を……私は躊躇いなくこの手に掛けることが、出来るのかな」
    娘「『出来る』」
    娘「……口ではどうとでも言えるけど」

76 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/27(日) 00:06:02
    娘「ああもう。もやもやする」
    娘「こんな気持ち久しぶりだな。昔は悩む暇なんて無かったからかな」
    娘「悩むことも、余裕がある証拠かな」
    娘「そう思っておこう」


    娘「もうこれだけのことをしてきたんだもの。今更何人誰を殺めようと変わりはない」
    娘「あの日、私は決意したんだから」
    娘「人を辞めて、お父さんのために生きるんだって……」
    娘「……お父さん」
    娘「今何してるんだろ」

77 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/27(日) 00:06:59
    ─城

    魔王「はあ……」
    側近「手を休めるな」
    魔王「…………娘は、今何をしているのだろうか」
    側近「お前、十分おきくらいにそれ言ってて飽きねえの?」
    魔王「気になるものは気になるんだ。仕方が無いだろう」
    側近「過保護なのか、子離れできてねえだけなのか」


    魔王「そういえば、あいつはどこに行ったのだ」
    側近「あれ、知らなかったっけお前。ここだよ、ほれ」
    魔王「ん?」
    側近「どうかしたか?」
    魔王「お前、ここに住んでいる魔物といえば……」

78 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/27(日) 00:07:49
    娘「はーあ……早く帰って親孝行しよ」
    娘「お土産も何買って帰ろうかなー」
    娘「こんなの初めてだし、迷うな。でもそれが楽しいのかも」
    娘「旅の醍醐味ってやつだね」
    娘「……独り言が増えるのも、醍醐味なのかな」
    娘「はぁ……」


    男「待て」
    娘「え」
    男「お前、そこのお前だ」
    娘「は、はあ」
    娘(こんな山の中に人か。いやまあ、私も人のことは言えないけどね)

79 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/27(日) 00:08:54
    男「この山には人を食う魔物が住み着いているんだぜ。女が一人うろついていいような場所じゃあない」
    娘「そ、そうなんですか? 私余所者なので、全く知りませんでした……ご親切にありがとうございます」
    男「いやいや、いいんだよ。さ、俺が安全な場所まで送ってやるよ。ついて来い」
    娘「私一人でも大丈夫ですよ?」
    男「遠慮するなって、な」
    娘「え……でも」


    男2「あ…………がっ」

    バタン……!

80 :みんなの暇つぶしさん:2009/09/27(日) 00:10:24
    男「な……」
    娘「女性の背後を狙うような方々、信用なりませんし……」
    男「てめえ! 一体何をしやがった?!」
    娘「見て分かりませんか? ちょっとした魔法を使ったんです」
    男「ま、まさか……魔女?!」
    娘「えーっと、ちょっと違うけど……まあいいです」
    男「く、くっそおおお!」
    娘「わわ……もう、いきなりナイフなんか投げちゃ危ない……って」


    娘「逃げられちゃった」


    娘「うーん……」
    娘「そこに転がっているお仲間はひとまず放置するとして」
    娘「追うべき? 放っておくべき?」
    娘「うーん……そろそろご飯時だし……」
    娘「あれ」
    娘「まさか……」

91 :みんなの暇つぶしさん:2009/10/09(金) 13:20:19
    前の話の偽姫視点がいいね
    つうか、娘強えーな。ときどき娘が言う「私はもう人間じゃない。」ってどうゆうこと?


95 :おつかい:2009/10/11(日) 02:31:48
    >>91
    人間のままでないと魔王を救えなかったので、全部落ち着いた後、魔物に転生(転職)しました。
    娘が人間時でも強かったのは才能他。この他は、いつか書けたらなあ、と思います。


96 :みんなの暇つぶしさん:2009/10/11(日) 02:33:18
    街─

    騎士「……それで、お怪我はありませんでしたか?」
    娘「ええ……何とか」
    騎士「本当に良かった。賊に襲われたという知らせを聞いて、気が気じゃありませんでしたよ」
    娘「……ご心配をお掛けして、申し訳ありませんでした」
    騎士「お気になさらず。それにしても本当にお強いのですね、大の男を昏倒させるとは」
    娘「そ、そんな! たまたま魔法がうまく当たっただけですよ!」
    娘(殺さない程度にね)


    娘「でも、本当にすみません。倒したのはいいのですけど……やっぱり運ぶのはどうも難しくって」
    騎士「無理をなさらないで下さい。その男の確保に、部下を今向かわせていますから」
    娘「……よろしいのですか? 調査とは無関係の余計な仕事をしてしまって」
    騎士「余計ではありませんよ。それに、この街の駐屯兵には私達の調査の一環だから、任せてくれと断りを入れていますから好きに出来ます」
    娘「では……やはり」
    騎士「ええ。これで、近頃の魔物の悪事は全てその、盗賊の偽装だった可能性が出てきました」

97 :みんなの暇つぶしさん:2009/10/11(日) 02:34:15
    騎士「調査の結果、魔物に襲われたとされた三十四の遺体には、どれも同じような傷が残っていたと言います」
    騎士「どれも一様に、鋭利な刃物……例えば魔物の爪などで切り裂かれたような傷だったと」
    騎士「そして、一部は腕などが欠落した状態で発見されました」
    騎士「魔物に食われたのだという話でしたが……」
    騎士「それにしてもおかしな話ですよね」
    娘「はい」


    娘「あの山に住むのは……小さな家くらいなら、余裕で踏み潰してしまえるほどの巨大な竜です」
    騎士「あれ、よくご存知ですね」
    娘「あ……えっと、噂で聞いただけで、正しいかどうかは」
    騎士「正解みたいですよ。実際、これまでに何度か目撃されていますしね」
    娘「じゃあ」

98 :みんなの暇つぶしさん:2009/10/11(日) 02:36:00
    騎士「そのくらい大きな魔物なら、人間など一飲みのはずです」
    娘「ええ……腕の一本や二本じゃ、彼のお腹は膨れません」
    騎士「ははは……中々怖い冗談を」
    娘「あ、ふ、不謹慎でしたね?! すみません!」
    騎士「ま、まあ……そんな所です。これだけ死者が出ているのに、一人たりとも満足に食われていないのは、おかしい」


    娘「人間を……食わず嫌いしているとかは」
    騎士「それはないはずです。以前は年に一度あるかないかで、山に入った物が被害に合う例が報告されていますから」
    娘「え、えっとその例は」
    騎士「勿論、原型を留めていなかったり、血まみれの遺留品が残っていたりと」
    娘「はあ……」
    娘(そういや、『食ってやろうか』ってこの前言われたっけ……)

99 :みんなの暇つぶしさん:2009/10/11(日) 02:37:29
    騎士「あ……ああ、すみません。女性にこんな話をしてしまって……」
    娘「い、いえ、お互い様です。それより」
    騎士「ええ。全く、拍子抜けしましたね」
    娘「……魔物ではなく、人間の仕業だと気付いていたのですか?」
    騎士「調査を進める内に、ですがね」


    騎士「てっきり、これまでの被害が単に増えただけだろうとばかり」
    娘「私も……です」
    騎士「上に立つ者として、あらゆる可能性を考慮する必要がありますね。勉強になりましたよ」
    娘「ええ…………本当に」
    騎士「当面は貴女が出会ったという、もう一人の男について捜索を進めます」
    娘「……お願いします」

100 :みんなの暇つぶしさん:2009/10/11(日) 02:40:22
    騎士「……やはり顔色が悪いですね。宜しければ宿までお送りしますよ? もう日も暮れかかっていますし」
    娘「いえ、結構です。寄る所がありますから」
    騎士「そうですか? では、また何か分かりましたらお知らせします」
    娘「ありがとう……ございます」
    騎士「礼など。騎士として、当然のことをしているだけですよ」
    娘「……失礼します」


    娘(そうだよ)
    娘(主は一度も、近頃頻繁に『人間を襲っている』とは言わなかった)
    娘(私には何も言わない、何も知らないって……)
    娘(本当に、何も言うべき事が無かったから……?)
    娘(確かめないと……)
    娘(もう一度、主の所に……!)


魔王の娘「今日も平和でご飯がおいしい」【後編】へつづく

引用元
魔王の娘「今日も平和でご飯がおいしい」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12874/1251215452/



















 




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