引用元
『GS美神 薔薇乙女大作戦!』
http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1233579130/


 
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 00:35:56.47 ID:pe3crff00
科学とオカルトが混在する世界。

現世に未練を残し、この世に害を為す悪霊。
自らの思惑の為、現世に混沌をもたらす魔族。

そして……それらを打ち払う事を生業とする者。人呼んでゴーストスイーパー。
厳しい審査、実技の上で得られるゴーストスイーパーの資格は、超難関国家資格として君臨していた。

そんな、名声のみならず金銭的にも秀でた危険に満ちた職業。


の筈なのに……誰が、見るも無残なボロアパートにゴーストスイーパーが住んでいるなど想像できるだろう。
誰が、今にも崩れそうな昭和の香り漂うあばら家に有国家資格者が居るなどと考えるだろう。


物語は、かつて天才と呼ばれた男が住む……『幸福荘』から始まる。


 

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 00:37:15.37 ID:pe3crff00
「くっくっく……良いか?つまりこの研究が完成した日には、家賃なんぞ…… 」
「で、払えるのかい?払えないのかい?」
「フッ……理解力の乏しい大家のババアよ。このワシがもう一度だけ説明してやろう。良いか……」
ドクターカオスは薙刀を持つ大家に対し誇らしげな表情で、そうご高説を説いていた。

数秒後、そこにはボロゾーキンになったドクターカオスとマリアの姿が!

「……家賃は…あと少し……待ってください……… 」
「素直にそう言やいいんだよ 」
額からダラダラ血を流しながら地面に倒れる(元)天才錬金術師と、ふんっと鼻を鳴らす大家さん。

やがてドクターカオスは「よっこらせ」っと起き上がると……最も優秀な助手にして、自らの最高傑作。
人工霊魂を具えたロボット・マリアへと指示を出した。

「と言うわけで……我々は何としても家賃を用意せなばならん。……そこで!!! 」
悠久の時を生きても衰えぬ彼の頭脳は、こんな時の為に起死回生の打開案を用意していた!

「今からこれらの懸賞に申し込み、その景品を現金化するのじゃ!! 」

訂正。
1000年も生きて、彼の頭脳はすっかりとろけていた。

 

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 00:38:29.82 ID:pe3crff00
実に寒々とした空気が、狭く汚い部屋の中に流れるが……
「イエス・ドクター・カオス 」
マリアはそう答えると、文句一つ言わずにちゃぶ台に向かい葉書に文字をしたため始めた。

そんな優秀なマリアに対し……
すっかりお爺ちゃんなドクターカオスは、いそいそと、最近めっきり近くなったトイレへと足を向けていた。

それを無視して、マリアは指示通りに葉書の懸賞に記入を続ける。
『社会保険制度に不安はありますか?』『霊害にあった事はありますか?』『まきますか?まきませんか?』


 

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 00:40:51.58 ID:pe3crff00

ジャー…ゴボゴボ……

目と耳と鼻を潰したくなるようなカオスのトイレシーンが、水の流れる音と共に終わりを告げ……

「ふー…やれやれ…… 」
カオスはトレードマークでもあるマントで手を拭きながらトイレの扉を開けた。

そして、自分も懸賞葉書でも書くかと一歩足を踏み出し……
部屋の中に、見慣れぬ鞄が置いてある事に気が付いた。

革張りの、薔薇の装飾が為された、古い鞄。これは……
「……これは…確か………何じゃったかな? 」

もやがかかったみたいにハッキリしない記憶を探りながら、カオスは鞄へと腕を伸ばすが……
突如として広げられたマリアの鋼鉄の腕に、その歩みを阻まれた。

「ドクター・カオス・注意して下さい・鞄から微弱な霊波を感知 」
マリアはそう告げると、鞄に向け手を伸ばし……内蔵されたマシンガンの安全装置を解除した!

「あぁぁーー!!マリア!待て待て!思い出したぞ!! 」
マシンガンが火を噴く直前、カオスはマリアを押しのけ鞄へと飛び付く。

相変わらず、罠の可能性を危惧し、カオスに鞄から離れるように促すマリアの声を聞き流しながら……
ドクターカオスは、あまり見せないシリアスな表情をしながら、説明を始めた。

「心配ない。こいつを作ったのは、ワシと一緒に錬金術を研究しとった男だ 」
 

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 00:42:15.19 ID:pe3crff00
カオスはまるで旧友そのものに会ったかのように、嬉しそうに目を細めながら鞄を開く。

すると……
その中には、赤い服を纏った、美しい少女の人形が横たわっていた。

「いやー、アイツは見るからにロリコンだったからなー 」
相変わらず嬉しそうに、カオスは旧友の作った人形を鞄から取り上げる。

そして、その人形の顔や手や足をペタペタ触りながら……やはり本職は研究者なのだろう。
興味深げに声を漏らしながら、関心したように呟きを漏らした。

「素材は……ほう……柔軟性が………これは……球体間接を使っておるのか…… 」
ブツブツ言いながら、人形を上げたり下げたり横向けにしたり。

そして最後に人形の両足をむんずと掴むと、持ち上げ……

「ほう!やはり履いておったか!!
 ヤツは重度のロリコンだというワシの見解は間違っておらんかったの!!ガーハハハハ!! 」

人形のパンツを眺めながら、かって『ヨーロッパの魔王』と呼ばれた男は大笑いをした。

寒々とした空気が、部屋の中に広がる……
感情の無いマリアの視線も、どことなく刺々しい気がする……
あまりに居たたまれない空気の中、ドクターカオスの小さな咳払いだけがやけに大きく響いていた……。

「こいつはな、マリア。お前と同じように人工魂魄で動く人形なんじゃよ… 」
咳払いで空気をシリアスなものに戻してから、カオスは最近すっかり影を潜めた悪い笑みを浮かべる。
「説明するより……見た方が早いじゃろ…… 」
そう言うと、赤い服の人形の背中にゼンマイを差込み……キリキリと巻き始めた。
 

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 00:43:30.69 ID:pe3crff00
すると……その人形は光を放ち始め……やがて、その2本の足で地面に降り立つ……

旧友の成果を前に研究者の顔を取り戻したカオスは、人形が静かに自分へと歩み寄る姿を興味深げに見つめる。

そして、その人形は……ドクターカオスの近くで立ち止まると……
何の前触れも無く、カオスの顔面をグーで殴った!!

「いや!?ちょ!?まて!!あ゛ーーーっ!! 」
人形にマウントポジションを取られてボコボコにされるヨーロッパの魔王。

やがて……ピクピクと痙攣するボロゾーキンが床に転がった頃……赤い人形は初めて口を開いた。

「全く……人間のオスは……想像を絶する下劣さね…… 」
「す゛み゛ま゛せ゛ん゛…… 」
ダラダラ血を流しながら、カオスは虫の息で答えた。

「いくらホーリエが選んだとはいえ、流石に耐えられないわね…… 」
人形は呆れたように呟きながら、鞄の中へと帰ろうとする。

そして、自分の納められていた鞄の上蓋を持ち上げた瞬間!

「動かないで下さい・これは・警告では・ありません 」
人形の頭部に、マリアは腕から突き出したマシンガンの銃口を突きつけた。

「ドクター・カオスに対する・敵性と認識・排除します 」

人形は、その時初めて、マリアを見た。
 

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 00:45:00.36 ID:pe3crff00

人間とは違う存在……造られた魂を持つ……自分達と似た存在…!
瞬時にその事を感覚的に理解した人形は……素早く身を屈めると、マリアの背後へと回り込もうとする!

マリアも素早く振り返ると、交戦の意思を表示したと判断し、人形に向けてマシンガンを放つ!

人形も、その手の平から光る薔薇の花弁を展開し応戦するが……
豪雨のように降り注ぐマシンガンの前に、花弁はことごとく打ち落とされた。

「!……くっ…! 」
人形は自らの前に、赤く光る壁を作り、マシンガンの雨を防ぐ。

そして、その一瞬。
動きが止まった相手に、マリアがロケットパンチを撃とうとした瞬間―――!!

「カーオースーーー!! 」
魔族より恐ろしい存在……大家さんの声が……マシンガンで風通しが良くなった壁の向こうから聞こえてきた……


 

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 00:46:56.98 ID:pe3crff00

「……すぐに弁償します…… 」
血まみれのドクターカオスが、地面に倒れながら弱弱しい声で告げる。
その横ではマリアが『ピー…ガー…』とヤバ目な音を発していた。





薙刀を持ち、鬼神のようなオーラを発している大家さんの姿と……
その前に転がり、機能不全に陥っている、自分を追い詰めた相手。

「よっこらせ」と起き上がり、照れたように頭をかきながら自分に近付く、老人。
不死身かと思うようなそのタフさ。

人形は…少しだけ興味が沸いてきた。

ちゃぶ台を囲むように、一人と2体は座る。

「……さっきは取り乱して悪かったわね…… 」
人形が告げる。
「私はローゼンメイデン・第5ドールの真紅よ 」
そして、遅ればせながら自己紹介を始めた。

「いやー、それにしても、ワシのマリア程ではないが良く出来ておるのぉ…… 」
カオスは自分とマリアの名を簡潔に告げてから、改めて目の前に座る真紅をまじまじと眺めた。

真紅とて……確かに、いくらオカルト馴れしたこの世界とはいえ……普通は、驚くなりするもの。
カオスの落ち着いた反応は、少し意外だった。
 

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 00:48:12.71 ID:pe3crff00

「……驚かないのね… 」
マリアがいつの間にか用意してくれた紅茶を飲みながら、真紅はそう呟く。

そして……帰ってきた答えに……真紅の方が逆に驚く結果となった。

「はーっはっは!そりゃそうじゃろ!なんせワシは、お前さんが作られてる所を見た人間じゃからな!! 」



自分が作られてる所を…?

真紅は一瞬、頭が真っ白になった。

自分が作られてる……誰に?……それは……お父様に他ならない。彼はお父様に会った事があるというの?



「貴方!!お父様に会った事があるの!? 」
気が付けば、真紅は紅茶のカップをひっくり返し……ドクターカオスの胸倉を掴んでいた。

「……あ……ごめんなさい…… 」
頭が真っ白になっていた事、ずっと会いたいと願うお父様を知っているかもという期待。
それらがあったとしても、あまりに礼を失した行動。
真紅は小さな声でそうカオスに告げると、掴んでいたマントから手を離し……

手を離そうとした直前、真紅は後頭部の辺りで……いつか聞いた音が『カチリ』と鳴るのに気が付いた。
 

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 00:49:48.92 ID:pe3crff00

「動かないで下さい・従わない場合は・発砲します 」

真紅が振り返ると……マリアが自分にマシンガンを向けているという、予想通りの光景がそこに。
……振り返ると?

「……あら? 」
真紅がマリアの言葉に従わず、動いてしまった事に気が付くのと同時に、空気を震わす程の銃声が!!

そして、それから数秒遅れて、あの声が……
「カーオースーーー!!! 」


「いや、本当にゴメンナサイ…… 」
数分後……薙刀を持った大家さんの眼前で、一人と二体はボロゾーキンみたいになって転がっていた……。










   GS ドクター・カオス
        薔薇乙女大作戦    − 少女人形はお父様の夢を見る その1 −

 

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 00:51:04.48 ID:pe3crff00

時は遡り、18世紀のヨーロッパ。

『ほーら、どうだーカオスー?僕の人形はかーわいーだろー!! 』
親バカ丸出しな、満面の笑みで一人の青年が研究所に置かれている人形達を指し示す。

『い…いや………ああ……そうだな…… 』
引き攣った笑みでそう答える、若かりし頃のドクターカオス。

正直、若干引いているカオスには気が付かず、青年は一体の人形の手を取り、語りだした。
『…いつか、この子達に……魂を吹き込む………その夢の為にも……頑張らないとな…… 』

夢、という言葉を聞いた瞬間……カオスの目にも力強い輝きが灯り始める。

『ああ……人工魂魄の研究は、ハード面は整った……後は…――― 』





78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 00:54:06.64 ID:pe3crff00
時は現代に戻り、21世紀の日本。

目を閉じるドクターカオスの脳裏には……遥か昔、友と共に錬金術に励んだ日々の思い出が甦っていた。

不死の秘法を手にしたカオスは、老いる事は有っても死ぬ事は無い。
そんな彼が、唯一人、同じ時を刻めると信じていた友。ローゼン。
不老の秘法を手にし、怪我さえなければ永遠を生きる、『死を欺きし者・サンジェルマン伯爵』の別名を持つ友人。

カオスは忘れかけていた記憶を手繰りながら、ローゼンとの思い出を真紅に聞かせていた。



「……随分、イメージと違うわね……本当なの? 」
真紅は…訝しげな表情をしながら、自分に思い出話をするカオスを見つめていた。

「ふっ……このドクターカオス、伊達に『ヨーロッパの魔王』と言われておらんわい 」
とは言うものの……カオスも少し、胸に引っかかる所があった。

それは、あまりに昔の事過ぎて記憶がボケてきているからではない。

カオスには……あのローゼンが、手塩にかけた人工魂魄を与えた自らの娘とも言える存在に一度も会っていない。
それがどうしても、納得できなかった。


カオスは顎に手を当てながら、沈み始めた夕日に視線を向け、考える。
そして……ふと、気が付いた。

「おーい、マリア。どうせなら窓の位置、もう少しズラしてくれんか?西日が眩しくってのー 」
「イエス・ドクター・カオス 」
金づちと釘を手に、壊れた壁の修繕をしているマリアにそう声をかけた。

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 00:55:28.60 ID:pe3crff00
マリアがトカトントンと壁の修理をしている頃……
カオスの根城(ボロアパート)から離れた場所に立つ、一軒の大きな屋敷……美神事務所では………


「それにしても……本当なんですかね…? 」
横島が机の上に座った人形に手を伸ばし……「ギャー!!」その手に黒い羽根をつき立てられていた。

「だから……貴方は触るな、って言ったわよねぇ?……次に変な真似したら本当に刺すわよ? 」
「……いや、もう刺さってるんですけど…… 」
ダラダラ血の流れる手を押さえる横島と、物憂げな表情をした水銀燈。

そして机の向こう側では……美神が目をキラキラさせていた。

伝説の、生きたアンティークドール・ローゼンメイデン。
売れば一体、いくらになるのかしら!?

そんな風に、目を¥マークにしている美神を横目で伺い……水銀燈は悟られぬよう、口の端を持ち上げた。

「伝説に語られるローゼンメイデン……売れば一体、いくらになるのかしらねぇ……? 」

怪しげな笑みを浮かべながら、机から飛び降りると……
水銀燈は部屋の隅に置かれた鏡へと、その身を滑り込ませた。

「え!?消えた!? 」
突如として姿を消した金のなる木(仮)に、美神は一瞬驚くが……

「ふふふ……これが私達の能力……これじゃあ…すぐに逃げられて、儲け話として成立しにくいわよねぇ? 」
水銀燈はすぐに、鏡の中から姿を現し……そして、再び美神へと近づいた。

「でもね……私のお父様は…高名な錬金術師なの……ねぇ……お父様に会うのに協力してくれれば…… 」

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 00:57:03.35 ID:pe3crff00
錬金術。それは今では失われた、高度な技術。
それは文字通り、黄金を実らせる木を作ることも容易い。

だが……美神は何よりお金が大好きな分……この手の話には嗅覚が利いた。

「……で…具体的に話してもらおうじゃないの…… 」
先ほどまでとは違う、鋭い視線で水銀燈の目を真っ直ぐに見つめる。

「貴方はこの契約の指輪を通して、私に力を与えるだけ……
 あとは……私が勝手にするから、何の心配もないわよぉ……? 」
喰いついてきた相手に、水銀燈は囁くように顔を近づけながら手の上に置いた指輪を見せる……

美神はニヤリと笑みを浮かべると……
「…オーケー……その話、乗ったわ 」
そう言い、水銀燈の手の上から指輪をひょいとつまみあげる。

そして……

「という訳だから。横島君、契約しといてねー 」
そう言うと、指輪をポーイと横島に投げ渡した!
 

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 00:58:38.12 ID:pe3crff00

「ええ!?お…俺っスか!? 」
「ちょっと!話が違うじゃないのよぉ!! 」
予想を超えた事態に、横島と水銀燈は慌てるも……

美神は水銀燈を無視して、横島へと歩み寄る。

「大丈夫よ。伝承によると、ほんのちょっとごっそり、霊力を指輪に吸われるくらいらしいし 」
「ほんのちょっとごっそり、ってどっちなんですかー! 」
「うーん……人によっては昏睡状態になる位…かな? 」
「嫌じゃー!!若くして寝たきり生活はイヤーーー!! 」

「寝たきりになる前に、せめてそのシリチチフトモモをーーー!! 」
半狂乱状態の横島は、そう叫びながら美神に飛び掛かり……


    ※―― 暫くお待ちください ――※


「……で…これで話はまとまったわね 」
ボロゾーキンみたいな横島をドサリと地面に放り出し、美神は……どことなく凄みの利いた笑顔を水銀燈に向けた。

「……え…ええ………そう…みたいね…… 」
水銀燈には、引き攣った顔でそう答える以外の手段は見つからない……。





  − 少女人形はお父様の夢を見る その2 −

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 00:59:53.24 ID:pe3crff00
「マリア、紅茶を淹れて頂戴 」
「イエス・ミス・真紅 」


カオスからは、若かりし日のローゼンとの思い出。
真紅からは、ローゼンメイデンと彼女達が行くことの出来る異世界『nのフィールド』について。

互いに興味のありそうな話題について情報を交換した後……
ドクターカオスは探究心に火がついたのか、その皺の深い顔にさらに深く皺を寄せながら黙り込んでしまった。

そういう訳で……
真紅は味方であるという情報を改めてインプットされたマリアと、紅茶を飲むしかする事が無くなってしまった。

「マリア……ティーパックである事に文句は言わないわ……
 ただ…そろそろ、新しいパックに代えたらどうなの? 」
「残念ですが・ミス・真紅
 あなたの紅茶を飲むペースを計算した結果・このパックは・あと16回使う必要が・あります 」

マリアの答えに……真紅はお湯の味しかしない自称・紅茶を、タンっとちゃぶ台の上に置く。

「……そう。教えてくれて有難う、マリア 」
真紅は若干、棘のある声でそう告げる。
「礼には・及びません・ミス・真紅 」
マリアは相変わらず、感情の篭らない声で答える。

何だか、嫁姑戦争みたいな光景。勿論、姑役は赤い方。

その頃、ドクターカオスは……部屋の隅に山積みにされている、自らのノートの一冊を手に取り……
険しい表情で数ページ読んでから、それが探していた資料ではなく、ただの家計簿だと気づく始末。
 

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 01:01:24.21 ID:pe3crff00
所変わり、同じボロアパートでも今度は横島の部屋。


「全く……何で俺が……どうせ手に入れた金は全部自分の物にするクセに…… 」
契約の指輪を半ば無理やり付けられた横島は、ブツブツ言いながら水銀燈の入った鞄のフタを持ち上げた。

すると、水銀燈はひょっこり頭を上げ……
その時、彼女は……生まれて初めて、地獄と言うものを見た。


地面に散らばるのは、上半身裸の女性の写真が載ったイカガワシイ雑誌。
床には、まるで地雷のように丸められたティッシュが転がっている。
さらには呼吸をする度に、鼻の奥に鋭く突き刺さる海産物の……イカの匂い。


「……ぅ…ぷ…… 」
水銀燈は一言も発する事無く、口元を押さえながら……再び、パタン。と鞄を内側から閉じた。

「失礼なやっちゃなー!!それが人の部屋に来てする事かーー!! 」
横島は叫びながら、水銀燈の鞄を振り回したりこじ開けようとしたりする。

「絶!対!嫌よぉ!!何で私がこんなゴミ溜めに住まなくちゃいけないのよ!! 」
鞄の中では、人知れず涙目の水銀燈が必死に開けられまいとフタを押さえていた。

 

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 01:02:39.64 ID:pe3crff00
……数時間後………

水銀燈は比較的にシーフードの香りが弱い窓辺に腰掛けていた。

「しかし……姉妹で殺し合うだなんて……何とかならないのか? 」
ここに来て、やっと真面目な表情をし始めた横島は、夕日を見つめる水銀燈の背中に声をかける。

「お父様のゲームに意見を挟む権利は、誰にも無いわ 」
水銀燈は背中を向けたまま、バッサリとそう答える。
「そんな事より……… 」
そう言い振り返った彼女の顔は……怪しげな笑みすら浮かべていた。
「あの美神とかいう女の命令で、貴方は私に協力するしかない。そうよねぇ…? 」


水銀燈は窓辺から部屋にストン、と降りようとして……やっぱり例の匂いを思い出して、止めといた。
窓辺に座ったまま、どこか寂しそうな表情をしていた横島に尋ねる。

「所で…この部屋に鏡はあるかしらぁ? 」
「ん?ああ、洗面所にあるけど、それがどうかしたのか? 」

こんなボロアパートの、薄汚い部屋に置かれた鏡が『nのフィールド』への扉になっている可能性は……低い。
美神とかいう女の事務所なら、扉になりそうな鏡も容易く見つかっただろうに……

水銀燈は内心、舌打ちをしながら考えを巡らせる。

 

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 01:04:19.53 ID:pe3crff00

ローゼンメイデン同士だから感じる事の出来る、互いの存在。
そして、先ほどから感じるのは……決着を付けるべき宿敵・真紅の存在。

ここからだと、そう遠くない。
nのフィールドを通るまでもなく辿り付ける距離。
様子見程度なら、扉になる鏡を探す手間を省いた方が得策かもしれない。


考えをまとめた水銀燈は、その背中から漆黒の翼を広げると……
ゆっくり宙に浮きながら、横島へと妖しげな笑みを向けた。





 

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 01:06:06.68 ID:pe3crff00

真紅にとってカオスの部屋は、紅茶が最悪な上に居心地も最悪ではあったが……それでも、救いがあった。

部屋のいたる所に山積みにされている、彼の錬金術に関するノート。
元来が読書好きな彼女にとって、
それは敬愛する父と同じレベルにまで達している内容でもあり、かなり興味をそそられる物だった。

最も、それを書いたカオスは、すっかりボケてしまっているのだが。


とにかく、真紅はカオスのノートを読みながら、ちゃぶ台の前で大人しく座っていた。

カオスはカオスで、色々と浮かぶ疑問はとりあえず置いといて……日課になっているマリアの点検作業中。


そんなこんなで、すっかり太陽が沈んだ頃……
何だか外で、男女の騒ぐ声と……コン、コン、と、壁に釘を刺すような音が聞こえてきた。

「?……何じゃ? 」
点検を終えたマリアを起動させ、カオスは窓からひょっこり顔を出して外を覗う。
真紅も、窓辺に寄って外を見てみる。

すると………

「だーかーらー!!あそこは俺の知り合いの家といっとろーがーー!! 」
「邪魔よぉ!!離しなさい!! 」
横島と……80センチ程の女の子が、空き地で取っ組み合いの喧嘩をしてた。
時折、女の子の方から、何かがヒュン!と飛んできて、それがボロアパートの壁に突き刺さる。
 

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 01:07:58.61 ID:pe3crff00
釘みたいな音は、これか。
カオスは壁に刺さったそれを抜き、部屋の中でまじまじと見つめてみる。

それは……ナイフのような鋭さを持った、黒い羽根だった。

「た…大変! 」
その羽根を見た瞬間、真紅の顔が青ざめる。
「水銀燈よ!私と戦いに来たのだわ! 」
そう叫ぶと、真紅は部屋から飛び出し……もの凄い勢いで、外へ向けて走り出した。

「ま…待て!どういう事じゃ!? 」
カオスはその後を必死に追いながら、真紅に声をかける。

「だって部屋で戦ったりしたら、また大家さんが……ああ…思い出しただけでも恐ろしい…… 」
薙刀を持った大家の姿を思い出しながら、真紅はブルリと身を震わせる。

カオスはそんな真紅の後を追いかけながら、叫ぶ。
「違う!何故、姉妹で争う必要があるんじゃ! 」

その問いかけに……真紅は一瞬、足を止めかけ……だが、走りながら答えた。
「貴方……お父様の事は知っているのに……『アリスゲーム』を知らないというの…? 」

「アリスゲーム?……何じゃそれは? 」
「説明は…どうやらまた後でになるわね…… 」

表まで辿りついた真紅は、ピタリと足を止め……そして、目の前に立つ水銀燈を睨み付けた。

横島は「カオスのおっさん!これには訳が…! 」と、早くも言い訳を始めている。
カオスは、何が何だか理解できず……睨み合う、親友の娘2体を交互に見つめる事しか出来なかった。
 

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 01:10:42.14 ID:pe3crff00
………

姉妹で殺し合い、その人工魂魄であるローザミスティカを奪い合う。

……

そして最後に残った一人だけが、究極の少女『アリス』へと孵化し、ローゼンに会うことが出来る。





「なるほど……それで、アリスゲームか…… 」
「いやー、それにしてもカオスのおっさん、長生きしてるだけあって顔が広いっすねー 」

横島とカオスは、広場の隅にダンボール机でちゃぶ台を作ってお茶を飲みながら、のんびりと情報交換をしていた。

そのほんの近くでは……
「そらそらぁ!!」「くっ…!でも…!!」「ふふふ……無駄無駄ぁ!!」
二体のローゼンメイデンが、月明かりの下で熾烈な争いを繰り広げていた。

いや、一見互角にも見える戦いではあるが……
横島という、霊力に溢れた力の媒介を手にした水銀燈と、うやむやの内に契約をし損ねた真紅。
実質、本気で戦う真紅に対して、水銀燈は遊んでいるだけ。


「………まあ……それが事実だとしても……目も前で争う親友の娘を放っとける性分ではないのでな…… 」
よっこらせ、とカオスは立ち上がると、戦いを続ける二体へと近づいていった……。

 

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 01:12:32.97 ID:pe3crff00



「あははは!これで…終わりよぉ!! 」

水銀燈は勝利を確信した声で、真紅めがけてナイフのように尖った羽根の雨を降らせる!
眼前まで迫った、必殺の攻撃を前に、真紅は固く目を瞑り……

だが、いつまで経っても、自らの体が貫かれる事は無い……
恐る恐る、真紅が目を開けると……そこには……見慣れたマントが……



「さて……色々話も聞きたいのでな……」
ドクターカオスはニヤリと笑みを浮かべながら、正面に立つ水銀燈を見据える。
「なに……心配せずとも、解体はせんよ……」

白い手袋を嵌めた手をコキコキと動かし、全身を漆黒のマントに包まれた天才錬金術師。
老いてなお健在な『ヨーロッパの魔王』の姿が、そこにあった。

 

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 01:13:56.67 ID:pe3crff00

「……ロートルに興味は無いのよねぇ………邪魔をしないで!! 」
水銀燈はその赤い目に憎しみを篭らせ、カオス目掛けて再び羽根の散弾を放つ!

だが……
「フハハハハハーーーーッ!!! 」
カオスは笑いながらマントをバッ!と開くと、その胸に刻まれた魔方陣から光線を発し、羽根を全てなぎ払った!
「ガーッハッハ!!見たか!これぞ錬金術を極めし者の実力よ!! 」
カオスは高らかに笑うが……

やっぱりそこは、人形とは言え立派なレディー。
真紅と水銀燈は、カオスがマントを開いた瞬間、「変態だ!」という本能の声に従い、目を閉じてしまっている。

「おおー 」
パチパチと手を叩く横島だけが、この世界で唯一の彼の味方だった。

 

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 01:15:36.34 ID:pe3crff00
「ちょっと横島!ミーディアムならそれらしく、ミーディアムの相手くらいしてなさいよぉ!! 」
水銀燈は、思わぬ横槍と……予想外の戦闘力に、相変わらず茶をすすっている横島に声をかける。

「ハーーン?なーんも聞こえませーん 」
アホ丸出しな顔で、横島は耳を掻きながらそれを無視。彼にしたら、カオスと戦う理由など皆無だった。

だが……
「美神に言うわよぉ! 」

水銀燈のその言葉で……横島の耳がピクリと動いた。


カオスと戦う? → 知らぬ仲でもないんだし、できれば勘弁してほしい。
水銀燈を見殺しにする? → 錬金術の手がかりが失われる → 美神さんに100パー殺される!


結論は、至ってシンプルだった。
「カオスのおっさん……あんたに恨みは無いが……喰らえぇぇ!!! 」
横島は振り向きざまに、自分に対して背中を向け、完全に油断していたカオスに文殊を投げつける!

そして……そこに刻まれた文字は……【 漏 】!

「う…うおおおお!! 」
文殊から発せられた光がカオスを包み……そして……
「い…いかん!? 」
カオスはそう叫ぶとボロアパートへ……つまり、トイレへと大急ぎで駆けて行った。

「………… 」「………… 」
残されたのは、呆然とする真紅と水銀燈。
あと、何事も無かったかのように再び茶をすする横島。

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 01:17:17.65 ID:pe3crff00

カオスはドタバタとアパートの部屋まで戻ると、トイレの扉を開きながら部屋に向けて声を張った。
「マリア!真紅を助けに行けぃ!もう一人の娘を生け捕りにするんじゃ!! 」
「イエス・ドクター・カオス 」

トイレの扉がパタンと閉じると同時に、マリアは轟音を轟かせ……アパートの壁をぶち抜きながら発進した。


爆発と弾け飛ぶ石の破片の中を、水銀燈は飛びながら。横島は走り回りながら叫んでいた。

「横島!!的になるなりして足止めしなさいよぉ!! 」
「無茶言うなー!カオスのおっさんじゃあるまいし、あんなもん当たったら死んでしまうわー!! 」
マリアのマシンガンを必死に回避しながら、横島と水銀燈は互いに罵りあう。

真紅は……ミーディアム無しで水銀燈と戦った反動か、随分と重く感じるからだを引きずりながら歩く。

カオスの所に行けば……彼と契約をすれば……ミーディアム同士が傷つけあう争いだけは止められる……
その思いで、真紅はマリアが時間を稼いでくれる事を信じて、カオスを追う。


まるで他人のもののように思い通りに動かない体を引きずり、階段を上る。
手を上げるのですら辛いのを、無理をさせて扉を開く。
 

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/03(火) 01:18:31.94 ID:pe3crff00

そして……マリアが発進したせいで半壊したアパートの部屋まで、何とかたどり着き……

「カオス……どこなの……? 」
途切れそうになる意識で、今にも夢の世界に旅立ちそうな思考で、小さく呟いた。

すると……
「おお、ここじゃ。いやー残尿感が酷くてのー 」
マントで手を拭きながらのカオスが、その声に答えるようにトイレのドアからガチャリと出てきた。

「……そんな事は聞きたくも無いわ………それより……この指輪を…… 」
今にも倒れそうな体で、真紅は握り締めた指輪をカオスに差し出す。

しかし……

カオスは、ブルッと身を震わせ、「ちょっと待て! 」と言い、再びトイレに入っていった。


ジャー…ゴボゴボ……と聞こえてくる、実に不愉快な音を聞きながら……
ついにゼンマイが切れた真紅は、実に最悪な気分で、その場にパタンと倒れるように眠った……。


ちなみに、マリアと交戦中だった水銀燈と横島は……真紅が部屋に辿りつく前に、とっくに逃げていた。





  − 少女人形はお父様の夢を見る その3 −


『GS美神 薔薇乙女大作戦!』へ続く
 

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